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上と、下(後編) ◆S828SR0enc




 そろそろ老体という年齢に片足どころか両足が嵌ろうとしているだけに、長距離の歩き通しはきつかった。
 昔は一晩と言わず何日も徹夜して延々と研究をしていたこともあったというのに、と冬月は少し笑う。
 衰えたものだ。だが、やるべきことはやらなくてはならない。
 そう決意を新たにし、彼はデイパックを片手に明け方の道を行く。

 小砂やタママとわかれてから約二時間、冬月は人を探しながら街を散策していた。
 無人の街には当然というべきか明かりのついている建物は見当たらない。
 最低の街灯こそ点いているものの、人の息遣いの全くしない街というのは死んでいるように見えた。

 喫茶店を後にし、少しあたりをうろつきながら西へ。
 途中でたどりついた公民館は通夜の席とでも言うべき静けさで、中も外も冷え冷えとしていた。
 一応中に入って見分してみたものの、ありふれたポスターや道具があるばかりで目新しいものはない。
 特に人がいた痕跡もなかったのですぐにそこを離れ、冬月は今はホテルに向かっていた。

「ホテル、か」

 周りに誰もいないのはわかっているが、思わず小さく口に出していた。
 公民館と違い、ホテルには宿泊施設や入浴施設、ひょっとしたら医療施設も完備されているかもしれない。
 何らかの目的を持ってそこに向かう人間は、公民館よりは多そうだった。
 だがそれは、当然ながら危険人物もそこに向かうということを示している。
 それを思うと、少しではあるが足がすくんだ。

「おっと、いかんな」

 首を振り、自分を奮い立たせる。
 念のために右手にはタママから譲り受けた武器――スタンガンを握り、周囲を警戒しながら歩く。
 もちろんこの程度の武装、そして戦闘の心得のない自分では大して戦えないのはわかっているが、ないよりはマシだ。

 そうこうしているうちに、ゆっくりとではあるが夜の重苦しさが消えていく。
 空はまだ暗いが、さほど夜明けが遠くないのだろうと思えた。
 そして冬月がそう考えると同時に、行く手に抜きん出て高い建物が見えてきた。


 『HOTEL KSK』
 その高い建造物――ホテルの入口には石のプレートが置かれ、そこにホテル名が刻まれている。
 周りには庭園があり、もう少し明るくなれば散策にぴったりであろう小道も設けられている。
 その庭園の向こうに階段があり、続いて大きな自動ドア、その向こうにはエントランスホールが見える。
 磨かれた大理石で玄関を囲んだそのホテルは、まさに高級ホテルというのにふさわしい佇まいだった。

 そして、その玄関の手前に手持無沙汰に佇む人影があった。
 男にしては長めの髪を首の後ろあたりで結い、シャツを少々フランクな感じに着崩している。
 冬月にとっては懐かしい顔だった。

「やぁ、加持くん」

 軽く手をあげて近づくと、向こうも気づいたのか手を振り返す。
 パッと見たところ特に異常はない。
 その表情にも敵意らしきものは感じられなかったので、冬月は階段を上って加持の傍に立った。

「やぁ、冬月副司令。ご無事でしたか」
「君こそ無事のようで何よりだよ」

 相も変わらずのひょうひょうとした態度は、冬月の浮足立っていた心を少し落ち着かせた。
 それでも目ざとく冬月の手に目をやり、それは、と聞いてくるので、ただの護身用だよと言ってスタンガンを鞄にしまう。
 加持は用心深い男だ、フェアに接する必要があ。そう冬月にはわかっていた。 

「大変ですね、こんなことに巻き込まれて。なんだかちょっと現実感がわきませんよ」
「何、使徒と戦うこともよく考えれば現実感のないことだ、問題ない。
 なにせ十五年前まで我々は、世界の終わりなど意識したこともなかったのだから」

 顔見知りの気やすさで、世間話に花が咲く。
 だが、その裏で加持がこちらを抜け目なくうかがっているのが冬月にはわかった。

「加持くん」

 和やかな雰囲気に少し釘をさすような声音で冬月が言うと、加持も表情を引き締めた。

「こちらに来てから、どうだね?誰かに会ったことは?」
「あいにくと、シンジ君やアスカには会っていませんよ。こんなに島が広いんじゃ仕方ない気もしますがね。
 代わりに、美人な女性に会えました」

