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OPコンペ③


守るべき街は、灰と瓦礫の山になった。
守るべき友人は、どこか遠くへと去っていった。
守るべき理由など、もはや彼自身にすら分かりはしない。

最後のシ徒襲来迫る夏の終わり。
サードチルドレン、エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジは失意と喪失感の中にいた。
戦う意味すら見つけられず、逃避しようにもどこへ行けば救われるのか分からない。
頼りたいと思う人からは突き放され、彼は孤独のうちに戦うことを強いられる。
擦り切れ、心の壁の内側に閉じこもっていく彼の精神。
それでも台本を握る者達は彼を舞台から降ろしはしない。
人類補完計画、その最後の儀式が遂行されるその時まで――

本来なら、そうなるはずだった。
それこそが裏死海文書の予言であり、ネルフの筋書きであり、ゼーレのシナリオであった。
しかし、運命の歯車は彼らの思惑とは別次元のベクトルで動き出す。
予期せぬ闖入者の手によって行われた、舞台への介入。
それによって彼らは計画の修正を余儀なくされるだろう。

もっとも、それは当の碇シンジ本人にとっては更なる悪夢の幕開けでしかなかったのだが。




目を開けて最初に見たものは、見知らぬ天井だった。
ぼんやりとする頭を軽く振って無理に覚醒させ、碇シンジは体を起こした。
全身がエヴァで戦った後のように軋む。
そして、全身を覆う漠然とした違和感。
その正体を掴めないまま、彼は何気なく周囲に目をやった。
……そして、慄然した。

その空間は広く、おおよそ五十人ほどがその中にいたが、薄暗くてその全貌は分からない。
しかし、シンジを怖気づかせたのはここが自分が全く知らない場所だというだけではなかった。
その五十人……いや、ヒトでないモノもまたあちこちにいる。
薄暗くてはっきりとは見えないが、それでも確かにいる。
ここは一体どこなんだ?
どうして僕はここにいる? 
いったい何がどうなってるんだ!

「あ、アスカッ! 綾波!? ミサトさんっ、いないの!?」

パニックに陥るシンジ。
彼だけでなく、同様の動揺はこの場にいる人々の間で同時多発的に起こっていた。
やがて怒号が飛び交い、おびえた幼い子供が泣きわめく。
場内の緊張は次第に高まり、しまいには炸裂してしまうのではないだろうかというほどに膨らんだ。
そして――決壊の瞬間は、すぐには来なかった。
スポットライトを浴びて、銀髪赤眼の美少年が姿を現したからだ。

「か、カヲル君!?」

驚きのあまりシンジが彼の名を呼ぶ。
フィフスチルドレン、渚カヲル。
彼であれば何かこの状況のことを知っているかもしれない。
知り合いに会えたことで心にゆるみができたのか、そんな都合のいい期待が頭をもたげる。
しかし、彼の取った行動はシンジの期待していたものとは異なっていた。
彼はシンジに目もくれず、朗々と響く声でその場の者全員に語りかけたのだ。


「ようこそ、数多の世界のリリン……そしてヒトならざる者たち。
 僕の名は渚カヲル。君達をここに招待した、いわばこの催しの主催者だ」

彼の声には、なぜか人を黙らせるような不思議な引力があった。
誰もが彼こそがこの異常事態を知る者だと理解するのに、そう時間はかからなかった。
――もっとも、その次の言葉をたやすく理解できたものなどほとんどいなかったが。

「さて、さっそく本題に入るとしようか。
 こうして集まってもらった理由は他でもない。
 今日は君達に殺し合いをしてもらう」

例えるなら親しい友人に語りかけるような穏やかな口調で渚カヲルはその言葉を口にした。
先程までのものとは全く意味を異にする静寂が場を支配する。
当然だ。すぐに飲み込めると言うほうが間違っている。

(……分かんないよカヲル君、君が何を言ってるのか、分かんないよ!)

恐らくその場にいた多くの者が、シンジと同様のことを考えていただろう。
いきなりこんなところに連れてこられて、殺し合え?
馬鹿な。
ふざけてる。
非常識だ。
イカれてる!

