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勝利か? 土下座か?(中編) ◆O4LqeZ6.Qs



 ……ん、どこだ、ここは?
 ……おい。もしかしてまたあれか。夢の中か。
 冗談じゃない。またもう1人の俺とご対面か。
 もう二度とあんな夢は御免だ。こりごりだ。早く起きないと――

「……キョン。……キョン! 起きなさいよ、キョン!」

 なんだ? ハルヒの声……か? 
 そういやこんな状況が前にもあったな。夜寝てたらいきなりハルヒに起こされて、しかも場所は学校で……

「いいかげんに、起きろーーーっ!!」
「うわっ! なんだ! 耳元ででかい声出すんじゃない!」

 俺が目を覚ますと、そこは見慣れたSOS団の部室だった。
 俺はいつもの席に座ってうたた寝でもしていたらしい。状況から見てたぶん放課後だろうか。
 横を見るとハルヒが仁王立ちで腕を組み、目を吊り上げて俺を睨んでいた。
 おいおい、そんなに怒る事無いだろう。俺にだって考えがあってやってる事なんだ。
 ん? 考え? 俺が何をやってるって?

「何言ってんのよ! ようやくあんたを捕まえたんだからさっさとしなさいよ!
 たぶんあんたがここにいられる時間そんなにないわよ?」
「ようやく捕まえたって何だ? ここに居られるって……
 いよいよ生徒会か先生たちが動いて、この部屋を追い出される事にでもなったのか?」

 そこまで言って俺は自分で気がついた。
 俺はさっきまで殺し合いをするという島にいて、ウォーズマンとかいうまっくろくろすけと戦っていたはずだ。

 ……いや、そんなバカな事ってあるか? 冷静に考えてあっちが夢だろう。
 なんだ、夢か。ひどい夢を見たものだ。よりによって俺がハルヒを……

「夢のわけがないだろう!!!」
「うわっ! ど、どうしたのよいきなり! 時間ないんだから手こずらせないでよ!」
「これは夢なんだろう? ハルヒ!
 俺は……俺はお前を……お前を……っ!!」

 夢の中だってのに必死にすがりついたハルヒの肩はやわらかく、温かかった。
 それなのに俺の手は震えが止まらず、心臓の鼓動はやけに速く感じるのに体は冷たい。
 なんだこれは。俺はどうなっちまったんだ。ハルヒ。俺は一体……



 空間がゆがむ。ぼやける。なんだ、やっぱりこっちが夢か。
 そうか。俺はハルヒを殺した事を忘れようとしてこんな都合のいい夢を……

「キョン! 歯ぁ食いしばれぇーーーッ!!!」
「ごふぅーーーーーっ!!」

 ハルヒのヤツがいきなりアッパーかまして来やがった。
 歯を食いしばれってお前、殴るのと同時に言ったら間に合わないだろ。相変わらず無茶苦茶なヤツだ。

「ちょっと落ち着きなさいよ! 古泉君はすぐに納得してくれたのに、あんたと来たら!
 いいからあたしの話を聞く! わかった!?」

 きれいにアゴを殴られて腰が抜けて床に座り込んだ俺に、人差し指を突きつけてハルヒが言った。
 なんだこの夢は。最近の夢は本人の意図を無視してツッコミ入れてくるのか?
 あと、何でもいいけど人を指差すな。

「いい? キョン! あんたがやってることは全然あたしのためになんかならないからね!
 あたしを理由にして人殺しなんて冗談じゃないわ!」

 ああ、ハルヒが言いそうなセリフだな。
 こんな夢を見て、俺はハルヒを殺した罪から逃れて自由になろうと……

「ちょっと聞いてんの? キョン!
 あたしがあんたに願うことがあるとしたら、元のままのあんたで居て欲しいって、ただそれだけよ!
 あんたに人殺しなんて似合わないしガラじゃないってわかってるんでしょ!
 あたしだってそんなあんたより普通にしてるあんたの方が……」
「方が……どうした?」

 なんだよ。途中まで言いかけてやめるなよ。気になるだろう。
 いや、夢なんだから俺がそうしてるのか。一体どういうつもりだ、俺の深層意識。
 早くハルヒに続きを言わせろ。


「と、とにかく! 罪を償うとか馬鹿な事考えるんじゃないわよ?
 まったく、全然、ちっともあたしはそんなこと望んでないんだからね!」

 ハルヒは顔を赤くしてそう言った。
 なんだこれ。俺はハルヒに「普通にしてるあんたの方が好き」とでも言わせるつもりだったのか。ツンデレか。
 俺にとってハルヒはそんなキャラだったのか。
 自分で言うのもなんだが、それはどうなんだ、俺。
 こんな夢見たとは死んでも言えんな。言う相手ももう居ないだろうけどな。

「……あんた、さっきからずっと何か変な事考えてない?
 まさかこれは夢だから自分に都合のいい事をあたしに言わせてるとか、そんな事考えてるんじゃないでしょうね?」

 ハルヒはそう言って疑いの目で俺を見た。
 しかしさすが俺の夢だ。ピンポイントに俺の考えを言い当ててきやがる。

「そりゃあ思うだろう。俺にだってそのぐらいの事はわかるさ。
 亡くなった人間が夢枕に立つって話は知ってるが、そんな非現実的な事を信じるほど俺も子供じゃ……」

 非現実的? しかし俺の周りは宇宙人や未来人や超能力者といった非現実的な連中だらけだったじゃないか。
 ましてやハルヒはその中心人物。夢枕に立つぐらいの事があってもおかしくないんじゃないか?
 いや、しかしいくらなんでもそんな都合のいい事が……

「いいから信じなさい! 命令よ!
 あたしはあんたに殺された事なんか別に怒ってないの!
 そりゃあ死にたくはなかったけど、それを言うとヴィヴィオちゃんもかわいそうだし、事故だと思う事にしたのよ。
 それより問題はあんたが殺し合いに乗ってるって事よ!
 そもそもあんたがヴィヴィオちゃんに襲いかかったりしなきゃこんな事にならなかったのよ?
 そこに責任感じなさいよ!」
「そ……それは……しかし殺し合いに乗る以外、SOS団のみんなや俺の妹や朝倉を生きたまま戻す方法なんてないだろ!」
「有希はどうするつもりよ?」

 ハルヒは俺を睨んでそう言った。
 俺は頭が真っ白になった。どうするだって? どうする? どうすればいいんだ?


「ど……どうするも何も、あいつは主催者の側なんだからどうとでもするだろ!」
「あんたは有希が望んであんな事してると思ってんの?」
「あ……う……」

 答えられなかった。そりゃあ俺だって長門があんな事を望んでするとは思ってなかったさ。
 だからおそらくあいつの上にいる情報統合思念体がそういう命令を下したんだろう。
 あいつ自身はどちらかと言えば俺たちの味方だったはずだ。
 いや、俺がそう思いたいだけだろうか。しょせんあいつは俺たちを、いや、ハルヒを観察する観察者……
 観察者。そうだよ。長門は俺たちを観察してるんだ。だったら……

「わかったぞ。長門はきっとみんなを生き返らせるつもりなんだ。
 ハルヒ、お前だって生き返る。みんな生き返るんだ。口ではあんな事言ってたが、それは観察のためだ」
「何よ、観察って?」
「お前も俺の夢なんだからわかるだろう? 長門はこの状況を観察してるんだよ。
 欲しいのはそのデータだけだ。全部終わったら元通りにする。そうだ。そうに違いない」
「ちょっと! そもそも有希がみんなを生き返らせるって、そんなこと出来ると思ってるの?」
「できるさ! 本人たちが出来ると言ってるんだ。きっと出来る」
「あんた、ちょっと落ち着きなさいよ。あたしが言いたいのはそんな事じゃなくて……
 ねえ、聞きなさいってば!」

 ハルヒは長門の力を知らないからな。何を言っても無駄だろう。放置しとこう。
 そうだ。草壁のおっさんだってその気ならみんな生き返らせるぐらいできそうな口ぶりだったしな。
 きっとそうに違いないぞ。

 でも、長門はハルヒの観察者なんだから、ハルヒが死んだらこの殺し合いに意味はないんじゃないだろうか。
 そんな思いも浮かぶが、それは……その答えは……
 そうか! それなら説明がつく。

「もしかしたらお前は本当に死んでも消えてないのかもな。
 だとしたら殺し合いが続いてる理由もわかる。そうだとしたら俺のやることは決まってる。
 一刻も早くこの殺し合いを終わらせなきゃならん。そうだ。そうしよう」

 ハルヒが消えていないなら情報爆発とやらも起こる可能性がある。
 だから殺し合いが続いてるんだ。実験続行ってわけだな。


「ちょ、ちょっとどうしたの? キョン。
 そりゃ、殺し合いを終わらせるのはいいけど、あんた何か変よ?」

 ハルヒが何か言ってるが、あいつには何も知らせない方がいい。長門もそう望んでいるだろう。
 俺はただこの殺し合いをさっさと終わらせて、元の世界に早く帰れるようにすればいいんだ。
 そうさ。何も俺が殺して回る必要はない。殺し合いをスムーズに進める手伝いをすればいい。
 そうだ。それがいい。そして俺たちは元の生活に戻るんだ……

「こら、キョン! あたしの言ったこと本当にわかってんの!? ねえ!」

 まったく、死んでもうるさいヤツだ。
 いいから大人しく待ってろ、なるべく早く殺し合いを終わらせてやるから。
 そう。なるべく早く、全員が死ぬように頑張るから――






「う……ぐわあぁああぁあーーーーっ!!」

 目が覚めた時、俺はウォーズマンにわけのわからない関節技を極められていた。
 ガイバーになったって痛みがなくなるわけでも関節が自由に曲がるわけでもない。
 つまり、めちゃくちゃ痛かった。

「むっ!? キョン! 目が覚めたのか!」
「な……なんだ……こりゃあ! うわあぁっ!!」

 さらにまずい事に、俺はなぜか空中に浮かんでいたらしい。
 それなのに、状況がわからない俺は思わず重力制御球をストップさせてしまった。
 結果的に俺と背中に乗っているウォーズマンは落下する。


「うおっ……うっぎゃあああぁあぁああーーーーっ!!!」

 落ちた高さは1メートルほどだったが、ウォーズマンを背負って腕を極められたまま着地したのがまずかった。
 ウォーズマンの全体重が俺の腕関節や腰や脚を襲い、全身が悲鳴を上げる。
 痛いってレベルじゃねーぞ。俺がガイバーじゃなかったら即死だった。

『ああーーっ。あいつ目が覚めたみたいですぅ!』
「よかった。キョンくん! 早くギブアップした方がいいよー!」

 檻の外で観客と化した2人が何か言ってやがる。
 そうだった、俺はウォーズマンと戦ってる最中に気絶してたんだ。
 それで俺が気絶してる間にこの有様ってわけか。
 いや、おかしいだろ。普通気絶したらそこで試合終了じゃないのか?

「き……気絶してる間に関節技極めるなんて、お前それでも正義の味方か!」
「何を言っている。お前が気を失っている間も、お前は戦い続けていたんだぞ。
 もっとも、お前自身よりよほど手強かったがな」

 俺の腕を締め上げながら背中でウォーズマンがそう言った。
 どういう事だ? 俺は無意識でも戦う武術の達人にでもなったのか?

「これは予想だけど、キョン君のその鎧が勝手に戦ってたみたいだよー!」
『その状態になってもギブアップしないからどうしようかと相談していたですよー!』
「……そう言うことだ。いっそのこと腕をへし折ろうかとも思っていたところだぞ?」

 思うな! 恐ろしいことを考えるやつだな。
 しかし痛い。これは痛い。やばいって。腕がもげそうだ!
 いくら後で再生すると言っても、腕をもがれる痛みは経験したくない!
 一生トラウマになりそうだ!

「ぐおおおぉおお! わ、わかった! ギブアップ! ギブアップだ!」

 だが、ウォーズマンはなかなか技を解かない。くそ、やっぱり俺を痛めつけようって魂胆か。


「お前が改心して殺し合いをやめると約束するまで、技を解くわけにはいかんな。どうだ、反省したか?」
「わかった! わかったから! 反省した! もう殺し合いなんかに乗らない!
 約束するから勘弁してくれ!」
「ふむ、どうかな? 口だけなら何とでも言えるが」
「ぐわああぁぁあーーーー!」

 ウォーズマンのヤツ、この期に及んでさらに腕をひねり上げて来やがった。
 何するんだこの野郎! お前本当にやめる気あんのか! 鬼! 悪魔! 人でなし!
 しかし、この状況では下手に出るしかない。どうせプライドなんかとうに捨てた俺だ。構うもんか。

「わ、わかりましたァーーッ!! 私キョンめは深く反省し、殺し合いにはもう乗らないと誓いますーーっ!!
 これからは心を入れ替えて、皆様のお手伝いをさせていただきたいと存じ上げますーーーっ!!」
「……ウォーズマンさん。もうそれぐらいで許してあげてもいいんじゃないですか?」

 恥を捨てた甲斐あって、スバルが同情したらしく、助け船を出してくれた。
 相変わらず安っぽい同情だ。まあ、おかげで助かったけど。

「うむ。これぐらいやっておけば少しは懲りただろう。
 審判。これで試合は終了だ。文句はないな」

 俺からは見えないが、長門はウォーズマンの言葉を了承したらしく、ウォーズマンの技が解かれ、俺は自由になった。
 自由になってから改めて見ると、長門が『試合終了。勝者、ウォーズマン』と書いたプラカードを掲げていた。
 それとほぼ同時に檻の出入り口が開き、スバルたちが入ってくる。

『ウォーズマンさん、お怪我はありませんかぁ?』
「ああ。最後の力比べで体が疲れているぐらいで、外傷は無い」
『無事で何よりです~』

 ちっこいのとウォーズマンがそんな会話をしている。
 そしてスバルはおれの方へ来て、膝をついて俺の怪我を確認し始めた。

「この鎧着てるからよくわかんないけど、大丈夫?
 でも、これで少しは懲りたでしょう?」

 何を言ってやがる。不良少年を教育する青春ドラマじゃあるまいし。
 俺はちっとも改心なんかしてないんだよ。この偽善者どもめ。
 しかし、俺はガイバーで顔が見えないのをいいことに、殊勝な振りをする。


「ああ。俺はどうかしていたんだと思うよ。やっぱり人殺しなんて許される事じゃないよな。
 こんな所に連れてこられて、こんな力を手に入れて、俺は気が動転していたのかもしれない」
「…………ふーーーん」

 な、なんだスバル、その疑いの目は。人が下手に出てやってるって言うのに。

『いくら何でも急に変わりすぎって気がします~
 この人がそんなにあっさり心を入れ替えるとは考えにくいですよ~?』

 くそ! こいつまで余計な事を言い出しやがって!
 しかしさすがにあれだけ頑なにこいつらを拒絶し続けて、いきなり手のひら返したらリアリティが無いか。
 だったらもうこれぐらいしかない!

「す、すまん!! 確かに俺は心から改心したとは言わない!
 でも、もうお前たちに何かをしようなんて事は思ってないんだ。これだけは信じてくれ!
 俺も迷ってるんだ。どうしたらいいのかわからないんだ。
 でも、お前たちが道を示してくれるなら、俺もそれを信じられるかもしれない。
 だから、どうか俺を許してくれ! この通りだ!」

 俺は最後の手段、土下座を使った。
 ここまですればきっとお人好しのこいつらは俺を許すだろう。
 完全に許さなくても、捕虜扱いで命までは取らない。
 そう、どのみちこいつらに俺を殺す気は無いんだ。要は納得する材料を与えてやればそれでいい。

『なんだか調子いいですぅ』
「まあそう言うな、リイン。こいつも一応は懲りて反省したのだろう。
 あまり信用はできないが、この辺で勘弁してやろう」

 よーし。計算通りだ。スバルもこれで……おいおい、なんだよ。あんまり近くでじーっと見るなよ。
 いくらガイバー着てたって女の子に見つめられたら恥ずかしいだろ。
 そう思って戸惑う俺に、スバルはこんな事を言ってきやがった。

「君が本当に改心したかどうかは私にはわからないよ。
 でも、これだけは覚えておいて。
 君が何度道を間違えても、私たちがかならず引き戻す。
 そして、きっと私たちが君を、みんなを元の世界に戻してあげるから。
 私の力は小さくて、信じられないかもしれないけれど、私はずっとそのつもりで居るから。
 今は信じなくてもいいから。それだけは覚えていてね」

 ……なんてヤツだ。こいつは一度は俺とナーガのおっさんに叩きのめされたじゃないか。
 それなのに、なんでこうまで戦えるんだ。なんで前向きなんだ。
 なんで……俺に笑いかけるんだ……


 いかん、ウォーズマンに負けたせいで気が弱くなってるのかもしれん。
 そうだ、そう言えば長門。長門はどうしたんだ。
 俺がそう思ってあたりを見回すと、いつの間にか長門が近くに来ていてぎょっとさせられた。

「な……長門……」
「あなたはさっきのナーガでちょうど3人殺した。ご褒美をもらう権利がある」

 そうか、小学校で最初に殺したやつと、……ハルヒ。そしてナーガのおっさんで3人ってわけか。
 遊園地で妹と一緒にいた子供は死ななかったんだろうな。
 今の俺にはよかった、などとはとても思えんが。

「キョン! 貴様、すでにナーガ以外にも2人も手にかけたのか!」
「キョン君……もしかしたらと思っては居たし、今君を責めても仕方ないかもしれないけど……」
『この事件の解決後には、あなたには相応の刑罰が待っている事は覚悟して下さいですぅ。
 もちろん状況が状況なので、情状酌量の余地はあると思うですけどぉ……』

 あー、まずいな。せっかく治まった奴らの怒りがまた再発しそうだ。特にウォーズマンとか。
 刑罰とやらは一向に構わんが、今ここで死刑にされるってのはまずい。非情にまずいぞ。

「誰だ! 誰を殺したんだ! 白状してもらおうか!」

 ウォーズマンが俺に詰め寄ってくる。そんなことを聞いてどうしようってんだ。
 いや、しかし残りの2人もじっとこっちを見てるし、言わずに済ませられる雰囲気じゃないな。
 仕方ない。もしこいつらの知り合いを殺していたらその時はその時だ。

「1人は俺の知り合いで、涼宮ハルヒっていう女子高生だ……です」

 俺がそう言うと、心なしか長門がぴくりと反応したような気がしたが、気のせいか?
 いや、今はそれより他の反応の方をどうにかしないとな。

「もしかして、知り合いを殺したって放送で言ってたのは……君だったの?」

 スバルがつらそうな顔で俺に言った。
 そうだよ。俺だよ。この間抜けな男が守ろうとした女を殺しちまったんだよ。

「そうです。俺が……殺してしまいました」

 重い沈黙がリングを包む。
 しかし、長門はそんなことどうでもいいように、自分の話を進めていた。


「……ご褒美は、どうする? いらないなら、拒否してもいい。好きにして」
「長門……! あなたって人は……!」

 スバルが拳を振るわせながら言ったが、襲い掛かりはしなかった。
 他の2人もどうやら同じように怒りをこらえているようだ。
 さすがに今長門に向かって行く事の無意味さはわかってきたようだな。
 しかし、長門ももうちょっと伝え方を考えてくれればいいんじゃないか?
 わざとやってるとしたらものすごい嫌がらせだ。

「どうする? あまり長く待たされるのは困る」

 スバルのことはまるっきりスルーして長門は言った。あくまでも事務的だな。
 そうだ、これはこいつらをなだめるのに使えるんじゃないか?
 その線で一丁試してみるか。

「あー、わかった、長門。ちょっとだけ待ってくれ。
 俺が殺したもう1人の名前は知りません。小学校で開始直後に出会った中学生ぐらいの少年でした。
 その事は後でいくらでも聞いて下さい。でも今はこのご褒美とやらをどうするかだと思うんです。
 長門。そのご褒美ってのは確か、昼までの他の参加者の居場所を教えてくれるってやつだな?」
「そう」

 長門の返事はいつもながら短いな。だが、今はそれはどうでもいい。

「それは1人だけか?」
「そう」
「そうか。……と言うことらしいですが、俺には別に場所を知りたい相手は居ません。
 昼までと言うともうかなり前の情報になりますが、もし皆さんが探している相手が居るなら代わりに聞きましょう。
 せめてもの罪滅ぼし、と言うのもおこがましいし筋も通らないかもしれませんが、無駄にするよりはいいでしょう?
 どうしますか?」

 3人は顔を見合わせる。やっぱり主催者からのご褒美で自分の探し人を探すのは気が引けるんだろうな。
 しかし、それを言ったら食べ物も地図も支給品も全部そうなんだ。割り切った方がいいと思うんだが。
 そう思っていたら、最初に口を開いたのはちっこいの――リインという妖精っぽい少女だった。


『ここは彼の申し出を受けてもいいとリインは思います。
 この長門っていう人に頼るみたいで嫌ですけど、情報は情報ですぅ』

 すると、その言葉に動かされたのか、スバルも自分の意見を言い始めた。

「私が探している人は多いです。でも、一番優先的に保護したいのはヴィヴィオっていう小さな女の子です。
 ウォーズマンさんはどうですか?」
「俺は……キン肉スグルやキン肉万太郎といった仲間は居るが、彼らとて正義超人。
 合流できればいいとは思うが、できなくともきっと独自に悪と戦っているだろう。
 メイを殺した男は残念だが名前がわからん。ホリィを殺した男もそうだ。
 ホリィに頼まれた、ゲンキ・ハム・スエゾーの3人のうち誰か1人を選ぶのも難しい。
 ……となれば、やはりそのヴィヴィオという少女を優先するべきだろう」
『そうですねえ。ヴィヴィオちゃんは早く保護してあげた方がいいとリインも思うですぅ』

 いや、待て。確かそのヴィヴィオっていうのはハルヒと一緒に居た……
 いかん、色々思い出してしまった。落ち着け、落ち着くんだ俺。

「ヴィヴィオという女の子には会いました。最初の放送の直前ですけど。その時は高校に居ました」
「本当? キョン君」
「ああ。間違いない、いや、間違いありません」
「いや、キョン君。無理に丁寧語使わなくていいよ?」
「で、でも俺は立場的にアレだからな……」
「そんな事より、それが本当でも昼前にどこにいたかわかるならそれに越したことはないだろう」

 そんな事とは何だ、ウォーズマン。気を使ってやってるんだぞ。

「…………」

 ふと見ると待ちぼうけ食らっている長門が無言でこっちを見ている。
 見た目はいつも通りで、特に待ちくたびれた様子は無いが、あまり放っておくのも悪い気がしてきた。
 さっさと決めてやるか。

「じゃ、じゃあそのヴィヴィオって子の居場所を聞くって事でいいですね?
 長門。そういう事だ。ヴィヴィオちゃんが昼前にどこにいたか教えてくれ」
「わかった。ちょっと待って」

 長門はそう言うとスカートのポケットから1枚の折りたたんだ紙を取り出すと、広げて読み始めた。
 おいおい、ずいぶんとローテクだな。それプリンタで打ち出したのか?
 ていうかその紙を手を伸ばして取ったら読み放題だな。いや、どうせ無理だろうから取らないけど。


「ヴィヴィオという参加者は、12時の放送直前には高校にいた」

 長門はそれだけ言って、また紙を折りたたんでポケットに戻す。

「なんだ、あの子俺と会ってからずっと移動してなかったのか」
『……というか、まさかあなた、ヴィヴィオちゃんにまで襲いかかったりしてないですよね~?』

 リインが疑わしそうな目つきで俺を見ながらそう言うと、他の2人も俺を同じ目で見た。

「ま、待って下さいよ。大丈夫です。怪我はさせてませんから」
「怪我はさせてないって……それはもしかして襲ったけど、って事?」

 スバルが悲しそうな目で俺を見る。やめろ、そういう目はやめろ。
 余計な罪悪感が呼び起こされる。
 しかし、あのヴィヴィオがスバル達の仲間だって事は、このまま一緒にいればいずれバレるかもしれん。
 いつまでも一緒にいる必要はないが、逃げられない可能性もある。
 隠しておくより今の内に言ってしまう方がダメージは少ない……と思う。

「この際だ。正直に言う。確かに俺はヴィヴィオちゃんを襲った。
 だが、今は悪かったと思ってる。今度会ったらそんなことはもうしない。約束します」
『なんだか無理して言ってるように見えるですぅ』
「ま、まあまあ。空曹長、キョン君も少しは改心したと思いますし、今その事を言っても仕方ないですし……」
『ぶーー。なんだかスバルはキョンをやけにかばうですねぇ』
「そういうつもりはないんですけど、一応彼を止めた責任があるっていうか……」

 この中では一番甘いのがスバルだから必然的に俺をかばう形になるんだろうな。
 実に気苦労の多そうなヤツだ。
 と、そんな事を俺たちが言い合っていると、突然長門が光の柱に包まれ出した。
 どうやら来た時と同じような演出で戻るつもりらしい。

『じゃあ、私は帰る』

 しかも最後までそのプラカードでしゃべるのか。普段のお前らしからぬユニークさだな。
 ていうか、さっきまでは喋ってただろう。役割によってキャラを変えてるのか?


「…………」

 まさか俺の考えを読んだわけではないだろうが、長門が無言でこちらを見つめていた。
 何か言いたいことでもあるのか。それはあいつの表情からはまったくわからない。
 でも、少なくとも嬉しそうではない。……ような気がした。
 もっとも、俺の願望がそう思わせただけかもしれないが。

 そんな事を俺が思っているうちに、長門の姿は薄れ、光の中に消えていった。

「長門…… いつか貴方の事も、きっと捕まえるから。
 中トトロも、きっと助け出してみせる……」

 消えていく長門を見ていたスバルが、そんな事を言っていた。
 言葉は穏やかだったが、拳を強く握っている。
 こいつの事だ。きっと自分の力不足が悔しいんだろう。わかりやすいヤツだから想像しやすい。

「もちろん俺もあの女や草壁タツオを許しておくつもりはない。力を合わせて頑張ろう、スバル」
『リインも及ばずながら頑張るですぅ!』

 ウォーズマンとリインがスバルにそう言った。
 だが、俺はあえて口を挟まない。
 ここで俺が「きっとできますよ」とか言っても、またリインに嘘くさいとか言われるに決まってるからな。

「ええ。ありがとうございます、ウォーズマンさん。リイン空曹長。
 それで、これからどうしますか? もう夕方だし、放送も近いと思うんですけど」
「俺はタママ達と合流する事になっている。
 スバルが止めたいと言っていたナーガとキョンは止めることができたし、今から向かおうと思っているが」

 ウォーズマンがそう言った。なるほど、ウォーズマンには他にも仲間がいたのか。

「そうですか。私は……ヴィヴィオの事も気になりますが、ウォーズマンさんとご一緒したいと思います。
 私は水野灌太という人とホテルで落ち合う約束をしていたんですが、それはお昼の待ち合わせでもう間に合いません。
 それに、すでにお話したように、ガルル中尉にはとてもお世話になったんです。
 だから、タママさんに中尉の事を自分の口で伝えたいんです」
『そうですねえ。高町一等空尉とも合流したいですけど、情報も無しで探し回るのも効率が悪いですしね~
 ヴィヴィオちゃんの事も心配ですけど、ひとまずはそれでいいと思うですよ~』
「そうか。もちろん俺には異論はない。君のような仲間が居れば俺たちも心強い。
 みんな喜ぶだろう。じゃあ早速で悪いが出発するか」

 こいつら、俺の事情は聞かないのか。一応俺にも6時に待ち合わせの予定が……
 いや、いいか。どうせ俺は古泉を裏切った挙句危険人物にしたてあげようとしたんだからな。
 もし都合がつけば行ってみてもよかったが、こんな状況でこだわるつもりはない。
 早めに脱出できたら行ってみてもいいけどな。




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