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「カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ」(2009/11/19 (木) 00:18:54) の最新版変更点
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*カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw
F-5。この地に存在した神社は、今はリングへと姿を変えていた。
そしてそのリング上では現在、漆黒の姿を持つ戦士と漆黒の魂を持つ戦士が死闘を繰り広げている。
正義超人ウォーズマンと、獣神将リヒャルト・ギュオーである。
◇ ◇ ◇
「フハハハハハ!! どうした、ウォーズマン! このリングの上こそが、貴様のホームグラウンドではなかったのか!」
「クッ……」
序盤、試合のペースを握ったのはギュオーだった。彼は遠距離から重力指弾を連発し、ウォーズマンを近づけさせないという戦法を取ったのである。
超人レスラーとしてはオーソドックスなタイプであるウォーズマンは、遠距離から攻撃する術を持たない。
また威力よりも連射性を重視して出力を抑えているとはいえ、ギュオーの重力指弾はそれなりの威力。
被弾覚悟で無理に近づいて接近戦に持ち込むのも、得策とは言えない。
すなわち、現状ウォーズマンは手詰まりと言える状況であった。
しかしウォーズマンとて、「ファイティング・コンピューター」と呼ばれた男。いつまでも自分が不利な状況に甘んじているわけがない。
彼の明晰な頭脳は、すでにこの戦況の打開策を導き出していた。
(ロビンマスク……。あなたの策を使わせてもらうぞ!)
敬愛する師匠の教えを脳内に再生させながら、ウォーズマンは脚に込める力を強める。
そして、ある軌道に沿って走り始めた。
「ロビン戦法、円は直線を包む!」
「何ぃっ!」
『あーっと! ウォーズマン、ギュオーの周囲をグルグルと回り始めたー!』
そう、中トトロの解説の通り、ウォーズマンはギュオーを中心に円を描くようにして走っているのだ。
狙いを定めることが出来ず、ギュオーはわずかに狼狽の色を顔に浮かべる。
「ええい! この程度で私をかく乱できると思ったか!」
それでもギュオーは、すぐさま冷静さを取り戻す。だがそれまでのわずかな隙があれば、ウォーズマンが反撃の口火を切るのには充分であった。
『ウォーズマン、回転運動からドロップキックに移行だー! ギュオー、避けられない!
ウォーズマンの両足がギュオーの胸板を捉えるー!』
ドロップキックの直撃をくらい、よろけるギュオー。そこにウォーズマンは、ナックルの連打を叩き込む。
『いった、いった、ウォーズマンがいったー!!』
興奮気味に中トトロがプラカードを掲げるが、いつまでもこんなワンサイドゲームを許すほどギュオーも貧弱な存在ではない。
「調子に乗るな!」
拳の雨の合間を縫い、ギュオーはおのれの右脚を振るってウォーズマンの左脚に叩きつけた。
その一撃でバランスを崩したウォーズマンに、さらに右の拳が叩き込まれる。
「グムッ!」
短い声と同時に、ウォーズマンの体が後方へと吹き飛ばされる。だが彼はすぐさま体勢を立て直し、両の足でマットを踏みしめた。
(なるほど……。やはり重力波による攻撃だけが頼りというわけではないか……。
肉弾戦だけに限定しても、おそらくバッファローマンレベルかそれ以上のパワー……。
正面からやり合っても分が悪いだろうな……)
攻撃を受けた箇所からは、強い痛みが発せられている。だがウォーズマンはその痛みに取り乱すことなく、冷静にギュオーの強さを測る物差しへと変える。
「何をぼさっとしているのだ! まだまだ決着はついていないぞ!」
分析を進めるウォーズマンに、ギュオーの重力指弾が襲いかかる。
だがウォーズマンは、大きく跳躍してそれを回避。
距離が空いたといっても、その距離は先程までと比べれば微々たるもの。
一回の跳躍で簡単に肉薄できる程度の間だ。
空中で大きく開脚したウォーズマンは、その脚でギュオーの顔を挟み込む。
そして体のひねりを利用して、ギュオーの巨体を投げ飛ばした。
『メキシコ殺法、コルバタが炸裂ーっ! しかしギュオー、平然と立ち上がります!』
「くだらん。こんなちゃちな投げ技で、私を倒せると思ったか!」
余裕の笑みさえ浮かべながら立ち上がったギュオーは、すぐさま反撃に移る。
しかしウォーズマンはその攻撃を軽々と回避し、逆にフロントスープレックスでギュオーを投げ飛ばした。
さらに、ウォーズマンの攻撃は止まらない。
『ボディースラム! サイドスープレックス! 一本背負い! ウォーズマンの投げ技が次々とギュオーに炸裂するー!』
しかしウォーズマンの猛攻も、ギュオーに致命的なダメージを与えるにはいたらない。
「効かぬと言っているのがわからんのか!」
連劇の隙を突き、ギュオーが再び攻勢に出る。
だがウォーズマンもギュオーの猛攻をしのぎつつ、打撃を繰り出しギュオーの手足にダメージを蓄積させていく。
「その程度か、ウォーズマン! そんな蚊の刺したような攻撃で、私に勝とうとは片腹痛いわ!」
自らの優勢を確信し、ギュオーは吠える。だが、ウォーズマンは焦らない。
なぜなら、ここまでの展開は全て彼の計算通りだからだ。
超人レスリングは、ただ大技を連発すればいいというものではない。
どんなに強力な必殺技も、相手が万全の状態では強い抵抗を受けその威力を最大限に発揮することは出来ない。
まずは小技を多用して相手の体力を削り、ここ一番でフィニッシュホールドを繰り出す。
これこそが超人レスリングの常道である。
今、ウォーズマンはそれを忠実に実践していた。すなわち一撃でギュオーを倒そうとするのではなく、ギュオーを消耗させることに専念しているのである。
だが、口で言うほどそれは簡単ではない。
ギュオーの攻撃力は、ウォーズマンを優に上回る。当たり所が悪ければ、一撃でK.Oもありうるだろう。
敵の体力を削りきる前に自分の体力が尽きてしまったのでは、笑い話にもならない。
相手の攻撃は直撃を許さず、こちらの攻撃は確実に当てる。それは技術的も精神的にも、非常に困難な戦略である。
しかし、ウォーズマンなら可能だ。正確無比なコンピューターの頭脳と、百戦錬磨の経験を併せ持つウォーズマンなら。
とは言っても、相手はこのバトルロワイアル内で屈指の戦闘力を持つギュオー。
一瞬の判断ミスがすぐさま敗北に繋がる、ウォーズマンの能力を持ってしても薄氷を踏むような戦いである。
だが、今のところ致命的なミスはない。ギュオーが圧倒しているように見えて、実際に場を支配しているのはウォーズマンである。
『あーっと! ギュオーの一瞬の隙を突いて、ウォーズマンがギュオーの首を捉えたー!
そして、すぐさまフロントネック・チャンスリー・ドロップー!』
「ぐおっ!」
マットに叩きつけられ間の抜けた声を漏らすギュオーだが、すぐさま体勢を立て直して距離を取る。
だがウォーズマンもすぐさま距離を詰め、遠距離戦に持ち込むことを許さない。
(おのれ、たいした攻撃もできんくせにしぶといやつだ……。残された時間は決して多くないというのに!)
