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情報を制する者はゲームを制す?(前編) ◆321goTfE72


本来ならば賑やかな喧騒に包まれているであろう場所、ゴルフ場のロビー。

しかし。
残念なことにそこは静かだった。
わずかにものを咀嚼する音が響き、余計にもの寂しい気分になる。
だがそんな感傷に浸っている場合ではないことをもちろん彼は理解していた。

(ムハ~。困ったものです)

虫だんごを頬張りながらハムはちらりと夏子を見た。
ちなみにこの昼食はシンジのために食料の半分を失ったハムに
夏子が提供してくれたものである。

(我輩に気を遣うほどの余裕があるとはとても思えませんが)

沈んだ表情で壁に設置されたゴルフ場内の案内図を見つめながら
黙々とパンを口に運ぶ夏子の表情を見て、ハムはそう思った。

戦闘の心得もあり、冷静、頭も回る。
しかし武器も戦闘技術も先程の怪物――悪魔将軍には何の役にも立たなかった。
冷静に下したはずの判断の結果、行き着いた先はあの有様だ。
頭が回るからこそ余計な葛藤に苛まれてしまっているのだろう。

似たような属性を持つハムだからこそ、それは分かる。

だがハムは夏子と違い、みくるやシンジに対して大した思い入れはない。
極端な話、みくるは『情報源』、シンジは『仲間達の信頼を得るためのツール』であったと割り切れる。
たとえ悪魔将軍に彼女らが殺されていたとしても、決していい気分こそしないが引きずりはしない。

もし、夏子がこのまま立ち直らなければ、
同じように割り切って別れることも視野に入れよう―――

先ほどと大差ない結論をハムは虫だんごと共に腹の奥にしまい込み、夏子を見た。
夏子もパンを食べ終わり、水を軽く口に含んでいるところだった。

「夏子さん。この後はどうされるおつもりですか?」

夏子の口の中が空になったタイミングでハムが尋ねた。
彼女の返答次第ではここで別れる流れに持っていくつもりだ。
そんなハムの思惑には気づいていないだろうが、夏子は少し間を置き口を開いた。

「まず、南・西という選択肢はないわね。理由は言うまでもないでしょう」

あの怪物から逃げ出した位置はおそらくここから南西の地点。
南・西に向かえば遭遇する確率は高まる。次に遭遇すれば、無事でいられる確率は高くはない。

「さらに、東の街道沿いに南下。これはせいぜい下策。
 うまくいけば万太郎君と合流できるかもしれないけど
 逆にいえば万太郎君が相手をしたはずのあの白い仮面の男と遭遇する可能性もある」

「おまけにモールへの道は禁止エリアとなり封鎖されているのだから、できればご遠慮願いたいものですな~」

「そして、市街地に向かうというルート。
 みくるさんがいない今、私達だけでどれほどの情報を得られるかは分からないわ。
 主催者に接触するというみくるさんの試みの方法も聞かずじまい…。
 他の参加者と会える可能性は高い分、私達の戦力ではかなりのリスクを伴うわね。
 遭遇する参加者次第だけど、うまく逃げ切れなければ…終わりね」

市街地に関してやや逃げ腰の意見の夏子に対し、ハムは批判する気にはなれなかった。
ハムも腕には多少の覚えはある。
が、自分達ではどうしようもない参加者がいるという事実を身をもって知らされたのだから
これくらい消極的になるのは致し方ないと思うし、理解できる。
だからといってここですんなり同意するわけにもいかないのだが。

「参加者との接触する際のリスクは避けて通れないものです。
 それにマンタさんとの集合場所のことを考えれば…
 少なくとも次の放送までには向かわないわけにはいかないでしょう」

ハムの意見は想定していたのだろう、夏子はすぐさま言葉を続けた。

「もちろんそのつもりよ。
 よって、私達の身の安全を最優先。争いごとにはできる限り関知しない方針で公民館を目指すことにするわ。
 でも18時までにはまだ随分と時間がある。そこで、少しの間ここに留まろうと思う」

