「罪と罰」(2009/09/19 (土) 19:00:30) の最新版変更点
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*罪と罰 ◆5xPP7aGpCE
空気というものはここまで変わるものなのか。
何故人はこうも容易く苛立ちや暴力的衝動に流されるのか。
(それはヒトの宿命、陳腐かつ永遠の課題)
今回のケースも同様だ。
ほんの数十分前、和気藹々とピザを囲んでいた雰囲気は既に無い。
顔ぶれも変わった、二匹の消失とその後の軋轢は大きな負の遺産を生み出した。
きっかけは放送、しかし始まりが何であれ分裂という最悪の結果を選択したのは紛れも無く彼ら自身であった。
先程の結束は砂のお城だったのか、仮初めの形だけの存在だったのか。
だとすれば崩れるのは当然の成り行き、やがては跡形も無く平らに戻る。
しかし時には固く締まりそのまま岩と化す事も起こりえる。
ただ見守ろう、崩れた城の行く末を。
―――残骸は、まだ辛うじて形を保っていた
『第一幕:燻る不安』
重厚な博物館の奥の院、そこにあるのは島を繋ぐ端末の一つ。
残された者はただ黙って画面の動画を眺めていた。
深町晶と雨蜘蛛、生まれも育ちも正逆の二人は先程から一言も言葉を交わしてない。
特に晶は雨蜘蛛の方を見ようともしない、時折肩を震わせるのは尚も感情を抑えきれない為か。
対する雨蜘蛛は静かだった、まるで柳のように向けられる感情を受け流している。
今再生されているのは『森のリング』の記録だった。
されど続くのは森に開けた芝生の光景、時々聞こえてくるのは小鳥のさえずり。
まるで環境ビデオを思わせる癒しの世界、肝心のイベントはまだ先らしい。
早送りするか、と雨蜘蛛がマウスに手を伸ばす。
だがポインタを合わせて後はクリックという状態でその動きが止まる。
代わりに空いている掌が画面の前で上げ下げされた。
―――コイツ、全然前を見てやがらねえな
腕を払いのけも抗議も発しないガイバーの反応に雨蜘蛛は確信する。
これから見るシーンに晶の知識が必要にならないとも限らない、世話を焼かせるなと苛立ちつつマウスから手を離す。
いつまで女みたいにウジウジしてやがんだ、と怒鳴りかけたその瞬間、
「……便利過ぎるんです」
いきなり晶が声を発した。
搾り出されたのは彼の中をずっと駆け巡っていた疑問。
”スエゾーは何故テレポートが出来たのか?”
主催者への苛立ちも含まれていた、もしテレポートが完全禁止されていたのならばスエゾーが死地に向かう事も無かったのだ。
ガイバーの制限に悩み、一方で仲間の能力を制限しろとは何とも虫のいい話だが不満を感じずにはいられない。
「俺のガイバーは空を飛んだり壁を砕いたりと強力に見えますが……本来よりかなり力が抑えられてます。
理由はいろいろ考えられますが、反逆を抑える目的があるだろうって事ぐらいは俺にだって判ります!」
晶は勢いのまま喋り続ける。
この怒りや訳のわからない現象をどうしても胸に溜めておけなかったのだ。
何故か雨蜘蛛は黙ったままだ、好きに吐かせて落ち着かせた方がやり易いという考えだろうか。
「それがさっき喚いてた制限って奴か? 俺にはそんな縛り感じられないがな~」
いや、雨蜘蛛も何の気まぐれか口を挟む。
一見独り言だが問い掛けに近い、話を早く進める撒き餌の匂いを晶は感じた。
問いの答えは想像できる、恐らくは雨蜘蛛も判っていて言わせようとしているのだろう。
「全員に同じ縛りがあるとは考えられません……ガイバーや恐らくギュオーのように強過ぎる道具、人物に限って制限されているんじゃないでしょうか」
「ま、それなら納得だわな。てぇ事は何だ? スエゾーの奴がテレポート出来たのはおかしいんじゃねえかって思ってんのかよ?」
晶は無言で頷いた、わだかまりは残っているが他の感情がそれを上回る程に強いのだ。
ここにきて雨蜘蛛も晶の焦りを理解する。制限の存在とテレポートへの影響、面白い話じゃねぇかと男は考える。
映像に未だ人影は現れない、視線だけは前を見ながら男達の話は続く。
「確かにね~、居所のわからない連中の元へ行き来できるような能力が使えるなんざ不自然だわな」
スエゾーや小トトロの生死など雨蜘蛛にとってはどうでも良い、しかし主催者がそのような抜け道を許すかどうかについては関心がある。
晶のガス抜きも兼ねて男は更なる撒き餌を投下する。
「考えられるケースは二つ……狙い通り主催者の元へ飛べたか、失敗してそれ以外の場所に行ってしまったかです」
「前者なら成功だがまず帰ってこれねえわな、後者なら何処まで飛んだのかって問題だわな~。禁止エリアなんつー可能性もあるんだよな~」
心から心配そうに語る晶に雨蜘蛛は茶化す。
晶は雨蜘蛛がそんな人間だと知ってる以上突っかかる気にもなれない、心配の余りギュッと拳を握り締める。
「閑話休題だ。こっちもようやくお出ましだぜ~、見れば懐かしい顔じゃねえか」
ここにきて画面にも変化が訪れた、初めて見る蛇の怪物と二人にも見覚えのある0号ガイバーが現れたのだ。
その指が揃っているのを見て雨蜘蛛は一人ほくそ笑む。
(空を飛び指まで再生しちまう、全くガイバーって奴はとんでもなく便利な代物だわな~)
ならば制限されているというのも無理も無い、関東大砂漠に有れば所有権を巡る戦争が起こっても驚かない。
