※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

Triple 『C』 ~超人/超能力者/超…生物?~ ◆qYuVhwC7l.



「カーカッカッカーッ!!」

まるでそれが試合開始のゴング代わりとでも言うように、三つの顔に六つの腕を持つ悪魔超人――アシュラマンが奇妙な笑い声を上げる。

「人間、そして獣の超人よ! 貴様らがこの俺に出会ってしまった事こそ最大の不幸!!
 この悪魔超人、『リングに咲いた悪の華』アシュラマンが貴様らを冥土へと送りこんでくれる!!」

言い終わるや否や、アシュラマンは即座に目の前の二人との間合いを詰め、その六本の腕を振り上げる。
最初に狙った標的は、ひ弱な人間でありながら正義超人『ロビンマスク』の仮面を被った男――古泉一樹。

「くっ………!」

古泉は慌てて手に持っていたアサルトライフルを構えようとする物の、その大柄な体からは想像出来ぬ程に素早いアシュラマンの動きに、付いていくことが出来ない。

「遅いわ!! 所詮、貴様らのようなただの人間が我ら超人に敵う筈も無いのだーっ!!」

成すすべのない脆弱な少年の命を叩き潰さんと、アシュラマンの拳が古泉へと無慈悲に襲いかかる。
だが…………。

ぼふんっ。

果たして、辺りに響いたのは固い拳が人体を破壊する鈍い音ではなく、柔らかい物にぶつかったような間抜けな音であった。
それは何故か? 古泉の傍についていた、毛むくじゃらな謎の巨大生物――トトロが古泉を庇うように立ちふさがったからである。
アシュラマンの六つの拳は全てトトロの柔らかい腹へと命中していたが、もふもふの毛皮と分厚い脂肪が威力を激減させたのか、トトロはニンマリと笑顔すら見せている。

「………ありがとうございます、助かりましたよ」

古泉がトトロの巨体を見上げ、微笑を浮かべながら礼を言えば、ぐるりと顔を後ろに向けて笑顔で答える程の余裕っぷりだ。

「フンッ!! その人間を庇うと言うのか、名も知らぬ獣の超人よ!! 正義超人らしい愚かな行動だなーっ!!」

初手の一撃を無効化された事にやや気分を害されながらも、アシュラマンは一度様子を見ようと後ろへ飛ぶ。
その時に生じた隙を、古泉は見逃さなかった。

「今度は、こちらから行かせてもらいますよ!!」

トトロの巨大な体をバリケードにしながら、アサルトライフルの銃口をアシュラマンへと向ける。
幾ら『閉鎖空間』内での戦闘経験がある古泉とはいえ、本物の銃を扱うのは初めての事であり、
神人のような物言わぬ怪物とは違う生きた人間に対して発砲する事に抵抗が無かったわけではない。
だが、ここではアシュラマンの外見的特徴がいい方向に働いた。
敵は三つの顔に六つの腕を持ち、しかも自らを『悪魔』とまで名乗っているのだ。
あまりにも人間離れしているその事実が、古泉に『生きた人間を撃とうとしている』という倫理的なセーフティーシャッターを解除し、容赦ない弾幕を発生させる。

だが、ここで思いがけない事態が起こった。


「…………………」

ブオン、と空を斬る音が古泉のすぐ傍で聞こえたかと思うと、上からの軽く小突かれるような衝撃と共にアサルトライフルの銃口が地面へと向けられる。

「なっ……!?」

トトロがその巨大な爪で古泉の銃撃を妨害し、完全にこちらの攻撃のチャンスをフイにしてしまったのだ。
裏切りとも取れるその行動に、古泉がトトロの顔を見上げるが、結局彼の口から抗議の言葉が紡がれることは無かった。
それよりも早く、アシュラマンが奇妙な動きを見せたからである。

「カーカッカッカッカ!!竜巻地獄!!」

つい先ほど見た時と同じく、六本の腕を大きく振り回す事によって強烈なつむじ風が発生し、弾丸からアシュラマンを守る障壁のように展開される。
それによって幾つかの弾丸は反射され、古泉の前に立ちふさがるトトロの体へと礫のようにまき散らされる。
完全に速度が死んでいる弾丸はトトロの体に傷一つ負わせることは無かったが、その代わりに後ろの古泉の精神に多大なダメージを与えた。

