※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

冬の訪れ、そして春の目覚め ◆5xPP7aGpCE



『第三幕:強殖劇場』



「主催のガキ……!」
「長門! よくもスエゾーを!」

突然の乱入者に雨蜘蛛も晶も動きを止めざるを得なかった。
雨蜘蛛は放送で語っていた主催者の制裁を警戒し、晶は今はスエゾーを巻き込みたくないという思いが何よりも上回った。

対する長門は場違いな程涼しい顔をしている。
まるでケース越しに水族館を見るように、自分が安全圏に居る事を確信しているかのように。
それが決して驕りでも何でも無いであろう事はガイバーを身に纏う晶にも理解できた。

「私は貴方達の邪魔をする気は無い、その人の事で来た」

彼女の視線は晶の腕の中、スエゾーに対し向けられていた。
雨蜘蛛も晶も他に心当たりが無い以上、それを素直に受け入れた。

「だったらさっさと済ませやがれ、言っとくが俺はそいつの行いには関わりがねえぜ~」

雨蜘蛛は対象がスエゾーと知るや、銃を下ろして傍観の構えを見せる。
自分がスエゾーの反抗と無関係とアピールする事も忘れないしたたかさだ、流石には砂漠に生きる取立人か。

「教えてくれ! スエゾーを、これ以上スエゾーをどうするつもりなんだ!!」

晶はスエゾーを腕で隠すように守りながら長門の意図を問い詰めた。
戦闘や逃亡は選択出来なかった、なぜならばこの場でスエゾーを救えるとしたら敵である彼女しかいないのだ。
彼女をその気にさせる為ならばプライドもへったくれもなく頭を下げて救いを求めてもいいとさえ晶は思った。

長門はじっとしたままその場を動かなかった。
警戒する晶に対し静かに語り始めたのはスエゾーの身に起こった出来事。

「彼のテレポートは本来禁則事項、まさかガッツの力で制限を打ち破るとは思わなかった」
「……やっぱり!」

やはり便利すぎる力は禁止されていたのだ。
その言い方から晶は今回の事が主催者にとってもイレギュラーなのだと気付く。
それが彼女のやってきた理由だろうか? だが今は黙って聞くしか道は無い。

「でも彼の努力もそこまで、力で制限を破ろうとしてもその分大きな反動が返ってくる。
 一度素粒子に分解された彼と小トトロは本来の復元力が働かず混ざり合ってしまった」
「てな事は知らずに俺がテレポートさせてたら全員ミックスつー事かよ、やらなくて良かったわ~」

長門の言葉を聞いて雨蜘蛛は心底安堵したような反応を見せた。
逃がしたと思ったお宝能力は実はトンでもない爆弾とは何が幸いするか解らない、まさしく人生万事塞翁が馬。

「じ、じゃあのこの結果はお前達も望んじゃいないんだな!? だったらスエゾーと小トトロを助けてくれ!!」

一縷の望みを抱いて晶は頼んだ。
先の放送によれば主催者は参加者が戦わずに脱落する事を避けたい筈、予想外のトラブルが原因なら尚更だ。
スエゾーの意志はこの際関係ない、後で何と怒鳴られようと助けたい!

「結論から言えば彼を戻すのは可能」
「おいおい随分甘い対応じゃねえか~、確か前に逆らった奴は死んだだよなぁ?」

その言葉こそが希望だった。
晶は歓喜しかけるが、雨蜘蛛は一歩引いた位置で主催者の対応を野次り出す。
だが長門はどちらにも構う事無く話を続けた。

「喜ぶのは早い、彼への対応については私達の間でも判断が分かれた。本人が無意識に制限を破った行為をどう裁くかが問題になった」
「そんな! スエゾーは確かに反抗しようとしてたけどお前達には何一つダメージを与えてないじゃないか!!」

晶はスエゾーを胸に抱きながら抗議した。
悪口程度ならほぼ参加者全員が口にしてる筈、それと同じで実質的に何もしていないと必死でスエゾーを弁護する。
すると長門もその言い分を認めるように頷いた。