残念なのは引き剥がす方法が解らない事だ、ここで晶に聞いても警戒を招くだけだろう。
(まぁ、晶も使い出があるしそっちは後回しだ。今はコイツを見るのが先決だからな~)
蛇の化け物の名はナーガという事もすぐに解った、キョンが様付けで呼ぶところからして彼らは仲間というより主従関係らしい。
晶も少し落ち着いたのかちゃんと画面を見ているようだ、因縁有る相手の出現に身を乗り出している。
「このナーガって人は放送で名前を呼ばれてました……これから一体何が起こるんでしょうか?」
「俺から見てもキョンの小僧に裏切るような気概は見られねぇしなあ、やっぱ相手は違うんじゃねぇのか~?」
真っ先に考えられるのは仲間割れ、だがどう見てもキョンはヘコヘコするだけでナーガも相手にしていない。
では、この後リングが出現するとしてナーガは何が原因で命を落とすのか?
暫く様子を見る事として話の続きが行われる。
「ま、普通に考えりゃ連中がよっぽどのマヌケでも無い限り懐に入り込むのを許す筈が無いよなぁ。今頃はどっかで悔しがってるんじゃねぇのか~」
「……むしろその方が良いです、少しでもスエゾー達が無事でいられる可能性が有るのなら」
雨蜘蛛の言う通りだ、贔屓目に見てもスエゾーが本当に敵の本拠地に飛び込めた可能性は低いだろうと晶も思う。
それがどれ程無念だろうが生きててさえくれればきっとチャンスは来る、そう信じている。
―――だとすればスエゾーは何処に行ってしまったのか?
それが解れば苦労はしない。
ここで座ってなどおらず全力で駆け出しているだろう。
腕を組むが手掛かり無しの状態で晶に出せなかった。
「全くお前は頭を使う事を知らねぇ奴だな~、ヒントはてめえのガイバーにあるだろうが。
テレポートの制限がわからねぇってんならまずそいつの例を挙げてみろ」
「……あ! やってみます!!」
思考のループに陥りかけた晶に助け舟を出したのは雨蜘蛛だった。
既知の例があるなら比較すればいい、考えるまでも無い事だ。
すぐに晶はガイバーに掛かっているそれを思い出す。
「攻撃手段の威力制限、傷の回復速度、消耗具合の悪化は身をもって経験してます。
それにガイバー同士はテレパシーって言う無線機みたいにお互い通信できるんですがそれも全く使えません」
「随分とガチガチじゃねえか。テレポートに当て嵌めりゃあ、どうなる?}
ガイバーの弱みを自然な流れで聞けたとは雨蜘蛛はおくびにも出さない。
一発で死ぬようなウィークポイントで無ければ意味が無い。
男の内心を知らずに晶は難問を解いた生徒のように夢中で喋る。
「移動距離の制限に 疲労が酷くなるだろう事、最後は……居場所の解らない相手にはワープ出来ないって事になりますね!」
「ピンポンピンポ~ン♪ で、その距離が問題って訳だ。当然端から端までってのは贔屓過ぎるよな~?」
画面では地面が割れ、地響きと共に四角いリングがせり上がっていた。
だが主と従者はそれを見て会話してるだけで未だ戦いが始まる様子は無い。
「ええ、直線距離で数エリア……いや一エリアに抑えられていたとしても厳しすぎる事は無いと思います」
「それでも連続で使用したら意味が無い、そんな便利な能力なら暫く動けなくてもおかしかねえ」
確かにその通りだと晶も思う、上手く使えばずっと殺し合いを避けて逃げ回る事も可能なのだ。
例えテレボート能力者が好戦的な人物だったとしても場合でもゲームバランスを崩しかねないと当然厳しい縛りがあるだろう。
「ならスエゾーは案外近い場所に居るって事じゃ!? 長距離のテレポートが出来ないなら禁止エリアにも引っ掛からないですし!」
「……てめえ本当にそんな能天気な事思ってんのか?」
希望を見出した晶に対し冷や水のような言葉が浴びせられた。
ちったあ考えろと晶を見もせずに雨蜘蛛は自らも加わった推理を全否定する。
「それでも厄介な能力なんだよ、テレポートつー奴は。少なくとも対抗手段が存在しなきゃあ許される筈がねえ!」
ここで考えられる対抗手段とはワープしても相手を見失わないサーチ能力か当たりをつけて一斉に広範囲を焼き払うような攻撃手段。
前者はデバイス、後者はゼクトールという例が存在するが雨蜘蛛は彼らの能力までは知らない。
だが実際は両者とも大幅に制限されており結果を見れば間違ってはいない。
例え一エリアであろうが回数制限があろうがテレポートを使える者はあまりにも突出し過ぎる、男にはその脅威が解るのだ。
「砂漠みたいな見通しのいい場所ならわからなくもねぇ。けどここは隠れる場所だらけだ、お前が言った通り便利過ぎる!」
「じゃ、じゃあスエゾーは一体!? 未知の制限がかかっていて何か問題が!? まさが本当に連中の元へテレポートを……」
言われて不安が急速に膨れ上がる。
心配のタネは晶自身気付いていた、スエゾーのテレポートに賭ける気合を見てしまったからだ。
万が一制限の枠を超えたのだとしたら考察など何の意味も成さない。
そう考えるとまた居ても立ってもいられない気持ちになってきた、これでは堂々巡りではないか。
「……静かにしろ晶」
その焦りを遮ったのはまたしても地獄の取立て人であった。
突然冷たい声と共に雨蜘蛛が晶の腕を掴む。
まるで氷に触れたように冷え冷えとした感触、感情さえも削ぎ落とされるような―――
意地を張っていたのも忘れ雨蜘蛛に顔を向けてしまう、臨戦態勢の男がそこに居た。
一体何に気付いたというのか?
