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夏子と、みくる ◆MUwCM75A2U



「……保護して欲しい人がいるんです」

 長い長い沈黙の末、やっと口に出した言葉がそれでした。
 自分でも、これじゃあ意図が伝わらないという事は分かっています。
 夏子さんは黙って聞いていてくれました。
 ……私が、『涼宮ハルヒの監視者』と『SOS団のメンバー』の選択を迫られてから、だいぶ時間が経っています。
 時間は無いと思いつつも、適切な言葉が見つからずにしどろもどろになっていました。
 やっと言えたのが、この意味が伝わりづらい言葉ですから、自分で自分が嫌になってきました。

「それはどういう……?」
「……私のいた世界の知り合いの人なんです。二人とも一般人の子供で、特殊な力は持っていません。
キョン君と、キョン君の妹なんですけど――」

 夏子さんは考えあぐねているようでした。
 無理もありません。初めて夏子さんとお会いした時、『無闇に戦闘に首を突っ込まない』事を約束したのですから。
 いきなり私がこういう事を言ったので、少しは驚いたのでしょう。
 だから、夏子さんは「……どうしていきなり?」と私に尋ねました。

「さっきの放送で、私にとっても、その二人にとっても大切な人の名前が呼ばれたんです。
その人は涼宮ハルヒという人で、涼宮さんの代わりに、……えぇと…………」

 また言葉に詰まってしまいました。……昔から私は成長していないのでしょうか。
 夏子さんに上手く伝える方法が思いつかないんです。

 『涼宮ハルヒは世界に関わる重要な人物で、死んでしまった以上、監視者である私は保護対象を変えなければならない』

 と『監視者』らしく馬鹿正直に話しても信じられないでしょう。
 本当に協力して下さるのかだって分かりません。
 夏子さんはとても強い人ですが、場合によっては冷酷な判断を下すでしょう。
 断られたら、私はどうするんでしょうか?
 このまま二人で北へ向かうとしても、その間にキョン君や妹さんが誰かに殺されてしまったとしたらどうなるんでしょうか?
 そうなれば――涼宮さんが生き返る可能性がさらに下がります。
 世界を改変する能力によって、涼宮自身が生き返るかどうかすら分からないのですから。
 それに、あの二人と、古泉君、――朝倉さんは保留です……――には生きていて欲しいです。
 『監視者』としてでは無く、『SOS団の一員』として心からそう思います。
 古泉君は自分を偽っていても、『涼宮さんが死んだので僕の役割は終わりですさあ皆さんも死んで下さい』とは言わないと思うんです。
 根拠という物は……ありません。
 彼とは遠い昔に接したきりで、更に彼が彼自身を偽っている時に接しているのですから、本心は違うのかもしれません。
 でも、彼を信じたいです。
 彼だけでなく、SOS団が皆、笑い合う事ができる事を――――――。

「すみません」

 だから、ちょっとだけ断りを入れます。


「……私の中で話がまとまるまで、待っていて頂けないでしょうか?」

 それが最善なように思えました。
 保護してほしい人物名は言ったので、あとは理由と、私について話すだけです。
 夏子さんに、ある程度の協力を得たい事は決まっています。
 『どの程度』話すのかについて考えたいんです。
 夏子さんは、黙って頷いてくれました。心遣いに感謝します。
 向こうで本を読んでいます、けれどE-10が禁止エリアになる前に移動したいから余り待てません、という主旨の言葉を言われました。
 そして何故か筆記用具とメモ帳を持って、向こうの方へ去っていってしまいました。
 少しだけ、息を吐きます。
 もっとしっかり考えなければなりません。
 私一人では生き残れるかどうかすら危ういので、慎重かつ迅速に行動すべきです。……世界の為にも、涼宮さんの為にも。

