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魔将考 ◆hjKFqNAi/U



――爽やかな風が湖を渡り、湖畔に生え繁った葦をサラサラと鳴らす。
風はそのまま草原を吹き渡り、湖から少し離れた位置、鎧武者の兜から零れた金色の毛の房を揺らす。
小さな看板を前に、その筋骨隆々たる鎧武者――悪魔将軍は、そして小さく鼻を鳴らした。

「E-10に人を寄せたくなかった、のではなく、E-9を通らせたかった、ということか。
 やはり現場を見なければ分からんものだ」

己の仮説が覆され、それでもなお、悪魔将軍の余裕は揺らがない。
放送の直後、廃屋で立てた仮説――「主催者側はE-10に隠したいものがある」。
そう考えればこそ、ここに出向くことにもなったのだ。
E-10で「何一つ見落とすまい」と調べて回ったからこそ、この看板を見つけられたのだ。
地図と照らし合わせて見れば、ここはちょうど2つのエリアの境界線近く。強いて分けるならE-9になる場所。
考察自体は間違っていたとしても、時間をかけて考え、わざわざ足を運んだ甲斐があったというものだ。

廃屋を発った悪魔将軍は、E-10に至るまでに2箇所の寄り道をしていた。
山小屋と、ゴルフ場。どちらも時間をかけて調べることなく、人の気配が無いことだけ確認して走り去っていた。
単に「誰か他の参加者がいれば接触しておこう」、という程度のつもりだった。深い考えあってのことではない。
それらの寄り道のせいもあって、悪魔将軍の脚力でも数時間の時間を要してしまっていた。
この看板を見つけたのも、もう間もなく9時になるだろう、という頃合になってから、である。

だから、湖を一周したノーヴェと出会わなかったのも、偶然。
ノーヴェがこの辺りを通り過ぎた後に、ゆっくり姿を現したのも、偶然。
禁止エリアのE-10を恐れるあまり、ノーヴェが湖に近い所しか通らなかったのも、偶然。
ノーヴェが巡った場所が湖寄りの場所だったために、この看板を見つけられなかったのも、ただの偶然。
ノーヴェだけではない、絶妙のタイミングで行き違い、他の参加者と一切会わずにここまで来れたのも、全て偶然。
そう――悪魔将軍は自らも知らぬ内に、運さえも自らの味方につけていたのだった。

悪魔将軍は、改めて目の前の看板を見つめる。
地図上には別に何の印もなかった地点に立てられていた、この看板。
そこに書かれていたのは……看板のすぐ傍に設置された、大きなスイッチについての説明だった。
あまりに唐突な、しかし、悪魔将軍にとっては――いや、参加者の一部の者たちにとっては馴染みの大道具。

「これを押せば、そこの湖の真ん中に特設リングが浮かび上がる、と……大した仕掛けだ」

湖上のウォーター・デスマッチ用の、特設リング。
湖面に目を凝らしても、湖面に漂う藻が視界を遮り、水面下にあるというリングの影も見えない。
しかし看板に記されている説明に拠ると、スイッチ1つで偽装が解かれ、水を割ってリングが出現するという。
葦原の中に偽装され隠されている、「リングに向かうための小船」も同時に出現するというのだから用意がいい。

超人レスラーにとって、実に望ましい舞台装置。ホームグラウンド、と呼んでいい戦場。
それを目の前にして、しかし悪魔将軍は動かない。慎重に頭を巡らせる。

「有り難くはある。だが、何故こんなものがこうして用意されている……?
 そして、何故今こうして、参加者がこのリングに誘導された……?」

悪魔将軍は考える。
E-10を禁止区域に指定し、閉鎖する。すると街道を通りたかった参加者は、迂回してE-9の湖畔を通るしかない。
そうなれば自然とこの看板は見つかり、リングが発見される。いつになるかは分からないが、いずれ、発見される。
そして発見されれば、いつかきっと使われることもある。少なくとも、漠然と待っているよりよほど確率が上がる。
……主催者の側の思惑としては、まあこんな所だろう。

では何故、主催者は、こんなものを用意したのか。
学校など、「街には普通にあるような建物」とは違うのだ。
誰かが意図して配置しなければ、絶対に存在し得ない。そしてその「誰か」は、間違いなく主催者側の存在。
彼らがそれを配置し、そして今こうしてE-10を禁止エリアに指定してまで誘導する理由。それは……。

「まず第一には、デスマッチによる完全決着の促進、か」

時に金網でリングを覆い、時に遥か上空にリングを押し上げ、時に湖の上にリングを浮かべる。
派手なギミックが目を惹きがちなデスマッチではあるが、その本来の目的は「完全決着」だ。
逃亡も降参も認めない、完全なる決着。それこそがデスマッチの本義であり、大掛かりな舞台装置の目的だ。
そして、超人やそれに匹敵する者たちが「完全決着」を期して戦えば、きっと敗者は無事では済まない。
主催者側はその「デスマッチ本来の目的」を期待して、この湖上のリングを設置した可能性が高い。

悪魔将軍は思いだす。殺し合いの開始直後に出会った、多段変身をしてみせたあの男のことを。
あの時にはわざと見逃し、逃がしてやったが……仮に「逃がすまい」「仕留めよう」としていたら、どうなっていたか。
……それでもやはり、逃げられていたかもしれない。
逃走に移る判断は素早く、迷いがなく、また適切で己の分を弁えており。
男の変身もあの3形態で終わりではなく、他にもっと「逃走に適した形態」を持っていたかもしれないのだ。
リングロープも何もない野試合で、相手がただ逃げ、隠れることに徹したとすれば……
流石の悪魔将軍をもってしても、仕留め切れなかった可能性は否定しきれない。

先の放送では、主催者のあの男が「5人しか死んでいない」ことを嘆いていた。
それはそうだろう。この島はあまりに広く、また隠れる場所にも事欠かない。
横から乱入が入る可能性もある。混沌とした戦いの中では、死者が出ずに痛み分け、という展開も多くなろう。

と、なれば……このタイミングでE-10を禁止区域にし、このE-9に参加者を導いた主催者側の意図も見えてくる。
要するに彼らはこう言いたいのだろう。
「容易には逃げられぬ舞台を用意してやった。だから存分に殺し合え」、と。
湖上に浮かぶ、デスマッチ用リング。泳いで渡るには広すぎる湖。
確かにこれでは、空でも飛べぬ限り、逃げ出せまい。第三者の乱入も、まず起こるまい。
一旦そこで戦いが始まってしまえば、確実な「完全決着」が期待できるはずだ。

「第二には……我々超人レスラーに『持てる力の全てを発揮してみせよ』、とでも言うつもりか」

第二の理由。それはおそらく、超人レスラーにとっての「馴染みの環境」の提供。
悪魔将軍が思い出したのは、二度目に戦った金髪の女との戦闘だった。

あの時――悪魔将軍はその数ある大技の中でも特に自信のある、『地獄の断頭台』を繰り出した。
繰り出しておきながら、女の首を切断することが出来ず、へし折ることも叶わなかった。
女が思ったよりもタフだった、というのはある。奇妙な防御技術を持っていた、ということもある。
だが、最大の理由は、おそらくそれが『野試合だったから』だ。
『地獄の断頭台』は落下技だ。着地の際には技をかける側もダメージを受けかねない、危険な技だ。
それが平坦で、障害物が無く、受身にも慣れたキャンパスの上なら、全神経を技に集中できるが……
岩がそこかしこに転がる山の中では、どうしても着地にも意識を振り分けなければならない。
残念ながら、100%の威力というわけにはいかない。

そしてこれは、ことさら『地獄の断頭台』に限ったことではないだろう。
バスター系やドライバー系の落下系必殺技。ロープの反動を利用したラリアットや打撃技。
ただ彼我の間合いを測るだけのことでも、視野の片隅に映るコーナーポストの位置などが重要な目安になる。
超人たちは、リングの上でこそ100%の実力を発揮できるような鍛錬を重ねているのだ。
悪魔将軍は知らないが、まっくろくろす……いや、ウォーズマンが不覚を重ねているのも、1つにはこれが理由だ。

だが。悪魔将軍はそこで考える。
主催者側は、超人レスラーに対する好意でこんな仕掛けを用意してくれたのだろうか、と。
答えは、おそらく『NO』。超人だけに対する贔屓などでは、決して無い。
先に対戦した2人を見ても分かる通り、この場には超人とは異なる種類の異能者が何人も居るようだ。
レスリングの基礎も身につけておらず、しかし異能を持ち、修羅場もそれなりに潜ってきた様子の者たち。
おそらくこの島には、彼らがその持てる才能を十全に発揮できるための仕掛けも、用意されている。
超人レスラーにとっての特設リングのような仕掛けが、きっとある。
ひょっとしたらそれは、リングのような「戦闘のための舞台」という形は取っていないかもしれない。
情報や持ち物の形で優位を得ているのかもしれない。
今まで以上に注意が必要だろう、と悪魔将軍は気を引き締める。

「そして第三。この歪んだ配置が成された島の、バランスを取る目的もあろう」

悪魔将軍は再び地図に視線を落とす。
この島の地図を一目見れば、少し冴えた者ならそのアンバランスにすぐ気がつくはずだ。
何と言っても、島の北部に施設が集中し過ぎている。明らかに、施設の配置の密度が違っている。
この島が人間が普通に暮らす島、あるいはそれを模したものだとしたら、確かによくある姿ではあるのだが……
島全体を殺し合いの舞台とした今の状況下では、少し配慮に欠けると言わざるを得ない。
こんな地図を与えられては、島北部の市街地に参加者が集中するに決まっているのだ。

だが、そんな島の地図も、こうして『地図に載っていない仕掛け』があると分かれば、意味が一変する。
この湖上リングが唯一無二の例外だとは、思えない。
配られた地図に載っているモノが全てではなく、他にも隠された施設やリングが存在する――
そう念頭に置いて見直せば、興味をそそる地形がいくつも点在していることに気付く。

滝壺。いかにも見栄えの良いデスマッチ用リングが設置できそうだ。少し想像しただけでも、心が躍る。

砂丘。これはスプリングマンがウルフマンを下した『サンドデスマッチ』に最適だろう。
同じく7人の悪魔超人が1人、ミスターカーメンの『ピラミッドパワーデスマッチ』でもいい。

ゴルフ場。パッと見た所は普通のゴルフ場に見えたが、何しろ広い。どこかに何かが隠されていてもおかしくない。

遊園地。大型のアトラクションと組み合わせれば、大仕掛けなギミックを備えたリングが作り出せるはずだ。

島の南西の隅、海に向かって突き出した格好の岬は、切り立った断崖にでもなっているのだろうか。
だとしたら、その突端にリングを置くだけでも面白い試合会場になるだろう。

島の南東では、道が不自然に2つに分かれ、片方は博物館の傍、片方は何も無い海沿いを通っている。
しかしこれは、本当に「何もない」のだろうか。その道沿いに、本当は「何かがある」のではないか。

別荘・コテージ群の南側に広がる砂浜。ゴルフ場東側の砂浜。島の北部の海水浴場。
これらの場所にも、砂丘に準じた仕掛けが仕込めるかもしれない。

地図の上には、ほぼ海のみで占められているエリアも存在する。
しかし、本当に海だけなのか。湖上特設リングがあるのなら、海上リングがあってもいいのではないか。

隠されているのは、あるいはリングに限らないかもしれない。
しかしこう考えて見ると、一見して施設に乏しい島の南半分こそ、真に調べる価値があるように思えてくる。
北の市街地を目指すだけなら、馬鹿にでも出来る。凡庸な者は、まず市街地に集まり、時間を浪費するのだろう。
そして真に洞察力に優れた者だけが、「市街地以外に隠された何か」を発見し、優位を得ることが出来る――。
禁止区域を用いたこの誘導も、あまりに「隠し施設」が発見されないことに主催者が業を煮やした結果かもしれない。

悪魔将軍は、主催者側の意図と仕掛けをそのように読み解いた。

「……下らんな。あの男どもはチェスでも打っているつもりか」

開幕の場において姿を現したあの2人の姿を思い浮かべ、悪魔将軍は軽く溜息をつく。
地形と施設を配置し、禁止エリアで誘導をかけ、コマのように人を動かす。
奴らの狙いは露骨で、分かりやすく、実に下らぬものだが……だからといって、無闇に反発するのも大人げない。
ここはせいぜい、奴らの狙いに乗り、奴らの仕掛けを十分に活用させて貰うことにしよう。
取り留めのない考察から、悪魔将軍は頭を切り替える。

差し当たっての問題は、この眼前の『湖上特設リング』をどうするのか。
今すぐ起動させてもいいのだが、悪魔将軍は少し考えて思い留まった。
一旦戦いが始まれば邪魔の入りにくい湖上リングだが、しかし1つ、重大な欠点がある。
それは、対戦相手をリングに乗せるのが難しいこと。
逃げるのが困難ということは、その逆も真実だ。まさか湖岸から投げ飛ばしてみても届くものでもあるまい。
このリングは、双方がリングでの決戦を同意した上でもなければ使いようがないのだ。

「『アレクサンドリア・ミートのボディパーツ』のような『人質』でも取れば、また違うのだろうが……な」

ただ逆に言えば、人質返還などの「条件をつけた戦い」に持ち込んだ後なら、便利な舞台装置となる。
相手もまた「完全決着」を望むように誘導できれば、リングでの戦いに持ち込むことができる。
悪魔将軍は、だからこの湖上リングの存在を頭の片隅に留めおき、今は起動させないという選択を選ぶ。
例えばキン肉マンのような油断ならない相手と戦わねばならなくなった時にでも、使えるかもしれない。

「あるいは、小船だけでも利用価値があったやも知れぬが……これはもう使えんか」

この場に隠されているのはリングだけではない。リングイン用の小船も、湖畔に隠されている。
その小船を使えば、あるいは川を下り海に出て、島の外側を回るようなことも出来たのかもしれないが……
生憎、その川は間もなく禁止エリアになるE-10を通っている。下手に踏み込めば、即、オレンジ色の水溜りだ。
あるいは、E-10を禁止エリアに指定した理由の1つは、こういった小船の悪用・転用を怖れてのことかもしれない。

「となれば……今は『他のリング』を探すのが先、か」

地図を仕舞い込むと、悪魔将軍は歩き始める。
とりあえずは南に向かって、歩きだす。
島の北側の市街地に向かう気は、既に失せた。すぐ近くにあるモールは、どうしようか。
知識は力だ。地の利を押さえることが出来れば、戦いが有利になる。
こうして気付いてしまった以上、先んじてそれらの「隠し施設」を発見できれば、より有利に事を進められる。
もちろん、悪魔将軍ほどの実力があれば、野試合であろうと誰にも負ける気はしない。
だが参加者を皆殺しにした後には、主催者との連戦が待っているのだ。消耗は少ないに越したことはない。


穏やかな風が、湖の上を吹き抜ける。
隠されたリングの上を駆け抜け、小船を隠す葦原をサラサラと鳴らし。
そのまま、悪魔将軍の兜から零れた金色の毛の房を揺らして駆け去っていく。
時刻はちょうど9時を越えた辺り。
キング・オブ・デビルは穏やかな日差しの中、さらなる地獄を求めて湖に背を向けた。


【F-9 湖畔/一日目・昼前】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(5/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
     ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、黄金のマスク型プロジェクター@キン肉マン、ディパック(支給品一式)
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.殺し合いを主催者達も混ぜ、更に発展させる。
2.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)。



[備考]:
 『湖上デスマッチ特設リング』の詳細は、以下の通り。

  • 島の東側にある大きな湖には、湖上に浮かぶ特設リングが隠されている。
  • E-9の東側、E-10との境界近くに、特設リングの存在を説明する看板と起動スイッチが置かれている。
  • 湖の中央付近、E-9とE-8の境界近くの水面下に、超人プロレス用のリングが隠されている。
 水中に没している間は、上を藻などに覆われ、遠目には分かりづらい。
 また、湖の湖岸の何箇所かに、リングに渡るための小船が隠されているという。
  • 起動スイッチを押すと、擬装用の藻などが払われ、リングが水中から水面上にせり上がって出現する。
 同時に、湖岸の葦原などに隠されていた小船が偽装を解かれて出現し、湖上のリングに向かうための足となる。
  • それ以上のことについては、E-9にある看板には記されていない(小船の詳しい位置も明記されていない)。
 もしかしたら、何か他にもデスマッチを盛り上げるギミックが存在する可能性がある。

 なお、現時点ではまだ起動はしていない。


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悪魔は再び 悪魔将軍 悪魔と戦闘機人と学生と(前編)




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