雨蜘蛛は銃を抜き扉に射抜くような視線を向いていた。
だが今も流れる動画は一時停止もボリュームを絞る事も行われない、相手に気付いた事を知らせない為だという事は晶にも判る。
晶もすぐ扉に向き直り警戒した、背後の音声が空しく二人の間を通り抜ける。
―――スエゾーが帰ってきたのか?
その可能性が真っ先に浮かんだ。
しかしそれなら一声ぐらい有ってもいいはず、落胆してるとしてもオレやぐらいは言うだろう。
だとすれば―――敵が入り込んだか。
もはや二人に動画の事など頭に無い。
雨蜘蛛は銃を、晶はヘッドビームを何時でも撃てるように構えながら無言で入り口を注視する。
(スエゾー……でしょうか雨蜘蛛さん)
(俺に聞くな、ツラを拝めばすぐにわかる)
とん、と僅かに扉が揺れた。
間を置いてもう一度揺れる、先程より力が強くボールがぶつかったような音がした。
―――間違いなくその向こうには何かがいる。
しかし数分経過しても扉は開かない。
襲撃ならとっくに終わっている筈、さすがに雨蜘蛛も不審に思う。
一つの可能性に気付いて晶が動く。
(もしかして誰かが助けを求めに来たのかもしれません、俺が行って開けてみます)
(声も出せない程重傷って訳か~? まあお前さんの好きにしな)
都合良く自ら先鋒を買って出た晶の背後に雨蜘蛛が続く。
扉の両側にそれぞれが立ち、晶がドアノブに手を掛けて一気に開け放つ。
―――次の瞬間、世界から時が消えた。
またしても空気が変わる。
鉛の様に重かった空気は凍えるように凍りつく。
誰も見ていない映像は尚も空しく流れ続けていた―――
『第二幕:罪と罰』
おお、何故我らはこれ程苦しまねばならぬのだろう。
因果はあるのか、我らが一体何をしたというのか、神は死んでしまったのか―――
晶の予感は当たっていた。
扉の向こうに居たものは確かに助けを求めていた。
『彼』が声を出さなかったのは、やはり出せなかった為なのだ。
だが何故晶は『彼』を励ましたり手当てしようともしないのか?
逆に何故これ程までに驚き、畏れ、立ち竦んでいるのか?
何が、晶と雨蜘蛛の元へやって来たのか?
