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勝利か? 土下座か?(前編) ◆O4LqeZ6.Qs



 地図上でI-4のエリアにある森の中でナーガのおっさんが見つけ出したリング。
 今は檻で完全に外から隔離された森のリングの中で、俺は審判役だという長門に必死に叫んだ。

「なあ! 長門! おっさん! この試合は無効だ!
 俺は同意してないんだぞ! 片方だけやる気になって成立する試合なんてあるか!?
 そうだろ!? なあ!」

 そうだ。さっき俺と戦ったナーガのおっさんの時は本人もやる気だった。
 ナーガのおっさんはあの巨人殖装とクソ真面目に戦おうとした。だから死んだ。自業自得だ。
 そうだ。ナーガのおっさんはくだらないプライドにしがみついて格好つけて勝手に死んだんだ。

 俺は違う。俺は格好なんかどうでもいいんだ。勝ちさえすればそれでいいんだ。
 時には退くことだって恥とは思わないぜ。そうだ、俺はバカなおっさんとは違うんだ。

『一理ある。ちょっと待って』

 長門がプラカードにそんな文字を表示させた後、プラカードの文字を『審議中』に変えた。
 どうやら草壁のおっさんとテレパシーか何かで話し合ってるらしい。
 よし! これでなんとかなる! ナイスだ長門!

「貴様、今更何を言うんだ! この期に及んで逃げ出そうというのか!」

 ウォーズマンが俺を指差して怒鳴る。
 マスクをしているがその視線に火が着きそうな怒りが込められているのがわかる。
 うるさい! 今お前と戦ったら勝つ見込みほとんどないんだよ。わかってて言ってんだろこいつ。
 何が正義超人だ。要するにムカついて俺をぶん殴りたいだけだろ。付き合ってられるか。

「キョン君! 往生際が悪いよ! 貴方は今ここできっちり負けるべきなんだよ!
 そうじゃなきゃ、今のまま進んだって貴方はこの先絶対後悔するよ!」
『あなたはそうやってどこまでもあの人たちにすがりついて生きていくつもりですかぁ!?』

 スバルとちっこいのも文句を言ってきた。
 ああ、そりゃあお前らは俺に逃げられちゃ困るんだろうよ。だが、そうは行くか。


「うるさい! お前らがなんと言おうと俺はこんな試合は受けないぞ!
 それとも何か? 正義超人ってのは相手の同意も得ずに勝手に試合を始めて相手をいたぶるサディストなのか?」
「なんだと!? 貴様、もう一度言ってみろ!!」
「なんだ? 言い逃れできなくなって逆ギレか?
 違うって言うならこの試合を中止するべきだろ。それともやっぱり正義超人は弱い者いじめの集団なのか?」
「違う! いいか! これは試合であって試合ではない。
 俺はただ、貴様の腐った根性をたたき直すだけだ!
 それに、あのナーガという男の無念を、貴様にも少しは思い知らせてやらねばならん!」

 無念を思い知らせるだと? ナーガのおっさんの口ぶりじゃ、そんなことあのおっさんは望んでないって。
 それに多少痛めつけられたからって俺が考えを変えるわけないだろ。
 俺は卑怯者のヘタレかもしれんが、これでも覚悟があってやってる事だ。
 今更お前なんかに俺の考えが変えられてたまるか。

 しかし、さすがに簡単に言いくるめられるほど甘くはないか。
 こうなったら長門が試合中止を宣言してくれるのを待つしか……
 と思ったら長門がプラカードの文字を変えたのが見えた。
 やれやれ。これでどうにかなりそうだ。

『試合続行。両者リング中央へ』

 なんだと!? 話が違うぞ! どういう事だ!?

「長門! 試合続行ってどういう事だ! 俺の言ったことが間違ってるっていうのか!?」
『片方の同意なしで試合が始まる事も超人レスリングではまれにあること』
「なんーじゃそりゃーーーっ!!!」

 なんなんだそりゃ! そもそも超人レスリングって何だ! 俺は超人とやらになった覚えはないぞ!

「残念だったな。こうなれば逃げ場はないぞ、キョン!」

 くそ! 確かに逃げ場はないが、このまま大人しくお前にボコられると思うな!

「だからさっきも言っただろ!
 俺はこの殺し合いに勝ち残って全員生き返らせるって言ってるじゃないか!
 そのために殺し合いに乗るって言ってるんだ。わからないヤツだな!」


 俺はわざわざもう一回俺の考えを説明してやった。
 何度言ってもこいつらには通じるかどうか怪しいもんだが、こうなったらダメで元々だ。

「生き返らせるために殺すなんて、絶対おかしいよ!」

 スバルが案の定そんな事を言ってきやがった。
 何だよ、おかしいって。いいだろ、最後に生きてさえいれば。

『そうですぅ! そもそもそんなことが本当に出来ると思ってるですか!』

 あのちっこいのまで文句を言ってやがる。
 あのな。出来るとか出来ないとかじゃないんだよ。
 出来なかったら困るんだ。もうハルヒは死んじまったんだからな。
 そうさ、俺が殺しちまった。だからそれを償うにはもう俺が復活させてやるしかないんだよ!
 誰でもない、俺の手でやらなきゃいけない事なんだ。
 だいたい死者の復活はできるって言われたじゃないか。聞いてなかったのか。

「できるに決まってるだろ! なあ! 草壁のおっさ……草壁さん!
 もし俺が殺し合いで勝ち残ってそう願えばみんなを生き返らせてくれるよな!?」

 どうだ。できるだろ? できるって言ってくれよ。
 俺の最後の希望を無くさないでくれ……

「……そうだなあ。
 君のお友達を何人か生き返らせるぐらいは構わないよ?
 でも、参加者全員となるとなあ。
 後で生き返るからって誰かを残して全員自殺、なんて事になったら僕も困るんだ。
 我々は君たちに殺し合って欲しいのであって、自殺して欲しいわけじゃない。
 まあ、殺し合いの中で自殺する者がいるのは想定内だけど、厳密に言うとやっぱり趣旨に反するんだよね」

 そうか。確かに全員生き返るんじゃ殺し合いする意味は小さくなるよな。
 でも、少なくともハルヒやSOS団の連中、それに俺の妹と……ついでに朝倉を入れてもいい。
 とにかく、それぐらいは生き返らせてもらえそうだ。
 俺にはそれで十分だ。他のヤツなんかどうせここに来る前は会ったこともない連中だ。構うものか。

 だが、こいつらを説得するためにはその答えはまずい。
 もう一声だ。もう一声。


「でも、参加者の半分ぐらい生き返らせてもいいんだろ? なあ、草壁さん!」

 俺の訴えを聞いて、草壁のおっさんは迷っているようだった。
 いいじゃないか、半分ぐらい。頼むよ。うんって言ってくれよ。

「半分かぁ……どうだろう? それでちゃんとみんな殺し合ってくれるのかな? 長門君はどう思う?」
「……半分だと、最後までの殺し合いが行われる確率は低い。端的に言って、多すぎる」

 長門ーーーっ! 余計な事を言ってくれるな!
 草壁のおっさんは迷ってたじゃないか。少しは俺に協力してくれ。

「さらに言えば、複数の参加者の蘇生も推奨できない。
 このゲームは本来個人戦。
 複数が生き残れるとなると、チーム戦の様相を呈してくる。趣旨に反する」

 待て! 長門! もう何も言うな! お前生き返らせる人数をどこまで減らすつもりだ!

「そうか。さすが長門君だね。説得力のある指摘だ。
 だが、誰もが相手を信頼できるわけじゃない。
 そして叶える願いは1つだけだ。
 自分を生き返らせると言った相手を信じていいのか? なんて事で疑念を抱くのも人間というものだろう?
 数人ぐらいなら参加者の蘇生も認めていいんじゃないかな?」
「……確かに、その見解も否定は出来ない」
「まあ、いっそのこと参加者の蘇生だけは受け付けないっていうのもアリだと思うけどねえ」
「待て! 考え直してくれ! もしそんな事を言うなら俺だってもう殺し合いには乗らないぞ!」

 思わず口走ってしまった。だって仕方ないだろ?
 そんな事になったらハルヒすら生き返らない。そうしたら今までの俺の苦労は無駄になっちまう!
 俺が殺した連中の命も、全部無駄って事になっちまう!

「おいおい。それは困るなあ。
 ふむ。せっかく頑張ってくれている君のような参加者の希望を奪ってしまうのは考え物だね。
 まったく、僕たちはただ殺し合いをして欲しいだけなのになあ。
 自分の命がかかってるって言うのに、君らは色々と難しいことばかり考えてちっとも言う通りにしてくれない」

 草壁のおっさんはいかにも困ったという顔でそう言った。
 だが、それを聞いて、今まで黙っていた連中が騒ぎ出した。


「当たり前だ、この外道め! 人々を島に隔離して殺し合いをさせるなど、言語道断だ!
 この正義超人ウォーズマンがそんな非道を許すとでも思ったのか!!」
「そうだよ! 今すぐこんな事はやめてみんなを解放しなさい!
 私たちはあなたたちの思う通りになんかならないわよ!」
『そうですぅ! 今すぐに罪を認めて自首して、この事件の捜査に協力するなら減刑も考慮されます!
 バカなことはやめて考え直しなさ~い!』

 とことん自分の置かれた立場を理解しようとしない連中だ。
 俺に言わせればバカはお前らの方だ。そんな説得で長門たちが改心するわけないだろ。

 それに巨人殖装のギガスマッシャーにすら耐えた長門だぞ?
 お前らが束になったって倒せるわけないだろ。
 いや、倒されても困る。長門にはハルヒを生き返らせてもらわなきゃいけないんだからな。

「やれやれ、頭が痛いよ。この連中にどうやって殺し合いをさせたものか」
「対策を講じる必要がある。勝者の願いによる参加者の蘇生も含めて要検討」
「ああ、そのようだね。それに僕までがここにいると試合の進行にも都合が悪いようだ。人気者はつらいよ」
『誰が人気者ですかぁー! 人の話をちゃんと聞くですぅーー!』

 みんなあえて突っ込まないのにあのちっこいのだけツッコミやがった。
 場の空気に流されないヤツだな。

「仕方がないから僕は先に戻っておくよ。後のことは頼んだよ、長門君」

 ちっこいやつの発言を華麗にスルーして、草壁のおっさんは長門にそう言うとどこへともなく姿を消した。
 言われた長門の方は無言で頷いて、『試合再開』と書かれたプラカードを掲げる。
 いや、もう口で言えばいいんじゃないのかそれ?

「待て! 草壁タツオ! くそっ、どうする事もできんとは……!」
「ウォーズマンさん……私も同じ思いです。でも、今は。今は出来ることをするしかないんです」

 ウォーズマンとスバルが檻越しに何か会話してやがる。
 出来ることっていうと、この場合アレか。俺を懲らしめようとかそういう事か。
 すっかり話が逸れていて忘れそうになったが、そう言えば俺は大ピンチなんだったな。


 懲らしめる……そうか。こいつらは俺を殺す気はないんじゃないか?
 こいつらは正義っていう建前に縛られた偽善者どもだ。
 中でもあのスバルって女は筋金入りだ。ナーガのおっさんすら助けようとしてたぐらいだからな。
 そう考えれば俺の状況はそんなに絶望的でもないんじゃないか?
 適当に戦って負けて、改心した振りでもしてお茶を濁せばどうにか生き残れる気がするぞ。

「ああ。わかっているぞ、スバル。今はこのキョンという男の根性をたたき直してやらねばならん」

 やっぱりそうか。お前らの行動は俺の予想通りだよ。
 仕方がない。殴られるのは嫌だが、ここは諦めて覚悟を決めるしかないか。

「……わかったよ。試合してやる。だが、俺はあんたを殺すつもりでやるぞ。
 根性たたき直すとか言って、手加減して死んでも知らないぜ」

 俺はウォーズマンにそう言ってやった。
 負けてもいいと思っていても、そう言ってしまったらうまく行かないだろう。
 下手をするとウォーズマンが本気で殺しに来かねないが、これぐらいなら大丈夫のはず……

