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新たなる戦いの予感 ◆2XEqsKa.CM





「ク……ククク……遂に見つけたぞ……! 」

哄笑を上げる男が一人。
男は立ち並ぶロッカーの前で、一着のスーツを掲げている。
そこは『kskホテル』の一室。
燦然と騰がった陽の光も届かないその薄暗い部屋で、男は求心する物を得た。
男は全裸だった。
サングラスをかけていることを着衣とみなすのであれば、九割九分九厘裸だった。

「ホテルマンの正装……この高そうなスーツを着ていれば、他者との接触における第一印象は全裸とは比べ物にならん」

ロッカーを閉じ、いそいそとスーツを着込む。
お誂え向きなことに、下着や靴もそのロッカーにはストックされていた。
見る限り、ここは職員の更衣室……ロッカーが多数あることを考えれば、このスーツと同じ物がまだ沢山あると見える。
男は部屋の壁に掛けられた時計に目をやった。
11:20。
スーツを探すのにかなり手間取ったせいか、次の放送までそう時間がなくなっていた。
ネクタイを締めながら、男が舌打ちする。

「気のせいか……クロノスから支給されたスーツと同じ着心地だな……スーツなどどれも同じなのかも知れんが」

すべての衣類を着終えて、男――アプトムは、更衣室を後にした。




『ズーマ。このホテルを全て捜索するのは、時間がかかりすぎると思うが』

「喋るな」

ズーマは私の進言を切り捨て、10階へ向かう階段を昇り始めた。
このホテルに到達し、複数の人間が存在していた痕跡を発見してから、ずっとこの調子で黙々と探索を続けている。
恐らく20程の階数があるこのホテルを、隈なく探しつくすつもりなのだろうか。
几帳面だとか周到だというにはあまりにも病的な男だ。
融通の利かなさでは私も人の事は言えないと思うが、それにしても面倒ではある。

『エレベーターを使えばもっと早く移動できるのではないか? 』

「窓から捨てるぞ」

10階の踊り場に着き、ズーマはドアを開いて10階の探索に移行する。
この階には客室や廊下がなく、広いホール状の構成になっていた。
大液晶のテレビやソファ、美術的な置物、パーティ会場にあるようなテーブルが点在する、見通しの悪い部屋だった。
床に敷かれている絨毯はなかなか高級そうだ。
ディパックから目を覗かせて部屋の内部を見回していると、ズーマが突然足を止めた。




「この美術品……」

『どうした? 』

「俺の家にあったものと同じだ。なかなか趣味のいい宿場だな」

『……お前は暗殺者ではないのか? 家など持っているのか』

「貴様に話す義理はない。黙っていろ」


ズーマは私をディパックの奥に押し込むと、黙々と部屋の探索を始めた。
外の様子は見えなくなったが、絶え間なく聞こえる破砕音と刺突音からして、かなり乱暴に探索をしているようだ。
十数分ほどして、探索が終了したらしく、外の音が止む。
ディパックがズーマの体から外され、テーブルに置かれる感覚。
ズーマはテキパキとディパックの中身を取り出し、この階で手に入れたと見える物品を選別して収納しはじめた。
食事用のナイフやテレビを破壊して得たらしい液晶の破片をビニール袋に入れてディパックに仕舞いこんでいる。
テーブルの上に放り置かれた私は、ただじっとそれを見つめることしか出来ない。
大方仕舞い終えると、ズーマは部屋の壁に目をやる。


「あと30分ほどで二回目の放送が始まる」


小声で呟き、テーブルに腰を預けるズーマ。
ディパックから出しっぱなしにした水を飲み、階の入り口に油断なく目を走らせる。
どうやら、12:00が近づいているようだ。
小砂君は生きているだろうか。
ムッシュ冬月はどうだろうか。
彼等の無事を祈りながら、私は目を閉じた。
それを邪魔するかのように、ズーマが私を持ち上げる。




『……なんだ? 』

「思えば、お前は俺の最初の質問に十分に答えていない。お前はなんだ? 魔法生物か? 」

『魔法生物……? その単語の意味するところが分からんな。私自身、自分が何者なのかはわかっていない』

「下らん嘘はやめろ。魔族の類か? 」

『嘘ではない。私はただ、闇を狩る物でしかないのだ。自分の正体を知りたいと願ってはいるが……それに』

「それに? 」

『……いや、日向冬樹が死んだ以上、もう私の娘を人間にしてやる事は出来ないかも知れん。
 女々しくその事を考えるのはやめよう。私は……"闇の狩人"(ダークハンター)だ。最初に言った事が全てだ』