 口笛でも吹きそうな調子で加持は笑う。

「まだ若いのになかなか責任感が強そうな感じの女(ひと)でしてね、何かの組織に属しているらしいですよ。
 なんだか気おくれして、民間人だって経歴詐称しちまいました」
「ほぅ、それで、その女性は?」

 玄関、庭園、エントランスホールと順に目線をやってみるが、他に人影は見当たらない。
 それに対し加持はどこか困ったように眼を細めて見せた。

「それが、はぐれちまいまして」
「おや、君らしくもない」
「いえね、副司令には信じられないことかもしれませんが、空を飛ぶ人間がいたんですよ。
 それでそれを見つけて、俺がポカーンとしている間にそいつを追って行ってしまいました」

 で、ここで待ち合わせを、と加持が苦笑する。
 十中八九、その空を飛ぶ影というのは小砂だろうと冬月には予想がついた。
 確かに空を飛ぶ影がいきなり現れたら驚くのは普通だろう。

「で、そちらはいかがです?」

 ふられた話題に少し正直に答えるべきか迷う。空を飛ぶ人間もそうだが、自分がこれから話すのはさらにファンタジックなことだ。
 とはいえ、今後の混乱を避けるためにも出来るだけきちんと話しておいた方がいいだろう。
 そう思い、冬月は口を開いた。

「まず私が出会ったのは、タママ二等兵というカエルだ。いや、宇宙人と言った方が正しいだろうな。
 その後に関東大砂漠で便利屋を営んでいる小砂という少女と、ネブラという不定形生物に出会い、交渉した」
「は、え、ちょ?」

 突如として現実感を失ったような話に、加持が混乱する。
 それに対し冬月は、ケロン人という宇宙人のこと、タママ二等兵の帯びていた使命と仲間のことなどを話した。
 それから、小砂という少女の経歴や彼女の世界のこと、ネブラの語った彼らの話についても。

 そうして冬月が説明を重ねているうちに、次第に夜は明けていく。
 空の端にはすでに陽光のオレンジ色が滲み、暗黒一色だった空自体が薄青へと変わっていっている。
 冬月が自らの仲間についての紹介を終えたときには、すでに街は朝の空気に満たされていた。

「なんとまぁ……」

 呆然としたような、感嘆としたような声で加持が唸る。
 彼にって、いや、冬月にとっても荒唐無稽な話なのだから当然とはいえ、ここ数時間で頭の整理をした冬月にはすでに大したことではない。
 むしろ彼にとって大切なのは今後であり、そして隠された意図の方であった。

「さて、加持くん。君はこの現状をどう思う?」

 加持の驚きが収まるのを待って問う。大切なのはここからだ。
 主催の意図、補完の真理、そして別世界。
 考えなければならないことはそれこそ山のようにある。

「どうもこうも、ね。ついていくので精一杯ですよ。
 そもそもいきなり本物の宇宙人だの異世界だのの話をされても、反応に困ります。
 逆に、副司令のお考えを拝聴したいところですな」

 腕を組み、しきりに情報を整理するような様子で加持が言う。
 それに対し冬月はひとまず、手持ちの情報の中でも重要そうな考えを選んで口にした。

 この世界が何らかの要因で発生した人類補完後のものではないか、ということ。
 人の意識は補完されるべきか否かを悩んでいること。
 それを反映し、また確かめるためにこの殺し合いが行われているのではないかということ。
 しかしそれでは、この場になぜ宇宙人のタママや異世界人の小砂がいるのかがわからないこと。

 そう、これが人類の補完のいわばテストなのだとしたら、彼らの存在が説明できない。
 人類補完計画の存在しない世界の住民である小砂、そしてそもそも人類ですらないタママ。
 なぜそういったものを参加させる必要があるのか、そしてどうやって参加させているのか。
 仮に補完されるべき人間の意識がそういった幻想に満ちた存在を作り出したとしても、今度はその幻想の意図がわからない。
 彼らに課せられた幻想は、補完計画の根底に携わる意識の一環なのか。
 それとも、この補完計画を主軸に置いた考え方こそが間違っているのか。
 考えれば考えるほど、疑問がわき上がる。
 少なくとも自分一人ではそれに答えが出ないことに、冬月は薄々とではあるが気づいていた。
 そして、何かもっと大きな意志がかかわっているのではないか、とも。