「このゴルフ場でですか?それはいくらなんでも…」

時間の無駄になるのではないか、そう言おうとしたハムを制し夏子は壁のほうへと歩きながら付け加えた。

「確かにこの施設には有用な道具は少ないでしょうね。でも、ここならどうでしょう?」

彼女は壁に設置されている案内図のある一点を指差した。
そこ書かれていた文字は―――『事務室』。






夏子達が事務室へと向かった数十分後。
こちらはゴルフ場から近いとはいえない図書館。
"泥団子先輩R"ことドロロはパソコンの前に座り"ゴーレムの友"こと深町晶達とチャットを行っていた。
その傍らには栗色の髪の美少女魔道士のリナがドロロを急かしながら座っている。
ドロロとリナは先程は見れなかった遊園地のパソコンの中に隠された情報を、
図書館の『華麗な 書物の 感謝祭』の本――『プロジェクトF~挑戦者たち~』――を用いて見るつもりだ。
そのことを晶に伝えて、今後の予定を立てるつもりなのである。




  ゴーレムの友>遊園地に向かうのですか。学校のそばを通りますね。危険ではないのですか?
  泥団子先輩R>危険は承知の上でござる。そもそも、安全な場所などないでござろう。
  ゴーレムの友>それもそうですね。分かりました。
  泥団子先輩R>18時までには遊園地のパソコンからチャットを試みるでござる。
  泥団子先輩R>不測の事態が発生すれば予定通りとはいかないかもしれないでござるが。
  泥団子先輩R>そちらは食料などがないようでござるが、これからどうするのでござるか?
  ゴーレムの友>私はガイバーだから平気なのですが、他の仲間は…
  ゴーレムの友>18時ぐらいまでなら十分我慢できるとのことです。
  ゴーレムの友>そちらの話では施設内に食料がある可能性もあるとのことなのでリングの録画を見た後探してみることにします。




「決まりね。あたし達は遊園地に向かう。こいつらは博物館で待機。
 そうとなればここでのんびりもしてられないわ」

「そうでござるな。そろそろ切り上げることにするでござる」

ドロロは言うや否やキーボードに指を走らせた。




  泥団子先輩R>では、拙者達は遊園地に向かうことにするでござる。
  ゴーレムの友>分かりました。気を付けてください。
  泥団子先輩R>お心遣い感謝するでござる。それでは。




少々名残惜しい気もしたがドロロは『退室』のボタンをクリックした。
名前の入力画面に戻る。
掲示板に新たな書き込みがないかをチェックし、すぐさまパソコンの電源を落とした。
本も持った。パソコンに見られて困るデータは残っていない。いつでも発てる。

「それじゃ行きましょうか」

「リナ殿。今から学校の付近を通過することになるでござるが…未だに危険人物がいる可能性もあるでござる。
 少なくともパソコンのアクセス記録から人がいる可能性は高いでござる。
 拙者もリナ殿もある程度回復はしたでござるが時間はあまりないでござる。
 だから―――」

「はいはい、分かってるわよ。やり過ごせばいいんでしょ。
 あたしもこれ以上ややこしいことになるのはゴメンだしね」

荷物を手に取りながらリナは言った。
もっとも、そう言ってるリナ自身、状況次第ではすぐに反故しそうだと思っているのだが。
ドロロ自身も人のことは言えず、知り合いや弱者が危険人物と交戦中―――ともなればすぐさま加勢しそうではある。

リナは図書館を出る際に先程のチャットで得られた情報を頭の中で整理してみた。

  • チャットの相手は深町晶とスエゾーと小トトロ
  • 彼らの仲間はゲンキ、ハム
  • ギュオー、ネオ・ゼクトール、アプトムはクロノスのメンバー。敵対する可能性あり
  • 主催者はクロノスの幹部の可能性あり
  • 0号ガイバー、白い仮面で背中に巨大な腕を持つ男は危険
  • 博物館のキーワードで得られる情報は特設リングの位置と映像
  • ガルルはスバルという少女と一緒にアシュラマンと戦った後に死亡したとみられる
  • アシュラマンの死亡も同時期。どちらも犯人は不明
  • 深町晶は素直でチョロイ
  • 名簿にある『ナーガ』は『白蛇のナーガ』ではないらしい

(ナーガ、ねぇ…)

あの蛇の怪物がナーガであるというのならリナの知っているナーガはここにはいないのだろう。
ほっとした、というのが正直なところだ。

(冷静に考えれば、半日経過して生き残ってる時点で"あの"ナーガなわけないわよね)

