「鎧袖一触~鎧の端の心に触れろ~」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「鎧袖一触~鎧の端の心に触れろ~」(2010/03/13 (土) 21:02:25) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*鎧袖一触~鎧の端の心に触れろ~ ◆2XEqsKa.CM
さわわっと、夜風が草根を分けそよぐ。
草原に群ぐ雑草たちが、陽光の名残を惜しんでさんざめき。
明日の我が身を鑑みることもなく、ただただ光を求めて揺れる刹那草。
この殺人ゲームを模すかのように、今を生き足掻いていて美しい。
そんな草叢を掻き分け、夜闇に熔けて強殖装甲が駆ける。
草原を、抜ける。次なるフィールドは水辺。強化された脚力で泥底を踏みしめたその瞬間。
異形が、割れる。甲殻を思わせる鎧が弾けるように外れ、"中身"が露出していく。
泥と藻に足を取られ、"中身"は転倒した。押し寄せる水に、全身が翻弄される。
熱を、寒気を、怖気を、良識を、後悔を、内外あらゆる障害物を排除し、装着者を守ってきた鎧が、今はもうない。
そうして"中身"は無防備だった。肉体はもちろん、精神すらも、磨耗しきっていた。
辛うじてそんな"中身"に存在意義と存在理由を与えていた強殖装甲。
無機質なそれは、自己を否定する者に恩恵を与える情など持ち合わせない。
不幸と失態の果てに、全てを拒絶した"中身"は。
遂に、己の『根』をも手放しつつあった。
「う……ごおええええ!!! ごえええええ!!! 」
嘔、吐。黄色じみた血の混ざった吐瀉物が、水面を汚して広がって。
たった今まで仮面に覆われていた顔からは苦痛しか読み取れない。
体内の全ての水分を吐き出した、と思えるほどの穢れを垂れ流しながら、"中身"は泣いていた。
「――――●∴→!! φ〆!!!」
のたうちまわり、仰向けになった"中身"が激しく痙攣しながら声にもならない雄叫びを飛ばす。ズキン、ズキン。
はて、"中身"の頭にズキン、と響くもの。それは痛み? 心の痛み? いや、"中身"の心は既に痛みを感じない。
何故なら"中身"は壊れているから。この場の仲間を見捨て、この場の肉親を見捨て、日常へ戻る事だけを求めてきた。
そう、"中身"はその実最初から――この島に降りたった瞬間から、その為だけに生き、殺してきたのだ。
.....
(そうだ……俺は、最初に何をした!?)
気付いた。"中身"は、自分の『根』に、今始めて目を向けた。
この殺し合いの舞台に落とされ、"中身"が最初にとった行動。
それは、他者の身を案じる事ではなく、自分の武器の確認だった。
(SOS団の仲間を救う? その為にハルヒとここで仲良くなった奴を殺して長門の親玉を満足させる!?
うっかりハルヒを殺しちまって、ええと次は何だっけ? そうそう、長門に皆を生き返らせてもらって、
都合よく記憶を消してもらって万々歳! ああ、そんな感じだったそんな感じだった、俺の思考ッ!!!
仕方ないよなぁ、そういう思考なら俺以外の奴を皆殺しにしてもいいんだ、仕方ない、仕方なかったよなぁ。
って馬鹿か! 死んだ人間は生きかえらねえし、長門一人ならまだしも、草壁のおっさんがいるんだぞ、
殺し合いの結果を無意味にする願いなんて叶えるわけがないだろ! はっきりしない口約束だけで、
なんで俺は信じちまったんだ? 信じなけりゃ、それで終わりだったからさ! ああ、希望に縋りついて何が悪い!?
畜生、痛え、痛くねえっ! こんなもん、ハルヒに比べりゃ全然痛くねえだろ、多分。って俺誰に話してんだ?
【俺】か? 【俺】って誰だよぉぉぉぉぉっ!!! そんな奴、どこにもいねえよ! 俺は一人! 生き残るのも一人!
だからって、何で殺しちまったんだろうな? そんなの決まってんだろ……生き残りたかったからだよ……。
怪物がいっぱい居るこんな島で生き残るには、こっちから攻めるしかないんだ! 俺は力を手に入れたんだから!
でも、もうガイバーもなくなっちまった! スバルを殺したのがそんなに堪えたのか? もう何人も殺したのになぁ、
おかしいなぁ……はは、はははは……ハルヒィィィィィィィーーーー!!!! ハルヒィィィィィィィーーーー!!!!)
激しく流れる、まとまらない、指針のない思考で痛みが麻痺し始める。
鎧を失った"中身"には、狂気、恐怖、憐憫、忘失志願、自己肯定etcetc...数多の感情が飛来していた。
力によって抑制され、押さえつけられてきたいわゆる人間らしい感情が、窯窪にくべられた様に燃え上がる。
それが一段落着くと、次は一旦棚上げされた痛みが帰ってきた。
痛みの出所は、ウォーズマンのスクリュー・ドライバーを喰らった左頭部の挫傷。
そのダメージの回復中に起こった、"中身"の揺らぎ。仲間と肉親の死による、大きな揺らぎ。
心が壊れていても、"中身"には変えられない過去があり、変わらない精神がある。揺らぎも無理ならぬ事。
だが、その揺らぎの代償は大きい。途中で回復を中止された挫傷からは、じわじわと血が流れ始めていた。
血は"中身"の目に入って、視界を赤く染めていた。仰向けに倒れた"中身"は、四肢で水の流れを感じながら、
口元にたどり着いた血を舌で拭う。味を感じているのかいないのか。"中身"は無表情のまま、空を見上げる。
「星が、星が見えないぞ……長門、そりゃお前は天体観測なんてする必要ないだろうがな、風情って物がなぁ……」
うわ言のように呟き、ふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りで水場から離れて、草原に戻る。
「まったく……なんで、こんな事になったんだろうなぁ……一日足らずで人間ってここまで変われる物なのか?」
自分が何をしてきたのか。"中身"は、それを無性に誰かに話したい気分になっていた。
がさり、と背後から物音。今はガイバーならぬ身、気付かなかったのは当然。
背後から近寄ってくる物がなんであれ、"中身"に抗う術はない。
だから、"中身"は"振り向いた"。この島に来てから恐らく初めて、何の計算もなしに、自然に。
「キュックルー!」「ガウウ……」「キュア~♪」「ヴォー!」『Mr.キョン……』
「よりにもよってお前らかよ……」
『キョン』。
それは、"中身"の名前ではない。
それでも、今現在の"中身"にとっては。
『……キョ、ン? な、何なのよその変な格好はー!!!』
最も心地よい、呼ばれ方だった。
「ヴォー?」
「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」
◇
「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」
少年……ケリュケイオンが言うには、キョンと言うらしいが……キョン少年は、ぼそりとそう呟いた。
全く、人型種族ってのはいつもこうだな。自分達が最も賢いと思っていやがる。
まあ、ライガー族の俺からすれば賢さなんぞ二の次。
忠義と敵を食い破る牙さえあれば生きていける事が、俺達の誇りだ。
さて、俺の御主人様はどうこいつに接するのかね……?
