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「殖装、ガイバーⅨ!」(2008/11/14 (金) 16:18:36) の最新版変更点
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*殖装、ガイバーⅨ! ◆Mpg2bVkbfc
Act1 ギュオー
―――なぜ、俺がここにいる?
リヒャルト・ギュオーがこの殺し合いの会場に転送された時、まっさきに抱いた感想がそれだった。
ギュオーは、頭を押さえ、過去を反芻する。
そうだ、俺はアルカンフェルを倒したと思ったのだ。
だが突如再び現れた獣神変したアルカンフェルにゾアロード・クリスタルをくりぬかれそうになって……
突然目の前が暗転したかと思えばあの場所にいて……
あのわけのわからない男に殺し合いをしろと言われて……
そっと首を触れる。そこには、冷たい金属が巻かれていた。
これが、自分たちに殺し合いをさせるためにつけられた道具ということだろう。
反逆すれば、自分もあのガキのように液体に変えられる。なんてことだ、とギュオーは吐き捨てた。
これのどこが世界を統べる12人の獣神将だ。今の自分は首輪をつけられたただの犬――ただの獣ではないか。
つい昨日までは何かもがうまく回っていた。
アルカンフェルなど現れず、リムーバーは解析され、ガイバーどもはノコノコと自分のもとへと誘われてきていた。
だと言うのに今のこれはなんだと言うのだ。
無意識に、ギュオーは唾を飲み込んでいた。
脳裏に浮かぶのは、圧倒的な恐怖。それは、このデスゲームを開催する小男へではない。
このデスゲームに参加する直前出会った、あの男――アルカンフェル。
出会った瞬間走った悪寒と冷たい汗。ただ、ひたすらに本能が生存のために服従しろと警告する圧倒的存在感が、けして脳裏から離れない。
死を完全に覚悟した次の瞬間にここに飛ばされたということは、自分はあの、『あの』アルカンフェルから逃れえたのだろうか。
額にまだ埋まっているゾアロード・クリスタルを感覚した。
これがあると言うことは、このデスゲームにクロノスはかかわってないことを示している。
もしかかわっているのなら、間違いなく自分はゾアロード・クリスタルをくりぬかれてからこのデスゲームに放り込まれているはずだ。
ふと、渡された道具の中から、名簿を取り出して眺めてみる。ほとんど知らない名前の合間に、いくつか知っている名前もあった。
が、アルカンフェルはいない。さしものあの小男も、アルカンフェルは手に余るとでも思ったのだろうか。
知っている名前は、3つ。
裏切り者のロストナンバーアプトム。配下の超獣化兵五人衆の一人、ゼクトール。そして……忌まわしいガイバーⅠこと深町 晶。
なんということだ。ガイバーがいるとしてもリムーバーがなければコントロールメタルを分離することはできない。
つまり、遭遇すれば殺すしかないということになる。これでは、何の意味もないではないか。
この場を生き残るのは容易なことだ。獣神将としての力を存分に発揮し、ガイバー含む虫けらをすべて押し潰すだけ。
適当に片端から殺しつくすだけで生きて帰れる。
だが帰ってどうなる。この場でコントロールメタルが得られないとなれば、アルカンフェルに対抗することは事実上不可能だ。
帰ったのち、クロノスから身を引き隠者として生きる? 勝てぬと知って反逆する?
どちらも意味はない。これでは死んでいるのと同じだ。
どっかとギュオーはその場に座り込んだ。
かといって、ここで死ぬのも……いやどこであろうとも死ぬのは論外だ。
叶わぬと知りつつ捨てきれぬ野心を燻らせたまま、ギュオーは自分に与えられた道具を確認し始めた。
紙にボールペン、さっき出した参加者名簿、それにランタンに……
戦う道具はまったく入っていない。どういうことだとギュオーがいぶかしんだ時、いちばん奥から分厚い紙束が出てきた。
何気なく手に取り、暗闇でよく見えぬ文字へ目を近づけて確認する。
「なに……?」
与えられた紙束の表紙に刻まれた文字は―――『詳細参加者名簿』だった。
Act2 ノーヴェ
「なんだよ……これ」
暗い森の中、ひとりごちた。彼女――ノーヴェからすれば、まさに青天の霹靂だろう。
ついさきほどまで、姉妹たちと話していたと思ったら……突然こんなところに連れてこられて殺し合いをしろと言われたのだから。
しばらくどうしても落ち着けず無為無策に歩いていたが、そのうちいくらか落ち着いてきた。
彼女は一つ大きく息を吸うと、ゆっくりと吐いた。
はっきり言って、この状況を飲み込めたわけではまったくない。
彼女の生みの親であるスカリエッティは、どれだけ激しい攻勢に出る時でも、可能な限り人を殺すことをよしとしなかった。
故に、彼女もまた人を殺すこともなく、殺されることもなく……戦闘の経験はあっても死というものを特別経験したことはないのだ。
それでも、一応事態は呑み込めた。当たり前の話だが、死ぬのはいやだ。だが、人を殺すのも正直、彼女はいい気もしてなかった。むしろ、嫌悪感などのほうが強い。
とりあえず人を殺すかどうか保留、けどできるなら避ける――そんな決定をだせば、心の荒れも治まってくると言うわけだ。
「っよし……」
掛け声を出して、自分を鼓舞する。
彼女は、心の中であの男と少女を思いっきり蹴り飛ばすシーンをイメージする。うん、やっぱこっちのほうがしっくりくる。
自分が殺し合うよりも、他人ととりあえず協力して、あの二人をぶっ飛ばすところのほうが、よっぽど簡単に想像できた。
人を殺す必要なんてない、あの二人だけを蹴り飛ばせば済む。彼女はバックをひっつかむと、誰か人を探すことにした。
『あの二人を一緒に蹴り飛ばしてくれる』仲間を探して。
30分後――
森の中を、彼女が走っていると、人影が視界の陰に移った。
ふと、足を止めて木の陰から誰かのぞいてみる。……十中八九知らない人間だろうからあまり意味はないかもしれないが。
そこにいたのは、白髪で、黒い肌をした男だった。年はかなりいっており、40~50代くらいに見える。
手元の紙に視線を落したまま、黙々とそれを見ていた。時々、その紙をめくる音だけがそこらに生えた樹の葉が擦れる音に混じって響いている。
(なにしてんだ、いったい?)
そう思い、ちょっと多めに木から顔を出したときだった。鋭い目で、中年の男がこちらを見た。
慌てて、ノーヴェは顔を引っ込める。この暗闇の上、森の中だ。こっちには、気付いてないとノーヴェは思う。
もう一度ちらりと確認すると……白い髪に、黒い肌の男の目が、浮き出るみたいに暗闇の中爛々と光っていた。
「……戦闘機人ナンバーⅨ、ノーヴェ。時空管理局の世界群出身……」
「な……っ!?」
手元突然の紙をぱらぱらめくると、ノーヴェの名前をはっきり言い当てた。
――あのおっさん、こっちに気付いてるだけじゃない、こっちのことを知ってる!?