「そうか。丁度いい。俺も手加減を間違えて貴様を殺しかねないと思っていた所だ……」

 前言撤回。だめだ。こいつ俺を殺せるものなら殺したいって目をしてる。
 スバル! そうだ、あのお人好しならこの殺人マシーンを止めてくれるに違いない。

「ウォーズマンさん! 気持ちはわかりますが命だけは助けてあげて下さい!」
『スバル。そんなことはウォーズマンさんもわかってるですよ。
 大丈夫です。それにリインはちょっと殺しそうになるぐらいやってあげてもいいと思うですよ』

 だめだーっ! こいつらどこまで俺をボコるつもりだ!
 これは本当に本気でやらんと殺される。コントロールメタルだけは死守しないと……

『2人とも、戦って』

 長門のプラカードの文字が変わる。
 ああ、わかってるさ。こうなりゃやけだ。どうせやられるならさっさと済ませた方がいい。


「そうだ。ウォーズマンさん! キョン君が変な光線銃を取り出したら気をつけて下さい!
 その光線が当たると体が大きくなるんです! そりゃもう、屋根より大きく!」
『もしかしてスバルがさっき大きくなってたのはそのせいですか?』
「あ……はい。見てらしたんですね、空曹長……」
『でも、あんなに大きくなるんじゃむしろ危険だと思います。
 この檻ちょっとやそっとじゃ壊れそうにないですからねぇ~』
「あっ。そっか。そうですね」

 外野でスバルたちが俺の銃の話をしているようだ。
 くやしいが、確かにこの中では自分を大きくするのも相手を大きくするのも危険そうだ。
 かといって小さくするにしても、敵に当てなきゃ意味がない。
 そして俺が撃ってもウォーズマンに当てられる自信は無い。

 まあいいさ。あんなものに頼らなくたって戦いようはある。
 元々このガイバーって鎧は武器の塊なんだからな。
 どのみちこの戦い、勝つ必要はないんだ。死にさえしなければそれでいい。

「さあ、かかって来やがれ! ウォーズマン!」
「いい度胸だ! キョン! 行くぞ!!」

 かくして、漆黒のロボ超人VSガイバーの異種格闘技戦が幕を開けてしまったのである。

 ウォーズマンは俺の左に回り込みながら接近してくる。
 真っ直ぐ突っ込んでこないのはヘッドビームを警戒してのことか。
 だが、ガイバーの飛び道具がヘッドビームとメガスマッシャーだけだと思ったら大間違いだ。
 この距離ならいくらお前の動きが速くても逃げ道は無いぜ!

「くらえ! ソニックバスター!」

 口部金属球(バイブレーショングロウヴ)の振動で対象に共振を起こす音波を発して破壊する。
 それがガイバーのソニックバスターという武器だ。
 金属製の部分が多そうなお前にはよく効きそうじゃないか。


「ぐおぉおおおぉっ! なんだ、この音は!!」

 金属球が発する音をヤツの体を構成する物質にチューニングする。
 後はヤツがくたばるまでこの周波数を維持するだけ……
 あっけないもんだな。ナーガのおっさんと互角に戦うから勝ち目がないと思ったらとんだ肩すかしだ。

「ウォーズマンさん! ぐっ……すごい音……!」
『音波攻撃ですぅ! あいつこんな事もできるなんて、ちょっと甘く見すぎたかも~』

 外野が何か言ってるようだが、奴らに出来ることなど何もない。
 いいから黙ってそこでウォーズマンがバラバラになるところを見てろよ。

「くぅっ。これしきの事で……とおーーーっ!!」

 ウォーズマンは一旦下がってロープに体を預けると、そう叫びながらジャンプした。
 そう広いリングじゃない。逃げ場は上ぐらいしか無いと思ったんだろうが、空中じゃヘッドビームのいい的だぜ。

「終わりだウォーズマン! ヘッドビーム!!」

 俺は飛び上がったウォーズマンめがけてヘッドビームを放つ。死ね! ロボット野郎!!
 ……と思ったらヘッドビームは虚空を貫いただけだった。

 しまった! このリングには天井が。檻の天井があるんだった!
 ウォーズマンは天井を蹴ってヘッドビームをかわしていたんだ。
 俺がすっかり見失っている間に、さらにヤツはそのまま横の檻を蹴って体をひねりながらジャンプして突っ込んできた。
 これはナーガのおっさんと戦った時も使っていた……

