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Scars of the War(後編) ◆igHRJuEN0s



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実は、他の誰もが知らない裏で、ゲンキと少女の二人だけの間でやり取りが行われていた。
それを説明するには、少女の視点から、時間を遡る事になる。

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「もう刺しちゃおっかしら」
「ダメぇーッ!!」
「じゃあ、さっさとヴィヴィオを渡しなさいよ!」

(誰か助けて! 死にたくない!!)


アスカに拘束されナイフを首に突き付けられた私は、隣合わせの死に絶望していた。
顔にある真新しい切り傷の痛みが、さらに私をパニックにさせる。
表情は涙と恐怖感でぐちゃぐちゃだったハズ。
そんな中で、私はただひたすら助けを求めていた。

……だけど、そこで私を見つめている人がいることに気づいた。

――それがゲンキ君だった。
助けを求めるように私は彼と視線を合わせる。

でもゲンキ君は、ただなんとなく私を見ていたわけじゃなかった。
彼が私の視線に気づいた時、彼の眼から意思のようなものを感じた。
彼の眼はパニックだった私を、少しだけ落ち着かせてくれた。


そして彼の視線が、私の胸元へ移動。
私の胸元にあるのは、ジャージだけ。
だけど、彼が見てるのはその先・ジャージの内側にあるパワードスーツであることに私は気づく。
そして彼の意図が読めたような気がした。

私はアスカにいきなり顔を斬りつけられてパニックになり、それでパワードスーツの存在を忘れていた。
ゲンキ君はそれを思いださせてくれた。
彼が言いたい事は『パワードスーツを起動して、自力で脱出するんだ』というところだろう。
私はゲンキ君と視線を交わして、アスカの注意を引かない程度にうなづく。


今なら!……いや、ダメだ。
私は首に当てられているナイフに視線を向ける。
ピッタリとついているナイフ、このまま変身すれば、それに気づいたアスカに首を斬られてしまう。
アスカの注意が少しでもこちらに向いている内は起動できない……
せめて一瞬でも隙ができれば……

私は再びゲンキ君と視線を合わせて、眼で『助けて』というメッセージを送った。

すると、ゲンキ君が眼で『任せろ』と言ってるような気がした。
そしてゲンキ君がメイド服を着た人より前に出て。
「近づくなって言ったでしょ!?」
「待ってくれ!
どうしてもあんたに聞きたいことがあるんだ!」

急にアスカと話し合いを始めた。

――これで、ゲンキ君が何を考えているかが、わかった気がした。
パワードスーツを起動させれば、私は自力でアスカの手から脱出できる。
パワードスーツさえ動けばアスカなんて怖くない。
だけど、それもアスカのナイフが首を狙っている以上は危険。
それで、ゲンキ君はアスカと話し合うフリをして、アスカの注意を引こうというのだ。
いや、ひょっとしたら最初は話し合いで説得するつもりだったのかも……でも説得するにはあんまりにも悪い人だったから、途中で怒り出してたけど。

とにかく、メイド服の人やヴィヴィオって子も混じっての会話が始まった。
アスカの自分勝手な主張にうんざりしたり、時々怒鳴ったりで、自分が死ぬかもしれない恐怖に数分間も耐えた。
その中で私はただただ、ゲンキ君を信じ続けた。

――だけど、アスカの注意は一向にこちらから離れない。
時々チラッとこちらを見てくるし、むしろどんどんナイフに力を込もるのを感じる。

カチャリッ
「独善なんかじゃない……私は間違ってなんか、ない!!」

(もうダメ……)

ゲンキ君は時に怒りを抑え、怒りを吐き出したりしてアスカの注意を引こうとしたけど、それでもダメだったみたい。
銃口が私の頭に向けられた時、私は諦めていた。
だけど、そこへゲンキ君が、
「人質を撃ったら、おまえも逃げられなくなるんじゃないのか?」

その瞬間、アスカの殺意がゲンキ君を向いたのがわかった。

「それに人質を取るなんて卑怯な真似をして、そんな事までして誰かを殺そうとするなんて、アンタが弱いっていう何よりの証拠なんじゃないのか?」

ゲンキ君の言葉に、アスカは怒っているのがわかる。
そしてアスカの銃口が私のこめかみから外れる。

「私は……化け物なんて怖くない!」

その時のアスカは気づけいただろうか?
私の首から、数㎝とはいえ、ナイフから外れていることに。
そして、私は確信する。
今、アスカの注意が私からゲンキ君に向いていると。

逆ギレしたアスカの注意がゲンキ君に完全に向いた時、私は『か弱い乙女』から『戦える乙女』に変身した。

だが、その中でアスカがゲンキ君を撃とうとするのが見えた。

(それだけはさせない! 間に合え!!)

私は盾を飛ばす。
ギリギリでアスカの銃弾からゲンキ君を守ることができた。
また盾を使ってアスカの腕を封じ、私も自力で脱出する。
その直後にゲンキ君のキックがアスカの拳銃を弾く。
その時のゲンキ君の姿は、とってもカッコよかった。

そして、今に至る。
それにしても、ここまで上手くいくとは……
ロマンチックに言うならゲンキ君と心が通じあったみたいだったからかな?

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「確かに俺はアスカの注意は引いたけど、まさか鉄砲撃ってくるのは考えてなかったよ。
アレは本当にヤバかったよ、だからありがとうな」

どうやら、あそこでアスカが引き金を引いてくるのは予想外だったらしく、そのことについてゲンキは『  』に礼を言った。

「ふ~ん、そうなんだ」
「そうだよ、俺は大したことしてないさ」
「……」

突然、キョンの妹が無言になり、気になったゲンキは声をかける。

「ん? どうし……うわっ!」

ゲンキの胸に彼女が急に無言で抱きついてきた。
それに驚くゲンキ。

「お、オイ、いきなり何すんだ……」
「……ひっく、えぐっ」

そして、彼女はゲンキの胸元で泣いていた。

「……どうしたんだよ」
「……怖かった、死ぬほど怖かったの……」
「そうか・・・・・・」

きっと彼女は、ついさっきまでずっと死の恐怖に曝され続け、安心できる今になってそれが弾けたんだろう。
それを察したゲンキは、彼女と抱き合う形になり、優しく声をかけていく。
それはまるで恋人を気遣う男のようだった。

「もう大丈夫だよ『  』」
「うん……」
「顔の傷は痛まないか?」
「痛いよ……だけどきっと死ぬよりかは絶対マシだよ」
「そうか、後で手当てしような?」


――二人がそんなやり取りをしている横で、朝倉とヴィヴィオ、アスカ側の空気は険悪だった。

「さて、この子をどうしようかしら」

朝倉はアスカの処断を考える。

「あまり、酷い事はしないで」

ヴィヴィオは朝倉に、寛大な処置を頼んだ。
確かにアスカは許せない事はしたが、かといって情によるものか酷い罰を与える気はヴィヴィオには起きなかった。
やがて、泣き止んだ『  』とゲンキも、アスカの処断について加わる。

アスカの方は、朝倉に銃で狙われているため一歩も動かない。
しかし、逃げる隙でも伺っているのか、どこかよそよそしかった。

「あなたたちはどうする?」

朝倉はゲンキたちにも意見を求めた。
ゲンキは口を開き、自分の気持ちを言おうとする。

「あぁ、この人を――」

言いかけたその時、ゲンキは数十m離れたグラウンドの隅の木や影の中に、光る何かを見つけた。

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ふぅ、まさか人質の女の子が変身して自力で脱出するなんて、思っても見なかったよ。
アレも魔法なのかな~?
師匠に教えて貰えるかな~?

さてさて、何はともあれ作戦シフトはA。
人質を手元から失ったアスカを私が射殺する。
これはもう決まり事だ。
アスカ、アンタは生きていてもろくなことがなさそうだからここで死んだ方がマシだよ。
私や師匠や殺し合いから脱出しようとしている皆様方のためにもね……

射線や射角、狙いはバッチシ。
アスカからヴィヴィオたちまでの距離は約3m。
余程の事がないかぎり流れ弾の心配はないでしょ。
風速もたいしたことない。
これなら……



じゃあね、アスカ!
アンタの事は三日ぐらいは忘れないよ! 死ね。




そして、私はIMIミニウージーの引き金を引いた。

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最初はそれが何なのかゲンキはわからなかった。
ただ、その光るものが誰かを狙っているような気がした。
なんとなく、眼で追うとそれはアスカを狙っていると気づけた。
そして光るものが動いた時、ゲンキはそれが何なのかに気づいた。
気がつくとゲンキは自分の直感を口に出していた。

「あぶない!!」

そして駆け出した、アスカの方向へ。
拳銃とは違う、機関銃の銃声が聞こえた時と、それは同時だった。

小砂の放った複数の弾丸が、アスカに迫ってくる。
アスカが自分に迫る弾丸に気づいた時には、もう本人では避けられないほど迫っていた。
一瞬で絶望の表情を浮かべるアスカ。

そこへゲンキが彼女の体へ体当たりして、アスカを突き飛ばす。
射線から外れたアスカ。
代わりに射線に入ったゲンキ。

そしてアスカが受けるハズだったいくつかの弾丸を、ゲンキがその身に受ける。

弾丸はゲンキの腹部を食い破り、衝撃は内臓を潰す。

「あ、ぐぁぁ」

少年は苦悶の声をあげ、腹に空いた穴からだらりと血が流れ、地に伏す。

それは一瞬の出来事だった。

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自分にとって大切な少年が、アスカを庇って銃弾を浴び、血を流しながら倒れた。
その光景を見た瞬間、キョンの妹は絶望に表情を歪ませ、絶叫した。

「イヤあああぁあああ!!
ゲンキくうううぅうううぅん!!!」


その直後に、ゲンキを撃った……正確には誤射した小砂が思わず、声を上げる。

「ま、マジかよ!!」

自分たちを襲った人間を助けるとは予測できず、関東大砂漠の常識からして小砂の理解の範囲外でもあった。
それで思わず声を上げてしまい、その場にいる者たちに存在を明かしてしまう事になる。

「その声……小砂ぁぁぁ!!
なんでアンタがここにいるの!!」

「あぁ、ヤベ……」

アスカに名前を言い当てられた小砂は慌てて、事に対処しようとする。
しかし、朝倉はそんな彼女がいるであろう場所に無言で発砲する。
クロスミラージュから放たれる光の弾は、小砂を霞めたり、近くの木に穴を開ける。

「うわあああ、待って私は……」

大慌てで弁解しようとしたが、朝倉は問答無用で撃ち続けた。

「ひぇぇぇ!!」

説得は無理だと判断した小砂は、逃走を計る。
朝倉は何発も撃ってくるが、そこらじゅうに生えている木々が遮蔽物となり、小砂には一発当たらなかった。
しかも木やら影やらで身を隠しながら逃げてるため、姿もよく見えない。
気配はどんどん遠くなっていき、やがて消えた。

「逃げられたみたいね……」

朝倉はギリッと歯噛みした。
小砂を問題無用で撃ったのは、小砂が殺しあいに乗ってる可能性を考慮したからだ。
射線そのものはアスカを狙ってたが、その射線がそのまま自分たちに向けば、全員死んでいた可能性がある。
さらに、小砂にどんな意図があったかは知らないが、仲間を撃った事実もあるため、防衛とゆう名目で発砲した。
命中しても非殺傷設定なので死ぬことはないが、逃がすつもりもなかった。
なので、決して感情的になって発砲したのではなく、計算の上である。
……まったく感情が入ってないと言えば嘘になるが。


朝倉が小砂を逃がした時を同じくして、キョンの妹は倒れたゲンキに駆け寄り、生存を信じて、必死に声をかける。

「しっかりしてゲンキ君!!」
「う、ぐぅ……」

ゲンキはまだ生きていた。
しかし大の男が五発も喰らえば倒れる銃、それと同タイプの銃を幼い子供がもろに撃たれたのだ。
致命傷を追わせるには十分である。
その印に、口から、銃創からの血が止まらず、流れる鮮血は黒い。
みるみる内に血の水溜まりを作っていく。

「いや、いやあああ!
こんなの嫌だあああ!!」

止まらない血、生気を失っていく肌の質、大切な人がいなくなっていく感覚にキョンの妹は恐怖を覚え焦燥する。
銃創に手を当てて塞ぎ、血の出血を防ごうとするが、止まらない気配がない。
彼女は混乱するしかなかった。

『この出血じゃあ、もうダメなんじゃ……』
「うるさいタママ! 黙って!!」
『す、すいませんですぅ』
「まだ生きてるんだ、だから助けなきゃ」

ナビの失言にキョンの妹は罵倒し否定する。
だが、知識のない者から見てもゲンキの出血のスピードはすぐに死に至るものだとわかるほどだった。

ヴィヴィオはゲンキが撃たれた事に、ハルヒを重ねていた。
目の前で人が死ぬのを目撃したのは二回目、その事実にヴィヴィオはショックで棒立ち状態になっていた。
頭の中が真っ白で何をどうすれば良いかわからないのである。

しかし、そんなヴィヴィオの視界にあるものが写った。
それはナイフを拾い、立ち上がったアスカである。
アスカは、朝倉の注意が小砂に向いている間にナイフを拾いあげたのだ。

そして今度は倒れているゲンキに意識を集中しているキョンの妹の、後ろから近づき。

『ゲロォーッ! 後ろであります妹殿!!』
「えっ……」

キョンの妹が後ろへ振り返った時には、アスカはナイフを振り上げていた。
もう、彼女には避ける暇はない。

--そこでヴィヴィオの真っ白だった意識が一気に醒めた。
そしてキョンの妹の背後へと飛び出す。

「バルディッシュ、セットアップ!!」
『イエス、サー』

ヴィヴィオはデバイスを展開し、バルディッシュ・アサルトを黒い斧に変形させた。
そしてその斧を持って、アスカがナイフを振り下ろすより早く、キョンの妹の背後に立つ。
バルディッシュは相変わらず重く、非力なヴィヴィオには自由に振り回せる代物ではない。
だが、人を守るためだけなら、バルディッシュを盾として使うだけで十分だった。
ヴィヴィオは咄嗟に、バルディッシュの柄の部分でアスカのナイフを防いだ。
二つの金属がぶつかる音がして、ヴィヴィオとアスカの競り合いが始まった。

鬼のような表情のアスカが憎悪を込めて言い放つ。
「邪魔をするなぁ!
ヴィヴィオォォォォ!!」

暴力に立ち向かう意思を秘めた表情のヴィヴィオが想いを込めて言い放つ。
「これ以上、誰かを傷つける事をしないでよぉーーーッ!!」

二つ意思と武器がぶつかり合う。
しかし体格差や体力ではアスカが何枚も上手であり、さらにバルディッシュ自体が重い。
すぐにアスカに押し切られそうになってしまう。
だがアスカのやり方が許せず、負けたくないヴィヴィオは必死に抗う。

「ヴィヴィオちゃん!」

抗がった事は無駄ではなかった。
朝倉が事態に気づき、アスカへクロスミラージュで発砲しようとする。

「チッ!!」

朝倉が自分を狙っていることに気づいたアスカは、ヴィヴィオとの競り合いを中止し、これ以上は不利だと思ったのか、逃げる事を選択した。

「あなたは少し痛い目に会いなさい」

朝倉は逃げるアスカの背中に容赦なく何発も撃ち込む。
アスカはそれらを避けようと右へ左へと行くが、そのうちの二発がアスカの背中に命中する。
非殺傷設定なので死ぬことはないが、気絶するほど痛みはあるハズだった。

「グッ……クソォォォ!!」
「なに!?」

だが、アスカは痛みで倒れそうになる身体を、根気と執念だけで立ち上がらせ、逃走を続行する。
朝倉は驚いた。
気絶しかねない攻撃を喰らっても倒れないアスカの執念の力に。

朝倉は発砲を続けるが、相手が遠くへ行くほど命中精度は落ちていき、弾が当たらない。
とうとうアスカの姿は見えなくなった。

「……あっちにも逃げられたわ。
それにしても、これは体力を使うみたいね」

クロスミラージュの引き金を引く度に魔力の代わりに体力が消耗していく、体力を消耗するのは、自分には魔力がないからだろう。
朝倉が実際に使用してみてわかったことだ。

「それにしても……アスカに関しては殺傷設定にするべきだったかしら」
『Ms朝倉。
Msヴィヴィオが悲しみます』
「……ほぼ殺しあいに乗っているような人を野放しにするのもどうかと思うわよ」

朝倉は取り逃がしたアスカに殺すべきだったのかと懸念を抱きながら、ヴィヴィオたちに声をかける。

「ヴィヴィオちゃん、怪我はない?」
「私は大丈夫です、でも……」

ヴィヴィオは悲しそうにキョンの妹とゲンキを見る。
ゲンキは周りに大きな血だまりを作り、さっきまであれほど血の通って肌は土気色をおびだしている。
まだ生きているどころか、意識を手放していないのは奇跡だった。

『「小砂」と思われる人物の射撃は、索敵範囲外ギリギリからの射撃でした。
発見ができず誠に申し訳ありません』
『本来の索敵範囲はもっと広い。
しかし、我々の索敵能力と索敵精度は主催者の手によっていくらか抑えられてるようです。
まさかクロスミラージュまで同じ制限があるとは考慮してませんでした』
『くぅぅ、我々のレーダーがもっと広ければゲンキ殿は……』

デバイスやパワードスーツの人口知能たちが報告する。
感情はあっても所詮はプログラムであるハズの彼らだが、交わす言葉には本当に嘆いているようだった。

「仕方がなかったのよ……」

朝倉がデバイスたちに送った言葉は諦めとも、労りともとれるものだった。

ふとキョンの妹が、朝倉に縋り付く。

「お願い! ゲンキ君を助けて!!
私の力じゃ助けられないの!!」

助けを求める彼女の顔は、涙と鼻水と、アスカにつけられた大きな傷から滲み出る血でボロボロである。
傷に至っては顔の筋繊維まで露出して、処置も施されてない以上、かなりの痛みを伴っているだろう。
しかし、その痛みすら無視して、ゲンキの助けを求めていた。

朝倉は、ゲンキを見る。
身体の被弾箇所と出血量から、内臓破裂を予想。
呼吸ができて即死でないことから、呼吸器や心臓は無事のようだが、致命傷には変わらない。
だが、自分には情報改変能力がある。
それを使って怪我を治せば……

「わかった、やってみるわ」

キョンの妹の願いを聞き入れ、朝倉は倒れているゲンキの前で膝をついて座り、ゲンキの傷に向けて能力を発動する。

ゲンキの銃創は塞がり、出血が止まっていく。
キョンの妹は一度は希望に眼を輝かせた……が。

「……これ以上は無理ね、私では彼を助けられないわ」

銃創を全てを消し去った朝倉から出た言葉は諦めだった。
キョンの妹とヴィヴィオは、彼女の諦めの言葉に信じられないという風に反感する。

「嘘でしょ!?
傷は塞がってるのに!」
「どうして? 涼子お姉ちゃん!」

二人に朝倉は事情の説明をする。

「外側の傷を塞ぐ事はできたわ。
だけど、体内の負傷……内蔵破裂や骨折・血管の損傷・体内に入った弾丸、それによる内出血を治す事はできないみたい」
「そんな……」
「外側の軽い傷は治せても体内の怪我は治せない、それがクロスミラージュやバルデッシュと同じように私の能力にかけられた制限みたいね」

おそらく長門がかけた制限なのだろう。
朝倉の見立てでは、自分を含めた参加者の身体にかける分には情報改変能力は傷を塞ぐ程度にまで落ちるようだ。
でなければ、自分は致命傷でも一瞬で復活でき、誰が相手でも触れただけで殺すことができる。
そうなれば、この殺しあいは朝倉のための出来レースと化す。
それを防ぐための処置としての制限なのだ。
朝倉は長門を恨みつつ、自分の能力の制限について理解した。

「それじゃあゲンキ君は……」

希望を打ち砕かれたキョンの妹は、恐る恐る朝倉に尋ねた。


「ごめんなさい、彼はもう……」

そこから先を朝倉は言わない。
言わなくても理解できただろうから。

「そんなのって……そんなのいやあああああ!!」

ゲンキを助けられない失望と絶望にキョンの妹はその場で膝と手を付き。
ただ泣き叫んだ。

「嫌だ嫌だ嫌だぁ!
ゲンキ君が死んじゃうなんて……ゲンキくんがぁぁぁぁぁぁ!!」

朝倉とヴィヴィオにはかける言葉がなかった。
彼らにはまだ会ってから数分しか立ってない間柄で、ゲンキと彼女の間に何があったのかなど、わからないのだから。

だが、彼女に声をかけられる人間がいた。

「泣くなよ……『  』」

息も絶え絶えであるハズのゲンキが、彼女に声をかける。
彼の一言が、少女を一時的に慟哭から解放する。

「しゃ……喋っちゃダメだよゲンキぐん……」

少女はゲンキに振り向いた。


――朝倉は、これから死にゆくであろうゲンキに対して不可解な事象があった。

出血量と怪我からして、彼はもうじき死ぬだろう、が。
常人なら銃に撃たれた時点で、とっくに死んでいるのだ。
内臓は破裂しているようであるし、子供はもちろん大人ですら普通はショックで即死しかねないダメージを負っているのだ。
それなのに彼は、数分も生きているどころか意識する手放さない。
それは奇跡を越えて異常な事である

原因を上げるとするならば、彼の体内から滲み出る『エネルギー』であろうか。
朝倉はそれを彼に触れた時から観測している。

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「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生チクショーーーッ!!」

学校の敷地から離れ、市街地の中を疾走するアスカは吠えていた。
化け物一匹も殺せなかった悔しさから。
自分がメイド服の女に追わされた背中の痛みから。
今は逃げることしかできない自分のぶざまな姿から。
後一匹殺せば加持を探せたのに、あと一歩の所で阻止されたから。
その全てが燃料となり、憎悪の炎ははげしく燃え上がる。

「チクショーーーッ!!」

先程まで、ママに褒めてくれる・応援してくれると思っていれば何がなくとも幸せな気分になれた。
だが、アスカが頭の中で想い描くママが、今の自分の失態を見て、失望している様が眼に浮かんだ。
それがアスカには悲しくて涙が流れてくる。

(そんなの嫌……クソッ、アイツら許せない!)

アスカはこの悲しみを、自分を不幸にする「化け物」への憎しみに変換する。

(私が間違ってるとほざいていたゲンキとかいう奴……まぁ、死んでせいせいしたわ。
やっぱり私が正しいのよ)

自分の正義を真っ向から否定したゲンキ、それが死んだことに関してアスカは喜んでいた。
自分を助けてくれた事実は全く認めてないようである。
だが、憎しみの矛先はそれだけではない。

(小砂……なのはの腰ぎんちゃくめ、まさか撃ってくるとは……
アイツは絶対、高町なのはの差し金ね。
高町なのはは、加持さんを助けるために利用するつもりだったけど、奴の方から裏切るなんて思わなかった。
天使のような顔をしても、所詮化け物の仲間なんだ。
悪魔め……利用するのはもうヤメよ。
いつか殺してやる! できれば娘の目の前で惨たらしく殺してやる!)

根拠のない事を、都合良くこじつけして事実を捉え、高町なのはや小砂に敵意と殺意を抱く。

そして最も憎しみを抱いたのは……

(ヴィヴィオめぇぇぇ!
アイツがあの時邪魔しなければ、三匹目を殺せたのに、あと一匹殺せば加持さんを助けられたのに。
それを邪魔しやがってぇ!!)

長斧を持ち、『  』の背中を守ろうとしたヴィヴィオの姿。
それがアスカには堪らなく憎くかった。

(それに何よ!
最初に会った時はぴーぴー泣いてたクセに。
急に強気になって、私に反抗して、睨みつけたきたあの眼は!!)

「ヴィヴィオのクセに生意気なのよぉーーーッ!!」

思わず声に出してしまうほど、ヴィヴィオが強くなったのが気に入らなかった。
憎悪の炎が加速する。

(今すぐに引き返してヴィヴィオを殺してやりたい)

アスカが一度立ち止まり、校舎の方へ振り返る。
しかし、すぐに止めて、前を向き、再度走り出す。

(待ちなさい、私。
クールになるのよ、アスカ。
奴にはメイド服の女や『  』がいて、武器も豊富よ。
それに比べて私は貧相なナイフが一本だけ。
悔しいけど、戦力に差がありすぎるわ)

アスカは思考を、冷静に働かせるように考える。

(今のままでは絶対にヴィヴィオには勝てない……)

その結果、導きだした答えがコレである。
だが、同時にそれに対する打開策も考えていた。

(なら、簡単よ。
『人間』の仲間を集めるのよ)

自らが導きだした答えに、アスカはニヤリと笑う。

(私や加持さんがいるくらいだもの、他に『人間』は絶対にいるわ。
私はその人たちを仲間に引き入れるのよ。
正義のためなら、化け物を殺すためならきっと協力してくれる)

そしてアスカは自分の知っている人間に関して、思い深める。

(加持さんみたいな人が一番良いんだけど、加持さんは今、どこかでピンチのハズよ。
逆に助けなきゃ。
副指令は頭が良さそうだけど、年寄りだし、サツキに刺された。
生きててもなのはの手の中ね、見捨てるようで残念だけど……
バカシンジは愚図でどーでも良いと思ってたけど、今考えれば肉壁ぐらいは使えそうね。
会ったら一応、仲間に引き入れとこうかしら)

アスカの中で化け物たちを殺す算段ができあがっていく。
そして、次の行動方針が決める。

(それにはまず、アイツらから逃げる必要があれわ。
とすれば、この辺りから移動した方が良いわね。
東には高町なのはいるだろうから、避けるべきだわ)

移動方針としては、高町なのはのいる東方面以外は避けたかった。
それとは別に、化け物たちを殺す算段を頭の中で練り、顔に薄気味悪い笑顔を浮かべてアスカはどこかへ駆け出す。

(待ってなさいよ、高町ヴィヴィオ、高町なのは、その他諸々の化け物ども。
『私たち人間』が近い内に殺してやるから!)



幾人もの人をいろんな意味で傷つけた少女は、また誰かを傷つけるのだろうか……


【C-3 市街地/一日目・夕方】

【惣流・アスカ・ラングレー@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】右手人差し指喪失(治療済み)、背中に火傷(治療済み)、髪が肩ほど、拳に打撲跡、
    背中にダメージ(大)、消火器の粉であちこち汚れてる、
    『化け物』への強い憎悪と倒すことへの使命感(増大中)、頭はすっきりしている
【持ち物】アーミーナイフ@現実、予備カートリッジ×12@リリカルなのはStrikerS、
     コントロールユニット(ガイバーⅡ)@強殖装甲ガイバー、モッチーの首輪、モッチーの円盤石、
     砂ぼうずの特殊ショットシェル用ポーチ(煙幕弾(2/3)、閃光弾(3/3)、グレネード弾(1/3)、ガス弾(1/3))@砂ぼうず
     ディパック、基本セット、ホテル外壁のメモ用紙
【思考】
0、「化け物たち」を殺すために「人間」の戦力を集める。
1、化け物たちを殺したご褒美で今度こそ加持の情報を得る。
2、高町なのはに憎悪、ヴィヴィオにはさらに強烈な憎悪
3、エヴァンゲリオンのパイロットとして、「化け物」を殺して人々を救う。
4、「人間」以外は問答無用で撃つ。ガイバー?(深町晶)は必ず殺す。
5、バカシンジも肉壁ぐらいになりそうなので、協力を仰ぐ。
【備考】
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※アプトム(名前、顔共に未確認)を殺したと思っています。
※「化け物」と「人間」の認識の境界がきわめて曖昧です。
※高町なのは、小砂?、ゲンキ、キョンの妹、朝倉(メイド服を着た女)を化け物と認識しました。
※高町なのはがいると思われる東以外のどこへ向かったかは次の書き手さんにお任せします。


---



一方、こちらは意図せずして人を傷つけてしまった少女・小砂。
彼女は駆け足でB-4まで戻っていた。
ゲンキを誤射してしまった彼女はヴィヴィオの仲間から、殺しあいに乗っている思われ、追撃を恐れた彼女は学校から逃げ出した。
しかし、彼女の中に解せない思いがあった。

「ありえないよ!
自分たちを襲った敵を庇うなんて……あんな馬鹿な事しそうなの師匠だけかと思ったのに。
おかげでアタシが悪役扱いだよ!」

小砂ゲンキを誤射したことについては、なんの感慨も抱いていない。
むしろ文句をたれている。
問題なのは、そのゲンキの聖者じみた行動により、自分の放った弾丸を受け、そのゲンキ(たぶん死んでる)を自分が殺してしまった既成事実を作ってしまった事だ。
結果、アスカは殺せず、ヴィヴィオを助けたというよりも、客観的に見れば漁夫の利を狙っていた殺人鬼のようになってしまった。

「どうしよう……
師匠には必ずヴィヴィオちゃんに合わせなきゃいけないし、そうなれば隠しようがないし……」

事実の隠蔽はできない。
彼女たちを生かす以上、絶対に事実は行き渡る。
そうすれば、師匠は怒って魔法を教えてくれないだろう。

――そこで小砂は閃いた!――

「そうだ!
師匠にはこのことを、泣いて謝って土下座しながらこの事を伝えよう。
あのお人よしな人の事だから、きっとそこまですれば許してくれる!」

高町なのはは、関東大砂漠ではありえないくらいの聖者(変人)だ。
そんな彼女に、人を殺した事でも泣いて謝れば許してくれるだろう。(ただし、小砂は罪悪感を抱いてないので、実際は謝るフリ)
そう、小砂は踏んでいた。

「それにヴィヴィオも生きてるし、居所もわかったんだから師匠も文句は言わないハズだよねキヒヒ」

少しばかり都合の良い妄想に小砂は笑った。
だが、そこで背後から物音。

ガツンッ

「なッ!」

小砂は咄嗟に振り返り、ミニウージーを構える。
まさか、ヴィヴィオの仲間がここまで追ってきたのか?
と、小砂は思ったが、そこには手で持てる程度の大きさの機械のような物が地面に落ちていた。

「?」

なんだこれ?
今さっき、走ってる時にはこんな物なかったぞ。
と思った矢先だった。




背後から小砂の喉元を、爪状の刃が襲いかかり、喉を引き裂いた!!

「!!」

小砂が気づいた時には、もう手遅れだった。
叫ぶことはできなかった、喉笛ごとを喉を裂かれて叫べないからだ。
斬られた首の動脈から血が噴水のように吹き出し、もう止められなかった。
動かせるのは思考のみ。

(しまった……
物を投げて相手の注意を引きつけ、注意している隙に別の方向から襲いかかる単純なブービートラップ……!
私はそれにあっさりと引っかかたの……ね)

敵の意図に気づいたとしても、もう遅かった。
急速に力が抜けて足が体を支えられなくなり、小砂は前へと倒れた。
さっき血の池を作った自分が、まさかこんな早くに自分の血でできた池に沈むとは彼女は思わなかっただろう。
意識も薄れ始め、視界も閉じていく。

(ああ……死ぬんだな私)

恐怖は感じてなかった。
死の恐怖を感じるよりも早く、生命活動が停止していくのだから。
そんな死の間際に、二人の男女の背中が思い浮かぶ。

男は砂ぼうず。
欲深く卑怯で女にだらしない最低の男。
女は高町なのは。
お人よしで関東大砂漠では変人と言われても良いぐらい心清き女。

二人は戦闘スタイルや思想、品性こそ大きく違ったが、小砂の中で共通するものがあった。
――二人が「強いこと」である。
その強さに小砂は憧れを抱き、自分もその強さを手に入れたい野望があった。

(うう、こんなところで死んじゃうなんて……師匠のような凄腕魔法少女か、先生のような凄腕に……なりたかった……よ)

その思考を最後に、彼女の野望と人生は潰えた。
その幕切れは、あまりにも呆気なく……

【小泉太湖(小砂)@砂ぼうず 死亡確認】

---



自分が首を引き裂いて殺した少女にはなんの感情も抱かず。
ズーマことラドック=ランザードは、ベアークローについた血糊を払う。

ズーマが小砂の存在に気づいたのはつい先程。
市街地を奔走する中で首輪探知器のバッテリーが切れた時だった。
ズーマは突然画面が消えた首輪探知器に気づくが、バッテリーの存在を知らないズーマが振ったり叩いたりしても動く気配がなく、次第に首輪探知器はもう使えないことに気づいた。

「……クソ」

首輪探知器を利用して、参加者を皆殺しにする目論みはここで立ち消えてしまった。
それでも、画面が消える寸前に誰かが接近してくるのは見えた。
とりあえず、その者を殺して装備を奪い、ネブラ型の武器があれば良しと思い、対象者が通るであろう道の側にある住宅の屋根の上に登り、身を隠した。

しばらくして、小砂を視覚に捉える。
一度接触したことがあるため、小砂がなのはほどの実力を持ってないことは知っていた。
小砂以外の者の気配はなかったので、今なら確実に殺れるとズーマは意気込んだ。

しかし、正面から戦っても勝てるだろうが、反撃ぐらいは確実にしてくる。
魔変化の男やなのはのような強者を相手にするためには、僅かな体力の消耗すら今は避けたかった。
そこでズーマは、簡単な罠で小砂を殺すことを選ぶ。
小砂は幾分か焦ってる様子なので、今なら簡単にブービートラップにも引っ掛かるだろうと思った。

そして気配を消し、小砂が自分ががいる建物の近くを通りかけようとした時に、屋根の上から小砂の後ろに目掛けて役立たずになったゴミ――首輪探知器を落とす。
作戦通りにゴミに気を取られた小砂が振り向き、その隙にズーマが屋根を降りて小砂の背後に移動。
アサシンであるズーマは物音を立てず、気配を消して忍びよることなどたやすい。
それが小砂が最後までズーマの接近に気づけなかった要因でもある。
逆に言えば、相手がズーマでなければ小砂に反撃の余地はあったかもしれない。

そして小砂の首を鍵爪で斬りつけ……小さな労力で殺害に成功する。

だが、収穫はあまり良いものではなかったようだ。
死体となった小砂の手から銃を拾うが、こんな武器では魔族辺りには効果が薄く見える。
それでも武器としては無いよりはマシだから一応は回収はする。

ディパックにはシーツやらボロボロの人形やら明らかに殺しあいに約に立たない物ばかりで捨て置いた。
残念ながら求めていたネブラ型の武器は何一つなかった。

「さて、どうするか……」

ズーマの行動方針は、小砂の向かっていた学校へ向かうことだったが、その小砂は学校から慌てて離れていた上に、それをズーマがたった今殺害した。

「……」

ズーマは、屋上から落としても(外面を見る限り)壊れてなかった首輪探知器は見て思う。
小砂が慌てて逃げる様子から、学校の方で何かしらあったのは予想づく。
ひょっとしたら今の自分では手に負えない相手が学校に現れたのかもしれない。
強力な武器を手に入れるのに焦って、学校の事を知ってるだろう小砂を殺すのは失敗だったかと思い始める。
尋問でもして学校の方面に何があったのか聞き出してから殺しても良かったかもしれない。
多少労力を割いても、敵か何人いるのか、どんな敵がいるのかぐらいは効いておくべきだった。
ともあれ、今の所、行く当てもない。
しいていうなら、ホテルの方面に魔変化の男がいそうなので、今は避けたいと思ってるぐらいだ。

さぁ、C-3の学校へ行くか、別の道をとるか?
アサシン・ズーマの選択は……

【B-4 市街地/一日目・夕方】

【ラドック=ランザード(ズーマ)@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、右腕・背中に傷(比較的軽傷)
【持ち物】ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ、
     ジェロニモのナイフ×1@キン肉マンシリーズ、IMIミニウージー(9mm口径短機関銃)(13/32)@現実
【思考】
0、C-3の学校へ行くか否かを決める。
1、参加者を全て殺す。
2、リナ=インバース、高町なのは、魔変化の男(アプトム)を必ず殺す。
3、ネブラ型のアイテムを探す。
4、ゲームの関係者を全て殺す。
5、依頼料を取り戻す。
【備考】
※魔法や身体能力の制限に気づきました。自分だけでなく異能者全員にかかっているのではと思っています。

※B-4の市街地のどこかに、小砂の死体、ディパック(清潔なシーツ、ディパック、基本セット、人形@新世紀エヴァンゲリオン)が放置されてます。
※バッテリー切れを起こした首輪探知器が、小砂の死体の近くに捨てられています。
※屋根から落としたため、首輪探知器が壊れている可能性があります。





終結へ





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