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God Knows…… ◆h6KpN01cDg




……悩んでいてもどうしようもない。
俺が出した結論はそれだった。
明るくなり始めた空をぼおっと見つめる。……何がある訳じゃない、何もないからそんなことをしていたんだ。
―――俺は、確かに中途半端だ。
『教えてやろう、『悪』気取りの青二才よ。 貴様に足りなかったのは悪としての覚悟、年季、実力。――そして―――『格』だ』
あのオッサンに言われた言葉が頭に蘇る。
分かっていたんだ。……そもそも、本当に血も涙もない殺人鬼になるためには、仲間だけを助けたいなんてムシのいい考えを捨てなけりゃいけないはずだ。
それができていない時点で……強いとか弱いとかじゃなく……俺は何にもなれない。
極悪人にもなれず、……人を殺した以上善人にも戻れず。
はあ、考えるだけで嫌になってきた。……考えたくない。
一歩踏みだす。……少し全身が痛いが、普通に行動できるようだ。
この0号ガイバー、分かっちゃいたが只者じゃないよな。
「……どう、しようか……」
とりあえず、妹にはもう会いたくなかった。その気持ちが俺を妹の向かった方向から逆方向に進ませる。
元来た道を戻ることになるが、妹に会うよりましだった。
それに、北には建物がある。……動けるとは言っても少々辛い。放送位まではそこで落ち着いて腰を落ち着けたかった。
―――そうか、放送が、あるんだったな。
思い出す。……時刻は5時前。あと放送まで1時間弱というところだ。
まだ、数時間しか経ってないんだよな、これまで。もう人生の半分くらい生きた心地がするんだが……。
……ハルヒや朝比奈さん、古泉は大丈夫だろうか。
そしてまた先ほどの思考が戻ってくる。皆を殺していけば、ハルヒや朝比奈さんの安全が失われるのではないか、と。
「……もういい、とりあえず休むぞ、俺は」
身体が疲れているときに頭は回らない。今後の方針は……それからだ。
もしそれまでに知り合いとでも会ったらどうしようか?……いや、さすがにそこまで不運ではないだろう。そこまで運が悪かったら俺はどれだけ厄病神に呪われているんだ?
……会いたくない。特に、ハルヒには。

でも俺は、本当は理解していたのかもしれない。
俺には、人殺しの俺には―――もはや迷うことも許されなかったんだ、と。


「ヴィヴィオちゃん、大丈夫?」
「う、……うん、大丈夫」
あたしは、ヴィヴィオちゃんと共に高校に足を踏み入れた。
ぎしり、と床が軋む。私が重いんじゃない、学校自体が古くて脆いんだから。
そして入口から一番近くにある、どこにでもありそうな教室に入る。
誰もいない。……いたら困っちゃうわよ。
「……はあ、はあ……死ぬかと思ったわ……」
わずかに太陽が覗く空を見つめながら、すとんと座り込む。
そう言えば……三時間歩きとおした後に全力ダッシュしたんだもの。運動は得意だけど、さすがに疲れるわよね。
「ハルヒお姉ちゃんの方が大丈夫?」
ヴィヴィオちゃんが私にそう言ってくる。……何とか、大丈夫みたい。
私は大きく息を吐き、教室の中を見渡した。
……少し古めかしいことを除いては、私たちの高校とほとんど変わらない普通教室。前方の黒番の上には巨大な板が立てかけられており、そこには「校則 k(勤勉) S(節操) k(協力)」とでかでかと書かれていた。……初めの英語って意味あるのかしら?
「……」
誰も、いない。ひとまず、少しは休めそうね。
「……お姉ちゃん……?」
ヴィヴィオちゃんの不安そうな顔。その顔を見て、あたしは……
「大丈夫、ヴィヴィオちゃん。 貴方のママも私が探してあげるし、モッチーや……あの我儘女とも……嫌だけど合流できるから!」
ヴィヴィオちゃんにそう言って笑いかけた。
あたしは……団長だもの。ヴィヴィオちゃんだけじゃない、皆をまとめて励ましてやらなきゃいけない。
―――それにしても、あの男の魔法……どういう仕組みなのかしら?
不謹慎だと分かってはいながらも、そう考えてしまう。……ここに来てからびっくりすることばっかりだわ。
モッチーみたいな子はいるし、クロッチみたいなものもあるし、おまけに魔法を使える人間までいる!
正直、わくわくする。楽しくてたまらないの。……ここが殺し合いの場所じゃなければね。
「……そして有希を悪の手から救い出すの!」
いくらあたしが見たかったものがここに沢山あっても、あたしはこのことを喜んじゃいけない。殺し合いなんて……あたしの大切な『友達』を操って利用するなんて、許しちゃいけない。
有希……あたし、ちゃんと分かってるから。
確かに有希は無口で、何考えてるか分からないところもあるけど……でも有希は可愛くて優しいいい子なんだ。
団長のあたしがそう思ってるんだもの、違うはずない!
「……うん!」
ヴィヴィオちゃんが、笑う。
「……アスカお姉ちゃんも、モッチーも……ママとも……会えるよね!」
「当然よ! 大船に乗ったつもりでどおんと私を信じなさい!」
「分かった! ヴィヴィオはハルヒお姉ちゃんを信じる!」
「約束よ! ヴィヴィオちゃんも特別団員なんだから」
「うん!」