それは、来訪者を知っていたからこその反応。
それは、あまりにも予想だにしない展開だったからこその驚き。
それは、仲間の死がもたらした覚悟と熱意の結果があまりにも不遇であった為の沈黙。
時には残酷さは人の想像を上回る。
静寂が―――暫くの間続いた。
扉が開け放たれた途端、ゴロリと室内に転がり込んできた毛むくじゃらの存在。
蛍光灯の真下に晒された生き物の姿に晶のみならず銃口を突きつけた雨蜘蛛ですら絶句した。
ボールに似た球形の『彼』がずりずりと床を這う。
蝸牛より少し早い程度の鈍足で、それでもやがて硬直したガイバーの脚まで辿り着く。
それが何なのか、障害物か敵か味方かを確かめるように弱弱しく肌を擦り付けてくる。
恐らくそれで理解できたのだろう、『彼』が上向くと白内障を思わせる混濁した単眼が晶を見上げた。
「ス……エゾー……? お前、なのか?」
震える手でその肌に触れる、斑に生えた毛の感触が感じられる。
そうであって欲しい、欲しくないとの相反する願いが晶の胸中で交錯する。
”スエゾーであって欲しい、また会えて良かった”
”スエゾーの筈が無い、こんな事ってあんまりだ”
彼もどう受け止めていいのかわからないのだ、あまりにも―――救いの無い結末に。
スエゾーがこんな姿をしている筈が無い、だって小トトロみたいな白い毛なんて生えてなかったじゃないか。
第一スエゾーは一つ目なんだ、確かに正面の眼は大きいけど脇に豆粒ぐらいの目玉が有る。
ほら、手だって付いている。変な位置に脚だって生えている。あいつはしっぽみたいな足しか無かった。
口だってこんな口唇裂みたいに裂けてないし……
そんな思いもプルプルと弱弱しい震えが伝わるとたちまちの内に瓦解した。
理屈でなく直感で理解する、『彼』は間違いなくスエゾーだと。
スエゾーと小トトロはやはり主催者の元へ飛べなかった、失敗して戻ってきた。
―――ひとつの身体に解け合って
晶は昔見た映画を思い出す。
『ザ・フライ』というタイトルのそれは科学者とハエがテレポーテレションの実験に失敗し、融合して蝿男になるという話だった。
人間の姿を失い、文字通りの化け物と化していくそれを見た時は悲劇に襲われた科学者を面白いとしか思わなかった。
だが、現実に起こったこれは面白さなど一片も存在しない。
晶自身まだ腕が震えている、あまりの辛さにスエゾーを直視すらできない。
それでも―――見なければならなかった。
眼と眼が遭う、まるで視線を感じない。
充血して濁り切ったそれは既に視力が失われていた、脇の小さな眼は本来小トトロのものだったのだろう。
晶や小トトロを気遣って元気付けてくれた口からは意味のある言葉一つ聞こえない。
いくら語りかけても返ってくるのはうーうーといううなり声のみだ、声帯も駄目になっている。
融合で多くの器官が正常に機能を果たせなくなったのだろう、恐らく内臓にも重篤な疾患を抱えている。
時々苦しそうに身体を震わせるのがその証拠だ。
遺伝子が損傷した場合、多くの生物は短時間で死に至る。
それが胎児なら畸形として生まれてくる、今のスエゾーのように。
そして、生まれた直後に死んでしまう。
機能しない肉体は生命を維持出来ないのだ。
異なる遺伝子が交じり合い、キメラと化したスエゾーの異変はそれだけではない。
ある細胞は遺伝子の損傷で癌化、また別の細胞は増殖すらできず次々に壊死して腐ってゆく。
これが禁じられた力を使った報い、スエゾーに与えられた罰。
「あう……うううううううっ、あう……」
晶の腕の中で変わり果てたスエゾーが泣いている、あの唾を飛ばして怒鳴っていた覇気は微塵にも無い。
見えない巨眼から血交じりの涙を零し、先走った己の愚かさを悔いている。
自分の我が侭で小トトロをはじめ全員に迷惑を掛けたと今の彼にも解るのだろう。
―――あんまりだ
晶には掛ける言葉が無かった、何を言っていいのか解らなかった。
ただガイバーの腕の中で抱きしめてやるぐらいしか出来なかった。
スエゾーの感覚が何処まで残っているのか解らないがガイバーの体温は伝わるのだろう。
より涙の量が増す、ただこの温もりだけが救いであるというように。
何時までそうしていたのだろう、気が付けば雨蜘蛛が晶にリボルバーを差し出していた。
「楽にしてやりな、晶。それがこの場合情けってものだぜ」
「……ッ!!」
込み上げた怒りのままリボルバーを振り払う。
だが寸前で雨蜘蛛が腕を引いた為に空振りに終わった。
「スエゾーは、スエゾーと小トトロはこんな所で死なせません! 俺が必ず助けます!」
今度こそ譲るつもりは無かった。
何が出来るか解らないが絶対にスエゾーを救うと晶は決意する。
雨蜘蛛に恩知らずと罵られようが構わない。
「てめぇはまだわからねえのか? 当ても無いのに生かしたってそいつの苦しみを長引かせるだけだぜ~?」