過去を思い出したのか、苦笑いとうんざりの中間のような表情でボソリと呟いた。
仲間がいるところで無差別殺戮魔法をぶっぱなしたり
『スリーピング』で仲間を眠らせてしまったり
誤って首輪の解除ができる人物を殺してしまったり………
なんというか、致命的なミスを平気でやらかしている様がありありと目に浮かぶ。

「…ホント、あいつじゃなくてよかった…」

リナは今度はひきつった笑顔で再度呟いた。

「何がでござるか?」

「ううん、こっちのこと。じゃあ気を引き締めて行くわよ!」

「心得たでござる!」

二人は図書館の扉を開け南へと駆け出した。
果たして無事に遊園地に着くことはできるのか。
何が彼女らを待ち構えているのか、それを知る術はない。



【B-3 図書館前/一日目・夕方】





【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(小)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.早めに遊園地に向かい、パソコンを調べる。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.「KSK」という言葉の意味が気になる。





※なのは世界の単語が車に関することだと思っていましたが、違うような気がしてきました。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン(名前は知らない)、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※深町晶がアシュラマンの首輪を持っている事を知りました。





【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】精神的疲労(小)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.早めに遊園地に向かい、パソコンを調べる。
2.当分はドロロと一緒に行動する。
3.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
4.草壁サツキの事を調べる。





※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン(名前は知らない)、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※深町晶がアシュラマンの首輪を持っている事を知りました。
※10冊の本の内容を大まかにチェックしました。







「行ったみたいやな」

(泥団子先輩Rさんが退室しました)という表示を見て、スエゾーが言った。

こちらはH-8の博物館。
ドロロ達とチャットをしていた相手である深町晶・スエゾー・小トトロがいる場所である。

「ああ。俺達はドロロさん達が遊園地に着くまでに、このファイアーデスマッチの行く末を見てしまおう」

「そうやな」

そう言ってスエゾーはディスプレイを覗き込み、小トトロは晶の肩まで駆け上がった。
それを確認し、晶は『再生』をクリックする。
ディスプレイに移るウインドゥの一つに展開していた
ファイアーデスマッチ用特設リングの録画情報が再度流れ始めた。



『その勝負……ちょっと待ったぁーーッ!』
『……何ッ!?』



「お、さっきのスバルっちゅう女の子が…って跳んだ!?」

「この跳躍じゃリングに着地できずに炎の中に落ちるぞ!?」

録画情報であるのに、そして生きていることは確定しているのにもかかわらず焦る二人。
そんな彼らを尻目に映像はどんどん流れていく。



『わかってる、レイジングハートっ……『ウイングロード』ッ!』



炎の上に蒼い橋が発生し、当然のように着地したスバルはリングの上へと駆けて行き、
アシュラマンとガルルに割って入った。
"魔法"という予想外の展開に晶とスエゾーが感嘆の声を上げる。
そして、少しの問答の後―――



『だけど、もし私が――私たちが勝ったら、『もう殺し合いはしない』って誓って! 』

『良かろう! 万が一にでもこのアシュラマンが負けたなら、何でも言うことを聞いてやる!』



「やっぱり、このスバルという女の子はガルルさんの仲間で、殺し合いにはのってないみたいだな」

「こんな相手のことまで気遣うなんて、まるでホリィみたいなヤツやな…って、なんやこいつは!!?」

自分で出した『ホリィ』という言葉にしんみりしかけたスエゾーの口が驚きの声を上げる。
なんと、リングに巨大な握りこぶしが降ってきたのだ。
しかもその握りこぶしから現れた姿には見覚えがあるときた。

「晶!こいつやこいつ!オレを襲ってきてボロボロにしたヤツや!!」

「コイツがそうなのか!?このまま映像を見てみよう」

突如割って入った怪人は"オメガマン"と名乗り、アシュラマンと急造のコンビを組んだ。
そしてガルルの持っていたパチンコを奇妙な術で背中へと転移させたオメガマンは―――



『『阿 修 羅 Ω 火 玉 弾 !』』



自らをパチンコの弾としたアシュラマンをリングに放った。
すぐさま回避するガルルとスバルであったがリングを囲むロープを利用して勢いを殺さずすぐに追撃を行うアシュラマン。
リングに残ったガルルはその餌食となり、中空に跳ねあげられる。
ロープを巧みに使い連続体当たりをし続けるアシュラマンの前になす術がないように見える。
そして、ガルルが反撃に転じようとした瞬間。