『Ms.涼宮、注意を』
『警告、生命体の存在を感知』
あたしとヴィヴィオちゃんの『約束』を遮ったのは、クロッチとバルディッシュが同時に上げた声だった。
「……!?」
緊張が走る。
さっきの魔法を使った男みたいな奴だったら……あたしに勝ち目はない。
それくらい……ちゃんと分かってる。でも……
「お姉ちゃん……」
ヴィヴィオちゃんがあたしの腕の中で震えている。……守らないと。
あたしがヴィヴィオちゃんを守らないと。あの馬鹿女もモッチーもいないし、あたしは団員を守らなきゃ。
『接近。こちらに向かっているようです』
「……!」
知り合いで会って欲しい。あたしはそう祈る。
そして―――

「……っ、ハル……」
声が、聞こえた。
がらりとドアを開け小さな声でそう呟いて、失敗したという様子で口をつぐむ。
でも、あたしはちゃんと聞いていた。
「……キョン……その声はキョンね!?」
あたしはヴィヴィオちゃんから視線を外し、顔を持ち上げ―――

そこにいる奇妙な姿をした『何か』を、見た。

「……キョ、ン?」


                    ※

休みたかった。
遊園地から立ち去った俺は、休めつつ情報を得られそうで、なおかつ一番近い建物を選んで出向くことにした。
そこがここ―――高校。
時折体の節々が痛んだが、行動にはなんの支障もなくそこまでたどり着いた。……やべ、もうすぐ放送じゃないか?
そこで、あいつの名前が呼ばれる訳だ。……俺が殺した命の名前が。
あいつの知り合いはどう思うだろうか?悲しむか?俺を憎むだろうか?……喜ぶ奴もいるかもしれないな。
……って、何を考えているんだ俺は。ははは、今更そんなこと関係ないだろう。
感傷に浸っているのか?冗談やめろ。知り合い以外の奴を全員殺すんだろ?
今は俺はキョンじゃない、0号ガイバー……力ある人間だ。何もできない、神の力や宇宙人や未来人や超能力者に振り回されるだけの一般人じゃあない。
そう、もう迷うことはできないはずだ。
だが……ハルヒの仲間が頼りになる人間だったら?再びその考えが頭をもたげる。
「……ああもう、止めてくれ」
思考を停止できたらどんなに楽か。しかし俺は仲間を助けるという目的を持つ以上、考えることを止めることができない。
ただの享楽殺人者になれれば、こんな苦労はしないんだがな。
いい、そんなのは放送を聞いてから、仲間の無事を確認してからでも考えられるじゃないか。
とりあえず返り血だけは拭っておこう、そう考えて玄関脇にある水道でとれる限り体の血液を落とす。このまま歩いていたら、俺は危険人物ですと言っているようなものだからな。
ディパックをあさってみたが、拭けるものがない。まあ放っておけば渇くだろう。
もし偶然知り合いに会ったら―――そんなことはしばらくはないと思うが―――水に落ちたとでも言おう。
玄関から校舎に入る。床が悲鳴を上げる。かなり老朽化してるみたいだが、休むには問題ないだろう。
声が一切聞こえなかったので、何の確認もせずに教室のドアを開けてしまった。
それが俺の運の尽き。……尽くほど元からなかったが。
そして、広がる光景は―――

そういや、俺の今日の朝の占いは何位だったろうか。
妹が今日は1位だったと喜んでいたのは覚えているが、俺自身はろくに見ちゃいなかった。
ああ、こんなことになるんだったら、ちゃんと見ておくんだったな。
きっと今日の俺の運勢は―――最下位に決まっている。
『出会いたくない人によく出会ってしまう日。
やましいことがある人はばれないように注意しましょう!
ラッキーカラーは赤、ラッキープレイスは自室です』ってとこか?
だったら、俺は占いを信じてやってもよかったんだが。
それしかないだろう?

そうじゃないなら、何で目の前にハルヒがいるんだよ!
「……っ、ハル……」
しまったと慌てて口を噤むが、おそらくもう遅い。
迂闊すぎる。あれだけ周到に作戦を考えていたのに、実際ハルヒに出会ったら声を漏らしてしまうとは。何回同じミスをすれば気が済むんだ?
……いや、言い訳をさせてくれ。まさか知り合いに続けて会うなんて誰も思わないだろ?

「キョン……その声はキョンね!?」
……まずい。俺は何をしてるんだ。
キョンだと認識された以上、ハルヒから逃げることなどできない。
ハルヒが顔を上げ、そして自分の今の姿を見て固まるのが分かる。
……そりゃあそうだよな。ハルヒだって一応住んでた世界は普通なんだし。持っている力は普通じゃないが。
「……キョ、ン?」
そしてハルヒは、目を見開いて俺の名前を呼び、
「な、何なのよその変な格好はー!!!」
叫んだ。
ええい、耳がキンキンする。聴覚鋭くなってるんだぞ、叫ぶな。
「キョンでしょ!? キョンよね!? ちょっと何これー! なんか戦隊者のヒーロー……よりむしろ悪役っぽいわね……とにかくこれどうしたのよ!?」
ハルヒが立ち上がって俺に歩み寄ってくる。……どうやら、怖がっている訳ではないらしい。
寧ろその声色からは、恐怖より好奇心が伝わってきた。
……ああ、そうだったな。ハルヒはこういう奴だ。『キョンが変な格好してる―怖いよーえーんえーん』なんてしおらしいキャラじゃなかったな。俺もボケたか?
「……あ、ああ」
「それに体濡れてるじゃない!? どうしたのよ全く。 ……分かった、川にでも落ちたんでしょう!?」
しかし、意外にあっさりした反応だな……。
「さあ、キョン、ここに座って」
「……いや、ハルヒ……お前さ……」
「いいから! 団長命令よ!」
こんな場所でもハルヒは相変わらずハルヒだ。逆らう気力も起きない。
俺はハルヒに指示されたとおりに座り込んだ。
……今のこの外見の俺がハルヒの隣に座っているなんて、傍から見たらシュール過ぎるな。
第一、何で俺はこんなに大人しく言うことを聞いているんだ?俺はハルヒを―――
「お、お姉ちゃん……」
そこで俺は、初めて気付いた。
ハルヒの横に、小さな女の子がいることに。
「……ひっ……」
俺と視線が合うと、怯んだように一歩下がる。
妹よりもっと幼い、オッドアイ・金髪の幼女。……どう考えても無害。
ハルヒの同行者―――で間違いない。
「ヴィヴィオちゃん大丈夫よ。 ……こいつはあたしの団員だから。 まあ外見はかなり怖いけど中身は無害も無害、何もできないから大丈夫よ」
……すっごく失礼なことを言われた気がするんだが……。
「……本当?」
「ええ、もちろんよ。 ……さあ、キョン」
ヴィヴィオとかいう幼女に笑いかけたハルヒは、すぐさま俺に向きなおり、俺の肩を掴む。
まるで制服のネクタイをひっつかむような自然な動作で。
「説明してもらうわよ……どうしてこんな面白い姿になったのか! これも魔法!? それともクロッチみたいなデバイス!? あんた魔法が使えたの!? 説明しなさい!」
ああ、これは―――ハルヒだ。
俺はそう実感する。
ハルヒはどこまでもハルヒだった。皆を守るため人間をやめた俺と違って、ハルヒは、いつもと同じ、強引で、トラブルメーカーで、好奇心旺盛で、そして―――

あえて言おう、俺はこのとき、一瞬だけ忘れていた。
俺自身が、一人の人間を殺した殺人鬼だということを。
俺は―――皆を守るために、殺し合いに乗ったのだということを。

俺は今、わずかな間だけ―――『キョン』だったんだ。



「……と、言うことだ」
「支給品ねえ……。 まあ、あたしもクロッチだったし、変じゃないと思うけど」
そして、俺はハルヒに急かされながら、俺がこの姿になった詳細を話した。……もちろん、俺が殺した人間のことには一切触れずに。
ガイバーになった理由は自己防衛、鎧のようなものだと思ったらこの姿になったんだ、とかなり適当にごまかしたが、ハルヒは信じているようだ。
というより、話を聞くとハルヒも俺を見てもひるまない程度に人間でない外見をした奴と会っているらしい。モッチーとかいう化け物、そしてハルヒの横に置いてあるカード状の喋る機械。インテリなんとか、だったか。
もう今更何が来ても驚かないわ、とはハルヒの弁だが、まあおかしくはない。きっとこんな場じゃなかったなら、今頃大はしゃぎしているんだろうな。
「でもさすがにその外見は怖いわよ。 どうにかできないの?」
「どうにかといわれてもなあ……」
変身を説くということか?……それは残念だができないな。
何故なら―――
「よ、よろしくね、お兄ちゃん」
俺は、今からこの少女を殺さなければならないからだ。
「ヴィヴィオちゃんが怖がってるし……」
「ああ、悪い。 俺にも分からないんだ。 元の主が分かればいいんだが……」
平然と嘘を吐く。表情が分からなくて本当に助かったな。……きっと今の俺は冷や汗をかいているだろうから。
「何よ、使えないわね。 ……ごめんねヴィヴィオちゃん、うちの雑用係が役立たずで」
おいおいハルヒ、今までの俺がどれだけ頑張ってきたと思ってるんだ?酷いんじゃないか?……なんて、口が裂けても言わないが。
「へ、平気だよ……キョン、お兄ちゃん」
無邪気、という言葉がこれほど似合う子もなかなかいまい。ハーフ、だろうか?日本語ぺらぺらだが。
別にこの子が異世界の住人だろうと俺はちっとも驚かないがな。
『……はじめまして、Mr.キョン。 Ms.涼宮からお話は聞いています』
『Nice to meet you』
クロスミラージュとバルディッシュ……とかいう名前の機械が俺に喋りかける。……よくできてるな、と思う。
―――って、俺は何を冷静に今の状況を淡々と解説しているんだ?
これじゃあ普段と変わらないじゃないか。今の状況を理解しろ。ここは殺し合いの場だぞ!
「いい、キョン、クロッチよ! あたしたちの仲間。 で、あとここには馬鹿女とモッチーが集まることになってるの。 ……アスカだっけ?あいつ」
ハルヒが任せろとでも言わんばかりに胸を張る。ここはハルヒと幼女が決めた集合場所らしかった。
「うん、アスカお姉ちゃん」
「ありがとう、だからキョンも一緒に待ちましょう? あんただって有希はあのおっさんに操られてるだけだって思うわよね!?」
力強く主張するハルヒ。
その瞳には長門を、俺も、疑う気持ちは一切感じられなかった。