ギュオーは焦りを感じつつあった。このデスマッチには、偶然の産物とはいえ制限時間がもうけられている。
神社のあるF-5が禁止エリアに指定される19時までの間に決着がつかなければ、二人揃ってLCL化という結末が待っているのである。
いや、別のエリアに移動する時間を考えれば、試合時間はさらに短縮しなければならない。
戦いに勝ったのに死ぬなどという、間抜けな結末を迎えるのはごめんである。
(これ以上時間を浪費してたまるか……。プロレスごっこに付き合うのはもうおしまいだ!)
決着を急ぐギュオーは、拳を大きく振りかぶる。だがそれは、ウォーズマンに対してみせるにはあまりに大きな隙だった。
「もらった! マッハパルバライザー!」
ここぞとばかりに、ウォーズマンは温存していた大技を繰り出す。
高速回転しながらの突進により両の腕で相手の体を穿つ打撃技、マッハパルバライザー。
至近距離からの発動ゆえ充分に加速できず威力は半減しているが、カウンターで放ったがゆえにそれでも破壊力は充分。
「ぬあああああ!!」
攻撃のことしか考えていなかったためにバリアを張ることもままならず、胸を抉られたギュオーは苦悶の声をあげる。
(さあ、ここからは反撃の時間だ……。一気に勝負を決めさせてもらうぞ、ギュオー!)
痛みがギュオーを硬直させている間に、ウォーズマンは股抜きスライディングで相手の背後に廻る。
そしておのれの両手両足を全て使い、ギュオーの四肢をホールドした。
『こ、これはー! ウォーズマンの伝家の宝刀! 超人界の名門・ロビン一族に代々伝えられてきたとされる至高のサブミッション!
パ ロ ・ ス ペ シ ャ ル だ ー!!』
興奮気味の中トトロの前で、ウォーズマンは容赦なく両手両足に込める力を強めていく。
「貴様相手に、ギブアップに追い込もうなどという中途半端な心構えは命取りになる。
ギュオー、貴様の手足を破壊させてもらうぞ!」
『パロ・スペシャルが、さらにギュオーの体に食い込んでいくー! これはウォーズマンの勝利も時間の問題かー!』
「脱出しようとしても無駄だぞ。このパロ・スペシャルは、別名『アリ地獄ホールド』と呼ばれている。
抜け出そうともがけばもがくほど、技はさらに極まっていくのだ!」
ウォーズマンの言葉を証明するように、彼の手足はさらにギュオーの体を締め付けていく。
だがこの状況においても、ギュオーはその表情に余裕を残していた。
「ククク……。アリ地獄ホールドだと?」
「なんだ……。何がおかしい!」
「アリ地獄にかかったのは貴様の方なのだよ、ウォーズマン!」
「何を言って……」
ウォーズマンがギュオーの言葉に異を唱えようとした、その瞬間。彼の体は、急激な圧力の増加により木の葉の如く吹き飛ばされていた。
「ハーハッハッハ! 私が重力使いであることを忘れていたのか?
重力指弾だけが私の技ではない! 自分を中心に、重力波を全方位へ放射することも可能なのだ!
相手に密着する技を選んだのが、貴様のミスよ!」
自らの技で大きく変形したリングの上で高笑いをしてみせるギュオーだが、その息は荒い。
自分にかかる負担も大きい技を使用したのだから、それも当然のことである。
だが、ウォーズマンのダメージはそれ以上に深刻だった。
ロープが絡まってリングアウトは避けられたが、それが些細に思えるほどの重傷だ。
至近距離から避けることも出来ずに重力波を受けたせいで、ダメージは全身に及んでいる。
そしてダメージで破損した機械部分が皮膚を突き破り、血とオイルを吹き出させていた。
超人としての驚異的な生命力がなければ、とうに死んでいておかしくないほどの状態である。
一撃。たった一回の攻撃で、ギュオーはウォーズマンの体をここまで破壊したのだ。
(くそっ、俺としたことが……。やつの実力を把握しきれていなかった……。まだ仕掛けるには早かったのか……!)
どうにか体を起こすウォーズマンの脳内には、後悔が渦巻いていた。
一瞬の判断ミスが命取りになることは、十分に理解していたはずだった。
だというのに、そのミスを犯してしまったのだ。全ては、ギュオーという男の器を計り損ねた自分の責任だ。
(だが……! まだ勝負は決していない! 正義超人が、悪に屈してたまるか!)
きしむ体を引きずり、ウォーズマンは改めてギュオーの前に立つ。
その体からは、未だ勝利を諦めぬ気迫の炎がみなぎっていた。
だがそんなウォーズマンの姿も、ギュオーの目には滑稽としか映らない。
「哀れだな、ウォーズマン。それほどの深手を負って、まだ私に勝てるとでも思っているのか。
ならばこの私が直々に引導を渡し、そのわずかな希望を粉砕してくれる!」
醜悪な笑いを浮かべながら、ギュオーはウォーズマンに殴りかかる。
その拳を回避しようとするウォーズマンだが、脚へのダメージが回避運動を遅れさせる。
『あーっと! ギュオーの豪拳が、ウォーズマンの顔面に直撃ーっ!
ボロボロのウォーズマンに、これはきつい! 勝負が決まってしまったかー!』
プラカードを掲げる中トトロの顔に、汗が浮かぶ。だが彼の予想とは裏腹に、ウォーズマンはギュオーの拳を受けてもしっかりと立っていた。
その代わり、その一撃はウォーズマンの象徴たるものを葬り去っていた。
ウォーズマンの顔面を覆う、漆黒の仮面。先程の重力波ですでにヒビが入っていたそれが、完全に粉砕されたのである。
「ほう……」
あらわになったウォーズマンの顔を、ギュオーはまじまじと見つめる。その顔に浮かぶのは、侮蔑という感情だ。
ひときわ目をひく、作り物めいた眼球。むき出しの基盤。密集した機械の中に組み込まれた、赤い筋肉。
ギュオーが目撃したウォーズマンの素顔は、目にしたものが十中八九嫌悪感を示すであろうグロテスクなものだった。
「なるほどな。貴様の仮面は、その醜悪な素顔を隠すためのものだったか」
「ああ、否定はしない」
嘲りの色を多分に含んだギュオーの言葉に、ウォーズマンは淡々とした口調で答える。
「たしかに俺が仮面を付けたのは、醜い素顔を衆目に晒すのがいやだったからだ。
俺は自分の素顔を疎み、幼い頃からずっと素顔を隠して生きてきた。
だが今となっては、俺の仮面はただ素顔を隠すためのものではない。
貴様が砕いた仮面は、伝説超人(レジェンド)ウォーズマンとしての誇り。
長年身につけて悪と戦ってきた、俺の体の一部だ。それを破壊したつけ、ただで済むと思うな!」
咆吼と共に、ウォーズマンは跳躍。ギュオーの顔面目がけ、跳び蹴りを放つ。
だがそのキックは、ギュオーの腕にあっさり防がれてしまった。
「貧弱だなあ、ウォーズマン! こんな蹴りでは、私を殺すのに100年かかるぞ!」
自信に満ちたセリフとともに、ギュオーは空中のウォーズマンに対し空いた片腕から重力指弾を飛ばす。
宙を滑る重力の弾丸は吸い込まれるようにウォーズマンに命中し、その体をはじき飛ばした。
「終わったな……」
勝利を確信したギュオーは、余裕の笑みをその顔に浮かべる。だが、その笑みはすぐに消え去る。
マットに伏したウォーズマンが、すぐさま立ち上がったのだ。
「終わっただと? 何を言っているのだ、ギュオー。貴様の相手は、こうして貴様の目の前に立っているではないか」
「貴様ぁ……」
今にも息絶えそうな無惨な姿でありながら、飄々とした台詞を吐くウォーズマン。
その態度は、ギュオーの怒りを掻き立てる。
「なぜだ! 貴様はもう、立っているのがやっとのダメージのはず。なのになぜ、そんななめた口がきける!」
激情のままに、ギュオーはウォーズマンへ幾度も拳を振るう。だが、ウォーズマンはボロボロの腕を盾にしてその拳を受け止める。
そのたびに彼の腕はさらに傷つき、赤い液体と黒い液体が飛び散る。それでも、ウォーズマンは一切苦痛を表に出さない。
「なぜ、か……。偉大なる正義超人の先人は、こんな言葉を残している。
『常識では計り知れない奇跡を起こすのも、ひとえに正義のなせる業だ』とな。
俺の心に正義がある限り、そう簡単に俺は倒れない。まあ、これは奇跡というほどのことでもないかもしれんがな」
それにあいつが起こす奇跡は、こんなものじゃない。
戦友のひょうきんな顔を思い描きながら、ウォーズマンは反撃のミドルキックをギュオーに叩き込む。
ギュオーの顔がわずかに歪むが、すぐにそれは憤怒に飲み込まれる。
「死にかけがえらそうに……! ならばその奇跡とやらで、このリヒャルト・ギュオーを倒してみるがいい!