『オメガマンーーッ! よーく見ておけ、お前の相棒のフィニッシュ・ホールドをなーー! 』

『これぞ私の必殺技!  阿 修 羅 バ ス タ ー だーーッ!』



6本の腕でがっちりとガルルを自身の首の上に拘束したアシュラマンがリングの上に落ち、轟音が響いた。
画面越しに見ただけだが、その威力のほどは晶達にも想像に難くない。

「まさか、ガルルっちゅう人はこれで殺されてしもたんか…?」

「いや、まだ生きているはずだ。じゃないと銃弾が撃ち込まれていた理由が分からない」

アシュラマンに放り投げられピクリとも動かないガルルを注視する。
ほどなくして、ガルルは何事もなかったかのように起き上がった。
さしたるダメージを受けた様子はない。
こんな強者がこれからあれだけボロボロになり、死ぬことになるとは…想像がつかなかった。

どうやらガルルは自身の体質を利用した防御法をとったらしい。
そして、アシュラマンは本来の力が出ないとオメガマンに言っている。

「力が出ん、か。あれだけ強いのに本調子じゃないっていうんかコイツらは」

「…俺もガイバーで飛行をした時に違和感を感じたんだ。たぶん力が出ないというのは本当だと思う」

「ホンマかいな…でもその制限みたいなのがなかったらオレもコイツに殺されてたかもしれんな…」

コイツことオメガマンはスバルと交戦しようとしていた。
何かしようとしたがスバルが投げたトウモロコシに気を取られ、加速したスバルの拳が
メリケンサックごと顔面にめり込む。
杖を持っていたから魔法使いかと思っていた。事実、先程ウイングロードという魔法を使っていた。
そして魔法使いといえば火の玉を飛ばしたりして攻撃すると思っていたのだが
どうやらそう一括りにはできないらしい。
思いっきり吹っ飛んだオメガマンであったが、多少フラフラしてはいるものの戦闘に支障はないようだ。
そしてそんなオメガマンが取り出したのは―――銃。

「やっぱりこいつや!アシュラマンとガルルを殺したのはこいつに違いないで!」

「可能性は高いと思うけど、まだ断言は…ん?」

最高に緊張が高まっているリングの中央に穴が開き、何かが昇ってくる。
いったい何が出てくるのかと晶達が注目したそこからは。




 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | 僕は実況中トトロ!,|
 |_________|
    .∧ | ∧     
   ,i  |_,! i、    
   i .。 |_ 。, `i    
   i -ー、―-、 |    
   i ,/"^ヘ^i i   
   i i'       | |   
   i ヽ_,._,/ ,'   
    ゙ー---―'  




画面内の4人も一様に固まっていた。
そして、画面外の2人も同様に固まったいる。

「中…トトロ?」

晶のつぶやきと同時に、スエゾーと晶の視線がある一点へと注がれる。
肩に乗っている小トトロへと、だ。

「こいつもお前の仲間なのか?」

晶の問いに小トトロは頷いた(ように見えた)。
ここから永遠と中トトロの体調不良の愚痴が続くため、晶は容赦なく映像を早送りする。

そして10分ほど早送りした後に知らされる事実。

中トトロはこのリングの主でレフェリー兼実況兼観客なのだそうだ。
そして首輪はついていない。
それすなわち、中トトロは主催者の身内という可能性が高いということになる。
ということはこういう疑念が出てきても不思議ではないだろう。

"小トトロも、あるいは参加者であるトトロも実は主催者の身内なのではないか"

スエゾーもおそらく同じことを思ったのだろう。
晶の肩に乗っている小トトロを二人してまじまじと見つめる。
『こいつはスパイなのではないか』
そう言いたげな二つの視線を感じ、彼(?)のもふもふした表面から汗が噴き出てきた。
その小トトロの様子を見た二人が出した結論は―――。

「………ないな」

「そやな」

その疑念を否定するものだった。
別に『仲間を疑うのは良くない』とか『こんな白くてもふもふした小動物がスパイなわけない』とかいう
とってつけたような理由で違うと思ったわけではなく、そんな非効率なことをする理由がないからだ。

不和を生み出すような行動を起こすのにも意思疎通が困難な小トトロは不向きだろうし、
そもそもいるだけで場が和んでしまう。
盗聴・盗撮をしたければ特設リングに設置しているような録画機材を首輪にでも装着すれば済む話である。
もしかしたら首輪の戒めを解除した後の監視役として………とも思ったがそれもどうだか。
首輪が解除される事態を主催者が想定しているとはどうも考えづらい上に
少なくとも小トトロは0号ガイバーに殺されかけているのだ。監視役としては力量不足だろう。