調子が狂う。
俺の決意が、ハルヒの前では急速に音を立てて凋んでいくのが分かる。
今更戻れない、そんなことは分かっている。許されるなんて思っていない。俺はそこまで厚かましくはない。
なのに、俺は―――今、戻りたいと思っている。
普段と変わらないハルヒに触れると、余計に。
今からでも時を戻して、あの少年を殺す前に戻りたい、そう思ってしまっている。
そうして人を殺す決意などせず、妹に手を上げたりもせず、ハルヒと協力してここから脱出する道を選んでいたなら、どうなっただろう?
……いかん、頭がショートしてるなこりゃ。少し頭冷やそうか、と脳内で見知らぬ女が囁いている気がする。
こんなことを考えること自体が現実逃避だ。向き直るって決めただろ?なのに、俺は何を迷っている?
殺すんだ。殺さなきゃいけないんだ。ハルヒを、皆を守るために。
幸い、ハルヒの同行者は幼い子供。何の力もない。おそらく俺が腕を振り上げるだけで頭をぐちゃぐちゃに潰すことができるだろう。
簡単だ。少なくとも、さっき戦ったおっさんの数百倍。
俺がこいつを殺しても―――ハルヒが死ぬことはない。それどころか、このヴィヴィオちゃんとやらはハルヒの足手まといじゃないか。
なら、さっさと始末した方がいい。
そのためには、同じ手は使いたくないがハルヒにも気絶してもらって……でもこの機械二体が五月蠅いかもしれないな。どうすべきか―――

「ちょっとキョン! 聞いてるの!?」
俺の思考は怒鳴られたことで中断する。
「あ、ああ……悪い」
「もう! 本当にキョンなんだから! 仕方ないからもう一回言うわよ、あたしは有希があのおっさんに操られてるって思ってるの!」
そしてハルヒは机をバン、と叩く。相変わらずオーバーな奴だ。
「だから! あたしたちはSOS団の一員として、有希を悪の手から救い出すのよ! 正義のヒーローみたいでわくわくしちゃうでしょ!?」
要するにハルヒは、長門があの眼鏡の男に利用されているだけで悪意はない、だから俺とハルヒ、朝比奈さん、妹、古泉、朝倉さんで長門を助けようと、そして元の世界に戻ろうと、そう言いたいらしい。
ああ、そうだな、お前ならそう思うだろうな、ハルヒ。
だがな、ハルヒ、お前は二つ間違っている。
一つは、お前が長門のことを知らないことだ。
俺だって長門を極悪人だと思っている訳じゃない。そうじゃないことは知っている。
ただ、長門なら―――ハルヒ、お前を観測するためにこんなくだらないゲームを主催する理由があるんだよ。命令だったのならば。
まあそんなこと、長門の正体を知らないハルヒに言えないけどな。
そして、もう一つは―――
俺は、正義のヒーローになんかなれない、ってことだ。

ぐうーきゅるるるー

間の抜けた音が教室に響き渡る。
「……あ……」
恥ずかしそうに視線を逸らすヴィヴィオ。どうやら彼女の腹の音のようだ。
「お腹すいたの?」
「う、うん……何も食べてなかったし……」
この年の子供はちゃんと食べないと体に悪いらしいからなあ……、と、何を分析しているんだ、俺は。
「そうよね、相当歩いたし……ディパックの中に食べ物が入ってたけど……栄養バランスが悪いわね」
おいおい、こんな時にそんなことを言っている場合じゃないだろう。
「何よ、キョン。文句言いたげね」
どうして分かるんだ、ハルヒよ。表情なんか分からないはずだよな?
「ヴィヴィオちゃん、ちょっと待ってて。 何かいいものがないか探してくるわ。 果物とかあったらいいんだけど……キョン、ヴィヴィオちゃんに変なことしたらぶっ飛ばすから!」
そう言うが早いが、ハルヒは教室から飛び出していく。
ばたん、と乱暴にドアが閉まる。
……俺はポニーテール萌えであって、断じて幼女萌えじゃないぞ?