出来るはずもないがなあ!」
ギュオーの放った重力波が、今一度ウォーズマンの体を吹き飛ばす。
抵抗も出来ぬまま宙を舞ったウォーズマンは、コーナーポストに叩きつけられマットに沈んだ。
「これはおまけだ!」
さらにギュオーは、重力指弾を連射。グロッキー状態のウォーズマンの体を、さらに蹂躙する。
ウォーズマンの皮膚が裂け、肉が抉られる。だが、彼の心には未だ闘志が燃えさかっていた。
痛みなど、苦痛など、心を折る要因にはならない。ウォーズマンはただひたすらに、おのれが勝つ方法だけを考えていた。
(どうする……。やつは強い。俺は傷を負いすぎている。さらに、時間もない。
冷静に分析すれば、俺の勝ち目などないに等しい。だが、ゼロではない。
俺に残された全ての力を、一回の攻撃に込めれば……)
ふいに、ウォーズマンはリングサイドに置いていた自分のデイパックに手を突っ込む。
そして、そこから粒状の何かが入った小瓶を取り出した。
迷いのない手つきで小瓶の蓋を開けたウォーズマンは、取り出した中身をリング外へ放り投げる。
「……どういうつもりだ?」
いぶかしんだギュオーが思わず攻撃の手を止める中、ウォーズマンはさらにペットボトルを取り出し中の水を地面に撒く。
すると、地面から猛烈な勢いで数本の木が生えてきた。突如出現した木は、2メートルほど伸びたところで成長を止める。
そう、ウォーズマンが撒いたのは彼と同じく正義超人であるジェロニモの所持物、タムタムの木の種。
わずかな土と水さえあれば成長するこの種を、ウォーズマンはリングのすぐそばに育てたのだ。
「わけがわからん……。いったい何を考えている、ウォーズマン!」
「ふむ、この程度の水の量ではたいして伸びないか……。だが、これだけの大きさがあれば充分だろう。はあっ!」
ギュオーの問いかけを無視し、ウォーズマンはタムタムの木に向かって跳躍した。
「トリャトリャトリャトリャー!」
さらにウォーズマンは、蹴りの連射を木に浴びせる。頑丈なタムタムの木もこれには耐えられず、次々と細かく砕け散っていった。
「さっきからなんなんだ……? 死を目前にして、気でも触れたか?」
ウォーズマンの行動が何を意味するかわからず、ギュオーは怪訝な表情を浮かべる。
「あいにくだがギュオーよ、俺はいたって正常だぜー!」
ウォーズマンの奇行は、まだ終わらない。彼は適当な大きさの破片を手に取ると、手刀でそれをさらに削っていく。
やがて、ウォーズマンの手の中には8本の木串が生み出されていた。
そして彼は、その串を自分の手の甲に突き刺す。
「強度に不安はあるが……。これで即席ベアークローの完成だ」
「ベアークロー……? ああ、そうか。貴様はそんな武器を使うのだったな、ウォーズマン。
手元にない武器を、即興で再現したというわけか。まあ、そんな付け焼き刃でこの私に勝てるとはとうてい思えんがな。
さあ、来い。今度こそ引導を渡してくれる」
余裕綽々といった様子で、ウォーズマンを挑発するギュオー。それに対し、ウォーズマンは両手を高々と上げながら答える。
「言われなくてもいくさ……。そして、これで終わらせる」
『ま、まさか! あの体勢はー!』
中トトロは、ウォーズマンが何をしようとしているのか気づいた。
超人レスリングに魅せられた彼がチェックした、過去のウォーズマンの試合。
その中に、今とそっくりのシーンがあったのだ。
「俺の超人強度は100万パワー……。ベアークロー二刀流で200万パワー!」
ウォーズマンがコーナーポストを蹴り、大きく跳躍する。
「いつもの2倍のジャンプが加わって200万×2の400万パワーっ!」
空中で、ウォーズマンが改めてベアークローを構える。
「そしていつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の……」
ウォーズマンが、きりもみ回転をしながらギュオー目がけて降下を始める。
「1200万パワーだーっ!!」
一体いかなる原理なのか。高角度でリングへと突き進む漆黒の超人の体が、まばゆい光を放ち出す。
その姿は、まさに――
『あ~っと、ウォーズマンの体が1200万パワーの光の矢となったーっ!!』
そう、その勇姿は天空から放たれし聖なる矢のごとし。一本の矢と化したウォーズマンは、邪悪を滅ぼすべくギュオーに狙いを定めて前進する。
(な……なんだこれは!)
ギュオーは、大きく目を見開いて驚愕をあらわにしていた。その様子に、つい数十秒前まで満ちあふれていた余裕はまったく残っていない。
ギュオーの五感は、ことごとく警告を放っていた。あの矢に貫かれれば、自分は死ぬと。
死にかけの生物が絞り出したとは思えぬ莫大なエネルギーに、ギュオーは戦慄していた。
「ふざけるな……! 勝つのはこの私だ!」
ギュオーは雄叫びと共に、残された体力を振り絞って重力のバリアを展開する。
そのバリアに、ウォーズマンは真っ向から激突。それでも、光り輝く竜巻の勢いは止まらない。
バリアを突破すべく、ひたすらに回転を続ける。
「突破など……させてたまるかあああああ!!」
ギュオーは、こめかみの血管が切れそうなほどの気迫をバリアに込める。もはやここまで来れば、精神力が頼みの綱である。
その気迫が功を奏したのか、バリアは少しずつウォーズマンを押し返していく。
バリアと直接接している即席ベアークローはすでに過半数が折れ、腕そのものも滅茶苦茶に破壊されている。
だが、それでもウォーズマンは諦めない。
「出し惜しみなどしていられる状況ではないな……。キン肉マンよ、力を貸してくれ!