「何を言うかと思えば……下らん」

シンジの隣から声がして、彼は慌てて身を引っ込めた。
立ち上がったのは長身で金髪の外国人男性だった。
物腰は穏やかだが、油断ならない目をしている。

「僕の言うことが理解できなかったかな、オズワルド・A・リスカー君?」
「なぜ私の名を知っているかは今はいい。
 状況を理解していないのは、むしろ君のほうではないかね?」

大胆にもそう言い返してみせる男。
シンジはあっけに取られてそれを見上げる。
またシンジは気が付かなかったが、カヲルに向って何か行動を起こすつもりだった者達も、
お手並み拝見といったところか、身を引いて少年の返答を待っていた。

「僕が状況を理解していない、と?」
「そうだろう? そうやって私の前で無防備に突っ立っているのがその証拠だ。
 どうせ私が何者であるのかすら、ろくに理解してはいまい?」
「それじゃあ、君に僕のことがどうこうできるのかい?
 すでに、武装は解除させてもらったんだけど」
「それが――思いあがりというのだよ!」

男の顔に、初めて不敵な表情が浮かぶ。
彼はにやりと笑ったまま、高らかに宣言した。

「見せてあげよう、ユニットG(ガイバー)の力を……『アダプト』ッ!」

刹那、男の全身を光が包む。
その一瞬後には、その姿は以前の面影など見つけようもないほどに変化していた。
黄土色の体躯は元が人間であるとは思えないような奇妙な皮膚で覆われ、
精悍ながらもグロテスクさすら感じさせるような異様さを備えている。
場内のあちこちから、かすかな悲鳴とうめき声が響いた。
男、いや男であったものは、その声すら自分への称賛であるというように大げさに周囲を見回してみせる。
シンジもまた例外なく情けない悲鳴を上げてしまい、あわてて自分の口を押さえた。


しかし、壇上の渚カヲルは一向に動じた気配が無かった。
それどころか、興味深そうに異形の全身を眺めている。

「へえ、それが“ガイバーⅡ”……じかに見るのは初めてだ」
「それまで知っていたとは驚きだが、偉そうな口を利くのもそれくらいにしてはどうかね少年。
 この私を拉致するくらいだ、相当のバックボーンがついているのだろうが……
 無茶が過ぎると、子供のいたずらでは済まなくなるぞ?」
「オズワルド・A・リスカー、『クロノス』の監察官……
 どこの世界でも人は神に取って代わろうとする。クロノスも例外ではない、か」
「……挑発のつもりか? あまり調子に乗るなと言っているッ!」

何の予備動作もなく跳躍したガイバーⅡの額からヘッドビームが放たれる。
狙いは外した威嚇射撃、あの生意気な少年を黙らせれば十分。
……そう踏んだ彼の目論みはあっさりと崩れた。
オレンジ色に輝く障壁が、たやすくビームを弾いたからだ。

(A.T.フィールド!?)

その絶対障壁の意味を理解できたものは、シンジを含めて数人しかいなかったであろう。
しかしカヲル少年が只者でないことだけは、誰もが感じ取っていた。
それはリスカーも同様。完全に相手を舐めていた彼の声に僅かに動揺の色が混じる。

「バリアーが!? 貴様、ただの人間ではないな?」
「ただのバリアーじゃない、誰もが持つ心の壁だよ。君だってその心の中に持っているだろう?」
「わけの分からないことを!」

着地して瞬時に臨戦態勢を整えるガイバーⅡ。
カヲルはそれすら全く意に介していないように口を開く。

「先ほどの質問に答えようか。そうだね、僕は人間じゃあない。
 南極よりサルベージされしアダムの依り代、人類を終局へと導く拾七番目の使徒……」

そして渚カヲルは、あまりに場違いな微笑みを浮かべた。


「――最後のシ者さ」



少年のあまりにも平然とした口調に、ガイバーⅡは初めて恐怖に近い感情を覚えたようだ。
戦場に身を置く者の本能として、自らが相対するモノの危険性を感じ取る。
その後の行動は素早かった。その強靭な両手が、自らの胸部の装甲板を掴む。
そして――それを、あろうことか自ら左右に引き剥がした。
剥がされた装甲板から、肉片と体液とが周囲に飛び散る。
しかしガイバーⅡはそんなことを気にも留めない……留める必要がない。
なぜならこの行動は、必殺の一撃を叩き込むための準備行動に過ぎないのだから。


――胸部粒子砲《メガスマッシャー》。


殖装体が完全な状態であれば百メガワットにも及ぶ出力を持つ、ガイバー最強の必殺兵器。
両胸部に収束する膨大なエネルギーの奔流が、その圧倒的な破壊力をありありと示している。
実際、その威力を持ってすればA.T.フィールドを貫くことすら可能かもしれない驚異の一撃。
直撃すれば使徒といえども無傷では済まないだろう。
しかし、その脅威を目の当たりにしてなお、渚カヲルの口元に浮かぶのは涼しげな表情だった。