「確かにそう、一時的な制限破りが反逆行為に値するかはグレーゾーン。よってケースバイケースで考えようという事になった。
 参加者同士の戦闘で同様のケースが起きたとしても何もしない、結果として首輪の機能が損なわれなければ本人の努力の範囲として認める事になる。
 そして今回の場合は破った理由が問題になる、あれだけ堂々と反逆を宣言して失敗したら管理不十分だから責任を取れと私達に言われても困る」
「正論だわな~、お前さんは自己責任って言葉を覚えたほうがいいぜ~」

雨蜘蛛はヒラヒラと手を振っている、彼は完全に野次馬モードで面白がっていた。
晶は返す言葉も無い、それでも必死に食い下がる。

「納得出来ない! そんなルール最初に説明してくれなかったじゃないですか!!」

一度沈黙したら最後、議論はこのまま流れてしまう。
とにかく晶には抗議し続けるしか道は無かった、こうしている間にもスエゾーは衰弱し続けているのだ。

「彼を戻した途端私に襲ってこないという保証は無い、貴方や彼は恩を仇で返すの?」
「それは……っ!」

確かに一度助けられたからといって晶は彼女達を許せないしスエゾーだって同じだろう。
逆に『治した事を後悔させたるわ』とスエゾーなら飛び掛りかねない。
今更嘘は吐けない、だから言って馬鹿正直に『はい、治し終わったら襲います』などと答えられるはずもない。
雨蜘蛛はともかく、晶はそこまで図々しい人間では無い。

「あ~、それについては俺がこいつで言う事を聞かせますわ」
「そ、そんな事になる前に俺がスエゾーを止めます!」

雨蜘蛛がリボルバーを掲げて実力行使してでも止めると長門に告げる。
実際にスエゾーが逆らえば一蓮托生の身、間違いなく彼は本気だ。
晶は長いものには巻かれろ的な彼の思考が好きではなかったが今回ばかりは同意する。

「勘違いしてもらっては困る。そもそも私が来たのは制限を破ったらこうなるという警告が目的、戻す為とは一言も言って無い」
「ならスエゾーも十分解ったと思います! 放送では草壁って人も事故で参加者が減るのは望まないって言ってたでしょう?!」

こうなっては晶自身さんざんに怒った草壁の性格の悪さが頼りだ。
情け無い事この上ないが、スエゾーを救うにはそこに賭けるしか無かった。

「最初に言ったように意見は別れた、確かに戻してもいいという意見も有ったが条件付き。幾つかの案が出たから一つ一つ説明する」
「……どんな条件です?」

当然ながら無償で戻すという虫のいい話は存在しないらしい、嫌な予感がしながらも晶は話を聞くしかなかった。
気のせいか、どこかで笑顔のタツヲが見ている気がした。

「まず一つ目、治す代償として次々回の放送まで三人を殺すのが条件。果たせなかったら連帯責任で全員がスープ」
「随分酷え条件だな~、あのおっさんが言い出したのかぁ?」
「ふざけた事を……!!」
「これは私も反対した、貴方はとても乗りそうに無かったから」

当然晶は反対した、確かにアプトムやギュオーの様な元々倒すべき相手も島には居る。
だが期限まで彼らに遭遇できるかどうかは完全に未知数、もしかしたら既に死んでいる可能性もある。
それ以前に殺害の強要そのものが受け入れられない。
雨蜘蛛も反対に回る、乗れば確実に洞窟探検が延期になるからだ。
スエゾーの為にそこまでする気は更々無い。

「二つ目は誰かが身代わりとして死ねば彼を助けるという条件、一応どちらでも構わない」
「俺は当然反対だぜ~、晶がやる気でも貸しが残っているし死に逃げは嫌だしな~」
「俺は……死なない! スエゾーと一緒に元の世界に帰るんだ!!」
「これは本人が言い出した後で撤回した、自殺されるのはやっぱり面白くないって」