火事場の……クソ力ーっ!」
「火事場のクソ力」。その言葉を口にした瞬間、ウォーズマンから放たれる光がさらに輝きを増した。
火事場のクソ力とは、何もキン肉族王家の専売特許ではない。全ての超人、いや、全ての生き物が少なからず似たような力を持っている。
ただキン肉族王家の火事場のクソ力は、他者のそれより並はずれて発揮されるパワーが大きいというだけなのだ。
ウォーズマンもかつて、バッファローマンとの試合で一度だけ火事場のクソ力を使用していた。
だが、彼にとって火事場のクソ力とは諸刃の剣であった。
ウォーズマンの機械の体には、火事場のクソ力はあまりに負担が大きすぎるのだ。
それ故ただでさえ30分というリミットがある彼の戦闘時間が、さらに短縮されてしまう。
あまりに大きなデメリット。それを危惧してウォーズマンは、バッファローマン戦以降火事場のクソ力を封印した。
しかし彼は、ギュオーという強敵に勝つためその禁断の力を解放したのだ。
ただでさえボロボロだったウォーズマンの体は、さらなる負荷がかかったことでますます崩壊していく。
体の至る所からはスパークが起き、肩口からは黒煙が吹き出している。それでもウォーズマンは、前に進むことをやめない。
もはや彼は、己の命を捨てることすら覚悟していた。たとえ自分の命と引き替えにしてでも、ギュオーは倒さなければならない。
ウォーズマンは、ギュオーをそれほどまでの脅威と認識していたのだ。
「うおおおおおお!!」
気合いの雄叫びをあげながら、ウォーズマンはバリアに突っ込み続ける。
限界を超えた即席のベアークローが、砕け散る。さらに指が、手が、吹き飛んでいく。
それでもなお、ウォーズマンは止まらない。
「両手がなくとも、スクリュードライバーは決められるわー!!」
先端を失った両腕で、ウォーズマンはバリアに挑み続ける。そして、その執念はついに結果を引き寄せた。
傷つき回路と骨と肉とがむき出しになった腕が、バリアを突き抜けたのだ。
それに続き胴が、脚が、バリアの向こう側へと抜けていく。
「ば、馬鹿な! 私のバリアがこんなやつに……!」
最後の砦を突破され、もはやギュオーになすすべはない。
立ちすくむ彼の頭上から、光に包まれた正義の鉄槌が振り下ろされる。
勝った。ウォーズマンは、心の中でそう確信していた。
だが、現実は非情である。
『あーっと! なんということだー! ウォーズマンの決死の一撃は、ギュオーの肩を抉っただけだー!!』
あまりにも強大なバリアとの激突。それはスクリュードライバーの軌道を大幅にずらしていた。
そのために心臓を狙った一撃は大きく狙いを外し、ギュオーの肩に命中することになったのである。
「はーっはっはっは! 自慢のコンピューターも最後の最後で計算が狂ったようだな!」
勝利の高笑いと共に、ギュオーは右の拳をウォーズマンの腹に叩き込む。
すでに裂傷だらけだったウォーズマンの体は、拳の侵入を易々と許してしまう。
拳は勢いそのままに背骨を粉砕し、背中から飛び出した。
「さんざん苦しめてくれたが……。勝ったのはこの私! リヒャルト・ギュオーだ!」
ウォーズマンを貫いた腕を、ギュオーは乱暴に振り回す。
もはやぴくりとも動かぬウォーズマンの体は勢いに吹き飛ばされ、天井に設置されたケージの中に叩き込まれた。
神社リング・シールデスマッチ
勝者:リヒャルト・ギュオー
◇ ◇ ◇
終わったなあ……。
戦いが終わったリングの上で、僕は試合の余韻に浸っていた。
ギュオーは禁止エリアが解除されるとすぐに、ウォーズマンの荷物を回収だけして大急ぎで走り去っていった。
あいつの身体能力なら、F-5そのものが禁止エリアになる前に脱出できるだろう。
まあ、途中で力尽きなければだけど。さっきの戦いで、ギュオーもほとんど体力を使い切ったはずだからね。
さて、あと2分か……。時刻を確認して、僕は小さく溜め息を漏らしていた。
あと2分で、19時。ここが禁止エリアとなる。そうなれば、檻の中で眠っているウォーズマンの亡骸もスープになってしまう。
僕としては偉大なる超人レスラーの死体ぐらいは残してあげたいんだけど、それは叶わぬ願いだ。
僕の小さな体じゃ、彼の体をタイムリミットまでにエリアの外まで運ぶなんて出来やしない。
僕はもう一度溜め息を漏らす。
その時だった。僕の頭上から、ガタリと物音が響いたのは。
え……?
僕は、自分の目を疑った。てっきり死んだと思っていたウォーズマンが、動いていたのだ。
彼はケージから出ようと、無惨に傷ついた体を閉じた出入り口にぶつけていた。
たしかにもう試合は終わっているのだから、彼がケージから出ても何ら問題はない。
だけど、出たところでどうにもならない。あと2分……いや、1分半でエリア外まで移動するなんでいくら超人でも不可能だ。
たとえ移動できたとして、それからどうする。両手を失い、腹に穴まで開けられた体で、この先のバトルロワイアルを生き抜いていけるわけがない。
そんなこと、ウォーズマンほどの超人ならわかっているはずだ。なのに、なんで。
『どうして君は、こんな絶望的な状況でも諦めないの?』
思わず、僕はそんなことを書いたプラカードを掲げていた。
それにウォーズマンは気づいてくれたらしく、生と死の狭間にいるにもかかわらず答えを返してきた。
「悪に敗れ……ただそのまま黙って倒れているやつなど正義超人とは言えん!
たとえ生き残る可能性が0.1%だろうと、悪に屈せず最後まで戦い続ける。
それが……正義超人だろう!!」
僕に向かってそう叫んだウォーズマンは、ボロボロの体だというのにすごく格好良く見えた。
ウォーズマンは、なおもケージに体当たりを続ける。
けど、神様は彼にこれ以上の奇跡をもたらしてはくれなかった。やがて、時計が19時を示す。
『警告。ウォーズマンの指定範囲外地域への侵入を確認。
一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る。
繰り返す―――』
首輪から流れる無機質な音声が、ウォーズマンに警告を与える。
でもウォーズマンはそれを気にも留めず、一心不乱にあがき続ける。
まるで、自分が生き残ることを微塵も疑っていないかのように。
だけど、現実っていうのはそう上手くいかないものだ。
警告音声が流れ始めてから、きっかり一分後。ウォーズマンの体は、スープとなって溶けた。
それは数々の激闘を戦い抜いてきた伝説超人としては、あまりに静かであっけない最期だった。
もう、ファイティングコンピューターはこの世にいない。だけど、僕は彼のことを忘れない。
彼の最期を見届けた唯一の存在として、僕はずっと彼のことを覚えていよう。
この中トトロが、ウォーズマンという勇気ある超人が生きたという証人だ。
本拠地へ帰還する僕の肩には、黒く輝く金属片が担がれていた。
試合中に砕け散った、ウォーズマンの仮面の破片だ。
これを持ち帰ることに、深い意味はない。
ただ、ウォーズマンを弔うために形のあるものが欲しかった。それだけの話だ。
◆ ◆ ◆
LCLとなりその命を散らす寸前、ウォーズマンは幻を見た。
それは己が伝授した秘技「OLAP」で万太郎を破り、チャンピオンベルトを手にする愛弟子・ケビンマスクの姿だった。
その光景はウォーズマンの願望が見せた、単なる幻覚だったのか。
あるいは運命の女神が気まぐれで見せた、未来の光景だったのか。
それを知る者は、誰もいない。
&color(red){【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ 死亡】}
&color(red){【残り24人】}
【F-5周辺/一日目・夜】
【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、 毒入りカプセル×4@現実、
博物館のパンフ 、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー 、
クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、
ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品0~1
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。
※ギュオーがどの方向に向かったかは、次の書き手さんにお任せします
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[なるか脱出!? 神社の罠(後編) ]]|リヒャルト・ギュオー|[[]]|
|~|ウォーズマン|&color(red){GAME OVER}|
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*カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw
F-5。この地に存在した神社は、今はリングへと姿を変えていた。
そしてそのリング上では現在、漆黒の姿を持つ戦士と漆黒の魂を持つ戦士が死闘を繰り広げている。
正義超人ウォーズマンと、獣神将リヒャルト・ギュオーである。
◇ ◇ ◇
「フハハハハハ!! どうした、ウォーズマン! このリングの上こそが、貴様のホームグラウンドではなかったのか!」
「クッ……」
序盤、試合のペースを握ったのはギュオーだった。彼は遠距離から重力指弾を連発し、ウォーズマンを近づけさせないという戦法を取ったのである。
超人レスラーとしてはオーソドックスなタイプであるウォーズマンは、遠距離から攻撃する術を持たない。
また威力よりも連射性を重視して出力を抑えているとはいえ、ギュオーの重力指弾はそれなりの威力。
被弾覚悟で無理に近づいて接近戦に持ち込むのも、得策とは言えない。
すなわち、現状ウォーズマンは手詰まりと言える状況であった。
しかしウォーズマンとて、「ファイティング・コンピューター」と呼ばれた男。いつまでも自分が不利な状況に甘んじているわけがない。
彼の明晰な頭脳は、すでにこの戦況の打開策を導き出していた。
(ロビンマスク……。あなたの策を使わせてもらうぞ!)