「……だとしても殺すなんて俺は嫌です! 探せばスエゾーを治せる人だって居るかもしれません!!」
晶に引く様子が無い事を見て取った雨蜘蛛は自ら銃を向けた。
これ以上足を引っ張られたくない、さっさと片付けるとばかりに引き金を引きかけるが出来なかった。
ガイバーがビームを放ったのだ。
額の金属球から放たれたそれは雨蜘蛛の真横を掠めて壁を穿った。
それは威嚇、だが次は本気で撃つという警告。
一気にその場が緊張する。
このまま決裂に至ると思われたその時、またしても予想外の事態が起こる。
雨蜘蛛、スエゾーを抱えた晶と三角形を描く位置に一人の少女が出現した。
それは灰色の髪にセーラー服、その上にガーディガンを纏った小柄な少女。
ガイバーと砂漠スーツ、それに見るもおぞましい畸形体に比べあまりにも場違いな存在の姿。
名を長門有希、れっきとした主催者の一人がそこに居た。
*時系列順で読む
Back:[[Grazie mio sorella.]] Next:[[冬の訪れ、そして春の目覚め]]
*投下順で読む
Back:[[Grazie mio sorella.]] Next:[[冬の訪れ、そして春の目覚め]]
|[[彼等彼女等の行動 (08)]]|深町晶|[[冬の訪れ、そして春の目覚め]]|
|~|雨蜘蛛|~|
|[[彼等彼女等の行動 (05~07)]]|スエゾー|~|
|[[第三回放送]]|長門有紀|~|
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*罪と罰 ◆5xPP7aGpCE
空気というものはここまで変わるものなのか。
何故人はこうも容易く苛立ちや暴力的衝動に流されるのか。
(それはヒトの宿命、陳腐かつ永遠の課題)
今回のケースも同様だ。
ほんの数十分前、和気藹々とピザを囲んでいた雰囲気は既に無い。
顔ぶれも変わった、二匹の消失とその後の軋轢は大きな負の遺産を生み出した。
きっかけは放送、しかし始まりが何であれ分裂という最悪の結果を選択したのは紛れも無く彼ら自身であった。
先程の結束は砂のお城だったのか、仮初めの形だけの存在だったのか。
だとすれば崩れるのは当然の成り行き、やがては跡形も無く平らに戻る。
しかし時には固く締まりそのまま岩と化す事も起こりえる。
ただ見守ろう、崩れた城の行く末を。
―――残骸は、まだ辛うじて形を保っていた
『第一幕:燻る不安』
重厚な博物館の奥の院、そこにあるのは島を繋ぐ端末の一つ。
残された者はただ黙って画面の動画を眺めていた。
深町晶と雨蜘蛛、生まれも育ちも正逆の二人は先程から一言も言葉を交わしてない。
特に晶は雨蜘蛛の方を見ようともしない、時折肩を震わせるのは尚も感情を抑えきれない為か。
対する雨蜘蛛は静かだった、まるで柳のように向けられる感情を受け流している。
今再生されているのは『森のリング』の記録だった。
されど続くのは森に開けた芝生の光景、時々聞こえてくるのは小鳥のさえずり。
まるで環境ビデオを思わせる癒しの世界、肝心のイベントはまだ先らしい。
早送りするか、と雨蜘蛛がマウスに手を伸ばす。
だがポインタを合わせて後はクリックという状態でその動きが止まる。
代わりに空いている掌が画面の前で上げ下げされた。
―――コイツ、全然前を見てやがらねえな
腕を払いのけも抗議も発しないガイバーの反応に雨蜘蛛は確信する。
これから見るシーンに晶の知識が必要にならないとも限らない、世話を焼かせるなと苛立ちつつマウスから手を離す。
いつまで女みたいにウジウジしてやがんだ、と怒鳴りかけたその瞬間、
「……便利過ぎるんです」
いきなり晶が声を発した。
搾り出されたのは彼の中をずっと駆け巡っていた疑問。
”スエゾーは何故テレポートが出来たのか?”
主催者への苛立ちも含まれていた、もしテレポートが完全禁止されていたのならばスエゾーが死地に向かう事も無かったのだ。
ガイバーの制限に悩み、一方で仲間の能力を制限しろとは何とも虫のいい話だが不満を感じずにはいられない。
「俺のガイバーは空を飛んだり壁を砕いたりと強力に見えますが……本来よりかなり力が抑えられてます。
理由はいろいろ考えられますが、反逆を抑える目的があるだろうって事ぐらいは俺にだって判ります!」
晶は勢いのまま喋り続ける。
この怒りや訳のわからない現象をどうしても胸に溜めておけなかったのだ。
何故か雨蜘蛛は黙ったままだ、好きに吐かせて落ち着かせた方がやり易いという考えだろうか。
「それがさっき喚いてた制限って奴か? 俺にはそんな縛り感じられないがな~」
いや、雨蜘蛛も何の気まぐれか口を挟む。
一見独り言だが問い掛けに近い、話を早く進める撒き餌だと晶は察した。
