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悪魔と戦闘機人と学生と(前編) ◆5xPP7aGpCE



静まり返った湖を見下ろす高台を歩く長身の影が在る。
いや、影と言っては不適当だろう。
徐々に高度を上げる日の光を受けて輝くその姿は影ではなく光と呼ぶのが相応しい。

銀白色に輝くその身体は肉にあらず―――

かって天上を治めた程の超人がサタンと手を結び、生れ出た存在が今湖畔をただ一人行く男の正体。
その名はキング・オブ・デビル、悪魔将軍。



悪魔将軍が対岸の影に気付いたのは湖から離れようとした途中だった。
見通しの良い後方から狙撃の可能性を考え何度目かの後方確認の際遥か水面の先に何かが動いている事に気が付いた。
エリア1つ分もの遠距離の向こう、芦原が不自然に揺れゴマ粒の様な影が時々その間に見え隠れしている。
さすがに悪魔将軍といえどもこの距離では相手の判別は不可能、しかし望遠鏡代わりとして使える品が手元には在った。

先程葬った女に支給されていたワルサーWA2000には狙撃銃の為にスコープが付いている。
周囲を警戒しつつも悪魔将軍は銃を構えてスコープ越しに影の正体の確認を試みた。
いい品だ、視界も明るく輪郭もシャープ。十字のレクチルはその動く影を中心部へと捉える。
対象が悪魔超人や正義超人の類では無いにも関わらず、悪魔将軍はそれが『ガイバー』と呼ばれる存在である事にすぐ気付いた。

「ふむ、あれがガイバーとやらか」

目を放し、ティバックから取り出した『ユニット・リムーバー』の説明書に書かれた「支給品を使うべき相手」全身図の一例と見事特徴が一致する事を改めて確認する。
最初に出会ったあの男とティバックを取り違えた事は自分らしくない失敗だったと思う。
しかしその結果、巡って来た品と縁有る相手が現れるとは何が起こるか判らないものだ。
ここで考えるべき事は一つ。

果たして接触すべきか否か?

『ガイバー』とやらそのものはもちろん参加者ではなく、支給された強化スーツであり中身は名簿に載っている何者かだ。
思えば開始以来自分が遭遇した他人はたった二人、しかも情報は殆ど得ていない。
接触するメリットはそれなりにあるだろう、だが今自分の目的は島の南で隠されたリングや施設を探す事。

思考は一瞬、悪魔将軍の決断は迅速だった。

―――わざわざエリア一つ分の距離を引き返すまでも無い。

悪魔将軍自身には積極的に探さねばならない相手は存在しない。
奴が正義超人だとしたら別だが、そうと限らない相手にわざわざこちらから出向くには対岸までの距離は遠すぎる。
話は南で出会う相手に聞けば良い、そう結論付けて再び踵を返そうと―――する事は出来なかった。

―――なんだと!?

もう一度確かめようとして見たスコープの端を一瞬過ぎったあのマスク。
決して見間違える事などありえない。

「ロビンマスク!しかし奴は参加者に含まれていないはずだが!?」

それはまぎれもなく正義超人でも屈指の実力者の物だった。
悪魔超人の自分にとっては必ず倒すべき存在。
高ぶる感情と共にスコープを動かしてマスクの過ぎった辺りを注視する。
しかし数秒待ってもその姿は現れない、先行するガイバー共々湖畔の厚い雑木に隠れてしまい姿を見せる気配が無い。
そして再び姿を現すと思われる開けた場所はまだ遠い。

―――これは、確かめざるを得ないな

浮かんだ可能性はロビンマスクが殺し合いを止める為会場に潜入した、或いは最初から偽名で参加している等。
本物だとすれば決して見逃しはしない。
無論見間違いや偽者の可能性もある、しかし名簿に載って無いから居ないはずと最初から決め付けるのは愚か者のする事だ。
いずれにせよイレギュラーな出来事に変わりない。

南への探索は一時中止。
悪魔将軍は銃を収めて躊躇なく湖へと駆け下りる。
地図で言えば悪魔将軍の現在位地はF-09、そしてカイバーと『ロビンマスク』が見えたのはD-08。
湖を西回りに後ろから追撃するか、東回りに先回りするか。