敬愛する師匠の教えを脳内に再生させながら、ウォーズマンは脚に込める力を強める。
そして、ある軌道に沿って走り始めた。
「ロビン戦法、円は直線を包む!」
「何ぃっ!」
『あーっと! ウォーズマン、ギュオーの周囲をグルグルと回り始めたー!』
そう、中トトロの解説の通り、ウォーズマンはギュオーを中心に円を描くようにして走っているのだ。
狙いを定めることが出来ず、ギュオーはわずかに狼狽の色を顔に浮かべる。
「ええい! この程度で私をかく乱できると思ったか!」
それでもギュオーは、すぐさま冷静さを取り戻す。だがそれまでのわずかな隙があれば、ウォーズマンが反撃の口火を切るのには充分であった。
『ウォーズマン、回転運動からドロップキックに移行だー! ギュオー、避けられない!
ウォーズマンの両足がギュオーの胸板を捉えるー!』
ドロップキックの直撃をくらい、よろけるギュオー。そこにウォーズマンは、ナックルの連打を叩き込む。
『いった、いった、ウォーズマンがいったー!!』
興奮気味に中トトロがプラカードを掲げるが、いつまでもこんなワンサイドゲームを許すほどギュオーも貧弱な存在ではない。
「調子に乗るな!」
拳の雨の合間を縫い、ギュオーはおのれの右脚を振るってウォーズマンの左脚に叩きつけた。
その一撃でバランスを崩したウォーズマンに、さらに右の拳が叩き込まれる。
「グムッ!」
短い声と同時に、ウォーズマンの体が後方へと吹き飛ばされる。だが彼はすぐさま体勢を立て直し、両の足でマットを踏みしめた。
(なるほど……。やはり重力波による攻撃だけが頼りというわけではないか……。
肉弾戦だけに限定しても、おそらくバッファローマンレベルかそれ以上のパワー……。
正面からやり合っても分が悪いだろうな……)
攻撃を受けた箇所からは、強い痛みが発せられている。だがウォーズマンはその痛みに取り乱すことなく、冷静にギュオーの強さを測る物差しへと変える。
「何をぼさっとしているのだ! まだまだ決着はついていないぞ!」
分析を進めるウォーズマンに、ギュオーの重力指弾が襲いかかる。
だがウォーズマンは、大きく跳躍してそれを回避。
距離が空いたといっても、その距離は先程までと比べれば微々たるもの。
一回の跳躍で簡単に肉薄できる程度の間だ。
空中で大きく開脚したウォーズマンは、その脚でギュオーの顔を挟み込む。
そして体のひねりを利用して、ギュオーの巨体を投げ飛ばした。
『メキシコ殺法、コルバタが炸裂ーっ! しかしギュオー、平然と立ち上がります!』
「くだらん。こんなちゃちな投げ技で、私を倒せると思ったか!」
余裕の笑みさえ浮かべながら立ち上がったギュオーは、すぐさま反撃に移る。
しかしウォーズマンはその攻撃を軽々と回避し、逆にフロントスープレックスでギュオーを投げ飛ばした。
さらに、ウォーズマンの攻撃は止まらない。
『ボディースラム! サイドスープレックス! 一本背負い! ウォーズマンの投げ技が次々とギュオーに炸裂するー!』
しかしウォーズマンの猛攻も、ギュオーに致命的なダメージを与えるにはいたらない。
「効かぬと言っているのがわからんのか!」
連劇の隙を突き、ギュオーが再び攻勢に出る。
だがウォーズマンもギュオーの猛攻をしのぎつつ、打撃を繰り出しギュオーの手足にダメージを蓄積させていく。
「その程度か、ウォーズマン! そんな蚊の刺したような攻撃で、私に勝とうとは片腹痛いわ!」
自らの優勢を確信し、ギュオーは吠える。だが、ウォーズマンは焦らない。
なぜなら、ここまでの展開は全て彼の計算通りだからだ。
超人レスリングは、ただ大技を連発すればいいというものではない。
どんなに強力な必殺技も、相手が万全の状態では強い抵抗を受けその威力を最大限に発揮することは出来ない。
まずは小技を多用して相手の体力を削り、ここ一番でフィニッシュホールドを繰り出す。
これこそが超人レスリングの常道である。
今、ウォーズマンはそれを忠実に実践していた。すなわち一撃でギュオーを倒そうとするのではなく、ギュオーを消耗させることに専念しているのである。
だが、口で言うほどそれは簡単ではない。
ギュオーの攻撃力は、ウォーズマンを優に上回る。当たり所が悪ければ、一撃でK.Oもありうるだろう。
敵の体力を削りきる前に自分の体力が尽きてしまったのでは、笑い話にもならない。
相手の攻撃は直撃を許さず、こちらの攻撃は確実に当てる。それは技術的も精神的にも、非常に困難な戦略である。
しかし、ウォーズマンなら可能だ。正確無比なコンピューターの頭脳と、百戦錬磨の経験を併せ持つウォーズマンなら。
とは言っても、相手はこのバトルロワイアル内で屈指の戦闘力を持つギュオー。
一瞬の判断ミスがすぐさま敗北に繋がる、ウォーズマンの能力を持ってしても薄氷を踏むような戦いである。
だが、今のところ致命的なミスはない。ギュオーが圧倒しているように見えて、実際に場を支配しているのはウォーズマンである。
『あーっと! ギュオーの一瞬の隙を突いて、ウォーズマンがギュオーの首を捉えたー!
そして、すぐさまフロントネック・チャンスリー・ドロップー!』
「ぐおっ!」
マットに叩きつけられ間の抜けた声を漏らすギュオーだが、すぐさま体勢を立て直して距離を取る。
だがウォーズマンもすぐさま距離を詰め、遠距離戦に持ち込むことを許さない。
(おのれ、たいした攻撃もできんくせにしぶといやつだ……。残された時間は決して多くないというのに!)
