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古泉一樹の考察 ◆S828SR0enc




「どうやら、ある程度の信頼は得られたようですね……」

 一人になり、ようやく体のすべてから力を抜きながら、古泉はそっと呟いた。
 ところどころに激情をのぞかせるノーヴェと話すのは、爆弾を前にしているようでどうにも精神的によろしくない。
 お互いの背景について適当なところで終わらせたのは、踏み込んだ場合のノーヴェの反応が予測しにくかったからだ。
 うまく地雷をよけて会話出来ればいいんですけど、とため息が漏れる。

「…………」

 何もせずに木に体を預けていると、ちらちらと差し込む木漏れ日が眩しい。
 リラックスして息を吐きつつ、精神のどこかで周囲への警戒を怠らないまま、古泉はしばらく静かに体を休めていた。

「…………」

 鳥の声が聞こえる。
 地図を見る限りではとても小さな島だが、自然が豊かなようだから鳥もいるのだろう。
 ひょっとしたら兎とか、たぬきが住んでいるかもしれない。
 もしかしたら熊もいるかもと考えて、そんなのに出会って死ぬのはごめんだと思わず苦笑した。

(それにしても熊ですか……そういえばトトロはどうしているでしょうね?
 「彼」がああなってしまった以上、あまり遭遇してほしいとは思えませんが……あるいは……)

 とりとめもないことを考え、気付けば珍しく頭をからっぽにしていた。
 さわさわと木の葉を揺らす風が心地よい。
 ここに「彼女」がいたらピクニックしましょ!とでもいうだろか、それとも森の中へ分け入っていくだろうか。
 ふともう帰らない平和な――あまりに脆い均衡の上にあった、平和な日々を思い出す。
 「彼女」がいて、「彼」がいて、自分がいて、朝比奈みくるがいて。
 そして、長門有希がいたあの日々を。

(……長門、有希……)

 夢の中で出会った「彼女」や、先ほどの「彼」は長門有希の事を信じているようだったが、古泉自身はそうでもない。
 情報統合思念体の端末とでも呼ぶべき存在である彼女を、はたしてどこまで信じて良いものか。
 そもそも彼女の情報改ざん能力を持ってすれば、出来ないことなどほとんどないのだ。
 その彼女があのただの中年男性にしか見えない人物に脅されて(?)従っているなど、想像もつかない。

(ならば彼女はやはり……おっと、これでは涼宮さんのご意志に反してしまいますね。
 やはり手持無沙汰だと余計なことを考えないものです)

 深まりそうな思考を中断し、体を休めながらもできることはないかとあたりを見回す。
 ちらりと、出しっぱなしの地図が目に入った。何となく手に取り、眺めてみる。 

 10×10のマス目で区切られた島。
 表記されていないが、常識にのっとれば上が北だろう。
 地図全体に占める緑の面積の多さからも、自然豊かな島だということがわかる。
 まわりが完全に海に囲まれているため、地形からここがどこなのか知るのは難しそうだ。

(……そういえば夜空には見知った星座が一つもありませんでしたね。
 ということはここは日本からは、……?)

 ふと、違和感を覚えた。いや、違和感ならずっと覚えている。
 そう、この地図を見た時からずっと、漠然とした違和感を。

(何だ……何がおかしい……)

 今度は何となくではなく、じっくりと地図を眺める。
 頭の中に浮かんだ疑問を網で掬い取るようにして拾い上げ、方向性を与えて固めていく。
 ぽつぽつと点在する施設を目で追い、地形を頭の中で組み上げ、島の立体的な全体像を考えてみる。
 しばらくして、ようやく古泉は違和感の正体に気づいた。

「……施設が、偏りすぎている」

 よく地図を見るまでもない。
 あきらかに施設は島の北一帯の、おそらくは市街地にかたまって表記されている。
 ここから推測できることといえば、有用な建物の多い市街地に危険安全問わず人が集まることくらいだろうか。
 だが、古泉が感じた違和感はそれだけにとどまらない。

(地図を見ればわかるということは、それは主催側も理解しているはずのこと。
 このままでは時間の進行とともに、人が北の市街地に密集してしまう……)

