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決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE



『この勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

激励の言葉と共に数えて三度目の放送が終わる。
響き渡った声はとても弾んでいた、聞いた者全てが草壁タツヲの歓喜に満ちた表情を容易く思い浮かべられる程に。
理不尽な催しに招かれた参加者は殆どが憤るであろうが動揺しない者もここに居た。

アプトムは冷静にメモを取り終えると椅子を軽く傾けた。
体重を預けられたオフィスチェアの背もたれがギギィと軋む。
人を人とも思わない扱いをされるなど損種実験体の男には慣れきっている。
憤りを感じぬ訳ではないが無駄に頭に血を上らせる気など更々無い。

「ギュオー閣下は無事か。そしてやはり深町晶も生き延びている」

新たな禁止エリア、前回に倍する死者、そして最後に草壁が言っていた事よりも先にアプトムが考えたのがそれだった。
合流を目指す上司と自ら手を下したいと望む相手、両者の名が呼ばれなかった事に軽く安堵する。
二人に比べれば他に誰が死のうと些細な事に過ぎない。

『あのアスカという少女は死んだか。それに小砂君とは協力を続けられると思ったのに残念な事だ』

アプトムの頭上で参加者ならぬ暗黒生物も感想を述べる。
残念と言うにも関わらずその口調は淡白だ、かっての所有者とはいえ偶然自分を手にしたにすぎない相手など悼むつもりはないらしい。
気付いてはいないが二番目の所有者となったズーマも死んでいる、しかし知ったとしても反応は小砂と似たものだったに違いない。
彼が本当に情を注ぐのは娘のみだ、もし現パートナーのアプトムが斃れたとしても同じく何ら感じる事は無い。
アプトムとてネブラに仲間意識など持ってはいない、あくまで利害が一致しただけの関係に過ぎない。

「口だけで役に立たん小娘だったな。まあいい、いくらか情報を得られただけでもマシというものだ」

砂漠の便利屋などと大層な肩書きを名乗っていた割にあっけなく死んだ小砂をアプトムは吐き捨てた。
予想してなかった訳ではない、彼女が追った筈のアスカがあの場所に現れた時から可能性として頭に有った。
期待を裏切られたのは残念だがアプトムは早々と思考を切り替える。哀れな少女の事など頭から追い出して物言う道具に今すべき事を言い放つ。

「今回も禁止エリアは遠い、主催者が姿を現したとしても勝ち目の無い限り戦う気など無い、まずはこいつと話をつける」

クイと顎で示した先に在ったのは壁一面を埋めるモニター、そこに映し出されていたのはこの建物の各所にある監視カメラの映像。
無論アプトムが設置したものではない、これは元々備わっていた設備。
ここは市街地でも一際目立つデパート内部の保安室、本来防災とセキュリティを担う筈の部屋に居るのはその対極、破壊と殺人を目的として創られし獣化兵。

地階を映す一画面をアプトムは見ていた、デパートお馴染みの食品売り場がガラスの向こうに存在している。
その中の惣菜を調理する厨房の一つ、カメラを操作してズームすると異形の存在が画面に広がった。



『ちょうど彼が目を覚ましたようだぞ。さて、君の目論見道理に事が運ぶのかね?』

ネブラの言うとおり囚われの甲虫は動き始めていた。
存在については小砂より聞いた、しかしエリートたる超獣化兵と損種実験体の自分では接触したところでいい様に使われるのが明らかな為会う気は無かった。
―――そのエリートが弱者が多く居たあの場で何故自分に狙いを定めたのか?

アプトムはそれが疑問だった。しかし彼は答えを知りたくて殺さなかったのでは無い。
ましてや同じクロノスに属する者だからでも無い、敵視された以上殺す事に躊躇いは無かった。
狙いはこの甲虫、ネオ・ゼクトールを自分に協力させる事。

「試す価値は有ると言った筈だネブラ。決裂も想定してわざわざこの場所まで運んだのだからな」

アプトムの目的は生存だ。
悪魔将軍を筆頭に自分を軽くあしらう強者の存在に対抗するには何としても力が欲しい。
だからこそ危険を承知でゼクトールを生かしたのだ。

デパートという場所を選んだのも交渉のアドバンテージを握る為。
アプトムはネオ・ゼクトールの能力を全ては知らぬ、ネブラの拘束と大鎌が有っても直接の対峙はリスクが大き過ぎる。
生存を第一とする男にとってその方法は選べない、下手すれば会話すら成立せずに逆襲されるやもしれぬ。

危険を可能な限り避ける方法を考慮して訪れたのがこのデパート。
相手を一方的に観察し姿を見せずに対話が出来る。その設備が整っている。
交渉が不調に終わったとしても地階と上層階の保安室は隔たっている、戦闘するにも待避するにも時間を稼げる。

特にネブラがデパートを知っていると助言した事が大きかった。
家具売り場で小砂によって取り出されのがネブラのスタート。彼女との接触の中で内部構造や設備についても観察し覚えていたという。
そのお陰で短時間で準備を整えられたのだ、これも彼等の持つアドバンテージの一つ。

『ふむ、現状ではこれがベターか。それにしても彼の持ち物に大した物が無かったのが残念だ』
「幻覚を見せるマスクが脅かしに使える程度だな、後は壊れた腕時計に拘束具。お前やユニット程のものはさすがに希少らしいな」

モニターではゼクトールが全身の拘束を外そうと足掻いている。
時空管理局が犯罪者拘束に用いるものらしいが最強の超獣化兵相手は荷が重い、見る間に形が歪んでゆく。
長くは持たないだろうが準備が整うまで動きを止めておければ良いのだ、十分役に立ったといえるだろう。

「頃合だな、始めるぞネブラ」

全ての拘束が破壊されたのはすぐだった、遂にゼクトールは己の自由を取り戻す。
それを見て取ったアプトムもまた動く、内線電話を手に取って地階の番号をプッシュした。

コールは長く続かない、数回で目当ての相手が応対する。
地階では苛立ったゼクトールが乱雑に受話器を取っていた、その様子は監視カメラで筒抜けだった。
情報で優位に立っている事を実感してアプトムは口元を歪める。

だが勝負はここからだ、猛獣を手懐けて初めて成功と呼べる。
一度は殺されかけた恨みを胸に仕舞ってアプトムは喋りだす。



ここに二人の復讐者はホットラインで繋がれた、しかし両者の隔たりはあまりに大きい。
同じ世界から来たにも関わらずアプトムもゼクトールも相手に不可解な点を感じていた。

コンタクトは疑問を解きほぐす糸口となるかもしれない。
しかし、絡まった糸に触れる事がどのような結果をもたらすのかはわからないのだ。



               ※       



ゼクトールは久しぶりに仲間の夢を見た。

エレゲン、ダーゼルブ、ザンクルス、ガスター……

クロノスを知り、激しい選抜試験を潜り抜け、幹部候補生となって超獣化兵への調整。
それから十二神将が一人、バルガスの部下としての数々の功績を上げた。

(俺の傍らにはいつもあいつ等が居てくれた)

彼等との出会いは時期も場所もバラバラであったが深い絆で結ばれるまでに時間は掛からなかった。
苦楽を共にした彼等と共に将来クロノスが治める世界を支えるつもりであった。

思い出すのは自らの黄金時代と胸を張って言える過去の日々。
未来への道は開けている筈だった、だがその夢は一瞬で黒く塗り潰された。

―――アプトム

自らを調整したバルカス最大の失敗、仲間を次々と捕食された光景、そして脚を奪われた悔しさが蘇る。
結果奴はガイバーと並ぶクロノス最大の敵とされるまでになった。

(クソッ! あの時仕留めておけば―――)

タールを満たしたような漆黒の中、浮かび上がるように何かがゼクトールの眼前に現れる。
それは薄笑いするアプトムの顔、忽ち怒りは頂点に達した。
殴りかかろうとしたが身体は何故か動かない、見れば黒いスライムが水飴の様に絡み付いている。

ゼクトールは唐突に喫茶店の出来事を思い出した、
女と直立する兎を追い詰めた筈が隠れ潜んでいたアプトムによって不覚を取った。
その時に自分を拘束・攻撃したのが今絡み付いているものと似た黒い触手。
だとすればこれは奴の一部か。

(おのれ、二度と失敗を繰り返してたまるか―――)

更なる力を四肢に込めた瞬間にゼクトールは覚醒した。
そこはやはり暗かった、しかしアプトムの憎らしい面構えは何処にも無かった。



(夢を見ていたのか、俺は)

気絶してる間捕食されなかった事は不思議ではない。
再調整によってゼクトールの体内にはアプトムの捕食を阻む抗体と代謝を狂わせるウイルスが存在しているのだ。
だが捕食に失敗したとしても何故殺さずこんな場所に放置したのか?

「何を考えているアプトム……」

見渡せば建物の中らしいが照明は切られ、非常灯だけがぼんやりと闇の中を照らしている。
意識を取り戻すに従い強い異臭が鼻を突いた、腐った野菜を思わせる不愉快な臭いだ。
そして感じる息苦しさと何処かから聞こえてくる警報音、何が起こっているのか明らかだった―――

ガス漏れ、それも既にかなりの量がフロアに満ちている。
すぐさま動こうとしたが身体を締め付ける拘束具に阻まれた、複数のリングが腕と脚を縛り付けていたのだ。
何を考えてか知らないが、こんな姑息な方法で俺を殺せるかとゼクトールは怒る。

フンッ、と気合と共に力を込めるとミチミチと拘束具が悲鳴を上げた。
右腕は未だ再生途上だが引き千切るのに不都合は無い、結果数分と持たずに時空管理局の官給品は不燃ゴミと化す。
予想通りというべきか荷物は何処にも見当たらない。奴は何処だと考えた直後に闇の中でプルルルルと赤いランプが点滅した。

それは電話だった、わざわざここに掛けてくるような奴は一人しか居ない。
耳障りな呼び出し音を続かせずに左手で受話器を取る、すぐに神経を逆撫でする不敵な声が聞こえてきた。

『グッドモーニング、エリートさんのお目覚めは随分遅いな』

危うく受話器を握り潰しかける、ぬけめけとよくそんな事が言えるものだ。
だが奴がこの建物に居るのがわかったのは大きい、電話機にはしっかり『ナイセン』と表示されているからな。

『単刀直入に言わせて貰う、俺と手を組まないか?』

奴は何を言っている? 手を組もうだと?
どの口でそんな事を言えるのかと憤る俺に奴は更に続けた。

『貴様が何の為に俺を狙ったのかは知らん。だが生き残りたいと思うなら悪い話ではない筈だ。
 ギュオー閣下とも合流すれば生存の確率は更に上がる、深町晶と戦うにも有利だ』

俺は一言も返さずに奴の言葉を聞き続けた、内容は返事をする気にもなれん。
奴とギュオー、裏切り者同士が組むのはお似合いだが俺も仲間に加われだと!?
これ程の厚顔無恥とはな、怒りが突き抜けると案外に冷静になれるらしい。
返事せず黙っていると勘違いした奴がまた喋りだす。

『迷うのも無理も無い、だがお前は荷物を失った上に放送を聞き逃した。
 近くには誰も居ない、しかし承諾すれば荷物は戻り死者と禁止エリアの情報も手に入る』

そんなものに釣られるか! どれだけ人を舐めるつもりだアプトムめ。
このガスは脅しの手段という訳か、だが俺は命など惜しいとは思わん。



『罠と思うか? 安心しろ、殺すつもりならとっくに殺している。
 頭を冷やせゼクトール、信じるかは自由だがこの島には閣下並みの実力者も存在する。
 全身銀色の男だ、万全で無い貴様では危うい。ここで俺を殺して何が変わる、後の事を考えれば今は組むのが最善だ』

悪魔将軍を知っている事からして声を偽った他者でもない。
俺を怒らせるのが目的でもない、奴は―――本気でこの俺を仲間にしようと考えている!!

『今すぐ返事できんならそれでも良い、だが情報を交換する程度はお前も支障は無いだろう?』
「ほう、お前は何が知りたいというのだ?」
『まずお前は何故俺を感情剥き出しで襲った? 俺には何一つ心当たりが無いのだが』

その瞬間、俺の中で何かが切れた。

「……アプトム、これが俺の返事だ!」

どこまでふざけた奴だ、エレゲン達の恨みを忘れるとでも思ったか。
これ以上の話は無意味だ、俺は奴が見てるであろ監視カメラに向け受話器を握り潰す。
すぐさま天井を見上げた。どうやらここは地下、ならば奴が居るのは間違いなく上。

「心当たりが無いだと? ならば直接身体で解らせてやる!」

復讐者の心が燃え滾る。
今度こそアプトムを葬らんとゼクトールは三度目の戦いに挑む。

二人の間には重大な齟齬があった。
アプトムの問いかけは彼にしてみれば当然の事。
しかしゼクトールはアプトムの無知を侮辱と捉え、結果―――逆鱗に触れたのだ。

アプトムは知らなかった。
ゼクトールが生存に全く興味が無い事を。
その命全てを仇と狙う自分の為に使うつもりである事を。

アプローチの仕方は悪くは無かった、ただ両者の目的は決して相容れなかった。
その事に気付けなかったのがアプトムの過ちであった。



               ※       



「チッ、損得勘定一つ出来ないのか奴は。どう考えても俺と組む方がマシだろうが!」

モニターを見ていたアプトムが罵声を吐きながら受話器を捨てる。
決裂だ、しかも情報は何一つ引き出せていないという最悪の結果ともなれば彼ならずとも罵りたくなるものだ。



『やはり失敗か、君の言葉がよほど腹に据えかねたらしいな。本気で心当たりが無いのかね?』
「無い。そもそも実験体の俺と奴では顔を合わせてすらいないんだぞ! もういい、やれ」

ネブラに苛立った声がぶつけられる、承知したとばかりに触手が配電パネルに伸びる。
落とされていた地階のブレーカーが全て上げられた、これが決裂への備えであった。

ゼクトールが目覚める前に地階の照明と電気機器の配線は故意の損傷が付けられていた。
そこに電子の流れが再開する、銅線を伝わった電流は忽ち同時多発的な漏電と短絡が発生される。
地階に満ちていたのは適度な混合比で空気と交じり合ったLPガス、即席の点火プラグを種火として音速を超えて燃焼した―――

それは爆弾並みの爆発だった。
落雷の様な轟音と同時に鉄骨鉄筋コンクリートのデパートが突き上げる様に揺さぶられる。
地階防犯カメラの映像は全てが砂嵐に変わり監視パネル一面に赤いランプが点灯した。
その色とりどりの光景はまるでクリスマスツリー、建物全体に及ぶ非常事態発生が示される。

『こちらはまあまあ上手くいったな、彼はタフだから安心は出来ないがね』

アプトムとネブラは単純に元栓を開放しただけではない、爆発を発生させその威力を高める為にいくつかの工作を行っていた。
空調の停止はガスが排気を防ぎ、シャッターの閉鎖は地階をより密閉し爆発に好適な環境を作り出した。
それでも爆発の規模は大き過ぎる、これは途中調達したガスボンベを転がしておいた成果であった。

結果大量のガスが短時間で充満した、そして消火設備も働かない以上階層全域が燃え続ける。
全てのスプリンクラーは止めてある、後は炎にこの建物を明け渡すのみ。

一回の爆発だけでゼクトールが死ぬとはアプトムも思ってはいない、しかし無傷とはいかないだろうと考えていた。
爆発、熱、酸欠、有毒ガスの災害コンプレックスと呼ぶべき大火災を作り出して包み込む。
結果死なずとも体力を削り弱体化させられれば御の字だ、煙に紛れて隙を付く。
今度は躊躇無くゼクトールの命を奪う。

「出るぞネブラ、この建物はもう終わりだ」

アプトムは荷物を持って立ち上がる。
地階以外の防犯カメラには既に炎と煙で充満する各階が映し出されていた。
これもまた決裂への備えだった、放送前に着火した衣料品売り場の火災は既に上階の家具売り場まで及んでいた。
目的は煙と炎のバリケード、化学繊維の燃焼は大量の有毒ガスをフロア一面に撒き散らしていた。

だが上階の保安室にまでその煙は届かない。
何枚もの防火防犯シャッターで侵入を阻み、予め開放しておいた窓が煙突の役目を担って保安室を避ける排煙ルートを確保していた。
もちろん限界はある、建物全体が煙に包まれればやがて全ての空間に有毒ガスが侵入する。

だからその前に脱出するのだ、アプトムが保安室を出るとすぐ屋上に向かう階段が目の前に現れる。
このデパートは最上階が従業員の更衣室や休憩室、、機械室、保安室に割り当てられていたのだ、これもまたネブラに教えられた事だった。
しかし客向けの案内図をいくら眺めてもそのような情報は載っていない、ゼクトールが迷っている間にアプトムは遠くへと逃げられる。

屋上に出た途端ムンとした熱気がアプトムの全身を包む。
今しがた発生した火災によるものだけでてはない、市街地の大火も既にデパートに到達する寸前であったのだ。
時間が無いと見て取るやネブラが翼を広げ大きく羽ばたきだす。

火災の副産物ともいえる上昇気流に乗ってアプトムが空の人となったその時だった。
炎の全身を侵食され猛烈に煙を噴き出すデパートの奥底、爆炎に隅々まで舐め尽された筈の地階。
そこから、超高エネルギー粒子が空へ向け真っ直ぐ建物を貫いた―――





               ※       



爆発に見舞われた地階食品売り場は大釜の底さながらに燃えていた。
爆風はシャッターを吹き飛ばし、そこからは猛烈に煙が流れ込んでいる。
消火設備は作動せず、難燃材も抗する事を諦めて次々に炎に屈していた。

彼の能力が本来のままであったら無傷とはいかなくても軽傷で終わっていたかもしれない。
この舞台、弱体化された肉体は本来耐えられる筈の爆発から容易にダメージを受けてしまう。

それでもゼクトールは生きていた。
爆発の衝撃で内臓を叩かれ、全方向から襲い来る熱に装甲を焼かれ、充満する煙は容赦無く呼吸器官を苦しめる。
既に常人なら酸欠で倒れているだろう場所で何も感じてないかのように立っている。
元々地中はおろか成層圏すら行動範囲とする能力の持ち主、酸素が欠けようがある程度は耐えられるのだ。

顔面を保護していた左腕を下ろし飛び散った破片を踏みしめる。
ゼクトールはこれより上を目指す、しかし闇雲に突っ込むつもりは無かった。
先程は喫茶店で女と獣に気を引かれた隙を付かれた、今回も同じ事が起こりえる。
それにこの煙の勢いと火の回りの早さ、恐らく他の階にも火は回っている。

(何があろうが吹き飛ばすまで、ここで奴を逃がす訳にはいかん!)

ゼクトールは燃える地階で羽を広げた。
辛うじて飛ぶ事ができる程度の損傷した羽、しかし今は飛ぶのが目的ではない。

―――ブラスター・テンペスト、ゼクトールの切り札

急速に周囲の熱が奪われてゆく、温度差が空気の流れを変えてゆく。
アプトムが放った炎が形を変えてゼクトールの体内に蓄積する、何時の間にか周囲にはダイヤモンドダストが舞っていた。
あれ程激しかった火災が今やくすぶる程度に治まっていた。

そして腹部の生体熱線砲発射器官が露出する、喫茶店で使わなかったそれは無傷。
そこに全てのエネルギーが集束される、敵より来たものは敵へと戻す。

(―――ッ!)

僅かに目が霞み、足が揺らいだ。
ダメージによるものか制限か、その両方かもしれない。
フロア全体を焼いていたエネルギーをその身体に蓄積したのだ、それは肉体に過度の負荷をもたらした。
しかしゼクトールは止めようとはしなかった、どれ程自らの命を縮める行為かを知りながら迷う事は無い。
羽が万全ならファイナル・ブラスター・テンペストさえ撃っていたかもしれない、だがそれは仮定の話、語る価値は無い。

「食らえアプトムゥゥゥッッ!!! ブラスター・テンペストォーーーーーーーッッッ!!」

遂にそれが放たれる、地下の炎も惨状も全ての景色が恒星の表面並みの光によって塗り潰される。
全獣化兵最強、ガイバーのメガスマッシャーにも匹敵する威力の粒子の奔流。

そこから全ては一秒にも見たぬ時間に起こった。
地下から屋上に至る十数枚の床と天井が紙の様に光のランスが貫いたのだ。



だがその射線の延長にアプトムはいない、ゼクトールもそこまで期待した訳ではない。
建物全体は不可能としても罠を粉砕し最短距離での追撃ルートを開削するのがその狙い。
それのみでも十分成功した、そしてゼクトールも予想しなかった効果をもたらした。

断熱材とコンクリートを粒子と化したエネルギーが行き着いた先に有ったのは屋上の貯水タンク。
ステンレスの皮に蓄えられた数千リットルの水道水、それが全てのエネルギーを受け止めた。
原子の全てが加速する、数千度に熱せられた水は液体の姿を保てず数百倍以上に膨張した。

単純な水蒸気爆発では無い、到達したあまりの高温の為に分子の結合は断ち切られ水は水素と酸素に分解した。
超高熱の金属蒸気を纏ったガスの雲が屋上の半分程度に広がった時、水素と酸素が再結合し大規模な二次爆発が発生した。
これらは全て超獣化兵ですら認識できぬ刹那の間の出来事である。

アプトムとネブラは空中で爆発に巻き込まれた。
彼等の感覚では何が起こったのか理解できなかった、爆風は二人を飲み込み尽くし更に周囲へと拡大した。
衝撃波が建物を伝わる、上階から下へ全ての窓ガラスを粉々に砕きながらデパートを揺るがせる。

地下のゼクトールにもその異変は伝わった。
建物が崩壊するかと思う程の激しい揺れと流れ込む爆風、そして穿たれた穴を大小の破片が落下する。
原因を考えるのは無意味、ここに追撃の道は拓けた。

羽をコンパクトに畳みゼクトールは垂直上昇する。
デパートを貫通した大穴は巨大煙突となり炎と煙を噴き出していた。
上がるたびに羽が炎と瓦礫の破片で削られる、それでもゼクトールは飛び続ける。

そして視界が一気に開ける、炎に飲み込まれる市街地がそこにあった。
眼下には巨大なハンマーで万遍無く叩いたような屋上の光景、パンケーキの如く階が圧縮されて瓦礫の山と化している。
着地するとそれだけで足元に亀裂が走った、それが爆発の威力を物語る。

(アプトムは何処だ? 間違いなく奴は近くに居る筈だ)

空には姿が無い、先程上空から見回した限りでは人影も見当たらなかった。
かといって焼け落ちる建物の中に留まり続けているとも考え難い。
ゆっくりと爆発で陥没した跡地を歩いてゆく、パキリと何かを踏んで足を上げる。
砕けたそれはアプトムのサングラスであった、確かに奴はここに居た。

風の為時折煙が流れて視界を奪う、警戒を怠り無く歩を進める。
ジャリ、と踏み出したその時だった、煙の向こうで何かが動いた。
布切れの身間違いではない、確かに生物の動きで瓦礫の影から影に走っている。

「そこかっッ!!」

躊躇わずにミサイルを撃ち込んだ、寸分違わず狙った位置に着弾する。
ゼクトールの意識がそこに集中したその瞬間、真横の瓦礫から黒い触手が飛び出した。

それは、腕の無い右側から襲い掛かってきた。
それは、爆煙に紛れて一直線に首輪に狙いを定めていた。
煙の中でシルエットが交錯する、槍となった触手は確かに甲虫の影に突き立った。


『馬鹿な……』

槍の先端は確かに首輪に触れていた、しかし表面を削ったのみだった。
外れた槍はそのまま装甲を突き破って肉体の奥深くに届いていた、だが彼を絶命させるには至らなかった。
勝負を決めたのは些細な事、ゼクトールの足元が窪んでネブラの狙いが僅かにズレたという事実のみ。

即座にゼクトールが反撃する、体内に深く喰い込んだ触手を電撃が焼く。
そして自らが巻き込まれるのも構わず触手の根元に向けてミサイルを連射する。
更なる屋上の爆発と破壊、遂に仇の姿が現れた。

鉄筋の残骸の中にアプトムは潜んでいた、その状態は酷かった。
一糸纏わぬ肉体は全身の火傷で爛れ、叩き付けられた際の裂傷であちこちでベロリと皮膚が剥けている。
それでもあれだけの爆発に巻き込まれて生きている事自体が脅威だった、ネブラスーツは立派にその役割を果たしたのだ。

しかし代償は大きかった、傷ついたネブラは飛ぶ事が適わず一本の触手を出すのが精一杯だったのだ。
あの影のタネも知れた。アプトムの手元に有ったのは黄金のマスク、幻覚を囮に逆転の一撃を狙ったのだろう。
もはや同じ手は通用しない、引き抜かれたネブラは三番目の主人から離れ餅状の姿で転がっていた。

それを見下ろすゼクトールもまた酷い姿だった。
自慢の装甲は焼け爛れて歪み、先程の傷口からは黒い液体がただ漏れとなっている。
全身から立ち上る水蒸気は彼が自らの肉体を限界以上に酷使した事を示していた。
あのブラスター・テンペストは彼の内臓までも焼いたのだ。

お互い命は尽きる寸前、ならその前に決着を付けるのみ。

「なぜ、だ……」

何故そうまでして自分を追うのか最後までアプトムには解らなかった。
命乞いしようが恐らくゼクトールは自分の生存を許さない。
問いかけは時間稼ぎの狙いもあった、しかし返ってきたのは膨れ上がる殺気。

「うおおおおおぉぉぉぉっっっっーーーーーー!!!」

望みは消えたとみるやアプトムは起死回生の反撃を試みた、背を向けるよりはその方が蜘蛛の糸が太かった。
狙いはただ一点、傷付いた首輪のみ。
体液を撒き散らしながら獣化すると同時に黄金のマスクを起動、周囲の瓦礫が一斉にワニと化す。
アプトムにとってもここで死ぬ訳にはいかないのだ、損種実験体の仲間を殺された仇を取る為に。

伸ばした腕は届かなかった。
ゼクトールの拳がそれを迎え撃ちアプトムの手首は砕かれた。
それでも腕はもう一本残っている、顎で噛みつく事も出来る。

次は蹴りがアプトムの脚をガラス瓶の様に壊してゆく、だが上半身は勢いのまま懐へと飛び込んでゆく。
今迄味わってきた拷問紛いの実験が彼に痛みへの耐性をもたらしていた、遂に片手が首輪に掛かる。



(ソムルム、ダイム、必ずお前達の仇を―――)

それがアプトムの最後の意識であった。
大顎が頭を捕らえ、そのままスイカを割る様に挟み潰した。
力を失った胴体を高周波ブレードが分かつ、臓物を撒き散らして仇の男はずり落ちる。
それでも首輪を握り締めていた手首だけは落ちなかった、引き剥がした時には首輪が指の形に凹んでいた。

もはやそこに有るのは血まみれの肉塊、それを誰も生きているなどは思うまい。
―――ただ一人を除き。

ブチャリ! グチュッ! ブバッ!

ゼクトールは渾身の力で肉塊を踏みつけた、足で磨り潰し繰り返し拳を叩きつけた。
物言わぬ骸を砕き、引き千切り、赤黒い液体へと変えてゆく。
ここまでせねばアプトムは何度でも蘇る、肉片一つあれば再生する事をゼクトールは知っていた。

それは言い訳でもあった、肉体を滅失させるのが目的ならばもっと手っ取り早い方法がいくらでもある。
こうせねば気が済まなかった、それ程憎んでいた相手であった。

肉塊が肉片に変わる頃、汚れきったゼクトールはアプトムの首輪を掴む。
この島では首輪が壊されれば誰であろうと死ぬルール、握り潰せばアプトムが再生する可能性はゼロになる。
最初からそれをしなかったのはゼクトールの気持ちの問題、少しでも仲間の苦しみを味わわせたかった。
その願いも果たせた、焼け落ちる寸前の屋上にやがて金属がひしゃげる音が響く。
それが復讐は終わりを告げる鐘の音であった。


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痛快娯楽復讐劇(後編) ネオ・ゼクトール それはきっと未来へと繋がる行動
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