ギュオーは焦りを感じつつあった。このデスマッチには、偶然の産物とはいえ制限時間がもうけられている。
神社のあるF-5が禁止エリアに指定される19時までの間に決着がつかなければ、二人揃ってLCL化という結末が待っているのである。
いや、別のエリアに移動する時間を考えれば、試合時間はさらに短縮しなければならない。
戦いに勝ったのに死ぬなどという、間抜けな結末を迎えるのはごめんである。
(これ以上時間を浪費してたまるか……。プロレスごっこに付き合うのはもうおしまいだ!)
決着を急ぐギュオーは、拳を大きく振りかぶる。だがそれは、ウォーズマンに対してみせるにはあまりに大きな隙だった。
「もらった! マッハパルバライザー!」
ここぞとばかりに、ウォーズマンは温存していた大技を繰り出す。
高速回転しながらの突進により両の腕で相手の体を穿つ打撃技、マッハパルバライザー。
至近距離からの発動ゆえ充分に加速できず威力は半減しているが、カウンターで放ったがゆえにそれでも破壊力は充分。
「ぬあああああ!!」
攻撃のことしか考えていなかったためにバリアを張ることもままならず、胸を抉られたギュオーは苦悶の声をあげる。
(さあ、ここからは反撃の時間だ……。一気に勝負を決めさせてもらうぞ、ギュオー!)
痛みがギュオーを硬直させている間に、ウォーズマンは股抜きスライディングで相手の背後に廻る。
そしておのれの両手両足を全て使い、ギュオーの四肢をホールドした。
『こ、これはー! ウォーズマンの伝家の宝刀! 超人界の名門・ロビン一族に代々伝えられてきたとされる至高のサブミッション!
パ ロ ・ ス ペ シ ャ ル だ ー!!』
興奮気味の中トトロの前で、ウォーズマンは容赦なく両手両足に込める力を強めていく。
「貴様相手に、ギブアップに追い込もうなどという中途半端な心構えは命取りになる。
ギュオー、貴様の手足を破壊させてもらうぞ!」
『パロ・スペシャルが、さらにギュオーの体に食い込んでいくー! これはウォーズマンの勝利も時間の問題かー!』
「脱出しようとしても無駄だぞ。このパロ・スペシャルは、別名『アリ地獄ホールド』と呼ばれている。
抜け出そうともがけばもがくほど、技はさらに極まっていくのだ!」
ウォーズマンの言葉を証明するように、彼の手足はさらにギュオーの体を締め付けていく。
だがこの状況においても、ギュオーはその表情に余裕を残していた。
「ククク……。アリ地獄ホールドだと?」
「なんだ……。何がおかしい!」
「アリ地獄にかかったのは貴様の方なのだよ、ウォーズマン!」
「何を言って……」
ウォーズマンがギュオーの言葉に異を唱えようとした、その瞬間。彼の体は、急激な圧力の増加により木の葉の如く吹き飛ばされていた。
「ハーハッハッハ! 私が重力使いであることを忘れていたのか?
重力指弾だけが私の技ではない! 自分を中心に、重力波を全方位へ放射することも可能なのだ!
相手に密着する技を選んだのが、貴様のミスよ!」
自らの技で大きく変形したリングの上で高笑いをしてみせるギュオーだが、その息は荒い。
自分にかかる負担も大きい技を使用したのだから、それも当然のことである。
だが、ウォーズマンのダメージはそれ以上に深刻だった。
ロープが絡まってリングアウトは避けられたが、それが些細に思えるほどの重傷だ。
至近距離から避けることも出来ずに重力波を受けたせいで、ダメージは全身に及んでいる。
そしてダメージで破損した機械部分が皮膚を突き破り、血とオイルを吹き出させていた。
超人としての驚異的な生命力がなければ、とうに死んでいておかしくないほどの状態である。
一撃。たった一回の攻撃で、ギュオーはウォーズマンの体をここまで破壊したのだ。
(くそっ、俺としたことが……。やつの実力を把握しきれていなかった……。まだ仕掛けるには早かったのか……!)
どうにか体を起こすウォーズマンの脳内には、後悔が渦巻いていた。
一瞬の判断ミスが命取りになることは、十分に理解していたはずだった。
だというのに、そのミスを犯してしまったのだ。全ては、ギュオーという男の器を計り損ねた自分の責任だ。
(だが……! まだ勝負は決していない! 正義超人が、悪に屈してたまるか!)
きしむ体を引きずり、ウォーズマンは改めてギュオーの前に立つ。
その体からは、未だ勝利を諦めぬ気迫の炎がみなぎっていた。
だがそんなウォーズマンの姿も、ギュオーの目には滑稽としか映らない。
「哀れだな、ウォーズマン。それほどの深手を負って、まだ私に勝てるとでも思っているのか。
ならばこの私が直々に引導を渡し、そのわずかな希望を粉砕してくれる!」
醜悪な笑いを浮かべながら、ギュオーはウォーズマンに殴りかかる。
その拳を回避しようとするウォーズマンだが、脚へのダメージが回避運動を遅れさせる。
『あーっと! ギュオーの豪拳が、ウォーズマンの顔面に直撃ーっ!
ボロボロのウォーズマンに、これはきつい! 勝負が決まってしまったかー!』
プラカードを掲げる中トトロの顔に、汗が浮かぶ。だが彼の予想とは裏腹に、ウォーズマンはギュオーの拳を受けてもしっかりと立っていた。
その代わり、その一撃はウォーズマンの象徴たるものを葬り去っていた。
ウォーズマンの顔面を覆う、漆黒の仮面。先程の重力波ですでにヒビが入っていたそれが、完全に粉砕されたのである。
「ほう……」
あらわになったウォーズマンの顔を、ギュオーはまじまじと見つめる。その顔に浮かぶのは、侮蔑という感情だ。
ひときわ目をひく、作り物めいた眼球。むき出しの基盤。密集した機械の中に組み込まれた、赤い筋肉。
ギュオーが目撃したウォーズマンの素顔は、目にしたものが十中八九嫌悪感を示すであろうグロテスクなものだった。
「なるほどな。貴様の仮面は、その醜悪な素顔を隠すためのものだったか」
「ああ、否定はしない」
嘲りの色を多分に含んだギュオーの言葉に、ウォーズマンは淡々とした口調で答える。
「たしかに俺が仮面を付けたのは、醜い素顔を衆目に晒すのがいやだったからだ。
俺は自分の素顔を疎み、幼い頃からずっと素顔を隠して生きてきた。
だが今となっては、俺の仮面はただ素顔を隠すためのものではない。
貴様が砕いた仮面は、伝説超人(レジェンド)ウォーズマンとしての誇り。
長年身につけて悪と戦ってきた、俺の体の一部だ。それを破壊したつけ、ただで済むと思うな!」
咆吼と共に、ウォーズマンは跳躍。ギュオーの顔面目がけ、跳び蹴りを放つ。
だがそのキックは、ギュオーの腕にあっさり防がれてしまった。
「貧弱だなあ、ウォーズマン! こんな蹴りでは、私を殺すのに100年かかるぞ!」
自信に満ちたセリフとともに、ギュオーは空中のウォーズマンに対し空いた片腕から重力指弾を飛ばす。
宙を滑る重力の弾丸は吸い込まれるようにウォーズマンに命中し、その体をはじき飛ばした。
「終わったな……」
勝利を確信したギュオーは、余裕の笑みをその顔に浮かべる。だが、その笑みはすぐに消え去る。
マットに伏したウォーズマンが、すぐさま立ち上がったのだ。
「終わっただと? 何を言っているのだ、ギュオー。貴様の相手は、こうして貴様の目の前に立っているではないか」
「貴様ぁ……」
今にも息絶えそうな無惨な姿でありながら、飄々とした台詞を吐くウォーズマン。
その態度は、ギュオーの怒りを掻き立てる。
「なぜだ! 貴様はもう、立っているのがやっとのダメージのはず。なのになぜ、そんななめた口がきける!」
激情のままに、ギュオーはウォーズマンへ幾度も拳を振るう。だが、ウォーズマンはボロボロの腕を盾にしてその拳を受け止める。
そのたびに彼の腕はさらに傷つき、赤い液体と黒い液体が飛び散る。それでも、ウォーズマンは一切苦痛を表に出さない。
「なぜ、か……。偉大なる正義超人の先人は、こんな言葉を残している。
『常識では計り知れない奇跡を起こすのも、ひとえに正義のなせる業だ』とな。
俺の心に正義がある限り、そう簡単に俺は倒れない。まあ、これは奇跡というほどのことでもないかもしれんがな」
それにあいつが起こす奇跡は、こんなものじゃない。
戦友のひょうきんな顔を思い描きながら、ウォーズマンは反撃のミドルキックをギュオーに叩き込む。
ギュオーの顔がわずかに歪むが、すぐにそれは憤怒に飲み込まれる。
「死にかけがえらそうに……! ならばその奇跡とやらで、このリヒャルト・ギュオーを倒してみるがいい!