「少しでも疑って悪かったな、小トトロ。お前は俺達の仲間だ」

そう言って晶はもふもふした小トトロの頭を優しく撫でてやった。
"気にしてないよ"と言わんばかりに小トトロはその晶の指にすりすりしてくる。
こんな白くてもふもふして可愛らしい小動物がスパイなわけないじゃないか、そんなことを晶が思った時だった。

別のウインドゥに開いていたチャット画面に(マシンガン三兄弟の妹さんが入室しました)と書き込まれ、
チャットの参加者の表示に『マシンガン三兄弟の妹』という名前が追加されたのは。






「ムハッ、パソコンというものはすごいものですね~」

「本当に。念のため朝比奈さんに使い方を聞いておいて正解だったわね」

そのほんの少し前。場所は戻り、ここはB-8に位置するゴルフ場の事務室。
夏子は、この施設内でパソコンがあるならここであろうと予想し、それは的中した。
みくるに簡単な操作法は聞いていたのでそれを思い出しながら
見様見真似でパソコンを立ち上げ、kskネットにアクセスした。

そこには変わらず"掲示板"と"チャット"と"ksk"というコンテンツ。

夏子は手元のマウスとかいう物体を操作し、画面上に存在する矢印を移動させている。
慣れない物の試運転でもしているようだった。

(いやはや、強い女性ですな)

ハムは今の夏子を見てそう思った。
みくるやシンジのことで精神的に結構参っていると思っていたのだが
それでも、自身がやることを見失わず黙々と行動を起こしている。

(やはり別れてしまうには勿体ないお仲間ですな。もうしばらくは同行しましょうか)

ハムが夏子からディスプレイへと視線を移したちょうどそのとき、
夏子は矢印を操作し掲示板の上にきたところでカチリとマウスの上面左側を押した。

一瞬の間のあと、掲示板が表示される。
初めて見るハムは感嘆の声を漏らし、慣れない作業の後に無事に開けたことを安堵し夏子は溜息を漏らした。

しかし、そこに書かれている内容はのっけから夏子を苦しめることになる。


『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』


「これは…」

「………時間は第一放送直前。シンジ君が…私達から逃げ出して貴方達に保護される間に書き込んだようね」

シンジとみくるの二人を連想すると、どうしても自身の判断ミスで起きた事件が脳裏によぎる。
パソコンの操作に手一杯だったおかげでそのことは頭の片隅に追いやられていたのに
再び自責の念が夏子に牙を剥こうとした。

「夏子さん。他の書き込みも見てみましょう」

そんな夏子の心のうちを知ってか知らずか、
沈みこもうとする彼女にタイミング良く声をかけハムは次なる作業を促す。

何かを忘れようとするようにぎゅっと目を閉じ、開く。
そして夏子は画面をスライドさせていった。

2つめはゼロスという男とギュオーという怪物、
そして蛇の化け物に関する注意書きと戦闘レポート。
ハムも夏子も荷物から紙とペンを取り出しそれぞれ有用そうな情報をメモしていく。
どこまでこの書き込みを信頼してよいかは分からないが、
それはこの情報が必要となった時に判断すればいいだけの話だ。

3つめはこの書き込みを行った人物の名前について。
仲間内でしか分からない情報を名前にする、というのはいい案である。

4つめは学校付近が危険な可能性があるという内容。
もっとも、3時間も前の書き込みである上にゴルフ場から近いとも言えない場所なのであまり重要ではないだろう。

そして5つめの書き込み。


『学生服を着た茶髪の男は危ない、気を許したと思ったら隙を見て襲い掛かってきた。古泉、という奴だ』
『そいつは既に人を殺してる、涼宮ハルヒという元の世界の知り合いを高校で殺したと俺に言った』


"学生服"なんていう単語がどういった服を表すのかは夏子にもハムにも分からない。
しかし、"茶髪の男"や"古泉"というのは憶えがあった。

「夏子さん、これは…」

「ええ。あの悪魔将軍という怪物と一緒にいた、みくるさんの知り合いの古泉一樹…に間違いないわね」

もし、この書き込みが本当であったとすれば―――ただでさえあまり高くないと思っているみくるの生存率はさらに低くなる。
シンジのものと思しき書き込みと同様に名前入力をしていない書き込みのようであったため
信憑性こそあまり高くないが………名前を記入しない筋の通った理由なんていくらでも存在する。
事実、古泉はあんな危険な怪物と平然と行動を共にしていたのだ。
そんな彼がただものであるはずがないし悪魔に魂を売ったのかもしれない。
次の放送のときにみくるやシンジの名前が呼ばれたとすればこの書き込みの信憑性は随分と高くなる。

「ムハ~。もしかして主催者が最初の放送の時に言っていた『仲良しを殺した』のは
 この古泉であるかもしれないということですな。
 これが本当であったとすれば、みくるさんはもう………」

ハムも夏子と同様のことを考えたのだろう。
悲痛な面持ちで書き込みを見ている。

「まだそうと決まったわけじゃないわ」

夏子は言った。気分が沈もうとする自分に言い聞かせるように。
これ以上このことについて話をしてもよい方向には向かわない、そう思ったのかハムは違う話題を振った。

「ではとりあえずこれからどうされるおつもりなのですか?」

「そうね…"東谷小雪の居候"がしたように万太郎君が相手をした怪人のことについて注意を促す書き込みをしましょう。
 悪魔将軍については狙いが分からない以上下手に刺激するのは得策では―――」

「我輩はそれには賛同しかねますなぁ」

夏子の言葉を遮り、ハムが言った。
考えがあってそう言っているというのが分かっている夏子は反論することはせず、黙ってハムの次の言葉を待つ。

「我輩達のような弱者がこの殺し合いに生き延びるには頭を使うしかありません。
 そしてそれには手持ちの情報をフル活用することと新たな情報を効率良く手に入れることが必要不可欠です。
 だというのに、我輩達しか持ちえない情報を無償で全参加者に提供するというのはいただけませんなぁ」

饒舌に身振り手振りも交えて語り始めるハム。
なるほど、言われてみれば至極当然のことだ。

「つまり、『名前も行方も分からない怪人』の情報、
 その程度のものでも交渉材料に使うべきだ、ということね?」

「ムハハ、さすが夏子さん。話が早くて助かります。もっとも、交渉材料というのは少し語弊がありますが。
 少なくとも、あの怪人が昼前にモールでマンタさんと闘った、その情報を持っているのはごく少数のはずです。
 うまくやればその程度の情報で鯛を釣ることも可能でしょうから」

夏子は静かに掲示板を閉じた。
次に、"ksk"をクリックする。

「夏子さん、このkskというものは一体?」

「指定されたキーワードを入力すると有用な情報を得られるところよ。
 問題は私達のどちらかが答えることのできるキーワードが出てくるかだけど…えっ?」

夏子は思わず声を上げた。
ハムも片眉を吊り上げディスプレイを見る。
キーワード入力画面が出るとばかり思っていたのだが…画面が暗転したのだ。
そして、暗転が終わり画面が明るくなったと思ったら………

『やあ、ようこそ、kskコンテンツへ。』

「なんですと?!」

「草壁…タツオ…!」

憎き主催者、草壁タツオの動画が流れ始めたのだ。

『この動画はサービスだから、まずはよく見て笑って欲しい』

草壁タツオの声と共に画面がフェードアウトする。
そして、次に映ったものは…

「うっ…」

「これは…酷いですな…」

思わず夏子は口を手で押さえ、込み上げる吐き気をこらえながら画面に映ったものを見た。
ハムは口調こそいつもの調子だったが直視にたえないのだろう、
目をそらしてしまいながらもチラチラとそれを見て窺っている。

ひたすらに赤黒い、何か。
何か分からないが…わずかに見て取れる服や髪がそれが人間であったと理解させる。
ぐちゃぐちゃに潰された人間の死体だ。

次に映し出されたのは茶色の制服に身を包んだおそらく女性。
なぜおそらくかというと、首がないからだ。
首の切断には鋭利な刃物を使用しなかったのか、切断面はぐちゃぐちゃだった。凄惨極まりない。

画面が変わる。
愛らしい生物が銃創から血を流しながら倒れている様。
精神を壊されてしまったのだろうか、その瞳は知性の輝きを宿していない。

画面が変わる。
美少女と呼んでも差し支えない女性が腹部から血を流し死んでいる様。

画面が変わる。
変わった肌をしている人のような生物の顔面が叩き潰され死んでいる様。

ゆっくりと、ゆっくりと凄惨な画面が移り変わり、再び草壁タツオが映し出される。

『うん、"パソコンの数に対しキーワードの種類が足りない"んだ。済まない』

この衝撃的な映像を前にして、彼の意味不明な発言を理解するほどの余裕はさすがのハムにもなかった。
軍人である夏子はかろうじてその発言について疑問を持つが、
考える暇もなく草壁タツオはにこやかに、
自分が作った落とし穴に引っかかるろうとしている大人を見るような本当に嬉しそうな表情で饒舌に言葉を続ける。

『仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
 でも、この死に様を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「絶望」みたいなものを感じてくれたと思う。
 希望を持って行動している人達にそういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思ってこの動画を作ったんだ。
 じゃあ、kskコンテンツを終わろうか』

草壁タツオの言葉が終わると同時に、ウインドゥが切り替わった。
再び、"掲示板"と"チャット"と"ksk"が並んでいる画面にだ。
場に流れる沈黙。

「…ハム。大丈夫?」

「なんとか…kskというのは有用な情報が得られるところではなかったのですか…?」

明らかに気分を害したような、
あるいはガッツが減少したかのような表情でハムは夏子に尋ねた。
尋ねられた夏子もさすがにどことなく顔が青い。

「モールのパソコンのkskはシンジ君の世界の知識がキーワードになっていた。
 朝比奈さんは他の施設のパソコンに私の世界の知識、
 そして他の世界の知識が要求されるパソコンもあるだろうと推測していたけど…
 ご丁寧にハズレも用意してあるようね。
 草壁タツオが"パソコンの数に対しキーワードの種類が足りない"と言っているのにも関係があるようね」

「と、言いますと?」

「私の世界の常識すら朝比奈さんやシンジ君は知らなかったわ。逆もまた然り。
 同時に、ハムのような変わった生物は私の世界には存在しない。
 このことから…ピンと来ませんが私達は異世界の住人、ということらしいわ。
 疑問もあるかもしれないけど、正直私もあまり理解できてないの。
 ここまではとりあえず確定事項ということでいいわね?」

ハムは黙って頷いた。

「朝比奈さんは私が聞いている限りで元の世界の知り合いが4人、
 つまり彼女らの世界からは最低5人ずつ参加者がいることになるわ。
 同様に私の世界からは最低4人。シンジ君の世界からも最低4人。万太郎君は…」

「我輩の記憶が確かなら最低6人になります」

「補足ありがとう。ハムは知り合いがいないということなので最低1人ということになるけど…
 それらを平均し参加者48人に対して単純に割れば、
 10種類ぐらいの異世界の住人から参加者は構成されていると推測できる」

「おお、なるほど」

「それに対し、施設の数は地図で確認できる限り20を超えているわ。
 全てにパソコンが設置してあるわけではないのでしょうが…
 もし主催者が"異世界一つに対し、対応したkskコンテンツは一つまで"というルールを作っているのなら
 "パソコンの数に対しキーワードの種類が足りない"という言葉の意味も理解できる」

「ムハ~夏子さん、素晴らしい名推理です!」

「こじつけなところもあるし、合っている保証は全くできないけどね。
 現時点で確定していることは草壁タツオの性根が腐っていることぐらいだわ」

ハムの称賛の声を流して夏子は吐き捨てるように言った。
盗聴されている可能性は十分承知しているが、それでもこれぐらいは言ってやりたかった。
この程度でまさか殺されたりはしないだろう。

気を取り直し、再びマウスを動かし始める。
そして、"チャット"のウインドゥを開いた。

「これは…!」

「どうやら、チャットルームを利用している参加者が一人いるみたいですな」

そこには、部屋にいる人数の表記が「1人」―――つまりチャットルーム内に人がいるという情報が示されていた。
みくるの説明によればチャットとは遠く離れた人とパソコン越しに文字でやり取りするシステムらしい。
危険はないとは思うが、どうするべきか。

「ハム。貴方ならどうする?接触を試みる?」

「そうですなぁ………夏子さん。ここは一つ我輩に任せてみてはくれませんか?」

自身を親指で指しながら、ハムは言った。
夏子を見る彼の眼がキランと光る。


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