 夏子さんに話していない、私が知りうる沢山の情報を整理します。些細な事でも、私にとっては当たり前な事でもです。
 推測や憶測はまず考えない事にします。

  • 『涼宮ハルヒ』は神に匹敵する力を持つ、絶対に保護しなければいけない存在。

  • 『キョン』は『涼宮ハルヒ』の最も身近にいる人間。特殊な能力は持っていないが『鍵』として重要。妹がいる。

  • 『古泉一樹』は『機関』の人間。普段は自分を偽っている。超能力者。

  • 『長門有紀』は『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース』。彼女が殺し合いの主催者となった動機は不明。

  • 『朝倉涼子』は『長門有紀』のバックアップ。急進派に属し、『キョン』を殺そうとした為、消去されたはずの存在。

  • 私――『朝比奈みくる』は、『涼宮ハルヒ』達がいる時間軸から見れば未来人。異時間同位体とも言います。他は割愛しますね。

  • 『涼宮ハルヒ』は、数時間前に、何者かによって殺害された。今の所、世界へ及ぼす影響は不明。

 ざっとこのぐらいでしょうか。
 時空震や時間平面理論などの用語は……難しいですね。沢山の世界がある事を夏子さんが信じているのかどうかすら分かりませんから。
 どこから説明したらいいんでしょう。
 「キョンとキョンの妹の保護を求める」だけなのに、私はどうしてこうも苦労するんでしょうか。
 おそらく、夏子さんに会ったときから私は失敗を犯してしまっているんです。
 「戦闘に巻き込まれている人間がいてもむやみに首を突っ込むつもりはない」という条件をのんで一緒に来ました。
 あの頃は、涼宮さんが死ぬとは思いもしなかったんです。
 しかし、状況が変わりました。涼宮さんが死んだ以上、これから起こりうる事態を回避する為に動かなければなりません。
 ……いっそ、北に着いてから話そうと思っていた、長門さんとの関係も話しましょうか。
 ぐるぐる、ぐるぐると様々な思いが頭の中を駆け巡ります。
 まだ早い――――時間が無い――――これが規定事項の可能性は――――長門さんの思惑は――――
 ――――時空震の発生は――――古泉君達は一体――――それよりも二人の保護を…………。
 軽く首を左右に振ります。このままでは永遠と悩み続けるだけです。

 やはり、二人の保護を最優先に求めます。これは変わらない事実です。
 立場としては……『監視者』よりでいきたいと思います。
 私は『SOS団』の一員である事には変わりありませんが、『監視者』として話した方が伝わりやすいからです。
 理由はどうしましょうか。単純に、『私は涼宮さんを守れなかったから、代わりに二人を守りたい』と伝えたらよさそうです。
 でも……夏子さんは私の隠し事に気づくでしょう。守りたい人がいるとは一言も口に出していなかったのですから。
 それを隠していた事をお詫びして、キョン君達を守りたい、と言えば伝わるでしょうか?
 それでも私は夏子さんに嘘をついている事になります。
 立場が違う人間とは言え、古泉君も何らかのアクションを起こしているはずです。彼ら機関の人間は涼宮さんを「神」としているのですから。
 朝倉さんも、長門さんの意向を知っているかもしれません。それでも、削除された存在の彼女がまた復活した理由が不明瞭です。
 二人の事はまだ話さなくても良さそうです――が、もし二人に遭遇した時、困るのは私でしょう。
 その時はその時でまた考えましょうか。
 まずは、夏子さんに謝らなければなりませんね。
 今まで隠していた事があるという事実を、それから私と涼宮さん、キョン君達の関係を話して――――。

「あの……」
『わあああああああああああああああああああああ!!!』

 意を決して立ち上がると、外から叫び声が聞こえてきました。
 暴れるような音、静止する声、わめき声などが断続して聞こえてきます。
 その声の中には――――シンジ君らしき人物の声もありました。

「な、夏子さん!」
「……外に気配が三つ。おそらくその中にシンジ君も。争っているみたいだけれど……どうしますか?」

 左肩の傷がうずいてきました。
 何故襲われなければならなかったのか、未だに分かりません。
 だから、ここでしっかり――シンジ君に理由を聞いておきたいと思いました。