出来るはずもないがなあ!」
ギュオーの放った重力波が、今一度ウォーズマンの体を吹き飛ばす。
抵抗も出来ぬまま宙を舞ったウォーズマンは、コーナーポストに叩きつけられマットに沈んだ。
「これはおまけだ!」
さらにギュオーは、重力指弾を連射。グロッキー状態のウォーズマンの体を、さらに蹂躙する。
ウォーズマンの皮膚が裂け、肉が抉られる。だが、彼の心には未だ闘志が燃えさかっていた。
痛みなど、苦痛など、心を折る要因にはならない。ウォーズマンはただひたすらに、おのれが勝つ方法だけを考えていた。
(どうする……。やつは強い。俺は傷を負いすぎている。さらに、時間もない。
冷静に分析すれば、俺の勝ち目などないに等しい。だが、ゼロではない。
俺に残された全ての力を、一回の攻撃に込めれば……)
ふいに、ウォーズマンはリングサイドに置いていた自分のデイパックに手を突っ込む。
そして、そこから粒状の何かが入った小瓶を取り出した。
迷いのない手つきで小瓶の蓋を開けたウォーズマンは、取り出した中身をリング外へ放り投げる。
「……どういうつもりだ?」
いぶかしんだギュオーが思わず攻撃の手を止める中、ウォーズマンはさらにペットボトルを取り出し中の水を地面に撒く。
すると、地面から猛烈な勢いで数本の木が生えてきた。突如出現した木は、2メートルほど伸びたところで成長を止める。
そう、ウォーズマンが撒いたのは彼と同じく正義超人であるジェロニモの所持物、タムタムの木の種。
わずかな土と水さえあれば成長するこの種を、ウォーズマンはリングのすぐそばに育てたのだ。
「わけがわからん……。いったい何を考えている、ウォーズマン!」
「ふむ、この程度の水の量ではたいして伸びないか……。だが、これだけの大きさがあれば充分だろう。はあっ!」
ギュオーの問いかけを無視し、ウォーズマンはタムタムの木に向かって跳躍した。
「トリャトリャトリャトリャー!」
さらにウォーズマンは、蹴りの連射を木に浴びせる。頑丈なタムタムの木もこれには耐えられず、次々と細かく砕け散っていった。
「さっきからなんなんだ……? 死を目前にして、気でも触れたか?」
ウォーズマンの行動が何を意味するかわからず、ギュオーは怪訝な表情を浮かべる。
「あいにくだがギュオーよ、俺はいたって正常だぜー!」
ウォーズマンの奇行は、まだ終わらない。彼は適当な大きさの破片を手に取ると、手刀でそれをさらに削っていく。
やがて、ウォーズマンの手の中には8本の木串が生み出されていた。
そして彼は、その串を自分の手の甲に突き刺す。
「強度に不安はあるが……。これで即席ベアークローの完成だ」
「ベアークロー……? ああ、そうか。貴様はそんな武器を使うのだったな、ウォーズマン。
手元にない武器を、即興で再現したというわけか。まあ、そんな付け焼き刃でこの私に勝てるとはとうてい思えんがな。
さあ、来い。今度こそ引導を渡してくれる」
余裕綽々といった様子で、ウォーズマンを挑発するギュオー。それに対し、ウォーズマンは両手を高々と上げながら答える。
「言われなくてもいくさ……。そして、これで終わらせる」
『ま、まさか! あの体勢はー!』
中トトロは、ウォーズマンが何をしようとしているのか気づいた。
超人レスリングに魅せられた彼がチェックした、過去のウォーズマンの試合。
その中に、今とそっくりのシーンがあったのだ。
「俺の超人強度は100万パワー……。ベアークロー二刀流で200万パワー!」
ウォーズマンがコーナーポストを蹴り、大きく跳躍する。
「いつもの2倍のジャンプが加わって200万×2の400万パワーっ!」
空中で、ウォーズマンが改めてベアークローを構える。
「そしていつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の……」
ウォーズマンが、きりもみ回転をしながらギュオー目がけて降下を始める。
「1200万パワーだーっ!!」
一体いかなる原理なのか。高角度でリングへと突き進む漆黒の超人の体が、まばゆい光を放ち出す。
その姿は、まさに――
『あ~っと、ウォーズマンの体が1200万パワーの光の矢となったーっ!!』
そう、その勇姿は天空から放たれし聖なる矢のごとし。一本の矢と化したウォーズマンは、邪悪を滅ぼすべくギュオーに狙いを定めて前進する。
(な……なんだこれは!)
ギュオーは、大きく目を見開いて驚愕をあらわにしていた。その様子に、つい数十秒前まで満ちあふれていた余裕はまったく残っていない。
ギュオーの五感は、ことごとく警告を放っていた。あの矢に貫かれれば、自分は死ぬと。
死にかけの生物が絞り出したとは思えぬ莫大なエネルギーに、ギュオーは戦慄していた。
「ふざけるな……! 勝つのはこの私だ!」
ギュオーは雄叫びと共に、残された体力を振り絞って重力のバリアを展開する。
そのバリアに、ウォーズマンは真っ向から激突。それでも、光り輝く竜巻の勢いは止まらない。
バリアを突破すべく、ひたすらに回転を続ける。
「突破など……させてたまるかあああああ!!」
ギュオーは、こめかみの血管が切れそうなほどの気迫をバリアに込める。もはやここまで来れば、精神力が頼みの綱である。
その気迫が功を奏したのか、バリアは少しずつウォーズマンを押し返していく。
バリアと直接接している即席ベアークローはすでに過半数が折れ、腕そのものも滅茶苦茶に破壊されている。
だが、それでもウォーズマンは諦めない。
「出し惜しみなどしていられる状況ではないな……。キン肉マンよ、力を貸してくれ!