 人の密集。
 古泉は見えない矢印をたどるように、いくども島全体と市街地を指先で往復した。

(人の密集は、それだけ殺し合いの加速につながる……人が会わなければ殺し合いはおこりませんからね。
 とはいえ、この島事態はそれほど大きくもないというのに、こんなあからさまな配置を行うとは……)

 時間とともに、人は市街地に集まり、島の大部分が空白になる。
 密集すれば殺し合いは起こりやすいが、しかしそれでも配置が偏りすぎている。
 これではある程度頭の回る人間には、市街地が危険地帯であることが丸わかりだ。安直過ぎる。
 じわじわと募る違和感の中で、古泉はふと禁止エリアのことを思い出した。

(人を北に集めたいなら、街道の封鎖はむしろマイナス……。
 明確な道筋が消えたことで、森林や山を移動することになり、その過程で諦めるものが出てもおかしくない。
 だとしたら、この北の市街地は……)

 片手で地図を押さえながらデイパックに手を突っ込むと、メモ帳が手に触れた。
 ついでに鉛筆も引きずり出し、思考を整理するため思いついたことを書いてみる。

 ---

 ・北市街地への施設の密集
  →時間経過とともに人が北に密集することに意味がある。

 ---

 あえて禁止エリアの意図には触れず、思ったことを書いてみた。
 そして、市街地に人を集める理由について考えてみる。

(殺し合いの促進が目的ではないが、人が集まらなければ意味のない状況……。
 たとえば、そう、市街地に大型爆弾がある。
 起爆スイッチは市街地内にあるが、人が集まらなければ爆発しても殺傷の意味はない。
 殺人に乗りやすい者に起爆スイッチが見つかるようにしてある……あるいは支給されている。
 そして人が集まった状態で使えば大量殺戮が狙える……)

 そこまで考えて、思わず首を振る。
 いくらなんでもこじつけくさいし、街に爆弾を置くならはじめから大型の時限爆弾でも支給すればいいのだ。
 そもそもそれでは市街地に集まった他の殺人者なども巻き添えになる可能性があるではないか。
 その上、先ほど考えたように街の危険性を見抜き、あえて街に向かわない者が出る可能性だって高いのだ。

(確実性はない……が、一応基本の考えですしね)

 そう思い、鉛筆を動かしていく。


 ---

 ・北市街地への施設の密集
  →時間経過とともに人が北に密集することに意味がある。
  →仮説① 北の市街地に人が密集しなければ意味のない仕掛けがある。(例:街全体を規模とした大型爆弾)

 ---


 このまま市街地に何があるかを煮詰めても意味はないだろう、と一息つく。
 そして次に、視点を変えてみる。
 市街地に人が集まるということは、市街地以外には人がいなくなるということだ。

(人を遠ざけたい場所がある……こう考えることもできますね。
 人を固めることによって、そこに近寄らなくさせる……それならば、該当するのは地図の中央から南ですが……)


 ---

 ・北市街地への施設の密集
  →時間経過とともに人が北に密集することに意味がある。
  →仮説① 北の市街地に人が密集しなければ意味のない仕掛けがある。(例:街全体を規模とした大型爆弾)
  →仮説② 参加者を北に固めることで、近づけさせたくない場所から遠ざける。(地図の中央~南)

 ---


 鉛筆を置き、改めて地図を見る。
 正直に言って、今考えたことは最初の「殺し合い促進のための密集」をあえて排除した、いわば妄想だ。
 確証も薄い。

(やはり、手持無沙汰な余計な考えでしたかね……)

 ため息をつきながらゆっくりと地図をなぞる。
 自分がいるのは湖の位置から考えるとこのあたり、と指で押さえてみる。
 ノーヴェは今どのあたりにいるだろうか、と考えながら、もう一度北の市街地あたりを指でたどる。
 知らず知らず、ホテル、デパート、と施設の名前を数え上げていた。

「…………、?」

 わき起こる違和感。
 いや、よく考えれば、地図を見た時からの違和感はまだ解消されていない。

(施設の密集だけじゃない……なにか……それとは別の……)

 今度は北の市街地に意識を集中させ、施設の配置を目で辿りながら考える。
 そして再び地図に没頭すること数分、答えは案外簡単に出た。
 それも、無視できない形で。

(ない……こういった地図ならあってしかるべきはずのものが、ない……
 そしてこの妙な表記……やはり、施設の密集には意図がある!)

