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炎のキン肉マン ◆qYuVhwC7l.



『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』
「そ、そんな……シンジ君以外にも、九人もの参加者が命を落としたと言うのか……!!」

酷く愉しげで残酷な悪魔の放送が終わった直後、正義超人ことキン肉マン、キン肉スグルは怒りと絶望でその身を震わせた。
不可抗力とは言え、ある意味でこの手で命を奪ってしまった少年、碇シンジ以外に彼の知る人物の名は呼ばれはしなかったが、そんな事は関係ない。
正義の心を持つ優しき超人は、ただ『多くの命が失われた』という事実に苦しみ、打ち震えながら涙を流す。
そして、その隣にもう一人、僅かに顔を歪めながら放送を聞いていた人物(正確には『人』ではないが)がいた。
通称、謎の神官(プリースト)、ゼロス。いついかなる時でもその顔に不敵に浮かんでいた微笑みは、この時ばかりはその色を潜めていた。
いつもと違うゼロスの様子に気づいたスグルは、恐る恐ると言った様子で声を掛ける。

「ゼ、ゼロス君……まさか、君の知り合いの名前も呼ばれてしまったのか…?」

まるで我が事のようにワナワナと体を震わせているスグルに、ゼロスはゆっくりとうなずく事で答えた。

「……ええ。この会場で初めて知り合って、更に同行していた時間も遥かに少ないのですが……ゲンキさんと、キョンの妹という少女が…亡くなられたようですね」
「お、おぉぉぉ……!! なんと、何と残酷な……くぅぅぅ、許さんぞ草壁タツオ!! この私が、必ずこんなくだらん殺し合いを止めてやるからなーっ!!」

ゼロスの言葉を聞き、より一層の闘志を燃やすセイギノミカタを見つめながら、ゼロスは心の中で嘆息する。
彼が放送によりある人物の死を知った事で、僅かにネガティブになっている事は事実だ。もっとも、その感情はスグルが想像している物とはかなりギャップがあるのだが。

(ゲンキさんは死んでしまいましたか…結局、あの力の詳細は分からずじまいでしたね。セイギノミカタとしての活躍も期待していたのですが、所詮子供には荷が重かったという事でしょうか)

ゼロスが惜しく感じているのは、興味深い力を持っていたゲンキを失ってしまった、と言う事だけ。
しかも、それを『この殺し合いという状況では仕方のない事』と割り切るだけの冷酷さも、魔の眷属たるこの男は持ち合わせている。
最も、彼にとってはスグルにこのまま勘違いさせておいた方が都合がいいので、それはおくびにも出さないが。

一人闘志に燃えているスグルの存在はさておき、ゼロスは先ほどの放送で得られた情報を纏める。
禁止エリアについて気になる事は二つ。一つは、現在自分達がいるエリアからすぐ東に二つ行った場所が指定されている事。
と言っても、これは今から五時間も先のことであるし、さらに高い山を登ってまで東に移動するというのは体力的な面からも避けたいので、重要度は低い。
もう一つは、ここから北西の方角に指定された禁止エリアの事。
これにより、数時間後には遊園地が閉鎖されてしまうというのは僅かに気になるが、元々ゼロスはこの禁止エリア配置を『主催者のお遊び』と考察している。
三回続いて遊園地周辺のエリア封鎖、という現象を目の当たりにしても、その考えは変わらない。ただ、1の目が三回続けて出たというだけだ。珍しいとは思うが、ありえない確率では無い。
最も、『遊び』という観点ならば『二回連続で遊園地周辺を選び出した事に面白がって、三回目はわざと選んだ』という可能性も考えられる。が、こんな考察自体が無意味極まりない行為だろう。

ゼロスが気になるのは、その次に主催者が話していた内容の方だ。
それを要約してみれば、以下の二つになる。
一つは、『主催者はそれなりの頻度で会場に現れている』という事。
もう一つは、『主催者はその場で参加者と遭遇する事に対して抵抗はないが、襲撃される事に関しては難色を示している』と言う事。

(後者に関しては…この首輪や能力の制限などの計り知れない技術を持っている主催者側が、参加者の攻撃で致命的なダメージを受けるとも思えませんねぇ。
ただ単に、『面倒くさいから手を出すな』、という事でしょうか。耳元でプンプンと蚊に飛び回られる程、ウンザリする事もありませんしね)

主催者の感情を嫌な例えで想像しながら、ゼロスは更に考察する。
ならば、危険度は限りなく低いとはいえリスクを冒してまで彼等が会場に現れる理由は何か?