「そうですねぇ」

 うーん、と唸り、加持は考えるのを放棄するかのように顔をあげた。

「残念ながら、俺の頭と情報じゃそこの辺りはよくわかりません。
 もっと人を集めて、情報を強化しないとダメでしょうし、出来れば何か資料があるといいんですがね。
 とりあえずそのタママと小砂でしたっけ、そいつらに会ってみたいです」
「ふむ、私も君を彼らに紹介したかったからな、調度いい。
 実は放送の後に、待ち合わせ場所に集合する約束になっているんだ。君もついてくるか?」
「ぜひぜひ、と言ったところですね」

 ふたつ返事で了承する加持に背を向け、冬月は時計を探る。そろそろ五時半といったところだった。
 自分の疲労、そして二人の歩行ペースを思えば、そろそろ出発して喫茶店に戻るべき時刻だ。
 とはいえ、加持の同行者であった女性が気になる。

「加持君、申し訳ないが彼らとの約束を考えると、そろそろ出発しなければならない。
 君の同行者の女性については――」
「ああ、彼女でしたら自分が戻らなかったら先に行け、と言っていましたからね。
 なんだか戦いの心得のある様子でしたし、ここの壁に伝言でも残しておけば問題ないでしょう」
「そうか。だが、あまりあっさりと行くのも気が引けるな。
 あと十分待って彼女が来なければ、出発するとしよう」

 加持が頷いたのを確認し、一度休息のためにホテルに入る。
 エントランスホールには赤い布張りのいかにも高そうなソファーがたくさん置かれていた。
 そのひとつに腰を落ち着け、息をつく。
 大きなガラス窓越しに見る庭園は朝日を穏やかに浴びていて美しく、こんな時でもなければじっくりと眺めていたいような風景だった。


 ◆ ◆ ◆


 やわらかなクッションに背を預けながらも、加持は油断なく冬月を見ている。
 肩から掛けたデイパックを床に下ろすこともない。

(人類補完計画……人の意識の戸惑いだって……?ハッ)

 先ほど冬月から聞かされた話は、加持にとっては笑いたくなるようなものだった。
 世界はすでに補完され、しかし人の意識はそれが正しいのか否かに戸惑っている。
 ゼーレやネルフの深淵にある程度触れながらも、結局「ある程度」のままで終わった加持には思いもつかない話だった。

(冗談じゃない)

 それが、加持の思考のすべてだった。
 補完のテストメンバーにされるために、自分は生き返らされたというのか。それこそ悪い冗談だ。
 それなら自分ではなくとももっと適材はいるだろう。
 なんでよりにもよってこんな卑怯者を――――自分ならもっと、人の心理を反映したかのように強がりで寂しがりな、

 そう、葛城のような人間、を

(……おっと)

 変な方向に走り出しそうになった思考を足を組みかえることで止め、加持は嘆息する。
 少なからず、自分もこの状況に参っているようだった。無性にタバコが欲しい。
 とはいえすでに一度ここを訪れた時に確かめてみたが、このホテルのエントランスホールにはそういった類のものは一切ないのだ。
 土産物屋か自動販売機でもあれば、と思うが、目につく所にそういったものはない。
 しばし唇を軽くかみしめることで、口寂しさをごまかした。

(さて、どうするか……)

 ちらりと冬月を窺う。彼はだいぶ疲れ切った様子でソファに腰掛けている。
 何気なく近づいてって、隠し持っていた銃で撃つ。三十秒もかからないだろう。そして容易いことだ。
 大した訓練も受けていない研究者上がりの冬月に、どう考えても自分が負けるとは思えない。
 だが、

(まだ早い……情報だ、それが足りない)

 冬月の言う補完計画のテスト説。すでに人外の存在によって矛盾の見られるそれを信じる気にはとてもなれない。
 なれないが、可能性のひとつとして考慮しておくべきではあった。
 それに、冬月の仲間であるという未知数の人物。
 カエルに似た、口から光線を吐く宇宙人。別世界の砂漠に住む少女。翼にも、何にでも姿を変える謎の生物。
 冬月の口から聞いた彼らは、明らかに加持に対し何らかのアドバンテージを持っている。
 それは攻撃力だったり、経験だったり、あるいはその存在自体だったりするが、いずれにせよ、だ。