つまり長門にとっても言ってみただけらしい。
時間の無駄とばかりに次に移る。

「じゃあ三つ目は何なんだ!」

どうせまた録でもない要求だろうと思った、嘘をばら撒けとか山火事を起こせとか悪い想像ばかりが湧いてくる。
いっそ今から飛び出して他の参加者を探したほうがマシかもしれない、そんな事を考えたくもなる。
だが―――その内容は実に意外なものだった。

「三つ目の条件は私を笑わせる事、『無愛想な君を笑わせるなんて困難極まりないチャレンジじゃないか』って」
「それだ! 俺にそいつをやらせてくれ!!」

長門が言葉を言い切る前に晶は挑戦の名乗りを上げた。
どうせ気まぐれで言い出した事だろうがこちらにとっては好都合この上ない。
実は冗談というオチが付かないうちに強引に話を進めて原質を取る。
今だけはタツヲの気まぐれな性格が都合よく働いたと晶は喜んだ。

「おいおい、このお嬢さんは手強そうだぜ~? お前さんに出来るのかぁ?」
「いいから見ていて下さい、俺のとっておきを出して見せます!」

雨蜘蛛が見たところ長門の鉄面皮は相当の重装甲だ、劣化ウラン弾でも跳ね返すかもしれない。
成功を疑問視する彼に対し晶は強い意気込みを語る、どうやら切り札があるらしい。
確かに必ずスエゾーを救うという気概に溢れている、沈痛なムードはここにいてようやく上向きだした。

長門が手近なソファに座ると雨蜘蛛も離れて正面に陣取る。
スエゾーは抱えている訳にもいかないので一旦床の上で休んでもらう。
誰も見ていないパソコンの音声をBGMに次第に全員のテンションが高まっていった。

今や場の主役は長門では無く難問に挑むガイバーだ。
長門が主賓とすれば雨蜘蛛はただの観客、お手並み拝見とばかりに見守っている。
まずは晶が手に持ったそれを差し出すように全員に示す。

「長門、雨蜘蛛さん、それにスエゾー! 俺が持っているものが何だかわかるか?」
「フェルトペン、筆記用具の一種」
「砂漠にも普通に有るもんじゃねえか、そいつが一体何だってんだぁ?」

見れば握られているのは部屋に有った黒マジック、何の特殊効果も無いそれをしつこい程に強調する。
どうやら使う道具はそれだけらしい、それでどうやって笑いを取るんだ~と雨蜘蛛は首を傾げながら切り札とやらを待っている。


哲郎さん、瑞紀、巻島さん、村上さん、山村教授、父さん……、見ててくれ!
今度こそ大切な仲間を守ってみせる、二度とあんな悔しい思いをしない為に俺はやる!
スエゾー、俺はやってみせる!
長門だろうが、草壁タツヲだろうがこいつの前なら―――

「何やってんだ~? 晶の奴は~?」
「黙ってて、待ってればすぐ解る」

突然晶が背を向けて盛んに手を動かし始めたのだ。
マジックを使っているらしいが、長門はともかく雨蜘蛛には何をしているのかまるで解らない。

準備は終わった。
後は振り向けばいい、振り向いて長門に”あの台詞”を言ってやる。
駄目だ、ここでその単語を考えたら噴き出してしまう!
失敗は許されない、巻島さんの気持ちだ、巻島さんの非情の精神になるんだ!

