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「ザ・ネゴシエーター」(2010/07/01 (木) 17:39:15) の最新版変更点
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*ザ・ネゴシエーター ◆NIKUcB1AGw
明かりといえば天空の星しかない暗闇の中を、漆黒の鎧を身にまとった青年が歩いている。
ガイバーⅢに殖装した古泉一樹、その人である。
彼の背中には、意識を失ったままのキン肉万太郎が背負われている。
すでに古泉が彼を気絶させてから相当の時間が経過しているが、万太郎が目覚める気配は全くない。
いかに人類を遙かに超越した超人の肉体であろうと、このバトルロワイアルにおける連戦がもたらしたダメージと疲労は堪えているのだろう。
古泉にとって、これは好都合であった。
万太郎が意識を取り戻せば、またおのれのコンディションを顧みず無茶をしようとするだろう。
しかし、当然ながら意識がなければ無茶をすることもできない。
古泉としては、このままできる限り気絶した状態で体力を回復してもらいたいのである。
とはいっても万太郎の回復を待つだけなら、こうしてわざわざ気絶した彼を背負って移動する必要はない。
ならばなぜ古泉がこんなことをしているのかといえば、悪魔将軍から少しでも距離を取るためだ。
むろん、彼が自分たちから離れていったのは確認済みである。
だが、超人は純粋な体力のみならず五感においても人間のそれを大きく上回っている。
些細なことでこちらの居場所を突き止められてしまうことも、あり得ないとは言い切れないのだ。
だから古泉は目立たぬようガイバーの飛行能力も使わず、地道に自分の足で歩き続けているのである。
ひたすら歩き続けて、どのくらいの時間が経っただろうか。
いいかげん疲労感に苛まれてきた古泉の視界に、一つの建築物が飛び込んできた。
D-7、山小屋である。
(そういえば、朝比奈さんが殺されたのはこの辺りでしたか……)
友人の無惨な死に様を思い出し、古泉の中で改めて憎悪の炎が燃え始める。
だが、今それを燃やしたところでどうしようもない。
憎悪を爆発させるのは、悪魔将軍の前に立つまで待たねばならないのだ。
胸の高ぶりを抑え込むと、古泉はまっすぐに山小屋へと向かう。
建物の中なら、さすがに悪魔将軍も探知できまい。一休みするにはうってつけの場所だ。
(とはいえ、気は抜けませんね……)
屋内が休むのに適した場所であることは、よほど常識が欠落した人間でなければ誰でもわかることだ。
すなわち、誰か先客がすでに山小屋の中で休んでいる可能性がある。
殺し合いに乗った人間がそこにいれば、戦闘は避けられない。
いたのが殺し合いに乗っていない人間だったとしても、向こうが自分の悪評を聞きつけていれば話がややこしくなるのは確実だ。
ここは誰もいないというのがもっと無難なパターンである。
だが、世の中そう都合よく行かないということは古泉も十分に理解している。
小屋に入ったとたん襲撃されてもいいよう、古泉は充分に警戒心を高める。
そして、素早くドアを開けた。
「!」
小屋の入り口が開け放たれたとたん、古泉を襲ったのは鋭いハイキック。
だがあらかじめ警戒していた古泉は、なんとかその攻撃を腕で防御する。
「ちぃっ! 防がれたか! どうやら馬鹿ではないようだな……!」
忌々しげな台詞が、古泉の耳に届く。古泉は、その声に聞き覚えがあった。
「あなたは……オメガマン!」
「ん? そういう貴様は……ガイバーⅢ!」
オメガマンの方も、すぐに相手が古泉であることに気づいたらしい。
すぐさまバックステップを見せ、間合いを取り直す。
「おのれ、悪魔将軍! もう追っ手を差し向けてきたか! ……いや、ちょっと待て。
お前たちが向かった方向を考えると、ここにいるのは不自然じゃないか?
わざわざお前等を呼び戻すより、将軍が直々に来た方がよっぽど早い。
それによく見れば、そっちの豚面はキン肉万太郎じゃないか。
お前、なんで抹殺命令を出された奴と一緒にいるんだ?」
当初は古泉のことを悪魔将軍が送り込んだ追っ手と考えていたオメガマンだったが、状況を整理するとそれでは辻褄が合わないことに気づく。
「単純なことです。俺もあなたのように、将軍を裏切ったのですよ」
「……! 貴様、なぜ俺が将軍を裏切ったことを……」
「それも単純です。将軍がそう言っていたのを、マイクで拾ったのです」
「なるほどな」
単純明快な古泉の説明に、オメガマンは素直にうなずいてみせる。
「そういうわけですから、現状において俺があなたと戦う理由は特にありません。
むしろ、あなたには協力を仰ぎたい。いえ……取引をしたいといった方が適切でしょうか」
「取引……? まあいい、ひとまず話を聞いてやろう。中に入れ」
「では、お言葉に甘えまして」
山小屋の内部に自分を招くオメガマンに従い、古泉は屋内に足を踏み入れる。
万太郎を適当な場所に寝かせると、古泉はオメガマンと向かい合って腰を下ろした。
「それじゃあ聞かせてもらおうか。取引っていうのはどういうことだ?」
「ええ、それではお話ししましょう」
オメガマンに対し、古泉は自分の計画を伝える。
将軍にタッグマッチの試合を申し込んだこと。しかし実際には、試合開始前に奇襲を仕掛け将軍を葬り去るつもりであること。
「……というわけでして、あなたにもこの計画に参加していただきたいのですよ」
「クックック……。グオーッフォッフォッフォ!」
古泉の計画を聞かされたオメガマンは、突如として笑い出した。
予想外の状況に困惑する古泉だが、そこに笑いを止めたオメガマンの陰湿な声が浴びせられる。
「試合前の超人を襲うなんてのは、紙に書かれたルールよりももっと根本的な、いわば超人レスリングの『掟』に反する行為!
それをやっちまおうとは……。お前さん、そんじょそこらの半端な悪行超人よりよっぽど外道だぜー!!」
「俺は超人レスラーではありませんからね……。掟だなんだと言われても、どうも思いませんよ」
外道に外道呼ばわりされる屈辱に内心不快感を覚えつつも、古泉はあくまで平静を装って淡々と言う。
「ククク、まあいいさ。たしかに、面白い計画だ。だが、俺がそれに参加すると思ってるのか?
俺にとってはここにいる連中を皆殺しにするのが最終目的だ。それだけで俺には、お前と戦う理由がある。
だが、お前に協力する理由はないんだぜ~?」
「いえ、ありますね」
脅すように告げるオメガマンだったが、それを受けても古泉はあくまで冷静だった。
「俺はプロレスに詳しくはありませんが、プロレスの方のバトルロイヤルではまず強豪選手に集中攻撃を浴びせて敗退させるのが常套手段なのでしょう?
優勝を狙うなら、他の参加者と一時休戦して優勝候補である将軍を潰しておくのも悪くない策だと思いますが。
それに……あなたは個人的にも将軍に対して腹に据えかねるものがあったのでしょう?
でなければ、わざわざ裏切る必要がない。
彼への復讐のために俺の計画を利用すると考えればいいのではないでしょうか」
「ククク……。いいところついてくるじゃねえか、お前」
古泉の言葉は、実に的を射たもの。思わず、オメガマンは仮面の下でくぐもった笑いを漏らす。
「たしかに俺は、あの野郎が気にいらねえ。下等超人の分際で、完璧超人である俺様を顎で使いやがって……。
あいつを殺せるんだったら、お前たちをここで始末せずに生かしておくのも悪くないな」
「ええ、その通りです。我々に信頼関係などありませんし、これから築けるわけもない。
ですが、お互いを利用し合うという形であれば手を組める。
何せ相手は自分のために働くわけですから、全力を出す。ある意味では信用できるわけです」
「まったくだ。この俺を納得させるとは、お前もたいした話術の使い手じゃねえか」
「それはどうも。人を言いくるめることに関しては、少々自信がありますので」
オメガマンの口から漏れるのは、古泉の交渉術に対する賛美の言葉。
だがそれを受けても古泉に喜びの色はなく、淡々とした口ぶりで礼を言うのみだ。
「だがしかし、お前の作戦には一つ大きな問題点がある。それに気づいているのか?」
「さて、何でしょうか」
「俺とあいつが、もう一度同じ陣営に属するのはあり得ないということだ」
そう言いながらオメガマンが指さすのは、未だ目を覚まさない万太郎だ。
「先程のタッグマッチではあいつと組んだが、それはあくまで将軍の野郎に逆らえない状況だったからだ。
この誇り高き完璧超人であるオメガマン様が、もう一度正義超人ごときと手を組むなんてのはごめんだぜ。
万太郎から見ても、多分そうだ。何せ俺は、こいつの知り合いを殺した張本人だからな~」
「……何だ、そんなことでしたか」
オメガマンの指摘に対し、古泉はさもつまらなそうに言い返す。
その反応に明らかに機嫌を損ねるオメガマンだったが、古泉はそれを気にすることなくさらに言葉を続けた。
「手を組むと言っても、ずっと一緒にいる必要はありません。
幸い、万太郎さんは現在意識を失っています。俺が何も言わなければ、ここで俺とあなたが会ったことには気づかない。
あなたはどこかで試合のことを聞きつけ、絶好のタイミングで横槍を入れてくる。
少なくとも表向きは、俺とあなたの同盟など存在しない。そういうことです。
何なら、将軍を倒したあとすぐに俺たちを襲ってもかまいませんよ?
