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心と口と行いと生きざまもて(後編) ◆S828SR0enc



『精神汚染が――』

 ママはベッドの上で人形を抱いている。女の子の人形を抱いている。

『――あの人形を、娘さんだと――』

 ママは笑う。ベッドの上で人形を抱きしめて笑う。

『――ほらアスカちゃん、今日はママあなたの大好物作ったのよ――』

 人形の髪を撫でて笑う。ママは人形ばかり見ている。

『――旦那さんは……』

 パパはいない、どこかに行ってしまった。

『アスカちゃんいい子にしないと、あそこのお姉ちゃんに笑われますよー……』

 ママはあたしを見ていない。

『――かわいそうに。』


「――違う!!!」


『アスカ、プレゼント気に入らなかったのかい?』

 違う、あたしはかわいそうな子なんかじゃない!

『せっかくの人形なのに……』

 いいの、人形なんていらない!あたしはひとりで大丈夫!

『あの子、苦手だわ……』

 新しいママも、パパもいらない!ひとりでいい!

『ねぇ、アスカちゃん、お願いよ……』

 あたしはひとりで生きられる!あたしはひとりでがんばれる!

『ママと一緒に死んで頂戴……』

 いや!いや!あたしはママの人形じゃない!


「――だからわたしを見て!」


『アスカはまだ子供だからな――』

 違う!そんな風にいわないで!こどもだなんて遠ざけないで!

『二号機パイロットのシンクロ率が――』

 わたし、ちゃんとやるから!がんばるから!

『このままじゃエヴァを――』

 がんばるから!だから遠ざけないで、いらないって言わないで!

『アスカちゃん……』

 誰か抱きしめて、キスして、「あたし」を殺さないで!


『アスカちゃんお願い、ママと一緒に死んで頂戴……』

 うん、いいわママ。いっしょにしぬわ。
 だからおねがい、ママをやめないで。
 あすかをすてないで。ねぇ、わたしをみて。

『……知らないわ。あなた、』


『――誰?』




「――――いやああああああああああ!!!!」


 ◇ ◇ ◇


「……あ、あ……」

 気がついた時には、少女の姿はなかった。
 手の上には人形、反対の手にはナイフ、傍らに男の死体。
 今のアスカにあるのは、たったそれだけ。

「……なんで、こんな……」

 人形に指が食い込んでいく。綿の胴体が不自然に曲がる。
 それを思い切り握りしめて、アスカはアスファルトに叩きつけた。

「――なんで、なんでぇっ!?」

 右腕のナイフで人形を突く。ひたすら突く。
 綿がはみ出し、腕がちぎれても突く。

「――なんで、なんでこんなの!!
 ちゃんとしたのに!ちゃんと三人殺したのに!!」

 人形ごとナイフを道路に突き立てて、アスカは絶叫する。

「なんであたしばっかり、あたしばっかりぃぃ!!」

 いつだって、頑張ってきたのに。
 みんなに認められるように、頑張ってきたのに。
 努力してエヴァのパイロットになって、みんなの期待に答えてきたのに。

 なんにもしなかったくせに、シンジはエヴァのエースパイロットになった。
 なんにもしてないのに、強い使徒を一人で何体も殺した。シンクロ率は初起動でトップだった。
 なんにもしてないくせに、あたしより大切にされていた。

 なんにもしてないくせに、ヴィヴィオは母親に愛されていた。
 ただ泣いていただけなのに、二人の母親に、そして周囲の人間に可愛がられた。
 なんの努力もしてないのに、しあわせそうに笑っていた。

「あたしだって!なんであたしだけ、あたしだけこんな目にあわなきゃいけないの!
 殺したのに、ちゃんと化け物を三人殺したのに!!
 なんでこんなものあたしに渡すの、思い出したくなかったのに!!
 なんで、なんで、なんでぇぇ!!」