「ヴォー」
おいおい……また見逃すつもりか。
今までの流れから見ても、こいつが御主人に害をもたらす存在であることは明らか。
本来ならこの場で俺がこのキョンとやらの首を噛み千切っているところだ。
だが、この島では俺は(恐らくは、ピクシーのババアも、フリードさんもだろうが)、
御主人様の意志に沿う行動しか取れない。俺が御主人様の為を思っても、命令があるまで動けない。
そして御主人様は今まで、自分の身に危険が迫っても俺やババアやフリードさんを矢面には立たせなかった。
その優しさには胸を打たれるが、それでは何故俺達を召喚したのか分からないではないか。
今のところ賑やかしとしてしか活動してないぞ、俺達……。別に戦いたいわけではないが、俺もあと数時間の命。
どうせ死ぬならこの命、せめて御主人様のために燃やし尽くしたいものだが……。
『Mr.キョン。貴方を追って温泉から飛び出してきたMr.ケロロから話は聞きました。今すぐ我々と共に……』
「どの面下げて戻れってんだ? 俺はスバルを殺した……」
『Ms.スバルは死んでいません。マッハキャリバーが身を呈して守ったそうです』
「……そうかよ、まだあいつを戦わせたいってわけか……せっかく楽にしてやろうと思ったのに」
『どうやら錯乱して起こした行動ではなかったようですね。それならばなおさら、温泉に出頭するべきです。
貴方はMs.高町達に裁かれなければならない。このまま人殺しを続ける事は、貴方にとってよくない事です』
「いや。もう、俺は戻れない」
ケリュケイオンの野郎が、キョンに話しかける。そうそう、このキョンが温泉から尋常ならぬ様子で飛び出してきて、
皆で何事かと温泉の前まで向かった時にあの旨そうなカエルが飛び出してきて、俺達に一部始終を説明したのだ。
しかしこのデバイスって連中は何故俺達と違って共通語が喋れるのだろう。動けないからか?
マッキャリ君や一口サイズのボインちゃんも喋れてたよなぁ……いいよなぁ……御主人様の言葉は分かるが、
こっちの言葉が通じてるのか分からないのは地味にやり辛いのだ。って、そうだった! コイツ……キョン野郎!
「ガウガウ! ガガウ!(てめえよくも貴重なロリ巨乳を殺してくれたなぁ! 俺はボインちゃんが大好きなんだよ!)」
「吼えるなよ……俺はお前らとは違うんだ……今から話すよ、俺がやってきた事を。聞いてくれ……頼む……」
全く、言葉が通じないのは不便だ。誰もお前の言い訳なんぞ聞きたくないってんだ。
罪悪感を感じてるならさっさと自殺でもなんでもしやがれ、この災害野郎。
と、御主人様が俺の方を見て、ヴォーと鳴く。……ああ、ボインちゃんを殺したのはコイツじゃないのか。
あのカエルの慌てた口ぶりじゃコイツのせいでボインちゃんとマッキャリ君が死んだって印象だったが……。
御主人様には、他者の感情を深読みする力があるのかもしれない。
だからか、御主人様は俺に大人しくキョンの話を聞くように、ともう一度短く鳴いた。
「俺はここに来てからすぐ、男の子を殺した。大人しそうな、中学生くらいの子だったよ。
軍曹とか姉ちゃんとか、死に際に言ってたなぁ……殺した理由は、ほら、覚えてないか?
最初にルールを説明したあの女の子。あの子、俺の仲間なんだよ。楽しくやってた、仲間だったんだ……。
涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくる、それとあの長門有希。SOS団、なんてもんを作ったりして、
学校で本当に仲良くしてたんだぜ? でも、ハルヒって奴にはちょっとした不思議な力があってな。
俺以外のメンバーはそれを調べるためにハルヒに近づいてたんだ、最初はな。
でも、あいつの無茶苦茶に振り回されるうちに、俺達は本当に"団"になってたと思うんだよ。
だから長門も、目的……ハルヒがこういう舞台に巻き込まれてどういう反応をするかって事だと思う……それをさ、
その目的さえ達成すれば、俺達を元に戻してくれると思ったんだ。笑えるだろ? 笑えよ、アクセサリー」
『……』
「次に俺は、妹を殴った。運悪く出会っちまってさ。で、そのバチが当たったのか、ナーガっておっさんに負けた。
で、その後に、肝心要のハルヒを殺した。本当はヴィヴィオとかって子供を殺して、ハルヒを刺激しようとしたんだ。
長門の目的の為に、な。でも、ハルヒは死んじまった。だから俺は……参加者を皆殺しにして、優勝して長門達に
全部元通りにしてもらおうと決めたんだ。最初は俺自身は日常に戻るつもりはなかったんだが、
雨蜘蛛やナーガに何度も負けたり、土下座したりしてるうちに、俺にも"生きたい"って気持ちがある事に気付いた」
『虫のいい話ですね。死者の蘇生? そんな世迷言を本気で信じていて、しかも自分も生きたい、と?』
「アクセサリーに説教されるようじゃ、俺もいよいよだな……。ああそうだ、白状するよ。俺は、帰りたかった。
ハルヒのためだ、みんなのためだって口では言ってたし頭でも無理矢理そう思ってたが、本当はきっと、
あの日常に帰って、何もかもを忘れたかったんだよ、そんな甘っちょろい考えだったから、【俺】だの夢だの、
くっだらねえ現実逃避をうじうじ続けて、目的も手段もダメにしちまったんだろうなぁ……。
でもよ、俺は何で責められなきゃいけないんだ? 俺はお前らみたいな戦いが日常の奴等とは違う、
まともな人間だったんだよ。いきなり殺人鬼になんてなれるわけないじゃないか。ヒーローなんてもっと無理だ。
だから俺はショウやスバルを偽善者と呼んで見下し、ナーガのおっさんには"様"をつけて服従した。
芯のある奴を、真っ直ぐ見れなかったんだ……我ながら、情けないって思うよ。もう嫌だ……辛い……」
『自分を客観視することは更正への第一歩です。しかし貴方はまだ本当の意味で自分に向き合っていない。
貴方がどれだけの心痛を感じていたかは理解しましたし、貴方の行動の動機も大方分かりました。
しかし、貴方が殺した人にはそんな事は問題にはならない。貴方は現実に裁かれなければならない』
「現実なんて糞くらえだったよ。普通に考えれば死んだ人は生き返らないし、こんな事をした長門が全部を元通りにして、
更に元のSOS団に戻るなんてことはありっこないって、最初ッから分かってはいたさ。でもそれを認めたら、
俺には何も出来なかった。ナーガのおっさんを巨人殖装で殺したときに、長門に会ったんだ。その時、
長門は俺に対して特に感情を見せなかった。いや、普段から感情を見せないのが普通な奴なんだが。
それでも俺には、あいつが変わっちまったことくらいは分かる。それでも、もう戻れなかったんだ。
その後、長門が俺の妹を殺したって分かってから、そこで初めて、長門の変化を実感した、そう思う。
俺はもう何人も殺した。全部元通りになる、なんて馬鹿げた夢も捨てた。もうバトルもロワイヤルもないんだよ……。
だからって死ぬのは嫌だ。殺すのも、うんざりだ。全部忘れて元の世界に戻れないなら、俺はどうすればいいんだ?