火事場の……クソ力ーっ!」
「火事場のクソ力」。その言葉を口にした瞬間、ウォーズマンから放たれる光がさらに輝きを増した。
火事場のクソ力とは、何もキン肉族王家の専売特許ではない。全ての超人、いや、全ての生き物が少なからず似たような力を持っている。
ただキン肉族王家の火事場のクソ力は、他者のそれより並はずれて発揮されるパワーが大きいというだけなのだ。
ウォーズマンもかつて、バッファローマンとの試合で一度だけ火事場のクソ力を使用していた。
だが、彼にとって火事場のクソ力とは諸刃の剣であった。
ウォーズマンの機械の体には、火事場のクソ力はあまりに負担が大きすぎるのだ。
それ故ただでさえ30分というリミットがある彼の戦闘時間が、さらに短縮されてしまう。
あまりに大きなデメリット。それを危惧してウォーズマンは、バッファローマン戦以降火事場のクソ力を封印した。
しかし彼は、ギュオーという強敵に勝つためその禁断の力を解放したのだ。
ただでさえボロボロだったウォーズマンの体は、さらなる負荷がかかったことでますます崩壊していく。
体の至る所からはスパークが起き、肩口からは黒煙が吹き出している。それでもウォーズマンは、前に進むことをやめない。
もはや彼は、己の命を捨てることすら覚悟していた。たとえ自分の命と引き替えにしてでも、ギュオーは倒さなければならない。
ウォーズマンは、ギュオーをそれほどまでの脅威と認識していたのだ。
「うおおおおおお!!」
気合いの雄叫びをあげながら、ウォーズマンはバリアに突っ込み続ける。
限界を超えた即席のベアークローが、砕け散る。さらに指が、手が、吹き飛んでいく。
それでもなお、ウォーズマンは止まらない。
「両手がなくとも、スクリュードライバーは決められるわー!!」
先端を失った両腕で、ウォーズマンはバリアに挑み続ける。そして、その執念はついに結果を引き寄せた。
傷つき回路と骨と肉とがむき出しになった腕が、バリアを突き抜けたのだ。
それに続き胴が、脚が、バリアの向こう側へと抜けていく。
「ば、馬鹿な! 私のバリアがこんなやつに……!」
最後の砦を突破され、もはやギュオーになすすべはない。
立ちすくむ彼の頭上から、光に包まれた正義の鉄槌が振り下ろされる。
勝った。ウォーズマンは、心の中でそう確信していた。
だが、現実は非情である。
『あーっと! なんということだー! ウォーズマンの決死の一撃は、ギュオーの肩を抉っただけだー!!』
あまりにも強大なバリアとの激突。それはスクリュードライバーの軌道を大幅にずらしていた。
そのために心臓を狙った一撃は大きく狙いを外し、ギュオーの肩に命中することになったのである。
「はーっはっはっは! 自慢のコンピューターも最後の最後で計算が狂ったようだな!」
勝利の高笑いと共に、ギュオーは右の拳をウォーズマンの腹に叩き込む。
すでに裂傷だらけだったウォーズマンの体は、拳の侵入を易々と許してしまう。
拳は勢いそのままに背骨を粉砕し、背中から飛び出した。
「さんざん苦しめてくれたが……。勝ったのはこの私! リヒャルト・ギュオーだ!」
ウォーズマンを貫いた腕を、ギュオーは乱暴に振り回す。
もはやぴくりとも動かぬウォーズマンの体は勢いに吹き飛ばされ、天井に設置されたケージの中に叩き込まれた。
神社リング・シールデスマッチ
勝者:リヒャルト・ギュオー
◇ ◇ ◇
終わったなあ……。
戦いが終わったリングの上で、僕は試合の余韻に浸っていた。
ギュオーは禁止エリアが解除されるとすぐに、ウォーズマンの荷物を回収だけして大急ぎで走り去っていった。
あいつの身体能力なら、F-5そのものが禁止エリアになる前に脱出できるだろう。
まあ、途中で力尽きなければだけど。さっきの戦いで、ギュオーもほとんど体力を使い切ったはずだからね。
さて、あと2分か……。時刻を確認して、僕は小さく溜め息を漏らしていた。
あと2分で、19時。ここが禁止エリアとなる。そうなれば、檻の中で眠っているウォーズマンの亡骸もスープになってしまう。
僕としては偉大なる超人レスラーの死体ぐらいは残してあげたいんだけど、それは叶わぬ願いだ。
僕の小さな体じゃ、彼の体をタイムリミットまでにエリアの外まで運ぶなんて出来やしない。
僕はもう一度溜め息を漏らす。
その時だった。僕の頭上から、ガタリと物音が響いたのは。
え……?
僕は、自分の目を疑った。てっきり死んだと思っていたウォーズマンが、動いていたのだ。
彼はケージから出ようと、無惨に傷ついた体を閉じた出入り口にぶつけていた。
たしかにもう試合は終わっているのだから、彼がケージから出ても何ら問題はない。
だけど、出たところでどうにもならない。あと2分……いや、1分半でエリア外まで移動するなんでいくら超人でも不可能だ。
たとえ移動できたとして、それからどうする。両手を失い、腹に穴まで開けられた体で、この先のバトルロワイアルを生き抜いていけるわけがない。
そんなこと、ウォーズマンほどの超人ならわかっているはずだ。なのに、なんで。
『どうして君は、こんな絶望的な状況でも諦めないの?』
思わず、僕はそんなことを書いたプラカードを掲げていた。
それにウォーズマンは気づいてくれたらしく、生と死の狭間にいるにもかかわらず答えを返してきた。
「悪に敗れ……ただそのまま黙って倒れているやつなど正義超人とは言えん!
たとえ生き残る可能性が0.1%だろうと、悪に屈せず最後まで戦い続ける。
それが……正義超人だろう!!」
僕に向かってそう叫んだウォーズマンは、ボロボロの体だというのにすごく格好良く見えた。
ウォーズマンは、なおもケージに体当たりを続ける。
けど、神様は彼にこれ以上の奇跡をもたらしてはくれなかった。やがて、時計が19時を示す。
『警告。ウォーズマンの指定範囲外地域への侵入を確認。
一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る。
繰り返す―――』
首輪から流れる無機質な音声が、ウォーズマンに警告を与える。
でもウォーズマンはそれを気にも留めず、一心不乱にあがき続ける。
まるで、自分が生き残ることを微塵も疑っていないかのように。
だけど、現実っていうのはそう上手くいかないものだ。
警告音声が流れ始めてから、きっかり一分後。ウォーズマンの体は、スープとなって溶けた。
それは数々の激闘を戦い抜いてきた伝説超人としては、あまりに静かであっけない最期だった。
もう、ファイティングコンピューターはこの世にいない。だけど、僕は彼のことを忘れない。
彼の最期を見届けた唯一の存在として、僕はずっと彼のことを覚えていよう。
この中トトロが、ウォーズマンという勇気ある超人が生きたという証人だ。
本拠地へ帰還する僕の肩には、黒く輝く金属片が担がれていた。
試合中に砕け散った、ウォーズマンの仮面の破片だ。
これを持ち帰ることに、深い意味はない。
ただ、ウォーズマンを弔うために形のあるものが欲しかった。それだけの話だ。
◆ ◆ ◆
LCLとなりその命を散らす寸前、ウォーズマンは幻を見た。
それは己が伝授した秘技「OLAP」で万太郎を破り、チャンピオンベルトを手にする愛弟子・ケビンマスクの姿だった。
その光景はウォーズマンの願望が見せた、単なる幻覚だったのか。
あるいは運命の女神が気まぐれで見せた、未来の光景だったのか。
それを知る者は、誰もいない。
&color(red){【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ 死亡】}
&color(red){【残り24人】}
【F-5周辺/一日目・夜】
【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、 毒入りカプセル×4@現実、
博物館のパンフ 、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー 、
クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、
ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品0~1
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。
※ギュオーがどの方向に向かったかは、次の書き手さんにお任せします
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|~|ウォーズマン|&color(red){GAME OVER}|
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