むろん、そちらがそうしてもいいというだけであって、そんなことになれば俺も全力で抵抗しますが」
「なるほどなあ。真相はともかく、表向きはそれぞれが好きに行動した結果ってことになるわけか……。
まだ釈然としないものはあるが、正義超人とべったり一緒に行動するよりはいくらかましか」
すでにオメガマンの不機嫌な様子は、だいぶ目立たなくなっていた。
古泉の言い分に納得しているようだ。
「つまり俺はここで万太郎の奴が目覚める前にお前たちと別れ、9時前に湖のリングに戻って悪魔将軍の野郎を襲撃する。
それでいいんだな?」
「そういうことになりますね。ああ、できれば将軍打倒に参加してくれる参加者を集めてくれれば助かります」
「数を集めて袋だたきか……。やはりお前はそうとうな外道だな」
「何とでも言ってください」
オメガマンの挑発じみた言動を、古泉は軽くあしらう。
だがオメガマンの次の発言は、彼の中に大きな動揺をもたらした。
「別に戦力を集めてやってもいいが……。役に立ちそうもない奴は殺させてもらうぜ。それでもいいか?」
「!」
「おいおい、どうした? 言っただろう、俺はもともとお前等を皆殺しにする予定だとな。
将軍を倒すために貴様らはまだ生かしておいてやるが、戦力にならない奴はさっさと殺しておいた方があとで楽だろう?」
これまで全てを冷静に流していた古泉の見せたかすかな同様がよほど嬉しいのか、弾んだ声でオメガマンは言う。
彼の言葉に対し、古泉はわずかな間を挟んで答を返した。
「かまいませんよ。俺にとっても、役立たずがいくら生き残ろうと邪魔なだけですから」
言ってしまってから、古泉はおのれの言葉に驚く。
虚勢であろうと方便であろうと、そんな残虐な言葉を口にできてしまったことに。
「グオーッフォッフォッフォ! よくぞ言ってくれた! やはり貴様は本物の外道だ!」
そんな古泉の葛藤を知ってか知らずか、オメガマンは高らかに笑う。
古泉はその耳障りな笑い声に強い苛立ちを感じつつも、表面上はできる限り平静を装おうとしていた。
「ですが、条件を付けさせてもらいます。朝倉涼子と高町なのは、この二人には手を出さないでいただきたい。
同行者がいれば、その人たちにもです。彼女たちは今の俺にとって、ぜひとも欲しい存在なのです。
死なれたり機嫌を損ねられたりしては困るのですよ」
「ほう。まあその条件を呑んでやってもいいが……」
オメガマンが最後まで言い切る前に、古泉は何かを彼の前に放り投げる。
それは、リボルバーとその予備弾だった。
「条件を呑んでいただく報酬はそれということで……。いかがですか?」
「話が早いな。少々物足りないが……。まあこれで手を打っておくぜ」
薄ら笑いを浮かべると、オメガマンは受け取った拳銃を自分のデイパックにしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
殖装を解除し、久々に本来の姿に戻った古泉は大きく深呼吸を行う。
ガイバーの姿から元に戻ったことに、特に意味はない。
だが心を落ち着けるために、彼は人間の姿に戻ることを望んでいた。
たった十分やそこらの交渉だというのに、古泉は徹夜でもしたかのような疲労感に襲われていた。
何せ相手は、積極的に殺し合いに乗っている男だ。
結果的には協力を取り付けられたが、いつ交渉が決裂して戦闘となってもおかしくなかったのである。
そのオメガマンは、すでにここにはいない。数分前に、すでに山小屋を発っていた。
ちなみにどちらが山小屋に残るかで一悶着あったのだが、最終的にはオメガマンの方が出て行くことになった。
(少し休息を取りたいところですが……。そういうわけにもいかないんですよね……)
大きく溜め息を漏らす古泉。彼にはまだ、やるべき事が残っているのだ。
ある意味、オメガマンよりも扱いが難しいかも知れない男の説得という大仕事が。
「ん……? あれ、ここは」
タイミングよく、その男が目を覚ます。ここで行われた密談のことなどまったく知らぬ、正義超人の若者が。
「おはようございます、万太郎さん。といっても、今は真夜中ですが。
まあ、そんなことはどうでもいいとして……。さっそくお話しといきましょうか」
顔に笑みを貼り付けつつ、古泉は新たな仕事を開始した。
【D-7 山小屋/一日目・夜中】
【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(中) 勃起
【持ち物】ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.あれ? ここどこ?