スエゾーも見ててくれ、これが俺の切り札だ。
ガイバーの真価はここにあるんだ。
俺はマジックを握り締めながら振り向いた―――


ついにガイバーは切り札を晒した。
長門有希はそれを見た。
雨蜘蛛もマスク越しにそれを見た。
スエゾーは見ることが出来なかった、ただ晶が自分の為に何かをしている事は理解できた。

ポーズを見せ付けるガイバーⅠ、そのある一点に皆の視線が集中した。
晶が集中させていた、指で指し示し強調したのだ。

―――黒かった

ただ黒かった。
ただ一箇所だけが先程と違っていた。
額のコントロールメタル、ガイバーの最重要器官、本来銀白色のそれが―――黒く塗り潰されていた。

タイミングを計ってガイバーⅠは宣言する。
自らの変化の意味を、自分が何者になったのかを。


長門、お前がどれ程の強敵だろうが俺は負けない!
必ずスエゾーを助けてこんな島から脱出してやる!
俺は額を指差しながらその言葉を口にした、誰もが知っている国民的存在の名を―――

聞け! こ れ が 俺 の 最 大 最 高 の モ ノ マ ネ だ !


   「 千 昌 夫 !」


―――どうだ長門。
お前だってコイツを見たら噴出さずにはいられないだろう?
俺自身思いついた時は寝付けなかったぐらいだからな。

「「……………………」」

静寂が世界を支配した。
時が止まる、長門も雨蜘蛛もガイバーⅠも凍りついたかのように動かない。
氷河期が再来したかのごとく、気温は氷点下へと移ろいゆく。

長い冬もやがては終わる。
凍りついた世界を動かすのは春の訪れ、それ宣言するのは春一番と呼ばれる強い風。


スパパーーーーンッ!!!


景気いい音が全ての空気を吹き飛ばす。
動いたのは長門、彼女の手に握られたハリセンが冬をもたらしたガイバーの頭をはたいたのだ。

「下らなすぎる……2点。私を笑わせたいのなら、はらたいらさんに3000点」
「ぶわーっははは~っ!! 一体誰の事だソイツは~~~っっっ!!!」

冷ややかな表情の長門、漫才の方を腹を抱えて笑う雨蜘蛛、そしてただ呆然と立ち尽くすだけのガイバーⅠ。
―――決着は、付いた。



彼は、晶は、ガイバーⅠは敗北したのだ。
追い討ちのように長門が衝撃の事実を告げる。

「第一その人のほくろは既に手術で消えている、仕方ないとはいえ貴方には失望した」


そんな、そんな馬鹿なっ!
自信があった、本当にこれでスエゾーを救える自信が有ったんだ。
ほくろが消えてる? 手術した? そんなの聞いた事無いぞ!?


「時間を無駄にした、私はこれで戻る」

晶が立ち直る暇も無く長門が交渉の決裂を宣言する。
背を向ける彼女に慌てて晶が呼びかける。

「待ってくれ! せめてもう一度やらせてくれっ!!
「しつこい」

必死に懇願するも長門は振り向きもしない。
雨蜘蛛はそれを面白がるだけだ、どんな助け舟も効果無しと見放したのだろうか。

「そ、そうだ! 雨蜘蛛さんもチャレンジしてみてください!!」
「う~ん、くすぐり拷問は確かに自信あるんだがお嬢ちゃんはどうも普通じゃなさそうだしな~、 遠慮しとくわ」

何か後が怖そうだと雨蜘蛛は誘惑を撥ね退ける。
砂ぼうずと違って相手を選ぶぐらいの分別を男は持ち合わせていた。

「スエゾーを、頼むからスエゾーを助けてくれっ!!」

それでも長門は止まらない。
晶は絶望のあまりがっくりと膝を突く、きかけた晶はそこで見た。

長門が―――立ち止まっていた。
用を済ませ、もはや留まる理由など無い筈なのに未だ去らない。

その理由はすぐにわかった。
彼女の足元、革靴に膝下までの靴下を履いた華奢なそこに。

―――スエゾーが、居た。



『第四章:笑顔』



晶も予想していなかった。
雨蜘蛛は考えもしなかった。
長門は―――わからない。

「スエゾーっ!! お前一体何をっ!!」

思わず晶が叫ぶ、何故ならば彼は見てしまったから。
機能不全の身体で必死に這って行くスエゾーの姿を。
仇を逃がさないとばかりに長門を追いかける彼の命の輝きを。

ずりっ、ずりっ……

その眼はとっくに見えなくなっていた。
声だってかすれて唸り声も出せない筈であった。
耳だって聞こえているのか怪しかった。
熱さも冷たさも感じられるのかどうか疑わしかった。