「様子を見に行きましょう」
「……ここで待機すべきです。相手が分からない限り、無闇に危険へ飛び込む必要はありません」
「そんな!」

 夏子さんの言い分の方が正しいのは分かります。でも――。

「シンジ君は、本当は正しい人だと思うんです。……ああなってしまった責任は、私にあるのかもしれません。
色々と聞きたいこともありますし、だから……彼を助けましょう」

 本心をそのまま言いました。目の前で、しかも知り合いの少年を見殺しにする訳にはいきません。
 夏子さんは少し考えて、承諾の返事を言いました。

「分かりました。ただし危険なので、朝比奈さんはここに隠れていて下さい。合図があったら出てきて良いです。
それまでは姿を見せないように」

 抗議する間もなく、夏子さんは外へと出て行きました。
 確かに……私は怪我をしていますし、無力です。うかつに出ない方がいいのかもしれません。
 ちょっとだけ後を追って、扉の隙間から外を窺う事にします。念のため銃を持ちました。

(シンジ君、夏子さん……!!)

 ぎゅっと銃を握りしめ、ただ外を見つめました。――自分は何も出来ないという、悔しさを噛みしめながら。




 本当は放っておきたかった。
 それでも引き受けたのは、彼に対する申し訳なさと、朝比奈さんを心配する気持ちからだろうか。
 扉を背にし、目を凝らす。三つの影が見えた
 ナイフを持って暴れている少年――碇シンジ。逃げずにずっとこの付近にいたのだろうか。
 そして、もう二つの影。
 「二つ」と表現したのは、それらの姿が人間離れしていたからだ。
 耳が長く、茶色い毛で覆われた二足歩行の生き物。ウサギに似ているが、しっかりと立ち上がっている。
 もう一つの影は、筋肉質で背が高く、鶏冠の様な物が頭についていて、たらこ唇で、…………何だろう、コイツは。
 後者の方はロボット兵を人間らしくしたらこうなるのだろうか。しかしウサギ似の生物は理解しがたい。
 その間に、シンジ君は暴れ続ける。筋肉質の方に突っ込んでいって、ナイフをひたすら振り回す。
 二人(?)の静止の声は全く聞いていないようだ。私は彼らに気取られないように、慎重に近づいていく。
 筋肉質がデイパックを落とした。元から口が開いていたのか、ばらばらと中身が落ちる。
 水や地図、コンパスなどには目もくれず、その中からただ一つ、銃――リボルバーを拾い上げた。

「お、落ち着いて! 僕らは敵じゃないって!」
「マンタさん、危ない!」

 マンタと呼ばれた方が、喋ったウサギもどきに蹴り飛ばされる。シンジ君が放った銃弾は空を切った。
 ……ぼんやりと眺めてはいられない状況だ。
 相手は銃を持っていても素人、狙いは定まっていない。マンタとやらもウサギもどきも積極的に攻撃しない辺り、温厚そうだ。
 少し大胆な行動に出ても安全と判断し、私は声を張り上げた。

「シンジ君!」

 ただ名前を叫んだだけなのだが、シンジ君がこちらに気づき動きを止めた。
 あっ、と小さく声を漏らして動きが止まる。悪戯が見つかった子供のようだった。
 銃を捨てなさい、と警告しつつ彼に近寄っていくが――。

「来るなあああああ!」

 彼は煙玉を取り出して投げつけた。青色の煙が辺りを包み込む。軽く咳き込んでしまった。
 右斜め前に人影。恐らくシンジ君だ。そちらに向かって走る。
 かちゃ、と撃鉄が上がる音がしたので素早く動く。
 こちらから姿を現すとは思っていなかったのだろう。一瞬驚いた後、彼は引き金に指をかけた。
 それより早く、手を伸ばしてリボルバーを掴む。シリンダーを上からぐっと押さえ込んだ。
 シンジ君は必死に引き金を引くが、勿論弾は出ない。

「落ち着きなさい」

 敵を脅す時に使う低い声で言う。シンジ君はびくりと体を震わせたが、尚も抵抗を続けた。
 視点が定まっていなく、息は荒い。かなりの興奮状態にあり正常な判断を失っているようだ。
 ……これ以上もみ合っていても無駄だ。シンジ君には悪いが眠って貰おう。
 リボルバーを掴んでいる手を捻り挙げる。体制が崩れて、彼は大きくよろめいた。
 それでも銃を放さなかったので、仕方ないと思いつつ手を掴んだまま体を半回転させた。ちょうど、シンジ君が私の真後ろに来る形になる。
 そして――――出来る限り力を抜いて一閃。
 小さい弧を描いて、すぐ足下に彼が落下した。受け身が上手く取れなかったのかそのまま体の力が抜けていく。気絶したようだ。

「さて」

 ぽつりと呟く。煙はもうほとんど晴れていた。
 筋肉質とウサギもどきの方を見やる。少しだけこちらを警戒しているようだ。

「話を、聞かせて貰いましょうか」




 書店の中。シンジ君はソファーに寝かせた。
 一つのテーブルを取り囲むようにして、三人と一匹が座っている。

「話は分かりました。要するに、北へ向かう途中、大きい生き物がシンジ君を頭に乗せているのを見た。
話を聞こうとしたらその生き物がシンジ君を置いていった。とりあえずモールで休ませようとここまで来たら、シンジ君が暴れ出した。
……そういう事ですね?」

 朝比奈さんが話をまとめた。万太郎と名乗った人物はうんうんと頷いた。

「そうそう。……もふもふは多分、いい奴なんだと思うんだけど、どうしてシンジ君を頭に乗せていたのかは分からないや」

 先ほどから視線が私と朝比奈さんの間で揺れ動いている。特に朝比奈さんの胸を見ている気がするが、気のせいだろうか?
 その視線にどこか灌太に近い物を感じて、かすかな嫌悪感を覚えた。……気にしないことにしよう。

「……目的は違えど、北へ向かうことは同じようね。そちらはこれからどうするつもり?」
「僕は――」
「ムハ〜。我輩達も北に向かうとはいえ、他の参加者を助けに行くというアバウトな目的なので、そちらの都合がよければ一緒に行きたいものですなぁ」

 万太郎の言葉をさえぎり、ハムというウサギの形をしたモンスター(……よく分からないがそう言っていた)が答えた。
 簡単に言えば協力要請。彼は私を『戦力』として捕らえたのだろう。
 筋肉馬鹿の熱血漢よりも、冷静に判断を下せる戦力が欲しい――そう言った所か。
 曖昧な印象だが、ハムは中々の策士だ。
 常に敬語をつかっている為本質が捉え辛く、深いところを突く質問はのらりくらりとかわす。頭は良いようだ。
 彼も、生き残る為には『使えない』『戦力外』と判断した人物は見捨てるだろう。
 そういう思考は砂漠の住民とどこか共通点がある。……あるいは私の、か。
 どうします、と形式的だが朝比奈さんに聞く。返事は分かっていた。

「私は構いませんけど……夏子さんは?」
「……一緒に行くとしても条件があるわ。私は無闇に戦闘に首を突っ込むつもりはありません。勝てそうに無い相手なら尚更ね。目的が反するから――」
「そんな!」

 万太郎が叫ぶ。少しだけシンジ君と似たものを感じた。
 でも、と朝比奈さんが異議を唱えた。

「……まだ全てお話していませんが、夏子さんに『守って欲しい人がいる』とお話しましたよね?
パソコンを探しながらあの二人も捜して、道中は出来る限り万太郎さん達に協力するというのはどうでしょう?」

 彼女らしいもっともな意見に思えた。
 例の二人については後で聞くこととして、……悪くは無い話だ。だがリスクも伴う。
 四人、シンジ君も入れると五人でぞろぞろ歩くのは目立ち過ぎる。断然狙われやすくなるだろう。
 万太郎もハムもある程度は戦えるらしいからまだいいが、戦えない朝比奈さんやシンジ君も抱えての戦闘。
 おまけに万太郎はちょっかいを出したがる性格と来た。未知の強敵に片っ端から挑んでいくのならば命がいくつあっても足りない。
 正義の固まり、という印象を受けた。私の上司である海堂勝とは少し違うが。
 シンジ君をここで『切り捨て』て行ったとしても難しい。そもそもそんな事は許してくれないだろう。
 さて――どうするべきか。

「夏子さん、耳を貸してくれますか?」

 悩んでいると、ハムがテーブルに乗ってぴょんとジャンプし、こちらまで来ていた。とりあえず耳を近づけてみる。

「心中はよ〜く分かります。マンタさんの野次馬根性は我輩が何とかして押さえますから、ここは協力してくれませんか?
途中で二手に分かれても結構ですし、こちらも協力はするのでそちらさんの為にもなりますよ」

 ……やはり、こいつは策士だ。頭脳派と言うべきか。

 状況的に、私はこの申し出を断り辛い。
 ハム、万太郎、朝比奈さんの三人に「一緒に行動しよう」と言われたら強引に断る術を持たないのだ。大勢の意見の方が優先されてしまう。
 どうしても断りたいという特別な理由がある訳では無い。戦力が増えるのは嬉しいけれど……。
 こういった心中も、ハムは見越していたのだろうか。
 初めから断れないと知っていて、あえて申し出た――――?
 ……このウサギの脳内が気になる。結局、私は受け入れるしか無いのだ。

「……分かりました。協力しましょう」

 朝比奈さんとハムがほっと息をつくのが見えた。後者はしてやったり、という所か。
 まぁいい。『徒党を組んで生き残る』という当初の方針からは逸脱していない。
 正義の固まりのような万太郎が押さえられればこっちの物だ。
 ハムは賢くて、万太郎は戦える。朝比奈さんにパソコンの知識を貰う。どれも有力だ。
 そして――ソファーで寝ているこの少年、シンジ君。彼には勇気があるが、不安要素を沢山抱えていた。
 目を覚ましたらまた暴れるかもしれない。そもそも朝比奈さんを襲った理由だって不明瞭だ。
 朝比奈さん、と彼女に声をかける。

「先ほど見せて貰った荷物に、ビニール紐がありましたよね? 貸してくれますか?」
「え? ……あぁ、はい。これですね」

 使えない、と判断してそのままにしていた物だ。朝比奈さんからそれを受け取る。
 立ち上がって、シンジ君が寝ているソファーの所まで歩いた。死んだように眠っている。
 ビニール紐で手を縛ろうとしたら静止の声が上がった。

「夏子さん、どうして……? シンジ君が可愛そうです!」
「……また暴れる可能性があります。シンジ君は朝比奈さんに襲いかかり、助けてくれた万太郎君やハム、私にも銃を向けたんです。
目を覚ましたらその四人が全員揃っていて、パニックにならない保証があるとでも?」
「でも……」

 朝比奈さんは俯いた。
 彼女は本当に優しい。砂漠にこういう人間は中々いない。
 だけど、優しさは甘さに繋がる。私たちはシンジ君に対しての接し方を考えなければならないのだ。

「さすがに縛るのは……どうかと思う。縛られている事に対してびっくりすると思うし、落ち着いて話を聞いてくれないと思うよ」
「じゃあこうしましょう! 夏子さんはシンジさんを連れて他の部屋へ行く。我輩達はここで待機。シンジさんが目を覚ましたら夏子さんが話を聞く。
落ち着いたら夏子さんとシンジさんがこちらに来る。どうでしょう?」
「……私が?」

 誰が行っても同じではないか――そういう視線を向けると、ハムはまたしゃべり出した。

「我輩もマンタさんも、見た目で驚かれたと思うので側にいない方がいいと思うんです。みくるさんも危ないそうじゃないですか。
だから残りは夏子さんしかいないんですよ。シンジさんが貴方に銃を向けたのは正当防衛とか、焦っていたのかもしれませんしねぇ……」

 成るほど、そういう事か。悪くは無い提案だった。

「分かったわ。では貴方たちはここで待っていて下さい。北の街道が禁止エリアになるまでには時間がありますが、念のため早く行動しましょう。
三十分待ってシンジ君が目覚めなかったら移動します。それでいいですね?」

 皆、頷いた。
 私は彼の所持品からナイフと煙玉を奪う。いや、返してもらった。
 ……それに、さっき書いたメモ、筆記用具を加えて、朝比奈さんに渡した。

「これ、シンジ君が落ち着くまで預かって貰えますか?」
「はい、分かりました。……??」

 明らかに場違いなメモと筆記用具に気づいたらしい。彼女の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
 意味ありげな視線を交わし、私は彼を抱えて部屋を出た。


 夏子さんが部屋を出た後、トイレに行きますと言って私も部屋を出ました。
 そして、女子トイレに入ってメモを開きました。ここならあの二人は来られませんしね。
 ペンにメモがぐるぐる巻き付けられて、表には『誰もいない所で読んで下さい』と書いてありました。
 丸まったメモを伸ばしながら、ざっと目を通します。
 走り書きの夏子さんの字が目に飛び込んできました。

『朝比奈さんへ。このような形でしか連絡出来なくてすみません。
 始めに、私は貴方に出来る限り協力したいと思っています。時には冷たいと思われる判断を下しますが分かって下さい。
 保護して欲しい人物二人についても同じです。可能であれば捜索します。その二人が交戦中だった場合はその時に考慮します。
 それと、もう一つ。この殺し合いの主催者が何らかの形で監視を行っていると思われます。
 先ほどの放送で「仲良しの友達に殺された人もいた」と悪趣味な事を言っていたのが何よりの証拠です。
 監視カメラ、あるいは盗聴……どちらかは分かりませんが、常に見られていると思って下さい』

 え、と小さく声を漏らしてしまいました。慌てて口を塞ぎます。
 単純と言えば単純な話です。しかし気づきませんでした。
 仮にパソコンを見つけ、長門さんと交信して何らかのメッセージを得られた場合。
 ……もう一人の主催者、草壁タツオという人物が『長門さんが裏切った』と判断してこちらを妨害する可能性もあります。
 長門さんと、あの男の人が本当に協力しているかは分かりません。
 だけど、交信を妨害されるかもしれません。それが草壁さんの手による物か、第三者かは分かりませんが。
 うかつに長門さんの事を口に出さない方がいいですね。
 とにかく、夏子さんは私に協力して下さるそうなので、かなり安心しました。

『前者だった場合は手詰まりですが、後者なら手段はあります。
 今後、主催者に関する情報をパソコンで入手しても、うかつに口に出さないで下さい。
 また、今後それに関わる事は筆記で行います。おそらく、カモフラージュとして別の会話をしながらです』

 ここから字体が少し変わっていました。別の時に書いたのでしょうか。

『追伸:万太郎君とハムにはまだ内緒にして置いて下さい。話がややこしくなります。
 保護して欲しい人物二人に関しては、皆に話して良いのなら皆の前で話して下さい。
 都合が悪いのならばここに書いて下さい。勿論、二人に分からないようにです』

 ここでメモは終わっていました。
 代わりに、折りたたまれたもう一枚のメモが出てきました。白紙です。おそらく、ここに記すのでしょう。

 決めました。夏子さんには全て伝えます。
 夏子さんは私を信頼しているようですし、ここまでしてくれたのにまだ隠すのはちょっと卑怯です。
 ペンを握って、少し考えます。
 ……長門さんとの関係も、今書いてしまいましょうか。
 万太郎さんとハムさんはまだ未知な存在です。いずれ伝えられると思いますが、夏子さんが言ったように『まだ』伝えられません。
 夏子さんなら分かってくれるはずです。きっとキョン君達も守ってくれます。
 そう信じて、メモ用紙に書き始めました。
 今まで暗中模索でしたが、一筋の光が差した気がしました。

 ――涼宮さん。安心して眠って下さい。私達がキョン君達を守るので……。出来ればまた会いたいです。
 でも、今はもうちょっと待っていて下さいね。


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片道きゃっちぼーる 川口夏子 碇シンジの不安・川口夏子の葛藤
朝比奈みくる
守りたい者がいる キン肉万太郎
ハム
碇シンジ




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