1.悪魔将軍を倒し、ガイバーを解放する。
2.危険人物の撃退と弱者の保護。
3.夏子たちと合流する。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前からの参戦です。
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、みくるの首輪、
デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、 ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
基本セット(食料を三人分消費) 、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
高性能指向性マイク@現実、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子、高町なのはを優先。
3.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
4.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
【D-7/一日目・夜中】
【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1~2、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、
夏子のメモ、スーパーアンチバリア発生装置@ケロロ軍曹×4、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発
【思考】
1:皆殺し。
2:今のところは、古泉の策に乗っておく。
3:街及び島の西方面を探索して参加者を探し、殺す。
4:完璧超人としての誇りを取り戻す。
5:スエゾーは必ず殺す。
6:スバルナカジマンにも雪辱する。
7:悪魔将軍にも復讐する。
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
*時系列順で読む
Back:[[でこぼこカルテット(後編)]] Next:[[僕はここにいる、今を生きていく]]
*投下順で読む
Back:[[寸善尺魔~善と悪の狭間、あるいは慮外にて~]] Next:[[僕はここにいる、今を生きていく]]
|[[鎧袖一触~鎧は殴るために在る~]]|キン肉万太郎|[[]]|
|~|古泉一樹|~|
|[[将軍様へのGE・KO・KU・ZYO]]|ジ・オメガマン|[[魑魅魍魎~草の根分けるは鬼にあらず~]]|
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*ザ・ネゴシエーター ◆NIKUcB1AGw
明かりといえば天空の星しかない暗闇の中を、漆黒の鎧を身にまとった青年が歩いている。
ガイバーⅢに殖装した古泉一樹、その人である。
彼の背中には、意識を失ったままのキン肉万太郎が背負われている。
すでに古泉が彼を気絶させてから相当の時間が経過しているが、万太郎が目覚める気配は全くない。
いかに人類を遙かに超越した超人の肉体であろうと、このバトルロワイアルにおける連戦がもたらしたダメージと疲労は堪えているのだろう。
古泉にとって、これは好都合であった。
万太郎が意識を取り戻せば、またおのれのコンディションを顧みず無茶をしようとするだろう。
しかし、当然ながら意識がなければ無茶をすることもできない。
古泉としては、このままできる限り気絶した状態で体力を回復してもらいたいのである。
とはいっても万太郎の回復を待つだけなら、こうしてわざわざ気絶した彼を背負って移動する必要はない。
ならばなぜ古泉がこんなことをしているのかといえば、悪魔将軍から少しでも距離を取るためだ。
むろん、彼が自分たちから離れていったのは確認済みである。
だが、超人は純粋な体力のみならず五感においても人間のそれを大きく上回っている。
些細なことでこちらの居場所を突き止められてしまうことも、あり得ないとは言い切れないのだ。
だから古泉は目立たぬようガイバーの飛行能力も使わず、地道に自分の足で歩き続けているのである。
ひたすら歩き続けて、どのくらいの時間が経っただろうか。