なのに。
それでも。
道化の寸劇が時間を浪費していたその間。
スエゾーは自ら動き出して長門の元を目指していたのだ。


かぷっ


スエゾーの得意技だった噛み付き。
本来なら胡桃の殻も砕く自慢の大顎は半分も開くことは無い。
それでも噛む、衰弱した力を振り絞って仇の足首を食い千切らんとする。

長門は眉一つ動かさない、やせ我慢では無く本当に何の痛痒も感じてないのだろう。
スエゾーの顎か滑って口が離れる、その跡は靴下がただ濡れているだけで歯型も何も付いていない。
またしてもスエゾーが齧り付く、少しでも仲間の無念を晴らす為に。

「もう止せっ! 今は身体を動かさずに休むんだスエゾーッ!!」

とても見ていられずに駆け寄った晶がその身体を引き剥がす。
だがスエゾーはそれを拒絶した。
何処にそれだけの力が残されていたのかと思う程の暴れ方でガイバーの腕を振り解いたのだ。

―――逃がさへん

言葉は無い、しかし彼の全でがそう語っていた。
もう一度引き止める、それでもブルブルと身体を揺さぶって逃れようとする。

―――晶、行かせてくれや

ただ心だけが、その身体に宿った執念だけが伝わってくる。
どんなに死んだ仲間が大切だったのか、大事だったのかが伝わってくる。
気が付けば晶はスエゾーの身体を離していた。

掴み続ける事が出来なかった。
手助けも出来なかった、彼が一人で行く事を望んでいると気付いたから。

―――お前は巻き込まへん、晶は晶のやる事をせいや

晶は、スエゾーのその想いを蔑ろにする事がどうしてもできなかった。

「スエゾー、お前って奴は……」

これがスエゾーの意地。
助けてほしいとは一度も言わず逆に隙を見て喰らい付くその執念。
例え傷一つ付けられずとも、晶はこの光景を決して忘れることは無いだろう。

そして晶の代わりに雨蜘蛛が動いた。
拳銃の狙いが真っ直ぐスエゾーに向けられる。
引き金を引けば音速の弾丸が確実に彼の命を終わらせる。

(出ねぇ!? トラブったか?)

当然躊躇わずに引いた、しかし何も起こらなかった。
動いたのは長門、彼女が発砲を察して防いだのだ。

「その銃の時間を凍結した、彼への攻撃は無用」

何故だ、と雨蜘蛛も晶も長門に驚く。
彼女ならこれを口実に全員を罰する事も出来るのだ。

「私は傷一つ付いていない、この程度は反逆に該当しない」

ふるふると首を振って連帯責任も発生しないと二人に告げる。
そして自分の足元を見下ろす、スエゾーは尚も噛み続けていた。
自分が助からない事などとうに承知の上で、最後の最後まで歯向かっている。

彼女は眺める、決して諦めないその執念がとても素晴らしいものであるかのように。
ただ、この光景が見たかったかのように。

「ユニーク。とてもユニーク」

彼女は何を思ってその言葉を口にしたのだろう。
一つ確かなことは嘲笑の類では一切無いこと、晶はむしろ健闘を称えるような何かをそこに感じた。

屈む、そしてその手を伸ばす。
尚も噛み続けるスエゾーの身体にゆっとりと左右の掌が触れてゆく―――

晶は見た。
スエゾーを抱き上げようとする長門の表情の変化を。
このような状況でなかったら、至近距離で向かい合うような場面でなかったら絶対に気付かなかったであろう僅かな揺らぎを。

まるて雪解け後の芽吹きを思わせるようなとても微かで穏やかな顔。
本当に微かで笑顔と呼ぶことさえ憚られるような一瞬の奇跡。

光の加減が見せた悪戯なのかと晶は思った。
そう思うのも無理なかった。
そしてこの事はすぐに彼の頭から消えた。
何故なら触れた瞬間にスエゾーの身体が輝きだしたから。

「彼は条件を果たす事ができた、約束通り元に戻す」

ガッツとは違う光、それは長門の全てを思うままにする力。
光は大小二つに分離する、そして次第に収まってゆく。
そして奇跡が起こる、完全に光が消えたそこに二匹の獣が倒れていた。



               ※       


「何や、オレはまだ生きとんのか?」
「スエゾーッ、気が付いたのかっ! 良かった、良かった……」

薄目を開けたスエゾーに晶は思わず感激した。
あまりの喜びようにスエゾーも恥ずかしいのかとにかく宥める。

「しぶてえ奴だな~、お前さんみてぇな男は普通長生きできねえんだけどなぁ」
「よく言うわ! 何度オレを殺しかけたと思ってるちゅうねん!」

雨蜘蛛も一応はねぎらいの言葉をかける。
融合中の事を覚えているらしくスエゾーも毒をもってそれに応える。

「小トトロも助かったんか、ホンマ悪かった……オレが突っ走ったせいで酷い目に遭わせたからに」
(ふるふる、気にしてない)

晶が掌に小トトロを乗せてスエゾーに見せた。
さすがに身体は万全ではないがそれでも精一杯の元気さをアピールしてる。

「二度とあんな無茶をするんじゃないスエゾー!! 次からは全員一緒だからな!」
(こくこくっ!)
「おい晶、人を勝手に巻き込むんじゃねえぞ~」

晶が怒れば小トトロが賛成し雨蜘蛛が騒ぐ。
そんな光景をスエゾーは心底楽しそうに眺めていた。

「ああ……ホンマにお前らと会えて良かったわ……」
「何年寄りみたいな言ってるんだ! 脱出してこれからもっともっと楽しくやれるじゃないか」

晶はその言葉を普通に感謝から出たものだと軽く流した。
きっと浮かれる余り楽観的な考えが頭を占めていたのだろう、為に多くの事を見逃した。

曰く、スエゾーがぐったりしているのは戻った直後だから無理も無い。
スエゾーが眠たそうにしているのは疲れているからだ、ひょっとしたら分離の時小トトロに元気が回ったのかな。

「スエゾー? おいこんな所で寝ちゃ……」

異変に気付いたのはスエゾーの顔色が随分青白いと雨蜘蛛が言い出してからだった。
揺さぶっても反応が鈍い、気のせいか体温も下がってきたように感じる。

「そんなっ!! これは一体どういう事なんですかっ!?」

衝撃が走った、まだ部屋に居た長門を晶は必死の形相で睨みつける。
彼女は感情を表わす事なくただ事実を告げる。

「手遅れ、分離まで時間が掛かりすぎた。回復まで行うのは公正に関わる以上許されない。但し小トトロは支給品だから別だった」

それは残酷な宣言、一度持ち上げられた感情は再び奈落の底へと墜落する。
しかし抗議しかける晶を遮ったのは当のスエゾーだった。

「ええんや……、オレは満足しとる……これ以上迷惑かけたらアカン」
「迷惑だ何て俺は全く思ってない!」
「今はそんな事エエ、それより大事な話があるんや」

弱弱しくスエゾーが喋りだす。
間違いなくそれは遺言だった、晶も小トトロも気持ちを察して黙るしかなかった。

「ハムに会ったらオレの代わりに助けてやって欲しいんや、アイツはしっかりしとるが晶みたいなヤツが一緒ならホンマ心強い……」
「絶対に約束するよスエゾー、ハムは必ず俺が助けてやる!」

唯一生き残っている仲間を晶に託す。
賢く、経験もそれなりに有るが強者と正面から立ち向かうのは苦しいだろうと告げる。

「次は……小トトロ、お前の事や」
(ふる?)
「オレが居なくなってもお前が晶や雨蜘蛛を助けるんや。あんな酷い形やったやけどオレとお前は血を分けた間柄になったんや……このスエゾーの兄弟やて」
(ふ……ふるっふるっ!!)

小トトロがスエゾーに抱きついた。
次第に冷たくなりつつある身体を温めようと毛皮を擦り付ける。
だがそれでも消え行く命の炎は止められない。

「もう……アカンか……最後に一つだけ聞かせて欲しいんや」
「何でも言ってくれスエゾー、何が知りたいんだ」
「……連中に土下座もさせらへんでで死んで、オレは天国のゲンキ達に胸を張って会えるんやろうか?」

ゲンキは戦って敵を庇って死んだと伝えられた。
きっと恥ずかしくない死に方をしたとそれだけで解る。
晶の足を引っ張って小トトロにまで迷惑を掛けた自分は果たしてどうなのかとスエゾーは知りたかったのだ。

「ああ! 誰もお前の事を馬鹿に出来ないしさせたりしない!」
(こくこくこくっ!!)
「お前さんのお陰て多くの手掛かりが掴めたぜ~、俺様がちゃーんと評価してやるよ」

それを聞いてようやくスエゾーは安心した。
二人と一匹に見守られる中、にこやかに笑いながら眼を閉じる。

「もう眠くて堪らへんで……」

それがスエゾーの、晶が最初に出会った仲間の最後の言葉だった。
晶はガイバーの下で流せない涙を流した、小トトロもポロボロと泣いて悲しみを表わした。
雨蜘蛛は―――砂漠の如く乾ききったままだった。
それでも多くの知見をもたらした彼の働きは評価した。

やがてその身体が突然幻の如く消える。
残されたのは首輪と円盤状の綺麗な石。
それを握り締めながら晶は、ガイバーは顔を上げる。

「一体何の為にこんな殺し合いなんかするんだっ!! お前達の正体は何なんだ!!」

そして激昂する。
込み上げる感情を長門にぶつける。
人の心があるのなら今すぐ止めろと言い放つ。

「知りたいのなら最後まで生き残れば良いだけ、今はそれだけしか言えない」

眉一つ動かさない長門の態度ににガイバーの額か輝きだす。
しかしそれを制するように後ろから別の声が彼女の方に投げられる。

「俺からもちーっとばかり質問だ、お嬢ちゃんは優勝すりゃ何でも願いが叶うって最初に言ってたよな~?」

コクリと長門が頷いた。
すると雨蜘蛛がふう~んと含みの有る声を上げる。
男が何が言いたいか解らずガイバーは動く事が出来なかった。

「なら頭の悪いおぢさんに教えてくれ、この催しの目的は何でも叶えられるお嬢ちゃん達にも手に余るもんなのかなぁ?
 そんな事が出来るならぱぱ~って叶えちゃった方が手っ取り早いとおぢさんは思うんだけどなぁ~」

ねちっこい口調で蜘蛛は疑問を投げかける。
大量の水を所有し、空間を自在に渡り、肉体の操作も意のままにこなす。
そんな彼らが何故こんな悪趣味な催しを行っているのか。

「…………」

だが長門は応えない。
雨蜘蛛とガイバーの方を見ながらただの一言も発しない。

数秒の静寂、交差する視線。
前触れ無しに変化は起こった。

長門が、消えた。
フィルムが不自然な編集をされていたかのように、何の兆候も見せずに彼女は去った。
スエゾーがしたのようにガッツを溜める必要もないテレポート。
追うなどと考えることすら無駄な隔絶した能力。
残された者はそれでも絶望したりはしなかった。

「俺達は負けない! 必ずスエゾーの遺志を継ぎお前達を倒す!」

先程まで長門が居た空間を睨みつつ晶は新たに宣言する。
その為には悲しみに暮れている訳にいかない。ビデオのチェック、リナ達との情報交換を済ませなければいけない。
それともう一つ気になった。

「ところで雨蜘蛛さん、最後のあれは?」
「あ~あれはカマを掛けたのさ。連中の狙いが何処に有るのか知りたくてね~」

つまりは長門或いはいるかもしれない黒幕が望んでいるのは過程と結果のどちらにあるのか、それを雨蜘蛛はあのような形で探ったという訳だ。
どっちともとれる反応だったが雨蜘蛛には一つ解った事があった。

「おぢさんの勘じゃこいつは遊びの類じゃないな~、連中は研究か何かちゃんとした目的が有るんじゃねえのか?」
「研究……ですか? それでも俺達から見れば遊びと変わりありません!」
「まあ研究ってのは例えだわな、とにかくお嬢ちゃんがデカい流れに揉まれているっつーのは確かだ」

それ以上勘だけを頼りに語っても何も得られない、結局ここで話は終わる。
二人の男と支給品の小動物は再びパソコンの元へ向かい出す。

騒ぎの間に時計の針は大分進んだ、チャットの再開も迫っている。
それでも費やされた時間は無駄ではなかった、仲間が身体を張って浮かび上がらせてくれた手掛かりを彼らは得た。
遠くの仲間に伝えれば新たな見解を得られるかもしれない、そうなればスエゾーの命が多くの命を救う事に繋がるのだ。

「小トトロ、まだ休んでなきゃ駄目じゃないか」

まるでスエゾーが乗り移ったように元気良くパソコンの前に飛び出す小トトロ。
彼を気遣いながら他のトトロにも会ってみたいと晶は思う。

「ひょっとしてスエゾーはお前の中に生きているのかもしれないな……」

なんとなくそんな言葉が口に出る。
すると理解したのか小トトロがキュウ~と鳴いた。
その声が友を失ったばかりの少年を癒す。


―――お前とはまだ一緒のままだ、スエゾー








【スエゾー@モンスターファーム~円盤石の秘密~ 死亡確認】
【残り25人】



【H-8 博物館/一日目・夜】


【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
     ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×3、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:パソコンからリングの動画を調べて、19時にドロロ達と情報交換する。
3:晶を利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)。出発は22時。
4:22時までは博物館で時間を潰す。
5:晶の怒りを上手く主催者側に向ける事で、殺し合いの打開の一手を模索する。
6:水野灌太と決着をつけたい。
7:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
8:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
9:キョンを利用する。
10:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。
11:ガイバーに興味がある



【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
 索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
 草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
 もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。
※『主催者は首輪の作動に積極的ではない』と仮説を立てました。
※パソコンの映像が何処まで進んだのかは次の方にお任せします。





【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(中)、深い悲しみと決意
【持ち物】 首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、デイパック(支給品一式) スエゾーの円盤石、スエゾーの首輪
      手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある) 、小トトロ(ダメージ中)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:スエゾー…お前の気持ちは俺が受け継ぐ!!
2:パソコンからリングの動画を調べて、19時にドロロと情報交換。
3:22時に博物館を出発し、雨蜘蛛に同行する?
4:雨蜘蛛を受け入れて仲間にしたいが……
5:もっと頭を使ったり用心深くなったりしないと……
6:巻島のような非情さがほしい……?
7:ハムを探して助け出す。
8:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
9:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
10:巻き込まれた人たちを守る。


【備考】
※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
  以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。
※雨蜘蛛から『主催者は首輪の作動に積極的ではない』という仮説を聞きました。
※小トトロにスエゾーと融合した後遺症や影響が残っているかどうかは次の方にお任せします。





時系列順で読む

Back:罪と罰 Next:contradiction

投下順で読む

Back:罪と罰 Next:contradiction

罪と罰 深町晶 寸善尺魔~憎魔れっ子が世に蔓延る(中編)~
雨蜘蛛
スエゾー GAME OVER
長門有紀 寸善尺魔~善と悪の狭間、あるいは慮外にて~






| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー