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果タシテ、無知トハ罪ナリヤ?(前編)◆qYuVhwC7l.



「きゃああああああああぁぁあぁ!!だめ、だめ、だめだってばぁ~~~~~~~~!!」

地図上にしてG-02に当たる部分に存在する細道を奇妙なバイクで移動しながら、
年端もいかぬ少女――名簿上の名前を用いるならば『キョンの妹』なるあんまりにもあんまりな物を与えられた人物が叫ぶ。
仮にも殺し合いを命ぜられた多くの強者がひしめき合う会場内では、自殺行為以外の何物でもないのだが、あいにくと今の彼女にその事を考える余裕はない。
何せ―――他ならぬ『乙女』としての危機が迫っているのだから。
バイクを用いた高速移動の産物として与えられる強烈な向かい風によって、バタバタと暴れる浴衣の下半身部分を必死で抑えながら、彼女は自分自身の迂闊さを激しく呪った。

――――だって、だって、前にハルにゃんが『浴衣の下には下着を付けないでいるのが日本の伝統なのよ!』なんて言ってたからぁ~!!

本人の意思とは関係なくそうせざるを得ない状況があった事も忘れて、自分自身でも良く分からない言い訳をするも、
それが事態の好転に何一つ貢献しない事は誰よりも彼女自身がわかっていた。
今、少女の体を包み込んでいるのは、『ksk温泉』なる意味不明の印字が施された布きれ一枚きり。
そして、全身を緩やかに覆い隠す浴衣としての機能しかもたないそれは、強風という力による蹂躙に耐え得る筈もなかった。

「うぅぅぅ………ひゃぁっ!?」

身を精一杯縮こませて、少しでも抵抗を減らそうと行動した少女を新たな衝撃が襲う。
つい先ほどの入浴にてぽかぽかと温まっていた平面的な体の上を、直に冷たい風がなぞっていったのを感じたのだ。
その感覚を事実と裏付けるように、浴衣の上半身部分が豊満な体を包み込んだときの様に大きく膨張し、
結果として肌の露出部分の増加…すなわち浴衣の隙間が大きく広がったという現象を引き起こす。
そして彼女は、発現したその大きな隙間から、桜色の部分が一瞬だけその姿を大胆に覗かせているのをしっかりと目撃してしまった。
………防衛すべき拠点は一か所だけではなかったのだ。

「み、見えちゃう~~~~~~!!見えちゃうよぉぉぉ~~~~~!!!」

それぞれの手で上半身と下半身を必死に防衛しつつ、少女は再び叫ぶ。
果たして何が見えるのか? そんな事は口に出せる筈もない。『乙女』としては尚更である。

そしてその『乙女』の危機をあざ笑うかのように、現実は非情であった。

「えーーーーーー!?何か言ったかーーーーーーーー!?」
「見、見えちゃうのーーーーー!!だからちょっと止めてーーーーーーーー!!!」
「風でよく聞こえないんだって!!もっとはっきり言ってくれーーーーー!!!」
「は、はっきりなんて言えるわけないよぉぉーーーーーー!!」
「ダメだーーー!!!全然聞こえないってーーーー!!!!」

つい先ほどから幾度となく繰り返されている、バイクの運転手である少年、ゲンキとの会話が、強風の所為で声がかき消されることもあり全く上手く言っていないのだ。
誓って言って、ゲンキという人物は人並み以上に正義感に溢れたごく普通の小学生男子である。
決して同年代の少女の服を強風ではためかせて喜ぶといった下劣な性癖を持っている訳ではない。
とにかく、思いやりという感情をしっかり持ちあわせている彼は、明らかに異常を示している後ろの少女を気遣い、現状打破を目指してはいるものの……

「だから!!何がどうなってんだってーーーーー!?」
「だだだだだだだめーーーーー!!!絶対こっち向いちゃだめーーーーーーー!!!」
「うげぇ!!首、首から今嫌な音がぁ!!」

