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Spider that entered museum ◆5xPP7aGpCE



ぐう~

腹の虫、それは空腹のサインだ。
ほぼ全ての生き物は栄養を摂取しなければ活動できない。
人間は当然、モンスターもその原則に含まれる、スエゾーもまた然り。

「あかん……、だんだんひもじくなってきよった」

思い返せばGAME START以来食事をした記憶が無い。
直後にオメガマンに襲撃され怪我を負い、生死の境を彷徨って食事どころでは無かった。
その後フラフラになりながら晶と出会えたもののまたもやの襲撃で今度は荷物全てを失ってしまったのだ。

「何か無いかとは思ったが……見付かったのはお茶だけか、くそっ」

そんなスエゾーを気の毒に思う晶はガイバーのお陰で食事は必要無い。
その事が晶を何となく後ろめたい気持ちにさせてしまう。
喋れない同行者の小トトロも一緒に先程迄ロッカールームの捜索を行ったがアメ玉一つ見付からなかった。
逆に疲労感で空腹が増した分状況が悪くなったとさえ言える。

「他を探そうにもリナさん達との約束があるから遠くに行けないしな、誰か来てくれたら食料を分けてもらえるかもしれないんだが」

晶が願望交じりの呟きを漏らす。
足を伸ばせばレストランやモールといった食料がありそうな施設があるにはある。
しかし、チャットへの連絡待ち状態である今は博物館を離れる訳にはいかない。
スエゾーや小トトロを残して晶が食料調達に行くという案も浮かんだが別行動の危険を考えて取りやめた。
念の為解説するが、スエゾーも口に咥えたペンでキーボードを押すという方法でチャットは可能なのだ。

「すまないが今は我慢してくれスエゾー、リナさんとの連絡を済ませ次第別の施設に行ってみよう」
「そやな、心配せんでもええ。一日ぐらいメシ抜いた程度ですぐ死ぬ事もあらへんやろ!」

一見平然としてスエゾーがはにかむ。
小トトロも一緒にコクコクと頷くが無理しているだろう事は晶にも解る。
それでも今はその気持ちに甘えるしかなかった。

「とにかく戻ろう、ひよっとしたらパソコンに連絡が入っているかもしれない」

どうにも出来ない事は仕方が無い。
成果の無い捜索を打ち切って一行はロッカールームを後にする。

ところで、彼らは気付かなかったが食料となりえるものが直ぐ近くに放置されていた。
スエゾーと小トトロがとても食べきれない程の分量がある肉塊―――アシュラマンの死体である。
彼らがあえてその存在に頭を巡らさなかったのかは語るべきではないだろう。



そんな一行が無機質なコンクリート造りの廊下を曲がると突然広い空間へと出た。

吹き抜けの高い天井と明るい照明、ワイヤーで吊り下げられた展示物。
広々としたホールの壁に据付けられていたのは想像も付かない力で捻じ曲がげられた紫色の金属塊。
『破損したエヴァ初号機の装甲』と書かれた展示パネルの前を通り過ぎて一行は進む。

食料探しをしていた彼らにとって展示物はどうでもいい存在、とまでは言わないがわざわざ足を止めて見入る程の意義を感じていなかった。
別のホールに出ると部屋の中に部屋があった。

今度現れたのは学校の一室をそっくり切り取って置いたような展示物、『再現! SOS団部室』というパネルが置いてある。
バニーやらナース服やら場違いな衣装がハンガーに掛けられていたがここも立ち止まる事なく通り過ぎる。
(とっくに捜索済みで、冷蔵庫に入っていたのは空き瓶、机のパソコンも電源が入らないというぬか喜びさせられる結果だった)

「博物館っちゅう所は初めてやけど、ホンマけったいなモンばかりやな~」

スエゾーがここにあるモンは訳がわからへんと愚痴る。
多分空腹の苛立ちもあるのだろうが、実際晶にも理解不能なものがあった。
多数の”異世界”から集められたものだけあって全ての世界観に通じて無い限り理解できないものが混じるのは仕方がない事だろう。
いずれにせよ彼らは展示物を尻目にパソコンを目指す。


『ksk Island Museum』―――これが博物館の正式名称である。
展示内容は多岐にわたるのだが、残念ながら紹介は後の機会に譲ろう。

今語るべきは命の無い展示物よりもがむしゃらに生きようとする参加者達なのだから。




       ※       ※       ※



「よお、遅かったじゃねえか」

咄嗟に晶はスエゾー達の盾となるべく横に動く。
待ち伏せだ、捜索に集中する余り侵入者の警戒を晶達は怠ってしまっていたのだ。

パソコンが設置されている『学習室』、其処で待っていたのは『地獄の取立人』雨蜘蛛。
平然とチェアーに腰を落ち着けながら晶達に銃口を向けている。
ガイバーの弱点を知ってか知らずか、照準は正確にコントロールメタルに合わされていた。