そして悪魔将軍が選んだのは―――





一方、ゴルフ場か山小屋を当面の目標として進む古泉とノーヴェの二人組みである。

「大丈夫か、古泉?」
「ええ、あなたが先程見回ってくれました時の踏み跡のおかけで大分歩き易いです」

回復したと言い張るものの怪我人である古泉のペースがさほど上がらない事にノーヴェは気を揉んでいた。
歩き始めた時は先導してもらっていたはずが途中で位置が入れ替わり古泉を待つ為こうして時々立ち止まって待たねばならない。
戦闘機人であり、その上に強殖装甲を身に着けた自分とはどうしてもペースが異なるのは仕方ない。
そうわかってはいるのだが未だ湖からも離れていないというのは足止めされているようで気分がよろしくなかった。

(セインの奴、今頃どうしているかな)

警戒しつつ自分と同じく理不尽に呼び寄せられた姉の事を考えると気がはやる。
一刻も早く合流したいが焦っても仕方が無いと自分に言い聞かせて周囲への警戒を巡らした。

前方、ノーヴェから見て現在位置は遠くに海を見下ろす形になり視界は比較的開けている―――異常無し。
左側面、広葉樹の並ぶ森林で視界は悪いがクマザサが生い茂り接近者が居れば音で気付くだろう―――異常無し。
右側面、数歩移動すれば広がる湖面で視界は非常に開けている、接近者が居ればたちどころに気付く―――異常無し。
後方、古泉がすぐそこに来ている、こちらも誰かが来れば音で気付く―――異常無し。
頭上、樹木の枝葉で視界があまり利かない、飛行能力を持つゼクトールの様な参加者が飛んでいないとも限らない、警戒。

「すいませんノーヴェさん、体力は回復したと思ったのですが…」

警戒を怠らないノーヴェに古泉は申し訳なさそうに声を掛ける。

「じゃあ行くぞ」

上空にも異常なし、そう判断したノーヴェも歩みを再開しようとしたその時だった。

安全と判断した直後の事となれば反応が遅れるのも当然、いや警戒中だったとしても結果は変わらなかったかもしれない。
何せその”攻撃”はノーヴェの思いもよらない方向からもたらされたのだから。

声を出す暇も無かった、ノーヴェが次の瞬間見ていたのは白、白、白一色の光景。
彼女を包み込んでいたのは降臨者の遺産から放たれた光、ガイバーの制御装置を初期化するもの。
当然受けている本人はそのような情報を知りもしない。
太陽の光球に放り投げられた如く光がノーヴェの全てを塗りつぶしてゆく。
感覚の麻痺、思考のオーバーフロー、肌に感じる喪失感。

そしてノーヴェはそのまま意識を手放した―――



やや後方に居た古泉もあまりに突然の事で立ちすくむ事しかできなかった。
完全に視界を失わなかったのはその光が非常に指向性が強く、直撃を受けたノーヴェとは光量からして違ったこと。
偶然にもマスクが光線の一部を遮り、さらに古泉の目に入る光量を弱めてくれた事が原因である。

そのおぼろげな視力で目にした光景、それは強殖装甲が外れゆっくりと倒れていくノーヴェ。
声が出ない。
脳のどこかで光線が何処から来たのか盛んにアラートを発している―――答えは『湖の中から』だ。
ようやく筋肉が動こうとしている。
アラートを理解した肉体が地面に伏せようと動き出した途端、湖面が爆ぜた。

それ、はまるで鎧だった。
それ、の右手は奇妙な形のものが取り付けられていた。
シャチが海面を飛び出した光景に似てますね、とそんな事を古泉は思った。
奇妙な事に水しぶきも伏せようとしている最中の自分もやけにスローモーションに見えた。

それ、の身体は光を浴びて輝いていた。
周りにはキラキラと数百の水滴が輝き、それ、の姿をさらに優雅にしている様に思えた。
それでいて信じられないほど軽やかに着地、その位置は古泉の目と鼻の先。


―――キング・オブ・デビル降臨





「ふん、やはり偽者か」

目の前に座り込んでいるのはロビンマスクとは似ても似付かぬ貧相な小僧。
マスクだけは本物の様だが超人の端くれとも感じられぬ。

本当に弱者が否か。

試して、何の役立たぬ弱者ならどうしてくれよう。





迫るそれ、に対して古泉は何をする事も許されなかった。
考える間も無く古泉の視覚と聴覚を伝わったのは一閃の光、そして甲高い金属音。
何故か頭が軽くて肌に涼しさが感じられる、しかし痛みは特に無い