少女の状況が状況と言う事もあり、少しでも振り向こう物ならば即座に彼女の鉄拳が襲ってくる始末。
こうして今だにどんな惨状が少女を襲っているのかを理解できないまま、ゲンキはただバイクを走らせていた。
ならば一度バイクを止めて、落ち着いた状態で改めて会話をすれば良いという考えも出てきそうな物だが、如何せんゲンキも焦っていた。
自分の大切な仲間であるホリィ、モッチー、スエゾー、ハム……彼らと一刻も早く合流したいという気持ちが彼を急かしているのである。
もちろん数々の強敵を打ち倒してきた彼らがそう簡単にやられる事は無いだろうとも思っているが、
主催者からして『人を突然オレンジ色の水に変える』というあまりにも不可思議な能力を持っている存在なのだ。
ワルモンとは比べ物にならないような強敵がこの殺し合いに参戦し、仲間達をその手に掛ける事も大いに考えられる。
また、ワルモン軍団の幹部であるワルモン四天王最後の一人、そしてホリィとスエゾーにとっては家族の仇でもあるナーガがこの場にいる事も不安要素の一つだった。
それに加え、後ろにいる少女…キョンの妹についてもまた心配な事がある。
彼女自身がその見た目に反せず、明らかに戦闘能力を持たない被保護対象である事は確実だが、話を聞くところによれば彼女の兄であるキョンを始めとした他の人々…
曰く、『SOS団』なるサークルに所属する高校生グループもまた、荒事とは一切無縁の生活を営んできたごく普通の人間達であるらしい。
もちろんただの小学生にすぎないゲンキ自身より弱いとは言わないが、それでも『何者かに襲われたら…?』という不安は消えない。
おそらく、自分と同じ年頃で、更に間違いなくか弱い存在である彼女にとっても同じ不安を、もしかしたらより一層大きい物を感じているだろう。

――――少しでも早く知り合いと合流させて、安心させてやらないと……それにまぁ、色々と酷い事しちゃったっていうのもあるし。

一瞬だけ脳裏に蘇った、湯けむりの中に浮かぶ肌色…もしくはピンク色な光景を慌てて頭を大きく振って追い出すと、ゲンキは更に強くアクセルを入れる。
自分と仲間たちの為に、そして後ろの少女の為に。

「っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?は、速くなってるよゲンキ君ーーーーーーーーー!?ダメ、見えちゃうぅぅぅぅぅぅ~~~~~~!!!」

……そして、その行動はより一層守るべき存在に絶望を与えるのであった。

ゲンキには何一つの悪意は無い。ただ一つだけ挙げるとすれば、彼は余りにも幼すぎた。
まだ幼い少女相手とはいえ、異性に対して適切な行動を取るには余りにも『無知』すぎたのである。






「う、うぅぅぅぅぅ……もうダメぇ………」

最早叫ぶ気力すら失い、僅かに涙を流しながら妹は力なく蹲った。
バタバタと暴れまわる浴衣を抑えている腕にも最早痛みが走り、「もう限界」という信号を彼女に送っている。
このままじゃもうお嫁に行けなくなるかも…という後ろ向きな呟きを噛み殺し、どうすればこの状況を打開出来るのかと彼女は幼い頭脳を必死で回転させる。

――――ゲンキ君との会話は全然ダメ……だったらもう、後に残った方法は……。

少女の脳裏に浮かんだ言葉。それは即ち―――――『実力行使』。

「ハルにゃん、お願い…ハルにゃんの元気な力、ちょっとだけ私にちょうだい…」

兄の一番の交流相手である、とにかく溌剌として破天荒で、自分の姉のような女子高生の事を思い浮かべながら呼吸を整える。
今から自分がしようとしている行為は、おそらく大きな犠牲を伴う危険な物だろう。
それでも、このまま何もしないで為すがままに(精神的に)凌辱され続けるよりは遥かにマシだ。

「…………~~~~っ………うん、よしっ……!!」

両手が使えないので、心の中の手の平にしっかりと三回『人』の字を書いて飲み込む
落ちないようにバランスを取りながら、バイクの横に垂らしてあった自分の両足を引き上げて体育座りの様な格好になって、一呼吸置いた後に―――少女は行動を開始する!

「っと………ええぇぇぇぇぇーーーーーーーい!!!」
「ってうおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!?」

突然、背中に衝撃と重みを感じたゲンキが驚愕の叫びを上げる。
後ろにいたキョンの妹が体育座りの状態から、足をバネにして運転手であるゲンキの背中に覆いかぶさったのだ。
彼女が立ちあがった一瞬、両手が完全に浴衣から離脱したために裾部分が大きく捲りあがり顔から火が出そうになったが、幸いにして目撃者は存在していなかった。
ともかく、これはまだ作戦の第一段階に過ぎない。ゲンキの背中に乗りあげたキョンの妹は更に前進して両手を伸ばす。

「な、何!?どうしたぁーーーーーー!?」
「いいからぁぁーーー!!ゲンキ君はちょっと黙っててぇぇーーーーーー!!!」

あまりにもいきなりすぎるキョンの妹の行動と、鼻腔をくすぐる彼女の髪から漂うほのかなシャンプーの香りなどの所為か妙に跳ね上がる心臓を抑えながらゲンキが叫ぶが、
少女はそれに答える余裕はない。
ただハンドルを掴んでいるゲンキの腕に添うように両手を進めていき……やがてその小さな二つの手はしっかりとハンドルを握り締めた。

「届いたっ……止まってぇぇぇぇーーーーーーー!!!」

少女が、絶叫と共にハンドルの下についたブレーキレバーを握り締める。
一瞬だけ宇宙人が作ったらしい(滅茶苦茶怪しい)このバイクが果たして地球製の物と同じブレーキの構造をしているのかと不安にはなったが、
今まで散々少女を苛めてきた非情な現実もようやく微笑んでくれたようで、走行中だったバイクは急激にそのスピードを落としていった。

ただし、急ブレーキという現象には付き物の強烈な衝撃と言う置き土産と共に。

「あ、あぶ、危なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!?」

衝撃に振り落とされないように、またハンドル操作をミスして大事故を起こさない為にゲンキは必死で暴れまわるハンドルを押さえつけ、
キョンの妹もブレーキレバーを握り締め身を固くしたまま絶叫をあげる。

二人の努力がどうにか実を結んだのか、多少のアクロバティック的運動は行われた物の、ブレーキ作動位置から数十m程の所でバイクは無事に停止した。

「はぁ、はぁ、はぁ……………い、いきなり何するんだよ!?」

ともすれば大事故を引き起こしかねなかったキョンの妹の先の行動に、ゲンキは思わず声を荒げて非難する。
だが、それに対するキョンの妹もまた負けていなかった。

「だ、だってゲンキ君が止まってくれないからぁ!!もう少しで見えちゃいそうだったのにー!」
「見える?見えるって何がだよ?」
「そ、そんなの言える訳ないよー!?」
「言えないって…別に可笑しい所は見当たんないけど……」
「……っ…!やっ、見ちゃダメだってばぁぁぁーーーーー!!」

バイクから降りたゲンキに自分の体をジロジロと見られるに当たって、キョンの妹は初めてそこで浴衣が乱れ切っている事に気づいた。
幸いにも決して見られてはいけない『乙女』としての部分はギリギリで隠されていた物の、不幸な事にその為にゲンキには何が起きたかを理解できていなかった。

「見ちゃダメって…ちょっと服がぐちゃぐちゃになってたけど、それぐらいじゃ?」
「それがダメなんだってばー!!い、今………ンツ…付けてないし……」
「え?だからよく聞こえないって!!」