「……あの、」
そこに残されたのは、俺とヴィヴィオだけ……まあ、喋る機械も二体ほどあるが。
「……キョン、お兄ちゃん」
どうやらまだ俺が怖いらしい。まあ、外見が悪役そのものだからなあ。
しかし、用心することは決して間違っていない。
「何だ?」
「ハルヒお姉ちゃんね、お兄ちゃんのこと探してたよ」
華のように笑う。普通の人間なら、守ってやりたくなるに違いない、無邪気な子供。
「……」
俺は、何も言えなくなる。
「多分ハルヒお姉ちゃん……お兄ちゃんのこと大好きなんだと思うよ」
「……そうか」
殺すのか?俺は自問する。
何をやっている?殺すなら今だ。ハルヒがいない今がチャンスじゃないか。
妹のことが頭をかすめる。……できる限りならハルヒを傷つけたくない。今ここでこの幼女を殺し、ハルヒが戻ってきたら誰かが襲撃してきた、とでも言おうか?……俺が怒られるだけか。
それでも、きっとハルヒは俺を疑わないだろう。
あいつは今になっても真っ直ぐなままだから。
そうだ、殺すんだ。理解はしている。しているのだが。
「……ごめんなさい、怖がったりして。 お兄ちゃんは、ハルヒお姉ちゃんの知り合いだから」
俺は、どうして今困惑している?
油断しきった幼すぎる顔に、一発ぶち込むだけだ。一秒……それ以下かもしれない。
「……だから、いい人に決まってるよね」
なのに、俺は―――
「……どうだろうな」
今、殺すことをためらっている。
理由は分かっている。……ハルヒのせいだ。

そうだ、あいつはいつだってそうじゃないか。
俺の退屈な日常をぶち壊し、自分のペースで突っ走り、我儘放題で俺のペースを乱す。
本当にはた迷惑な女だ。
……だから、くそ、ハルヒ、やっぱり俺はお前に会いたくなかったんだ。
俺の決意が、俺の努力が―――ハルヒの前だとすべて水の泡になりそうな気がしていたからだ。
そして、それは決して、嫌なことではないんだってことも。
「……あの……ハルヒお姉ちゃんは……」
『……Mr.キョン。 ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?』
ヴィヴィオが何か言おうとしていたところを、クロスミラージュとやらが遮った。
俺もはっと我に返る。気を抜いている場合じゃないってのに。
『同意。回答を要求する』
同時にバルディッシュも唸る。何なんだよ?機械が何のようだって……。
「ああ……何だ?」
何か、このときから嫌な予感はしていたんだ。
『……では率直にお伺いします。Mr.キョン。
―――貴方は、人を殺しましたね?』
ああ、―――だから、俺は迂闊だってんだ。
外見だけまともにしてりゃばれないとでも思ってたか?冗談。
分かる奴には分かるんだろ?……くそ、だからハルヒにばれる前に殺しておければ……!
「……え、く、クロスミラージュ……?」
ヴィヴィオがクロスミラージュを見、続いて俺を見る。誰が見ても分かるくらい立派に動揺しきっていた。
『私も戦地に常に赴く存在ですから。
……それくらいは認識できるのですよ、人間を傷つける人間というのは、ね』
『進言、ヴィヴィオ、そこから距離を取ってください』
びくり、と幼女の肩が震える。その瞳は恐怖と同じくらい驚きに満ちていた。
「お兄ちゃん……本当……?」
『……Ms.涼宮は気付いていないようでしたので今言いました。 ……どうなのですか?』
おいおい……俺は今、とんでもないまずい状態にいるらしいな。
だが、これでもう、決まった。
こいつらは、殺さないとならない。今すぐに、だ。
そうでないと、俺の目的は果たせない。
「……ああ、そうだ」
だから、そっと少女に教えてやる。
これくらいいいだろう?どうせ―――あと数秒の命だ。
「……俺は、皆殺す。 ……お前もな」
『……いいのですか?貴方は見たところMs.涼宮にそのことを知られたくないように思えます。それでもやるのですか?』
クロスミラージュの、言葉。
……何だよ、機械のくせにいっちょ前のこと言うなよ。
ああ、確かにそうだな。ばれたくない。だが―――
「……ああ、やるよ」
『っ、ヴィヴィオ、逃げ―――!』
一瞬言葉に詰まるクロスミラージュ。俺がいきなり襲いかかりはしないと思ったのだろう。残念ながら、俺はもう俺じゃないんだ。
機械が警告を発するより早く、―――俺はソードを振りかぶった。
狙うは、ぶるぶる震えている少女の脳天。つぶせば一撃で終わりだ。
だが、その前に。
『ヴィヴィ、』
―――そこの五月蠅い道具を何とかしないとな。
一閃。クロスミラージュとバルディッシュは叩き折れこそしなかった(……特殊な素材でできているらしいな)が、壁に吹っ飛びがしゃんと巨大な音を立てて叩きつけられる。ついでに辺りの机や椅子もぶっ飛んだが、別にどうでもいい。
しん、と大人しくなった。……よし、これで邪魔なものもない。少なくともしばらくは大人しくしているだろう。
「クロスミラージュ! バルディ……!」
叫ぶヴィヴィオの眼前にわざとらしく足を踏み込む。びくんと肩を震わせる。
「……あ、あ……」
小さい子供であってもさすがに分かるんだろう。……自分がすぐに殺されるということは。
「……い、いやあ……お、お兄ちゃん……なんで、なんで……」
「理由? ……それがお前に何の関係がある?」
無駄話はここまでだ。もう終わらせてやる。
そしてハルヒが戻ってくる前に、ここから立ち去るか。……見つかったら、気絶させるしかない。
できる限り、そうはしたくなかった。そのためには、早くここを片付けよう。
「……お前は、死ぬ。 それだけだ」
そしてその頭を真っ二つにするべく、俺は、
―――キョン君、どうして?