「……娘、か」



ズーマはなんともいえない表情で私を睨んでいたが、小さく独りごちて私をディパックの中に投げ込んだ。
直後に、体が重力を離れる感触。
てっきり次の放送まで休憩をとるつもりなのだろうと思っていたが、まだ探索を続けるつもりらしい。
と、ズーマの足が止まる。
何事か……と訝しむ前に、私の聴覚が響く足音を捉えた。
それは先程ズーマが昇っていた階段の方向から聞こえてくる。

恐らくは上方から……上階から、何者かが降りてきているようだ。
ズーマが舌打ちする。
このホテルに入ってからの彼の様子を見る限り、このような建造物に足を踏み入れたことはなかったらしい。
慣れない場所で感覚に鈍りが生まれたか。
足音はかなり近づいてきている。
今からでは、この階の入り口まで戻って不意討ち、というのも難しい。
ズーマが身構えるのを感じる。
もしこの足跡の主が闇の者ならば、私も協力する必要があるだろう。

足音はこの階の踊り場で止まり、鈍い音を立てて、ドアが開いていく。

姿を現したのは――――。











奇妙な階だ、と思った。
俺は着る物を探して階段を地道に昇っている途中、この階層……10階にも足を踏み入れた。
その時は壁のない広い階を一通り見渡しただけで求めるものはないと判断して次の階に昇ったが、
今考えればまったく珍妙な間取りだった。
パーティ会場にラウンジをぶち込んだような混沌とした家電と調度品の乱立。
ゆったり寛ぐにしてもパーティをやるにしても、とても要件を満たしているとは言えない。
まるで間違って填め込んでしまったパズルのピースを、力づくで溶接したような印象。
階段を降りている途中にその階から物音が聞こえてきた時は、確認しに行くかどうか一瞬迷った。
だが放置しておくわけにもいかず、踊り場に出て"このホテルで調達したもの"がディパックに入っていることを確認。
集中し、不意討ちにも対応できるように態勢を整え、ゆっくりとドアを開いた。

「む」

「……」

荒らされた部屋。
タダでさえ見通しが悪く、混沌としていたホールはより混然とし、もはや見る影もない。
その中心に、男が一人。
原色は黒。闇を切り取ったかのようなその漆黒は、俺に警戒心を抱かせるに十分だった。
黒装束の男は無言で、こちらを睨みつけている。
少なくとも、友好的な雰囲気は向けられていない。
目を凝らすと、黒衣に滲む鮮烈な濁赤が見えた。血か。
       .............
この男……ゲームに乗っている。


「貴様は……」

「ズーマだ」


男は短く名乗ると、ほとんど無造作に懐から黒い塊を取り出し、こちらに向けた。
短機関銃か。奴の銃の取り回しを見る限り、扱いに慣れているわけではなさそうだな。
俺は冷静に身体をしゃがめ、右前の横倒しになった大きなグランドピアノに飛び寄る。
転がってピアノの影に隠れるのとほぼ同時に、ウージーの吐き出す銃弾が奔った。
俺が隠れているピアノを破壊しようと、幾数もの穴を穿つ。
絶え間なくホールを照らすマズル・フラッシュ。
銃弾が弦とハンマーを打ち鳴らし、けたたましい狂想曲がホールに響く。


(そう長くは持ちそうにないな)

俺は徐々に破壊されていくピアノの影で、素早く思考を纏めていく。
同時にピアノの脇に手を突っ込み、何本かの弦を引っ張り出して細工を始める。
さて……上手くいくかどうか。
ディパックから"調達品"を出し、背にしているピアノの向こうにひょいと放り投げる。

「……! 」

ウージーを止めようとしたのだろう、男の息を飲む音が聞こえる。
だが間に合わず、ウージーの弾丸はピアノの前で一度弾んだその赤い缶――消火器を撃ち抜いた。
ボフッ、という間抜けな音と共に、白煙が上がる。
消火器に内蓄された粉が加圧ガスに乗って俺と射手の周囲を覆う。

(これからが問題だな。あの男、かなりの手慣れと見た。煙に巻いたとは言え、真正面からの銃撃では……)

俺は息を短く切ると、自分の姿を変え始めた。
ごきり、ごきりと音を立てて、自分の身体は変化していく。
両肩が膨らみ、やがて頭部の大きさを上回った。
その頭部も、胴体も、腕も、足も、変形し、巨大化する。
ネクタイは千切れ、スーツから下着まで、変容する体の膨張に耐えられずに次々と裂け破れ――――。










「ゴホッ! くっ……」

『弾切れのようだな』

ズーマは周囲に広がる白煙を見回しながら、MINI UZIの引き金を引く。
だが、銃弾は飛び出すことはなかった。
換えの弾丸はもうない。
不要になった機関銃をすぐさま放り捨て、白煙を払う為に黒魔波動(ブラスト・ウェイブ)の詠唱を始める。
瞬間、何か大柄の生物が迫る気配を感じ、ズーマは詠唱を中断して気配の元に向き直った。

「な……」

ズーマの視界に飛び込んできたのは、先程まで影も形もなかった魔獣。
人ならざる速度で自分の間合いに踏み込むその敵に、ベアークローを取り出して先ずる。
だが、怪物はベアークローの餌食にはならなかった。
異形の右腕が、ベアークローに合わせるように剣を振るう。
ギィン、と鍔迫る音が響き、ズーマと怪物が肉薄する。
怪物が握る剣の刀身には、光が湛えられていた。

(この……剣はッ! )

「シャアアアア!!! 」


怪物が奇声を上げ、両肩を開かせる。
ズーマが危険を感じて飛びのく前に、それは起こった。
光。強烈な、成長すれば厚さ30cmのコンクリート壁を一秒で貫くレーザーとなる光が眩く。
その光はズーマ自身にダメージを及ぼすことはなかったが、その視力を奪うには十分だった。
一瞬揺らいだズーマの右腕を、剣が薙ぐ。
飛び散る血が絨毯に落ちる前に、怪物は白煙の中に駆け込み、姿を消した。


「く……」

『大丈夫か? 』

「今のは"闇の者"とやらではないのか? 」

『……』


なんとも言えない唸り声を上げ、沈黙するネブラ。
ズーマは舌打ちすると、周囲に気を配らせる。
この白煙の中では、気配を辿るのは格段に難しくなる……闇の方がまだマシだ、とズーマはベアークローを構える。




『あの術を使わないのかね? 』

「奴が持っていた剣……恐らくは【光の剣】だ。もしレプリカでないとしたら、魔獣ザナッファーを倒したとされるあの剣……
 生半可な魔術では、無効化されるかも知れん。この状況で精神力を消耗するのも避けたいしな」

『そうか……それほどの武器が相手ならば、逃げた方がいいのではないか? 』

「大きなお世話だ。口を開くな」


ズーマは息を止め、怪物の再来襲に備えた。
切迫する空気の流れを読み、悟る。
自分の背後の空間の歪みを。そこに何かがいることを。
轟ッ、と白煙を縫って迫る巨体を振り向き見据え――ズーマの目が、見開かれた。

驚愕に、よって。

迫る魔獣は、先程の物とは明らかに別種の、筋骨隆々とした巨獣。
剣を持たず、自らの爪で敵を切り裂こうと、猛進してくる。

(莫迦な――――!? )

焦りと混乱に支配されつつも、魔獣の狂爪をなんとか掻い潜るズーマ。
背中からまたも血飛沫が飛び、ボタボタと絨毯を汚す。
怪物は追撃を加えることもなく、再び白煙に消えた。

「召喚魔法――!? いや、魔獣を召喚する程の術の詠唱を、俺に気付かれずにこの短時間で出来るはずが――」

ない、とズーマが結論付ける前に、再び白煙が揺らめく。
間髪入れずに襲い掛かってきたのは、やはり今までの二体とは違う、角の付いた魔獣だった。
下拳気味に繰り出された怪物の拳を辛うじて避けるズーマ。
拳の直撃を受けた絨毯はその衝撃を吸収しきれず、破れて地面に出来たクレーターを晒した。
怪物はズーマを見てニヤリ、と笑うと、バッとその場を離れて白煙にダイブする。


「……この部屋に元々配置していた筈はない。戦闘が始まってからこの階に来た筈もない」

ホールはズーマ自身が徹底的に調べた。
あの軋む音を立てる踊り場のドアからこのホールに入ってきたのなら、ズーマが気付かないはずがない。
では、一体どういう理屈で――――?
ズーマは一瞬悩んだが、思い直した。

(思考に隙を見せるから、付け込まれて傷を負ったのだ。たとえ既知外の現象であろうと……襲ってくるのは生身。
 生身ならば、殺せる。この……ズーマに、殺せぬものはない)