問いの答えは想像できる、恐らくは雨蜘蛛も判っていて言わせようとしているのだろう。
「全員に同じ縛りがあるとは考えられません……ガイバーや恐らくギュオーのように強過ぎる道具、人物に限って制限されているんじゃないでしょうか」
「ま、それなら納得だわな。てぇ事は何だ? スエゾーの奴がテレポート出来たのはおかしいんじゃねえかって思ってんのかよ?」
晶は無言で頷いた、わだかまりは残っているが他の感情がそれを上回る程に強いのだ。
ここにきて雨蜘蛛も晶の焦りを理解する。制限の存在とテレポートへの影響、面白い話じゃねぇかと男は考える。
映像に未だ人影は現れない、視線だけは前を見ながら男達の話は続く。
「確かにね~、居所のわからない連中の元へ行き来できるような能力が使えるなんざ不自然だわな」
スエゾーや小トトロの生死など雨蜘蛛にとってはどうでも良い、しかし主催者がそのような抜け道を許すかどうかについては関心がある。
晶のガス抜きも兼ねて男は更なる撒き餌を投下する。
「考えられるケースは二つ……狙い通り主催者の元へ飛べたか、失敗してそれ以外の場所に行ってしまったかです」
「前者なら成功だがまず帰ってこれねえわな、後者なら何処まで飛んだのかって問題だわな~。禁止エリアなんつー可能性もあるんだよな~」
心から心配そうに語る晶に雨蜘蛛は茶化す。
晶は雨蜘蛛がそんな人間だと知ってる以上突っかかる気にもなれない、心配の余りギュッと拳を握り締める。
「閑話休題だ。こっちもようやくお出ましだぜ~、見れば懐かしい顔じゃねえか」
ここにきて画面にも変化が訪れた、初めて見る蛇の怪物と二人にも見覚えのある0号ガイバーが現れたのだ。
その指が揃っているのを見て雨蜘蛛は一人ほくそ笑む。
(空を飛び指まで再生しちまう、全くガイバーって奴はとんでもなく便利な代物だわな~)
ならば制限されているというのも無理も無い、関東大砂漠に有れば所有権を巡る戦争が起こっても驚かない。
残念なのは引き剥がす方法が解らない事だ、ここで晶に聞いても警戒を招くだけだろう。
(まぁ、晶も使い出があるしそっちは後回しだ。今はコイツを見るのが先決だからな~)
蛇の化け物の名はナーガという事もすぐに解った、キョンが様付けで呼ぶところからして彼らは仲間というより主従関係らしい。
晶も少し落ち着いたのかちゃんと画面を見ているようだ、因縁有る相手の出現に身を乗り出している。
「このナーガって人は放送で名前を呼ばれてました……これから一体何が起こるんでしょうか?」
「不意打ちってのが可能性高いが、俺から見てもキョンの小僧に裏切るような気概は見られねぇしなあ、やっぱ相手は違うんじゃねぇのか~?」
真っ先に考えられるのは仲間割れ、だがどう見てもキョンはヘコヘコするだけでナーガも相手にしていない。
では、この後リングが出現するとしてナーガは何が原因で命を落とすのか?
暫く様子を見る事として話の続きが行われる。
「ま、普通に考えりゃ連中がよっぽどのマヌケでも無い限り懐に入り込むのを許す筈が無いよなぁ。今頃はどっかで悔しがってるんじゃねぇのか~」
「……むしろその方が良いです、少しでもスエゾー達が無事でいられる可能性が有るのなら」
雨蜘蛛の言う通りだ、贔屓目に見てもスエゾーが本当に敵の本拠地に飛び込めた可能性は低いだろうと晶も思う。
それがどれ程無念だろうが生きててさえくれればきっとチャンスは来る、そう信じている。
―――だとすればスエゾーは何処に行ってしまったのか?
それが解れば苦労はしない。
部屋で座ってなどおらず全力で駆け出しているだろう。
腕を組んで晶は悩む、せめて手掛かりでもあれば別だがスエゾーからは何も能力の事を聞いていない。
「全くお前は頭を使う事を知らねぇ奴だな~、ヒントはてめえのガイバーにあるだろうが。
テレポートの制限がわからねぇってんならまずそいつの例を挙げてみろ」
「……あ! やってみます!!」
思考のループに陥りかけた晶に助け舟を出したのは雨蜘蛛だった。
既知の例があるなら比較すればいい、考えるまでも無い事だ。
すぐに晶はガイバーに掛かっているそれを思い出す。
「攻撃手段の威力制限、傷の回復速度、消耗具合の悪化は身をもって経験してます。
それにガイバー同士はテレパシーって言う無線機みたいにお互い通信できるんですがそれも全く使えません」
「随分とガチガチじゃねえか。テレポートに当て嵌めりゃあ、どうなる?}
ガイバーの弱みを自然な流れで聞けたとは雨蜘蛛はおくびにも出さない。
一発で死ぬようなウィークポイントで無ければ意味が無い。
男の内心を知らずに晶は難問を解いた生徒のように夢中で喋る。
「移動距離の制限に 疲労が酷くなるだろう事、最後は……居場所の解らない相手にはワープ出来ないって事になりますね!」