突然、妹の声が頭の中を反芻する。やめろ。こいつは妹じゃない。
妹を殴り倒した時の光景が甦る。発狂しそうな恐怖、不快感、後悔。
―――キョン君、どうしてこんなこと……
―――お兄ちゃん、どうして?
ああもう黙れ!黙れ!俺は殺すんだ!殺して……!
―――殺して、ハルにゃんに見つかったらどうするの?ハルにゃんにも酷いことするの?
―――本当に気絶で収まるでしょうか……?妹さんだって貴方の判断ミスで殺しかけた、違いますか?
―――キョン君、もし涼宮さんが死んだりしたら……
違う!手加減の仕方はちゃんと分かっている。俺はうまくやれる。実際もう一人殺したんだ!
妹の、古泉の、朝比奈さんの姿を借りるな。喋るな。俺を迷わせるな。

今思えば、そこでの一瞬の躊躇いが、俺の何よりの不幸だったのかもしれない。
それがなければ今頃俺は―――こいつの顔をぐちゃぐちゃに潰せていただろうから。
だから、
「……キョン!?」
……ああ、本当に不運だ。
俺は、頭のどこかでそう冷静に嘆くのだった。


教室を歩き回ったけれど、特にいいものは見つからなかった。
まあ、それもそうよね。普通に考えたらこんなところに食べ物があるはずないわよね……。
でもここには面白いものがたくさんあるし、勝手に食べ物を作りだしちゃう機械があってもおかしくないと思わない?
「……キョン、大丈夫かしら?」
正直、びっくりしちゃったわ。声はどう聞いてもキョンなのに外見がキョンじゃないんだもの。偽物かと思っちゃったけど……話してすぐ分かったわ。あれはキョンよね。どう考えても。
あのやる気のなさを再現できる偽者なんていないもの。
でも防御のためとは言っても怖すぎるわよね、あれ。ヴィヴィオちゃんと二人にして大丈夫だったかしら?
……あんなに可愛い妹がいるんだもの、そういう趣味があっても不思議じゃないかも。早く戻らなきゃ。
余計なことしないでよね。キョンがやらかしたらそれが団長の私のせいだと思われるじゃない!
「……さてと」
あたしは廊下を歩いて元の教室に戻った。そう言えば時計を忘れてきちゃったわ。今何時かしら?
もうそろそろ放送とやらがあるのかしらね。……ううん、大丈夫よ、仲間は誰も死んでる訳ない。あたしたちはSOS団員なのよ!?あたしが命令してもいないのに死ぬなんて……許さないんだから。
まっすぐに歩いて戻っている途中で―――あたしの耳に轟音が聞こえてきた。
「……な、何なのよ!?」
巨大なものが、どこかに思いっきり叩きつけられるみたいな音。……あたしはさっき襲ってきた男の顔を思い出す。
「……魔法……なの?」
そして、今の音の聞こえた方法を考え、あたしは顔を青ざめさせた。
「……ヴぃ、ヴィヴィオちゃん!」
冗談じゃないわ!誰かが襲ってきたって言うの!?ヴィヴィオちゃんは絶対に守り抜いて見せるんだから!
そもそも―――あたしの仲間を狙うなんて絶対に許さない!
あたしは全速力で廊下を駈け―――教室のドアを蹴り倒した。

