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遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs



 ここはズーマとの戦いが終わった直後の遊園地(D-2)。
 支柱を折られて倒れた観覧車などの、戦いの余波による破壊の跡が生々しい。


「あなたたちのおかげで助かったわ。本当にありがとう」

 なぜかメイド服を着て、金髪の幼い少女を背負っているいる女子高生、朝倉涼子。
 彼女の顔には疲労の色が見られたが、それでも微笑みを浮かべながらリナとドロロに礼を言って、ぺこりと頭を下げる。
 すると彼女の長い黒髪がさらりと流れる。

 その容姿を見れば、多くの人は優しそうだとかお淑やかそうだとか、そんな印象を抱くのだろう。
 ――もちろん、必ずしも全ての人が朝倉にそういう印象を抱くわけではないが。

「こっちこそ闇の霧を消してもらって助かっちゃったわ。
 最後のレーザーブレスもどきからも助けてもらったし。
 それにあいつにはずっと命を狙われてたからね。ここで倒せたのはラッキーだったかもしんない」

 リナ=インバースは明るく、軽い口調で朝倉に答える。
 本音を言えばリナはこの朝倉という少女を完全には信用していない。
 彼女の言動にはどこか空々しさを感じてしまうのがその理由だった。
 どことなくあの微笑みを絶やさない魔族、ゼロスを思い出させる。そんな気がしたのだ。
 そもそもさっきズーマの虚霊障界(グーム・エオン)を打ち消したあの能力。おそらく普通の人間ではあるまい。

 だが、朝倉が背中に背負っているヴィヴィオという小さな女の子を守っているのは確かなようだ。
 それに会話していると、少なくともゼロスよりは性根が曲がっていないとも感じられる。
 だからリナは多少の不信感は胸にしまって、朝倉と協力関係を結ぶ方向で話を進めようと考えていた。

「拙者からも礼を言うでござるよ、朝倉殿。
 しかしリナ殿。あのズーマというのは何者だったのでござるか?」

 ドロロがリナに尋ねる。

「それが、あたしの世界に居た一流の暗殺者……って事ぐらいしかわかんないのよ。
 個人的にあたしに恨みがあるみたいだったんだけど、何の恨みがあるのか結局聞けずじまいだったし。
 本名、出身、年齢、家族構成、その他もろもろ、一切わかんない」
「そうでござるか。そんな相手がわざわざ連れてこられていたとは、主催者の悪意が感じられるでござるな」
「まあ、殺し合いの場に連れてくるには丁度いいヤツだったんでしょうけどね。
 それよりドロロ、大丈夫? かなりやられてたみたいだけど」
「これしきの傷、ギュオーにやられた左目に比べればたいした怪我ではござらんよ」

 リナにそう答えたドロロではあったが、それでもズーマから受けた傷は浅くはない。
 しかし、それでも暗殺兵として忍者として訓練を積んだドロロにとっては、支障なく活動が可能なレベルでもあった。

「うーん、あんたがそう言うならいいけど。無理しないでよ?
 そうだ。ねえ! アサクラはどう? 大丈夫?」

 朝倉もかなりダメージを受けているはずだと気づき、リナは朝倉に声をかける。
 だが、リナに声をかけられた朝倉はヴィヴィオを背負ったまま何かを探すようにあたりを見回していて気付かない。

「どうしたの~? アサクラ~?」
「あ、ごめんなさい。クロスミラージュ……この銃の銃身が落ちていないかと思って探していたのよ」
「銃身……? ああ。こりゃひどいわね。真っ二つだわ」

 リナは朝倉の持つ銃のグリップを見て驚きの声を上げる。

「ガイバーの肘のブレードはどんなものも切り裂くとは聞いていたが、まさにその通りの威力でござったな。
 よかろう。しばし待たれよ、朝倉殿。拙者が探してみるでござる。ニンニンッ!」
「ああっ、ドロロ! あんた一応怪我人でしょうが!
 もう、しょうがないヤツね~」

 ニンニンと言い残して一瞬で姿を消したドロロにリナは不満の声を上げるが、すでにドロロは見える場所には居なかった。

「ドロロさんって本当に忍者なのね。
 それも小説とか映画とかマンガの中みたいな『らしい』感じの」
「うーん。あたしはそのニンジャってよくわからないんだけど。
 でも、とりあえず何をするにも頼りになる仲間ではあるわね」

 2人がそんな話をしている間にもう周囲の探索を終えたのか、ドロロが不意に姿を現す。

「朝倉殿。お探しのものはこれではござらぬか?」

 そう言ってドロロが朝倉に差し出したのは、まさしく切断されたクロスミラージュの銃身であった。
 朝倉は嬉しそうにそれを受け取り、ドロロに礼を言う。

「そう。これよ。ありがとう、ドロロさん」
「少し離れた所に落ちていたでござるよ。
 しかしその状態ではもはや修理も難しいのではござらぬか?」
「そうね。これは私でも直すのは無理みたい。
 くっつけるだけならできるけれど、機能までは回復できそうにないわ。
 ただ、今までいろいろと助けてくれた銃だからなんとなく持っていたかったの……かな?」

 壊れて、直す見込みもない武器を持ち歩くなど、非合理的である。
 だが、なぜか今の朝倉はそうしたいと思った。
 普段の朝倉からすれば少々おかしな行動だったかもしれないが、不思議とそう悪い気分ではない。

 朝倉はヴィヴィオを背負ったまま、受け取ったクロスミラージュを器用にポケットに入れながら、そんな事を思うのだった。

「それで、あなたは大丈夫なの? アサクラ」

 リナは改めて朝倉に怪我のぐあいを尋ねる。
 そして、今度は朝倉もちゃんとそれに答えた。

「そうね。私が自分で治せるのは表面だけだから、まだ結構きついかも」

 苦笑いしながらそう言った朝倉は、確かにかなり具合が悪そうだった。
 何しろバリアジャケット越しとは言え、ガイバー・ズーマの蹴りを受けている朝倉である。
 ヘッドビームで貫かれた脚も、外見上はほとんどわからないほど治っているが、完全にとは行かなかったようだ。
 また、その前に火事の中で吹き飛ばされたりして受けたダメージも無視できない。

「じゃあもう一回治癒(リカバリィ)をかけるわ。じっとしてて?」
「ごめんなさい。助かるわ」
「その子は治療が済むまで拙者が支えておくでござる」
「ありがとう。じゃあ、お願いするわ」

 朝倉はドロロに一旦ヴィヴィオを預け、地面に座り込む。
 それを見てリナは朝倉に近寄り、痛みがひどい部分を聞きながら魔法で治療していった。
 ちなみにヴィヴィオが小さいと言っても、ドロロでは抱えきれないので、上半身を支えて地面に座らせている。

「この子は大丈夫なのでござるか? 朝倉殿」

 ドロロがヴィヴィオの様子を見ながら朝倉に尋ねる。
 朝倉はリナの治療を受けながらドロロの方を見て、ヴィヴィオの状態について答えた。

「この子はズーマの攻撃を受けて気絶してしまったの。
 それにズーマに会う前にも市街地で大変な目にあったから疲れているんだと思うわ。
 でも、外傷はないみたいだから、このまま寝かせておきましょう」
「そうでござるな。拙者の見たところでも、たいして怪我はしておられぬようでござる」




 そうしてしばらく経って、リナが朝倉の治療を終える。

「あ~~。さすがにちょっと疲れたわね~~」
「ありがとう。リナさん。おかげでずいぶん楽になったわ」

 朝倉が立ち上がって、メイド服についた土を払う。
 もちろん今の治療だけで完治したわけではないが、とにかく動くのに支障は無くなったと言える。

「でも……ちょっと体の力が抜けてきた感じもするんだけど」
「あー。治癒(リカバリィ)は回復速度を速めるけど、怪我を治す力は本人のものだからね。
 食べて寝たら治ると思うからそこは我慢しといて~」

 リナの説明に朝倉は少し落胆するが、すぐに気を取り直して言う。

「そうなの…… まあ、それぐらいの代償は仕方ないかな」

 そう言って朝倉はドロロからヴィヴィオを受け取ろうとするが、疲労のせいで思わずよろめいてしまう。

「朝倉殿。その様子ではヴィヴィオ殿を背負うのは危ないのではござらんか?」
「そ、そうかもね。でも、誰かが背負って行かなきゃ……」

 朝倉はヴィヴィオを守るという約束をしたせいか、あくまでも自分でヴィヴィオを背負っていこうとする。
 だが、どう見ても無理をしているのがわかるので、やむなくリナが助け船を出す。

「しょうがないからあたしが背負って行くわよ、アサクラ。
 あたしも疲れてはいるけど、それは魔力を消費してるだけだしね」
「拙者が抱えて運んでもよいのでござるが、この体の大きさゆえ、いささか無理があるでござるな……」

 そう言われて朝倉は少し考えるが、確かに今の自分がヴィヴィオを運ぶのは少々危険なように思えた。

「じゃあ、悪いけどリナさん、お願いできるかしら?」
「ええ。どのみちこんな小さな子、放ってもおけないしね」

 リナはそう答えて自分のデイパックをドロロに渡し、ヴィヴィオを背負う。

「ああ、軽い軽い。これぐらいなら大丈夫だわ。
 そんじゃ、そろそろ移動を始めましょうか」
「リナさんたちは行くあてがあるの?」
「うむ。拙者たちは放送前に遠くにいる協力者と連絡を取ることになっているでござる。
 そのためにここのスタッフルームに向かう途中で、お二人を助けに来たのでござるよ」
「あら、そうだったの。じゃあ早く行かないとその協力者さんに悪いわね。
 でも、遠くにいる相手とどうやって連絡を取ってるの?」
「パソコンっていう道具があってね。それでチャットっていうのをするのよ」
「パソコンでチャット……? この島でそんな事ができるの?」
「できるでござるよ。朝倉殿はこの島で今までパソコンを見かけたことは無かったでござるか?」
「1回見たんだけど、その時はパソコンのせいで一緒にいた仲間がいなくなっちゃって……
 そう。この島にはネットがあったのね……」

 中学校の3階にあったパソコンは、調べる間もなくゲンキ君たちの方へ向かったから詳しく調べなかったのよね。
 まさかこの島でそんな事ができるようになっていたなんて思わなかったわ……

 朝倉はそんな事を考えていたが、リナとドロロはその朝倉の発した言葉に疑問を抱いた。

「パソコンと仲間がいなくなるのと何か関係があんの?」
「ああ、そうね。説明するわ。
 でも、このまま立ち話するのはちょっと…… せめて移動しながらでいいかしら?」
「あ~~、そうね。あたしもこのまま立ち話はきついわ」
「おっと、そうでござるな。さあ、こっちでござる。
 そう遠くはないはずでござるよ」

 こうして4人はパソコンのある遊園地のスタッフルームを目指して移動する事になった。




「転移装置? そんなのがあんの?」

 ヴィヴィオを背負って歩きながら朝倉の説明を聞いたリナが驚きの声を上げる。

「ええ。SOSっていうマークが出てるパソコンと、床に変な模様が描かれた部屋。
 他にもあるかもしれないわね。
 もっとも、SOSマークは仲間が消えたと同時に消えちゃって使えないし、
 模様のある部屋からはどこに移動するかわからなかったけどね。
 そうだ、ここに中高生ぐらいの男の子と若い女性とドロロさんに似た感じのカエルっぽい人が来なかった?
 そんなに時間は経ってないはずなんだけど。
 女性の方は茶色の長い髪をこう、左側に結んだ、私よりちょっと年上って感じの人よ。
 その人が『なのは』っていう、ヴィヴィオちゃんのお母さんなの」

 朝倉は自分の頭の左側を指差しながらそう言って冬月やなのは、そして名前を知らないケロロのことを尋ねた。

「申し訳ないが、拙者たちもここにたどり着いたばかりゆえ、わからないでござる。
 しかし少なくとも先ほどの捜し物の時には、誰の気配も感じなかったでござるよ」
「そう…… じゃあやっぱり違う所に転移したってことかしら。
 そうだ。バルディッシュ。あなたは何かわからない?」

 朝倉はヴィヴィオが持っているバルディッシュの事を思い出し、話しかける。

『I am sorry. 常に周囲をサーチしては居ますが、あなた方以外の生命反応・魔力反応を感知できません』
「そう。でもあなたが探知できる範囲もそんなに広くはないのよね?」
『Yes. 我々デバイスの探知能力は近距離に制限されています』
「仕方ないか。今は彼女たちは居ないものと思っておきましょう」

 朝倉は納得したようだが、自分の背中から突然誰かの声が聞こえたリナはさすがに驚きを隠せない。

「アサクラ、あんた誰と話してたの? この子の声じゃなさそうだったけど」
「通信機のようなものでござるか?」
「ああ。今話してた相手はバルディッシュって言って、ヴィヴィオちゃんが持ってるデバイスよ。
 デバイスって言うのはヴィヴィオちゃんの世界のアイテムで、魔法をサポートするものらしいわ。
 人工知能が組み込まれていて会話もできるし、ある程度の索敵もやってくれるの。
 さっきドロロさんに探してもらったクロスミラージュもデバイスだったの。
 ねえ、バルディッシュ、2人に挨拶して?」

 朝倉がそう呼びかけると、ヴィヴィオの首に掛かっていたペンダントが少し浮かび上がってちかちかと光を発する。

『私がバルディッシュです。よろしくお願いします』
「バルディッシュはちょっと無口だけど、信用できる相手よ」
「よろしく、バルディッシュ。
 暇になったら魔法のサポートっていうのをちょっとやってみせてくれる? 興味があるわ」
『了解しました。Miss.リナ』


 少々面食らっていたのも最初の内だけだったようで、リナはあっさりデバイスの存在を受け入れていた。
 元々魔法の世界の住人なので、喋るペンダントぐらいは驚愕するほどのものではなかったらしい。
 もちろんそれはドロロにしても同じ事。
 もっとも彼が見慣れている喋るアイテムはクルルが作った発明品などの科学の産物ではあるが。

「バルディッシュ殿、よろしくお願いするでござる。
 しかし、朝倉殿が言われたカエルっぽい人というのはおそらく拙者の仲間の誰かでござるな。
 体の色は何色でござったか?」
「炎の中だったからはっきりしないけど、たぶん……緑色だったと思うわ」
「ではそれはきっと隊長殿でござるな。
 拙者が居た世界で、拙者の所属する部隊の隊長をしておられるケロロ軍曹殿でござるよ」
「へえ……そうなの。ケロロさんか……」
「とりあえず1人無事な仲間がいてよかったじゃない。
 つっても、どこにいるかわかんないのが困りものだけど」
「そうでござるなあ……」

 リナの言葉にドロロも頷く。
 ドロロにとってケロロは幼馴染みの友人であり、上司だ。
 早く合流したいのだが、どこかへ転移したとなるとこの島のどこに行ったかまるでわからないという事になる。

「ねえアサクラ。その人たちがその変な模様の部屋からどこかへ移動したのって間違いないの?」
「ええ。この目で見たわけじゃないけれど、首輪探知機の反応が一度に消えたからたぶん……」
「へえ~、首輪探知機なんてあるんだ。今もあるの?」
「それが市街地で誰かの攻撃に巻き込まれて無くしちゃったのよ。
 火事の中だったから、もう回収しても使えないと思う」
「そっか~。残念ね。役に立ちそうなのに」
「首輪探知機などというものがあるなら、それを調べれば首輪のことも少しはわかったかもしれないでござるが……
 惜しいことをしたでござるな」
「そうね。あの時は思いつかなかったけど、そういう使い方もあったかもしれない。
 壊れていても回収すれば首輪の分析に少しは足しになるかもしれないわね」




 その後一行は黙って歩き続けたが、しばらく経ってからドロロが口を開いた。

「朝倉殿たちは市街地に居たようでござるが、あそこで何があったのでござるか?
 拙者たちもここに来る途中、遠くから煙を見たのでござるが」

 その問いに対して、朝倉は自分の知る限りの事をリナとドロロに話し始めた。
 特に隠したり出し惜しみする事はなく、ヴィヴィオがなのはに会ってすぐに引き離された事なども話す。
 その流れで、朝倉はアスカや小砂と自分達の間に起こった事件の事にも言及していく。

 それまで朝倉の話を黙って聞いていた2人だが、その事件の犠牲者の名前には反応せずに居られなかった。

「ゲンキ殿……! ゲンキ殿は死んだのでござるか?」
「知ってるの? ゲンキ君は名前通りの元気そうな男の子だったんだけど……ね。
 優しすぎる性格が災いしたの。
 アスカを助けて、身代わりになって小砂に撃たれたのよ。
 今思えば小砂はアスカだけを狙っていたんだと思う。
 アスカは殺されても無理ないと思うぐらいひどい女の子だったもの。
 現にアスカはゲンキ君や妹ちゃんも、私やヴィヴィオちゃんも、怪物だって決めつけて殺そうとしていたの。
 どこかおかしくなっていたのかもしれないけど、あれじゃ救いようがなかったわ。
 それなのに、ゲンキ君は、自分達を殺そうとしたアスカをかばって……」
「…………」

 ドロロとリナは何も感想を返すことができなかった。
 できれば合流したいと思っていた参加者の1人が、既に死んでいた。
 それも、そんな悲しい死に方をしたと聞かされたのだ。

 そして、そのためにゲンキの友人であるキョンの妹が復讐の末の自殺を望んでいる事も朝倉は話した。
 何とか出来るものならしてやりたい。
 だが、市街地ではぐれたというキョンの妹を助けに行くには少々場所が遠い。
 それに、ヴィヴィオの安全も考えねばならないだろうし、晶たちとの約束もある。
 ズーマとの戦いで受けたダメージや疲労・魔力の消費も考慮しなければならない。
 2人の間に決着がつくまでに2人を発見できるかどうかわからない。
 そして、仮に間に合って駆けつけたとして、どうやって彼女を説得できるというのだろう。
 もはや彼らにはキョンの妹の無事を祈る他に出来ることはないように思えた。

「ゲンキって子は、今から連絡を取る相手の知り合いなのよ。
 もし見つけたら一緒に行動しようと思ってたんだけどね」
「そうなの……
 そう言えば、そろそろその協力者っていう人の事も教えてもらえないかしら?
 どういう人たちなの?」

 朝倉にそう聞かれて、リナはドロロと一瞬視線を交わす。
 ドロロはそれに無言の頷きで答えたが、リナはまだ朝倉を信じ切ってはいなかった。
 ここまでの話を聞けばうっかり感情移入してしまいそうになるが、まだ朝倉が嘘を言っている可能性もある。
 ヴィヴィオも寝たままで、証言できそうなのはバルディッシュのみ。
 リナの冷静な判断では、まだ朝倉を信じ切るには材料が足りない。

「まあ、名前ぐらいは教えておいた方がいいわね。
 深町晶とスエゾー。あと、参加者じゃないけど小トトロっていうのが一緒にいるらしいわ。
 知ってる名前はある?」
「うーん。残念だけど知らないわね。
 トトロって言う参加者の事は少しだけ聞いたことがあるけど。小トトロっていうのはその関係者なのかしら?」
「たぶんそうみたいなんだけど、はっきりとはわかんないのよね~」
「うむ。喋らない小動物のような生き物のようで、どうやらトトロの関係者らしいという事しかわからないそうでござるよ」
「ふうん。私はトトロっていうのは体格のいい外国人か何かだと思ってたんだけど、違うのかしらね」
「外国人? アサクラ、あんたなんでそう思ったの?」
「ある人に聞いた話から想像したのよ。
 その人が、トトロは大きくて強いって言っていたから。
 でも、不思議な力も使えるって言っていたし、人間じゃないと考えた方が辻褄が合うかもしれないわね」
「その、ある人というのは誰でござるか?」
「うーん…… まあいいか。これからあなたたちとは仲良くやって行きたいし。
 草壁メイっていう小さな女の子よ」

 わざわざもったいぶった言い方をしたのは2人に少しでも恩を売っておこうという打算なのだろう。
 だが、2人はそんな事よりも朝倉の言った名前に強く興味を引かれて食い付いていた。

「草壁メイ? 草壁メイに会ったの?」
「草壁メイは小さな女の子でござったか。やはり草壁タツオの関係者だったでござるか?」
「それが残念なんだけど、メイちゃんとはこの殺し合いが始まってすぐに会って、すぐに別れちゃったのよ。
 変なマスクとマントを着けた変態っぽい人にさらわれちゃってね。
 一緒にいたウォーズマンっていう人が探しに行ったんだけど……」
「放送で名前を呼ばれていたという事は、助けられなかったでござるな……」
「そうね。私はその後ウォーズマンと合流できなくて、仕方なく別れて行動する事になったの。
 ウォーズマンっていうのは全身まっ黒でヘルメットとマスクで顔を隠した体格のいい男の人でね。
 自分の事を正義超人だって言っていたわ。
 その後会った参加者のキン肉マンって人もそのウォーズマンの知り合いで、正義超人って名乗っていたわね。
 そう名乗るだけあって、悪は許さず弱い者を守るって感じの人たちだったわよ。
 ……外見は変だったけど」

 朝倉の話を聞いて、リナは図書館で見つけた本で読んだ知識を思い出す。
 だが、あの本に書いてあった内容を思い出して何とも言えない気分になり、あえてその事を口にはしないのだった。

「しかし、草壁メイとトトロはやはり関係者でござったか」

 少しの沈黙の後、そうつぶやいたドロロに朝倉が話しかける。

「メイちゃんは友達だって言っていたわ。
 あと、言っていた事といえば、草壁サツキがおねえちゃんだって事ぐらいね」
「おねえちゃん、でござるか。そうなると草壁サツキもやはりまだ子供と考えてよいでござろうか?」
「それはわからないけど……もう草壁サツキは死んでいると思うわ」
「……思うって事は誰かに聞いたって事かしら?」

 朝倉の驚くべき発言を聞いて、リナは真剣な顔で確認する。

「ええ。さっき話したアスカって女の子が殺したって言っていたわ。
 草壁サツキが彼女の味方に襲いかかってきたからって。
 主催者の手先だったとも言っていたけど、彼女の言う事じゃ信用はできないと思う」
「う~む。それは……また……」

 ドロロも、そしてリナも言葉を失った。
 むろん2人ともこんな殺し合いに巻き込まれているのだから、そういう事が起こりうるのは予想していた。
 だが、現実に狂ったように人を攻撃している人物の話を聞くとさすがに嫌な気分にさせられる。
 朝倉から聞いたアスカの発言内容も、朝倉に言われるまでもなくあまり信じていなかった。

「そっか。じゃあもう直接草壁サツキから話を聞くことはできないのね」
「残念だけど、そう言うことになるわね。
 アスカの勘違いであってくれればとは思うけど、そんな幸運は期待できないかな……」

 朝倉の言葉に一行の足取りは重くなる。

「しかし、まだ草壁姉妹の情報を調べる手段はあるでござるよ。
 草壁タツオに繋がる線が完全に絶たれたわけではござらん」

 ドロロがそう言うと、朝倉がそれに興味を持って尋ねてくる。

「ということは、何か調べるあてがあるの?」

 そう聞かれて、ドロロは朝倉に悟られぬように素早くリナの方を伺う。
 リナは首を振ったりはしないが、あまりいい顔はしていない。直前まで伏せておこうという事だろう。

「確かに今から行く先にあてはあるでござる。でも、それはその時になってからのお楽しみとさせて下され。
 もし上手く行かずにぬか喜びさせてしまっては申し訳ないゆえ」
「……そう。わかったわ。楽しみにしておくわね」

 こうしてある程度の会話を進めた一行は、少々重苦しい空気の中、スタッフルームに向かって歩き続けた。






 オッス。雨蜘蛛だ。
 ここは地図上でH-8エリアにある博物館。
 俺は今、その中にある学習室に居る。

「……ふう。やっと映像を確認できたな。
 これでドロロさんとチャットを再開した時に伝えるべき事はわかったぞ」

 学習室の中に置いてあるパソコンの前で変な鎧の男がそう言った。
 横には一つ目の黄色いお化け。パソコンの置いてある机の上にゃあ白くてもふもふしたのもいる。
 解説すると、鎧の男は深町晶。一つ目はスエゾー。もふもふは小トトロって名前だ。

 こいつらは、ドロロとリナ=インバースっていう2人の参加者と何やら約束をしたらしい。
 なんでも、このパソコンでこの博物館の前のリングの映像を確認して内容を教えるんだそうだ。
 それが今やっと終わったってぇわけだな。
 なんともトロくせえ話だが、まあ、半分は俺と話していたせいでもある。

「しかし、異世界ってやつは底が知れねえな~~
 その映像に出てきたアシュラマンにしてもオメガマンにしても、想像を絶するバケモンだ。
 スバルって女もそいつらに勝っちまうんだから同じようなモンだな。
 ガルルってカエルの最後はあっけなかったが、あんな生き物が居るって事自体が不思議発見だぜぇ~~?」

 晶の近くの椅子に座った俺が軽~く話を振ると、スエゾーのやつが乗ってきた。
 見た目だけならこいつもかなりの不思議生物だが、慣れちまえばどーって事はない。

「オレから見たらまだ理解できる範囲内やったけどな。
 せやけど、このオメガマンっちゅうやつはホンマに許せんやっちゃ。
 今度会うたら……いててて」

 スエゾーが体の痛みで顔をしかめる。
 俺に会う前、キョンの野郎やそのオメガマンってヤツにやられたらしい。

「無理するなよスエゾー。もしオメガマンを見つけたら俺も一緒に戦うから」
「おんやあ? 晶。お前は確かみんなで生き残るつもりじゃなかったのか?
 こいつだって生き残るために割り切って人を襲ってるだけで、被害者には違いないんじゃねえの?」

 晶のヤツは少し前に、俺にみんなで生き残りたいから力を貸せと言って来やがった。
 正直言えば俺はこいつらがあのゲームマスターどもに勝てるとは思えなかったんで、真に受けちゃいない。
 だが、晶の空を飛ぶ能力を利用するためにとりあえず話を合わせておく事にしている。

 だから、別にこいつの発言に突っ込む必要はなかったんだが、面白そうなのでからかってみる。
 どうせ夜までやる事がねえからな。
 本当はもうちょっとこいつらから話を聞くべきなんだが、まだ船酔いが完全に消えてなくて情報収集もおっくうだ。
 ちょいとこいつらの覚悟ってヤツを見てみるのもいい暇つぶしになるだろう。

「そ、それは…… でも、このオメガマンは力を合わせて殺し合いを潰そうと言っても聞くような相手とは思えません」
「話を聞かないやつは力でぶっ潰す、か。いいねえ。それが正解ってもんだ。
 お前さんにその覚悟があるなら何も言うことはないぜえ~
 だがまあ。途方もない大仕事をやろうって時には、それだけじゃ足りない事もあるがなぁ~?」
「足りないって……何がですか?」

 ダメだこりゃ。こいつは頭を使うって事を知らねえのか。

「カ~~ッ。まったく、お前はどうしようもない唐変木だな。
 少しは考えるとかしたらどうなんだ、このドテカボチャ!
 利用するんだよ。ヤツが殺しを望んでいようが、その考えを読めば利用する隙はあるもんだ。
 敵だけじゃねえ。この島のありとあらゆるものを利用できる知恵がなくちゃ到底脱出なんざ不可能だぜ?
 お前さん、本気で殺し合いを潰す気があるのか?」
「あ、あります! こんな殺し合いに乗るなんて絶対できません。
 俺の進む道は、殺し合いを潰す事しかないんです」
「そうかい。だがな、こうして話してる内容があの草壁ってオッサンや長門って小娘に筒抜けになってるとは思わないのか?
 もし筒抜けだったらどうする? 今頃あいつらお前の話を聞いて大爆笑してるぜ~? ひ~っひっひっひぃ」
「うっ……」

 うっ、じゃねえよまったく。
 これでゲームを潰すとか言ってるんだからしょうがねえヤツだな。
 わかっちゃいたが見込みゼロじゃねーか。俺を笑い殺す気か。

「それぐらい相手はでっけえってこった。
 どうだ? なんだったら諦めて殺し合いに乗ってみるか?
 俺だって主催者どもを信用してるわけじゃあねえが、立ち向かうよりはマシだと思わねえか? んん~?」
「ダメです! そんなことできるもんか!」
「そうやそうや! 強い相手やから言うていいなりになって人殺しなんかできるかいな!」

 やれやれ、先に結論ありきか。状況によって対処を変えるって事を考えねえのかこいつらは。
 と言っても、もしこいつらが殺し合いに乗るようならこっちだってやりにくくなる。
 そう考えれば都合のいい事ではあるな。

「まったく、おめでたい連中だぜ。
 だが、それが本物の信念ならいいが、本当の地獄を見てもまーだ言ってられるかねえ~?」

 俺は手をひらひらさせながらそう言って、晶とスエゾーをあしらう。
 だが、俺の言葉が癇に障ったのか、晶の野郎はひるまずに俺を正面から見据えて答えた。

「地獄なら……もう見ました。ここに連れて来られる前に」
「オレかて地獄のひとつやふたつ、見てへんて思うなや!?」

 晶に続くようにスエゾーもでっかい一つ目で俺を見据えて言う。
 ほほ~う、地獄か。言うねえ。
 こいつらの世界がどんなもんか詳しくは知らねえが、この甘ちゃんどもが育った世界だからな。
 果たしてどの程度の地獄なんだか。

「ほ~う。言うじゃ~ねえか。
 だったらもっと真面目に頭を使ってやるこったなぁ~
 あんまりお粗末だとだ~れもお前らの所になんか来てくれねえぜ?
 もちろん、俺だってお前らがダメだと思ったらそれまでさ。俺は自分の命が助かることが最優先だからなぁ~」
「雨蜘蛛さん……」

 俺の言った言葉に晶は黙り込んだ。
 スエゾーの野郎もしかめっ面で俺を見てやがる。

 しまった、ちょいと言い過ぎたか。
 俺の本来の目的からすりゃあ、こいつらに適当に調子を合わせておだてる方がよかったんだが。
 まあ、自分の命優先だって話はもうずっと前に言っちまった事だし、いきなり関係が悪化したりはしないだろう。

 しかし、なんだろうなあ? この状況は。
 ヘンテコな鎧を着込んだ、自称・地獄を見てきたガキと目玉お化け、それとおまけのもふもふ。
 どういうわけだか俺はこいつらに肩入れしちまってるようだ。
 やっぱり船酔いがまずかったのか。そうだな。あれはひどかった。
 いけねえ、思い出しただけでも気持ち悪くなりそうだ。うっぷ。

 まあいい、どうせこいつらとはしばらく付き合うつもりなんだ。
 食料や荷物をポンと気前よくくれてやって恩を売っておいたのもそのためだ。せめてその分は回収しなきゃいけねえしな。
 とりあえず利用価値があるうちはこいつらに肩入れしてやってもいいだろう。


 ……肩入れ、か。そう言やあキョンの野郎はどうしたかねえ?

 確かあいつは6時に採掘場で古泉というのと落ち合う約束をしてるって言ってたな。
 気が向けば行ってもいいと思っていたが、ヤツが来るかどうかもわからんのだから放っておいてもいいか。
 古泉ってヤツも利用できるかもしれねえが、よくわからんやつにわざわざ会いに行く必要もねえだろ。

 しかし、こいつら俺がキョンの野郎と手を組んでるって知ったらどう思うかねぇ~?
 いや、そもそも草壁メイを殺したのを知ったらどうなる事やら。
 ちょっとそのツラ見てみたい気もするが、今そんな事がばれたらせっかくの計画がおじゃんだ。
 そいつは後々のお楽しみにとっておくか~ ふはははは。


 な~んて事を俺が考えているとは知らずに、晶の野郎はさっきから黙り込んでやがる。
 さっき俺が言った事がよっぽどグサッと来たか?
 しかしあの程度の事で落ち込んでちゃこの先こいつらが役に立つのか心配になってくるぜ。

 と、思ったら小トトロが机の上に置いた晶の手の上でぽんぽん跳びはねだした。
 晶が何事かとそっちを見る。

「どうしたんだ、小トトロ? あっ、チャットか!」
「そ、そうやった。そろそろドロロから連絡がある頃やったな」

 どうやらお待ちかねの相手から連絡が来たらしいな。
 晶の横からパソコンの画面を覗いてみると、確かにチャットの画面の右側に新しい名前が追加されていた。
 泥団子先輩R? なんちゅう名前だ。
 まあいいだろう。せいぜいこいつらのお手並みを拝見するとしよう。
 チャットってヤツの使い方にも興味はある。
 余裕が出来たら晶に聞きながらパソコンの使い方を練習してみるのもいいかもな。

「お~っ? やっと来たか~ そいつらから何かいい情報が入るといいんだがな~?」
「まだ遊園地のパソコンにたどり着いただけかもしれませんけどね」

 そう言って晶はパソコンに向かってキーボードを叩き始める。
 これはまた、いい暇つぶしになりそうだ。



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アサシンの終焉 朝倉涼子 時間の謎
ヴィヴィオ
リナ=インバース
ドロロ兵長
砂の器 深町晶
スエゾー
雨蜘蛛






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