「こんな蹴りにも反応できんのか?」

そして掛けられる声。
古泉はようやく目の前の存在が目にも留まらぬ超速の蹴りでマスクだけを遥か頭上に吹き飛ばした事を知った。

思う間も無く突然の痛みと浮遊感、さらに視界の大回転、遅れて何かに叩き付けられる衝撃がやって来た。
冷たさと猛烈な息苦しさ、あまりに急激な事態の変化に頭が付いていかず古泉はパニック状態に陥った。

無我夢中で手足を動かすが水を吸った衣服が鉛の様に重い。
平衡感覚が混乱しているのか水面がどこかもわからない。
このままでは、死ぬ。

助かりたい、という感情で頭が埋め尽くされる中自然と右手に力を集中していた。


悪魔将軍にとってこれは戦いでも何でもない。
わざわざ対岸に呼び寄せられた事に怒りを感じている訳でも無い。
これはただの前準備。
彼我の実力差を骨の髄にまで染み込ませるのがその目的。
だからこそただ腕を掴んで湖へと放り投げただけ。
古泉がそのまま死ねば相対する価値もない弱者と思うだけに過ぎない。
湖面にはブクブクと泡が立つが古泉が浮上する気配は無かった。

悪魔将軍は特に気にする様子も無くノーヴェとの繋がりを消去されただの支給品に戻ったユニットをその手に取る。
ユリットリムーバー共々ティバックへと収めた途端、再び湖面が爆ぜた。

「ほう、ただの小僧という訳ではないようだな」

爆発で自らを吹き飛ばすとは。
目に付く様な支給品は身に着けていなかった筈、とすればこの爆発は小僧の能力と考えるのが自然。
そして女はまだ気絶している様だな。



「あがぁっ!!ゴホッ!!ゴホッッ!!」

光弾を出すのが精一杯の対応だった。
更なる精神力の消耗に加え爆発の衝撃、受身を取る暇も無かったが落下地点の茂みがクッションになってくれたのが古泉にとってせめてもの救いだった。
それでも激しく身体を打ちつけた事には変わりなく水を吐き出しながら激しくむせる。

「ぐっ…」

痛みを堪えて呼吸を整えつつ古泉はなんとか身体を起こす。
何故か目の前の相手は攻撃をして来なかった。
恐怖に押し潰されそうになりながらもその意味を必死に考える。
古泉の出した答えは―――

「ゴホッ!ッ!…わ、わかりました、僕の知っている事をお話いたします」

古泉は苦しみながらも悪魔将軍の言葉無きメッセージに返答する。
すると表情を作れない筈のその顔に肯定の意思が何故か見えた。

「貴方は僕を簡単に殺せるにも関わらず苦しめただけで生かしている、考えられるのは人質目的か聞きたい事があるかのどちらかです…ゲホッ!」

むせながら古泉が現状分析を語る。
余裕が在る訳では無い、口だけでも動かし続けなければとても意思を保てなかったからだ。
先程の暴力は古泉の力量把握、そしていつでも殺せるという警告。
圧倒的優位な立場を理解させた上で尋問を効果的に進める為の唯の作業。
嘘を言えば殺す―――悪魔はそう古泉の魂に刷り込んだのである。


数秒してようやく古泉の呼吸が整ってきた途端、ボスッと二人の間に落下するものがあった。
奇妙に歪んだそれは先程まで古泉が被っていたマスク。
騎士の兜から現代芸術品になり損ねたような面相に成り果てているそれはどれ程の間空中に在ったのか。
もし直接顎を蹴られていたらと思うと古泉の背中に寒気が走った。

「そのマスクを何処で手に入れた?答えろ」

マスクそのものまでを憎むような声。
古泉はマスクの本来の持ち主と眼前の男との間に何らかの因縁があるのだろうとすぐに察した。

「貴方がこのマスクの持ち主と穏やかでない関係にあるのは想像できますが、あいにく僕は無関係です」

自分がこんな目に遭った原因がそれにあると気付いて古泉は困惑する。
隠す事は一つも無い、正直にトトロという参加者の支給品であった事を詳しく述べる。
本来の持ち主、ロビンマスクと自分との間には何の関係も無いことも念の為強調した。
どうやら相手も納得したらしくマスクに関してそれ以上の追及は無かった。