あまりの恥ずかしさに体を隠しながらボソボソと呟くキョンの妹だったが、やはりどこまでもデリカシーの欠けるゲンキの一言に思わず彼をキッと睨みつける。

「だから!パンツとかシャツとか着てないから浴衣が捲れると色々見えちゃう……の……」
「…………………あ、そういえば…」

大声で叫んでいる途中で流石に恥ずかしくなり後半はかすれた様な小さな声になってしまう物の、ようやくゲンキにも合点が行ったらしい。
一瞬まじまじと彼女の体を見つめてしまうが、ハッと我にかえり慌てて後ろを向いて直立の姿勢を取る。

「ご、ゴメン!!俺もう向こう向いてるから!!絶対見ないからさ!!」
「うぅ……絶対だよ?絶対に見ちゃダメだからね?」

やや涙ぐんだ声でゲンキに答えながら、キョンの妹は細心の注意を払ってバイクから降り、後ろに括りつけてあった自分の下着を取り戻そうと手を伸ばす。

「あっちゃー……ホントにゴメン!全然そんな事気付かなかったし、何か言ってるのはわかったんだけどよく聞こえなくて…」
「もういいよ、ゲンキ君に悪気が無いのはわかったから…だから絶対にこっち見ないでね?」
「そ、それは絶対見ないって!!」

キョンの妹からは見えないというのにわざわざ両手を合わせて謝っていたゲンキだが、彼女の発言を聞いて再び気をつけの姿勢で待機する。
まさに彼の誠実さを表しているかのような行動に、半泣きだった少女も思わずクスリと微笑んだ。

「………………あれ?」

そのまま微動だにせず棒のように突っ立っていたゲンキだが、やがてここから少し先に二つのある物体が落ちているのに気づいた。
しばらくそれが何かを見極めようと目をゴシゴシと擦るが、月明かりに照らされたそれがディバックである事を理解するのにそう時間は掛らなかった。

「あ、俺達のディパックか……今の急ブレーキで落っこちっちゃったんだな」

このままだと忘れるところだった、危ない危ない……
そんな事を考えながらディバックに近づいた時、落下の衝撃で開いたらしい口から白い何かがはみ出しているのが目に入る。

「あれ…なんだ、この白いの?」
「見、見ちゃダメって言ったでしょゲンキくーーーーーん!!!」
「い、いやそっちじゃなくてコレだって!!」

まさにその時、生乾きだった自分の下着を手に取っていたキョンの妹に弁解するために、はみ出していたそれを完全に取り出してヒラヒラと振る。
それは、真白なカバーに包まれた分厚い小冊子だった。

「え……何それ?どこにあったの?」
「ディパックの中に入ってたんだ。たぶん、銃の他にも入ってた支給品…だと思うけど」

下着を再び元の場所に戻してとことこと掛け寄ってきたキョンの妹に、ゲンキは手の中の小冊子を見せる。
その表紙にでかでかと印刷された文字は、使用されている漢字こそ小学生の彼らにも理解できるぐらいに単純な物ではあったが、
その意味を図り知る事は幼い彼らには……いや、例え一定以上の知識を持っている大人にとっても難しい事だろう。

その文字列とは、即ち――――――――

「……………人類?」
「補完………計画?」

ゆっくりと表紙から目を離し、互いに顔を見合わせた少年少女は、巨大なクエスチョンマークを浮かべて同時に首をかしげた。






「えーと……人類、補完計画とは、秘密、結社………セ、セエレ?エス、イー、イー、エル、イー?」
「ローマ字読みじゃなくて英語読みじゃないかな?……私にも読めないけど」
「まぁいいや、飛ばしちゃって…セエレの……悲しい……?」
「……悲願?えっと、ヒガンであり、人類、全てに対する…キュウサイ……である。人類の、進化はすでに、大きな…イキヅマリ、を見せて……?」

ちょうど辺りに埋まっていた丁度いい大きさの岩に二人で座り込み、ランタンの明かりで冊子の文字を照らしだしながら、
ゲンキとキョンの妹はその内容をたどたどしく音読する。
ともすれば小学校の国語の時間のような、どこか微笑ましい光景ではあったが、読み上げている内容は教科書には載せられないような極めて難解な物だった。

「ちょっと飛ばして……ケイカクの実行には………し…いや、使い……えーと?」
「ここも飛ばしちゃって…リリスの、分身である………ヨウ、ヒトガタ…ケッセン兵器…?」
「人造人間、エヴァンゲリオンの……じ、人造人間!?そんなモンスターいたかなぁ…?」
「とりあえず続き……エヴァンゲリオンの……エス、2?……機関?…を、キョウメイ……で…グングニルの……?」
「…………………………わかる?」
「…………………………ぜんぜん」

難解な漢字に聞き覚えのない専門用語を前に、途方にくれて顔を見合わせる二人の間を冷たい風が吹き抜けた。

「あーーーーーっ、もうヤメだヤメ!!こんなのただの難しい本だって!!」

早々に匙を投げたゲンキが両手を広げて草の上に倒れ込む。あまり頭脳労働の経験のない彼にとっては、この謎の書物の解読は拷問でしか無かった。
キョンの妹は未だ諦めきれないのか、まだ眼で文章を追っている物の、頭のクエスチョンマークは消えずに数を増すばかり。
これを完全に解読するには、一介の小学生にすぎない彼らは余りにも『無知』すぎるのだ。
可愛い顔立ちを疑問符で歪めているキョンの妹を見ながら、ゲンキは疲れたように声を掛ける。

「もう読まなくてもいいんじゃないか?大体、そこに書いてあるのが全部本当なのかどうか怪しいし…」
「ゲンキ君が言ってるのって、これに書いてあった、『セカンドインパクト』って話のこと?」
「2000年に南極で大爆発が起きて、日本の東京や世界中のあちこちが沈んじゃった事件なんて聞いた事ないぜー?」

ぼーっと月を見上げながらゲンキが気のない返事をする。
そんな世界規模の大事件が起こっていたのならば大きなニュースになっているだろうし、何よりその影響を実際にこの身に受けているだろう。
だが、ゲンキはもちろんの事キョンの妹もまたそんな事件を聞いた事も無かった。

「じゃあ、この本………ただのハズレなのかなぁ………」
「………それはまだわかんないけどさ」

明らかにションボリと元気をなくし、ともすればそのまま泣きだしてしまいそうな少女の声がいたたまれなく、
とりあえずフォローするような言葉を掛けてみるが、ゲンキ自身もかなり半信半疑だ。
主催者曰く、『殺し合いを円滑に進めるための道具』と言っていたが、果たしてこんな本の何が殺し合いに関係しているのか?
まさか武器に使え、という事でもあるまい。角でたたけばそこそこの威力はありそうではあるが。
ハァ…………と一つため息を付いたところで、キョンの妹がゲンキに話しかけてきた。

「ねぇゲンキ君……『L.C.L.』って、何かで聞いたこと無い?」
「え?」

突然の言葉に、しばらくゲンキが考え込む。
L.C.L.、エルシーエル……なんだろう、どこかでチラリと耳にした気がする。

「ここに書いてあるんだけど…私も何かで聞いたような気がして」
「どれどれ?」

よっ、と上半身を起こして、再び小冊子の中を覗き込む。キョンの妹が指し示している文章列には、確かに『L.C.L.』なる単語が含まれていた。

「………『L.C.L.』は、本来はエヴァンゲリオンの、エントリー…プラグ? 内に充満され、パイロットを…ホゴし、直接の……ここは飛ばすか。
 えーっと……真実は、『L.C.L.』とは生命の…スープそのものであり…その形状はオレンジ色の、液………オレンジ色の液体?」

ドクンと心臓が跳ね上がった。
オレンジ色の液体。『L.C.L.』。そうだ、確かこの言葉は――――。

「…え……オレンジ、って………まさか……最初の時の………」

―――――「生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。だから死ぬのは怖くな――
―――――「誰もが心に壁を持っている。A.T.フィールドと呼ばれるそれがあるからこそ、不完全な群体生物はその脆弱な個を保っていられる。
――――――それを解き放ってしまえば肉体はその意味を失い、生命のスープであるLCLの海へと還元される。
――――――これがその首輪の原理。

「そうだ……最初に主催者達に歯向かった、あの男の人が変化した……! それで、その時にあの女の人が言ってた事の中で、『L.C.L.』って!!」

呆然としているキョンの妹の手から小冊子を引きよせ、少しでも何かの情報を得ようとゲンキは文章の上に目を走らせる。
だが、そこに書かれている物も他の例に漏れず難解な内容であり、また先の少女の説明にあったような事しか読み取る事は出来ない。
もしかしたら、この文書は自分達を拘束している首輪の原理について重要な事が書かれているかも知れないのに――!

「ダメだ、全然わからない!!」
「む、無理だよゲンキ君…きっと私たちみたいな子供じゃわかんない内容だよ……?」
「……俺たちにはわからない……だったら」

他の、これを理解できるような人物に見せる事ができたら?
ゲンキは思考する。自分が知る中でこれを理解出来そうな人物は誰だ? モッチーとスエゾーは論外だ。
まとめ役にもなってるホリィなら…? ダメだ、自分より少しは年上だからと言って、こんな論文を理解できるような人じゃない。
だったらハムは……確かに頭もいい。けど待てよ? これは多分、モンスターファームの世界じゃなくて地球を舞台にして書かれた物だ。
自分とは別の世界の住人である彼らには荷が重い。

「なぁ!お前の知り合いで、これを理解出来そうな人っているか!?」
「えっ……?えーと…キョン君……はあんまり頭が良くないし……ハルにゃんや古泉君やみくるちゃんだったら……
 で、でもみんな普通の高校生だから難しいかも……」
「そっか………」

つまりは、全滅……だが、その事実を突き付けられても、ゲンキの中のガッツはびくともしない。

「知り合いじゃなくても、きっとこの『殺し合い』をどうにかしようとしている人はいる筈だ。
 そして、その中にはこれを全部理解できる人が居るかもしれない!!」
「きゃっ!?」

ゲンキが小冊子を持ったまま勢いよく立ちあがる。はやくも、この『殺し合い』に対抗するための手段が見えてきたのだ。
高まるガッツも少しでも発散しようと、ゲンキはいつも通りのあのセリフを叫ばんとする。

「よっしゃぁ!! ハートバクバク、元気ガンガンで――――」
「待って!!」
「うおっ!? ど、どうした? なにかあったか!?」

決め台詞を突然遮られて思わずコケそうになるが、姿勢を保ちながらゲンキがキョンの妹を見る。
希望を見出してガッツ全開のゲンキとは反対に、少女の顔はどこか浮かない物であった。

「………なにか、変だよ? だってこの支給品って、殺し合いを進めるための物だよね? じゃあなんで、首輪の事が書いてあるような物を私に渡したのかな…?」
「そ、それは……主催者が間違えたとか!!」

まさにその場の思いつきというようなゲンキの言葉を聞いても、キョンの妹の顔は晴れる筈もない。
ただ一つ、彼女自身の中ではある事が引っかかっていた。

「………………有希ちゃん、かな……?」
「えっ?ユキ…って誰?」
「えっとね……最初に、メガネをかけたおじさんと一緒にいた女の子。あの人、キョンくんとハルにゃん達のお友達で、同じSOS団に入ってるの」
「な………なんだってーーーーーーーーーーー!?」

ここに来て明かされた驚愕の新事実に、思わずゲンキが絶叫する。
ついさっきの温泉での情報交換では、少しゴタゴタしていた事もあり言いそびれていたのだ。

「じゃ、じゃあその有希って人は友達を殺し合いさせようとしてるのか!?」
「そんな事ないもん! 確かに有希ちゃんは全然おしゃべりしなくて顔もかわらなくてちょっと変な人だけど、ハルにゃんやみくるちゃんと一緒で優しいお姉ちゃんだよ!!」
「だとしたら、何で…?」
「………そんなの、わかんないけど……でも、でももしかしたら、この本も有希ちゃんがわざわざ用意してくれた物なのかも、って……」