「残念だよ、君のような可能性のある存在がこんなところで終わってしまうのは」

かけらも残念とは思っていないような口調での、死の宣告。
リスカーの敗因は相手の異質さに気付くのが遅かったからか。
いや、そもそも初めからすでに手遅れだったのかも知れない。


「心よ、原始に戻れ」


それは、あるいは呪文のようなものだったのかもしれなかった。
あまりにも唐突で、それそのものでは意味をなさないような言葉だったのだから。
しかし、その言葉によってひとつだけ変化があった。
この場にいた誰もが、聞こえるはずもないような、何かがひび割れるような音を聞いたのだ。

そして、次の変化は一瞬だった。
あまりにも劇的過ぎて、その一部始終を間近で見届けたはずのシンジにも何が起こったのか分からなかった。
いや、彼だけではない。
何が起こったのか分かった者など、この場にはほとんどいなかったに違いない。
悲鳴すら上がらなかったのがその証左だ。
だって、あまりにも非常識すぎるだろう――


今さっきまでそこに存在したはずの者が、次の瞬間には“オレンジ色の水溜まりになっている”なんて、誰が信じられる?



「……さすがはドクター・スカリエッティ、素晴らしい仕事をしてくれるじゃないか」

最初に言葉を発したのは、誰であろう渚カヲルであった。
誰に向って語りかけたとも知れぬ独白を二言三言つぶやき、改めて周囲を見渡す。

「A.T.フィールドは誰もが持つ心の壁だ。それがあるからこそ、不完全な群体生物はその脆弱な個を保っていられる。
 それを解き放ってしまえば肉体はその意味を失い、生命のスープであるLCLの海へと還元される。
 もっともこんなものが『補完』と呼べるものであるはずはないが――君たちにとっては関係ないし、個の消失に例外もない」

カヲルは静まり返った空間に語りかけながら、軽く自分の首を指さした。
それを見た場内のあちこちから、次第に困惑に満ちたどよめきが上がり始める。
その渦中にいた碇シンジも、周囲より若干遅れてその理由に気がついた。
自分の首に、何か『首輪』のようなものが嵌まっているのだ。
それは周囲の人々に目をやることで一層確かなものになる。
鈍い光沢を放つリング。
その一部には、一際場違いともいえる光を放つ宝石が埋め込まれている。

「君達は体のどこかにそのリングが取り付けられている。殆どは首輪としてだけどね。
 普通に行動する限りは問題ないが、君達の行動次第では術式が作動して対象の個は消失する。
 無理に外そうとはしないことだね、結局は同じ結果に終わるだけさ」

微笑みすら浮かべながら淡々と告げる渚カヲル。
彼が言葉を発するたびに波紋のようにざわめきが起こったが、ことさらに騒ぎ立てる者はいなかった。
状況が絶望的であることを悟った者と、未だ事態が飲み込めずにいる者との差はあっただろうが、
少なくとも誰もが無意識に口を閉ざしていた。

カヲルは感情をルールを説明していく。
支給されるのは水と食料、地図、時計、コンパス、筆記用具一式、ランタン。
それに加えて、いくつかの武器や道具がランダムに配布される。
定時ごとに行われる放送によって死者と残り人数の発表がなされる。
また放送では禁止エリアの発表も行われ、禁止された区域に侵入すると警告ののちリングの術式が作動する。
そして――最後に生き残った一人だけが、生きて自分の世界へと帰還することができる。
カヲルは最後の説明を、ことさらに強調してみせた。

「さあ、すべての始まりだ。
 いずれあらゆる生命が補完され一つになる時が来るのかもしれない。
 そうなる前にこの殺人ゲームで、個としてのヒトの可能性を見せてくれ」

説明を終えた渚カヲルは、そう言うと芝居がかった仕草でそのしなやかな腕を振るってみせた。
刹那、この場の全ての者達の足元に光を放ちながら回転する魔法陣のような図形が浮かび上がった。
見る人が見れば、それがミッドチルダともベルガとも異なる、むしろ戦闘機人のそれに近いものだと分かっただろうが……
それを確信するほどの時間すら与えず、魔法陣は『参加者』達をここでは無い何処かへと運び去っていった。


碇シンジもまた魔法陣の光に呑まれながら葛藤していた。
目の前の現実を認めたくなかった。
初めて自分に対して好意を明らかにしてくれた、親友になれるかもしれなかった少年が。
渚カヲルが使徒だという事実を、認めたくなかった。
しかしそれを認めるしかないということを、あのA.T.フィールドが、殺し合いを強いられるこの状況が、如実に示していた。

(裏切ったな……僕の気持ちを裏切ったな! 父さんと同じに、裏切ったんだ!)

怒りと失望と混乱で心の中を掻き回されながら、彼もまた何処かへ転移していったのだった。







少年一人を除いて誰もいない空間に、大げさな拍手が響き渡る。

「素晴らしい……なかなかの役者ぶりじゃないか渚カヲル」

『参加者』達が去り一人残されたカヲルの元に白衣の男が歩み寄っていく。
カヲルも彼の姿を認めると、いつも通りの涼しげな微笑をみせた。

「僕一人で出来る範囲のことではないさ。
 魔血玉(デモンブラッド)に貯め込まれた膨大な魔力を解き放つことで術式を暴走させ、
 それによって使徒の体組織を媒介にアンチA.T.フィールドを生成し疑似的にサードインパクトに近い状態を作り出す――
 ゼーレの老人達ですら技術があろうと実行しようとはしないだろう」
「確かにあのリングに使った術式は我ながら会心のものではあったがね。
 あまりにリスクとコストが大きすぎて汎用が利かないのが残念だ」
「それでもこのゲームを円滑に進めるには問題ないさ」

ドクター・スカリエッティ。時空犯罪者にして希代のマッドサイエンティスト。
このバトルロワイアルの主催者と呼べる存在は確かに渚カヲルだが、実質的な管理者こそ彼に相違なかった。
魔術理論をベースとしたオーバーテクノロジーに数多の世界を巡って手に入れた技術と知識。
それらを包括した上でさらに上へと推し進めることができる人間など、スカリエッティ以外にそう何人もいるものではないだろう。

「そう言えばあの強殖装甲ユニット、まだ使えるのかい?」
「とっくに再フォーマットして使用可能にしてある。君が演説している間にね。
 どうやら強殖生物にはアンチA.T.フィールドは効かないようだ……心の壁など無いだろうから当然だがね」
「さすがドクターは仕事が早い」

最初は偶然だった。
補完へと至るヒトの世界。それとは別の世界の存在に気付いたのが始まりだった。
次元の狭間を彷徨い、さらに多くの世界を知った。
そして、渚カヲルは今ここにいる。

「そう言えばまだはっきりとは聞いていなかったな。
 私が君のバックアップを一手に引き受けているのは、このゲームが私の探究心を充実させるに違いないと確信しているからだ。
 異なる世界、異なる進化、異なる文化を持つ者達が命の尊厳を賭けて殺し合う……想像するだけで胸が震えるよ。
 だが、君は? 君にとってのこのゲームの意味とはなんだ?」

スカリエッティの問いにカヲルはなんでもないことのように答えた。

「自らの死、それが僕にとって唯一の絶対的自由だった。
 生と死の選択以外に、ゼーレの老人達に生かされていた僕が選びうるものなどなかったんだよ。
 しかし死海文書の予言から解放された今、僕を縛り付けるものはない。
 ならば本来の“自由意思”の名の通りに行動するだけだ。
 老人達とは違う運命の元、違う未来の選択を、というわけさ」

それを聞いたドクター・スカリエッティはくつくつと肩を震わせ笑い出した。

「なるほど、君の話では『人類補完計画』とは『個々の統一による救済』……
 他者を排除し続けるこの殺人ゲームはそれとは真逆というわけか!
 面白い……面白いぞ渚カヲル、いや第拾七使徒タブリス!
 やはり私の見立ては間違ってはいなかった!
 君ならば私の探求欲を必ずや満たしてくれる……ああ、愉快だ!」

狂ったように笑い続けるスカリエッティの元から離れ、カヲルは魔術式のスクリーンの前へと進んだ。
スクリーンには各『参加者』達のデータが表示されている。
それらの表示を見降ろすカヲルの顔に、初めて今までとは違う意味を持つ笑みが浮かんだ。




「さて……君達は、果たして補完されるべき存在なのかな?」




【オズワルド・A・リスカー@強殖装甲ガイバー 死亡】


【残り48名】


【バトルロワイアル開始】




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