(手を組んでいて悪いことは、ない。むしろ積極的に組むべきだ。
 それに高町なのは――あの女も未知数だ。出来ることなら再合流したいが……)

 時間的にそれが可能とはとても思えない。
 それが可能なほどの速度であの女が飛べるというのなら、それだけでも諸手をあげてついていきたいくらいではあるが。
 そして、そのどの場合であっても、加持にはひとつ為さねばならないことがあった。

 じ、と加持は冬月を見つめる。
 研究者であったがゆえの、彼の柔軟で思慮深い頭脳は確かに価値あるものだ。
 だが、冬月に生きていてもらっては困る理由が、加持にはあった。

(あんたは、俺が裏切り者だということをよーくご存じだ。
 そんな状態で俺が足手まといに手を出したりしたら、間違いなく疑いがこっちに向く。
 下手したら、仲間うち全員を敵に回しかねない。その前に――――)

 まだ早い、まだ早いと思いながらも、指先は銃に触れている。
 必要な情報をすべて絞り取るまで、そして冬月の仲間たちと合流するまで、彼を殺してはならない。
 だが、その後は、利用価値を失い、信頼を得ることが出来たその後は。

(すみませんねぇ、副司令。
 ま、一度俺が助けてやった命ですし、ちょっとした恩返しってことで、許してくださいよ?)

 へらりと笑って自分がそんなことを言う光景を、加持は実にたやすく想像できた。
 そしてそれに対して何とも思わない自分が少し嫌になりながら、もう一度唇をかむ。
 やはり、タバコが欲しかった。


 ◆ ◆ ◆


 冬月の時間軸において。
 加持はゼーレに対してスパイ活動をしている、セカンドインパクトの真実を知りたがっているネルフの部下だった。

 加持の時間軸において。
 冬月は加持のゼーレ、ネルフ、あるいはもう一か所の多重スパイだという立場を既に知る上司であった。

 思惑を違わせ、利用し合いながらもお互いをどこか理解していた時間はすでに過ぎ去っている。
 そのことを知らぬままに二人は同じ部屋で、同じように中空を見上げていた。



【B-5 ホテル・エントランスホール/一日目・明け方】

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(中)
【持ち物】 ソンナ・バナナ一房(残1本)@モンスターファーム~円盤石の秘密~、 スタンガン&催涙スプレー@現実
      不明支給品0~1、ディパック、基本セット(名簿破棄)
【思考】
0.ゲームを止め、草壁達を打ち倒す
1.加持とともに休憩をとり、彼の同行者を待つ。十分経ったらホテル外壁に伝言を書き出発する
2.シンジ、アスカ、夏子、日向冬樹、ケロロ、ガルル、ドロロを探し、導く
3.タママを善い方向に向けたい
4.第一放送が終わったらB-7の『ksk喫茶店』に戻る
5.首輪を解除する方法を模索する
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています

【加持リョウジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】健康
【持ち物】基本セット ディパック アメリアのマント@スレイヤーズREVOLUTION
     グロッグ26(残弾11/11)と予備マガジン2つ@現実
【思考】
0.何としても生き残る
1.冬月とともに「待ち合わせ場所」に行き、小砂、タママの信頼を得る
2.冬月は利用価値がなくなったら速やかに殺害する
3.とにかく使える仲間を得たい、その際邪魔者は殺す
4.なのはとは出来れば合流し、守ってもらいたい。殺すかどうかは冷静に見極め、応じた対応を取る
※主催の二人はゼーレの上位にいる人間ではないかとも思っています
※カップ焼きそばのうちの一つの中身が捨てられ、代わりにグロッグ26と予備マガジンが隠されています
 ふたつともすぐにでも取り出せる状態です

【スタンガン&催涙スプレー@現実】
護身用セットとでも言うべき支給品。ふたつでセット。
スタンガンは一般的な携帯型ハンディータイプのもので、催涙スプレーも一般的なスプレー缶。
よく漫画でスタンガンを当てられて気絶する描写があるが、実際のものにそれほどの威力はない。
ただし心臓などの危険部位に押し当てたりすればショック死する可能性も無いわけではないという。



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腹黒! 偽りの共鳴 冬月コウゾウ 台風の目~they and……~
上と、下(前編) 加持リョウジ







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