(………もしかしたら、主催者は『僕と同じ』なのかも知れませんね?)

こうは言ってみたが、ゼロス自身、主催者が自分と同じ『魔族』であるとは毛程も考えてはいない。
彼等と顔を合わせたのは、この殺し合い開始直前のほんの僅かな間ではあるが、もしもあの二人が魔族なのであればその時点で気付いているハズだ。
ゼロスが予想しているのは、主催者が『魔族と同じように負の感情を食らう特性』があるのではないか、という点。
精神生命体である魔族は、人間が放つ憎しみや悲しみ、絶望などを食らう事によって力を貯え、またそれを味わう事で楽しむ事も出来る。
ゼロス自身、ゲーム開始時からホリィやキン肉スグルと接触し、その負の感情を何度も美味しく頂いているのだ。
参加者全員がお互いに命を奪いあうこのデスゲームの会場では、負の感情はより一層に溢れかえっている。
彼のような魔の存在にとってはパラダイスとも言えるべき場所だ。この邪魔な首輪さえなければ。
そして、当たり前の事だが主催者には首輪は嵌められていない。

(彼等は、僕と同じように参加者の負の感情を食らうためにこの会場に現れている? もしそうだとすれば、彼等が好き好んで現れようとするのは、死が最も近くなる場所……)

すなわち――――『戦場』。
ひとつの結論にたどり着いたゼロスは、にっこりとほほ笑みながらこれから自分が取るべき行動を選択する。

(もしそうだとすれば、この先僕が取るべき行動は決まったような物ですね)

意図的に多くの命が失われるであろう戦場を作り出してやれば、主催者達をおびき寄せる事も不可能ではないだろう。
反逆の意を示すかどうかは別にして、少しでも主催者の情報を得るために彼等と間近で接触する事は無駄ではないだろう。
が、ゼロスは『まだ』それを良しとしない。
自分の身を拘束している首輪の対処が出来る人間を見つけ出すまでは、無暗に争いの火種を巻く事はしない。
その結果、貴重な技術を持つ無力な参加者が死んでしまっては元も子もないからだ。

だが、今ゼロスは『無駄な命を散らさずとも激しい戦場を作り出す方法』を持っている。

「おのれ、草壁タツオ、それに長門有希めぇぇ~~~っ……! ………あれ? そういえば…ゲンキとキョンの妹、という名には私も聞き覚えがあるような……」

シンジの死に際して抱いていた罪悪感やショックを、主催者への激しい怒りへと転化していたスグルは(その感情はゼロスが美味しく頂きました)、やがてある違和感に気づいてふと頭を捻る。
本当に一瞬だが、どこかでその二つの名前を聞いた記憶があったのだ。
そしてその様子を見たゼロスが、事もなげにスグルに種明かしを行う。

「それはそうでしょう。本来ならば、朝倉さん達と一緒にいたの学校で合流していた筈の人たちですからねぇ」
「ああ、そう言う事か…それは納得………ってなんだとーーーっ!?」

ゼロスの一言で悩みが解決してしばらく頷いていたスグルだが、すぐにその表情が驚愕へと染まる。
それはつまり、自分が奇妙なパソコンを弄るなど軽率なマネをしなければ、あの学校からワープしてしまうという事件が無ければ、二人の命を救えていたのかもしれないという事。
碇シンジだけでなく、間接的に別の少年少女の命すらも奪っていたという事。
転化されていた怒りが、再び罪悪感へと還元されていくのを感じながら、スグルはゆっくりと地面に蹲る。

「私はっ…私は一体何をやっているんだ…っ!! こんな事で、こんな体たらくで、正義超人などと名乗れる物かーっ!!」

握り拳を作り、くやし涙を流しながら激しく地面を叩いていたスグルだが、やがてある一つの事実に気づいてハッと頭を上げる。
その脳裏に浮かぶのは二つの顔。その可愛らしい顔を恐怖に歪め、涙を流していた幼い子供と、お淑やかそうな見た目とは裏腹に厳しい毒舌を持っているが、悪人には見えない少女の姿。

「が、学校にいたゲンキくんと妹ちゃんが死んでしまったと言う事は…ヴィヴィオちゃんとリョーコちゃんの身にも危険が迫っているという事ではないのか!?」

ほんの僅かな時間とは言え、行動を共にした二人が今この瞬間にも命の危機に晒されているかも知れない。
そして、その最悪の想像は、この手で引き起こしてしまった一つの地獄絵図と徐々にオーバーラップしていく。
目の前で、無残に苦しみながら死んでいった、碇シンジという少年。
彼が受けたような壮絶な痛みが、もしかしたら彼女達にも――――――

「そんな事は……そんな事は、私がさせん! あんな悲劇は、もう二度と起こしてはならないんだ………!!」

ぶるぶると体を震わせながら、スグルは頭の中の惨たらしい光景を振り払おうと頭を振る。
そして、今からでも少女達を救出に向かおうと学校方面に向かって全力で駆け出そうとして、

「あ、すいませんちょっと待っていただけますか?」
「グムーーーーっ!?」

背負っているディパックを強引につかまれて、強制的にブレーキを掛けられた。

「な、何をするんじゃゼロスくん! 今こうしている間にもリョーコちゃんやヴィヴィオちゃんが、シンジくんのように酷い目に合わされているのかも知れないんだぞ!?」
「まぁまぁ。確かにその心配もありますが、リョーコさんはああ見えてかなりの実力者のようですし、大丈夫じゃないですか? それよりも、もう一つ気になる情報を手に入れていまして…」

無理に引きとめられた事によって発生した痛みに耐えながら、スグルは怒りに目を向いてゼロスに詰め寄る。
笑顔の神官はやや焦らすような物言いでそれを宥めながら、僅かに(少しばかり罪悪感を植え付けすぎましたかね…?)などと考えを巡らしたりもしたが、ともかく本命の情報を語り始めた。

「ええい、だったらそれを早く言わんか!!」
「ある人が、ここから東の巨大な湖にいるという話です。なんでも、そこには『リング』と言う物が隠されていたそうで、その中でとある超人が英気を養っていると」
「超人……そうか、ウォーズマンか!! なるほど、ウォーズマンと私が手を組めば確かにどんな敵だろうと…い、いや、確かにあのまっくろくろすけとは合流したいが今は二人を助ける方が先ではないか!?」

今となってはもう懐かしくすら感じられる旧友の所在が分かったのかと予測し、一瞬だけスグルの顔が明るくなるが、すぐにそれを思い直してドタドタと足踏みを始める。
合図があれば、すぐに学校に向かって全速力で走りだすだろう。
だが、ゼロスは相変わらずの笑顔のままで黙って首を振るのみ。

「む、ウォーズマンでは無いのか? とすると…キン肉万太郎かーっ!? ええいゼロスくん、悪いが今は私の偽超人など相手にしている場合では無いぞ!! 早くしなければ、二人が!」

今度は、殺し合いの始まりからずっと探し続けていた小憎たらしい偽物の情報かと見当を付け、今度は怒りの形相のままでゼロスに喰ってかかってみせる。
だが、やはりゼロスは首を横に振った。

「グ、グムーっ…君はふざけとるのか!? もういい、私は勝手に行かせてもらうぞーっ!!」

ついに業を煮やしたセイギノミカタが、ディパックをつかんでいる腕を外して見せようとじたばたともがき始めたのを見て、謎の神官はより一層の笑顔を浮かべながら答えを示す。

「湖で待っているのは、悪魔将軍だそうです」
「――――――――!!」

その言葉を聞いた瞬間、それまで忙しなく暴れていたスグルの動きが止まる。
そのまま、まるで時間を止められてしまったかのように、正義超人は何一つ動きを見せなくなった。
てっきり、『なにーっ、悪魔将軍だとーっ!! この私が成敗してくれるわーっ!!』というセイギノミカタらしい反応が返ってくるかと思っていたゼロスは、思わず眉を寄せる。
そして数十秒ほど時間が経ってから、疑問を抱くゼロスの前でようやくスグルが身動きを取り始めた。
油の切れたゼンマイのように、ギチギチと顔をこちらに向ける。

「あ……悪魔……将軍が……?」

その顔は、ついさっきまで人命救助に向かおうとしていた男の物には見えなかった。
先ほど、碇シンジの死に際していた時のような……いや、そのとき以上に真っ青な顔色。
そこに浮かんでいる感情は、魔族であるゼロスが判断するまでもなく、『恐怖』であった。
予想外の出来事に、久々にゼロスの顔から真の意味で笑顔が消える。

「あ…あわわ……あわわわわ………」

そんなゼロスの表情の変化にも気付かずに、スグルはヘナヘナとその地面にへたり込んだ。
さらに、その体がまるで臆病な幼子か何かのように激しく震えだす。
筋肉質の大男がぶるぶると震え、怯えきっているのは一種異様な光景であり、またその恐怖は極上の味ではあったが今はそれを楽しんでいる場合では無い。

「スグルさん? どうしたんですか?」
「あぁ……ああぁぁぁ~~~っ………!」

流石に不安になってきたゼロスがスグルに呼びかけて見せても、正義に燃えていたはずの超人は頭を両手で押えながら呻くのみだ。
余りにも突然の変貌を前にして、ゼロスはどうにかしてその理由を探ろうと頭を働かせる。
悪魔将軍という人物は、超人であるらしいという情報はすでに聞いている。ウォーズマンを探していたというのも、超人同士顔見知りであり、何かしらの因縁があってのことだろう。
そして、ウォーズマンと顔見知りであるという事は必然的に目の前の超人、キン肉スグルとも顔見知りと言う事になる。
『悪魔』の『将軍』。キング・オブ・デビルとも言い換えられるその名前の語感から見ても、正義超人であるキン肉スグルやウォーズマンとは敵対している超人と見て間違いない。
頭の中でまとめたこれらの情報を、目の前で繰り広げられるスグルの混乱と重ね合わせ、ゼロスは一つの結論を出した。

「スグルさん…貴方は、元の世界で悪魔将軍と既に戦い、負けていたのですか?」

悪魔将軍がウォーズマンを探していたというのも、既に自分が下していたキン肉スグルには興味がなく、また新たな強敵を求めていた、という事か。
だが、ゼロスの予想は他でもない目の前の超人によって否定される。

「ち、違う……私は…確かに悪魔将軍と戦ったが、奴に勝つ事は出来たんだ……」

地べたに座り込んだまま、俯いた状態で答える姿を前にしては、その言葉には信憑性の欠片もない。
しかし、ゼロスはスグルがこんな状態でも見苦しい虚栄を張る人間では無い事は理解している。それならば、『悪魔将軍に勝った』という話は本当なのだろう。
それでも、彼のこの怯えようはとても一度勝った相手に対する物には見えない。
そしてその疑問は、スグル自身がぽつりぽつりと語り始めた過去の回想で明らかになっていく。

「悪魔将軍…奴は……私が今まで闘ってきた超人の中でも、最も恐ろしい男だ……!
 奴に勝つ事が出来たのは、私の火事場のクソ力や、他の多くの正義超人の仲間たち、バッファローマンの協力があったから…そ、それでもギリギリの勝利だったんだっ…!!」

ダイヤモンドのリングの上で繰り広げられた、過去の辛く苦しい戦いを思い出して、スグルの体がより一層の恐怖に震える。
気がつけば、その両目からは大量の涙があふれ、地面を濡らしている。そして、右手は自然とその太い首へと伸ばされ、過去の古傷をなぞっていた。

「悪魔将軍が放つ、最強の必殺技…地獄の断頭台を、私は何度となくこの身に受けた…
どうにか命を繋ぐことは出来たが、奴との戦闘が終わった後でも、これが原因で高熱に襲われ一カ月も寝込むほどに私の体は消耗していた……。
 あ、あれをもう一度味わうのではないかと思うだけで、私は、私は、もう……」

悪魔将軍との戦闘からしばらく経った後、トーナメントマウンテンでの超人タッグマッチの際、スグルはある意味で再び悪魔将軍と対峙する事になった。
将軍の体を形成していた悪魔六騎士の内の二人、アシュラマンとサンシャインが合体し、悪魔将軍の下半身となりスグルへと襲いかかったのだ。
ただの下半身でしかないその姿を見ても、スグルは恐慌状態に陥りリングの上で逃げ回る失態を見せてしまった。
その戦闘では、将軍の体が下半身だけだった為に体重が減り、地獄の断頭台の威力も下がっていた為にどうにか凌ぐ事が出来たが、今この会場にいるのは間違いなく悪魔将軍本人。
それを考えるだけで、過去のトラウマがスグルの精神を攻撃し始める。

「わ、私は…怖い……悪魔将軍が、どうしようもなく怖いんだ~~~っ!」

遂に耐えきれなくなったスグルは、頭を抱えたまま地面に蹲った。
恥も外聞もかなぐり捨て、泣き声までも上げ始める。それ程までに、キン肉マンが悪魔将軍から受けた心の傷は深い。

だが、それを気遣うような感情など、魔族は持ち合わせていない。

微笑みを浮かべ続けていた謎の神官は、今は氷のように冷たい瞳で足元のスグルを見つめていた。
その胸の内にあるのは確かな失望。あれだけ『セイギノミカタ』としての役割を期待していたというのに、この体たらくとは。
思わずこの場でこの筋肉男を始末してしまいたい衝動にも駆られたが、それはまだ時期尚早だとどうにか抑え込む。
自分にはまだ、最後の『切り札』が残っているのだ。
心の内を何重にも覆い隠して、再びゼロスは笑顔を作ると、『切り札』をスグルに向かって切り始める。

「ねぇ、スグルさん。何故僕がこんな情報を持っているかわかりますか?」
「う、うぅぅ…どうせ、あの目つきの悪い男に聞いたんじゃろ……ぐすっ…」

ゼロスの質問を聞いても、スグルは地面に蹲ったままで顔を上げようとすらしない。
それを一層の笑顔で見つめた後で、笑顔の魔族は恐怖に負けた超人にあるカンフル剤を注入する。

「うーん、半分正解ですが半分ハズレですねー。確かにこの情報を教えてくれたのはその人ですが、悪魔将軍と実際に会っているのは実はシンジさんなんですよ」

その名が出た途端、彼の体の震えがピタリと治まった。
ゼロスは確かに感じた手応えに会心の微笑みを浮かべつつ、更に言葉を続ける。

「酷い拷問を受けていたシンジさんですけど、アレはアレをするだけの理由があったそうですよ?
 なんでも酷い混乱と恐慌状態に陥っていたとかで…ああ、我々が見た時と同じぐらい怯えていたんではないでしょうか?
 で、なぜそれだけ彼が怯えていたのかと言うと、なんでも悪魔将軍に酷い目に合わされていたそうで。『私に殺されたくなければ、ウォーズマンを始末しろ』、と命令されていたらしいですよ」

一気にそこまで語ってみせた所で言葉を切り、しばらく足元のセイギノミカタの様子を観察する。
先ほどまで溢れるほどだった身を切るような恐怖の感情は、もうそのほとんどが消え去っていた。
そして、それと置き換わる形で彼の中に溢れているのは……『怒り』。

「………シンジくんが……悪魔将軍に……だと……」

呆然と呟きながら思い出すのは、あまりにも無惨すぎる少年の最期の断末魔。
未だにスグルの耳の奥に残っている、あの痛々しい叫び声が、再び超人の心を苛み始める。

―――ヴァ! ア゛ア゛ア゛アッ゛ッ゛ッ゛ッ!!!! ヴァァーーーーッッ!!!!

回想だというのに、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られながらも、スグルはその叫びを正面から受け止める。
彼の心の中の『恐怖』を溢れさせてしまったのは、確かに自分だ。その事実は変えようがないし、この十字架を一生背負って行くだけの心構えも、自分の中に存在している。
では、少年の心に崩壊寸前まで『恐怖』を貯め込んでいたのは誰だ?

「……悪魔……将軍……!!!」

その名前を口に出すのは、これが何度目だったか。
だが、そこに込められている感情はそれまでとは百八十度意味合いが違った。
心を抉るような『恐怖』ではなく、心を燃やすような『怒り』。
まだ明るい未来の存在している少年の命を奪い取る原因を作った男への、強い『怒り』がそこにあった。

それまで地面に伏せていたスグルが、ゆっくりと体を起こす。
俯いていた頭を挙げ、正面からもう一度ゼロスと向き合ってみれば、涙で濡れた瞳の奥に強い輝きが溢れているのがわかる。
太い腕で強引に涙をぬぐい、やや下品に鼻をすすると、正義超人は己の頬を己で打って萎えた気合いを入れ直す。

「ゼロスくん、すまなかったな……私はまた情けない姿を君に見せてしまった」

まず最初に口をついたのは、同行者に対する謝罪の言葉だった。
もう既に長い付き合いと言って差し支えない笑顔の男は、やはり『気になさらないでください』とばかりに微笑みを浮かべたままだった。

「私は……私は、悪魔将軍をこの手で倒す!! 火事場のクソ力が今の私に無くとも、正義超人達の手助けが無くとも、私は奴を倒してみせる!!
 それが…それが私が命を奪ってしまった、シンジくんへ出来るたった一つの贖罪だ!!」

拳を固め、ファイティングポーズを取りながらの決意表明。
そこには、つい先ほどまで無様に怯えていたブタ超人の面影はない。
ただ、熱い正義に燃えるセイギノミカタの姿だけがゼロスの目に映っていた。
それを目の当たりにして、ゼロスはよりその微笑みを深くさせる。

「ええ。期待していますよ、セイギノミカタのキン肉マンさん♪」

―――ほんっと、こういう人って扱いやすくていいですよね~♪

闇に生きる男は、心底嬉しそうに胸の奥で呟いていた。



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ゼロス






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