もう、後の事を考えないで妄想レベルの希望にだけ進むなんて事は出来ない。自分の本心に気付いちまったからな」
『確かに、死んだ人間は蘇りません。貴方自身が殺したというMs.涼宮も。しかし、死者は無価値ではない。
貴方からMs.スバルを守って死んだマッハキャリバーが決して無価値ではないように。
Ms.涼宮も、親友だった貴方に今のような醜態を晒して欲しいとは思わないでしょう。
死ぬのも殺すのも、現実逃避さえも嫌だというのなら、貴方はさながら悪夢のように彷徨うしかない。
死んでいても生きていても同じ、無価値な存在になる。それはとても悲しいことです。だから、私達と共に来なさい。
Ms.長門達に逆らい、勝利しましょう。そして貴方は仲間のいない貴方の世界に戻り、貴方の世界の裁きを受けなさい。
それで初めて、貴方が殺したMs.涼宮達に、貴方は顔向けが出来る様になる、と私は判断します』
「そういう異世界じみた考えとは相容れないってんだよ……。 俺は普通の人間だと言ってるのが分からないのか?
俺の生きてきた人生には、殺し殺され殺しあうなんてイベントはなかった。だからこそ、人を殺すってのがどれだけ
おかしくて、許されないことかっていうのが分かるんだよ。俺はもう、お前たちの側にはいけない。
俺は人を殺した。人を殺したんだよ……。お前らみたいな、戦いに明け暮れてるヒーローワールドの住民には
分からないだろうがな、人間が人間を殺すってのは、普通の感覚だと在り得ないんだ。だから、俺ももう在り得ない。
俺はもうどこに戻れないしどこへも行けないんだ。無価値な存在? ああそれでいい、それでいいからほっといてくれ。
スバル達に伝えてくれ、俺にはもう構わないでくれってな。俺はもう疲れた。もう何も考えたくない」
『……』
川にゲロが流れていくのを見てもらいゲロしそうになってたら、会話が途切れた。っていうかセリフ長えな、オイ。
キョンの野郎、「僕はもう疲れたからほっといて!」って言うのにどれだけかかってんだよ。
あとケリュケイオン、機械仕掛けの癖によく喋るなぁ、ウゼえ。御主人様の方を見ると、悲しそうな顔でキョンを見ている。
御主人様にこういう顔をさせるだけで本来なら死刑確定なんだが、命令がないのでストレスが溜まるぜ。
会話にも参加できないので、余計にゲージが上がるって感じだ。今なら大技が出せる、気分的に。
大体何だコイツ、のほほんとした世界にいた事が免罪符みたいな口を聞きやがって。
俺の勘では、こういう情けない声の奴は俺達の世界にいても凶悪なワルモンになっていたに違いない。
と、ケリュケイオンが再びキョンに話しかけた。こいつの声の調子は常に一定だが、やや不快なニュアンスを孕ませて。
『わかりました。Ms.高町たちにはその旨伝えます。スバルは貴方を更正させられると思っていたようですが、
客観的に見てそうは考えられませんので、貴方の申し出を拒否する理由はありませんから。……ここからは私見、
デバイスである私が私見など、本当は言いたくないのですが、あなたが我々に二度と近づかないよう、あくまで
Ms.高町たちの為に申し添えます。私もインテリジェント・デバイスとしての機能上、多くの悪党と相対してきましたが、
貴方ほど美点を見出せない醜い人間は滅多に見ません。自分の行為を恥じ、後悔している風に振る舞いながら、
それを改めも戒めもしない。それは、貴方が貴方の心の平穏の為に後悔を装っているだけだからです。
貴方は悪党ですらありません。貴方の言うような普通の人間でもありません。要らない人間、まさしくそれです。
Mr.キョン、さようなら。今後もし貴方に出会っても、私やMs.スバル達が貴方に関心を寄せることはないでしょう』
「う……」
キョンがたじろぐ。全てを否定しても、自分が否定されるとこれか。コイツ、本当に見所ねえな……。
多分ケリュケイオンは自分のマスターの同僚に危険が迫るのを避けるために、
機械的な動作でこういう毒舌を吐いているんだろうが、大体俺も同じ意見だった。ババアやフリードさんもそうだろう。
が……我らが御主人様は、違う。
「ヴォーヴォーロォーーー!!!」
『Mr.troll……? 何をおっしゃりたいのですか?』
翻訳もしてやれねえが、簡潔に言うとこういうことだよ、ケリュケイオン。
『それでも、放っておきたくない』。御主人様は既に自分が守ろうと思っていた子供を何人か失っている。
ここでキョンを放っぽり出せば、メイやサツキ、シンジの二の舞は確定だからな。
こんな無意味なこいつを見捨てない、それが俺達の御主人様なんだよ、ケリュケイオン……。
お前もそのうち、理解してくれるだろう。少しづつだが、俺達の意思を汲み取れるようになってるみたいだしな。
さて、御主人様の意向は分かった。御主人様への忠誠心と、キョンへの嫌悪感を天秤にかける。
忠誠心は俺の心のテーブルをぶち破り、地球の反対側まで沈んでいった。当たり前だ、この小僧と御主人様を