そして、そこに広がっていたのは―――

「……キョン!?」
机が吹っ飛び、大きく凹んだ黒板。
壁に叩きつけられ音を発しないクロッチとバルディッシュ。
そして、
「……ハルヒ……」
ヴィヴィオちゃんに刃を向ける、キョン。
「……な、何、やってるのよ……」
ちょっと待って。これはどういうことなの?
誰か、さっきの奴みたいな悪い奴が襲ってきたんでしょう?そうでしょう?
どうして、こんなことになっているのよ?説明しなさいよキョン。
これじゃああんたが―――こんなことしたみたいじゃない!
「……」
何よ、何黙ってるのよ!ねえ!
「は、るひ、お姉ちゃ……」
ヴィヴィオちゃんの泣きそうな声。私はヴィヴィオちゃんに駆け寄ろうとして、
「おっと、動くなよハルヒ」
あたしのすぐ横を、何かがかすめた。
それがキョンの攻撃だと理解した時には、あたしの後ろの窓ガラスがすごい音で砕け散っていた。
「……な」
「……死にたくないだろ? 大人しくしてるんだな」
それは、キョンだった。
そうよ。キョンだもの。間違いないの。
なのに―――こんなのキョンじゃない。
「……な、団長に命令するつもり!? あんたはただの雑用―――」
「五月蠅いんだよ!」
キョンの怒声に、あたしは思わずびくりとする。
何、何があったって言うのよ!?
「……ハルヒ、お前は今の立場を理解しているのか? 俺はもうお前に振り回されてる一般人じゃない。 今の俺は、お前を一撃で殺すことができるんだぞ?」
何を言ってるのよ、キョン。
キョンはキョンじゃない。そりゃあ今の外見はキョンとはかけ離れてるけど、でもあんたはどう考えたってキョン―――
『Ms.涼宮……彼は殺し合いに乗っています。 ヴィヴィオを連れて避難を』
「クロッチ!?」
「……まだ喋れるんだな、頑丈な……」
クロッチがそう言う。……どうしてクロッチとバルディッシュは傷だらけなの?
それに……乗ってる?ちょっと待ってよ、それってどういうこと!?
「……騒がしいな。 完全に破壊して……」
「ちょっと! キョンそんなの許さないわ! クロッチもバルディッシュもSOS団の一員よ!? メンバーを傷つけたら許さないんだから!」
「はっ……一員? ハルヒ、馬鹿なこと言うなよ」
キョンの表情は、あたしからじゃ全く分からない。それでもその声が、やる気のなさとは違う理由で、冷たいのだけは分かる。
「ただの―――道具だろ?」
何よ、何で、そんなこと……。
「……よ」
許さない、いくらキョンだって許せない。
ヴィヴィオちゃんを怖がらせて……クロッチ達をこんなにして……しかも殺し合いに乗っているですって!?
あたしは……皆で脱出しようって命令したじゃない!
「……あんたは、クビよ! 団員失格だわ!」
キョンの、馬鹿!もう知らない!あんたなんか、もう団員じゃない!
キョンはしばらく何も言わずにあたしの方を見ていた。そして、
「ああ、そうか。 よかったよ、楽になれて」
……何で、
「……清々してたからな。 あー、ようやくお前から解放されるんだなと思うと嬉しくて仕方ない。 まあこんなところで別れられるとは思わなかったがな、この日を待ってたよ」
何で、―――そんなこと、言うのよ!
「……ばっ……!」
「何だその顔? 俺が迷惑してないとでも思っていたのか? 冗談やめろよ。 お前みたいな我儘で強引で乱暴な女に振り回されて毎日が苦痛だったよ。 そんなことにも気付かなかったなんて、お前は本当に自己中心的だな!」
声が、出ない。
何よ、あんたは雑用係のくせに生意気よ……そう言いたいのに。
キョンが……キョンじゃない。
これは、あたしの知っているキョンなんかじゃない。
合宿のことを思い出す。
あの時、あたしはキョンと古泉君が犯人なんだって、思った。
だからそれ以上何も言えなくなって―――黙ってたんだ。
嫌だったの。
仲間が誰かを殺したなんて、信じたくなかった、認めたくなかった。
結局それはあたしの思い違いで、皆が仕込んだことだって分かったんだけど。
今も―――きっとそうなのよね?あたしが、間違っているだけなのよね?
そう言いなさいよ、キョン。
「……な、んで……たの?」
「何だよ、ハルヒ?」

そう、言いなさいよ、キョン!

「何で、こんなことしたの!?」
あんたは、そんな奴じゃない。
そりゃいつだってやる気がない、役立たずの凡人だけど……でもあたしは知ってる。
あんたは、人を殺したりする奴じゃないって!
「……何で、って……何を当たり前のことを聞いているんだ?」
それに、キョンは答えた。当たり前のような口調で。
「生き残るためだ。 決まっているだろ? 俺はこんなとこうんざりなんだ。 早く日常に戻りたい。だからだよ」
「じゃあ……そのためならみくるちゃんや古泉君や妹ちゃんや朝倉さんを殺すって言うの!?有希を助けたいと思わないの!?」
あたしは自分が何を言っているのか分からない。
ただ、仲間の名前を叫んだ。
「ああ」
だけど、キョンの返事は、たった一言だった。
「……!」
「そんな覚悟もなくて……人を殺せるわけないだろ? ……だからお前も殺す。ここの子供を殺した後にな」
「……ま、ママ……ママ……! 助けてママ……!」
ヴィヴィオちゃん……あたし……あたしは……。
「じゃあな、後でママも連れていってやるよ」
キョンが、ヴィヴィオちゃんに腕を奮い―――
「キョン……!」
本能的に分かる。今のキョンは普通の体じゃない。
当たったら、ヴィヴィオちゃんは死んじゃう。
「……絶対に、許さないんだから!」
あたしは、キョンに飛びかかった。でも―――足りない。
キョンは早すぎる。それでも、あたしはやってやる。
「ヴィヴィオちゃん……!」
そして、

あたしの視界は―――赤く塗りつぶされた。


俺はハルヒを傷つけたくなかった。
妹を気絶させただけで襲ってきた狂いそうな恐怖。あれを二度と味わうなんてごめんだ。
だから俺は―――ハルヒに嘘を吐いた。
あのプライドの高いハルヒのことだ。おそらく相当応えたろうな……いや、ハルヒだからそうでもないか?
今ほど、俺はこの姿に感謝したことはない。
顔を見られていたら、俺は平然とあんな嘘はつけなかったからだ。
『……清々してたからな。 あー、ようやくお前から解放されるんだなと思うと嬉しくて仕方ない。 まあこんなところで別れられるとは思わなかったがな、この日を待ってたよ』
『何だその顔? 俺が迷惑してないとでも思っていたのか? 冗談やめろよ。 お前みたいな我儘で強引で乱暴な女に振り回されて毎日が苦痛だったよ。 そんなことにも気付かなかったなんて、お前は本当に自己中心的だな!』
『生き残るためだ。 決まっているだろ? 俺はこんなとこうんざりなんだ。 早く日常に戻りたい。だからだよ』
『そんな覚悟もなくて……人を殺せるわけないだろ? ……だからお前も殺す。ここの子供を殺した後にな』
よくもまあ、そんなことが言えたもんだ。我ながら呆れる。
いや、もちろんハルヒに振り回されて騒がしかったのは事実、早く日常に帰りたいのも事実。

だが、俺は―――
それを本気で嫌がったことなんてない。
楽しかった。楽しかったよ。素直になろう。俺は、楽しかった。
だから、俺は―――この殺し合いに乗ることを選んだんだろ?
ハルヒが俺を止めようとするのも―――まあできれば逃げてほしかったのだが―――予想の範囲内。
だから俺は、ハルヒがヴィヴィオに辿り着く前に殺せばいい。
ガイバーの力なら、人間の動きより早く攻撃をすることなど造作もない。
無駄な時間を今までは過ごしてしまったが―――やる。
ハルヒに人を殺す場面を見られるのは……かなり、痛いが、彼女を傷つけるよりはいい。もしもの時はやっぱり長門に何とかしてもらおう。

だから、俺は思いもしなかった。
迂闊だった?そうなのかもしれない。でも、俺だって信じられないんだ。
俺の拳がヴィヴィオを凪ぐ、そのはずだったんだ。
それなのに、
どうして俺の腕は―――ハルヒの腹を貫いているんだ?
なあ、どういうことなんだ?

そう、このガキだ。
ヴィヴィオ―――こいつ、何をしやがった?
何もできない役立たずと、ママと喚くしか能のない足手まといだと思っていた。なのに、こいつ、今、
俺の攻撃を、無効化……したの、か?
そして、まだガイバーの力を使いこなせていなかった俺の攻撃は逸れ、それがハルヒに―――

「……っ」
待てよ、何が、何が起きたんだ?
説明してくれ、さっぱりだ。俺はごくごく普通の人間だから、理解できるはずないだろ。
教えてくれ。なんとかしてくれ。なあ、長門。
ハルヒから溢れ出る鮮血を、どうにかしてくれ。
どうして止まらないんだ。どうしてハルヒの腹に穴があいているんだ。教えてくれ。
「お姉ちゃん―――!」
朝比奈さん、朝比奈さんでもいい。未来人なんだろ?未来の技術でちょちょい、とまるで某ネコ型ロボットみたいにどうにかできないのか?
いや古泉、お前は超能力者だろお前ならなんとかできるんじゃないのかそれとも朝倉さんに頼むかいやいやちょっと待てよそんな、そんなそれはそんな、ことじゃ―――

「……っあ」
冗談は、やめてくれ。
俺が、俺がハルヒを―――

踵を返し、逃げる。
普通の人間には決して追い付けない速度で、駈ける。
違う、俺は、ハルヒを―――
「あ、ああ、……んな……こと……」

ハルヒは。
ハルヒはどこまでもハルヒだった。皆を守るため人間をやめた俺と違って、ハルヒは、いつもと同じ、強引で、トラブルメーカーで、好奇心旺盛で、そして―――
俺の、好きな女だった。


「……おねえ、ちゃ……」
……何だろう、変な気分。
目の前がぼやけて、何も見えない。ヴィヴィオちゃんが呼んでるのだけは何とか分かった。
「……どうし、たの、ヴィヴィオちゃ……」
痛みはない。どうしてかしら?……もう限界を超えたのかしらね。
「……お姉ちゃん、いや……ハルヒお姉ちゃん……」
「……ヴィヴィオちゃん……」
あたし、貴方を守れたかしら?
ああもう、あたしがもっと強かったらよかったのに。
そうしたら、キョンだって―――ヴィヴィオちゃんだって―――最後まで助けられたのに。
「……アスカ、に……ママ、探してもらって」
あの馬鹿女は嫌いだけど仕方ないわ―――ヴィヴィオちゃんに冷たくしたらただじゃおかないから。
「いやあ、お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
大丈夫よ、ヴィヴィオちゃん、あたしが死ぬと思ってるの?
あたしはSOS団の団長なのよ?
「少し……休みたいだけよ、そしたらまた……ヴィヴィオちゃんを守って……あげるから……」
それまで、あの女やモッチーやクロッチ・バルディッシュに助けてもらうのよ?
いいわね?
頼ってもいいわ。子供だものね。
「だから、……泣いちゃ駄目よ。 ……団長、命令だからね……?」
あと、本当は、もうひとつ言いたいんだけど、疲れちゃった。
―――キョンを、助けてあげて。
きっとキョンも、有希と同じ状態にいるのよ。あの変な怪人みたいなのに変身するときに、操らたに決まっているわ。
だって本当のキョンは、あんなことはしないもの。
私は、ちゃんと知ってる。
あいつはやる気なしで、全然気が利かない一般人だけど。
あいつが本当にあたしのことを迷惑だと思っていたとしても―――でも、あたしは。
あいつのこと―――好きなんだから。
「……ヴィヴィオちゃ、ん」
頭を撫でようと手を伸ばす。……でも、惜しい、あと少しだったのに。
もうあたしには、……届かない。
「……ごめ、ん、ね」
みくるちゃん、古泉君、朝倉さん、キョンの妹ちゃん、有希。
キョン。

あたし、SOS団―――最高に楽しかった、から。

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】



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ヴィヴィオ 倦怠ライフ・リターンズ
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