「バカな、たかだか突風によって発射された弾丸が跳ね返されるなんて…!?」
「ムゥ、たかだかライフルで撃たれただけの弾丸が竜巻地獄を突きぬけるだと…!?」

自分と全く正反対の事実に本気で驚愕している様子のアシュラマンに思わず意識が飛んで脱力しそうになるが、どうにか気を持ち直して古泉は再びトトロを見上げる。
今の現象を見るに、どうやらこの六本腕の怪物をアサルトライフルで攻撃するのは得策ではないようだ。
もう既に残弾数の三分のニ程度の銃弾が消費されているのにも関わらず、その大半は『竜巻地獄』なる突風によって無効化され、
運良くそれを突破した物も大きくコースを外れてアシュラマンの肩や頬などを僅かに掠っただけで留まっている。
もちろん、そんな僅かな傷だけで目の前の悪魔が止まる筈もない。

「……最初からこうなる事が分かっていたと言うのですか…?」

もしそうだとすれば、この毛むくじゃらの生物の持つ頭脳はこちらの予想をはるかに越えたものと言う事になる。
だが、茫然と呟く古泉を見下ろすトトロの表情は、先ほどと変わらぬ笑顔のまま。

「あなたは、一体――――」
「ええいしゃらくさいわーっ!! このまま一気に決着を付けてくれる!!」

古泉の言葉を遮り、アシュラマンが怒りに震える声で叫ぶ。
慌てて目の前の敵の様子を窺う古泉の前で、既に何度目になるかわからない奇妙な現象が発生した。
アシュラマンの三つの顔の内で中心にある者が虹色の光に包まれたかと思うと、その下から全く違う顔が現れたのである。

「阿修羅面、冷血ーーーっ!!」
「顔が、変わった……!?」

のっぺりとした青白い顔色に釣り上がった白目という生気を感じさせない不気味な表情に、古泉が戦慄する。
ただ顔が変わっただけ、と切り捨てるには余りにも危険なオーラを感じる。
それに、ただでさえさっきから明らかに物理法則を無視した現象を引き起こしている相手だ。何かがあると思っておいた方がいいだろう。

「気を付けてください、何か来ます!!」

古泉の言葉を聞いたトトロがコクリと頷くも、その顔にはどことなく緊張の色合いがある様に見える。



「おっと、呑気にお喋りをしている時間があると思っているのか!?」

アシュラマンが叫びと共にトトロへと飛びかかり、その巨大な腹部を右側の三つの拳で撃ちすえる。
最初の一撃の時と同じく『ぼふん』と気の抜ける音とともにその衝撃はトトロの分厚い脂肪へと吸収されていったが、今度はアシュラマンも怯まなかった。

「まだまだ、これからよーっ!!」

そのまま左の拳を再び繰り出す。その次は右。次は左。右。左。右。左。
見る見る内にパンチのスピードは上がっていき、最終的には残像が見える程の速度で六つの衝撃がトトロの体を襲っていく。
最初はまだいつもの笑顔を浮かべて余裕を見せていたトトロも、休む暇もなく繰り出される連続攻撃の前に徐々に顔を歪め、苦しげな声を上げる。

「幾ら貴様の防御力が高いとはいえ、いつまでも俺の攻撃を無効化できる筈も無かろう!!
 さぁ名もなき獣の超人よ! 貴様の脂肪がどこまで耐えられるのか見ものだぜーっ!!」

先ほど自分で口走った『冷血』という言葉に違わず、アシュラマンは苦しむトトロに対して容赦なく攻撃を加えていく。
その攻撃の凄まじさは、何百kgもあろうというトトロの巨体が徐々に後ろへと押し出されている事からも窺い知れた。

(このままでは……まずいですね…!)