比べること自体が不忠。俺は御主人様の方を見て、小さく唸る。御主人様は少し驚いた顔をしながらも、
ニカーッと微笑んで、俺に命令(御主人様からすればお願い、だろうが……)を下さった。
『Mr.ライガー……?』
「ガウ、ガーウ……(あばよ、ケリュケイオン、ババア、フリードさん……いつか必ず再びあなたの御前に、御主人様)」
俺が、目が死にきったキョンの目の前まで歩き、背に乗るように促す。
キョンは驚いたように一歩後ずさったが、御主人様を見て無言で首を垂れ、俺の背に乗った。
不快だが、感じる体重にさえもう生気がない。惨めな野郎だ。
消える瞬間に御主人様の側に居られないのは、無論辛い。だが、御主人様が俺を信頼して、任せてくれたのだ。
もちろん本当は御主人様自身がキョンを運びたいのだろうが、せっかく仲間と会えたケリュケイオン達をそれに
付き合わせるのはどうか、と考えておられた。だから、俺が単独でコイツを運ぶ役を買って出た。
御主人様は、キョンがきっといつか改心できると信じている。善の極地におられる御方だからな。
その是非はどうでもいい。俺は忠義を果たすのみ、ライガー族の誇りにかけて、キョンを落ち着ける場所へ運ぼう。
俺が消えるまで後数時間、それでどこまでコイツを運べるか。御主人様の命令では、なるべく安全な場所がいいらしい。
御主人様の身の安全を考えるなら禁止エリアに突撃するのがいいのだろうが、俺が従うのは御主人様の御心。
俺は走り出す。決して振り向かない。御主人様が俺に求めたのは、劣情と隷属ではなく、友情と共生。
友達が泣く姿など、御主人様は見たくはないだろう。御主人様――どうか、御無事で。 最後の忠義、御覧あれ。
いや――最後はあえて、こう呼ぼう!
さらば、我が友!
◇
狼みたいな獣の背に乗って、視界が激しく変わっていく。
ガイバーでもないのに、このスピードはキツイ。あの怪獣も、余計な気を回してくれたもんだ。
もっとも、もう俺には今までみたいに偽善者の気遣いを蹴って悪態をつくような余裕もなかったんだがな。
殺し合いに乗ってもどうせ全て元通りになんかならない、と認めちまった以上、もうそんな意地を張る意味もない。
襲われたら抵抗するだろうし、朝倉辺りが襲われてたら助けるかもな。でも、自分からはもう戦う気はない。
で、利用できる物は全部利用するだけだ。今までやってきた事を考えれば、そんな物はもうほとんどないだろうけどな。
狼をチラリと見ると、なんか泣いていた。泣くほど嫌なら乗せなければいいのにな。可哀想に。
「採掘所は……ダメだな、掲示板の書き込みで古泉を裏切った以上、もうノコノコいけるわけもない」
「ガウ」
俺が操縦しているわけでもないが、そう言うと狼は多少進路を変えたように感じた。
それ以外にどこか行きたくない所、行きたいところを思い浮かべてみたが、特に浮かばなかった。
強いて言うなら、ハルヒの死体の場所だろうか。放置されているなら、埋葬したい。
もう、誰も殺さなくていいんだから、それくらいの時間は悠々取れるだろう。
まあ、この狼がたまたまあの学校にたどり着いたりしたら、そうしようかな。
その後は……ハハ、何も思い浮かばねえや。誰にも会わなけりゃ、それが一番なんだろうなぁ……。
あれ?
それだと、死んじゃうのか。オレンジジュースになって。
死にたくねえよ。どうすりゃいいんだ? 死ななくても、どうにもならないんだろうけどな。
あーあ。誰か、俺を導いてくれよ。『団長』とかって腕章をつけた、ポニーテールが似合う無軌道凶悪女子高生とかさ。
全くどうして……。
「どうしてこんなことになったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!! 」
答えてくれる奴は、もちろんどこにもいなかった。
【G-5 草原/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大) 無気力
【持ち物】デイパック(支給品一式入り) ライガー@モンスターファーム~円盤石の秘密~
【思考】
1:もう何も考えたくない。
2:誰か俺を導いてくれ。
3:もし学校に着いたら、ハルヒを埋葬する。
【備考】
※「全てが元通りになる」という考えを捨てました。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※あと3~4時間程でライガーは消えます。ライガーはそれまで『キョンを安全な場所に運ぶ』為に行動します。
※ガイバーは使用不能になりました。以後使えるようになるかは後の書き手さんにお任せします。
『Mr.troll、何故……?』
「ヴォー……」
『彼の弱さに同情しているのなら、それは間違いです。彼は強い。この世で最も悪い方向に、ですが』
温泉へと戻りながら、ケリュケイオンは問い掛ける。
……理解不能。何故、あんなものに情けをかけるような真似をするのだろうか?
Mr.ライガーはあと数時間の命。Mr.キョンなどをどこかに運ぶことが最後の活動など、あまりに残酷だ。
Ms.高町たちから遠ざけると言う意味では、悪くないが……それより、彼女達にMr.キョンの事をどう話すかが問題だろう。
『Ms.ヴィヴィオ……』
Mr.キョンが襲ったという、Ms.高町の娘。
これを聞いて、Ms.高町がどういう行動を取るかは大方予測できる。
Ms.スバルが重傷の今(更に、もうすぐ夜中だ)、戦力の分散は出来るだけ避けたい。
言うべきか、言わざるべきか……。
インテリジェントデバイス、ケリュケイオンは、早くもキョンをメモリーから消しつつ、深く考えるのであった。
【G-4 草原/一日目・夜】
【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム~円盤石の秘密~
円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム~円盤石の秘密~、デイバッグにはいった大量の水
フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます。
*時系列順で読む
Back:[[カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ]] Next:[[彼女らのやったコト]]
*投下順で読む
Back:[[カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ]] Next:[[彼女らのやったコト]]
|[[ピエロのミセリコルディア ]]|キョン|[[どうしてこうなった]]|
|~|トトロ|[[]]|
*鎧袖一触~鎧の端の心に触れろ~ ◆2XEqsKa.CM
さわわっと、夜風が草根を分けそよぐ。
草原に群ぐ雑草たちが、陽光の名残を惜しんでさんざめき。
明日の我が身を鑑みることもなく、ただただ光を求めて揺れる刹那草。
この殺人ゲームを模すかのように、今を生き足掻いていて美しい。
そんな草叢を掻き分け、夜闇に熔けて強殖装甲が駆ける。
草原を、抜ける。次なるフィールドは水辺。強化された脚力で泥底を踏みしめたその瞬間。
異形が、割れる。甲殻を思わせる鎧が弾けるように外れ、"中身"が露出していく。
泥と藻に足を取られ、"中身"は転倒した。押し寄せる水に、全身が翻弄される。
熱を、寒気を、怖気を、良識を、後悔を、内外あらゆる障害物を排除し、装着者を守ってきた鎧が、今はもうない。
そうして"中身"は無防備だった。肉体はもちろん、精神すらも、磨耗しきっていた。
辛うじてそんな"中身"に存在意義と存在理由を与えていた強殖装甲。
無機質なそれは、自己を否定する者に恩恵を与える情など持ち合わせない。
不幸と失態の果てに、全てを拒絶した"中身"は。
遂に、己の『根』をも手放しつつあった。
「う……ごおええええ!!! ごえええええ!!! 」
嘔、吐。黄色じみた血の混ざった吐瀉物が、水面を汚して広がって。
たった今まで仮面に覆われていた顔からは苦痛しか読み取れない。
体内の全ての水分を吐き出した、と思えるほどの穢れを垂れ流しながら、"中身"は泣いていた。
「――――●∴→!! φ〆!!!」
のたうちまわり、仰向けになった"中身"が激しく痙攣しながら声にもならない雄叫びを飛ばす。ズキン、ズキン。
はて、"中身"の頭にズキン、と響くもの。それは痛み? 心の痛み? いや、"中身"の心は既に痛みを感じない。
何故なら"中身"は壊れているから。この場の仲間を見捨て、この場の肉親を見捨て、日常へ戻る事だけを求めてきた。
そう、"中身"はその実最初から――この島に降りたった瞬間から、その為だけに生き、殺してきたのだ。
.....
(そうだ……俺は、最初に何をした!?)
気付いた。"中身"は、自分の『根』に、今始めて目を向けた。
この殺し合いの舞台に落とされ、"中身"が最初にとった行動。
それは、他者の身を案じる事ではなく、自分の武器の確認だった。
(SOS団の仲間を救う? その為にハルヒとここで仲良くなった奴を殺して長門の親玉を満足させる!?
うっかりハルヒを殺しちまって、ええと次は何だっけ? そうそう、長門に皆を生き返らせてもらって、
都合よく記憶を消してもらって万々歳! ああ、そんな感じだったそんな感じだった、俺の思考ッ!!!
仕方ないよなぁ、そういう思考なら俺以外の奴を皆殺しにしてもいいんだ、仕方ない、仕方なかったよなぁ。
って馬鹿か! 死んだ人間は生きかえらねえし、長門一人ならまだしも、草壁のおっさんがいるんだぞ、
殺し合いの結果を無意味にする願いなんて叶えるわけがないだろ! はっきりしない口約束だけで、
なんで俺は信じちまったんだ? 信じなけりゃ、それで終わりだったからさ! ああ、希望に縋りついて何が悪い!?
畜生、痛え、痛くねえっ! こんなもん、ハルヒに比べりゃ全然痛くねえだろ、多分。って俺誰に話してんだ?
【俺】か? 【俺】って誰だよぉぉぉぉぉっ!!! そんな奴、どこにもいねえよ! 俺は一人! 生き残るのも一人!
だからって、何で殺しちまったんだろうな? そんなの決まってんだろ……生き残りたかったからだよ……。
怪物がいっぱい居るこんな島で生き残るには、こっちから攻めるしかないんだ! 俺は力を手に入れたんだから!
でも、もうガイバーもなくなっちまった! スバルを殺したのがそんなに堪えたのか? もう何人も殺したのになぁ、
おかしいなぁ……はは、はははは……ハルヒィィィィィィィーーーー!!!! ハルヒィィィィィィィーーーー!!!!)
激しく流れる、まとまらない、指針のない思考で痛みが麻痺し始める。
鎧を失った"中身"には、狂気、恐怖、憐憫、忘失志願、自己肯定etcetc...数多の感情が飛来していた。
力によって抑制され、押さえつけられてきたいわゆる人間らしい感情が、窯窪にくべられた様に燃え上がる。
それが一段落着くと、次は一旦棚上げされた痛みが帰ってきた。
痛みの出所は、ウォーズマンのスクリュー・ドライバーを喰らった左頭部の挫傷。
そのダメージの回復中に起こった、"中身"の揺らぎ。仲間と肉親の死による、大きな揺らぎ。
心が壊れていても、"中身"には変えられない過去があり、変わらない精神がある。揺らぎも無理ならぬ事。
だが、その揺らぎの代償は大きい。途中で回復を中止された挫傷からは、じわじわと血が流れ始めていた。
血は"中身"の目に入って、視界を赤く染めていた。仰向けに倒れた"中身"は、四肢で水の流れを感じながら、
口元にたどり着いた血を舌で拭う。味を感じているのかいないのか。"中身"は無表情のまま、空を見上げる。
「星が、星が見えないぞ……長門、そりゃお前は天体観測なんてする必要ないだろうがな、風情って物がなぁ……」
うわ言のように呟き、ふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りで水場から離れて、草原に戻る。
「まったく……なんで、こんな事になったんだろうなぁ……一日足らずで人間ってここまで変われる物なのか?」
自分が何をしてきたのか。"中身"は、それを無性に誰かに話したい気分になっていた。
がさり、と背後から物音。今はガイバーならぬ身、気付かなかったのは当然。
背後から近寄ってくる物がなんであれ、"中身"に抗う術はない。
だから、"中身"は"振り向いた"。この島に来てから恐らく初めて、何の計算もなしに、自然に。
「キュックルー!」「ガウウ……」「キュア~♪」「ヴォー!」『Mr.キョン……』
「よりにもよってお前らかよ……」
『キョン』。
それは、"中身"の名前ではない。
それでも、今現在の"中身"にとっては。
『……キョ、ン? な、何なのよその変な格好はー!!!』
最も心地よい、呼ばれ方だった。
「ヴォー?」
「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」
◇
「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」
少年……ケリュケイオンが言うには、キョンと言うらしいが……キョン少年は、ぼそりとそう呟いた。
全く、人型種族ってのはいつもこうだな。自分達が最も賢いと思っていやがる。
まあ、ライガー族の俺からすれば賢さなんぞ二の次。
忠義と敵を食い破る牙さえあれば生きていける事が、俺達の誇りだ。
さて、俺の御主人様はどうこいつに接するのかね……?
「ヴォー」
おいおい……また見逃すつもりか。
今までの流れから見ても、こいつが御主人に害をもたらす存在であることは明らか。
本来ならこの場で俺がこのキョンとやらの首を噛み千切っているところだ。
だが、この島では俺は(恐らくは、ピクシーのババアも、フリードさんもだろうが)、
御主人様の意志に沿う行動しか取れない。俺が御主人様の為を思っても、命令があるまで動けない。
そして御主人様は今まで、自分の身に危険が迫っても俺やババアやフリードさんを矢面には立たせなかった。
その優しさには胸を打たれるが、それでは何故俺達を召喚したのか分からないではないか。
今のところ賑やかしとしてしか活動してないぞ、俺達……。別に戦いたいわけではないが、俺もあと数時間の命。
どうせ死ぬならこの命、せめて御主人様のために燃やし尽くしたいものだが……。
『Mr.キョン。貴方を追って温泉から飛び出してきたMr.ケロロから話は聞きました。今すぐ我々と共に……』
「どの面下げて戻れってんだ? 俺はスバルを殺した……」
『Ms.スバルは死んでいません。マッハキャリバーが身を呈して守ったそうです』
「……そうかよ、まだあいつを戦わせたいってわけか……せっかく楽にしてやろうと思ったのに」
『どうやら錯乱して起こした行動ではなかったようですね。それならばなおさら、温泉に出頭するべきです。
貴方はMs.高町達に裁かれなければならない。このまま人殺しを続ける事は、貴方にとってよくない事です』
「いや。もう、俺は戻れない」
ケリュケイオンの野郎が、キョンに話しかける。そうそう、このキョンが温泉から尋常ならぬ様子で飛び出してきて、
皆で何事かと温泉の前まで向かった時にあの旨そうなカエルが飛び出してきて、俺達に一部始終を説明したのだ。
しかしこのデバイスって連中は何故俺達と違って共通語が喋れるのだろう。動けないからか?
マッキャリ君や一口サイズのボインちゃんも喋れてたよなぁ……いいよなぁ……御主人様の言葉は分かるが、
こっちの言葉が通じてるのか分からないのは地味にやり辛いのだ。って、そうだった! コイツ……キョン野郎!
「ガウガウ! ガガウ!(てめえよくも貴重なロリ巨乳を殺してくれたなぁ! 俺はボインちゃんが大好きなんだよ!)」
「吼えるなよ……俺はお前らとは違うんだ……今から話すよ、俺がやってきた事を。聞いてくれ……頼む……」
全く、言葉が通じないのは不便だ。誰もお前の言い訳なんぞ聞きたくないってんだ。
罪悪感を感じてるならさっさと自殺でもなんでもしやがれ、この災害野郎。
と、御主人様が俺の方を見て、ヴォーと鳴く。……ああ、ボインちゃんを殺したのはコイツじゃないのか。
あのカエルの慌てた口ぶりじゃコイツのせいでボインちゃんとマッキャリ君が死んだって印象だったが……。
御主人様には、他者の感情を深読みする力があるのかもしれない。
だからか、御主人様は俺に大人しくキョンの話を聞くように、ともう一度短く鳴いた。
「俺はここに来てからすぐ、男の子を殺した。大人しそうな、中学生くらいの子だったよ。
軍曹とか姉ちゃんとか、死に際に言ってたなぁ……殺した理由は、ほら、覚えてないか?
最初にルールを説明したあの女の子。あの子、俺の仲間なんだよ。楽しくやってた、仲間だったんだ……。
涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくる、それとあの長門有希。SOS団、なんてもんを作ったりして、
学校で本当に仲良くしてたんだぜ? でも、ハルヒって奴にはちょっとした不思議な力があってな。
俺以外のメンバーはそれを調べるためにハルヒに近づいてたんだ、最初はな。
でも、あいつの無茶苦茶に振り回されるうちに、俺達は本当に"団"になってたと思うんだよ。
だから長門も、目的……ハルヒがこういう舞台に巻き込まれてどういう反応をするかって事だと思う……それをさ、
その目的さえ達成すれば、俺達を元に戻してくれると思ったんだ。笑えるだろ? 笑えよ、アクセサリー」
『……』
「次に俺は、妹を殴った。運悪く出会っちまってさ。で、そのバチが当たったのか、ナーガっておっさんに負けた。
で、その後に、肝心要のハルヒを殺した。本当はヴィヴィオとかって子供を殺して、ハルヒを刺激しようとしたんだ。
長門の目的の為に、な。でも、ハルヒは死んじまった。だから俺は……参加者を皆殺しにして、優勝して長門達に
全部元通りにしてもらおうと決めたんだ。最初は俺自身は日常に戻るつもりはなかったんだが、
雨蜘蛛やナーガに何度も負けたり、土下座したりしてるうちに、俺にも"生きたい"って気持ちがある事に気付いた」
『虫のいい話ですね。死者の蘇生? そんな世迷言を本気で信じていて、しかも自分も生きたい、と?』
「アクセサリーに説教されるようじゃ、俺もいよいよだな……。ああそうだ、白状するよ。俺は、帰りたかった。
ハルヒのためだ、みんなのためだって口では言ってたし頭でも無理矢理そう思ってたが、本当はきっと、
あの日常に帰って、何もかもを忘れたかったんだよ、そんな甘っちょろい考えだったから、【俺】だの夢だの、
くっだらねえ現実逃避をうじうじ続けて、目的も手段もダメにしちまったんだろうなぁ……。
でもよ、俺は何で責められなきゃいけないんだ? 俺はお前らみたいな戦いが日常の奴等とは違う、
まともな人間だったんだよ。いきなり殺人鬼になんてなれるわけないじゃないか。ヒーローなんてもっと無理だ。
だから俺はショウやスバルを偽善者と呼んで見下し、ナーガのおっさんには"様"をつけて服従した。
芯のある奴を、真っ直ぐ見れなかったんだ……我ながら、情けないって思うよ。もう嫌だ……辛い……」
『自分を客観視することは更正への第一歩です。しかし貴方はまだ本当の意味で自分に向き合っていない。
貴方がどれだけの心痛を感じていたかは理解しましたし、貴方の行動の動機も大方分かりました。
しかし、貴方が殺した人にはそんな事は問題にはならない。貴方は現実に裁かれなければならない』
「現実なんて糞くらえだったよ。普通に考えれば死んだ人は生き返らないし、こんな事をした長門が全部を元通りにして、
更に元のSOS団に戻るなんてことはありっこないって、最初ッから分かってはいたさ。でもそれを認めたら、
俺には何も出来なかった。ナーガのおっさんを巨人殖装で殺したときに、長門に会ったんだ。その時、
長門は俺に対して特に感情を見せなかった。いや、普段から感情を見せないのが普通な奴なんだが。
それでも俺には、あいつが変わっちまったことくらいは分かる。それでも、もう戻れなかったんだ。
その後、長門が俺の妹を殺したって分かってから、そこで初めて、長門の変化を実感した、そう思う。
俺はもう何人も殺した。全部元通りになる、なんて馬鹿げた夢も捨てた。もうバトルもロワイヤルもないんだよ……。
だからって死ぬのは嫌だ。殺すのも、うんざりだ。全部忘れて元の世界に戻れないなら、俺はどうすればいいんだ?