含みのある笑みを男がうかべる。しかしそれはすぐに、雷鳴のように周囲に響く高笑いに変わっていた。
「フハハハハハハハハハッ! 嬉しいぞ、本当に俺は運がいい! 他の世界を手に入れてアルカンフェルを倒す上で、一番会いたかった世界の人間にいきなり会えるとはな!」
なんだこいつとノーヴェが引いているのをよそに、ゆらりと男が立ち上がる。目からは、自信満々と言わんばかりに生気に満ち溢れていた。
「死ぬ前に、いろいろ聞かせてもらうぞ!」
男はすさまじく邪悪な笑みを浮かびながら、そう叫んだ。
「獣ッ! 神ッ! 変ッ!!」
男の叫び声に合わせて、その体からすごい勢いで光の柱が立ち上る。
一瞬昼になったかと思うほど、強い光の中から現れたのは……もう人間ではなかった。
銀色の体。筋肉隆々で、2mを余裕で超える身長。何本も角のようなものが頭から生えていて、体のあちこちに
ついた緑色の球が光っている。
「な、なんだお前!?」
思わず反射的に叫んだ自分の声に、変身したそれは、余裕の笑みを浮かべながら言った。
「元・クロノス最高幹部獣紳将……そして世界を統べる者、リヒャルト・ギュオーだ!」
次の瞬間、ノーヴェの体は後ろに吹き飛ぶ。体が後ろにのけぞるまでの僅かな間、視界に移ったのは、拳を突き出したギュオーだった。
「どうだ、重力指弾<グラビティ・ブレット>の味は!? 死んでは困るぞ、これでも20%の出力だからな!」
猫のように四肢をしならせ、両手両足を使って地面に着地する。
ギュオーは、余裕綽々とノーヴェに歩いてきていた。
「このっ!」
もちろん、ノーヴェもどんな時でもやられっぱなしになる趣味はない。即座に反撃の蹴りを放とうして――
「俺を相手にするにはまだ威力が足りんわっ!」
ギュオーが両手を前に突き出した瞬間、全身が見えない衝撃に打ち付けられた。
肩、腹、顔、足。どこも差別なく、同じ威力で同じように叩かれ、またも木の葉の如く空を舞う。
「どうした、今の重力衝撃波はかなり手加減してるのだぞ!? それでも戦闘用か?」
低くうなりつつ、焦りを顔に出すノーヴェを見て、ギュオーはさらに笑みを深める。
「見せてやろう、これが……攻撃だ!」
先ほどと同じようにギュオーが両手を前に突き出す。
やばい、あれをくらうとやばい――本能が強く訴えるまま、横に向かって彼女は全力で走りこんだ。
直後、自分の背後を通り抜けている破壊の轟音。音がやみ、振り返れば――そこにははるか先までなぎ倒された木々が広がっていた。
じゃり、と地面を踏みしめ、また歩く音が聞こえる。
勝てない。絶対に、こいつには勝てない。ガンナックルとジェットエッジがあったとしても……勝てる気がしない。
圧倒的なまでの暴虐。圧倒的なまでの力。
彼女は、突撃手だ。誰よりも恐怖を感じることなく、敵陣に突っ込むことを必要とされる存在なのだ。
だというのに、
――逃げろ。
全身がそう言っている。
こいつに一撃かましてやりたいという気持ちはある。やられっぱなしは最悪だとも思う。それでも――逃げるしかない。
それほど、絶望的な力の差。
背を向けるノーヴェを見て、ギュオーはさらに笑い声をあげる。
「逃げられると思うのか、この俺から!」
「いや、逃げる必要はないでしょう……ギュオー閣下」
その時、突然空から鉛筆を二回りも三回りも大きくしたような細長い物体が降り注いだ。
咄嗟に、ノーヴェは頭を下げる。次の瞬間、何重もの爆音が立て続けに鳴り響いた。
爆発が鳴りやみ、ゆっくりと彼女が頭をあげると――目の前には巨大な甲虫。
だがガリューとは、まるでフォルムが違う。ガリューが細身で戦闘機などを連想させるのに対して、こちらはずんぐりしており、戦車を連想させる。
何がモチーフかは彼女でも分かる。これは……カブトムシだ。
「貴様は……少し違うがゼクトールか!?」
ゼクトールと呼ばれたカブトムシが、一歩踏み出す。
「そうです、ギュオー閣下……いや裏切り者ギュオー。アプトムが戦ってるかと思えば、変わった奴と会うもんだな」
「ぐ……っ、超獣化兵ごときが偉そうな口を聞くな!」
裏切り者、という言葉に一瞬ギュオーは歯ぎしりしたが、次の瞬間笑みを取り戻しギュオーの額に埋め込まれた水晶が強く輝かせた。
ノーヴェは、その強い光に目を手で覆う。
「フハハハハっ! ウジ虫がっ! 所詮獣化兵では獣神将の思念コントロールに逃れられん!―――な」
ちかちかする中、どうにか目を凝らす。
そこには、殴りとばされたギュオーと……殴り飛ばしたカブトムシことゼクトール。
「貴様がまだゾアロード・クリスタルを持つことは驚きだが……あいにく今の俺に思念波は効かん!」
「なんだと!? 貴様、獣化兵ではないのか!?」
どうにかギュオーが踏み止まり、ゼクトールに拳を振るう。ノーヴェは、その拳がゼクトールに当たると思った。
殴り飛ばして、やや前倒な姿勢からではかわせないと思ったからだ。だが、次の瞬間起こったことはその予想を超えていた。
「今の俺は、ロスト・ナンバース! 逝った仲間たちの力を継ぐ為に生まれ変った!」
その重装で動きづらそうな巨体が、一瞬でかき消え、ギュオーの背後に回り込んでいた。速い。巨体とは裏腹にガリューを超える速度だ。
「ザンクルスの高速戦闘能力と高周波ブレード! エレゲンの電磁操作と電撃!
ガスターの液体爆薬と生体ミサイル! ダーゼルブの高熱火炎と超怪力! そして俺の熱線砲と飛行能力!
それらを数倍に増幅して身につけた俺は……ネオ・ゼクトールだ!」
再び、放たれるゼクトールの鉄拳。さらに、インパクトと同時に、ゼクトールの腕が開き、4本の赤い光を生み出した。
「ぐおおおっ!?」
背中を光に押されるように、ギュオーが吹き飛ぶ。
「知っていると思い、目を通してしなかったのは失敗だったか……だが俺に勝てると思うな!
俺は獣紳将最高の戦闘力を持つ男……神に最も近い男だぞ!」
ギュオーが、両手をまたも突き出す。あれだ、あの衝撃波だ――とノーヴェが思った瞬間、目の前を横薙ぎに衝撃が走った。
「甘い、ギュオー!」
カブトムシが、透明な翅を広げ、空を飛ぶ。そのまま、空中を滑空し、瓶の底を滑るように方向転換。
腕から伸びた剣を振りかぶり、ギュオーに叩きつけようとした。
しかし、ギュオーもすぐさまその場からとびすさり、剣から逃れる。
「アプトムを倒すために再調整された体のテストだ! 思念波を持つお前を倒せるのはクロノスでもロスト・ナンバースの俺と獣神将のお方たちのみ……
再調整されたバルカス様への礼も兼ねてギュオー、お前のゾアロード・クリスタルは回収させてもらう!」
「ほざくな! たかが最強の超獣化兵五人の力を増幅させて身につけただけで、このリヒャルト・ギュオーに勝てると思うな!」
完全に二人とも、ノーヴェのことなど眼中にない。
目の前で繰り広げられる信じられない規模の戦いを、ノーヴェは状況を飲み込めきれず呆然と見ていた。
ゼクトールの剣が、巨木を熱したナイフでバターを切るかのごとく両断した。
ギュオーの衝撃波が、地面をめくりあげ、木の葉を空高くまで巻き上げる。
強い光とともに離れたゼクトールの熱量が、風を起こし、周囲を黒ずみに変える。
ギュオーの鉄拳が、巨岩をたたき割った。
電撃が空を照らし、衝撃が大地を揺るがし、お互いの超パワーがぶつかり合う。
どちらも俊敏に走り続け、まだ目立った傷は負っていない。
巻き込まれれば一瞬で間違いなく絶命する。そんな予感がひしひしとした。
これは、逃げるチャンスだ。あのギュオーというほうが、ゼクトールに気を取られている間に逃げるべきだ。
ノーヴェがそう考えて戦いから背を向けようとしたとき――――
「ぐあっ!?」
ギュオーの衝撃波を受けて、ゼクトールが地面に叩きつけられた。
「まったく手間取らせおって……この俺にお前ごときのウジ虫が勝てるはずがないだろう!」
ギュオーの拳の球体から、光があふれる。握った拳に力を込めているのが露骨に分かる。
おそらくいちばん最初に使ったあれ、重力指弾<グラビティ・ブレット>を使うつもりだ。
ただ、多分威力は段違いだろう。本人が言うにはあれで20%らしいのだから。
別に、ゼクトールを気にする必要ない。どうやらあのカブトムシは自分を助けるためではなく、ギュオーを倒すために、姿を現したのだ。
自分を助けたような形になったのはきっと偶然だ。それに、自分がどうこうしたところで絶対にあのギュオーは倒せないだろう。
そうノーヴェの頭は考え行動に移そうとする。
が、次の瞬間彼女は、ギュオーを蹴り飛ばしていた。
見当違いの方向に充填された重力弾は飛んで行き、顎を思いきり蹴られたギュオーが地に伏した。
「この……ウジ虫がぁぁぁぁぁああああッッ!」
気の弱いものならそれだけで失神しかねないほどの殺気を瞳に込め、ギュオーがノーヴェを睨む。
思わず、気押されそうになるのを、どうにか耐える。
そう、逃げるべきだった。だと言うのに、彼女は思わず蹴り飛ばしていたのだ。
どんな形でも、助けた人間を見捨てるのは後味が悪いという思いはあった。だがそれより……やられっぱなしは性に合わない!
せめて一発でもかましてやる。脳で考えることではない、彼女の性格、気性に体が反応したのだ。
ギュオーが殺気立った様子で、力を無秩序に開放する。すると、全方向に衝撃波が放たれた。
「うあっ!」
だが、その威力は低い。制御せず、充填もせず放った一撃は、彼女の体をふき飛ばすのが精いっぱいだった。
空を舞うノーヴェの背に、硬い感触が当たる。見れば、それは黒光りする甲虫の外皮。
「無茶をする……どこの誰かは知らんが助かった」
そっとゼクトールがノーヴェを地面に下ろす。
「お前らウジ虫が束になろうと、この俺にかなわないと教えてやる!」
立ち上がったギュオーから、完全に笑みが消えた。仁王のごとく全身から戦意が立ち上るのが見えるような気がした。
「どうやら、今の俺でも勝てんようだな……」
ゼクトールが小さくつぶやく。おそらく、ノーヴェと同じくギュオーの本気さを感じ取ったのだろう。
「撤退したいが……難しいか。やるだけやってやる。……お前も逃げろ」
最後だけ声をひそめ、ノーヴェにだけ聞こえるようにゼクトールが言った。
ノーヴェも、小さく頷く。今はこれしかできなくても、そのこれしかできないことを達成したのだ。今度こそ、逃げる。
こちらに走りこんでくるギュオーを前に、ゼクトールは背中から生えた2本の鞭を目の前でぶつけた。
次の瞬間、鞭の交錯点から稲妻とともに目を焼く光がほとばしる!
ゼクトールが空へ飛ぶ。ノーヴェが地を走る。ギュオーは、目を押さえ、叫びをあげた。
「おの、れぇぇぇ!!」
だが、それでも獣神将であることは伊達ではない。充填なしで低威力の重力指弾を放つギュオー。狙いも何もなく放たれるそれは、どこにも当たらず―――いや。
でたらめに見える攻撃が正確にノーヴェとゼクトールを捕らえた。彼女は、咄嗟に自分の持っていたデイバックを盾にする。
バラバラになるディバック。中身が、足もとにばらまかれた。
時が、凍りついた。
ノーヴェは衝撃を受けて地面を転がりながらもその反動を使って立ち上がる。そして、気付いた。
空でゼクトールが。地でギュオーが。身動きせず、ただ一点を呆然と見つめている。
「馬鹿、な……あれは……」
ゼクトールの呻き。
「ガイバーⅠのモノも、ガイバーⅢのモノも、殖装された。Ⅱは破壊された……」
ギュオーの呟き。
見ているのは、バックから落ちたノーヴェの支給品。
直径30cmくらいの、円盤状のそれ。中央に金属の球体が光っている、三角形に近い六角形の物体。
二人の驚愕を引き起こしたモノ。それは―――
「「ガイバーの『ユニットG』だとっ!?」」
「あれさえ……あれさえあれば俺は最強の存在にっ!」
「絶対に渡さん! 裏切り者に、『ユニットG』を…… そこのやつ! 『ユニットG』を守れっ!」
ギュオーが、猛然と『ユニットG』と呼ぶものへ走りだした。同時に、ゼクトールもそれに向かって全速で飛び始める。
ゼクトールの声を受けて、ノーヴェもそれに飛びついた。あれだけ強いギュオーが、最強のどうこうと言っているのだ。
絶対に、渡したら大変なことになる!
すぐ側に落ちているその『ユニットG』の横を掴もうとするが、意外に大きすぎて焦りのためかつかみ損ねた。
ギュオーが、もうすぐ側だ。けど、これを渡して逃げるのはまずい。けれど………
「……!? やめろっ、それだけはやめろぉぉぉぉぉぉ!!」
ギュオーの絶叫。ノーヴェは、持ちにくい横ではなく、中心の金属の突起を掴む。
そう、『ユニット』スイッチである中央の金属突起を―――掴んだ。
「うわっ!? なんだ、なんだよ、これ!?」
蒼くぼんやりと『ユニットG』が光ったと思えば、ノーヴェの体に目の前の『ユニット』から伸びた触手が絡み付く。
引きちぎろうとしても、切れることなく体を包もうとしてくるそれに対してもがく。
だが、その拘束はどんどん強くなっていく。まるで――体の中に入ってくるように。
「い、息が、息ができな――!」
口も鼻も触手に覆われ、呼吸すらできなくなってノーヴェがあえぐ。
肩に何かが当たる……が触手がその衝撃を吸収した。
触手の合間から見えるのは、自分を守るように戦うゼクトールとギュオーの姿だった。
Act3 ゼクトール
ギュオーの放つ重力弾を、高周波ソードを使って正面から受け止める。
「せっかくの『ユニットG』を……よくもやってくれたな! 貴様も、何故あれを殺さん!? クロノスとしても今殺すべきだろうがぁ!?」
「知ったことかっ! どうせあと数日の命、アプトムを倒すためにもここで死ねん! そのためなら何でも俺はやる!」
ギュオーの猛攻を、防御に徹することでさばく。今、こいつから逃げるには、自分だけではだめだ。
もっと、力か手数がいる。それもないのなら……この場を乱す、自分とギュオー以外の力が必要。
ここでは死ねない。命すべてと引き換えに得たこの力は、アプトムを殺すための力なのだ。
こんなところで朽ち果てるわけにはいかない。
ギュオーの拳を、両腕を交差させ頭上で受け止める。だが、力勝負ではこちらが不利だった。
流石は獣神将、超獣化兵最強のパワーをもつダーゼルブを、数倍に高めた腕力でもなお力比べは向こうが上だ。
「なら、これでどうだ!」
ギュオーの死角から迫る、2本の電撃鞭がギュオーの足首に絡み付く。そのまま、電撃を流しながら思いきり引っ張る。
ギュオーは体制を崩しながらも、衝撃波を放ってきた。ギリギリで、額の熱線砲を使いそれを迎撃する。
下手に引けば、殖装中のガイバーを狙い打たれる。そうなれば、完全に退路は切れてしまう。
そのために、今は前に出るときだった。
ほぼ至近距離からの、腕力任せの殴り合い。
ギュオーは肉弾戦型としての耐久力が、そして自分は甲虫としての装甲があるため、お互い致命傷には全くならない。
だが、内部には徐々にダメージが蓄積する。
「ぐっ!?」
装甲に、ひびは入っていない。だが……ついに足に来た。膝を着くと、ギュオーも荒い息をしながら口の端をつりあげた。
「これで終わりだっ! 死ね――――」
「いや、時間だ!」
視界の陰に移る、赤い影。
先ほどとまったく同じように、横やりから飛び膝蹴りがギュオーに決まった。今度は、さっきと違い肩だが……そのダメージはけた違いだろう。
なぜなら、蹴りを放った相手が……ガイバーだからだ。いや、そう言う問題じゃない。その威力はすさまじかった。
一蹴りで、50m以上、ギュオーを吹き飛ばしたのだ。これほどのパワーを持ったガイバーは見たことがない。
信じられないほどのパワーをこのガイバーは持っている。
そのガイバーは、ガイバーⅢに酷似しているが深紅色をしていた。肩などは少し細い。
蹴り飛ばされた向こうで、ギュオーがおき上がる。とんでもないタフネスだ。
「『ガイバー』! ここから逃げるぞ! 協力しろ!」
「『ガイバー』? あたしのことか?」
そう言いながら、自分の体を眺めているガイバー。どうやら、自分がどうなったかを確認する前に、いきなりギュオーに蹴りを叩き込んだようだ。
たいした闘争本能だと内心苦笑しながら、どうにか立ち上がる。
「そうだ、それをつけた奴はガイバーと呼ばれる」
「……あたしの名前はノーヴェだ」
なんだが憮然とした声のトーンで答えるガイバー。名前に誇りを持っているか、心底大切に思っているか、そのどちらかだろう。
ギュオーが置き上がり、両手を突き出している。間違いない、全力でこちらに重力衝撃波を放つつもりだ。
「ガイバー! 両胸の装甲を開け!」
「それでどうするんだよ!?」
「いいから急げ、あとは分かる!」
指示をとばすと、口では文句を言いながらも差し迫った状況を理解してか、こちらの指示通り胸の装甲を掴む。
そして深紅のガイバーは一気に装甲を開いた。
ギュオーの目が、こちらの策に気付いて大きく目が広げられる。ギュオーは発射姿勢を解き、急いで逃げだそうとする。
だが、遅い。こちらのほうが早い。
「いけっ! メ ガ ス マ ッ シ ャ ー だ!」
夜空を染め上げる閃光が、世界を塗りつぶした。
Last すべて終わって
「まったく、どうにかなったから良かったものの……いきなりメガスマッシャーは無茶だったか」
殖装を解き、気絶している少女を抱えあげ、黒い甲虫が空を飛ぶ。
空から、破壊の傷痕を眺め、ゼクトールは嘆息した。メガスマッシャーは大地を抉り、煙を各所から燻らせながらいまだ熱を放っている。
今まで最強の熱線使いを自負していたゼクトールだったが、これを見せられてはその自信も吹き飛ぶというものだ。
「だが……これほどの威力だったか? メガスマッシャーは」
過去、エレゲンを失った時に見たメガスマッシャーの跡と目の前のものを比べてみる。
確かに射程こそこちらのほうが短く、200m程度しかないが、その破壊の傷痕の放つ熱はこちらのほうが格段に上の気がした。
ふと、さきほどの蹴りの一撃を思い出す。あれも、自分の想像するガイバーよりもはるかに上だった。
まあ、やはり気のせいだろうとゼクトールは頭を振ると、眠るように瞳を閉じる少女の顔を覗き込む。
その顔は穏やかなものだ。
まあ、いい。
この少女が目覚めれば、自分はクロノスのことを説明しなければいけない。そして、自分およびクロノスへの協力を要請する。
いや……単純にガイバーについての説明と、自分への協力だけでもいいかもしれない。
どうせ、数日で死ぬ身だ。ここで朽ちる覚悟はある。ただ、それはアプトムを殺した後ならばだ。
自分が生きて帰る可能性は限りなく低いなら、目的は絞ろう。今の戦闘も、アプトムを倒すという本懐から離れたものだった。
『ユニットG』を手にすることは出なくても、敵のはずだった殖装体が味方につくかもしれない。
ふと、そう考えてゼクトールは奇縁を感じた。
【F-6 森/一日目・未明】
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 気絶 疲労
【持ち物】 なし
【思考】 仲間を探す。
【備考】
※名簿すら見てません
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
【F-6 森/一日目・未明】
【ゼオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身に打撲 ミサイル消費(中) 疲労
【持ち物】 不明支給品(1~5)&基本セット×2(ノーヴェと自分のもの) デイバック
【思考】 1 最終目標 アプトムを倒す
2 ノーヴェにガイバーのことを説明するかわり、協力を頼む。
【備考】 ※名簿は一応見ています
ボコリと、やけた地面がめくりあがる。
そこから姿を現したのは……獣神将、ギュオーだった。
「まさか……こんなことがあるとはな」
穴の中から自分のディバックを引きずりだすと、苦々しくそう呟いた。
ギュオーは、最後の最後、メガスマッシャーが当たる直前、地面に向かって充填した衝撃波を打つことで穴をあけ、そこの身を隠したのだ。
この自分が、姿を隠さねばならなかった屈辱を胸にたぎらせながら、冷静に今目の前で起こったこと検証する。
そして、その結論を受けてさらにギュオーは顔をゆがませた。
「……このギュオーを凌ぐガイバーが生まれたということか?」
ガイバーに関しては、誰よりも知っている。だから、その結論をギュオーは甘んじて受け入れた。
ガイバーはつければ必ず一定の力が得られるわけでない。いや、使える能力はすべて同じでも、その規模が違うと言えばいいのだろうか。
ガイバーは、装着したものの身体能力、思想、気性などに細部デザインおよび力の総量は変化する。
あのガイバーは間違いなく、デザインからいってガイバーⅢだ。しかし、力は巻島顎人のガイバーⅢとは比べ物にならない。
ガイバーは、つけるものが強ければ強いほど、殖装後も強力になる。
だから、鍛えこまれた人間であるオズワルドの殖装したガイバーⅡは、単純な筋力などでも一般人である深町晶のガイバーⅠを上回っていた。
獣神将の自分がつければ、全てを超えるほどの力を得られるとも言われているのも、そのためだ。
名簿に刻まれたデータを見る。そう、あれは戦闘機人……脆弱な人間をはるかに凌ぐ戦闘力を持っているのだ。
事実、動きも蹴りの力も、そこらの獣化兵以上だった。そんな存在が殖装した。
間違いなく、ただそこそこ鍛えた人間程度が付けた場合と規格が違うシロモノが生まれる。
自分を超えるかどうかは早計だが、そう考えてもけして不思議ではない。
「だが、覚えておけ。最後に笑うのは、このリヒャルト・ギュオーだ!」
油断を全て捨て、勝ち残るため獣神将の野心が再び動き出す。
【G-5 森/一日目・未明】
【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身に打撲 若干疲労
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット デイバック
【思考】 1 最終目標 優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2 油断なしで全力で全て殺す。
*時系列順で読む
Back:[[○ッ○全開! ハートばっくばくだぜ~っ!!]] Next:[[時をかける少女?]]
*投下順で読む
Back:[[○ッ○全開! ハートばっくばくだぜ~っ!!]] Next:[[時をかける少女?]]
|&color(cyan){GAME START}|ノーヴェ|[[月夜の森での出会いと別れ]]|
|&color(cyan){GAME START}|ネオ・ゼクトール|[[月夜の森での出会いと別れ]]|
|&color(cyan){GAME START}|リヒャルト・ギュオー|[[接触! 怒涛の異文化コミュニケーション!]]|
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*殖装、ガイバーⅨ! ◆Mpg2bVkbfc
Act1 ギュオー
―――なぜ、俺がここにいる?
リヒャルト・ギュオーがこの殺し合いの会場に転送された時、まっさきに抱いた感想がそれだった。
ギュオーは、頭を押さえ、過去を反芻する。
そうだ、俺はアルカンフェルを倒したと思ったのだ。
だが突如再び現れた獣神変したアルカンフェルにゾアロード・クリスタルをくりぬかれそうになって……
突然目の前が暗転したかと思えばあの場所にいて……
あのわけのわからない男に殺し合いをしろと言われて……
そっと首を触れる。そこには、冷たい金属が巻かれていた。
これが、自分たちに殺し合いをさせるためにつけられた道具ということだろう。
反逆すれば、自分もあのガキのように液体に変えられる。なんてことだ、とギュオーは吐き捨てた。
これのどこが世界を統べる12人の獣神将だ。今の自分は首輪をつけられたただの犬――ただの獣ではないか。
つい昨日までは何かもがうまく回っていた。
アルカンフェルなど現れず、リムーバーは解析され、ガイバーどもはノコノコと自分のもとへと誘われてきていた。
だと言うのに今のこれはなんだと言うのだ。
無意識に、ギュオーは唾を飲み込んでいた。
脳裏に浮かぶのは、圧倒的な恐怖。それは、このデスゲームを開催する小男へではない。
このデスゲームに参加する直前出会った、あの男――アルカンフェル。
出会った瞬間走った悪寒と冷たい汗。ただ、ひたすらに本能が生存のために服従しろと警告する圧倒的存在感が、けして脳裏から離れない。
死を完全に覚悟した次の瞬間にここに飛ばされたということは、自分はあの、『あの』アルカンフェルから逃れえたのだろうか。
額にまだ埋まっているゾアロード・クリスタルを感覚した。
これがあると言うことは、このデスゲームにクロノスはかかわってないことを示している。
もしかかわっているのなら、間違いなく自分はゾアロード・クリスタルをくりぬかれてからこのデスゲームに放り込まれているはずだ。
ふと、渡された道具の中から、名簿を取り出して眺めてみる。ほとんど知らない名前の合間に、いくつか知っている名前もあった。
が、アルカンフェルはいない。さしものあの小男も、アルカンフェルは手に余るとでも思ったのだろうか。
知っている名前は、3つ。
裏切り者のロストナンバーアプトム。配下の超獣化兵五人衆の一人、ゼクトール。そして……忌まわしいガイバーⅠこと深町 晶。
なんということだ。ガイバーがいるとしてもリムーバーがなければコントロールメタルを分離することはできない。
つまり、遭遇すれば殺すしかないということになる。これでは、何の意味もないではないか。
この場を生き残るのは容易なことだ。獣神将としての力を存分に発揮し、ガイバー含む虫けらをすべて押し潰すだけ。
適当に片端から殺しつくすだけで生きて帰れる。
だが帰ってどうなる。この場でコントロールメタルが得られないとなれば、アルカンフェルに対抗することは事実上不可能だ。
帰ったのち、クロノスから身を引き隠者として生きる? 勝てぬと知って反逆する?
どちらも意味はない。これでは死んでいるのと同じだ。
どっかとギュオーはその場に座り込んだ。
かといって、ここで死ぬのも……いやどこであろうとも死ぬのは論外だ。
叶わぬと知りつつ捨てきれぬ野心を燻らせたまま、ギュオーは自分に与えられた道具を確認し始めた。
紙にボールペン、さっき出した参加者名簿、それにランタンに……
戦う道具はまったく入っていない。どういうことだとギュオーがいぶかしんだ時、いちばん奥から分厚い紙束が出てきた。
何気なく手に取り、暗闇でよく見えぬ文字へ目を近づけて確認する。
「なに……?」
与えられた紙束の表紙に刻まれた文字は―――『詳細参加者名簿』だった。
Act2 ノーヴェ
「なんだよ……これ」
暗い森の中、ひとりごちた。彼女――ノーヴェからすれば、まさに青天の霹靂だろう。
ついさきほどまで、姉妹たちと話していたと思ったら……突然こんなところに連れてこられて殺し合いをしろと言われたのだから。
しばらくどうしても落ち着けず無為無策に歩いていたが、そのうちいくらか落ち着いてきた。
彼女は一つ大きく息を吸うと、ゆっくりと吐いた。
はっきり言って、この状況を飲み込めたわけではまったくない。
彼女の生みの親であるスカリエッティは、どれだけ激しい攻勢に出る時でも、可能な限り人を殺すことをよしとしなかった。
故に、彼女もまた人を殺すこともなく、殺されることもなく……戦闘の経験はあっても死というものを特別経験したことはないのだ。
それでも、一応事態は呑み込めた。当たり前の話だが、死ぬのはいやだ。だが、人を殺すのも正直、彼女はいい気もしてなかった。むしろ、嫌悪感などのほうが強い。
とりあえず人を殺すかどうか保留、けどできるなら避ける――そんな決定をだせば、心の荒れも治まってくると言うわけだ。
「っよし……」
掛け声を出して、自分を鼓舞する。
彼女は、心の中であの男と少女を思いっきり蹴り飛ばすシーンをイメージする。うん、やっぱこっちのほうがしっくりくる。
自分が殺し合うよりも、他人ととりあえず協力して、あの二人をぶっ飛ばすところのほうが、よっぽど簡単に想像できた。
人を殺す必要なんてない、あの二人だけを蹴り飛ばせば済む。彼女はバックをひっつかむと、誰か人を探すことにした。
『あの二人を一緒に蹴り飛ばしてくれる』仲間を探して。
30分後――
森の中を、彼女が走っていると、人影が視界の陰に移った。
ふと、足を止めて木の陰から誰かのぞいてみる。……十中八九知らない人間だろうからあまり意味はないかもしれないが。
そこにいたのは、白髪で、黒い肌をした男だった。年はかなりいっており、40~50代くらいに見える。
手元の紙に視線を落したまま、黙々とそれを見ていた。時々、その紙をめくる音だけがそこらに生えた樹の葉が擦れる音に混じって響いている。
(なにしてんだ、いったい?)
そう思い、ちょっと多めに木から顔を出したときだった。鋭い目で、中年の男がこちらを見た。
慌てて、ノーヴェは顔を引っ込める。この暗闇の上、森の中だ。こっちには、気付いてないとノーヴェは思う。
もう一度ちらりと確認すると……白い髪に、黒い肌の男の目が、浮き出るみたいに暗闇の中爛々と光っていた。
「……戦闘機人ナンバーⅨ、ノーヴェ。時空管理局の世界群出身……」
「な……っ!?」
手元突然の紙をぱらぱらめくると、ノーヴェの名前をはっきり言い当てた。
――あのおっさん、こっちに気付いてるだけじゃない、こっちのことを知ってる!?
含みのある笑みを男がうかべる。しかしそれはすぐに、雷鳴のように周囲に響く高笑いに変わっていた。
「フハハハハハハハハハッ! 嬉しいぞ、本当に俺は運がいい! 他の世界を手に入れてアルカンフェルを倒す上で、一番会いたかった世界の人間にいきなり会えるとはな!」
なんだこいつとノーヴェが引いているのをよそに、ゆらりと男が立ち上がる。目からは、自信満々と言わんばかりに生気に満ち溢れていた。
「死ぬ前に、いろいろ聞かせてもらうぞ!」
男はすさまじく邪悪な笑みを浮かびながら、そう叫んだ。
「獣ッ! 神ッ! 変ッ!!」
男の叫び声に合わせて、その体からすごい勢いで光の柱が立ち上る。
一瞬昼になったかと思うほど、強い光の中から現れたのは……もう人間ではなかった。
銀色の体。筋肉隆々で、2mを余裕で超える身長。何本も角のようなものが頭から生えていて、体のあちこちに
ついた緑色の球が光っている。
「な、なんだお前!?」
思わず反射的に叫んだ自分の声に、変身したそれは、余裕の笑みを浮かべながら言った。
「元・クロノス最高幹部獣紳将……そして世界を統べる者、リヒャルト・ギュオーだ!」
次の瞬間、ノーヴェの体は後ろに吹き飛ぶ。体が後ろにのけぞるまでの僅かな間、視界に移ったのは、拳を突き出したギュオーだった。
「どうだ、重力指弾<グラビティ・ブレット>の味は!? 死んでは困るぞ、これでも20%の出力だからな!」
猫のように四肢をしならせ、両手両足を使って地面に着地する。
ギュオーは、余裕綽々とノーヴェに歩いてきていた。
「このっ!」
もちろん、ノーヴェもどんな時でもやられっぱなしになる趣味はない。即座に反撃の蹴りを放とうして――
「俺を相手にするにはまだ威力が足りんわっ!」
ギュオーが両手を前に突き出した瞬間、全身が見えない衝撃に打ち付けられた。
肩、腹、顔、足。どこも差別なく、同じ威力で同じように叩かれ、またも木の葉の如く空を舞う。
「どうした、今の重力衝撃波はかなり手加減してるのだぞ!? それでも戦闘用か?」
低くうなりつつ、焦りを顔に出すノーヴェを見て、ギュオーはさらに笑みを深める。
「見せてやろう、これが……攻撃だ!」
先ほどと同じようにギュオーが両手を前に突き出す。
やばい、あれをくらうとやばい――本能が強く訴えるまま、横に向かって彼女は全力で走りこんだ。
直後、自分の背後を通り抜けている破壊の轟音。音がやみ、振り返れば――そこにははるか先までなぎ倒された木々が広がっていた。
じゃり、と地面を踏みしめ、また歩く音が聞こえる。
勝てない。絶対に、こいつには勝てない。ガンナックルとジェットエッジがあったとしても……勝てる気がしない。
圧倒的なまでの暴虐。圧倒的なまでの力。
彼女は、突撃手だ。誰よりも恐怖を感じることなく、敵陣に突っ込むことを必要とされる存在なのだ。
だというのに、
――逃げろ。
全身がそう言っている。
こいつに一撃かましてやりたいという気持ちはある。やられっぱなしは最悪だとも思う。それでも――逃げるしかない。
それほど、絶望的な力の差。
背を向けるノーヴェを見て、ギュオーはさらに笑い声をあげる。
「逃げられると思うのか、この俺から!」
「いや、逃げる必要はないでしょう……ギュオー閣下」
その時、突然空から鉛筆を二回りも三回りも大きくしたような細長い物体が降り注いだ。
咄嗟に、ノーヴェは頭を下げる。次の瞬間、何重もの爆音が立て続けに鳴り響いた。
爆発が鳴りやみ、ゆっくりと彼女が頭をあげると――目の前には巨大な甲虫。
だがガリューとは、まるでフォルムが違う。ガリューが細身で戦闘機などを連想させるのに対して、こちらはずんぐりしており、戦車を連想させる。
何がモチーフかは彼女でも分かる。これは……カブトムシだ。
「貴様は……少し違うがゼクトールか!?」
ゼクトールと呼ばれたカブトムシが、一歩踏み出す。
「そうです、ギュオー閣下……いや裏切り者ギュオー。アプトムが戦ってるかと思えば、変わった奴と会うもんだな」
「ぐ……っ、超獣化兵ごときが偉そうな口を聞くな!」
裏切り者、という言葉に一瞬ギュオーは歯ぎしりしたが、次の瞬間笑みを取り戻しギュオーの額に埋め込まれた水晶が強く輝かせた。
ノーヴェは、その強い光に目を手で覆う。
「フハハハハっ! ウジ虫がっ! 所詮獣化兵では獣神将の思念コントロールに逃れられん!―――な」
ちかちかする中、どうにか目を凝らす。
そこには、殴りとばされたギュオーと……殴り飛ばしたカブトムシことゼクトール。
「貴様がまだゾアロード・クリスタルを持つことは驚きだが……あいにく今の俺に思念波は効かん!」
「なんだと!? 貴様、獣化兵ではないのか!?」
どうにかギュオーが踏み止まり、ゼクトールに拳を振るう。ノーヴェは、その拳がゼクトールに当たると思った。
殴り飛ばして、やや前倒な姿勢からではかわせないと思ったからだ。だが、次の瞬間起こったことはその予想を超えていた。
「今の俺は、ロスト・ナンバース! 逝った仲間たちの力を継ぐ為に生まれ変った!」
その重装で動きづらそうな巨体が、一瞬でかき消え、ギュオーの背後に回り込んでいた。速い。巨体とは裏腹にガリューを超える速度だ。
「ザンクルスの高速戦闘能力と高周波ブレード! エレゲンの電磁操作と電撃!
ガスターの液体爆薬と生体ミサイル! ダーゼルブの高熱火炎と超怪力! そして俺の熱線砲と飛行能力!
それらを数倍に増幅して身につけた俺は……ネオ・ゼクトールだ!」
再び、放たれるゼクトールの鉄拳。さらに、インパクトと同時に、ゼクトールの腕が開き、4本の赤い光を生み出した。
「ぐおおおっ!?」
背中を光に押されるように、ギュオーが吹き飛ぶ。
「知っていると思い、目を通してしなかったのは失敗だったか……だが俺に勝てると思うな!
俺は獣紳将最高の戦闘力を持つ男……神に最も近い男だぞ!」
ギュオーが、両手をまたも突き出す。あれだ、あの衝撃波だ――とノーヴェが思った瞬間、目の前を横薙ぎに衝撃が走った。
「甘い、ギュオー!」
カブトムシが、透明な翅を広げ、空を飛ぶ。そのまま、空中を滑空し、瓶の底を滑るように方向転換。
腕から伸びた剣を振りかぶり、ギュオーに叩きつけようとした。
しかし、ギュオーもすぐさまその場からとびすさり、剣から逃れる。
「アプトムを倒すために再調整された体のテストだ! 思念波を持つお前を倒せるのはクロノスでもロスト・ナンバースの俺と獣神将のお方たちのみ……
再調整されたバルカス様への礼も兼ねてギュオー、お前のゾアロード・クリスタルは回収させてもらう!」
「ほざくな! たかが最強の超獣化兵五人の力を増幅させて身につけただけで、このリヒャルト・ギュオーに勝てると思うな!」
完全に二人とも、ノーヴェのことなど眼中にない。
目の前で繰り広げられる信じられない規模の戦いを、ノーヴェは状況を飲み込めきれず呆然と見ていた。
ゼクトールの剣が、巨木を熱したナイフでバターを切るかのごとく両断した。
ギュオーの衝撃波が、地面をめくりあげ、木の葉を空高くまで巻き上げる。
強い光とともに離れたゼクトールの熱量が、風を起こし、周囲を黒ずみに変える。
ギュオーの鉄拳が、巨岩をたたき割った。
電撃が空を照らし、衝撃が大地を揺るがし、お互いの超パワーがぶつかり合う。
どちらも俊敏に走り続け、まだ目立った傷は負っていない。
巻き込まれれば一瞬で間違いなく絶命する。そんな予感がひしひしとした。
これは、逃げるチャンスだ。あのギュオーというほうが、ゼクトールに気を取られている間に逃げるべきだ。
ノーヴェがそう考えて戦いから背を向けようとしたとき――――
「ぐあっ!?」
ギュオーの衝撃波を受けて、ゼクトールが地面に叩きつけられた。
「まったく手間取らせおって……この俺にお前ごときのウジ虫が勝てるはずがないだろう!」
ギュオーの拳の球体から、光があふれる。握った拳に力を込めているのが露骨に分かる。
おそらくいちばん最初に使ったあれ、重力指弾<グラビティ・ブレット>を使うつもりだ。
ただ、多分威力は段違いだろう。本人が言うにはあれで20%らしいのだから。
別に、ゼクトールを気にする必要ない。どうやらあのカブトムシは自分を助けるためではなく、ギュオーを倒すために、姿を現したのだ。
自分を助けたような形になったのはきっと偶然だ。それに、自分がどうこうしたところで絶対にあのギュオーは倒せないだろう。
そうノーヴェの頭は考え行動に移そうとする。
が、次の瞬間彼女は、ギュオーを蹴り飛ばしていた。
見当違いの方向に充填された重力弾は飛んで行き、顎を思いきり蹴られたギュオーが地に伏した。
「この……ウジ虫がぁぁぁぁぁああああッッ!」
気の弱いものならそれだけで失神しかねないほどの殺気を瞳に込め、ギュオーがノーヴェを睨む。
思わず、気押されそうになるのを、どうにか耐える。
そう、逃げるべきだった。だと言うのに、彼女は思わず蹴り飛ばしていたのだ。
どんな形でも、助けた人間を見捨てるのは後味が悪いという思いはあった。だがそれより……やられっぱなしは性に合わない!