「ピンポンピンポ~ン♪ で、その距離が問題って訳だ。当然端から端までってのは贔屓過ぎるよな~?」
画面では地面が割れ、地響きと共に四角いリングがせり上がっていた。
だが主と従者はそれを見て会話してるだけで未だ戦いが始まる様子は無い。
「ええ、直線距離で数エリア……いや一エリアに抑えられていたとしても厳しすぎる事は無いと思います」
「それでも連続で使用したら意味が無い、そんな便利な能力なら暫く動けなくてもおかしかねえ」
確かにその通りだと晶も思う、上手く使えばずっと殺し合いを避けて逃げ回る事も可能なのだ。
例えテレボート能力者が好戦的な人物だったとしても場合でもゲームバランスを崩しかねないと当然厳しい縛りがあるだろう。
「ならスエゾーは案外近い場所に居るって事じゃ!? 長距離のテレポートが出来ないなら禁止エリアにも引っ掛からないですし!」
「……てめえ本当にそんな能天気な事思ってんのか?」
希望を見出した晶に対し冷や水のような言葉が浴びせられた。
ちったあ考えろと晶を見もせずに雨蜘蛛は自らも加わった推理を全否定する。
「それでも厄介な能力なんだよ、テレポートつー奴は。少なくとも対抗手段が存在しなきゃあ許される筈がねえ!」
ここで考えられる対抗手段とはワープしても相手を見失わないサーチ能力か当たりをつけて一斉に広範囲を焼き払うような攻撃手段。
前者はデバイス、後者はゼクトールという例が存在するが雨蜘蛛は彼らの能力までは知らない。
だが実際は両者とも大幅に制限されており結果を見れば間違ってはいない。
例え一エリアであろうが回数制限があろうがテレポートを使える者はあまりにも突出し過ぎる、男にはその脅威が解るのだ。
「砂漠みたいな見通しのいい場所ならわからなくもねぇ。けどここは隠れる場所だらけだ、お前が言った通り便利過ぎる!」
「じゃ、じゃあスエゾーは一体!? 未知の制限がかかっていて何か問題が!? まさが本当に連中の元へテレポートを……」
言われて不安が急速に膨れ上がる。
心配のタネは晶自身気付いていた、スエゾーのテレポートに賭ける気合を見てしまったからだ。
万が一制限の枠を超えたのだとしたら考察など何の意味も成さない。
そう考えるとまた居ても立ってもいられない気持ちになってきた、これでは堂々巡りではないか。
「……静かにしろ晶」
その焦りを遮ったのはまたしても地獄の取立て人であった。
突然冷たい声と共に雨蜘蛛が晶の腕を掴む。
まるで氷に触れたように冷え冷えとした感触、感情さえも削ぎ落とされるような―――
意地を張っていたのも忘れ雨蜘蛛に顔を向けてしまう、臨戦態勢の男がそこに居た。
一体何に気付いたというのか?
雨蜘蛛は銃を抜き扉に射抜くような視線を向いていた。
だが今も流れる動画は一時停止もボリュームを絞る事も行われない、相手に気付いた事を知らせない為だという事は晶にも判る。
晶もすぐ扉に向き直り警戒した、背後の音声が空しく二人の間を通り抜ける。
―――スエゾーが帰ってきたのか?
その可能性が真っ先に浮かんだ。
しかしそれなら一声ぐらい有ってもいいはず、落胆してるとしてもオレやぐらいは言うだろう。
だとすれば―――敵が入り込んだか。
もはや二人に動画の事など頭に無い。
雨蜘蛛は銃を、晶はヘッドビームを何時でも撃てるように構えながら無言で入り口を注視する。
(スエゾー……でしょうか雨蜘蛛さん)
(俺に聞くな、ツラを拝めばすぐにわかる)
とん、と僅かに扉が揺れた。
間を置いてもう一度揺れる、先程より力が強くボールがぶつかったような音がした。
―――間違いなくその向こうには何かがいる。
しかし数分経過しても扉は開かない。
襲撃ならとっくに終わっている筈、さすがに雨蜘蛛も不審に思う。
一つの可能性に気付いて晶が動く。
(もしかして誰かが助けを求めに来たのかもしれません、俺が行って開けてみます)
(声も出せない程重傷って訳か~? まあお前さんの好きにしな)
都合良く自ら先鋒を買って出た晶の背後に雨蜘蛛が続く。
扉の両側にそれぞれが立ち、晶がドアノブに手を掛けて一気に開け放つ。
―――次の瞬間、世界から時が消えた。
またしても空気が変わる。
鉛の様に重かった空気は凍えるように凍りつく。
誰も見ていない映像は尚も空しく流れ続けていた―――
『第二幕:罪と罰』
おお、何故我らはこれ程苦しまねばならぬのだろう。
因果はあるのか、我らが一体何をしたというのか、神は死んでしまったのか―――
晶の予感は当たっていた。
扉の向こうに居たものは確かに助けを求めていた。
『彼』が声を出さなかったのは、やはり出せなかった為なのだ。
だが何故晶は『彼』を励ましたり手当てしようともしないのか?
逆に何故これ程までに驚き、畏れ、立ち竦んでいるのか?
何が、晶と雨蜘蛛の元へやって来たのか?