「その銃を下ろしてくれ、俺達は殺し合いには乗っていない!」

完全に先手を取られたにも関わらず銃弾は飛んでこない。
ならこの男が乗っているとは限らないのではないか―――晶はそう考えて緊張しつつ敵意の無い事を示す。

「はい、そうですかって信じられるか? お前さん達の見た目は如何にも危なそうだがな」

そう言われても仕方が無い、殖装した晶に一つ目のスエゾー、獣である小トトロ。
一見して解る人外の集団、それが今の晶達なのだ。

「何言うとんのや! そっちの方が見るからに怪しいやろ!」

晶の横からスエゾーが顔を覗かせて反論する。
雨蜘蛛が身に着けているのは覆面に全身を覆い隠す砂漠スーツ、確かに不審者と受け取られても仕方が無い。

「よさないかスエゾー、とにかく貴方が乗ってなければ俺達に戦う気は無い!」

仲間を諌めながらあくまで自分達の無害を主張する。
が、殖装は解かない。危険となればすぐ反撃するつもりで晶は雨蜘蛛と対峙した。

コントロールメタルを守る為、怪しまれないよう少しずつ腕を上げていく。
後ろでスエゾーの唾を飲む音がした、緊張が高まる。

「……どうやら信じていいようだな。俺は雨蜘蛛だ、お前さん達の名は?」

突如銃が下ろされた、先に引いたのは雨蜘蛛だった。
名前まで明かされて晶達はほっと息を吐きながら安心する。
自分達の見た目から無用の警戒をさせてしまった、この時晶はそう思った。

「俺は深町晶、こう見えてもちゃんとした人間ですよ。後ろがスエゾー、そして支給品だった小トトロです」

だからこそ罪滅ぼしとばかりにあっさり自分達の名を明かす。
雨蜘蛛が乗っているのかどうか、その答えは聞いて無かったが自分達を信頼してくれた安心感がそれを忘れさせた。
晶は嬉しかった、パソコンを通じた情報交換では無く生身の人間に出会えた事が。

「……教えてくれ」
「あ? 何をだ?」

そして聞いてみたい事が山程あった、自分達は何もかも知らなさ過ぎる。
どんな些細な情報や単なる憶測だとしても乾きを癒してくれる相手を欲していた。

「一体……何が起こってるんですか? 他の場所や他の人はどうなっているんですか? 俺、どんな事でもいいから知りたいんです!」
「おい晶! まだこいつが信頼できる奴と決まっとらん、そりゃ俺もわからへん事ばかりやから聞きたいけど……」

スエゾーもやはり情報に飢えていた、雨蜘蛛への警戒心は残っていたが聞きたいのは晶と同じだ。
そんな縋るような彼らに対し、雨蜘蛛はあくまで冷静に対処した。


「ま、お前達も座りな。落ち着いてお話タイムといこうか」

顎で椅子を示すと晶達も素直に座る。
途端またもや響くスエゾーの腹の虫。

「すいません、俺達荷物が無くて……少しでいいです、食料を分けてもらえないですか?」

さすがに厚かましいとは思いつつ晶は仲間の為に懇願する。
それが交渉を始める前から雨蜘蛛に大きな借りを作る行為だという事については頭が及んでいなかった。

「世話が焼けるな。ほら、こいつを食いな」

代わりに何が提供できるだろうか、そう考えていた晶の前にあっさりと白い箱が差し出される。
手に取って開けるとホカホカと湯気立つLサイズのピザ。
一人と二匹は同時に唾を飲み込んだ。

「お~~~、何ちゅう美味そうな食い物やんけ! は、早く喰おうや晶!」

スエゾーががっつき、小トトロも早く早くと騒ぎ立てる。
テーブルに置いたら途端にスエゾーがかぶり付いて一気に半分近くを奪い去る。
残ったピザとスエゾーの口の間に溶けたチーズの橋が出来た。