いいかげん疲労感に苛まれてきた古泉の視界に、一つの建築物が飛び込んできた。
D-7、山小屋である。
(そういえば、朝比奈さんが殺されたのはこの辺りでしたか……)
友人の無惨な死に様を思い出し、古泉の中で改めて憎悪の炎が燃え始める。
だが、今それを燃やしたところでどうしようもない。
憎悪を爆発させるのは、悪魔将軍の前に立つまで待たねばならないのだ。
胸の高ぶりを抑え込むと、古泉はまっすぐに山小屋へと向かう。
建物の中なら、さすがに悪魔将軍も探知できまい。一休みするにはうってつけの場所だ。
(とはいえ、気は抜けませんね……)
屋内が休むのに適した場所であることは、よほど常識が欠落した人間でなければ誰でもわかることだ。
すなわち、誰か先客がすでに山小屋の中で休んでいる可能性がある。
殺し合いに乗った人間がそこにいれば、戦闘は避けられない。
いたのが殺し合いに乗っていない人間だったとしても、向こうが自分の悪評を聞きつけていれば話がややこしくなるのは確実だ。
ここは誰もいないというのがもっと無難なパターンである。
だが、世の中そう都合よく行かないということは古泉も十分に理解している。
小屋に入ったとたん襲撃されてもいいよう、古泉は充分に警戒心を高める。
そして、素早くドアを開けた。
「!」
小屋の入り口が開け放たれたとたん、古泉を襲ったのは鋭いハイキック。
だがあらかじめ警戒していた古泉は、なんとかその攻撃を腕で防御する。
「ちぃっ! 防がれたか! どうやら馬鹿ではないようだな……!」
忌々しげな台詞が、古泉の耳に届く。古泉は、その声に聞き覚えがあった。
「あなたは……オメガマン!」
「ん? そういう貴様は……ガイバーⅢ!」
オメガマンの方も、すぐに相手が古泉であることに気づいたらしい。
すぐさまバックステップを見せ、間合いを取り直す。
「おのれ、悪魔将軍! もう追っ手を差し向けてきたか! ……いや、ちょっと待て。
お前たちが向かった方向を考えると、ここにいるのは不自然じゃないか?
わざわざお前等を呼び戻すより、将軍が直々に来た方がよっぽど早い。
それによく見れば、そっちの豚面はキン肉万太郎じゃないか。
お前、なんで抹殺命令を出された奴と一緒にいるんだ?」
当初は古泉のことを悪魔将軍が送り込んだ追っ手と考えていたオメガマンだったが、状況を整理するとそれでは辻褄が合わないことに気づく。
「単純なことです。俺もあなたのように、将軍を裏切ったのですよ」
「……! 貴様、なぜ俺が将軍を裏切ったことを……」
「それも単純です。将軍がそう言っていたのを、マイクで拾ったのです」
「なるほどな」
単純明快な古泉の説明に、オメガマンは素直にうなずいてみせる。
「そういうわけですから、現状において俺があなたと戦う理由は特にありません。
むしろ、あなたには協力を仰ぎたい。いえ……取引をしたいといった方が適切でしょうか」
「取引……? まあいい、ひとまず話を聞いてやろう。中に入れ」
「では、お言葉に甘えまして」
山小屋の内部に自分を招くオメガマンに従い、古泉は屋内に足を踏み入れる。
万太郎を適当な場所に寝かせると、古泉はオメガマンと向かい合って腰を下ろした。
「それじゃあ聞かせてもらおうか。取引っていうのはどういうことだ?」
「ええ、それではお話ししましょう」
オメガマンに対し、古泉は自分の計画を伝える。
将軍にタッグマッチの試合を申し込んだこと。しかし実際には、試合開始前に奇襲を仕掛け将軍を葬り去るつもりであること。
「……というわけでして、あなたにもこの計画に参加していただきたいのですよ」
「クックック……。グオーッフォッフォッフォ!」
古泉の計画を聞かされたオメガマンは、突如として笑い出した。
予想外の状況に困惑する古泉だが、そこに笑いを止めたオメガマンの陰湿な声が浴びせられる。
「試合前の超人を襲うなんてのは、紙に書かれたルールよりももっと根本的な、いわば超人レスリングの『掟』に反する行為!
それをやっちまおうとは……。お前さん、そんじょそこらの半端な悪行超人よりよっぽど外道だぜー!!」
「俺は超人レスラーではありませんからね……。掟だなんだと言われても、どうも思いませんよ」
外道に外道呼ばわりされる屈辱に内心不快感を覚えつつも、古泉はあくまで平静を装って淡々と言う。
「ククク、まあいいさ。たしかに、面白い計画だ。だが、俺がそれに参加すると思ってるのか?