もう、後の事を考えないで妄想レベルの希望にだけ進むなんて事は出来ない。自分の本心に気付いちまったからな」
『確かに、死んだ人間は蘇りません。貴方自身が殺したというMs.涼宮も。しかし、死者は無価値ではない。
貴方からMs.スバルを守って死んだマッハキャリバーが決して無価値ではないように。
Ms.涼宮も、親友だった貴方に今のような醜態を晒して欲しいとは思わないでしょう。
死ぬのも殺すのも、現実逃避さえも嫌だというのなら、貴方はさながら悪夢のように彷徨うしかない。
死んでいても生きていても同じ、無価値な存在になる。それはとても悲しいことです。だから、私達と共に来なさい。
Ms.長門達に逆らい、勝利しましょう。そして貴方は仲間のいない貴方の世界に戻り、貴方の世界の裁きを受けなさい。
それで初めて、貴方が殺したMs.涼宮達に、貴方は顔向けが出来る様になる、と私は判断します』
「そういう異世界じみた考えとは相容れないってんだよ……。 俺は普通の人間だと言ってるのが分からないのか?
俺の生きてきた人生には、殺し殺され殺しあうなんてイベントはなかった。だからこそ、人を殺すってのがどれだけ
おかしくて、許されないことかっていうのが分かるんだよ。俺はもう、お前たちの側にはいけない。
俺は人を殺した。人を殺したんだよ……。お前らみたいな、戦いに明け暮れてるヒーローワールドの住民には
分からないだろうがな、人間が人間を殺すってのは、普通の感覚だと在り得ないんだ。だから、俺ももう在り得ない。
俺はもうどこに戻れないしどこへも行けないんだ。無価値な存在? ああそれでいい、それでいいからほっといてくれ。
スバル達に伝えてくれ、俺にはもう構わないでくれってな。俺はもう疲れた。もう何も考えたくない」
『……』
川にゲロが流れていくのを見てもらいゲロしそうになってたら、会話が途切れた。っていうかセリフ長えな、オイ。
キョンの野郎、「僕はもう疲れたからほっといて!」って言うのにどれだけかかってんだよ。
あとケリュケイオン、機械仕掛けの癖によく喋るなぁ、ウゼえ。御主人様の方を見ると、悲しそうな顔でキョンを見ている。
御主人様にこういう顔をさせるだけで本来なら死刑確定なんだが、命令がないのでストレスが溜まるぜ。
会話にも参加できないので、余計にゲージが上がるって感じだ。今なら大技が出せる、気分的に。
大体何だコイツ、のほほんとした世界にいた事が免罪符みたいな口を聞きやがって。
俺の勘では、こういう情けない声の奴は俺達の世界にいても凶悪なワルモンになっていたに違いない。
と、ケリュケイオンが再びキョンに話しかけた。こいつの声の調子は常に一定だが、やや不快なニュアンスを孕ませて。
『わかりました。Ms.高町たちにはその旨伝えます。スバルは貴方を更正させられると思っていたようですが、
客観的に見てそうは考えられませんので、貴方の申し出を拒否する理由はありませんから。……ここからは私見、
デバイスである私が私見など、本当は言いたくないのですが、あなたが我々に二度と近づかないよう、あくまで
Ms.高町たちの為に申し添えます。私もインテリジェント・デバイスとしての機能上、多くの悪党と相対してきましたが、
貴方ほど美点を見出せない醜い人間は滅多に見ません。自分の行為を恥じ、後悔している風に振る舞いながら、
それを改めも戒めもしない。それは、貴方が貴方の心の平穏の為に後悔を装っているだけだからです。
貴方は悪党ですらありません。貴方の言うような普通の人間でもありません。要らない人間、まさしくそれです。
Mr.キョン、さようなら。今後もし貴方に出会っても、私やMs.スバル達が貴方に関心を寄せることはないでしょう』
「う……」
キョンがたじろぐ。全てを否定しても、自分が否定されるとこれか。コイツ、本当に見所ねえな……。
多分ケリュケイオンは自分のマスターの同僚に危険が迫るのを避けるために、
機械的な動作でこういう毒舌を吐いているんだろうが、大体俺も同じ意見だった。ババアやフリードさんもそうだろう。
が……我らが御主人様は、違う。
「ヴォーヴォーロォーーー!!!」
『Mr.troll……? 何をおっしゃりたいのですか?』
翻訳もしてやれねえが、簡潔に言うとこういうことだよ、ケリュケイオン。
『それでも、放っておきたくない』。御主人様は既に自分が守ろうと思っていた子供を何人か失っている。
ここでキョンを放っぽり出せば、メイやサツキ、シンジの二の舞は確定だからな。
こんな無意味なこいつを見捨てない、それが俺達の御主人様なんだよ、ケリュケイオン……。
お前もそのうち、理解してくれるだろう。少しづつだが、俺達の意思を汲み取れるようになってるみたいだしな。
さて、御主人様の意向は分かった。御主人様への忠誠心と、キョンへの嫌悪感を天秤にかける。
忠誠心は俺の心のテーブルをぶち破り、地球の反対側まで沈んでいった。当たり前だ、この小僧と御主人様を
比べること自体が不忠。俺は御主人様の方を見て、小さく唸る。御主人様は少し驚いた顔をしながらも、
ニカーッと微笑んで、俺に命令(御主人様からすればお願い、だろうが……)を下さった。
『Mr.ライガー……?』
「ガウ、ガーウ……(あばよ、ケリュケイオン、ババア、フリードさん……いつか必ず再びあなたの御前に、御主人様)」
俺が、目が死にきったキョンの目の前まで歩き、背に乗るように促す。
キョンは驚いたように一歩後ずさったが、御主人様を見て無言で首を垂れ、俺の背に乗った。
不快だが、感じる体重にさえもう生気がない。惨めな野郎だ。
消える瞬間に御主人様の側に居られないのは、無論辛い。だが、御主人様が俺を信頼して、任せてくれたのだ。
もちろん本当は御主人様自身がキョンを運びたいのだろうが、せっかく仲間と会えたケリュケイオン達をそれに
付き合わせるのはどうか、と考えておられた。だから、俺が単独でコイツを運ぶ役を買って出た。