キョンの妹は消えそうなか細い声でそう答えると、力なく俯いてしまう。
あの最初に集められた大広間での彼女の様子を思い出そうとしてみても……いつもと変わらない、無表情ばかりが浮かんでくる。

「……わかんないよ………有希ちゃん………」

膝を抱えたままのキョンの妹を見ながら、ゲンキもまた考えていた。
今の彼女の様子を見るに、少なくともあの『有希』という人物は他の皆からも随分と信頼されていたように思える。
彼女と兄と同じく『SOS団』なる仲良しサークルで一緒に行動しているという事からもそれが窺い知れるだろう。
ならば、あの少女をこんな凶行に走らせてしまった原因とは何なのか?
『裏切り』という事についてはあまりゲンキ自身考えたくない。少なくとも、精神的に消耗している様子のキョンの妹には言い出せないだろう。
それならばまた違う原因が……………?

「誰かに………操られて?」
「えっ…………」

ポツリと、ゲンキの口から思いついた言葉が漏れる。
彼の脳裏に浮かぶのは、自分たちの最大の敵でもある、ワルモン軍団の首領『ムー』の事だ。
ムーには特殊な力があり、正しい心を持ったモンスター達の悪の心を増幅させ、戦いを好む残虐なワルモンへと変化させる事が出来る。
例えば、自分の仲間であるライガーの弟で、本来は兄思いの優しい性格であったモンスター、ギンギライガーがワルモン四天王にまでなってしまったかのように。
それと同じ力が、有希という少女に働いていたとしたら………?

「けど、ムーには人間を操る力なんて――」
「それだよ!!」
「うわっ、て、またかよ!」

ゲンキの言葉を再び遮って顔をあげたキョンの妹の目が、これまた再び衝撃でよろけているゲンキにしっかりと向けられる。

「有希ちゃん、きっと悪者に操られてるんだ!!」
「い、いやでも、ムーにはそんな力は無いし……」
「じゃあ、脅かされて無理やりにあんな事をさせられてるとか!!」
「脅かされて……? それだったら、確かにあり得るな」

ゲンキが旅した世界の中でも、ワルモン達に支配され、無理やりに働かされていた人々がいた事を思い出す。

「きっと、有希ちゃんは悪い人たちの目を盗んで、こっそりとこれを渡して、私たちに協力してくれてるんだよ!!」
「う、うーん…じゃあそれもきっとあり得る……のかな?」
「うん、絶対そう!」

少し悩んだ素振りを見せるゲンキを無視して、キョンの妹は目をキラキラと輝かせて首を縦に振る。
それを見ていたゲンキも、徐々に疑う事よりも少女の言うとおりに信じる事を選ぼうという気になって行った。
ゲンキ自身、誰かを疑う事は好きではないのだ。

「それにしても操られてるかぁ…」

自分で思いついた事を再び口に出しながら、ゲンキは再び考える。
真実は今だに見えないが、もしかしたらこの殺し合いの背景には負の感情を求めたムーとワルモン軍団が存在している可能性もあるのだ。
最もムーには人の心を操ることなど出来ない筈だが………

――――まさか、その有希って人、人間じゃなくてモンスターだったりしないよな?

一瞬だけ頭をよぎった考えを、苦笑しながら否定する。
ピクシーのように人間に近い体を持ったモンスターはいる事はいるが、それがまさか地球にやってきて、さらに高校生として普通に暮らしている事などおそらくあり得ないだろう。



この予想は半分ほど的中しているという事実を、神ならぬ身のゲンキは知る由もない。

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たまにはロリコンもいいよね!!! ゲンキ 果タシテ、無知トハ罪ナリヤ?(後編)
キョンの妹






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