俺にとってはここにいる連中を皆殺しにするのが最終目的だ。それだけで俺には、お前と戦う理由がある。
だが、お前に協力する理由はないんだぜ~?」
「いえ、ありますね」
脅すように告げるオメガマンだったが、それを受けても古泉はあくまで冷静だった。
「俺はプロレスに詳しくはありませんが、プロレスの方のバトルロイヤルではまず強豪選手に集中攻撃を浴びせて敗退させるのが常套手段なのでしょう?
優勝を狙うなら、他の参加者と一時休戦して優勝候補である将軍を潰しておくのも悪くない策だと思いますが。
それに……あなたは個人的にも将軍に対して腹に据えかねるものがあったのでしょう?
でなければ、わざわざ裏切る必要がない。
彼への復讐のために俺の計画を利用すると考えればいいのではないでしょうか」
「ククク……。いいところついてくるじゃねえか、お前」
古泉の言葉は、実に的を射たもの。思わず、オメガマンは仮面の下でくぐもった笑いを漏らす。
「たしかに俺は、あの野郎が気にいらねえ。下等超人の分際で、完璧超人である俺様を顎で使いやがって……。
あいつを殺せるんだったら、お前たちをここで始末せずに生かしておくのも悪くないな」
「ええ、その通りです。我々に信頼関係などありませんし、これから築けるわけもない。
ですが、お互いを利用し合うという形であれば手を組める。
何せ相手は自分のために働くわけですから、全力を出す。ある意味では信用できるわけです」
「まったくだ。この俺を納得させるとは、お前もたいした話術の使い手じゃねえか」
「それはどうも。人を言いくるめることに関しては、少々自信がありますので」
オメガマンの口から漏れるのは、古泉の交渉術に対する賛美の言葉。
だがそれを受けても古泉に喜びの色はなく、淡々とした口ぶりで礼を言うのみだ。
「だがしかし、お前の作戦には一つ大きな問題点がある。それに気づいているのか?」
「さて、何でしょうか」
「俺とあいつが、もう一度同じ陣営に属するのはあり得ないということだ」
そう言いながらオメガマンが指さすのは、未だ目を覚まさない万太郎だ。
「先程のタッグマッチではあいつと組んだが、それはあくまで将軍の野郎に逆らえない状況だったからだ。
この誇り高き完璧超人であるオメガマン様が、もう一度正義超人ごときと手を組むなんてのはごめんだぜ。
万太郎から見ても、多分そうだ。何せ俺は、こいつの知り合いを殺した張本人だからな~」
「……何だ、そんなことでしたか」
オメガマンの指摘に対し、古泉はさもつまらなそうに言い返す。
その反応に明らかに機嫌を損ねるオメガマンだったが、古泉はそれを気にすることなくさらに言葉を続けた。
「手を組むと言っても、ずっと一緒にいる必要はありません。
幸い、万太郎さんは現在意識を失っています。俺が何も言わなければ、ここで俺とあなたが会ったことには気づかない。
あなたはどこかで試合のことを聞きつけ、絶好のタイミングで横槍を入れてくる。
少なくとも表向きは、俺とあなたの同盟など存在しない。そういうことです。
何なら、将軍を倒したあとすぐに俺たちを襲ってもかまいませんよ?