御主人様は、キョンがきっといつか改心できると信じている。善の極地におられる御方だからな。
その是非はどうでもいい。俺は忠義を果たすのみ、ライガー族の誇りにかけて、キョンを落ち着ける場所へ運ぼう。
俺が消えるまで後数時間、それでどこまでコイツを運べるか。御主人様の命令では、なるべく安全な場所がいいらしい。
御主人様の身の安全を考えるなら禁止エリアに突撃するのがいいのだろうが、俺が従うのは御主人様の御心。
俺は走り出す。決して振り向かない。御主人様が俺に求めたのは、劣情と隷属ではなく、友情と共生。
友達が泣く姿など、御主人様は見たくはないだろう。御主人様――どうか、御無事で。 最後の忠義、御覧あれ。
いや――最後はあえて、こう呼ぼう!
さらば、我が友!
◇
狼みたいな獣の背に乗って、視界が激しく変わっていく。
ガイバーでもないのに、このスピードはキツイ。あの怪獣も、余計な気を回してくれたもんだ。
もっとも、もう俺には今までみたいに偽善者の気遣いを蹴って悪態をつくような余裕もなかったんだがな。
殺し合いに乗ってもどうせ全て元通りになんかならない、と認めちまった以上、もうそんな意地を張る意味もない。
襲われたら抵抗するだろうし、朝倉辺りが襲われてたら助けるかもな。でも、自分からはもう戦う気はない。
で、利用できる物は全部利用するだけだ。今までやってきた事を考えれば、そんな物はもうほとんどないだろうけどな。
狼をチラリと見ると、なんか泣いていた。泣くほど嫌なら乗せなければいいのにな。可哀想に。
「採掘所は……ダメだな、掲示板の書き込みで古泉を裏切った以上、もうノコノコいけるわけもない」
「ガウ」
俺が操縦しているわけでもないが、そう言うと狼は多少進路を変えたように感じた。
それ以外にどこか行きたくない所、行きたいところを思い浮かべてみたが、特に浮かばなかった。
強いて言うなら、ハルヒの死体の場所だろうか。放置されているなら、埋葬したい。
もう、誰も殺さなくていいんだから、それくらいの時間は悠々取れるだろう。
まあ、この狼がたまたまあの学校にたどり着いたりしたら、そうしようかな。
その後は……ハハ、何も思い浮かばねえや。誰にも会わなけりゃ、それが一番なんだろうなぁ……。
あれ?
それだと、死んじゃうのか。オレンジジュースになって。
死にたくねえよ。どうすりゃいいんだ? 死ななくても、どうにもならないんだろうけどな。
あーあ。誰か、俺を導いてくれよ。『団長』とかって腕章をつけた、ポニーテールが似合う無軌道凶悪女子高生とかさ。
全くどうして……。
「どうしてこんなことになったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!! 」
答えてくれる奴は、もちろんどこにもいなかった。
【G-5 草原/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大) 無気力
【持ち物】デイパック(支給品一式入り) ライガー@モンスターファーム~円盤石の秘密~
【思考】
1:もう何も考えたくない。
2:誰か俺を導いてくれ。
3:もし学校に着いたら、ハルヒを埋葬する。
【備考】
※「全てが元通りになる」という考えを捨てました。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※あと3~4時間程でライガーは消えます。ライガーはそれまで『キョンを安全な場所に運ぶ』為に行動します。
※ガイバーは使用不能になりました。以後使えるようになるかは後の書き手さんにお任せします。
『Mr.troll、何故……?』
「ヴォー……」
『彼の弱さに同情しているのなら、それは間違いです。彼は強い。この世で最も悪い方向に、ですが』
温泉へと戻りながら、ケリュケイオンは問い掛ける。
……理解不能。何故、あんなものに情けをかけるような真似をするのだろうか?
Mr.ライガーはあと数時間の命。Mr.キョンなどをどこかに運ぶことが最後の活動など、あまりに残酷だ。
Ms.高町たちから遠ざけると言う意味では、悪くないが……それより、彼女達にMr.キョンの事をどう話すかが問題だろう。
『Ms.ヴィヴィオ……』
Mr.キョンが襲ったという、Ms.高町の娘。
これを聞いて、Ms.高町がどういう行動を取るかは大方予測できる。
Ms.スバルが重傷の今(更に、もうすぐ夜中だ)、戦力の分散は出来るだけ避けたい。
言うべきか、言わざるべきか……。
インテリジェントデバイス、ケリュケイオンは、早くもキョンをメモリーから消しつつ、深く考えるのであった。
【G-4 草原/一日目・夜】
【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム~円盤石の秘密~
円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム~円盤石の秘密~、デイバッグにはいった大量の水
フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます。
*時系列順で読む
Back:[[カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ]] Next:[[彼女らのやったコト]]
*投下順で読む
Back:[[カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ]] Next:[[彼女らのやったコト]]
|[[ピエロのミセリコルディア ]]|キョン|[[どうしてこうなった]]|
|~|トトロ|[[war war! stop it]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: