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なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk



『スバル! 山の向こうで凄い煙が上がってるですぅ!』

偵察から戻ってきた性悪妖精ことリインフォースのその言葉でその場にいる全員に緊張が走った。
まっくろくろすけことウォーズマンが声を投げかける。

「リインよ、何処が燃えていたかは判るか?」
『ここからじゃ煙しか見えなかったです。……山頂の神社からならもっとよく見えると思いますけどぉ』
「フウム……その山頂の神社は見えたか?」
『はい、少し行った所に階段があって、その上にそんな感じの建物が建ってました』

性悪妖精のその報告を聞き終えるとウォーズマンが勢いよく俺たちの方へと振り向いた。元気な事だ。

「聞いてのとおり、神社はもうすぐだ。スバル、そしてキョンよ。歩けるな?」
「はい!」

と、力強く答えるスバルだが、その動きはどうにも鈍い。
まあ……動きが鈍いのは俺も一緒なのだが。

俺たちは疲労していた。

ウォーズマンに痛めつけられた俺と、ボコボコにされ(まあ半分は俺のせいなんだが)疲労しているスバル。
そんな身体での山登りなので、俺たちの移動速度はどうしても鈍かった。

そんなこんなで結局、俺たちは放送までに神社にたどり着く事が出来なかった。
性悪妖精が戻ってきてから数分も歩かないうちに、辺りには草壁のおっさんの声が響いたのだ。

☆ ☆ ☆ 

「グ……な、なんて事だ~~っ。草壁サツキとゲンキが死んでしまったと言うのか……」

がっくりとうなだれるウォーズマンの姿を見て、フリーズしていた俺の思考もようやく再起動する。
そしてその頃になって俺の頭にもようやく事態が飲み込め始めた。
そうだ、いま確かに草壁のおっさんは朝比奈さんと俺の妹の名前を呼んだんだ。
つまりこれは……朝比奈さんと妹が死んだという事なのだろうか?
ハルヒの時のように、あっさりと。

原因はなんだろうか。二人はどんな風に死んでしまったのだろうか?
……いや待て、朝比奈さんと妹が死んだ理由? 
俺は理由を知っている気がする。
なんだっけな。確か、ああそうだ――俺が二人の殺害を頼んだんじゃないか。

『だから、雨蜘蛛さん…もしこの二人に出会ったら……二人を…』
『みなまで言うな――お前さんの望み、この雨蜘蛛様が叶えてやろう』

そうだ、あの時の約束通りに雨蜘蛛のおっさんが二人を殺してくれたのだ。
ははは……運良く雨蜘蛛のおっさんは二人に出会えたんだのだろう。
俺自身が立て続けに妹・ハルヒ・古泉と出会えたんだ。そんな偶然が起こっても今更驚かないぞ。

「…………」

眩暈がする。

「キョン君!?」

ああ……俺をそう呼ぶのは誰だ?
朝比奈さん? それともあいつか?
いやいや、どうした俺? 冷静になれ。二人はもう死んだんだ。
草壁のおっさんがそう言ったんだから間違いない。
もう俺がそんな風に呼ばれる事はないはずなんだ……二度と。

眩暈が――する。

なんだ、これは?
まるで、まるで混乱しているみたいじゃないか。
馬鹿げている。二人を殺してくれと頼んだのは俺だ。
自分で頼んだ事が実現してショックを受けるなんてどうかしている。
俺はこう思うべきだ。
『雨蜘蛛のおっさんのお陰で二人を殺さなくて済んでよかった』ってな。
なあ、そうだろ? あとはもう生き返るだけで、二人はこれ以上苦しまないで済むんだ。
喜べよ俺。なんでこんなに胸が苦しいんだ。

これじゃあまるで――。

【ああ、そうさ。後悔してるんだよ】

唐突に聞こえたその声に俺は凍りついた。視線だけを動かして声の方向を見やると。
……そこには『俺』が居た。

【だから言ったんだ。今のお前じゃ悪魔になんてなれないって】
「なんで、お前が……」

思わず呻いてしまう。
二度と見たくなかった顔がそこにはあった。

目の前には俺そっくりな『俺』が俺を見下ろしていた。

おいおい。なんなんだよこれは。俺はいつの間に眠っちまったんだ?
よりによってなんでこいつがここに居る?

「なんでお前がここに居る。大体、悪魔になれないだって?
 はっ、お前も知ってるだろ? 俺はあれから古泉を罠に嵌めて、ナーガのおっさんを殺した。
 もう十分悪魔なんだよ。……そんな俺がいまさら何を後悔するって言うんだよ」
【よりによってあの雨蜘蛛のおっさんなんかに殺人を依頼しちまった。それを後悔している……違うか?】

その言葉に――胸が、軋む。

「そ、そんな事は――」

ない。
と……どうしても口に出しては言えなかった。
理性はそう言い切りたかったのだが、感情が、口がついてこない。
そう、感情。
俺は初めて理解する。さっきからこの胸をギリギリと締め付けるような痛みの正体を。

「そんな馬鹿な……なんで今更」

こいつの言葉を肯定なんてしたくなかったが、今回ばかりは正しいのかもしれない。
くやしいがそんな風に内心で認めてしまった。
胸を締め付け、俺を苦しめているこの感情は恐らく――――後悔。
いくら後で生き返るとは言っても、あの拷問狂な雨蜘蛛のおっさんに朝比奈さんと妹の殺害を依頼しちまったのだ。
後悔……しているのかもしれない。
あのおっさんはきっと俺の時のように朝比奈さんを――妹を――拷問したのだ。
有刺鉄線で体を縛り、眉間に銃を突きつけながら、枝切りハサミで徐々に指を切る。
顔を殴られ、腹を貫かれ、そしてあの少年のように徐々にミンチにされ、「キョン君」と俺の名を呼びながら事切れ――。

「うげえっ!」

喉の奥に熱いものが込み上げくる。

ああ――吐き気がする。

そしてそんな嘔吐感の中で、俺は何故かスバルの言葉を思い出した。
『君が殺した男の子にもいっぱいいっぱい大切なものがあった筈だよ』
ああ、そうかよ。つまりこういう事なんだな。
癪だが認めてやるよ……いや、認めざるをえない。

【な、後悔してるんだろ?】
「……ああ。そうなのかもな」

俺は静かに認めた。認めちまった。
殺し合いが終われば生き帰って記憶が無くなるとはいえ、俺は朝比奈さんや妹に苦しんでほしくはなかったんだ。
そして俺が殺したあの子供やナーガのおっさんにも、そう思う人間がいるのかもしれない。
今更そんな事に気付いちまった。

最悪だ――俺は全然悪魔になんてなれてない。
そんな偽善めいた良心みたいなモノがまだ残っていたんだ。

【なあ、もうこんなバカな事は止めにしないか?】

『俺』が呆れたように肩をすくめる。
その言葉に、俺は流されたくなった。
だってそうだろ? 俺が殺さなくても雨蜘蛛のおっさんあたりがきっと殺し尽くしてくれる筈だ。
俺はこのままスバルたちと一緒に殺し合いを止めるなんていう無駄な足掻きをしてればいい。
どうせ長門の計画を止める事なんて出来っこないんだしな。

【どうした? 気味が悪いぐらいまともな事を考えてるじゃないか。ついでにもう一つの方も誤魔化すのは止めないか?】
「急になんだ。俺がいったい何を誤魔化してるっていうんだよ?」
【終われば元通りになるっていう、その現実逃避をだよ】

……またそれか、しつこい奴だな。
後悔は確かにしてるみたいだが、それは現実逃避でもなんでもない。

「あのな、長門の目的は観察なんだ。観察が終われば生きかえらせてくれるに決まってるだろう」
【アホか。仮に観察が目的だったとしても観察対象はハルヒだけだろ? 
 なら長門、いや――情報統合思念体はハルヒだけしか生き返らせないんじゃないか?】

鼓動が早くなる。何を言ってるんだこいつは? 
理解できない。いや理解したくない。

【こんな事にも気付けないのは単にお前が目を――】
「ぐああああああああああああああああああああああああ!!」

俺は絶叫する。その先は聞きたくなかった。理解したくなかった。
だと言うのに『俺』はしつこく言い続ける。俺は再び叫び。

「キョン君!」

叫んだ瞬間、頬をはたかれたような衝撃が俺を襲い、視界が真っ白になった。
頬が痛え……だけど俺は痛みと同時に安堵を覚えていた。
その痛みのお陰で『俺』の声がまったく聞こえなくなっていたからだ。
真っ白な視界が明けると、目の前にいつの間にか青い髪の女が――スバルが居た。

「よかった、気が付いた?」
「……気が付いたって、何の話だ?」

俺は見下ろすスバルに向かって憮然と尋ねる。
……というか俺はいつのまにか地面に横たわっていた。一体何がどうなってるんだ?
俺のその疑問が分かったのかスバルが説明した。

「放送を聴いてキョン君は倒れたんだよ、覚えてない?」

情けない事に……どうやら俺は気絶していたらしい。
道理で『俺』が現れる筈だ。しっかりしろ俺。情けないぞ。

「フムウ……」

頭を振りながら立ち上がると、何故かウォーズマンがじっと俺を見ていた。
俺はその視線に嫌な感じを受けて目を逸らしながら尋ねる。

「なんだよ?」
「いや。……歩けるようならもういくぜ。早くギュオーたちと合流し、このエリアから離れねばならないからな」
『そうです、あと一時間でここが禁止エリアになっちゃうんですから、キリキリ歩いてください』

そんな憎まれ口を叩く陰険妖精すら何処となく心配そうな顔で俺を見てやがる。
くそ、それだけ無様に気絶しちまったって事か。

「わかった、わかりましたよ」

俺はため息をつきながら歩き始める。
……なんとか歩けそうだが、妙に足がふらついていた。

「キョン君、大丈夫?」

うしろからスバルがそんな事を聞いてくるが、俺はそれを無視して歩き続けた。
こいつの言葉を――キョン君というその呼び名を――聞いてると、胸が軋む。
理由は知らん。たぶん疲労のせいで心が弱っているのさ。だから俺はスバルを無視する。
疲労。疲労なんだ。
胸が軋むのも、気絶したのも、あの悪夢も全部疲労のせいだ。

疲れていた。
酷く疲れきっていた。

今だけは何も考えたくない。殺し合いの事も、死んでしまった――の事も。
何も考えず、ただ重い足を前へと動かす事だけに集中する。
だというのに。

なんで身体の震えが止まらないんだ。

☆ ☆ ☆ 

リヒャルト・ギュオーはそれを聞いたとき、その金色の瞳に驚愕と疑惑を浮かべた。
主催者が放送を通して告げてきたその言葉は彼にとってそれほど予想外だったのだ。

「何故よりによってここを禁止エリアにする……!」

彼は苛立ち紛れに床を蹴破りながらそう叫ばずにはいられなかった。
前回といい今回といい、まるで主催者は狙ったかのようにギュオーがいる場所を禁止エリアにしていた。
そう、あたかもギュオー個人に悪意があるかのように。

(いや――もしやあるのか?)

苛立ち紛れに浮かんだその考えが意外と正解なのではないかとギュオーは気付く。
前回のH-5といい今回のF-5といい、ギュオーにとって都合の悪い場所が選ばれていたのだ。
それにより前回は草壁メイの死体をウォーズマンに発見される危険が生まれ、
今回はそのウォーズマンとの合流を阻まれかけている。
偶然というにはあまりに出来すぎていた。

(となると原因はなんだ? ……まさか草壁メイか?)

放送が聞こえてきた空へと視線を投げながら、ギュオーが思いついたのはそれだった。
つまり、娘の死体を粉砕された事に怒った草壁タツオが嫌がらせをしているのではないかと考えたのだ。

(いや、それはありえんな。娘をこのような場所に放りこんだ父親がそんな事で怒りを覚えるはずがない。
 ならばなんだ? 他に主催者たちに恨まれる覚えなどないのだが……)

思考の迷宮へと迷い込みそうになったギュオーだったが、彼はその事ばかりに気を取られているわけにはいかなかった。
主催者により神社から追い出されかけている彼は、早々に移動先を決め、別のエリアへと脱出しなければならないのだ。
恨まれている理由の究明はひとまず横に置き、ギュオーは目前に迫った問題に目を向けた。

(しかし何処へ行ったらいい? 北は大火災がおきている。恐らく今回の死者の多さはあの火災のためだろう。
 となると北は危険だ。行って得られるものがあるとも思えん……ならば南か?)

未だ煙があがっている北の空から平穏そうな南の空へと視線を動かしながらギュオーは頷く。

(ふむ、それがいいような気がするな。上手くすればウォーズマンとも合流出来るだろうしな)

この場で合流予定のウォーズマンは未だに姿を現さない。
放送で呼ばれていないのだから死んではいないのだろうが、何か問題が起きているのは間違いないのだろう。
そんな事を考えながらギュオーが視線を空から山道へと移したのだが――その瞬間、彼の瞳は再び驚愕に染まった。

(あれは! まさか……ガイバー!?)

視線の先、この場へと続く山道――僅か百メートル程度の至近に宿敵ガイバーの姿を発見してしまったのだ。
それを見てギュオーは咄嗟に鳥居の影へと身を潜める。
鳥居の影からそっと窺うと、その横には印象的な黒い男――ウォーズマンと少女――恐らくあれがスバル・ナカジマだろう――が居た。どうやらウォーズマンたちはガイバーと行動を共にしているらしい。

(……まずい、まずいぞ。ガイバーと居るという事はまさか俺の事がばれたのか?)

夕闇のせいではっきりとは見えないがあのガイバーが深町晶ならば全てがばれている可能性もあった。

(いや待て、そう考えるのは早計だ! ユニットを支給されただけの無関係な奴かもしれん……ん?
 待てよ……もしそうならば、これで俺が知らない二つ目のユニットがあったという事になるな)

自身の考えにギュオーは息を呑んだ。
ユニットが量産されている可能性は予想していたが、他にも何かを思いついた気がしたのだ。

(となると、この島にはかなりの数のガイバーが居る事になる。ならば主催者たちはユニットに手を加え……た?)

その瞬間、稲妻に打たれかのようにギュオーの心に衝撃がはしる。

(そうだ! 手を加えなければガイバーは例え一片の細胞片からでも全身を復元してしまう。
 そして細胞から復元したガイバーには首輪が――この殺し合いの要たる首輪がない!
 この殺し合いを成立させているのはこの首輪だ、主催者がそんなミスをするだろうか?)

自身の首にある冷たいそれに触りながらギュオーは今までの主催者の行動を思い浮かべる。

(いや、草壁タツオと長門有希はそこまでマヌケではないだろう。
 となると、ガイバーの復元能力はかなり衰えている可能性が高い。
 最低でも首が切断されたら二度と復元できないレベルまで抑制されているはず。
 ……そうでなければ簡単に首輪を外されてしまうからな)

そしてギュオーは思考の迷宮を走破した末に、自身の未来すら左右する重要な疑問へと遂に到達した。

(……では装着者が殺された場合、ユニットはどうなる?
 本来ならガイバーは細胞の一片からでも復元するが、この島では恐らくそれはない)

ギュオーは自身の思考の先にある希望の香りに、ひどく興奮していた。

(そのまま機能を停止する可能性も否定できんが、もう一つの可能性も考えられる)

そしてにやりと声に出さずに笑いながらギュオーはガイバーを見やる。

(そう、つまりユニット・リムーバーがなくとも、この手にユニットGを手に入れられるという可能性が!)

視界の先では倒れていたそのガイバーがゆっくりと起き上がっていた。
ウォーズマンたちと一緒にこちらへと登ってくるユニットG。
ギュオーにはすでにあれがガイバーではなくユニットに見えていた。

(どうする? ガイバーごとウォーズマンたちを不意打ちで殺してしまうか?)

そっと神社の奥へと身を隠しながらギュオーは思索する。
見ていて判ったのだが奴らの動きはどうも鈍い。戦いでもあったのか酷く消耗していた。
不意をつけば一息で倒す事も可能だろう。

(いや、落ち着けギュオー! ウォーズマンにはまだ使い道がある。
 いま奴らとの信頼関係を失うのは惜しい。……ここはチャンスを待つべきだ)

ギュオーは顔を歪ませながら、そのチャンスをどうやって引き起こすか夢想する。

(そうだな、ガイバーが一人となった所を狙えばいい。
 殺した後は深町辺りが襲いかかってきたとでも言えば単純なウォーズマンは誤魔化せるだろう。
 ……そして獣神将たる俺がガイバーを纏い、世界の王となるのだ!)

口から漏れそうになる笑いを堪えながら、ギュオーはウォーズマンたちを出迎えに階段へと向かった。

☆ ☆ ☆ 

「よく戻ったな、ウォーズマン!」
「おお、ギュオーか! 遅くなって済まない」

ギュオーはウォーズマンとしっかりと握手を交わし、再会を喜んで見せた。
そして初対面の二人へと視線を動かし、怪訝な表情で疑問を投げかける。

「その二人は?」
「ああ、スバルとキョンだ……詳しい話をする前にまずはここから離れよう」
「そうだな、ここが禁止エリアになってしまう前に移動した方がいいだろう」

ウォーズマンの言葉にとりあえず頷きながら、ギュオーはキョンという名前から詳細名簿の内容を思い出そうとした。
印象が薄い為に全ては思い出せなかったが、たしか普通の学生だったはずだ。
殺しても問題ない――そんな事を考えていたのだが、ふとウォーズマンが辺りを見ながら尋ねてきた。

「ところでギュオー、タママはどうしたんだ?」
「ああ、タママ君か……それなのだが実は彼は一人で北へと走り去ってしまったのだよ」
「たった一人でか!?」

驚くウォーズマンにギュオーは肩をすくめて言った。

「私も引き止めはしたのだよ? だが、ケロロ軍曹たちを助けると言って聞かなくてね」
「……ギュオーよ。タママは本当に自ら走り去ったのか?」
「ん、どういう意味だね?」

何故か鋭くなったウォーズマンの口調に眉をしかめながら聞き返す。

「本当にタママは自分の意思で走り去ったのか、と聞いているんだ」
「……なにがいいたい?」

知らず、声に困惑の響きが混ざる。ウォーズマンの口調に珍しく毒のような物を感じたからだ。
そしてウォーズマンは姿勢を正してこちらを見やると決定的な一言を放った。

「単刀直入に聞くぜ。ギュオーよ、俺はお前が殺し合いに乗っていると聞いたんだ」
「……ッ!?」

その時、ギュオーは表情に走った衝撃を隠そうとして失敗した。
そしてウォーズマンの後方にいるスバルも、同じように驚いてウォーズマンを見上げた。

「ウォーズマンさん……?」
「ここはオレに任せろ。この問題はやはり放置するわけにはいかない。
 ……スバル、そしてリイン。お前たちはキョンと一緒にそこで見ていてくれ」

そのウォーズマンの言葉に何かを感じたのか、スバルはその青い髪を僅かに揺らして頷いた。

「わかりました」
『キョンの見張りはお任せです』

そんな会話を横目に、ギュオーは脂汗を浮かべながら必死に打開策を考えていた。

(ええい、俺が殺し合いに乗っている事がどこから漏れた。
 魔法使いの小娘……いやそれとも深町晶か? とにかくここはなんとか誤魔化さなければな)

深くそして深刻な動揺からギュオーはなんとか立ち直り、細心の演技をこらして驚いてみせた。

「なんという事だ……一体誰がそんな嘘を? ウォーズマン、私は殺し合いになど乗ってはいない。
 恐らくこれは私を陥れるための罠なのだろう……」
「そう信じたいところだが、オレはお前に襲われたという人物に話を聞いたのだ」

腕を組みながらウォーズマンは悠然とそんな事を告げてくる。
それを聞いてギュオーの顔から余裕が弾けとび、焦燥が踊った。

(ぬ……う。そういう事か。
 奴らと直接会話をしたというのなら、いくらこのお人よしでも誤魔化しきれんかもしれん)

簡単に誤魔化せると思っていただけに、この予想外の事態にギュオーの背中に冷や汗が流れる。

「ま、待てウォーズマン! そいつらが真実を話しているとは限らない――」
「ギュオー。お前は何故そんなに焦っている?」

声を上ずらせたこちらの言葉を遮り、ウォーズマンが鋭く尋ねてくる。
その表情は苛烈といっていいほど引き締められており、その視線は矢のように鋭かった。

「心拍数もひどく上がっているな……そしてその額から流れる大量の汗」

そこで一拍、間を置き――ウォーズマンは言った。

「お前は……嘘をついているな?」

その時になってようやくギュオーはウォーズマンを侮っていた事に気付いた。

(……迂闊だったな。お人よしだと思って甘く見ていたが、こいつはコンピューターの分析力を持つロボ超人。
 そう簡単に誤魔化せるような相手ではなかったという事か……。
 ええい! こうなっては仕方がない。ここでウォーズマンたちを始末し、ユニットGを手に入れてくれるわッ!)

ここまで疑惑が深いのならば、いっそここで始末したほうが後腐れが無くていい。
そんな風にあっさりと方向転換する事を決めると、ギュオーは静かに拳を固めた。

「どうなんだ、ギュオー。お前は殺し合いに乗っていたのだな?」

鋭い視線で詰問してくるウォーズマンを睨み返しながらギュオーはその質問に答えた。

「答えは………… ” Y E S ” だッ!!」
「ぐおっ――!」

一瞬で獣神将へと転じながらギュオーは重力衝撃波でウォーズマンを吹き飛ばす。
だがウォーズマンもそれを予想していたのか、上手く受け流して数メートル後方であっさりと地面に着地した。

「『ウォーズマンさん!』」

遠巻きに見ていたスバルとリインが動きかけるが、それをウォーズマンが軽く手を振って制止する。
そしてウォーズマンはこちらに顔を向けながら何故か深いため息をついてきた。

「なんという事だ……まさか本当にお前が殺し合いに乗っていたとはな――ギュオー!」

その言葉に何か嫌な予感を覚えて思わず問い返す。

「なんだと? ま、まさかウォーズマン今のは!?」
「その通りだ。オレにはお前が殺し合いに乗っているという確信はなかった。見事に馬脚を現したなギュオーよ」

ブラフに――よりによってウォーズマンに騙されてしまったのだ。
目が眩むほどの怒りを覚えながら、ギュオーは言葉を搾り出す。

「ちがう……。私はユニットを手に入れる為に自ら正体を明かしてやったのだ!
 そしてウォーズマン! ユニットさえ手に入れば貴様の力など最早必要ない!」
「おのれ――っ!」

距離を詰めようとウォーズマンが接近してくるが――遅い。
すでにギュオーは重力を制御し終えている。
全身に埋まっている球体――グラビティ・ポイントが煌き光る。そして圧倒的な重力が渦巻く。

「地 獄 へ …… 行 け ッ ー ー ー !」

解放された超重力に囚われてウォーズマンが木の葉のように舞う。
そしてウォーズマンごと周辺の大地十メートルほどを超重力が押し潰す。

「……そ、そんな」
『ウォーズマンさん!?』

大量に舞う土煙の向こうでスバルとリインが再び悲鳴をあげていたが、今度はそれに答えるウォーズマンの姿はなかった。
土煙が収まると、そこにあったのはクレータのみ。
すり鉢上に抉れた地面と欠片も残さず消滅したウォーズマンを見て、ギュオーは大きく笑った。

「はっはっは! 意外とあっけなかったな! ……さて、それではユニットをいただくとするか」

残っているのは時空管理局とやらの新人とガイバーの力を手に入れた、ただの学生。
さっさと殺してユニットを頂こうと腕を前に――出そうとして、腕が動かない事に気付いた。

「……なんだ?」

視線を落とすと獣神将の身体を何か光る鎖のようなものが縛っていた。

『そこまでです!』

すっかり忘れていたリインフォースが声をあげて言った。

『バインドをかけました、大人しく投降するです!』
「小賢しいわ、この羽虫があッ!!」

咆哮と共に噴き出る怒りを重力子に変え、生成した衝撃波をリインに解き放つ。
リインの仕業と判った瞬間、吹き荒れた怒りをそのままぶつけたのだ。

『きゃふ!』
「空曹長!? ……このおっ!」

いつの間にかギュオーの間合いへと接近していたスバルが拳を掲げながら吼えてくる。
だがリインが吹き飛んだ瞬間、ギュオーを縛る魔力の鎖もまた消滅していたのだ。

「その程度で私を止められるかとでも思っていたかッ!!」

拘束が解け、自由となった腕でスバルの拳に合わせるように――ギュオーも拳を放つ。

「がっ……は……!」

クロスカウンター。
自身の突進力に獣神将の腕力が加わったその一撃を喰らい、スバルは激しく跳ね飛び、転げ、地面を滑っていった。
そんなスバルを一顧だにせずギュオーは笑いながらガイバーの元へ――逃げ出そうとしていたキョンへと指を向け。

「おっと、逃がしはしないぞ」

指を弾いた。
いや、正確には重力で出来た弾丸を指で射出したのだが……それは見事にキョンへと炸裂する。

「ぐああああああ!」
「40%の威力の重力指弾(グラビティ・ブレット)だ。まだ死んではいないだろう?」

重力指弾を背中に食らい吹き飛ぶキョンに機嫌よくギュオーは話しかけた。
もうすぐ手に入るとなると、機嫌が悪くなる理由など何もなかった。
その時、キョンが急に起き上がり頭をこちらへと向ける。

「こ、この!」

だが――あまりに遅い。
その攻撃を予測していたギュオーは前方に生み出したバリアであっさりとヘッドビームを防ぐ。
そして動揺したキョンを蹴りとばして、背中を踏みつけた。

「がっ……!」
「もう終わりかガイバー? フフフ、ならばこれでようやく私が世界の王となれるわけだ!」

押さえ切れない哄笑が思わず口からこぼれ出す。
それが聞こえたのか、足元で呻くキョンが苦しげに聞いてくる。

「世界の王? い、一体何の話だ……」

その問いにギュオーは機嫌よく答えてやった。

「ふ、よかろう。あと数分の命だ、冥土の土産に教えてやろう」

そして、ユニットガイバーが捕食したものの身体能力を強化・増幅すること。
元から強力なものが――例えば獣神将が殖装すれば限りなく神に近い存在となれることを教えてやる。

「つ、つまりお前はガイバーになりたいって事か。ならガイバーは渡す! だから!」
「まあ、落ち着きたまえ。まだ話には続きがあるのだよ」

キョンを宥めて更に説明する。

「ユニットはな、本来はユニットリムーバーという物を使わねば解除は出来んのだよ。
 だが、私の予想ではこの島では装着者を殺せばユニットが手に入る可能性が高いと睨んでいる」

それを聞いて足元のキョンが驚いたように叫ぶ。

「そ、それって……つ、つまり俺を殺すって事か!?」
「そういう事になるな。さて、理解できたところでそろそろ死んでもらおうか……私の為になッ!」

そしてギュオーはキョンを思いっきり踏みつける。

「ぐあ……ああああああああああああああああああああ!」

ガイバーのせいだろうか、意外にもキョンの背骨はあっさりと折れはしなかった。
絶叫するキョンを踏み抜こうと、ギュオーは更に足に力を込めようとして。

「リボルバーシュート!」
「――ぐぬ!?」

吹き飛んだ。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
なにしろ気迫に満ちた声が聞こえたかと思えば次の瞬間には身体が吹き飛んでいたのだから。
……とはいえ多少吹き飛びはしたが、それほど大した衝撃ではない。
すぐに体勢を整えて声が聞こえた方に視線を動かすと――そこには青の少女が拳を向けて立っていた。


☆ ☆ ☆ 

後編へ







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