「あちっあちーっ! けどホンマに美味いでこれっ! 晶も早よ喰うてみいや!」

本当に美味そうにスエゾーは食べた、小トトロも少しずつちぎっては口に運んでいる。
よほど腹が減っていたのだろう、忽ち数人分のピザが欠片しか残らなくなった。

「じゃあ俺もいただくよ、そんな顔されちゃ堪らないからね」

食べ物で釣られた、と言えばそれまでだが晶は僅かな時間で雨蜘蛛を信頼する気になっていた。
あっけなく殖装を解いて残ったピザを二匹より先に奪い取る。

噛む、熱々のチーズと塩辛いサラミのハーモニー。
しっかりと練り上げられた生地は太陽に育てられた小麦の味する、喉を通る時の満足感といったら……

ただのピザがこんなに美味いなんて、と晶は食事の喜びを心から実感した。

「あ、雨蜘蛛さんは食べなくて良かったんですか? 俺達だけで全部食べちゃってすまないです」

申し訳なさそうに晶が詫びる。
せっかくの食事だ、一緒に食べて友好を深めたいと思ったが雨蜘蛛は何故か口元をさっきから向こうを向いていた。

「悪い……俺は見るだけで十分、うぷっ」

何故か気持ち悪そうに口元を押さえるその姿に「食べ過ぎたのかな?」とハテナマークを浮かべる晶。
まさか船酔いが抜けず、ギトギトの食べ物を見ただけで催してきたとは『地獄の取立人』のプライドに賭けて口には出せない。
結局箱を完全に片付けるまで雨蜘蛛は晶達をまともに見ようともしなかった。



「喰った喰った~~~っ! 雨蜘蛛ちゅうたなアンタ中々信頼できそうな人やないか!」

小トトロも賛同するように両手を上げて歓迎の意思を表示する。
ここに来て三者共に雨蜘蛛への警戒心はすっかり解けてしまっていた。

げに恐ろしや食べ物の威力。



       ※       ※       ※



「……って事はお前ら殆ど誰とも会わないでここで連絡を待ってますって訳かよ」
「はい、放送前って約束でしたから何も無ければ連絡が有ってもいい頃です」

人心地ついた晶達はまず自分達から知っている情報の提供を始めた。
食料を分けてもらってあまつさえ情報を先に求めるのは流石に図々し過ぎると感じたのでせめてもの誠意だった。
チャットで得られた情報も込みである、合言葉についてはまだ教えてないがこの先も信頼できそうなら教えようとスエゾーと話して決めた。

チラと雨蜘蛛が液晶を見るが晶達が離れた時からチャットの画面に変化は無い。
雨蜘蛛が居る間も連絡は無かったそうだ、疑う理由も無いだろうと晶はそれを信じる。
言うべき事は言った、次は雨蜘蛛さんが話す番ですと正面から見据える。

「ま、俺だって知ってる事は多くない。せいぜい遠くまで連れて来られたなって程度さ」

雨蜘蛛が晶達に語りだす。
まずは今までの簡単な経緯、オアシス政府の女と少年と会った事、森で昆虫の怪人を見かけた事、神社で黒んぼと美少女が一緒にいた事を。
そして、レストランで晶に似た格好をした少年といざこざがあった事を。

「それって俺がさっき話した0号ガイバーじゃないですか!? 奴は何処に行ったんですか?」
「あー、そいつキョンって名乗ってたぜ? 西の方に行ったんじゃねえか? といっても昼前の話だ、今頃は何処ほっつき歩いているやら解らないぜ~」

腰を浮かした晶に雨蜘蛛は淡々と語る。
そうですかと言って無念そうに座り直すと足元にバッグが放り投げられた。

「そいつの落しもんだ、お前かそっちのスエゾーって一つ目の持ち物か?」

すぐに中を開けると地図に名簿、見覚えのある食料といった基本セットが入っていた。
SDカードやバットは無くなっていたが元々使えないと思っていた品だし問題無かった。

「はい! こいつは俺ので間違いないです、ありがとうございます!」
「晶、良かったな~。晶のだけでも戻ってきてくれてホンマあんたは福の神やで!」

食料から情報、そして奪われたバッグまでもらってますます借りが出来たと晶達は思った。
お礼まで言われた雨蜘蛛だが気にする風でもなく話を続ける。

―――その後は誰にも会わずにここに来た、そしてお前らを見かけて部屋に戻るのを待っていた。

すぐに接触しなかったのは安全かどうか見定めたかったからだと言う。
雨蜘蛛にとっては何も嘘は言ってない、肝心な部分が抜け落ちているのだが晶達にはそれを知る由も無かった。



とにかくここまでの情報交換ではっきりした事は二つ。
晶、スエゾーの探し人であるゲンキ、ハム、ケロロ、タママ、草壁サツキについて雨蜘蛛は出会ってもなければ居場所の手掛かりすら聞いて無い。
雨蜘蛛の探し人である水野灌太(砂ぼうず)については晶もスエゾーも何も知らない。

「さすがに幸運は続かんちゅー事やな」

スエゾーがため息を吐いた。雨蜘蛛も軽く舌打ちする。
さて、前提としての行動確認が終わった所で次に語るべきはここから先の事。
むしろ、それが本命。

「単刀直入に聞くぜ、お前ら”空を飛べる奴”に心当たりはあるか?」

晶より、スエゾーよりも早く一番に口を開いたのは雨蜘蛛だった。
その重い口調はこの質問に重大な意味があると二人に悟らせるには十分なものがあった。

「有ります! 俺なら飛ぶ事が出来ます!」

最初に聞かれたとしても晶は警戒して答えなかっただろうが、段階を経て今はそれなりに信用できる相手と見なしている。
その場で空中に浮かんでみせるとスエゾー達も驚いた。
すると響く雨蜘蛛の拍手。
大当たりだ、それは雨蜘蛛の偽らぬ気持ちであった。

「これが何の意味が有るんですか?」

何も知らぬ者の声が届く、密かに蜘蛛は覆面の下で笑う。
どうやら投資の回収は意外と早く出来そうだった。




       ※       ※       ※



関東大砂漠には数多くの『暗黒時代の遺産』が埋もれており、多くの発掘チームがお宝を捜し求めている。
危険すぎる遺産はオアシス国家の『開かずの間』に封印され、それ以外の有用な遺産は技術を解析して還元されている。
即ち遺産は富に繋がる。

発掘品を奪い合うなど序の口に過ぎない、僅かな情報を巡って血が流される事などごく当たり前の出来事だ。
だから雨蜘蛛は明かさない、今伝えるべきは最低限のピースで良い。


「そんな奴で無ければ行けない場所があるのさ」

告げたのはそれだけ、しかし情報に飢える者は忽ち喰いついてきた。

「……もしかして殺し合いを破壊するのに関係がある場所ですか!?」
「さあな、俺にもそれ以上は知らん」
「つまり、そこを調べるのを手伝えって事ですよね? やらせてください!」
「メッチャ面白そうな話やんけ! ワイも一緒に行くで~!」
(こくこく)←小トトロ

借りを返したい晶に元々冒険の旅をしていたスエゾーも興味津々だ。
更に小トトロも行きたい行きたいと行っているのもご愛嬌だろう。

「あ、でもリナさん達との約束が……」

そこでまたもや約束が晶を縛る。
せっかくの信頼できる相手だ、伝言を残したとしても今立ち去るのはきっと信用に関わる。
テンションが下がりかけた一同だったが雨蜘蛛は全く気にしなかった。

「あー全然構わねえよ、出発は夜中だ」
「え? 夜中ってそれでいいんですか? 急ぐべきじゃ……」

しかしその疑問に雨蜘蛛は答えなかった、その時に話すという事だろう。
情報漏れを恐れてという事は晶達にも解った、だから気になったがそれ以上聞けなかった。

「ところで途中で止まっていた映像は見なくていいのか? 暇潰しに最後まで見せてもらったが戻しておいたぜ」

クイッと雨蜘蛛が示した先にはファイヤーデスマッチの録画画面。
そして立ち上がるとパソコンから離れた椅子に座りなおす。

こうまでされたら晶達も空気を読むしかない。
休憩もしたし腹も膨れた、なら続きを見るのは悪くないと視聴を再開する事にした。

そんな彼らを背後から雨蜘蛛は静かに見続けていた。

(次の干潮は第四回放送の前後一時間……それまでは休ませてもらうか)

ゴムボート付属のマニュアルによれば海の干満ほぼ半日、十二時間毎に起こるらしい。
つまり今すぐあの絶壁に行ったとしても入り口は海の中という事だ。
幸い砂漠スーツの暗視機能で夜の行動に支障は無い。
聞く限り晶やスエゾーも夜目は利くらしい。

なら後は焦らず時が来るのを待つのみだ。

(それにしてもキョンの話通りこいつらお人好し過ぎるわ)

全ては計算ずくだった
博物館の先客がキョンが言っていたガイバーショウである事は一目で気付いた。
他に仲間が居ない事を確かめた上で接触、それでもこうもあっさりと信頼してくれる思わなかった。


だからこそ殺すのが惜しい、得られた信頼は探検ツール以外にも様々な活用が出来る。

(ま、終わった後に考えてみるか)

今答えを出すのは早すぎる、そう結論付けて雨蜘蛛はホルスターの銃をそっと撫でた。


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情報を制する者はゲームを制す?(後編) 深町晶 砂の器
スエゾー
蜘蛛は水を求め、水を恐れる 雨蜘蛛




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