「キョンよ! 貴様にはもったいないが、くらわせてやるっ!
 スクリュー・ドライバーッ!!」

 ドリルのように回転しながらものすごいスピードで突っ込んでくるウォーズマンに俺はまったく反応できない。
 しかもその漆黒の弾丸は正確に俺の頭部を狙っていた。まずい! やられるっ!!

「ぐわあああぁあぁあーーっ!!」








 高速回転しつつキョンに突撃したウォーズマンの拳は、正確にキョンの左側頭部に命中していた。
 命中後もウォーズマンの回転は止まらず、高速で回り続ける拳はガイバーの左側頭部のセンサーを吹き飛ばした。
 キョンはそのまま力尽きたように倒れ、ウォーズマンは体をひねってなんなく着地する。

 ウォーズマンの拳はガイバーの頭部にめり込むほどではなかったが、拳の跡がくっきり残っている。
 もし普通の人間があれをくらったらタダでは済むまいが、ガイバーにとっては致命傷ではないはずだ。
 ウォーズマンはガイバーについてほとんど知らないが、ロボ超人である彼の分析力がそう教えていた。

「大人げない事をしてしまったか。
 それに、とことんまでこいつの根性をたたき直すつもりだったのに、こうも簡単に終わってしまうとはな」

 しかし、迂闊に引き延ばすこともできなかったというのが本当のところだ。
 超人であるウォーズマンの力を持ってしても、ガイバーの超兵器の数々は油断ならないものだった。
 使っているのがキョンのような素人だから簡単に倒せたが、そうでなかったらと思うと恐ろしい。

『やったですぅーーっ!! ウォーズマンさんの勝ちですぅーーっ!!』
「お見事です! ウォーズマンさん!」

 喜びの声を上げる檻の外の2人にウォーズマンは片手を上げて答える。
 そして、審判である長門はプラカードに新たな文字を表示させた。

『ウォーズマンのスクリュー・ドライバーが命中。キョンに痛恨の一撃。でも、試合終了ではない』
「なにっ!? 試合終了ではないとはどういう事だ。……まさか!」

 長門のプラカードを見て驚いたウォーズマンが視線を移すと、倒したはずのキョンが立ち上がっていた。

 頭部にあれだけのショックを受けてまだ戦えるとは。
 ウォーズマンは少し驚きながらも油断無くファイティングポーズをとる。


「そんな……ウォーズマンさんのあの攻撃を受けて立てるなんて……」
『おかしいですぅ。あいつ、さっきまでの様子じゃ今の一撃を受けて立ち上がれる根性があるとは思えないのに……』

 スバルとリインも立ち上がったキョンに驚きを隠せない。
 そんな周囲を気にする様子もなく、キョン――0号ガイバーは拳を握りしめ、ファイティングポーズを取った。

『ファイト!』

 長門がプラカードの文字を変化させる。
 しかし、ウォーズマンは立ち上がったガイバーから不気味なものを感じてさっきのように自分からは仕掛けない。

「なんだ、こいつ。さっきとは様子がまったく違うぞ……」

 思わずウォーズマンがそうつぶやいたのと、ガイバーが動いたのはほとんど同時だった。
 飛んできたのは無言のまま発射されたヘッドビーム。
 意外な正確さで自分を狙う熱線をウォーズマンはとっさの体さばきで回避する。
 だが、容赦なく連射されるヘッドビームがさらにウォーズマンを襲う。

「うおっ! こいつ、こんな正確な射撃が出来たのか!」

 高速でバク転しながらヘッドビームを回避しつつウォーズマンは呻く。
 そして、その間にもガイバーの攻撃は間断なく続いていた。
 ウォーズマンの耳に届いた奇妙な音。これはさきほどもウォーズマンを苦しめた――