気を引き締め、ズーマはベアー・クローを構える。
次襲ってくるものが何であっても、先制攻撃を加える。
その決意が醸成された瞬間に、ズーマの研ぎ澄まされた五感が来襲者を捉えた。
シュッ、と軽い音。小型の魔獣か、投擲武器か。
何であっても関係ない。
ズーマは性格に、自身に迫る物体にベアークローを合わせた。
ぎんっ、と何かが圧し折れる音が、振り向きもしなかったズーマの耳に届く。




(光の剣……やはりレプリカだったか。空気の流れから読んだ軌道、何かで天井に吊らして飛ばしたようだな)

ならば、とズーマが早口で詠唱し、虚霊障界(グームエオン)を発動させる。
闇の波動が白煙を床に敷かれた絨毯を、地面に転がったウージーを消滅させていく。
晴れた視界に最初に移ったのは、少し離れたシャンデリアに軽く吊らした、光の剣。
吊らすのに使っているのは、幾重にも繋げたピアノの弦だ。
自分のカウンターの衝撃で跳ね返って遥か遠くまで振子軌道で飛ばされている。

「剣は囮か。魔獣どもは――――! 」

絨毯が消滅し、薄紫色のコンクリートを露出させた床に、巨大な影が顕われた。
ズーマは自分がその影に包まれていることに気付き、咄嗟にその影の主を見上げる。
それは!


「グランドピアノだッ! ブッ潰れよぉぉぉッ!!! 」


ウージーの銃弾で無数の穴を開けられた、グランドピアノが宙を舞っていた。
恐らくはそれを放り投げたのだろう、最後に見た魔獣が勝ち誇ったようにピアノ上で叫ぶ。
放り投げた後、自分もピアノに飛び乗ったのか――何の為に?
回避行動に移りながら僅かに抱いたズーマの疑問は、次の一瞬で氷解する。
魔獣の姿が徐々に小さくなっていき、その姿は最初に対峙した男の姿へと変貌していく。
そして、男の手にはウインチェスターM1897が握られていた。
ズーマにとってその銃器は始めて見るものであったが、自分が扱ったウージーと同種の武器だ、と即座に理解する。
直後、グランドピアノがズーマに覆い被さった。


「グ……ッ! 」


圧殺されることだけは防げたが、ズーマの体はピアノの開いた響板と大屋根の間に挟まれていた。
轟音で耳を揺らされながらも、なんとか脱出を試みる。
だが、それを敵が黙って見ている筈もない。
ゆっくりと、しかし熟達した動作で、魔獣から変じた男が銃を構え、ズーマの脳天に突きつける。


「じゃあな」

「……! 」

『! 』


カチン、と引き金を引く音。
ズーマは苦し紛れに右手を銃と自分の頭の線上に出して――――。

散弾が、発射された。














「な……」


俺は、間抜けな声を上げてしまった。
完全に敵を"詰ませ"……勝った、と思った瞬間に、思いもせぬ事態が起きたのだから。
ウインチェスターの狙いは正確、暴発や誤動作が起きたわけでもない。
しかし――放たれた散弾は、黒装束の脳天を撃ち抜くには至らなかった。


『ム……』


黒尽くめの男が頭部を庇うように差し出した右手には、モチのような物体が握られていた。
それがウインチェスターの銃口の目と鼻の先まで押し上げられ、散弾全てを飲み込み、消滅させたのだ。
俺の動揺を悟ったのだろう、黒尽くめは黒モチを俺の顔面に投げつける。
同時に地面を手で押して滑り込むように仰向けのまま、ピアノから脱出した。
俺から見て後ろ側に移動した黒尽くめは、一目散にドアに向かって走り出す。

「ちっ」

逃げるか。ならば、追う必要はない。
このまま逃がせば他人に俺の能力を喋られる危険はあるが、あの男は強い。
先程見た黒い霧のような物も、あいつが出したものだろう。
深追いして怪我をすることもあるまい。ゲームに乗っている者が他者と碌に会話をすることもないだろう。


「……戦利品もあるしな」

男は、ディパックを落としていった。
中身を探ると、俺の物と比べて食料が少し多い。
他の参加者から奪ったのだろうか?
その他にも、ナイフや包丁など、ガラクタとも武器ともつかぬ物など、それなりに有用な物が揃っている。





「っと……なんだこれは? 」

ディパックを更に漁っていると、やたら大きい箱が飛び出してきた。
「依頼料」などと書かれたその箱を開けてみると、尋常ではない量の金貨が溢れかえっていた。

「億万長者だな……」

ぼそりと呟く。
最も金など手に入れても、クロノスに飼われ、普段はほとんど監禁されている俺には使い道などない。
総司令への土産にでもするか、などと考えていると、くぐもった声が聞こえてきた。

