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長門有希は草壁タツオを前に沈黙する ◆h6KpN01cDg



しかし、ここでこの物語は終わらない。
視点を、この殺し合いの観察者たる二人に移してみよう。


「……ふう、いやあ、キョン君は実に面白い参加者だねえ」
『その空間』に帰ってくるなり、草壁タツオは楽しそうにそう言った。
「彼のような人間には、もっと頑張って人を殺してもらいたいところだね。そう思うだろう、長門君?」
そして、いつの間にかそこにいた長門は、しかし何も答えない。
帰ってくるなりパソコンに向きなおり、何かの作業をしているようだった。
「……長門君、少しくらい休んだらどうだい?」
「……心配は要らない」
相も変わらず愛想もなくそう返す長門。
草壁タツオは、そんな長門の背中に視線を向け―――一言呟いた。
「……そうかい?それならいいんだけどねえ。
……それより、長門君。……一つ気になることがあってね」
長門はその言葉に、表情は変えずに振り向いた。
タツオは満足そうに、言葉をつなげる。
「実はね、さっきまでこのモニターの様子を見ていたんだよ。そしたらね……ところどころノイズのような……うん、どういえばいいのかな、僕は専門ではないからよく分からないけど……
……『何かが干渉したかのような痕跡』がね、残っていたんだ。」
長門が、何か呟いた気がした。
しかし、それは何も聞こえない。
「偶然だといいんだけど、とてもそうは思えなくてね―――」
タツオは天井まで埋め尽くされるように並んだモニターの前に立ち、そして指差した。
途端画面は切り替わり、誰も映っていなかったモニターに二つの人影が映し出される。
一人は、学生らしき茶髪の青年。
一人は、異形の姿をした『ガイバーⅢ』。
超能力者・古泉一樹と、戦闘機人・ノーヴェである。
「……一度目は、第一回放送の後。これが、はじまりだね。
地点は、F-8。時刻は朝。ネオ・ゼクトールが、ノーヴェの脳髄を叩きつぶした少し後だね。
……て、長門君にわざわざ説明するまでもなく分かるか。まあいいや、一応口に出しておくよ。
ノーヴェは殺されかけたことで過剰防衛反応に出、その際に襲いかかったのが古泉一樹だった。
そこでジ・エンドかとも思ったんだけど、結局ノーヴェは意識を覚醒させ、二人は協力してネオ・ゼクトールを撃退することに成功する。いやあ、少年漫画みたいだね!
……そう、そしてここからだよ。……わずかな異常があるのは」
タツオはそう言いながら、モニターのボタンを押した。
ピ、という音とともに画面が再生される。高性能なビデオのようなものらしい。
「……長門君、見てるかい?……まあ君のことだから既に知っているかもしれないけどね」
古泉が仮面を取り、ノーヴェが殖装を解除する。
そして二人が何度か言葉を交わした後―――『それ』は、起きた。

ザッ―――

それは、ほんの短い時間だった。
鈍感な人間なら、見逃してもおかしくないくらいの、小さな違和感。
一瞬、ほんの一瞬間だけ―――画面が暗転したのだ。
そして、そのわずかな刹那のあとは、何事もなかったかのように画面は動き続けていた。
声が聞き取れない以上、何が起こっているのか分からないが―――ノーヴェの慌てた様子から判断するに、古泉が意識を失ったのだろう。



「…………分かるね?」
草壁タツオは、微笑を浮かべる。
「……これ、だよ。この、謎のブラックアウト。
ここだけなら、僕もそう気にしはしないさ。機械の調子が悪いなんてよくあることだからね。
でも、これと同じ事態が―――他に三か所も見られたんだ。
一度は二回放送後、高校で。
一度は、今から数十分前―――僕たちがいたリングから。
そしてもう一度は―――今、ついさっき。B-7の火災現場からだ」
草壁タツオは、滑らかに言葉を紡いでいく。
無言の長門を、置き去りにするようにして。
「一度ならともかく―――何回も。この場で気絶した人間のほとんど、と言っていいかもね。さすがにこれは何かあるって思わないかい?」
長門は、やはり何も言わない。
何も、言おうとはしない。
確かに長門は、常から無口で、多くを語る人物―――否、宇宙人ではない。
しかし、今の彼女は、普段すらしのぐほどに寡黙だった。

「……不思議でね、僕は今までのデータを全部洗ってみた。そうすると、この現象が起こっている時にはある共通点が存在しているんだ。
それは―――その中の特定の『誰か』が、意識を失っているときだということだ。キョン君の例は、僕たち自身がこの目で直接見たよね?」
ウォーズマンに技をかけられ気絶し、過剰防衛反応により戦い続けていたキョン。
先ほど確認したところ、キョンのその気絶時間中―――すなわち、自分の無意識で戦い続けていたその最中に、件の現象が見られたのである。
「他にも、若返った冬月コウゾウとか、佐倉ゲンキ―――ああ、もう彼は死んでしまったけどね、ヴィヴィオなどの参加者が気絶していたと思われる場面でも同じことが起こっている」
草壁タツオの表情は、変わらない。
「さすがに、変だよねえ。気絶した人間が画面にいる時だけ、こんなことが起こるなんて―――まるで、『何かが気絶した人間に干渉している』みたいだ」
タツオは長門の顔を見る。
もう一度、今度は何かを促すように。
しかしそれでも、長門の口は一向に開く気配を見せない。
「……まあ、やや極論だけどね、僕はあり得ると思ってる―――それどころか、ほぼ間違いないんじゃないかって思ってるんだ。特に証拠があるわけじゃないけどね」
「……全く、面倒だよ」
疑問形のような問いかけでいて―――その表情には、確信が浮かんでいた。
タツオは、理解していたのだ。
この殺し合いに、働きかけている何か、がいると。
そして、その正体についても、それができる人間についても、あらかたの目星をつけていた。
だからこそ、タツオは―――少女に言葉を紡ぐ。
「……もっとも、今回は余計な首を突っ込んだせいで逆に彼女を殺すことになってしまったみたいだけどね?困るなあ、そういうのは。
僕がしてほしいのは殺し合いであって、自殺じゃないんだけどなあ」
妹の命が潰える瞬間を繰り返し見て、タツオは溜息を吐く。
「ま、誰がどんな意図で何をしているのか―――そもそも死人に意思があるのかすら分からないけど、これでさすがに懲りてくれるでしょ。次のことはまた同じ現象が起こるようなら考えればいいよね、もうこんなことあってほしくないけど」
タツオはため息をつきながら画面を元通り、リアルタイムの会場へと戻す。
そして視線を向けるのは―――目の前にいる、一人の少女。
長門有希という名の―――自分の『協力者』に。




「不思議だよねえ」
草壁タツオは―――笑う。
なんの曇りもない、澄み切った笑顔だった。
疑わしげな表情が一切浮かんでいないことが、逆に不気味なくらいに。
「この場所にいる参加者は48人―――まあ今は30人くらいだけどね。彼らのうち、意識を失う人間が4人くらいいたとしても、それはそんなに妙なことじゃない」
タツオの眼鏡の奥の表情は、分からない。
「むしろ、4人どころじゃない。君のような強者ならともかく、僕や娘たちのような普通の人間がこんなところにいたら、そりゃ意識を飛ばしたくもなる。」
こつん、とモニターの一つを人差し指で叩く。
何か、言いたげに―――しかし、それは口にせず。
「さっき僕が言ったように、『何か』が、気絶した人間に干渉している、ということが実際に起こったとしよう。それ自体は不思議なことじゃない。中にはそういう能力を持った人物だっている。――-そうだろう?」
探るように。
問いただすように。
タツオは、笑顔のまま、長門に話題を振る。

長門は、無反応。
指一本すら、動かそうとしない。
タツオの言わんとしていることが、「分からない」訳でもないだろうに。

「たとえば―――『思ったことを現実に変える力の持ち主』、とかね」

―――まさか、君は涼宮ハルヒの『干渉』を予想していたのではないか?
そう、暗に問いかけるタツオ。
どう応えてほしかったのかは分からない。
頷いてほしかったのか、首を横に振ってほしかったのか。
そもそも、タツオに人の心が残っているのかすら―――分からないのだ。




「……証拠はない。……今のところ断定はできない」
長門は、ぽつりとそれだけ答えた。
ただ、機械的に。
自分の今の状況が理解できていないようにも思えるくらいに微動だにせずに。
草壁タツオが常に笑顔なのと同様に―――常なる無表情で。
「……今から調査は行っておく」

落ちる、沈黙。

かたかたと、窓が鳴る。
風が吹いている訳でもないのに―――そもそもここがどこなのかも判然としないのに―――何かが、外壁を叩きつけていた。
それはもしかしたら、長門の無言の圧力だったのかもしれない。

神妙な顔つきで長門を見つめていた草壁タツオは無言で立ち上がり、―――長門に歩み寄る。
爽やかな笑顔で。
「……うん、そうか、助かるよ。じゃあ後のことは長門君、君に任せようかな」
その答えに対して―――何も触れようとはしなかった。
「もうすぐ放送だからね。僕はそっちをやってくるから、後のことは君に頼むよ。くれぐれも、無理はしないように」
タツオはそう言いながら、するりと、長門の横を素通りした。
何もなかったかのように。
先ほどまで長門に向けていた疑惑など、全くなかったかのような、態度で。
部屋を出掛けたところでぴたりと立ち止まり、そしてドアノブに手をかけたまま、言う。
長門にしか届かないくらいの、小さな声で。
「僕たちは―――『共犯者』なんだからさ」

長門は、何も言わない。
無言で―――キーボードを高速で叩き始める。
タツオがその部屋を離れるのに、振り向きもせず。
その顔に浮かぶ本当の表情は、何色か。

バックアップが、反逆を誓った。
超能力者が、宣戦布告を行った。
『一般人』の少年が、救いを求めすがった。
『神』が、――-最期の瞬間まで信じ続けた。
それが、……この長門有希という少女なのだ。

「……」
何か、呟いたのかもしれない。
でも、それは聞こえない。
仲間たちも、タツオも、誰にも―――今の長門の声を聞ける者はいなかった。


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勝利か? 土下座か?(中編) 長門有紀 憎らしさと切なさと心細さと
勝利か? 土下座か?(前編) 草壁タツオ




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