むろん、そちらがそうしてもいいというだけであって、そんなことになれば俺も全力で抵抗しますが」
「なるほどなあ。真相はともかく、表向きはそれぞれが好きに行動した結果ってことになるわけか……。
まだ釈然としないものはあるが、正義超人とべったり一緒に行動するよりはいくらかましか」
すでにオメガマンの不機嫌な様子は、だいぶ目立たなくなっていた。
古泉の言い分に納得しているようだ。
「つまり俺はここで万太郎の奴が目覚める前にお前たちと別れ、9時前に湖のリングに戻って悪魔将軍の野郎を襲撃する。
それでいいんだな?」
「そういうことになりますね。ああ、できれば将軍打倒に参加してくれる参加者を集めてくれれば助かります」
「数を集めて袋だたきか……。やはりお前はそうとうな外道だな」
「何とでも言ってください」
オメガマンの挑発じみた言動を、古泉は軽くあしらう。
だがオメガマンの次の発言は、彼の中に大きな動揺をもたらした。
「別に戦力を集めてやってもいいが……。役に立ちそうもない奴は殺させてもらうぜ。それでもいいか?」
「!」
「おいおい、どうした? 言っただろう、俺はもともとお前等を皆殺しにする予定だとな。
将軍を倒すために貴様らはまだ生かしておいてやるが、戦力にならない奴はさっさと殺しておいた方があとで楽だろう?」
これまで全てを冷静に流していた古泉の見せたかすかな同様がよほど嬉しいのか、弾んだ声でオメガマンは言う。
彼の言葉に対し、古泉はわずかな間を挟んで答を返した。
「かまいませんよ。俺にとっても、役立たずがいくら生き残ろうと邪魔なだけですから」
言ってしまってから、古泉はおのれの言葉に驚く。
虚勢であろうと方便であろうと、そんな残虐な言葉を口にできてしまったことに。
「グオーッフォッフォッフォ! よくぞ言ってくれた! やはり貴様は本物の外道だ!」
そんな古泉の葛藤を知ってか知らずか、オメガマンは高らかに笑う。
古泉はその耳障りな笑い声に強い苛立ちを感じつつも、表面上はできる限り平静を装おうとしていた。
「ですが、条件を付けさせてもらいます。朝倉涼子と高町なのは、この二人には手を出さないでいただきたい。
同行者がいれば、その人たちにもです。彼女たちは今の俺にとって、ぜひとも欲しい存在なのです。
死なれたり機嫌を損ねられたりしては困るのですよ」
「ほう。まあその条件を呑んでやってもいいが……」
オメガマンが最後まで言い切る前に、古泉は何かを彼の前に放り投げる。
それは、リボルバーとその予備弾だった。
「条件を呑んでいただく報酬はそれということで……。いかがですか?」
「話が早いな。少々物足りないが……。まあこれで手を打っておくぜ」
薄ら笑いを浮かべると、オメガマンは受け取った拳銃を自分のデイパックにしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
殖装を解除し、久々に本来の姿に戻った古泉は大きく深呼吸を行う。
ガイバーの姿から元に戻ったことに、特に意味はない。
だが心を落ち着けるために、彼は人間の姿に戻ることを望んでいた。
たった十分やそこらの交渉だというのに、古泉は徹夜でもしたかのような疲労感に襲われていた。
何せ相手は、積極的に殺し合いに乗っている男だ。
結果的には協力を取り付けられたが、いつ交渉が決裂して戦闘となってもおかしくなかったのである。
そのオメガマンは、すでにここにはいない。数分前に、すでに山小屋を発っていた。
ちなみにどちらが山小屋に残るかで一悶着あったのだが、最終的にはオメガマンの方が出て行くことになった。
(少し休息を取りたいところですが……。そういうわけにもいかないんですよね……)
大きく溜め息を漏らす古泉。彼にはまだ、やるべき事が残っているのだ。
ある意味、オメガマンよりも扱いが難しいかも知れない男の説得という大仕事が。
「ん……? あれ、ここは」
タイミングよく、その男が目を覚ます。ここで行われた密談のことなどまったく知らぬ、正義超人の若者が。
「おはようございます、万太郎さん。といっても、今は真夜中ですが。
まあ、そんなことはどうでもいいとして……。さっそくお話しといきましょうか」
顔に笑みを貼り付けつつ、古泉は新たな仕事を開始した。
【D-7 山小屋/一日目・夜中】
【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(中) 勃起
【持ち物】ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.あれ? ここどこ?
1.悪魔将軍を倒し、ガイバーを解放する。
2.危険人物の撃退と弱者の保護。
3.夏子たちと合流する。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前からの参戦です。
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、みくるの首輪、
デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、 ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
基本セット(食料を三人分消費) 、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
高性能指向性マイク@現実、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子、高町なのはを優先。
3.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
4.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
【D-7/一日目・夜中】
【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1~2、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、
夏子のメモ、スーパーアンチバリア発生装置@ケロロ軍曹×4、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発
【思考】
1:皆殺し。
2:今のところは、古泉の策に乗っておく。
3:街及び島の西方面を探索して参加者を探し、殺す。
4:完璧超人としての誇りを取り戻す。
5:スエゾーは必ず殺す。
6:スバルナカジマンにも雪辱する。
7:悪魔将軍にも復讐する。
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[鎧袖一触~鎧は殴るために在る~]]|キン肉万太郎|[[ハジカレテ……ハジカレテ……]]|
|~|古泉一樹|~|
|[[将軍様へのGE・KO・KU・ZYO]]|ジ・オメガマン|[[魑魅魍魎~草の根分けるは鬼にあらず~]]|
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