『そこの君、私を拾い上げてくれ』

「なっ!? どこだ! まさか仲間がいたのか!? 」

『床だ』


声のする方を見れば、なるほど、床上に転がったモチから声は聞こえてくる。
ぎょろりと見える目玉を見るに、これは生き物らしい。

「喋るモチ……だと……」

『モチではない、ネブラだ』

「ネブラ……」

俺は慎重にネブラを拾い上げ、マジマジと見回す。
……仕込みがあるようには見えない。本当に生き物か。

「奴の部下か? 仲間か? 」

「ここでは私はただの支給品だ。ズーマとは特に仲間意識があったわけでもない。君の名前は? 」

「ア、アプトムだ」


妙に堂々と語りかけてくるネブラに名乗ると、ネブラは頷くように目を下げる。
目を下げて。


『……服を着たらどうかね』

「ハッ! 」


意外! 俺は全裸!
またも懲りずに服を着たまま変態し、全裸になってしまっているのを忘れていた。
しかし待って欲しい、あの状況で服を脱いでから変態する暇があっただろうか。俺は悪くない。
ネブラの嘗め回すような視線に恥辱を覚えながらも、俺は大事な部分だけを拾ったテーブルクロスで隠した。




「クソ……また上の階にスーツを取りに行かねば……」

『……君とズーマの戦闘を見ていて出した推論なのだが、君は怪物に変わる度に服が脱げるのか? 』

「体の質量自体が変わるからな。クロノス支給のスーツですら耐えられんのだ、普通の服など……」

『……見苦しいな。私を頭に付けたまえ』

ネブラはそう言って、俺が自分を頭に付けるのを待った。
よくよく見れば、この生き物、モチではなくケモノミミのような形にも見える。
洗脳されるのではないだろうか……と思いつつ、何故か不思議な安心感を与えるネブラを、俺は頭に乗せた。

『行くぞ』

「あおおーーーっ! 」

ネブラは俺の頭に付いた途端、激しくその体を変化させた。
掌に乗るほどだったその矮躯は、あっという間に俺の全身を包める程の大きさになる。
そしてネブラは俺の全身をねちょねちょと這いずり、俺の体の穴という穴を責めていく。
水気のない、かといって乾いているというわけでもないネブラの体の不思議な感触が、俺の体にビックウェーブ。
やがてネブラの体は一定の形態をとる。
頭に乗せたケモノミミから飛び出したネブラの黒い体は、後首筋を一筋の水流のように流れ、肩から体の前後に伸びる。
俺の胸元辺りで二分かれしていたネブラの体がチェストを回って一つになり、そのまま腰の辺りまで伸びていく。
俺の股間辺りで一旦浮き上がり、グルグルと巻いて下着のような形を取る。
簡単に言えば、前面から見れば女学生が着る水着のように見える形状を生成していた。

「どういう……つもり……だっ……」

『私は伸縮性には自信がある。これならば、君が怪物になっても破けることはない。君の理想の服だ』

「もうちょっと見た目はどうにかできなかったのか? 」

『難しいな……私の娘ならば似合うと思ったのだが』

「俺は男だぞ! 」

『変身するたびに粗末なものをぶら下げたいのかね? 』


くっ……。
悔しい、でも逆らえない。
確かに変態しても破けない服は魅力的だ。
だが、全裸+サングラスとスクール水着+サングラスではどちらが怪しまれるだろうか?
スクール水着+怪物は論外だ。
俺はなんとかネブラを説得し、俺が着ていたスーツのような形に変わってもらった。

『ふむ……どうだね? 』

「ああ……これならば文句はない」

『では、本題に入ろう。君にこうやって協力する代わりに、私の目的にも協力して欲しい』

「……目的とはなんだ? 」


ネブラが言うには、この世界には闇に蔓延る暗黒の生物、"闇の者"(ダークレイス)とやらが存在するらしい。
それらを駆除するのを手伝え、とネブラは俺に取引を持ちかけた。
獣化兵である俺はダークレイスではないのか、と聞いてみたが、『君は元は人間だった物を加工しただけだ』と言われた。
俺の出自を知っているわけではない……本能で、そう理解したらしい。
となれば、ガイバーになった深町もダークレイスにはカテゴリされないのだろう。
まあ、ネブラが言うには既に何体かこの島の中でも"闇の者"の目星をつけているらしい。
そいつらを狩るのを手伝うだけで、破れない服(防御力も期待できる)が入手出来るのならば、安いものだ。

『どうだ? この取引、受けてくれるか? 』

「ああ、構わんさ……だが、俺を偽っていた時は、遠慮なく捨てさせてもらうぞ」


こうして、俺とネブラの取引は成立した。
正直、宇宙人だの何だのは信じられないが、最初に会ったあの鎧の怪物などを思えば、そう荒唐無稽な話でもない。
人間同士の戦闘には協力しない、と念を押されたが、俺の体に密着している以上、いざとなれば戦わざるを得まい。
散弾を防御出来る程度の装甲を持っていれば、ガイバーの強さに一歩近づけるかもしれない。

とりあえず、俺は派手に騒いでしまったこの場所を去るべく、踊り場へと向かった。
あの男……ズーマとやらが待ち伏せている可能性も頭の隅に入れながら、慎重に。

(……とは言え、一応スーツの替えは手に入れておくか)


この俺 アプトム、度重なる裸難で必要以上に慎重になっていた。





【B-5 ホテル/一日目・昼前】

【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【持ち物】
碇司令のサングラス@新世紀エヴァンゲリオン、光の剣(レプリカ)@スレイヤーズREVOLUTION
ヴィヴィオのディパック、ウインチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず、ディパック×2(支給品一式入り)
金貨1万枚@スレイヤーズREVOLUTION、ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹、
ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、ピアノの弦、スーツ(下着同梱)×3

【状態】疲労(小) 肩口負傷、左足負傷(移動には問題なし) サングラス+ネコミミネブラスーツ装着
【思考】
1.ホテルを離れ、安全な場所で放送を待つ。
2.深町晶を殺してガイバーになる。
3.強敵には遭遇したくない。
4.冬月コウゾウ他 機械や生体化学に詳しい者に接触、首輪を外す為に利用する。
【備考】
※光の剣(レプリカ)は刀身が折れています
※首輪が有機的に参加者と融合しているのではないか? と推測しています
※食料と水が一人分+一日分増加しています
※ネブラは相手が"闇の者"(ダークレイス)ならば力を貸してくれます



ズーマは駆けていた。
市街地を、誰の目にも止まらぬ速度で。
手傷を負ったからこその高速移動。
人が多くいる可能性のあるこの市街地で、このダメージと消費で敵に遭遇することは死を意味する。
屈辱に身を震わせながら、ズーマはただただ駆けていた。

(許さん……許さんぞ! )

自分が仕事――殺しをしくじり、敵前を逃亡するなど、これまであっただろうか。
否。
完全、完璧な仕事こそが、自己の誇りだった。
では、この暗殺者・ズーマのプライドは砕かれたのか?
否。

(今は敗北者の誹りを受けてやろう……だが、この傷を癒せば、あの男など容易く殺せる)

あの男の秘術の種は掴んだ。
次にまみえた時は殺す。必ず殺す。
あの男が既に死体になっていても殺す。
死体がなくなっていても殺す。
冷静な、決して"仕事"を阻害しない殺意を燃やしながら、ズーマは駆ける。

そして、その疾風は止まった。
一軒の民家の前で。
ズーマがもしもの時に、と温存しておいた所持品を隠した民家の前で。

(俺の依頼料……今は預けておこう、魔変化の男よ)

ズーマは残忍な笑顔を浮かべ、民家の軒下を潜った。



【B-6 市街地・民家/一日目・昼前】

【ラドック=ランザード(ズーマ)@スレイヤーズREVOLUTION】
【持ち物】ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【状態】疲労(大)魔力消耗(中) 右腕、背中に傷(比較的軽傷)
【思考】
0.参加者を全て殺す
1.民家で休みながら放送を待つ
2.リナ=インバース、魔変化の男(アプトム)を必ず殺す
3.ゲームの関係者を全て殺す
4.依頼料を取り戻す
※魔法や身体能力の制限に気づきました。自分だけでなく異能者全員にかかっているのではと思っています
※【B-6】の民家の寝室の箪笥の中に、以下のものが破棄されています
 デイパック×2、基本セット×2(一部食糧不足)、地球動物兵士化銃@ケロロ軍曹、どんぐり五個@となりのトトロ




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台風の目~they and……~ アプトム 驚異の伸縮装甲
師匠と、弟子 ラドック=ランザード ななついろ☆デンジャラス(前編)




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