 ナイフを引き抜き、人形を殴る。
 殴り続けているうちに人形がずれてアスファルトを叩くことになっても、殴り続ける。
 手の痛みよりも、心の痛みが勝った。

「なんでこんな人形が、ここに、ここにあるのよぉ!!
 この人形は、この人形は――」


――あたしとママしか、知らないのに。



 ぴたり、とアスカの手が止まる。

「…………ママ?」

 そして、アスカはその涙と汗でどろどろの顔をあげて、天を見る。
 雲一つなく晴れ渡った、美しい空。

「この人形のことは、あたしと、ママしか知らない……」

 涙の膜越しに見る空は眩しい。太陽が白く輝いている。

「だったら、これは、これは――ママ、なの?」

 市内に風はなく、遠く森の木々がわずかに揺れているのが見える。

「ママが、あたしにこれを持ってきたの?」

 一切の無音。
 しかしその中に、アスカは確かに答えを見つけた。

「――あたしを、見てくれてるの、ママ?」


 いつだって、使徒を殺すために頑張ってきた。
 使徒を殺せばみんなが褒め称えた。英雄だと感謝された。
 シンクロ率が上がるだけで大喜びして、みんなが親切にしてくれた。

 使徒を殺せば、みんなが喜んでくれる。
 化け物を殺せば、みんなが喜んでくれる。
 きっと、ママだって。

「――そうなのね、ママ」

 ふふ、とアスカはわずかに笑った。

「もっと頑張れって、頑張って敵を倒せって言ってるのね、ママ」

 惣流・アスカ・ラングレーは選ばれた子供。
 世界の敵から世界を救うための子供。
 それはどこにいても変わらない。この島でだって変わらない。

「わかったわ、ママ」

 頬笑みとともに、アスカはゆっくりと立ち上がる。
 道路に叩きつけた手が痛んだが、これくらいはなんてことない。
 先ほどまで歪んでいた地面はしっかりと固まり、揺らぐことも震えることもない。
 かすんでいた空さえ、鮮やかに見える。

「あたしは、化け物を、殺す」

 化け物。みんなの敵、あたしの敵。
 殺せば殺しただけ、みんなが喜んでくれる。認めてくれる。
 だから一刻も早く、化け物を倒さなくちゃ。

 悲鳴にかたまっていたアスカの脳が、にわかに動き出す。
 次に殺すべき化け物はすでに決まっていた。

 あの女の子供、泣き虫で甘ったれのヴィヴィオ。
 何の努力もせずに全てを得て、それに縋りつくだけのいらつく餓鬼。

「ふふ……」

 ナイフをアスファルトから抜く。多少刃こぼれしているが、まだ使えそうだ。
 いざとなったらこの手で絞殺してやってもいいし、蹴り殺してもいい。
 場所はわかっている。ここから遠くない、C-3の高校だ。
 ひょっとしたら化け物の仲間がいるかもしれないから、正面からは倒せない。
 幸い、学校の中には音の出るもの、トラップの材料が山のようにある。
 それで化け物たちを分散させて、殺す。
 弱そうなのしかいなかったら、一網打尽にしてやってもいい。

「そうよアスカ、クールになるのよ……!」

 もうさっきまでの怖がっていたアスカとは違う。
 何も怖くないし、景色も自分の体もはっきり見える。
 だって、ママが見ているから。
 そして、加持さんを助けに行けるから。

「――あ、そっか。
 そうよね、三人だものね。
 カエルの形の生き物は、『人』とは数えないものね――」

 きっとこの人形は、ママからの警告。
 きちんと三「人」化け物を殺していないあたしへの、しっかりしなさいというメッセージ。

「もう大丈夫よ、ママ。
 あたし頑張るから、絶対に化け物を倒すから、見ててね。
 そして加持さん、今、あたしが助けてあげるからね」

 いつの間にか肩からずり落ちていたバッグを拾いなおし、アスカは再び歩きだした。
 視界はクリアで、頭も冴え冴えとしている。
 やるべきことを見つけたから、もう何も怖くない。

 まるで母の胸に抱かれているような幸せを感じながら、アスカは高校へと向かっていった。


【B-4 市街地/一日目・昼過ぎ】

【惣流・アスカ・ラングレー@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】右手人差し指喪失(治療済み)、背中に火傷(治療済み)、髪が肩ほど、拳に打撲跡、
    『化け物』への強い憎悪と倒すことへの使命感、多幸感、頭はすっきりしている
【持ち物】
アーミーナイフ@現実、予備カートリッジ×12@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
コントロールユニット(ガイバー?)@強殖装甲ガイバー、デイパック、基本セット、モッチーの首輪、モッチーの円盤石、
砂ぼうずの特殊ショットシェル用ポーチ(煙幕弾(2/3)、閃光弾(3/3)、グレネード弾(1/3)、ガス弾(1/3))@砂ぼうず、
ホテル外壁のメモ用紙
【思考】
0.「化け物」であるヴィヴィオを殺し、ご褒美で今度こそ加持の情報を得る。
1.エヴァンゲリオンのパイロットとして、「化け物」を殺して人々を救う。
2.「人間」以外は問答無用で撃つ。ガイバー?(深町晶)は必ず殺す。
3.高町なのはが大嫌い。
【備考】
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※ケロロ、アプトム(名前、顔共に未確認)を殺したと思っています。
※「化け物」と「人間」の認識の境界がきわめて曖昧になっています。


 ◇ ◇ ◇


「……行ったか」

 少女が去ってのち、むくりとアプトムは置き上がった。
 全身の土埃やら靴あとやらを適当に払う。
 幸いなのか何なのか、こちらを殺したと思った割にあの少女――惣流アスカは荷物を持っていかなかった。
 地面に放り出されていたデイパックを拾い上げ、背負いなおす。

『大丈夫かね?最初のナイフだけは威力を軽減できたと思うが……』
「多少脇腹が痛むが、これは裂傷というより打撲に近いな。
 さすがに生身にナイフだったらこうはいかんが」

 頭上のネブラも普通に喋っているところを見ると、ナイフによるダメージは軽いようだ。
 脇腹の痛みも鈍痛に近く、行動に支障が出るほどでもない。
 さっそくこのスーツが役に立ったと、アプトムはほくそ笑んだ。

 最初の一撃にはさすがに驚いたが、とっさに倒れたのが利いたようだった。
 血も流れていないというのに、錯乱した少女は死んだと勘違いしてくれたらしい。
 その後の蹴りの最中も動かなかったのは、万が一少女に保護者がいた場合、殺したら面倒になるからだ。

(まぁ、余計な心配だったわけだが……)

 自分の慎重さにさすがにアプトムは少し笑いたくなった。
 あのどう見ても正気でない少女相手に用心とは、いくら用心深くといってもやりすぎだ。
 実際アプトムはあと少女が二、三蹴りでもしていれば、その腕で足をへし折ってやっただろう。
 むろんその後発狂した子供を生かす意味もないわけなので、殺すつもりだった。
 だから、少女の命が助かったのは幸運だったといえるかも知れない。
 ちなみに少女の蹴りなど、拷問に近い実験に耐え続けたアプトムにとっては何のダメージにもならない。

『しかし、わざわざじっとしていたのに大した情報も得られなかったな。
 惣流・アスカ・ラングレーについても、あの少女についても』
「ああ……だが、わかったこともある」

 アプトムの腕を止めさせたのは、突如現れた主催の片割れ――確か、長門有希と言ったか。
 顔を伏せていたため表情は見えなかったが、声は余すことなく聞き取れた。

「『一度だけ』、だったか。
 どうやらあの様子だと、惣流アスカは望みの情報を得られなかったらしい」
『まぁ、君が死んでいないからな』
「だがあいつは生きていた。ということは、一度だけなら見逃される、ということか」
『確証はないがね』

 少女のことは驚いたが、かといって特にアプトムが得たものはない。
 ダメージも休みが必要なほどでもないし、ネブラも万全だ。
 さてどうするか、と軽くあたりを見回す。
 その背に、小さな声がかかった。

「ねぇちょっと、そこのひと」

 声は物陰からで、こちらに見えるのは銃身のみ。
 ただし、アプトムに向けられているわけではなく、今は地面を向いている。
 攻撃するつもりはないが、こちらが怪しい動きをすればすぐにでも対応できる姿勢だ。
 出来る、と思った。

「お前は……」
『その声は、小砂君!』
「ネブラ、久し振り。それからはじめまして、えっと……」
「アプトムだ。お前がこのネブラの言う小砂なら、俺は今は攻撃するつもりはない。
 お前もその様子だと攻撃するつもりはないようだが、怪しい動きをしたらすぐに殺すぞ」

 バッグから銃を取り出す。まだ物影には向けない。

『小砂くん、君は――』
「お前の目的は、お互いの情報の交換か。特に、先ほどの惣流アスカについての」
「キッキッキ。お見通しですかー……」

 する、と角から銃が下がり、代わりに小柄な少女が現れた。
 幼い顔の下、大きな丸い眼は油断なくアプトムを見ている。
 なるほどネブラの言うとおり、その関東大砂漠育ちというのは伊達ではないようだ。

 少女――小砂はアプトムの前に来ると、物怖じすることなくまっすぐに見上げてきた。
 腰を下ろす様子はないことから、長話のつもりはないらしい。

「まずはそちらから話せ、特に出会った人間については詳しく、だ。
 お前が話せば、俺も情報を提供する。ネブラが証人だ」
「おっけー、わかりました、では……」

 そしてひとつの躊躇もなく、小砂は話し出した。
 その間も油断なく銃は握られたままだ。口約束など早々信用しないということだろう。
 その口が語るのは冬月のこと、タママのこと、なのはのこと、冬月の仲間のこと。そして、惣流アスカのこと。
 自身の仲間については多くを語らなかったが、「夏子さん」以外は有害と考えてもいいということだった。
 その中にどれほど嘘があるのかは、アプトムにはわからない。
 だが、信じてもいい気がしていた。
 なぜならば、小砂の眼はアプトムとよく似ていたから。
 あえていうなら、「殺して回るつもりはないが、なんとしても自分は生き残る」目だろうか。
 こういう眼の人間は、下手なお人よしよりもよっぽど信頼できる。

「――ま、こんなとこですかね。
 アスカについてはそんなに長い間一緒にいないけど、ヤバいってことだけはわかります。
 ……っていうか、さっきの様子を見ればそれは丸わかりですけど」
『ふむ、世の中にはどうしても御しがたい生命はいるからな。
 何があったかはよくわからないが、彼女もそうなってしまったということか』
「さ、今度はそっちの番ですよ。
 特になんでネブラを持ってるのかってのは、よく聞かせてください」

 油断ないまなざし。嘘は論拠でなく直感で見抜けると言わんばかりだ。
 そしてアプトム自身にも、このしたたかな相手に対しそれを偽る必要はない。

「少し下がっていろ。……大丈夫だ、攻撃するつもりはない」

 小砂が一歩下がったところで、体に力を込める。
 筋肉の配置が――遺伝子が――骨格が――メキメキと音を立てて変わっていく。
 体が膨れ上がるのに合わせて、ゼブラの体も伸びていく。

「え、ええ……」

 小砂の驚愕の声を背景に、アプトムの姿はガイバー?を模したものへと変化した。

「あ、あんたがアスカの言っていた深町晶!?」
「いや違う、これは……俺の仲間の仇であるガイバー?、深町晶を模しただけの姿だ」
「……仲間の、仇……」

 仇、という言葉に反応した小砂を尻目に、アプトムは自らの事情を手短に話す。
 クロノスという秘密結社については出来るだけ伏せ、かけがえのない友を殺されたことだけを強調した。
 そして、この変身能力でズーマを退けたことも。

「あとは言ったとおり、俺はほとんど人間に遭遇していない。
 会った奴もこのネブラ以外は全員俺と敵対している」

 説明を締めくくると、小砂は軽く同情的に頷いた。
 たしかに彼女に比べれば、会う人間に恵まれていないともいえるからしょうがない。

「わかりました、どうもありがとうございます」

 頭を下げる彼女からは、殺意や警戒心はもう感じられない。あるのは緊張感のみだ。
 お互いに会話から、お互いの最終的な目的が同じと知れた。
 そうである以上、無駄な慣れ合いはいらない。
 生きるために、いずれ殺し合うことになるかもしれないのだから。

「今言ったとおり、深町晶は俺が片づけるべき敵だ。
 手だしするなとは言わんが、お前の力では殺すのは無理だ。俺のことを伝えるだけにしろ。
 そしてもうひとつ――」
「わかってます。首輪の解除方法はあたしも知りたいですから。
 お互いに情報を集めて、今夜の24時にここで会う、ってことでいいですか」
「ああ、わかった。協力者は多ければ多いほどいいからな。
 その見返りとして、水野灌太とやらを見かけても手だしはしないでおこう」
「よろしくお願いします。
 あ、ネブラは――」

 ぴこん、と頭の上でネコミミが動いた感触がした。

『悪いが小砂君、私はこの男と協定を結んでいる』
「わかった、まぁ依頼達成しきれなかったあたしも悪いしね。
 じゃ、またあとで、アプトムさん」
「ああ……ところで、どこに行くつもりだ?」

 バッグを担ぎなおし、くるりと背を向けた小砂に問う。
 んー、と唸り、小砂はアプトムの方を振り向いた。

「とりあえずさっき言った師匠の娘さんの所に行こうかな、って。
 やっぱり子供一人じゃ、」

 突如として。
 小砂の表情に、戦慄が走ったのがわかった。

『小砂く――』
「すいません、あたしこれで失礼します!!」

 反転し、小柄な体はアスファルトを一気に駆け抜けていく。
 わずかも振り向かず、無防備に背を見せたままあっという間に角を曲がり、小砂の姿は見えなくなった。
 後に取り残されたのは、困惑するネコミミスーツの男だけである。

『ふむ、一体どうしたのか……』
「……まぁいい、俺は俺の方でやることはあるからな。
 さて――」

 静かになった市街地で、アプトムは考える。
 小砂の話によると、森の中で巨大なカブトムシを見たらしい。
 アプトムが思い当たるのは、超獣化兵五人衆のリーダー格であるゼクトールだ。
 名簿に書かれていた「ネオ」という冠詞が気になるが、ほぼあのゼクトールと考えて間違いない。
 しかし、合流する気はあまり起こらなかった。

(これがギュオー総司令なら話は別だが、どうにも……)

 損種実験体としては、大手を振って歩く超獣化兵の類は好きではない。
 無理に合流する必要もないだろうと思い、ゼクトールのことを頭の片隅に止めた。
 そうすると残りの気がかりは、深町晶のこととなる。

(俺が深町なら、どこに行くか……)

 再度地図を広げ、市街地を確認する。
 今はガイバーという恐るべき生命体となった奴も、もとはただの子供だったという。
 情報によれば今も学校に通っているというからには、思考は特に変化していないのだろう。
 となれば、自分の日常に馴染みのある場所に行くのが道理ではないだろうか。

(そう考えれば、ここ、か……)

 C-3の高校。
 求める科学知識のある人間が集まるかは微妙だが、深町が来る確率は他よりは高いだろう。
 そう考えて、アプトムは地図をしまいなおす。

『さぁアプトム、どうするつもりだ』

 頭上のネブラの質問に、アプトムはわずかに笑って返す。
 そしてもう一度全身の砂埃を払い落すと、迷いのない足取りで歩き始めた。

【B-4 警察署付近/一日目・昼過ぎ】

【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【持ち物】
碇司令のサングラス@新世紀エヴァンゲリオン、光の剣(レプリカ)@スレイヤーズREVOLUTION
ヴィヴィオのデイパック、ウインチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず、デイパック×2(支給品一式入り、食糧と水が増量)
金貨1万枚@スレイヤーズREVOLUTION、ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹、
ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、ピアノの弦、スーツ(下着同梱)×3
【状態】肩口負傷、左足負傷・脇腹に鈍痛(行動に支障なし)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着
【思考】
0.なんとしても生き残る。
1.深町晶を探すために高校に行ってみるか、それとも――。
2.遭遇した人間は慎重に生殺を判断する。
3.冬月コウゾウ他 機械や生体化学に詳しい者に接触、首輪を外す為に利用する。
4.情報を集め、24時に警察署に戻ってきて小砂と情報を交換する。
5.強敵には遭遇したくない。
6.深町晶を殺してガイバーになる。
7.水野灌太を見つけても手だしはしない。たぶん。

【備考】
※光の剣(レプリカ)は刀身が折れています。
※首輪が有機的に参加者と融合しているのではないか? と推測しています。
※ネブラは相手が"闇の者"(ダークレイス)ならば力を貸してくれます。


 ◇ ◇ ◇


「……!……!!」

 小砂は走る。先ほど怪物を見つけたときと同じか、それ以上の速度で。
 こんな短期間に二度も全力ダッシュをするのはきつかったが、今はそうも言ってられない。

(むしろ、あの怪物に会ってラッキーだった、かも……!)

 激しい息の小砂はわずかに笑う。
 あの怪物を見た後、小砂は全速力で方向も確かめず、ひたすらに逃げた。
 その結果として少々方角を間違えて北西に進み、アスカがアプトムを蹴る場面を目撃したわけだが。
 もしもあのまま森を歩いていたら、そんな場面には出会わなかっただろう。
 そして、この危機に気づくこともなかった。

「ヴィヴィオちゃんが、危ない……!」

 あのアスカの絶叫は良く聞き取れなかったが、あと一人、と言っていた気がする。
 あと一人、どうするのか。
 「カジさん」の情報を得たいというなら、もちろん殺すのだろう。
 そして殺すならば、出来るだけ無力で、位置のわかっている相手が望ましい。
 加えて、アスカはなのはに悪感情を持っている。

(何で今まで気付かなかったんだろう……!
 このままじゃ、あの女はヴィヴィオちゃんを殺してしまう!)

 それだけはさせるわけにはいかなかった。
 小砂の師匠は聖母のごとき人だが、その心は実は脆い。
 もしも親友の上に娘まで失ったら、あの強がりがどんなふうになってしまうのか。
 考えるまでもない、最悪の事態だ。
 その前に、小砂はアスカを止めなくてはならない――殺してでも。

(あの様子、どう見ても正気じゃなかった……生かしとく方が危ない)

 きっとアスカの死を知ったら師匠は悲しむだろうが、知ったことか。
 自分の利益、命にかかるリスクから、小砂は二人の命を天秤に掛ける。
 必要な時は、仲間でも見捨て、利用するのが関東大砂漠での生き方だ。
 多少なのはに感化されたとしても、小砂は骨の髄まで小砂なのだ。

(ヴィヴィオちゃんをあいつが殺す前に……私が、あの女を殺す)

 武器はある。覚悟も、情報も、経験もある。
 あとは自分の足が間に合いさえすれば、必ず。

 そうして小砂は走る。
 背筋をぞくぞくと、言い知れぬもののために粟立たせながら。


 今、小砂のカバンに入っているひとつの人形。
 アスカのもとへ送られ、アスカがめった刺しにし、捨てて行った人形。
 それが彼女のもとへもたらされた時、小砂は物影からそれを見ていた。

 建物のためにアスカの背後はほとんど隠れていたが、長門有希の姿はしっかり見えていた。
 長門有希はアスカといくつか言葉を交わし、アスカが後ろを振り返るとほぼ同時に消えた。
 何と言っていたのかは声が小さすぎてよくわからないが、消える瞬間は確かに見えた。
 それだけでも、小砂にとっては十分驚異的ではあるのだが。

 しかし、もう一つ、小砂を戦かせるもの。それは、

――長門有希が消える直前、アスカの背を叩いた白い「手」。

 建物の影からするりと出て、アスカの背をひとつ叩いて引っ込んだそれ。
 その直後にどさりという音が聞こえたのは、小砂もよく覚えている。
 とはいえ視線は消える長門有希に向けていたので、それが本当に「手」だったのかはわからない。
 だが小砂は確かに、何かがアスカの背に触れたのを見たのだ。


「ううう、やな感じ……!!」

 息を荒くはずませ、小砂は駆ける。
 相変わらず空が、いやになるほどに晴れ渡っていた。

【B-4 市街地/一日目・昼過ぎ】

【小泉太湖(小砂)@砂ぼうず】
【状態】疲労(中)、なのはに対しわずかな罪悪感?
【持ち物】IMIミニウージー(9mm口径短機関銃)(18/32)@現実、清潔なシーツ
      デイパック、基本セット、人形@新世紀エヴァンゲリオン
【思考】
0.何としても生き残る。なのはに弟子入りして魔法を教わる。
1.ヴィヴィオを守るため高校に向かう。アスカが危害を加えるようなら、躊躇なく殺害する。
2.首輪の解析などのために情報を集め、24時に警察署でアプトムと情報交換する。
3.「川口夏子」と合流する。
4.「碇シンジ」を探して接触する。
5.「水野灌太」、「雨蜘蛛」には会いたくない。「水野灌太」の存在だけはきちんと確認したい。
6.「深町晶」と会っても手だしはしない。

※「ズーマ」を危険人物と認識しました。ただし本名は知りません
※「深町晶」を危険人物と認識しました。 アプトムの証言で人物像がゆがめられている可能性があります。
※マッハキャリバーと冬月から、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。


【人形@新世紀エヴァンゲリオン】
 精神汚染の結果心神喪失状態になったアスカの母親が、「アスカ」だと認識し可愛がっていた人形。
 最終的には母親とともに心中する形で首吊りし、それをアスカが発見したらしい。
 毛糸と布で出来たただの人形だが、今はアスカの攻撃のせいでぼろぼろになっている。


 ◇ ◇ ◇


 はるか高みから、地上を見下ろすように。
 白々と点滅するモニターを前に、長門有希は人形のように佇んでいた。

「規定通りに行った。彼には告げていない」

 答えるようにモニターがヴン、と唸るが、長門有希は欠片も表情を動かさない。

 『ご褒美』に関して、草壁タツオは「嘘をついたらさよなら」と参加者に告げた。それは嘘ではない。
 しかしその規定を動かすのは、実際のところ長門の役目だった。
 故意ならばともかく、過失で殺しそこなった者を首輪で殺すのは殺し合いの促進に悪影響を及ぼす。
 もちろん連続すれば許されたものではないが、一度目ならばまだチャンスを与えてやる。
 すなわち、その参加者の精神、あるいは肉体に大きなダメージを与えるだけに留めてやる。
 一度きりのペナルティ。二度目はない。
 しかしこれによって参加者は主催が確実に彼らを見ていることを知り、再度殺しに挑むだろう。
 主催への恐怖などから、一層殺人行動が激化する可能性も考えられる。
 これが、長門有希がとった行動の理由のすべてである。

 いや、もう一つ。一度目をペナルティで済ませる理由があった。

――そんな簡単に主催に殺されてしまっては、『つまらない』。
――それでは『おもしろくない』し、『意味がない』。
――だったらより参加者を殺しに駆り立てる方が、よっぽど『興味深い』。

 むしろ最初の理由よりも、こちらの理由のためにペナルティ制度は取り入れられたのだ。

 そしてそれは、長門有希の意思でもなければ、草壁タツオの意思でもない。

「…………」

 モニターだけが、暗闇の中で唸る。
 その底なし沼のような闇を見つめ、長門有希は口を開いた。

「……おもしろい?」


 答えは、ない。
 ただ闇の向こうで、忍びやかな笑い声だけが響いていた。


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小泉太湖(小砂) Scars of the War(中編)
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