悪魔将軍は考える。

あのロビンマスクが簡単に鎧とマスクを脱がされるかという疑問点は有るが自分ですら連れ去られた事を思えばおかしいとは言えない。
トトロとやらが正義超人かその仲間か不明だがロビンマスク本人はこの島に居ないと今は思って良いだろう。
後は他人の情報、特にキン肉マンどもを見なかったのか聞き出せば用済みか。

そして古泉一樹も考える。

聞かれた問い全てに答えれば自分達は助かるのか?
いや、どう楽天的に考えても目の前の人物からは友好的な態度を感じられない。
マスクが招いた災いとはいえ、この人物とロビンマスクとの関係だけで即攻撃に繋がらない。
とすれば元々乗っているからこそ後の誤解を恐れる必要が無い。
結論、情報を聞き終えれば自分達が殺される可能性はかなり高い。

―――時間を稼いでノーヴェが目を覚ますのを待つ?

頭の中で浮かんだ案を古泉は直ちに否定する。
二人掛りで立ち向かった所で勝てるかも怪しい。
ましてやノーヴェはあの光のせいかガイバーが消えてしまっていた。
格闘や喧嘩の素人である古泉にも悪魔将軍の実力は自分と隔絶している事を本能が知らせている。
わざと話を長引かせても時間稼ぎをしていると判断されればかえって身の危険が高まるだろう。
それに相手は倒れ伏すノーヴェにも十分警戒してるはず。
結論、戦闘は無意味。

「…一つ聞かせて下さい、僕から話を聞き終えたら貴方はどうなさるつもりですか?」

答えを予想しつつも古泉は自分達の処遇を尋ねる。
その”答え”以外の部分によって蜘蛛の糸を掴める事を祈りつつ。

「弱者などに生きる価値は無い。お前が何の価値も見出せぬ存在ならそのまま殺すだけよ!」

―――ならばまだ可能性はありすね

下された悪魔の死刑宣告を聞いて古泉の中に僅かな希望が生まれた。
それが表情に出たのだろう、悪魔将軍は無言で古泉を見定める。
古泉は痛む身体を起こし、背中を樹木に預けながらも立ち上がって悪魔将軍と正対した。
ノーヴェは未だ地に伏せたままだ。
気力を振り絞って飄々とした『古泉一樹』の表情で口を動かす。

「厳しいですね、確かに僕には大した力はありません。加えてご覧の有様です、しかし」

濡れ鼠で無力な自分をアピールして古泉は一旦言葉を区切った。
気力を溜め、出せるだけの声で宣告への異議を宣言する。

「僕を、いえ僕とノーヴェさんを生かしておく方が貴方にとっても得になると断言します!その訳は…」

この相手には"彼"にしたような口から出任せは通用しない。
あれが旨くいったのは彼に精神的な揺らぎがあったからこそだ。
トランプに例えれば使えるカードは多くない、その中から隠し秘めていたジョーカーに当たる切り札をここで使う。
相手が殺戮のみを考える優勝狙いで聞く耳を持たなければお仕舞いだが参加者の殆どが関心を持つだろう情報が古泉にはある。

「僕は貴方をこの島に連れ去った殺し合いの主催者を知っています!それを知る事は貴方にとっても損は無いはずです!」
「ほう…」

その内容には悪魔将軍も興味を惹かれた。
悪魔である自分を弱体化し、首輪を通じて命まで握っている相手となれば当然だろう。

「嘘ではありません、証拠をお見せします」

そう言って古泉は自らのティバックを引き寄せる。
無用の警戒をされぬよう、片手でゆっくりとデジカメを掲げ逆襲の意図が無い事をアピールしながら証拠となる画像を悪魔将軍に呈示した。
カメラ背面の大画面液晶に映し出される『SOS団特別合宿』で撮影された集合写真、そこには古泉本人と殺し合い開始を宣言した表情に乏しいあの少女が確かに写っていた。

「彼女の名前は長門有希、表向きは僕と同じ県立北高校の生徒ですが情報統合思念体によって造られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースです」

そう、この少女は少年の大切な仲間であり友人。
既に退場した団長や道を踏み外しかけている"彼"に比べれば繋がりは薄いが彼女の知識はそれなりに持っている。
そして古泉はさらなる詳細を語る、涼宮ハルヒの事から始まり長門と情報統合思念体の事、SOS団の事を痛む肉体に鞭打って説明する。

悪魔将軍はその間荒唐無稽とも戯言と切り捨てもせずに聞いている。
声を発したのは古泉が全てを語り終えてからだった。

「ふむ小娘、貴様も知らなかったと見えるな」

両者から離れた位置で気絶していた筈の人物がピクリと身体を振るわせた。
古泉は慌ててそちらに眼を向ける。

「起きてらっしゃったんですか!」
「…気付いていたのかよ、油断した所をぶっ飛ばしてやろうと思っていたのに。通りで全く隙がねぇはずだ」

悪魔将軍は遥か前に気付いていたのだろう、姿勢を崩す事すらしない。
最初からノーヴェへの対処を前提とした位置取りと体勢を取っていたようだ。
むしろ驚いたのは仲間である古泉本人の方だった。

「お前の気持ちも判るからあれこれ言わない、怒ってはいるけどな!」

身体を起こして悪魔将軍、続いて古泉の方を睨んだノーヴェに対し古泉はばつが悪そうな顔をした。

―――もっと良い形で明かしたかったんですけどね。

しかし考えようによってはこれで良かったのかもしれない、ノーヴェも迂闊に動けない状況で話を全て終わらせれば
主催者の手先と誤解されてろくに言い訳も出来ないうちに襲われる可能性は低くなる。

「隠していた事は謝ります、しかし機会を見てお話しするつもりでした」

ノーヴェに軽く謝罪して古泉は悪魔将軍との話を再開する。

「僕達は必ず長門さんの意図を探り皆でこの島から脱出するつもりです、貴方も主催者に対して思う所があれば僕がこれから知りえた情報を提供すると約束しましょう!」

差はあれど無理矢理殺し合いに放り込んだ主催者に対し怒りを感じていない者は居ないはず、古泉はその点に賭けた。
涼宮ハルヒの願いを適える為何としてもここで終わる訳にはいかないのだ。

「では、その長門という小娘を殺しても構わないという訳か?」

悪魔将軍はそれが先程「自分の友人」と言っていた相手を差し出す行為だと冷静に指摘した。

「う…、さすがにそれはお二人の間で解決して欲しいとしか言えません」

長門自身はあくまで情報統合思念体の意思に沿って無理にやらされているだけと古泉は考えている。
しかし他の参加者がそれで納得するか言われればまず納得しないだろう。

(長門さん自身が撒いた種ですし、ここで断る訳にもいきませんからね)

纏まりそうな話を御破算にする事はさすがに古泉には出来なかった。

(まあ、長門さんなら死んだとしてもすぐ生き返ってくれるでしょう)

朝倉さんという実例があるのでその点は安心していい、そう結論付ける。


再び悪魔将軍は考える。

自分としても元より主催者の犬になるつもりは無い。
乗っているのは悪魔超人として殺し合いそのものが面白い、と興味を覚えたからであり願いを適えて貰おうとは毛ほども思ってない。
優勝を目指す方針に変わりは無いが、確かに主催者といずれ決着を付けるのであれば情報が有るに越した事は無い。
保険として考えるのもいいだろう。

確かにこの小僧は主催者との関係を証明した。
写真については未知の能力か支給品によって捏造した可能性もあるが自分は嘘を嘘とも思わぬ悪魔超人を束ねていた身。
少なくとも嘘を言っておらず小僧にとって話の内容は事実と思って良い。
"長門有希"、未知の邪神の器という可能性もあるが今は結論を出すのは早過ぎる。
そして、まだこの二人を生かしておくと決めた訳で無い。

「小僧、そして小娘!」

すると今まで蚊帳の外だったノーヴェが声を荒げる。

「あたしは小娘という名前じゃない!、ノーヴェだ!」
「名乗ってませんでしたが僕には古泉一樹という名前があります―――、そういえば貴方のお名前もまだ伺ってませんでしたね」

助かるかもしれない、との展望が生まれてきたのか二人は若干の余裕を取り戻していた。

「悪魔将軍だ、古泉とやらお前はまだ証明が不足している」

主催者の知人という事、そして主催者の情報を提供しただけでは見逃すに値しない、との宣告に二人は緊張を高める。
だが悪魔将軍は動かない、その為二人も息を飲んで先を待つ。

「貴様の言葉は信じてやろう。だが実力を伴わぬ言葉は只の戯言、お前達がそれを果たせる能力を持つ事を証明できんことには納得するつもりはないぞ?」
「まぁ、当然ですね」

戦闘ならあたしがサポートする、と言いかけるノーヴェを古泉は制した。
その言葉も予測していたらしく古泉は落ち着いてティバックから折りたたまれた紙を取り出す。

「わかりました、では島の地図を見てください。何か気が付きませんか?」

主催者の関係というジョーカーを使い、残された手札は数少ない。
古泉の次なるカードは直前まで繰り返した考察、それを二人に披露する。

「北部に人が集まり易い、という事か?誰でも気付く事だ」
「ええその通りです、では何故こんな偏った配置をするのでしょうか?このままでは時間と共に人が市街地に集まる、
 逆に言えばそれ以外の場所から人が居なくなるという事でもあります。
 あからさまな配置は市街地への誘導か他の場所から人を遠ざける為、どちらも可能性としては考えられませんか?」

ちらり、と古泉は悪魔将軍の反応を伺う。
しかし悪魔将軍の表情はとても読み辛い為何を思っているのか顔を見ただけでは判らなかった。

「では禁止エリアの配置はどう説明する?市街地に誘導したいのなら街道を封鎖する理由の説明をしてもらおう」

古泉にはこの質問が来る事は当然予想している、淀みなく予め用意した答えを述べた。

「そうです、どちらの可能性としても街道の封鎖は人の偏りという意図と矛盾します。しかしその矛盾にも意味があるとしたら?」

ここで言葉を区切る。
悪魔将軍は続きを言え、と無言で促した。
ノーヴェも黙って聞いている。

「…僕も最初から何故こんな配置にしたのか全く判りませんでした、しかし地図の他の部分に解決のヒントがあったんです」

地面に地図を広げて説明する古泉の声が自然と小声になる。
悪魔将軍は立ったままだがノーヴェは聞き逃すまいと古泉に近づいてしまう。

「神社、廃屋、山小屋…街道が封鎖される事で参加者が立ち寄る可能性が高まる施設です、
『主催者』の意図は判りませんが中心部に立ち寄って欲しいという意図が禁止エリア配置に隠されていないでしょうか?」

さすがに確実とは言えない現在で長門の名前は出し辛かった、それでも無意識の内に「主催者」という単語のニュアンスが変わったが二人が気付いたか判らない。

「僕自身は島の中央部かこれらの施設に『主催者』が見て欲しい何かがあると予想しているのですが、禁止エリアが発動する程時間が経過してから意味を発揮するような何かが」

力説しつつ古泉は地図の中心部をぐるりと指で一巡りさせる。

「…そこに行けば長門が何かしてくれるってか?」

いきなり確信を突かれて古泉は絶句した。
ノーヴェが判り易過ぎるんだよ、言いたげに冷ややかな目線を向けている。
古泉は無言で首を縦に振り、肯定の返事をするしかなかった。

「ま、気持ちは判る。いい仲間だった事はさっきの話で十分判った、けどお前はその事に囚われ過ぎてないか?」

そんな事は無い、と古泉は思ったが反論するより早く今度は悪魔将軍がそれを遮る。

「最初に戻って考える事にしよう。古泉、お前は市街地に人を集めたいかもしれないと言ったがならば何故最初から集めないのだ?何故散らして配置した?」

質問ではなく尋問するような口調だった。
ノーヴェも迫力に押されたのか押し黙る。

最もな指摘だ、人を集めたいのなら最初からそれを行えばよい。
ゲームとして成り立たせる為、すぐに決着が付いては困る事情があるとも考えられるがそれでも人を集める理由が判らない。
古泉も未だにそれに対する明確な答えを出せないでいた。

「それは僕にも判りませんが…北に人が集まり易い配置については時間経過とともに人が北に密集することに意味がある、
 何かの仕掛けが発動するか南に遠ざけたい何かがあると考えています」

それが街全体を巻き込む爆弾だという可能性については突飛かと思ったが黙っているよりはと一応口に出してみた。

「はぁ!?そんな事して何の意味があるんだ?殺し合いしろって言いながら人が集まるように仕向けて纏めて吹っ飛ばして何が楽しいんだよ?」
「あくまで仮説ですよ、実際は全く別の仕掛けしもしれませんし僕も全て当たっているとは思ってません」

ノーヴェが呆れる。
古泉としても爆弾説は確証の無い考えだ、呆れられたとしても仕方ない。

「では次だ、お前の本命は島の中央部なのだろう?そこに至った経緯は何だ?」

一方の悪魔将軍は爆弾説に反応する事なく第二の仮説、「施設の密集は島の中央や南方から遠ざける」について説明を求めた。
あるかもしれない『施設』については実は悪魔将軍自身思う所があったのだが今は言うつもりは無いらしい。

「理由はこの島の施設の不自然さです。地図に表記されているのは倉庫群、小学校、図書館、警察署、ホテル、海の家、デパート」

一つ一つ地図の施設を読み上げる、こうしてみると改めて表記された施設の雑多さを古泉は実感する。

「…温泉、博物館、レストラン。以上です、この中にはあるべき筈の施設が存在しない」
「島となれば当然在る筈の港湾や灯台か?ガソリンスタンドか?発電所か?郵便局か?銀行か?挙げていけば抜けている施設は幾らでもある」

地図の不備を指摘する古泉に対し悪魔将軍が反論する。

「それもありますが…僕が言いたいのは殺し合いとなれば注目度の高い施設、病院か診療所です。命に直結するこの島では当然在って然るべきですから。
 怪我をした参加者は診療所があればそれが島の反対側に在ろうとそこを目指すのが心理というもの、だからこそ違和感があるのです」

トントンと地図を指先で叩きつつ古泉が自信のある表情を浮かべる。

「考えられるのは主催者が地図に載せる必要を感じなかったか或いは最初から存在しないか。ここから僕が導き出した答えは二つです、
 街に人が集まる事と関連しますが診療所は街以外の場所に在る為参加者がそちらに向かわない様わざと省いた、つまりより市街地に人が集まり易くする狙い。
 そして診療所が存在しない場合、この島は人が住む場所として不自然過ぎる。つまり殺し合いの為にわざわざ作られた島である、この地図はそれを示しています」

一気に仮説を説明する。
しかしノーヴェはどこか納得のいかない表情をしていた。

「それが島の中央部とどう繋がるんだよ、お前が今言った事によれば街に人を集めたいだけで島を作った様に聞こえるんだけど」
「焦らないで下さい、地図にはまだ注目する場所があります。次は中心部に注目して下さい」

そう言って古泉の指は地図上の一点を指し示す。

「『廃屋』、明らかに普通の地図では記載する必要が無いものです。何故『主催者』はそんなものをわざわざ用意したと思いますか?
 そして近くに在る施設は神社と山小屋…どちらもあまり重要とは思えない施設。周りの施設の重要さから比べれば普通に考えて中心部を目指す必要はありません。
 …逆に考えれば何かを隠すとすれば中心部が一番可能性が高いともいえます」

隠す必要のあるもの、それは主催者にとって都合の悪いものである事は口に出さずとも三人が理解を同じくする。
それでもノーヴェはまだ納得できない部分があった。

「待て、来られちゃ都合が悪いってなら禁止エリアで道路を塞ぐ理由が無いんじゃないか?」
「お前は何を言っている。その答えはお前自身が口に出している筈だ」

疑問に対し即座に悪魔将軍の突っ込みが入る。
あ、そうかとノーヴェは得心した。

「それでお前達は中心部を目指していたという訳か?」
「いえ、所詮は仮説ですからね。仲間を探すのが先決とゴルフ場か山小屋に行ってみるつもりでした、生きていればですが」

緊張しながら古泉は上目遣いで悪魔将軍を見上げた。
地図を見ていたノーヴェも今の状況を思い出し慌てて身構える。


悪魔は試練を課した。
少年は悪魔の試練に立ち向かった。
そして悪魔は再び判決を少年へと下す。


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