「ソニックバスターか!!」

 ウォーズマンも今度は簡単にくらうまいと、バク転からの勢いを保ったままロープに体を預ける。
 そしてロープの反動を利用してガイバーの周囲を高速で移動してソニックバスターの照準を合わさせまいとした。

『あのソニックバスターは音波攻撃とは言え、全周囲に効果があるわけじゃなさそうですねぇ~』
「そうか。だからああやって的を絞らせなければ致命的な効果はないんですね」

 スバルとリインの実況通り、縦横無尽に動き回るウォーズマンに対してガイバーはソニックバスターをうまく使えない。
 ウォーズマンはその隙を突くようにして、ジャンプしてロープに両足をかけ、スクリュー・ドライバーの体勢に入る。
 さっきは檻を蹴っただけだったが、ロープの反動を利用した今度はさらに威力が増しているはずだ。



「スクリュー・ドライバーッ!!」

 ウォーズマンの体が再び黒い弾丸となってガイバー目がけて飛んでいく。

「やった! 今度はナーガに使ったのと同じスクリュー・ドライバー! あれを食らったら今度こそ……」
『やっちゃえですぅーー!!』

 2人の期待を裏切ることなく、黒い弾丸は今度も狙い違わずガイバーに命中する……はずだった。
 しかし、ガイバーに残された右側頭部のセンサーはウォーズマンを見失ってはいなかった。
 そしてガイバーは振り向きざまに高周波ソードを伸ばしつつウォーズマンを切り裂こうとする。

「ちぃぃーーっ!!」

 持ち前の分析力で高周波ソードの切れ味を見抜いたウォーズマンは、とっさに体を反転させる。
 そしてスクリュー・ドライバーの回転力を利用してガイバーの腕を蹴り飛ばし、さらにガイバー自身をも蹴り倒す。
 しかし、それはガイバーを遠くに飛ばしただけで、たいしたダメージは与えていない。

 現に、ガイバーは蹴り飛ばされても平気な様子ですっと立ち上がり、戦いに備えて身構えていた。

「これはつまり……スクリュー・ドライバーが破られたという事か。
 おのれ! あんな男に後れを取るとは、俺としたことが!」

 こちらも立ち上がりつつ、ウォーズマンは悔しそうに呻いた。

「そんな! あの技をキョン君が破るなんて!」
『どうもあいつさっきからおかしいです! 別人が戦ってるようにしか見えません!』
「でも、空曹長。別人と言っても……」

 スバルはリインの言うことをもっともだと思いつつも、その原因が思いつかずに口ごもった。

『リインの見たところではあの鎧が怪しいです!
 これは推測ですが、キョンって人はもう、一度目のスクリュー・ドライバーで気絶してると思います。
 急に喋らなくなったのもきっとそのせいです。
 今はあの鎧が勝手に動いて戦ってるとリインは思うですよ~』
「そんな……鎧が勝手にだなんて……」

 あるはずがない。そう言おうとしたが、あの生き物っぽい鎧を見ると、そういう事もありそうな気がしてくる。
 実際そうとでも思わなければ説明のしようがなかった。
 だが、そうだとすれば今ウォーズマンが戦っている相手はキョンよりずっと手強いという事ではないか。


「ウォーズマンさん! キョン君は今自分の意志で戦ってません!
 きっと鎧が勝手に戦ってるんだって空曹長が!!」
『今のそいつは危険ですぅーー! 気をつけて下さいですぅーー!』

 もちろん2人の必死の声はウォーズマンの耳に届いた。
 そして、その事はウォーズマンの方でも薄々感じていた事であった。

「なるほどな。確かにそう考えれば納得が行く。
 だとすれば、少々気合いを入れてかからねばなるまいな!」




 リインたちの予想はまさに正鵠を射ていた。
 ガイバーには殖装者が意識を失った時に作動する自己防護プログラムがそなわっているのだ。
 この状態のガイバーは己の前に立ちふさがる者は何者であっても区別無く撃破する。
 そうすることによって強殖装甲は意識を失った殖装者を守ろうとするのだ。

 もちろん本来のキョンの意図からすれば黙って気絶していてよかったはずだ。
 だが、キョンの中にあるウォーズマンへの敵意と、気を失う瞬間に感じていた恐怖がシステムを作動させてしまったのだ。

「隙のない攻撃……ウォーズマンさん大丈夫かな?」
『う~ん。油断さえしなければ鎧の自動攻撃なんかには負けないと思うですが……』

 ガイバーの攻撃はその後も絶えることなく続いていた。
 それも、ヘッドビーム、高周波ソード、ソニックバスターと、ガイバーの武器を自在に使いこなしている。
 ウォーズマンが大きな隙を見せればメガスマッシャーさえ撃ってきたかもしれない。

 しかし、リインの言う通り、ウォーズマンとて一流の超人レスラー。
 ガイバーの自己防護プログラムごときに容易く倒されはしない。
 むしろ、正確で隙のない今のガイバーの攻撃は、ファイティングコンピューターには予想しやすい部分もあった。
 だからウォーズマンはたくみにガイバーの攻撃をかわし続けていたが、むろんいつまでも防戦一方ではない。

「フッ。もはや貴様の動きは見切ったぞ!
 そろそろ終わりにさせてもらおうか!」


『防戦一方に見えたウォーズマン。いよいよ反撃にでるか?』

 長門が律儀にプラカードで実況する中、ウォーズマンの攻撃が始まった。
 ヘッドビームの的を絞らせぬように左右に体を振りつつガイバーに接近。
 接近する途中でガイバーは一発ヘッドビームを撃ってきたが、発射の瞬間を見極めれば避けることは容易い。
 格闘の間合いに入ったウォーズマンを今度は高周波ソードで切り裂こうとするガイバー。
 しかし、その動きをすでに予想しているウォーズマンは、片手で下からガイバーの腕を跳ね上げて攻撃をかわす。
 ガイバーの剣は肘にあるため、攻撃時は前に移動しながら斬りかかる形になる。
 だから、そうやって回避してしまえばウォーズマンは容易くガイバーの後ろを取ることができた。

 そして、ウォーズマンはガイバーに後ろから襲いかかり、あっという間に『ある形』にガイバーを捕らえてしまった。
 相手の背後から自分の両足を前に出して相手の両足を内側から引っかける。
 相手の両腕をチキンウイングでひねるように絞り上げ、高く差し上げる。
 ウォーズマンがガイバーに背負われるような形でありながら、ガイバーは腕を極められて脱出不可能。
 そう、この形こそがウォーズマンのもう一つの必殺技――

「長門よ! 貴様に見せるのはもったいないが、やむを得まい!
 スバル! リイン! よく見ておけ! これが俺のもう一つの必殺技。パロ・スペシャルだ!!」

 パロ・スペシャルのかかり具合は完璧だった。
 ガイバーに超兵器が多数備わっていると言っても、ほとんどが体の前面についている。
 肘の高周波ソードもパロ・スペシャルが極まった後は前に向いていて後ろは死角になってしまう。
 もはや、ガイバーにウォーズマンを攻撃する手段は残されていないかのように思われた。

「す……すごい! 完全にキョン君の動きを封じ込めている!」
『パロ・スペシャル、かっこいいですぅーー!』

 完全に実況役が板についてきた2人組が驚きの声を上げる。

『キョンは動けない。このままウォーズマンの勝利か?』

 長門もプラカードでウォーズマンの優勢を伝える。
 と言っても他の3人から見て、あまり意味のある行動とは言い難かったが。

 だが、ガイバーはその怪力でウォーズマンを振り払おうとし続けていた。
 なにしろ相手は自己防護プログラムである。諦めるという概念はないのだろう。
 しかし、いかに怪力と言ってもウォーズマンとて腕力は人並みではない。
 圧倒的なパワーが売りのバッファローマンやネプチューンマンならいざ知らず、ガイバーにまで必殺技を破られはしない。


「往生際が悪いヤツだ。おとなしくギブアップしろ!」

 ウォーズマンはそう言ったが、そもそも会話もしないガイバーがギブアップするはずはない。
 その事に気付いていたリインがウォーズマンに叫ぶ。

『ウォーズマンさん! そいつは意識がないんですぅーー! ギブアップはしないと思うですぅーー!』
「むむっ! そうか! しまった。
 このまま腕をへし折ってもいいが、キョンを懲らしめると言ってもそこまでやってしまっていいものか……
 そうだ、審判! この状況では決着がつかんぞ! どうするんだ!」

 ウォーズマンは一応この試合の審判である長門に判断を仰ぐ。
 だが、長門の下した裁定は事態を解決するものではなかった。

『彼はギブアップしていないし、意識を失ってもいない、戦闘不能にもなっていない。試合は続行』

 長門が出したプラカードの文字を読んで、ウォーズマンは抗議の声を上げる。

「何を言っている! そもそもこいつは気絶しているんだろう!
 さっきから一言も喋らないのがその証拠だ!」

 ウォーズマンの訴えにリング外の2人もうんうんと頷いたが、長門はそうではなかった。

『現に動いている以上戦う意志があると見なされる。
 実際、あなたが技を解けば彼にもまだ勝つ可能性はわずかにあると予想される』

「技を解けばだろう! このまま腕をへし折ってもいいんだぞ!」

『問題ない。その結果彼が戦闘不能になれば試合はあなたの勝利』

 頑としてウォーズマンの勝利を認めない長門。
 どうやらとことんまでやらせるつもりのようだ。
 長門にしてみればこんな殺し合いを運営しているのだから当然なのだろう
 だが、ウォーズマンはまた長門に対して怒りを強くする。

「長門め……どこまでも冷酷な女だ。
 しかし、このままじっとしていても仕方がない。どうしたものか……」
「長門! そんなに私たちを戦わせたいの!?
 キョン君は明らかに意識を失ってるじゃない!」

 スバルがなおも長門に抗議するが、長門はただ首を横に振るだけだ。


(長門……少しは心が通じる相手だと思ったのは、やっぱり私の思いこみだったの……?)

 スバルが悔しそうに唇を噛む。しかしその時、動かないと思われたリング内の状況に変化が起きた。

「うおっ! な、何だ……!!?」

 キョンをどうするかを考えていたウォーズマンの体がふらついていた。
 しかし、パロ・スペシャルは完璧に極まっているはず。
 ガイバーが多少動こうとも、よりきつく締め上げる事はあっても揺らぐことはありえないのだが。

 そう思ってウォーズマンが改めて確認すると、ガイバーはウォーズマンを背負ったまま空中に浮かび上がろうとしていた。
 ガイバーの腹部にある重力制御球が作動して、2人を持ち上げようとしていたのだ。

「おのれ……こしゃくな!
 こんな事で俺のパロ・スペシャルが破られると思うか!」

 とは言え、パロ・スペシャルは重力下において相手を床に立たせていてこそ成り立つ技である。
 いかにファイティングコンピューターと言えども浮遊状態での対策は想定外だった。
 相手を押さえつけるために自分の体重を利用しづらくなり、パロ・スペシャルの拘束力が弱まる。

「くそっ! スクリュー・ドライバーに続いてパロ・スペシャルまでもこんな男に破られてたまるか!
 この状態でも全身をロックしている事に変わりはない! この足も手も、死んでも離さんぞ!」

 フラフラと1メートルほど浮かび上がった状態で、しかしまだパロ・スペシャルは破られていなかった。
 だが、ガイバーは不安定になったパロ・スペシャルを振りほどこうと、怪力でもがき続ける。

「まさか、あのままの状態で浮かび上がるなんて……」
『鎧のくせに嫌なこと考えつくやつですねえ。キョンよりよっぽど賢そうですぅ』
「空曹長、そんな事言ってる場合じゃありませんよ。ウォーズマンさんが……」
『だ~いじょうぶです。あの技はリインの見立てではそう簡単に破れるとは思えないです』

 リインの言う通り、いくらガイバーが空中で怪力をふるってもパロ・スペシャルは崩れることがなかった。
 もっとも、それは技の完成度だけではなく、ウォーズマンの必殺技を破られまいとする意地がそうさせたのかもしれない。
 だが、その意地に引き寄せられたのか、幸運の女神は確実にウォーズマンに味方しつつあった。




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