 そう、この地図には施設の密集以外に明らかにおかしい点がある。
 一つならまだしも、そのおかしなところは二つ。
 二つもあるのならば、それは見逃すことが出来ない違和感である。

 そして、そのおかしな点とは、

(地図上に存在しない医療施設……そしてわざわざ表記された廃屋……!)

 先ほどのメモを手元に引き寄せる。
 そして改めて地図を見ながら、ひとつひとつ、じっくりと考えていく。


(まずは、医療施設……)

 市街地が存在するということは、ここは人が暮らす島だということだ。
 島にホテルもデパートもモールも温泉もあるのに、医療施設がないということは考えられない。
 大規模な病院でなくとも診療所などは絶対にあるだろうし、地図に記すのが普通のことだ。
 つまりそれが記されていないというのは、ふたつの可能性を示している。

 先ほどのメモ書きの下に、再び鉛筆を走らせる。


 ---

 ・医療施設の地図上の不在
  →可能性1:この島には医療施設があるが、あえて表記されていない。
  →可能性2:この島には医療施設は存在しない。

 ---


 まずは、可能性1。医療施設はあるが、地図に書いていないというものを考えてみる。
 主催があえて表記しないとしたら、そこには明確な意図があるに違いない。
 ぼーっとしていた頭が回転するのを感じながら、古泉はメモを書きつけていく。

(医療施設は殺し合いの場において、間違いなく人を引き寄せる。
 何らかの傷を負った場合、そして負っていなくとも医療道具を欲しがる人間は多い。
 それが市街地であるならば、なおさらのこと……つまり、市街地には医療施設が存在しない。
 そしてそれは、市街地とはかけ離れた場所にある。
 そのため、市街地に人を集めたい場合、その医療施設の存在は邪魔になる。
 だからこそ、医療施設の位置は表記されていない……ということは、中央から南にある可能性が高いですね。
 これは先ほどの仮説①、②のどちらをも強化することになります)

 考えたことをメモに書きながら、今度は可能性2について考えてみる。
 この島の規模から、医療施設がないことはありえない。しかし実際に存在しない。
 ならば、ここはもとより『ひとが住むための場所ではない』。
 言いかえればそれは、ここが殺し合いのためだけに用意され、存在する場所であることを示している。

(いや、もっと大胆に考えてしまえば……この島は、現実空間ではない。
 例えば……そう、この殺し合いのために長門有希がその能力で作り出した、いわば仮想空間。
 だとしたら、リアルな現実感を伴いながらも、医療施設のない生活空間というのはありえないことではない)

 かつて朝倉涼子がその高い情報処理能力でもって空間閉鎖を起こし、「彼」を襲ったことは機関から聞いている。
 つまり、彼女とおなじ存在である長門有希にも、何らかの空間を作る能力が備わっている可能性は高い。
 そして朝倉涼子はバックアップだったが、長門有希は違う。
 そう考えれば、これほどの巨大な仮想空間の創造もありえることだと思えた。

 少し考え、肝心なところはぼかしつつもそのことをさらに紙に追記する。


 ---

 ・医療施設の地図上の不在
  →可能性1:この島には医療施設があるが、あえて表記されていない。
         →市街地ではない場所にあるため、そこに人を集めたくない意図から書かれていない。
         →仮説①、②の強化

  →可能性2:この島には医療施設は存在しない。
         →ここは人が暮らす場所ではなく、殺し合いのためだけの場所である。
         →ここは仮想空間であり、現実ではない。

 ---


 長門有希についてはここで考えても仕方ないため保留し、次の謎に移る。
 すなわち、地図上に表記された「廃屋」についてである。

(普通ならば、山小屋はともかく廃屋なんて地図上に表記しません。
 ということは、これはここに廃屋があることによって何らかの効果を生むためのもの……。
 たとえば……地図中央には有用な施設がないことを示すため)

 地図中央部にある施設は、「神社」「廃屋」そして少し遠いが「山小屋」のみ。
 そのどれもが、休憩はできても殺し合いに役立つとは思えないものばかりである。

 二つだけなら気に止めなくても、三つも不要な施設があれば、人はそこに行こうとは思わなくなる。
 あるいは、わざわざ「廃屋」を地図に表記しなければならないほど、そこには施設が存在しないという考え方もできる。
 その場合、無駄な山登りをして体力を使うよりも、街に行って物資を手に入れたいと思うだろう。
 つまりこの「廃屋」は、地図の山頂・中央部から人を遠ざけるためにわざわざ表記されたものと考えられる。

(よくよく見れば、山を降りれば東にモール、西に温泉がありますね……。
 モールには色々とものが置いてあるでしょうし、温泉は疲労回復などに役立ちます。
 たとえ山頂に偶然辿り着いたとしても、そこに留まるよりは山を下りた方が良いと思える……。
 ここにも、中央から人を遠ざける意図が感じられますね)

 市街地への密集ではなく中央部からの遠ざけが目的なら、参加者の意識への配慮も違ってくる。
 たとえ市街地へ行こうとはしなくても、明らかな危険地帯であるそこに対し、頭がいい人間であればあるほど意識を向けざるを得ない。
 仮に中央部に立ち寄ることになるとしたら、山頂から市街地を観察する場合などになる。
 その時人の意識は市街地に向かっているため中央部自体には行きにくいし、何かあればすぐに行動して中央部から離れることになるだろう。

 施設の密集、存在しない医療施設、そして不自然な廃屋の表記。
 それらに関して、そしてそこから得た結論を紙に書き記すと、メモ用紙の全貌は以下のようになった。


 ---

 ・北市街地への施設の密集
  →時間経過とともに人が北に密集することに意味がある。
  →仮説① 北の市街地に人が密集しなければ意味のない仕掛けがある。(例:街全体を規模とした大型爆)
  →仮説② 参加者を北に固めることで、近づけさせたくない場所から遠ざける。(地図の中央~南)


 ・医療施設の地図上の不在
  →可能性1:この島には医療施設があるが、あえて表記されていない。
         →市街地ではない場所にあるため、そこに人を集めたくない意図から書かれていない。
         →仮説①、②の強化

  →可能性2:この島には医療施設は存在しない。
         →ここは人が暮らす場所ではなく、殺し合いのためだけの場所である。
         →ここは仮想空間であり、現実ではない。


 ・不自然な「廃屋」の表記
  →地図中央(山頂?)には、有用な施設がないことを暗示している。
  →また、山の両端には魅力的な施設が配置されている。
   →地図の中央(山頂?)から出来れば人を遠ざけたい。
   →仮説②の強化

 ↓

 ★地図全体に、人を中央(山頂?)部に近づけさせない、中央部を意識させないような意図がある。
   つまり島の中央の山、そして「廃屋」「山小屋」「神社」の辺りに何か重要なキーがあるのでは?

 ---



 ふぅ、と満足と疲れの入り混じったため息を吐き、体を弛緩させる。
 色々と迷走しているが、こうして見るとそれなりに論理の飛躍はあるものの、なかなか説得力のある説に見えた。

(島の中央……神社、それに廃屋……)

 特に何かがありそうとも思えない施設だ。
 だからこそ、何か大切な意図があるのかもしれない――――だが、一体何の?
 そうして主催の意図を考えたとき、一つ鍵になるかもしれない情報があることに古泉は気がついた。

「そうだ、禁止エリア……」

 もう一度地図に目を落とす。
 F-2、E-10、E-3と地図の中央のラインに固まり、なおかつ街道をふさぐ形で置かれた禁止エリア。
 発表直後は色々とごたごたがあってじっくり考えられなかったが、明らかに不自然な配置だ。

 そして、それをたった今導き出した仮説に基づいて考えてみる。
 すなわち、禁止エリアで街道を封鎖することと、中央への移動を阻む意図との関連を。

(……街道の封鎖は、街へのスムーズな移動を困難にする……。
 普通に考えれば、安全のために島の中央に寄って移動する人間が増えることになるでしょう。
 偶然にしろ、島の中央に立ち入る人間も増えることになります。
 そしてそれは中央に近づけたくないという地図全体から感じられる意志とは反することになる……)

 どういうことだ、と首をひねる。

(たとえば開始直後では意味がなく、時間が経過してから意味を発揮するギミックが中央部にある。
 それならこの妙な配置に結論はつきますが……爆弾にしろ何にしろ、具体的な理由がまったくわからない。
 これは完全なこじつけになってしまいますし、かといって……)

 施設の配置で遠ざけ、禁止エリアで近づける。
 その矛盾に頭が混乱し、思考を投げ出そうかと一瞬思ったそのときだった。


――だからバカなことはせずに、みんなと協力して有希をあのおっさんの魔の手から救い出せ!


 まるで天啓のように、夢の中の「彼女」の、「神さま」の声が蘇った。
 そしてそれはこの瞬間、閃きとも思考の飛躍ともいえるものを古泉にもたらした。

「まさか……主催は一枚岩ではない?
 長門さん自身は涼宮さんの言ったように、本当はこの殺し合いを望んでいない……?」

 あの中年の男は、明らかに殺し合いを望んでいた。
 だが、長門はどうなのだろう?彼女もまた、それを望んでいたのか?
 もし何らかの圧力によって無理やり殺し合いの主催にすえられているのだとしたら?
 そして――どうにかして、その中にいる自分達を助けたいと望んでいるのだとしたら?

「だとしたら、この奇妙な地図にも意味が出てくる……」

 ここからは大胆な仮定ではあるが、ここが長門の作った仮想空間だと完全に仮定してしまう。
 長門自身は殺し合いに乗り気ではなく、しかし空間を作らざるを得ない。
 その作られた空間に気づいてほしくて、あえて病院を作らないというあまりに不自然な状況を作り出す。
 そこから自分の意図を、あるいは脱出のための何かを掴んで欲しいと思って。

 だが、長門にそういった能力があることを知っているのはSOS団関係者だけだ。
 そして、長門が普段どういった人間で――どれだけ、SOS団を気に入っていたかということがわかるのも。

「もし、長門さんが殺し合いを望まないのなら――彼女は、中央に来て欲しがっている?
 地図の不自然さで強調し、それでも気付かないなら禁止エリアで強制的にでも追い込むことで……」

 つつ、と指先が地図の中央を彷徨いだす。
 ここに、何かがある。
 脱出のためのキーか、主催に対抗する手段かはわからないが、長門が呼び寄せるだけの何かが。


 思考に没頭し、常の敬語がとれていることにも古泉は気付けなかった。
 それだけ、まさに雷に打たれたような発想だったのだ。
 そしてその状態は、湖周辺をぐるりと回って探索を終えたノーヴェが帰ってくるまで、とぎれることなく続いた。


 ◆ ◆ ◆


「まったく、ビックリさせんなよ。
 地図と紙とかいろいろぶちまけてぶつぶつ考え込んでたから、本当におかしくなったかと思ったって」
「はは、どうもすみません。
 やっぱり一人でいるとろくなことになりませんね、少々考えこみすぎたようです」

 ぶつくさと文句を唱えるノーヴェをなだめすかしながら、古泉は湖のほとりを歩いている。
 地図も、考察をメモした紙もデイパックにしまった。
 少なくとも肉体的疲労は回復したとだけ告げると、ノーヴェは早速出発しようと言ってきたのだ。
 なんでも、湖周辺にいくつも人がいた形跡があったらしい。

「まぁ結局人がいるのは見つかんなかったけどな」

 そう前置きして、ノーヴェは自分が見つけた足跡について語ってくれた。

 まず、湖の南西にひとつ。ハイヒールのものと思わしき足跡があった。おそらくは女。
 この足跡の主は湖から南下していく途中だったようで、ぬかるみの先に木々をかき分けたような跡があった。
 とはいえ、ほとんど一直線に動いているためにその様子はわからない。

 次に、湖の西に二人分。先ほどのものとは違うが、おそらく女と子供のもの。
 とくに途切れたりはしなかったが、ちかくに胃の内容物がぶちまけられていた。
 そのことを考えると、特に子供が体調的に万全な状態であるかどうかは保証できない。

 さらに、湖の北に複数。少なくとも三人分の足跡。
 一つの足跡は人間のものではなく、先ほどと同じ子供の足跡もあった。
 複数の人間が交流したと思わしき歩き回った跡があり、これは西の足跡よりも新しい。

 最後に、湖の南東にもうふたつ。人と、そして獣の足跡。
 獣はたぶん大型かつ二足歩行で、足跡の沈み具合から重さもあり、ただの獣とは思えない。
 人間の足跡が途中から途切れているが、付近に血の跡はなし。
 そのため、獣がその人間を食ったのかなどはよくわからない。

「なるほど、御苦労さまでした」

 そう言った古泉は、今はノーヴェを先導する形で湖の西を北上している。
 理由はその新しい方の複数の人間が交流したと思わしき足跡、その一団を見つけるためだ。


「複数人のグループともなると、明確な目的地が必要です。
 子供の足跡があり、なおかつその子供が先ほど嘔吐するほどに体調が悪いとすれば、休憩施設を目指すでしょう。
 そうすると、目的地はさほど遠くないゴルフ場、もしくは山小屋となります」
「はーん」

 古泉の話を話半分に聞きながらノーヴェがうなる。
 聞いてみれば、本人としてはどうやら南東の獣の足跡が気になるらしい。

「ああ、そちらはきっと大丈夫でしょう」
「おいおい、獣が人を食った可能性があるんだぞ。やけに穏やかだな」
「その獣はたぶん食べてはいませんよ。むしろ、人間を保護して担ぎあげた可能性が高い」

 頭にクエスチョンマークを浮かべるノーヴェに、手短に優しい獣のことを話す。
 その足跡の形状から、十中八九人間をどうにかしたのがトトロであることが予想できたからだ。
 それに納得しているのかしていないのか、ノーヴェは憮然とした顔を崩さない。

「むしろ人がいるって言うなら、南の方はどうなんだ?
 煙が出てるし、耳を澄ませたら戦闘音みたいなのも聞こえたけど」
「ああ、そちらには弾丸を竜巻で吹き飛ばす怪人がいらっしゃいますからね。
 あれだけ騒ぎになっているとかえって近づかない人もいると思いますし、気にしない方がよろしいかと」

 先ほどの恐ろしい男について思い出しながら語る。
 ノーヴェの能力を持ってしても、はたして倒せるか疑問に思えるほどのめちゃくちゃな男だった。
 危うきには近寄らず、というやつだ。

「とりあえずゴルフ場か山小屋のあたりで、人の痕跡がないかを確かめます。
 よろしいですね?」
「ああ。それが終わったら今度はモールの方へ行って人を探す。
 ……次の放送は、聞き逃さないようにしないとな」

 人の痕跡を見つけたことで姉のことがより気がかりになったのか、焦燥感を感じられる表情でノーヴェが呟く。
 それに対し、そうですね、と軽く相槌をうちながら、古泉は絶え間なく考え続けていた。

(……彼女は先ほどのゼクトールという男のせいで裏切りに敏感になっている。
 ここで僕が主催の関係者であることを話すのは得策ではない、時を伺わなくては。
 そして、先ほどの仮説についても……)

 一時は自分の発想のために興奮状態にあった頭脳は、今は落ち着いている。
 何事も先走ってはならない、自分の命がかかっているのだから、石橋を叩く慎重さが必要だ。
 そう思い、もう一度先ほどの仮説に思いをはせてみる。

 長門が何を考えているのか、まだ確証は持てない。
 だが、少なくとも地図の中央に人を近づけたくない何かがあることは確かに思える。
 しかし反意についての確信は持てないし、禁止エリアの矛盾は先ほど考えた突拍子もない説というのもありえなくはない。
 なにせこんな殺しあいに参加させられ、魔法が普通に存在する世界のいわゆる人造人間と交流しているのだ。
 何が起こっても、何があっても不思議ではない。

(少なくとも禁止エリアについては、次の放送でどこが指定されるかまで取っておいてもいいでしょう)

 そう結論づけ、同行者の少女を伺う。
 古泉に合わせているため強化服のスピードを出すことができないからか、不満げな顔をしているようにも見える。
 この少女について、自分の考えを話すべきかもまだ結論は出ない。
 主催者の仲間と言うだけで殺されかねないことも考えると、自分の説に確証が持ててからの方がいいだろうか。

 そして仮に確証が持てたとした場合、どのタイミングで中央部を探索し、何を探すのか。
 のちに落ち合う予定である「彼」への対応と、その際のノーヴェへのフォローをどうするかも考えなくてはならない。

「あ、おい」

 考えに没頭していたせいか、デイパックが傾いたのに気付かなかったようだ。
 どさりと地面に落ちた袋に対し、ノーヴェが疑問の声を上げた。

「なんだそれ?支給品か」
「ええ、僕の最後の支給品です。
 どうやらこれ、ケーブルのようですよ」

 ほら、と袋を開けると、そこには多種多様なケーブルが入っている。
 先ほど見つけて手早く数えたところ、どうやら十本の長短・種類も様々なケーブルが詰まっているらしい。
 LANケーブル、USBケーブル、AV機器用のケーブルといった見慣れたものから、古泉には何に使うのかよくわからないケーブルまで混じっている。

「ケーブル……拘束具がわりに使えるかな」
「おそらくは。それなりの強度もあるようですし、ロープがわりになるでしょうね。
 なんらかのトラップを作ったり、なかなか使い道は多そうですよ」

 にこやかに言いながらケーブルを袋にいれ、デイパックに戻す。
 すると、指先にかちりと硬い感触が触れた。

(そう、そしてこのデジタルカメラについても……)

 仮に長門に主催への反意があるなら、ここに鍵が隠されている可能性はある。
 とはいえ、見ている最中にノーヴェにのぞかれ、長門の姿を見つけて争いになる、なんてことは避けたい。
 一度じっくりとこの中身を見直す機会も必要になるだろう。
 考えなければならないことは、古泉の前に山積みになっている。

(――――やれやれ、困ったものです)

 苦笑をわずかに浮かべて木漏れ日の中を古泉が、その後ろをノーヴェが歩く。

 古泉一樹の考察が未来へ繋がる糸口なのか、それともただの妄想にすぎないのか。

――それはきっと、どこかにいる「神」のみぞ知る。



【E-08・湖のほとり/一日目・昼前】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】脇腹・胸部に痛み(肋骨にヒビ?)、右肩負傷、精神的疲労(小)
【装備】ロビンマスクの仮面@キン肉マン
【持ち物】ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱、ケーブル10本セット@現実、
デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
【思考】
0.団長命令に従い、キョンを止め、参加者を殺し合いから救う。
1.ゴルフ場、山小屋、その二つで何もなければモールを探索して他の参加者を捜し、団員を増やす。
2.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
3.みくる、キョンの妹と合流は一時保留? 朝倉涼子は警戒。
4.午後6時に、採掘所でキョンと合流?
5.長門有希の意思が気になる。デジタルカメラの中身をよく確かめたい。

※ほんの僅かながら、自分の『超能力』が使用できる事に気付きました。
※『超能力』を使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※ノーヴェの知り合いと世界観について、軽く把握しました。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています(文中参照)。
 禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。

※ロビンマスクの仮面による火炎放射には軽度な精神的な疲労を伴いますが、仮面さえ被れば誰にでも使用できます。


【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(小)、魔力消費(中)、ガイバー状態
【持ち物】 なし
【思考】
0.仲間を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.セインと合流したい。ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.とりあえずは古泉と一緒に行動する。

※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
※名簿を見たため、知りあいについて把握しました。
※第一放送の内容(死亡者と禁止エリア)について、古泉から聞いたので把握しました。
※古泉のハルヒを除く知り合いについて、簡単に理解しました。
※参戦時期は原作の第18話~第21話の間と思われます。

【ケーブル10本セット@現実】
 長さも種類もバラバラなケーブルが十本詰まった袋。
 ケーブルの種類はLAN、USB、AV機器用など様々で、絡まないようにひとつひとつきちんと紐で止められている。



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少女奔走中... 古泉一樹 悪魔と戦闘機人と学生と(前編)
ノーヴェ






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