それは、来訪者を知っていたからこその反応。
それは、あまりにも予想だにしない展開だったからこその驚き。
それは、仲間の死がもたらした覚悟と熱意の結果があまりにも不遇であった為の沈黙。
時には残酷さは人の想像を上回る。
静寂が―――暫くの間続いた。
扉が開け放たれた途端、ゴロリと室内に転がり込んできた毛むくじゃらの存在。
蛍光灯の真下に晒された生き物の姿に晶のみならず銃口を突きつけた雨蜘蛛ですら絶句した。
ボールに似た球形の『彼』がずりずりと床を這う。
蝸牛より少し早い程度の鈍足で、それでもやがて硬直したガイバーの脚まで辿り着く。
それが何なのか、障害物か敵か味方かを確かめるように弱弱しく肌を擦り付けてくる。
恐らくそれで理解できたのだろう、『彼』が上向くと白内障を思わせる混濁した単眼が晶を見上げた。
「ス……エゾー……? お前、なのか?」
震える手でその肌に触れる、斑に生えた毛の感触が感じられる。
そうであって欲しい、欲しくないとの相反する願いが晶の胸中で交錯する。
”スエゾーであって欲しい、また会えて良かった”
”スエゾーの筈が無い、こんな事ってあんまりだ”
彼もどう受け止めていいのかわからないのだ、あまりにも―――救いの無い結末に。
スエゾーがこんな姿をしている筈が無い、だって小トトロみたいな白い毛なんて生えてなかったじゃないか。
第一スエゾーは一つ目なんだ、確かに正面の眼は大きいけど脇に豆粒ぐらいの目玉が有る。
ほら、手だって付いている。変な位置に脚だって生えている。あいつはしっぽみたいな足しか無かった。
口だってこんな口唇裂みたいに裂けてないし……
そんな思いもプルプルと弱弱しい震えが伝わるとたちまちの内に瓦解した。
理屈でなく直感で理解する、『彼』は間違いなくスエゾーだと。
スエゾーと小トトロはやはり主催者の元へ飛べなかった、失敗して戻ってきた。
―――ひとつの身体に解け合って
晶は昔見た映画を思い出す。
『ザ・フライ』というタイトルのそれは科学者とハエがテレポーテレションの実験に失敗し、融合して蝿男になるという話だった。
人間の姿を失い、文字通りの化け物と化していくそれを見た時は悲劇に襲われた科学者を面白いとしか思わなかった。
だが、現実に起こったこれは面白さなど一片も存在しない。
晶自身まだ腕が震えている、あまりの辛さにスエゾーを直視すらできない。
それでも―――見なければならなかった。
眼と眼が遭う、まるで視線を感じない。
充血して濁り切ったそれは既に視力が失われていた、脇の小さな眼は本来小トトロのものだったのだろう。
晶や小トトロを気遣って元気付けてくれた口からは意味のある言葉一つ聞こえない。
いくら語りかけても返ってくるのはうーうーといううなり声のみだ、声帯も駄目になっている。
融合で多くの器官が正常に機能を果たせなくなったのだろう、恐らく内臓にも重篤な疾患を抱えている。
時々苦しそうに身体を震わせるのがその証拠だ。
遺伝子が損傷した場合、多くの生物は短時間で死に至る。
それが胎児なら畸形として生まれてくる、今のスエゾーのように。
そして、生まれた直後に死んでしまう。
機能しない肉体は生命を維持出来ないのだ。
異なる遺伝子が交じり合い、キメラと化したスエゾーの異変はそれだけではない。
ある細胞は遺伝子の損傷で癌化、また別の細胞は増殖すらできず次々に壊死して腐ってゆく。
これが禁じられた力を使った報い、スエゾーに与えられた罰。
「あう……うううううううっ、あう……」
晶の腕の中で変わり果てたスエゾーが泣いている、あの唾を飛ばして怒鳴っていた覇気は微塵にも無い。
見えない巨眼から血交じりの涙を零し、先走った己の愚かさを悔いている。
自分の我が侭で小トトロをはじめ全員に迷惑を掛けたと今の彼にも解るのだろう。
―――あんまりだ
晶には掛ける言葉が無かった、何を言っていいのか解らなかった。
ただガイバーの腕の中で抱きしめてやるぐらいしか出来なかった。
スエゾーの感覚が何処まで残っているのか解らないがガイバーの体温は伝わるのだろう。
より涙の量が増す、ただこの温もりだけが救いであるというように。
何時までそうしていたのだろう、気が付けば雨蜘蛛が晶にリボルバーを差し出していた。
「楽にしてやりな、晶。それがこの場合情けってものだぜ」
「……ッ!!」
込み上げた怒りのままリボルバーを振り払う。
だが寸前で雨蜘蛛が腕を引いた為に空振りに終わった。
「スエゾーは、スエゾーと小トトロはこんな所で死なせません! 俺が必ず助けます!」
今度こそ譲るつもりは無かった。
何が出来るか解らないが絶対にスエゾーを救うと晶は決意する。
雨蜘蛛に恩知らずと罵られようが構わない。
「てめぇはまだわからねえのか? 当ても無いのに生かしたってそいつの苦しみを長引かせるだけだぜ~?」
「……だとしても殺すなんて俺は嫌です! 探せばスエゾーを治せる人だって居るかもしれません!!」
晶に引く様子が無い事を見て取った雨蜘蛛は自ら銃を向けた。
これ以上足を引っ張られたくない、さっさと片付けるとばかりに引き金を引きかけるが出来なかった。
ガイバーがビームを放ったのだ。
額の金属球から放たれたそれは雨蜘蛛の真横を掠めて壁を穿った。
それは威嚇、だが次は本気で撃つという警告。
一気にその場が緊張する。
このまま決裂に至ると思われたその時、またしても予想外の事態が起こる。
雨蜘蛛、スエゾーを抱えた晶と三角形を描く位置に一人の少女が出現した。
それは灰色の髪にセーラー服、その上にガーディガンを纏った小柄な少女。
ガイバーと砂漠スーツ、それに見るもおぞましい畸形体に比べあまりにも場違いな存在の姿。
名を長門有希、れっきとした主催者の一人がそこに居た。
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