せめて一発でもかましてやる。脳で考えることではない、彼女の性格、気性に体が反応したのだ。
ギュオーが殺気立った様子で、力を無秩序に開放する。すると、全方向に衝撃波が放たれた。
「うあっ!」
だが、その威力は低い。制御せず、充填もせず放った一撃は、彼女の体をふき飛ばすのが精いっぱいだった。
空を舞うノーヴェの背に、硬い感触が当たる。見れば、それは黒光りする甲虫の外皮。
「無茶をする……どこの誰かは知らんが助かった」
そっとゼクトールがノーヴェを地面に下ろす。
「お前らウジ虫が束になろうと、この俺にかなわないと教えてやる!」
立ち上がったギュオーから、完全に笑みが消えた。仁王のごとく全身から戦意が立ち上るのが見えるような気がした。
「どうやら、今の俺でも勝てんようだな……」
ゼクトールが小さくつぶやく。おそらく、ノーヴェと同じくギュオーの本気さを感じ取ったのだろう。
「撤退したいが……難しいか。やるだけやってやる。……お前も逃げろ」
最後だけ声をひそめ、ノーヴェにだけ聞こえるようにゼクトールが言った。
ノーヴェも、小さく頷く。今はこれしかできなくても、そのこれしかできないことを達成したのだ。今度こそ、逃げる。
こちらに走りこんでくるギュオーを前に、ゼクトールは背中から生えた2本の鞭を目の前でぶつけた。
次の瞬間、鞭の交錯点から稲妻とともに目を焼く光がほとばしる!
ゼクトールが空へ飛ぶ。ノーヴェが地を走る。ギュオーは、目を押さえ、叫びをあげた。
「おの、れぇぇぇ!!」
だが、それでも獣神将であることは伊達ではない。充填なしで低威力の重力指弾を放つギュオー。狙いも何もなく放たれるそれは、どこにも当たらず―――いや。
でたらめに見える攻撃が正確にノーヴェとゼクトールを捕らえた。彼女は、咄嗟に自分の持っていたデイバックを盾にする。
バラバラになるディバック。中身が、足もとにばらまかれた。
時が、凍りついた。
ノーヴェは衝撃を受けて地面を転がりながらもその反動を使って立ち上がる。そして、気付いた。
空でゼクトールが。地でギュオーが。身動きせず、ただ一点を呆然と見つめている。
「馬鹿、な……あれは……」
ゼクトールの呻き。
「ガイバーⅠのモノも、ガイバーⅢのモノも、殖装された。Ⅱは破壊された……」
ギュオーの呟き。
見ているのは、バックから落ちたノーヴェの支給品。
直径30cmくらいの、円盤状のそれ。中央に金属の球体が光っている、三角形に近い六角形の物体。
二人の驚愕を引き起こしたモノ。それは―――
「「ガイバーの『ユニットG』だとっ!?」」
「あれさえ……あれさえあれば俺は最強の存在にっ!」
「絶対に渡さん! 裏切り者に、『ユニットG』を…… そこのやつ! 『ユニットG』を守れっ!」
ギュオーが、猛然と『ユニットG』と呼ぶものへ走りだした。同時に、ゼクトールもそれに向かって全速で飛び始める。
ゼクトールの声を受けて、ノーヴェもそれに飛びついた。あれだけ強いギュオーが、最強のどうこうと言っているのだ。
絶対に、渡したら大変なことになる!
すぐ側に落ちているその『ユニットG』の横を掴もうとするが、意外に大きすぎて焦りのためかつかみ損ねた。
ギュオーが、もうすぐ側だ。けど、これを渡して逃げるのはまずい。けれど………
「……!? やめろっ、それだけはやめろぉぉぉぉぉぉ!!」
ギュオーの絶叫。ノーヴェは、持ちにくい横ではなく、中心の金属の突起を掴む。
そう、『ユニット』スイッチである中央の金属突起を―――掴んだ。
「うわっ!? なんだ、なんだよ、これ!?」
蒼くぼんやりと『ユニットG』が光ったと思えば、ノーヴェの体に目の前の『ユニット』から伸びた触手が絡み付く。
引きちぎろうとしても、切れることなく体を包もうとしてくるそれに対してもがく。
だが、その拘束はどんどん強くなっていく。まるで――体の中に入ってくるように。
「い、息が、息ができな――!」
口も鼻も触手に覆われ、呼吸すらできなくなってノーヴェがあえぐ。
肩に何かが当たる……が触手がその衝撃を吸収した。
触手の合間から見えるのは、自分を守るように戦うゼクトールとギュオーの姿だった。
Act3 ゼクトール
ギュオーの放つ重力弾を、高周波ソードを使って正面から受け止める。
「せっかくの『ユニットG』を……よくもやってくれたな! 貴様も、何故あれを殺さん!? クロノスとしても今殺すべきだろうがぁ!?」
「知ったことかっ! どうせあと数日の命、アプトムを倒すためにもここで死ねん! そのためなら何でも俺はやる!」
ギュオーの猛攻を、防御に徹することでさばく。今、こいつから逃げるには、自分だけではだめだ。
もっと、力か手数がいる。それもないのなら……この場を乱す、自分とギュオー以外の力が必要。
ここでは死ねない。命すべてと引き換えに得たこの力は、アプトムを殺すための力なのだ。
こんなところで朽ち果てるわけにはいかない。
ギュオーの拳を、両腕を交差させ頭上で受け止める。だが、力勝負ではこちらが不利だった。
流石は獣神将、超獣化兵最強のパワーをもつダーゼルブを、数倍に高めた腕力でもなお力比べは向こうが上だ。
「なら、これでどうだ!」
ギュオーの死角から迫る、2本の電撃鞭がギュオーの足首に絡み付く。そのまま、電撃を流しながら思いきり引っ張る。
ギュオーは体制を崩しながらも、衝撃波を放ってきた。ギリギリで、額の熱線砲を使いそれを迎撃する。
下手に引けば、殖装中のガイバーを狙い打たれる。そうなれば、完全に退路は切れてしまう。
そのために、今は前に出るときだった。
ほぼ至近距離からの、腕力任せの殴り合い。
ギュオーは肉弾戦型としての耐久力が、そして自分は甲虫としての装甲があるため、お互い致命傷には全くならない。
だが、内部には徐々にダメージが蓄積する。
「ぐっ!?」
装甲に、ひびは入っていない。だが……ついに足に来た。膝を着くと、ギュオーも荒い息をしながら口の端をつりあげた。
「これで終わりだっ! 死ね――――」
「いや、時間だ!」
視界の陰に移る、赤い影。
先ほどとまったく同じように、横やりから飛び膝蹴りがギュオーに決まった。今度は、さっきと違い肩だが……そのダメージはけた違いだろう。
なぜなら、蹴りを放った相手が……ガイバーだからだ。いや、そう言う問題じゃない。その威力はすさまじかった。
一蹴りで、50m以上、ギュオーを吹き飛ばしたのだ。これほどのパワーを持ったガイバーは見たことがない。
信じられないほどのパワーをこのガイバーは持っている。
そのガイバーは、ガイバーⅢに酷似しているが深紅色をしていた。肩などは少し細い。
蹴り飛ばされた向こうで、ギュオーがおき上がる。とんでもないタフネスだ。
「『ガイバー』! ここから逃げるぞ! 協力しろ!」
「『ガイバー』? あたしのことか?」
そう言いながら、自分の体を眺めているガイバー。どうやら、自分がどうなったかを確認する前に、いきなりギュオーに蹴りを叩き込んだようだ。
たいした闘争本能だと内心苦笑しながら、どうにか立ち上がる。
「そうだ、それをつけた奴はガイバーと呼ばれる」
「……あたしの名前はノーヴェだ」
なんだが憮然とした声のトーンで答えるガイバー。名前に誇りを持っているか、心底大切に思っているか、そのどちらかだろう。
ギュオーが置き上がり、両手を突き出している。間違いない、全力でこちらに重力衝撃波を放つつもりだ。
「ガイバー! 両胸の装甲を開け!」
「それでどうするんだよ!?」
「いいから急げ、あとは分かる!」
指示をとばすと、口では文句を言いながらも差し迫った状況を理解してか、こちらの指示通り胸の装甲を掴む。
そして深紅のガイバーは一気に装甲を開いた。
ギュオーの目が、こちらの策に気付いて大きく目が広げられる。ギュオーは発射姿勢を解き、急いで逃げだそうとする。
だが、遅い。こちらのほうが早い。
「いけっ! メ ガ ス マ ッ シ ャ ー だ!」
夜空を染め上げる閃光が、世界を塗りつぶした。
Last すべて終わって
「まったく、どうにかなったから良かったものの……いきなりメガスマッシャーは無茶だったか」
殖装を解き、気絶している少女を抱えあげ、黒い甲虫が空を飛ぶ。
空から、破壊の傷痕を眺め、ゼクトールは嘆息した。メガスマッシャーは大地を抉り、煙を各所から燻らせながらいまだ熱を放っている。
今まで最強の熱線使いを自負していたゼクトールだったが、これを見せられてはその自信も吹き飛ぶというものだ。
「だが……これほどの威力だったか? メガスマッシャーは」
過去、エレゲンを失った時に見たメガスマッシャーの跡と目の前のものを比べてみる。
確かに射程こそこちらのほうが短く、200m程度しかないが、その破壊の傷痕の放つ熱はこちらのほうが格段に上の気がした。
ふと、さきほどの蹴りの一撃を思い出す。あれも、自分の想像するガイバーよりもはるかに上だった。
まあ、やはり気のせいだろうとゼクトールは頭を振ると、眠るように瞳を閉じる少女の顔を覗き込む。
その顔は穏やかなものだ。
まあ、いい。
この少女が目覚めれば、自分はクロノスのことを説明しなければいけない。そして、自分およびクロノスへの協力を要請する。
いや……単純にガイバーについての説明と、自分への協力だけでもいいかもしれない。
どうせ、数日で死ぬ身だ。ここで朽ちる覚悟はある。ただ、それはアプトムを殺した後ならばだ。
自分が生きて帰る可能性は限りなく低いなら、目的は絞ろう。今の戦闘も、アプトムを倒すという本懐から離れたものだった。
『ユニットG』を手にすることは出なくても、敵のはずだった殖装体が味方につくかもしれない。
ふと、そう考えてゼクトールは奇縁を感じた。
【F-6 森/一日目・未明】
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 気絶 疲労
【持ち物】 なし
【思考】 仲間を探す。
【備考】
※名簿すら見てません
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
【F-6 森/一日目・未明】
【ゼオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身に打撲 ミサイル消費(中) 疲労
【持ち物】 不明支給品(1~5)&基本セット×2(ノーヴェと自分のもの) デイバック
【思考】 1 最終目標 アプトムを倒す
2 ノーヴェにガイバーのことを説明するかわり、協力を頼む。
【備考】 ※名簿は一応見ています
ボコリと、やけた地面がめくりあがる。
そこから姿を現したのは……獣神将、ギュオーだった。
「まさか……こんなことがあるとはな」
穴の中から自分のディバックを引きずりだすと、苦々しくそう呟いた。
ギュオーは、最後の最後、メガスマッシャーが当たる直前、地面に向かって充填した衝撃波を打つことで穴をあけ、そこの身を隠したのだ。
この自分が、姿を隠さねばならなかった屈辱を胸にたぎらせながら、冷静に今目の前で起こったこと検証する。
そして、その結論を受けてさらにギュオーは顔をゆがませた。
「……このギュオーを凌ぐガイバーが生まれたということか?」
ガイバーに関しては、誰よりも知っている。だから、その結論をギュオーは甘んじて受け入れた。
ガイバーはつければ必ず一定の力が得られるわけでない。いや、使える能力はすべて同じでも、その規模が違うと言えばいいのだろうか。
ガイバーは、装着したものの身体能力、思想、気性などに細部デザインおよび力の総量は変化する。
あのガイバーは間違いなく、デザインからいってガイバーⅢだ。しかし、力は巻島顎人のガイバーⅢとは比べ物にならない。
ガイバーは、つけるものが強ければ強いほど、殖装後も強力になる。
だから、鍛えこまれた人間であるオズワルドの殖装したガイバーⅡは、単純な筋力などでも一般人である深町晶のガイバーⅠを上回っていた。
獣神将の自分がつければ、全てを超えるほどの力を得られるとも言われているのも、そのためだ。
名簿に刻まれたデータを見る。そう、あれは戦闘機人……脆弱な人間をはるかに凌ぐ戦闘力を持っているのだ。
事実、動きも蹴りの力も、そこらの獣化兵以上だった。そんな存在が殖装した。
間違いなく、ただそこそこ鍛えた人間程度が付けた場合と規格が違うシロモノが生まれる。
自分を超えるかどうかは早計だが、そう考えてもけして不思議ではない。
「だが、覚えておけ。最後に笑うのは、このリヒャルト・ギュオーだ!」
油断を全て捨て、勝ち残るため獣神将の野心が再び動き出す。
【G-5 森/一日目・未明】
【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身に打撲 若干疲労
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット デイバック
【思考】 1 最終目標 優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2 油断なしで全力で全て殺す。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|&color(cyan){GAME START}|ノーヴェ|[[月夜の森での出会いと別れ]]|
|&color(cyan){GAME START}|ネオ・ゼクトール|~|
|&color(cyan){GAME START}|リヒャルト・ギュオー|[[接触! 怒涛の異文化コミュニケーション!]]|
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表示オプション
横に並べて表示:
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