トトロに庇われた状態のままで古泉は思考する。こちらの持つ唯一の武器、アサルトライフルもこの怪物のような男には対して通用していない。
幸い、トトロの人並み外れたタフさ加減のお陰でこちらが手酷いダメージを受ける事は無かったが、今のトトロの状態を見るにこのままではジリ貧だ。
しかし…………
トトロの苦しげな横顔を見上げる。古泉の顔には明らかに困惑の色があった。

(なぜ………反撃しないのですか?)

スッ、と視線を横へと移動させ、トトロの腕部を観察する。その腕の先から生えている鋭い爪が、高い殺傷能力を持っているであろう事は火を見るより明らかだ。
一度だけでもその腕を振りおろせば、少なくとも目の前の男を引きはがすは不可能ではない筈なのに。

(怒涛の攻撃に、反応する事も出来ない……? ともかく、僕もこのまま指をくわえて見ている訳にも行きませんね)

反撃の準備のため、自分のディパックの中からニ個の予備マガジンを取り出し、ズボンのポケットに無理やり突っ込んでおく。
銃にほとんど効き目が見込めないとはいえ、無いよりはマシだ。とりあえずどうにかして目の前の敵を退けなければ………。

そして、古泉がアサルトライフルを構え直し、トトロの影から飛び出そうとした正にその時――――トトロを絶え間なく襲っていた振動が、止まった。

「え…………?」

まさか、反撃によって攻撃が止んだのか?

呆然とトトロを見上げる古泉の前で、巨大な体に異変が生じ始める。
上へ。上へ。ゆっくりゆっくりと、トトロの体が浮かんでいく。
いや………正確には『持ち上げられていく』のだ。トトロの体を六本の腕でがっちりとホールドしているアシュラマンによって。

「これでぇぇぇぇ……………!!」

やがてトトロの足は完全に大地から離れ、それでもなお上へ―――トトロの後ろにいる古泉からアシュラマンの体が見えるほどまで持ち上がっていく。
そして、それが極限にまで来たその瞬間に―――――


「終わりだぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

アシュラマンが絶叫と共に腕を全力で振り回し、トトロの巨体は脳天から大地へと叩きつけられる!
それは正に、アシュラマンのブレーンバスターがトトロにクリーンヒットした瞬間だった。

「……………………そんな、バカな……?」

ほぼ地震が起きたと言っても差支えない大地の振動を感じながら、最早何度目かも分からない言葉を呆然と呟く。
あのトトロを、ダンプカー並の体重を持つであろう生物を、生身で持ち上げた? それだけの事を可能とするアシュラマンとは、一体どれ程の怪力の持ち主なのか。
そして…………そんな怪物を相手に、自分は勝つ事が出来るのか?
大地から逆さまに生えたかのように直立していたトトロは、やがて崩れ落ちるように体勢を変えていき、そのまま『ズズン――!』という地鳴りと共に大地の上に転がった。

――――――トトロはそのまま、全く動く気配を見せない。

「カーカッカッカッカ!! 中々の実力はあったようだが、このアシュラマンに敵うほどではないわ!!」

虹色の光と共に、再び元の表情に戻ったアシュラマンが高らかに笑い声を上げる。
もちろんそのままで終わる筈もなく、残酷な笑みを浮かべたままにゆっくりと古泉へと近づいていく。

「さぁ、どうする人間よ? せいぜい、その手の中のおもちゃで抵抗してみるか?」

ゴクリ、と自分が唾を飲む音が聞こえた。
ライフルは自分の手の中にある。その銃口もしっかりと目の前の男に向けられている。後はその引き金を引くだけだ。
だと言うのに、古泉の体は金縛りにあったかのように動かない。
そして、その状態の古泉を黙って見逃すほど、アシュラマンは甘い男ではない。

「所詮はそんな物か、人間!!」

アシュラマンの拳が古泉へと迫る。彼の脳は『回避運動』を命ずるが、彼の体はスイッチが切れてしまったかのように動かない。
脇腹。胸部。そして、顔面。縦三つの衝撃が古泉の体を襲い――――気が付いた時には古泉は仰向けに倒れていた。

(………何、が………?)
「フン…パンチ一発でこれほどまでに吹き飛ぶとは……やはり人間風情では軽いストレッチにもならん」

アシュラマンの声は今だに聞こえてくる。どうやら、あまりの衝撃に一瞬だけ意識を飛ばしていたらしい。
幸か不幸か、体を襲う激しい痛みが強制的に古泉の頭を覚醒させる。
腹と胸の痛みに比べると、頭部の痛みはまだ軽く感じられる。

(どうやら見た目はどうあれ…この仮面はかなり頑丈にできた良品のよう…ですね…)

まだ脳が軽く混乱しているのか、あまりにも場違いな事をボンヤリと考えながら古泉がよろよろと上体を起こす。
それを見たアシュラマンは退屈そうな顔に、僅かに微笑をのぞかせた。

「ほう、俺の拳を食らって尚意識を保っていられるか? カーカッカッ! 人間にしてはそこそこやるようだなーっ!」

そんな事を喋りながら、アシュラマンは焦らすようにゆっくりとこちらへと歩を進めていく。
そこから感じられる殺意・敵意は未だに衰える様子を見せない。


(反撃…を……しなければ、殺られる……!!)

ぐらぐらと揺れる視界を無理やり抑え込みながら、必死の抵抗を試みようとした時、古泉は気づいた。
自分の手の中から、ついさっきまで持っていたアサルトライフルが忽然と姿を消している事に。
ポケットの中にあった予備マガジンすらも、何処かへと消えている。

(しまった……! 今の衝撃で……!?)
「どうした? 丸腰になっていた事がそんなにショックだったか?」
「…………!!」

予想以上に近くで聞こえたアシュラマンの声に、手元に落としていた視線を真上へ向ける。
果たして、そこには三つの顔に六つの腕を持った悪魔が立っていた。
六つの腕の内、一番上の二対の腕を固く握りしめ降り上げながら、その目にどす黒い殺意を抱いて。

「ここまでだな…まぁ、多少は楽しませてもらったぞ」
(そんな…こんな処で……?)

古泉の心を、絶望と言う名の暗雲が包み込む。
ここで、目の前の男の拳が振り下ろされ、頭部を砕かれて―――自分は死ぬ。

「くっ……………!!」

体も満足に動かす事が出来ない中で、古泉は必死にその頭脳を回転させる。
現状打破には何が必要なのか。この絶体絶命のピンチを脱するには何が必要なのか。

(せめて何か武器が……僕が『例の力』を使えれば……!!)

脳裏に浮かぶのは、『機関』の仲間たちと共に幾度となく行使してきた超能力だ。
巨大かつ強力な神人たちですら、この手で屠る事も可能にするあの力。
だが、それは涼宮ハルヒのストレスによって作りだされる『閉鎖空間』の中でのみ使用を許された能力。
こんな処でそれを願っても、所詮は無い物ねだりに過ぎない。

はず、だった。

「―――――――――――!?」

手の中に感じた奇妙な感覚。熱く燃えたぎる火の球を、手の中に握り締めたようなそれは、幾度となく感じてきた物。
………いや、正確にはそうではない。これを感じたのはかつて一度だけだ。あれはそう、コンピ研の――――――。

しかし、運命の神は少年に驚く暇さえ与えてはくれない。

「死ねぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!」

絶叫と共に、アシュラマンの拳が振り下ろされる。正確に脳天を目指して突き進んでくるそれを仮面の奥から睨みつけながら、古泉は歯噛みする。

(後数秒……いや、一秒でも構いません! もう少しだけ、僕が感じた今の『力』に確証を持てるだけの時間があれば……!!)

悔やんでも悔やみきれない後悔の念を噛みしめながら、古泉は思わず硬く目を閉じる。
後少しだけ、もう少しだけ時間があれば―――時間を作れれば――――!! そんな強い思いだけが古泉の胸の中で渦巻く。

そして―――――――――衝撃は、襲ってこなかった。


「な…………何だぁーーーーっ!?」

アシュラマンの素っ頓狂な叫びが草原を揺らす。
恐る恐ると目を開いた古泉は、ある事実を知り冷たい息を呑みこんだ。
すなわち、今まで絶え間なく自分を襲ってきた『物理法則を無視した現象』を、ついに自分が起こす側になったのだ、と。

古泉が被っている青いマスク―――説明書きによれば『ロビンマスクの仮面』と言う名のそれの額から………
雄々しい角が天へと伸び、アシュラマンの腕を受け止めていたのだ。
もちろん、仮面の額部分のすぐ下には古泉の額が存在している。そして当たり前の事だが、その僅かな空間の間にこれだけの角が入る筈もない。
だというのに、その一角獣の様な見事な角はしっかりと存在し、アシュラマンの拳から古泉の体を守リ通している。

「バカな……こんな物、俺は知らんぞ!? ロビンマスクの仮面に、こんなギミックがあった事など!?」

アシュラマンが取り乱すのも無理は無い。
彼には知る由もない事だが、このロビンマスクの仮面に収納された角――ユニコーンホーンは、彼がここに呼ばれるよりももう少しだけ先の未来、
後に『キン肉星王位争奪戦』と呼ばれる戦いの中で、ロビンマスクが生み出した特殊ギミックである。
その正体は、ロビン家に伝わる家宝『アノアロの杖』が仮面の中に埋め込まれた物。
もちろんその角の真価は、ただ見栄えの良さや頭突き等の攻撃力の上昇にとどまる訳ではない。

「これは、一体……!?」

アシュラマンと同じく、突然の事態についていけない古泉は、座り込んだ状態のまま動くことができなかった。
ただ、額に…ちょうど角が生えている根元の辺りにチリチリとした感覚が断続的に発生している。
まるで『そこに意識を集中させろ』と訴えかけているかのように。

「……何が起こるのかはわかりませんが…いいでしょう、乗ってあげますよ」

今発生している現象は、著しく古泉の常識の範疇を超えている。
だがそれでも第六感的な勘で、大げさに言うならば言うならばある意味『超能力』的な感覚で、古泉は感じている事があった。
――――今、間違いなく運は自分の方に向いている。

グッと力を込め、額に向かって意識を集中させる。自分に残された力の全てをそこに集める感覚。
そしてそれを―――――発射する!!

熱せられた空気が古泉の周りを覆うような感覚を覚える。そしてそれが幻覚や勘違いでない事に気づくのにそう時間は掛らなかった。
額に生えた角の先端から、赤く燃えたぎる炎がアシュラマンに向かって発射されたからだ。

「ば、バカなーーーーーーーーーーっ!!」

さっきまでは古泉の専売特許であった言葉を叫びながらアシュラマンが思わず飛び退く。

これがロビンマスクの仮面に埋め込まれた、『アノアロの杖』の真の力―――――火炎放射能力!!

「全く、飛んでも無いアイテムもあった物ですね……」

仮面ににょっきりと生えた角から火炎放射―――あの派手好きな涼宮ハルヒでも思いつかないようなトンデモアイテムに苦笑しながらも、ヨロヨロと立ち上がる。
原理がどうとか、物理法則がどうとかという理屈は後回しだ。とにかく今は、思わぬ事で入手できたこの武器を有効活用するのみ!

「………はぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

再び意識を額に集め、気合いを入れて集中させる。それと呼応するように角の中心に炎が集まり、再びアシュラマンへと向けて発射される。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

体中を真紅の炎に焼かれながら、アシュラマンは苦しげな声を上げて悶える。
躍起になって炎を消そうと体を盛んに動かすと、辺り一面が草原であった事も相まって忽ち炎が燃え広がっていった。
アシュラマンの体から、燃えやすい若草へと次々に炎は燃えうつっていき、見る見る内に火勢が上がっていく。
最早ボヤ騒ぎでは済まされないほどの惨状が広がるのを見た古泉が、慌てて火炎放射をストップさせる物の、時すでに遅し。
自分達のいる草原の一角は、最早火の海と言っていい様相を醸し出していた。

「少し、やり過ぎてしまいましたか…?」

仮面の奥で苦笑しながら古泉が呟く。笑いごとで済まされる様な状況でもなかったが、どうしても乾いた笑いが込み上げてくる。
幸い対して風が吹いていない事もあり、古泉が立っている周辺にはまだ火の手は上がっていない。
だが、目の前の赤い炎はこうして見ている間にも次々と周りの緑を塗り替えてゆく。
自分が立っている場所が火の海に包まれるのも時間の問題だろう。
炎の中に消えたアシュラマンの姿は、未だ見えない。

(このまま、焼死してくれればありがたいのですが)

が、流石にこの物騒な願いを聞き入れてくれるほど、運命と言うの存在は寛大では無かったようだ。

「阿修羅面………いぃかぁりぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

炎の中から響いてくるのは、聞き間違える筈もない強敵の叫び声。
ボフゥッ!! と言う爆発音と共に炎の中心から小さな火柱が上がったかと思えば、突然のつむじ風が炎の海を真っ二つに切り裂く。
強引に開かれた道の奥にいるのは、三度その表情を変形させたアシュラマンであった。
土気色の顔に開かれた口から飛び出す鋭い牙、そして爛々と輝く目から覗かせる凶暴さは正しく『怒り』と呼ぶに相応しい形相だ。

(炎と相まって、さながら不動明王と言った所ですか……やっている事はどちらかと言えば旧約聖書が近いですが)

我ながら笑えない冗談だ。実際、今の状況は先ほどまで自分の口をついていた乾いた笑いすら湧いてこない。
アシュラマンの体には随所に黒焦げた跡が見える。流石に炎の直撃を受けて無傷では済まなかったらしい。
だが、こちらへと向かってくる足取りには疲労の後はほとんど見えない。
まだまだ体力的には余裕綽綽、と言った所か。
更に間の悪い事に、先のつむじ風によって炎の侵攻が一気に加速し、最早古泉の周りは完全に灼熱の海に取り囲まれてしまっている。
脱出はほぼ不可能と見ていいだろう。
だが、そんな絶望的な状況にあってもまだ古泉は希望を捨てない。

(こちらも、やられたままではありませんよ)

チラリと自分の右腕に目を落とす。
果たして、その手のひらの上には、丁度今自分の周りを覆っている炎と同じ色をした真っ赤な光球が浮かんでいた。
ここまでの疑問が確信に変わった事に安堵しながらも、古泉はやれやれと肩を竦める。

(あのカマドウマの空間と同じく、この島も涼宮さんの何かが……いや、ここは貴方の仕業と見た方が正しいのでしょうか……長門さん)
「貴様……その力は何だ? ただの人間かと思っていたが…まさか貴様も俺たちと同じ、超人だと言うのか?」

アシュラマンのいぶかしむ声には答えず、古泉はずっと自分の頭を保護してくれていた仮面をゆっくりと外す。
炎によって気温が遥かに高まっていた事もあり、仮面という灼熱地獄から解放された顔には最早涼しささえも感じる。
もちろん、仮面を脱いだのはただ『熱かったから』ではない。
今から自分が放つ『攻撃』をしっかりと命中させるためにも、視界が微妙に遮られる仮面は邪魔だったのだ。

「超人ですか……残念ですが、僕はそんな大それたものではありません」


アシュラマンに向かって、不適かつ爽やかに…もしも『彼』が見ていれば『胡散臭い』と表現されたであろう微笑みを見せながら、古泉は自分の正体を告げる。



「実は僕は、『超能力者』なんですよ」



その言葉を合図に、バレーボールのように手の中を赤球をポンと上へと放り投げる。
緩やかな放物線を描きながら飛んでいくそれを眼で追いながら、一歩、二歩――――ジャンプ!
前方のアシュラマンは、こちらの動きを窺っているのか、それともまだ事態に付いていけないのか、微動だにしていない。
――――行ける!!

「ふんっ……もっ――――――――!!」

渾身の力で、スパイクを放とうと気合いを入れて叫ぼうとした瞬間――――ヌゥッと、横から見慣れた毛むくじゃらの顔が飛び出した。

「っっっっっっ!?」

余りにも突然すぎる盟友の登場に面食らった物の、まだ勢いは殺せない…いや、死んでいない……死なせない!

「―――――――ふぅっっっっっっっ!!!!」

そのまま、相棒に赤球が直撃する事だけは回避して振り上げた右手を振り下ろす。
毛だらけの巨体に遮られて標的の姿こそ見失ってしまった物の、その刹那には爆発音と土煙、そして標的の面食らった叫び声が確認できた。
だが、それでも命中したか否かまでは判別できない。
どうにか今の状況を確かめようと首を伸ばしたものの、結局古泉の体は重力に従って自由落下し、出会ったばかりの友人の胸にぼふんと飛び込んだ。

「…………ふぅ……無事だったのですね」

古泉がもふもふの毛皮に埋まったまま顔を上に向ければ、トトロはもはや愛着すら感じる笑顔を浮かべてそれに応える。
よくよく観察してみれば、脳天の辺りがさっきよりも膨らんでいる気がする。
流石に熱い脂肪に覆われたタフな超……生物? とは言え、自分の体重による一撃を受けて無傷とは行かなかったか。

「それにしても、よくこの短時間で意識を………おや?」

ふんふんと鼻を鳴らしながら、古泉が疑問の声を上げる。なんとなく、焦げ臭い?
首を見回して様子を見てみると、トトロの左足の少し上、脇腹? の辺りが僅かに黒ずみ、縮れている。
明らかに、炎によって焼け焦げた跡だ。
改めて全身を確認してみるが、辺りを覆い尽くす炎の壁を生身で突きぬけたのにも関わらず、他の場所に焼き焦げた箇所は見られない。
この一か所だけをしばらく炎で焙られ、その熱さで半強制的に覚醒させられたと言う事か。

「なるほど、僕のせいでしたか…乱暴な起こし方ですいませんでしたね」

思わず苦笑しながら古泉が謝罪の言葉を述べれば、トトロは『気にするな』とばかりにニンマリと笑ってみせる。
一連の流れで発生した和やかな空気に気が緩みかけるが、まだアシュラマンの撃退が確認できていないのを思い出し、気分と表情を引き締める。


「今は素直に再会を喜びたいところですが、そうも行きません。
 幸い僕の『力』は僅かながらこの空間で使用できる事も分かりましたし、どうにかあのアシュラマンともまともに戦う事が出来そうです。
 病み上がりの貴方にこんな事を頼むのも気がひけますが、僕のフォローを―――――うわっ!?」

古泉の言葉は、突然にその体をトトロの手でしっかりとホールドされた事によって強制的に中断させられる。
そのままトトロは有無を言わさず自分の体に古泉を押し付け、『大丈夫』とでも言わんばかりに笑いかけると――――――跳んだ。

「なっ…………!?」

その重量級の体のどこにそれだけの筋力があったのか、トトロは10m程の高さはあろうかと言う位置まで一気にジャンプし、真っ赤な草原の中心から脱出した。

ズシン――――!

再び重低音と共に大地を響かせながら着地し、痺れの様な衝撃がつま先から耳の天辺までを駆け上がる。
そして足の小休憩もそこそこに、トトロは古泉を抱き抱えたまま一目散に駆け出した。
軽自動車ほどはあろうかと言うその速度によって生じる風を浴びながら、古泉はトトロに向かって抗議する。

「どうしました!? 逃げなくとも、僕と貴方で力を合わせれば、きっとあの敵も…………」

それ以上の言葉は古泉の口から発せられる事は無かった。
トトロによって無理やりに止められたわけでも、風によって喋る事が困難になった訳でもない。


ただ、古泉の言葉を聞いている間にトトロが見せた、笑顔ではないどこか寂しそうな無表情が、妙に少年の胸を締めつけていた。






「カーカッカッカッカーッ!!!」

奇妙な笑い声を上げながら、アシュラマンが赤い草原から飛び出し、1時間ほど前まで自分が探索していた博物館の入口へと躍り出る。
既に「阿修羅面・怒り」は解除され、基本の表情である笑いへと変化していたが、その顔にはアリアリと不満の色が浮かんでいた。
不満の理由はただ一つ、ようやく体も温まり、戦況も面白くなってきたところで思い切り水を差してくれた獣の超人だ。

「フン、あの超人め…人間を連れて尻尾を巻いて逃げだすなど、超人の風上にも置けぬわ!!」

カッ、と唾を吐き捨てながら苛立ちの感情もそのままに叫ぶ。
突然あのひ弱な人間が放った謎の光弾は、そのコースが大きく逸れて居たために自分には掠りもしなかったが、直撃した地面に開いた大穴からもその威力が窺い知れた。
それまで『せいぜい人間にしては多少頑丈な程度』とあの少年の事を軽視していたアシュラマンも、この攻撃には肝を冷やしたが、
逆に己の中に眠る超人としての闘魂が大いに刺激されたのも事実である。
戦を好む悪魔超人として、あの『超能力者』と名乗る少年とは『炎の海のデスマッチ』を楽しみたかったと言うのに…………。


「身震いするほど腹の立つーーっ! 次に遭遇した時はこの借り、必ず返してくれるわ!!」

獣の超人への不満を天に向かってぶちまけた後に、アシュラマンはあの炎の中で拾った物に目をやった。
例の人間が最初に使っていたアサルトライフルと予備マガジン2つである。
これらを回収できたのは全くの偶然だが、運が良かったのか火の手の少ない所に転がっていたそれは使用するのに支障がなさそうだ。
しかし、アシュラマンは元々こんな物を使う気はない。

「一騎当千の力を持つ超人に、このような飛び道具など不要!! …とは言え、何の役に立つかはわからんからな。一応持って置くに越した事はないか」

自分のディパックの中に無造作にライフルをぶち込むと、アシュラマンは博物館から目の前に広がる大火事を見つめる。

「さて、これはどうした物か………」

五本の腕を組み、一本の腕を顎に当てながらアシュラマンが独りごちる。
草原を覆う炎は勢いこそ激しいが、どうやら博物館の周りまではその赤い手を伸ばすに至らないらしい。
自らの必殺技『竜巻地獄』で一気に炎を吹き飛ばす事も不可能では無さそうだが、そこまでする必要も無いだろう。

「いや、むしろ……これは好機かもしれんな」

何せ、これほどの大火事だ。恐らく辺り一帯のエリアから見ても異常事態が発生している事がすぐに知れるだろう。
そして、一体何が起こったのかと様子を見に来る参加者も一人や二人ではあるまい。

「ノコノコとやってきた愚かな参加者どもを、この手で葬り去る……カーカッカッカッカ!! 飛んで火にいる夏の虫とはこの事よ!!」

ここで待っているだけで倒すべき敵達がやってくるのだ、有効活用しない手は無い。
アシュラマンはその場に座り込み、体力の回復を行いながら新たな獲物が飛び込んでくるのを待ち構える。


「………しかし、気のせいか? 技のキレや体力などが、いつも以上に衰えている気がするのは……?」


ふと零した呟き声は、炎の唸りに飲み込まれていった。




【H-8 博物館前/一日目・明け方】

【アシュラマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】あちこちに軽い火傷、体力中消費
【持ち物】 ディパック(支給品一式入り、不明支給品1~3、H&K XM8(10/30)、5.56mm NATO弾x90)
【思考】
1:このままこの場所に待機して、火事に釣られてやってきた参加者を殺すぞ。
2:参加者は全員殺すぞ。 悪魔将軍はどうしよう。
3:完璧超人(草壁タツオ、長門)は始末するぞ。
【備考】
※アシュラマンは夢の超人タッグ編の途中からの参戦です。22歳のバリバリ現役です。
 完璧超人がネプチューンマンたちということを知らないようです。
※悪魔将軍は保留(あとで方針を変えるかもしれません)。
※ここにいる超人以外の者も別の場所でバトルロワイアルをさせられていると考えています。
※トトロを未知の超人だと思っています。
※自分の体に課せられた制限にうすうす感づいています。


※H-08のエリア一帯に火事が発生していますが、博物館に炎が広がる事は無いようです。地形のためか、何らかの力が働いているのかは不明。
※火事がどれ位の範囲まで確認できるかは、次回以降の書き手さんにお任せします。


時系列順で読む


投下順で読む


闘将(たたかえ)!古泉仮面 古泉一樹 優しい隣獣
トトロ
アシュラマン 灼熱のファイヤーデスマッチ!の巻




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー