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さらば愛しき中トトロ!! の巻 ◆YsjGn8smIk




「レイジングハート」

スバルは杖を『レイジングハート・エクセリオン』を前方へと突き出す。
優秀なデバイスはそれだけでこちらの意を汲み取り自動的に魔法を構築・発動させる。

『Protection.』

機械音と共に突き出した杖の先に正三角形の魔方陣が浮かび上がる。
そしてその次の瞬間―――杖の先には円形の青い障壁、防御用バリアが発生していた。
それを見てスバルはにっと笑う。

「うん。いい感じだね」
『後すこし微調整をすればオートガードも可能ですが、設定しますか?』
「お願い。それじゃあ次は―――」

そこでスバルは言葉を止める。
膝の上で寝ていたもふもふが身じろぎしながら起き上がろうとしていたからだ。

「あ、ごめんね中トトロ。起こしちゃった?」
「『ううん、スバルのせいじゃないよ』」

もふもふ―――ふんわりとした体毛のその獣、中トトロはプラカードを掲げてそう告げてくる。
ひざの上からそのもふもふした頭をあげ、ゆっくりと立ち上がると不思議そうに尋ねてきた。

「『何をやってたの?』」
「んー、戦闘準備って所かな……」

頬をかきながら、スバルは答える。
中トトロが目覚めるまで、ぼーっと休息している気にもなれず
この一時間、スバルとレイジングハートは式が違うスバルの魔法を効率よく使えるようにじっくりと調整をしていた。
中トトロをひざの上に乗せて他にやれる事がなかったとも言うが。
ともあれ仕上げは上々。戦闘力は大幅に上昇したといえた。
それを聞いて中トトロは表情を翳らせる。

「『戦闘……また戦うんだね』」
「うん、必要なことだから」

ぎゅっと拳を握り締め、スバルは答える。
中トトロは目を細めて続ける。

「『君には守りたい人がいるんだね』」
「たくさんいるよ。……だから教えて欲しいんだ。あなたが知ってる事を」

だから主催者側の事情を教えてほしいと言葉に込めて言った。
それを察したのかこちらの目をじっと見ながら中トトロは……ためらうようにおずおずとプラカードを上げる。

「『少し……考えさせて』」
「わかった」

間髪をいれずスバルは了承する。

「『いいの?』」
「そう簡単に言えない事なんだよね? だから、教えてくれる気になったら教えて」
「『ありがとう、スバルはいい人だね』」
「え、いや……そう言われるとちょっと照れちゃうかな。
 こ、こほん。それでちょっと調べたいところがあるんだけど……中トトロ、歩ける?」
「『まだちょっと痛い、かな』」
「じゃあさ……このディパックに入って。私が運んであげる」

そういってスバルは中トトロを抱き上げディパックへと入れた。
顔だけ出した中トトロ入りのそれを背負いスバルは坑道へと足を進める。

「『何処へ行くの?』」
「この採掘場で何が取れるのか、調べようと思ってるんだ」

その言葉にレイジングハートが口を挟む。

『スバル、あと一時間半ほどで約束の十二時ですが』
「え? も、もうそんな時間!?」
『はい』

スバルは頭を抱える。
……まったく気付かなかった。
今から全力で走れば間に合うだろうかと考えて、すぐにその案を否定する。
セインたちと待ち合わせをしているホテルへは距離的に全力で走ったとしても二時間はかかる。
しかも森の中を全力で走るというのは敵に見つけてくれと言っているようなものだ。
どちらにしても約束の時間には間に合わない上、全力で走るリスクはかなり高い。
時間に遅れる事に多少の躊躇はあったが、スバルは決断した。

「約束には少し遅れちゃうけど、この坑道を軽く調べて山小屋、ホテルって順で歩いて行こうと思う。
 それに中トトロも怪我をしているしね。全力疾走して揺らしたりしたら怪我が悪化するかもしれないしね」
『わかりました。では坑道を調べるのですね?』
「うん、そうなるかな」
「『洞窟に入るの?』」
「中トトロは暗いの平気?」
「『夜目が利くから大丈夫』」

そんな事を話しているうちに坑道の前へとたどり着いた。
地下へと続くその通路は意外と広く、重機が通れるぐらいの幅と高さがあり閉塞感はそれほどなかった。
ただし天井の照明をつけるスイッチが見つからず、通路の奥は闇に包まれている。
ごくりとつばを飲み、スバルは用意していおいた零式ヘルメットをかぶり暗視装置を起動する。

「……意外と広いね」
『かなり大規模な採掘が行われていたのだと推測されます』
「何を掘っていたかわかる?」
『情報が不足しています』
「そっか。とりあえず奥へ行ってみよう。何か手がかりがあるかもしれないしね」

そういいながらスバルは奥へと進む。
そして暗い洞窟を数十分ほど潜った時だ。
ずっと沈黙していた中トトロが逡巡したようにゆっくりとプラカードをあげたのは。

「『あの方たち……僕の雇い主には逆らわない方がいいよ』」
「……理由を聞かせてもらえる?」
「『彼らは君たちを一瞬でLCLのスープへと変える事が出来るんだ、理由はそれで十分だと思う』」
「LCLって、もしかして最初に殺されたあの子みたいに溶けるってこと?」

スープになるのは流石に嫌だな、と思いながらスバルは先を促す。

「『A.T.フィールド。心の壁を、自分を壊され……形が保てなくなる。それはある意味死よりも恐ろしい事』」
「例えそうなったとしても、中トトロ。私は逆らうよ」
「『逆らったせいでLCLのスープになるとしても?』」
「うん、そうなる可能性が高くても私はこんな殺し合い、絶対に許せないから。だから逆らう。
 中トトロ、私を信じてくれないかな。あなた達のこと―――」

そこまで言って背負っている中トトロが震えている事に気がつく。

「中トトロ?」

訝しげに尋ねるが中トトロはある一点を見つめ震え続ける。
何かあったのかと思い視線をそちらへと向ける。
と。
十数メートルほど先に一人の少女が立っていた。

「お、お前は……!」

スバルの口から怒りが漏れる。
立っていたのは無表情な顔をした闇色の瞳の少女。
中トトロのように首輪をしていないその短い髪の少女の名前をスバルは知っていた。

「長門有希っ……!」

殺し合いをさせるというとんでもないゲーム。
それを開催した主催者の片割れ、その少女が今スバルの目の前にいた。
とっさにスバルは拳を握って、腰を落とし完全な戦闘態勢を作る。
しかし長門はそんなスバルを気にした様子もなく静かに口を開く。

「迎えに来た」

ぼそりと、平坦な声がそう告げる。

「迎え……?」

思わず反芻するが何のことか分からない。
しかしそれで分かった者もいる。
中トトロだ。
すたっと、スバルの背中からもふもふっとした体が離れる。

「中トトロ?」
「『スバル、ありがとう。ここまでみたいだ』」
「な、何言ってるの!」
「『僕は……使者だから』」
「使者?」
「『闘盤の上の秩序を守り、惨劇を記録する為に送り込まれたケモノの使者、それが僕だ』」
「な、何を言ってるのか判らないよ!」

聞き返すがそれには答えず、中トトロは長門の前へと足を進める。
だが、すれ違うときにスバルは確かに見た。その体が震えている事を。
とっさにその行く手を遮る。

「駄目だよ」
「『スバル?』」
「行っちゃ駄目だ、中トトロ!」

ざっ、と中トトロをかばうように長門との間に体を割り込ませる。

「邪魔をしないで」

長門が口を開くがスバルに退く気はなかった。

「あなたもなんでこんな事をしたの? 死んだんだ、たくさん人が死んだんだよ!」
「そう」
「そうって……なんとも思わないの! あなたが―――」
「とても面白い戦い」

ぐにゃりとスバルの視界が歪む。

「え……おも、面白い?」
「そう。……すごくユニーク」

スバルには長門が何を言っているのか理解できなかった。

(フェイトさんや中尉の命がけの戦いを……面白い?)

フェイトさんをお母さんのように慕っているエリオとキャロの二人を思い出す。
あの子達がどんなに悲しむか、スバルには想像すら出来なかった。
全ては目の前に居る少女のせいだというのに。
面白い……?
ギリッと歯が鳴る。
ゆっくりと、本当にゆっくりと言葉が頭に染み込んでいく。

「……けるな」

ユニーク……?
知らず拳に力が入る。
つまり彼女は楽しんでいる、と言っているのだ。
この殺し合いを見て。

「ふざ……けるな!!」

理解した瞬間、握り締めていた拳で殴りかかっていた。
「状況をしっかりと把握しろ」
脳裏に中尉の忠告が蘇る。この行動は無謀だと頭の冷静な部分もいっている。
だけどそう忠告してくれた人は、導いてくれた人は―――もういない。
それも全ては目の前の少女のせいで。
だというのに……!

「フェイトさんを……ガルル中尉を返せえええええええええええええええ!!」

感情のまま放った拳を長門はまるで高速移動魔法を使ったかのような速度で回避する。
そしてこちらを見もせず中トトロに冷酷なほど静かな口調で問いかけた。

「あなたの仕事は何?」

中トトロはそう問われ、震えるように毛を逆立てるとぱっとプラカードを掲げた。


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 | あーーーーっと! 長門対スバルの番外乱闘が始ったーーーーっ!!    |
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   i ヽ_,._,/ ,'   
    ゛ー---―'


「そう」

それを見て何処となく満足そうに長門が口を歪める。
スバルはその顔に向かって魔力でブーストした拳を叩き込んだ。
叩き込んだのだが。

「止めた!?」

超人をも吹き飛ばしたスバルの拳が、長門の顔のギリギリのところでその細い左手に受け止められていた。
そのまま長門は虚空に向かってなにかを呟くと静かに頷いた。

「それは、とてもユニーク」
「うおおおおおおおおおおお!!」

たわ言を無視してスバルは拳を引き、長門の頭を目掛けて回し蹴りを叩き込む。
弧を描く足を長門はバックステップでかわし、そのまま5メートルほど後方へと跳躍。
それを追う様にスバルも即座に追撃するが、それは罠。
スカートをはためかせ、幽霊のように音もなく―――しかし弾丸のような速度で長門が飛んできた。


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 | おおーーーーーっと! 後ろに跳んだのは長門の罠だったーーーーー!               |
 | カウンター気味に放たれた長門のフライングニールキックがスバルに襲いかかるっ!!     |
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   i ヽ_,._,/ ,'   
    ゛ー---―'   


虚をつかれたスバルにそれを迎撃する事も避ける事も出来ない。
だが―――

『Protection.』

スバルにはそれを補ってくれるレイジングハートがいた。
レイジングハートの自動詠唱によりスバルと長門の間に青い障壁が生まれる。

ガギュッ!

長門の蹴りと障壁がぶつかり轟音が辺りに響く。
そして―――

「なっ!?」

信じられない事にスバルが吹き飛ばされていた。


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 | あーーーーっと! バリアごと吹き飛ばされたスバルが洞窟の壁に激突ーーー!     |
 | 試合開始30秒で決着がついてしまうのかーーーーっ!!                    |
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「がはっ」

ボールのように弾き飛ばされたスバルの体が壁にめり込む。
余りの衝撃に一瞬息が詰まる。
障壁とバリアジャケットのお陰で致命傷は避けられたが、今の一撃はまるでスバルの知る鉄槌の騎士の鉄槌並。
油断をしたわけではなかったが予想外の威力にスバルは驚きを隠せない。
そこにレイジングハートが警告を発す。

『アラート。天井に亀裂発生、崩落の危険性あり』
「え、くっ」

壁にぶつかった衝撃で崩れたのだろう、洞窟の天井から土砂が降り注いできた。
あわてて横に飛び退きそれを避ける―――が避けた先に残像も残さず接近した長門が拳を振り上げ待ち構えていた。

「う、なっ!」

頭を振り、辛うじてその拳はかわす。

ザッ!

脇にそれた長門の拳は後方の壁をまるで砂のように貫く。
それはとても素手だとは思えない威力だった。
迂闊に受ければバリアジャケットを着ているとはいえ骨まで砕かれかねない。

だがその程度で怯むわけにはいかなかった、怯むつもりもなかった。
次いで放たれた拳を果敢に右腕で弾き、蹴りをレイジングハートで受け止める。
右腕とレイジングハートが衝撃で軋むが気にしない。

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

攻撃の後の一瞬の隙を捉え、最高のタイミングで放った右の蹴りは今度こそ長門の顔を捉える。

「え……?」

はずだった。
それなのに脚は無残に空を切る。
長門は―――何故かスバルの横に立っていた。
しまったと思う間もなく次の瞬間にはスバルは地面に押し倒され、上にのしかかった長門が右腕を振り上げる。

(やられる!)

そう思った瞬間には拳がスバルの顔面へと打ち下ろされていた。
激痛に苦悶の声をあげながらスバルは長門を振り払おうと渾身の力を込める。
だが―――

(うご……かない……!?)

スバルの下半身をがっしりと締め付けた長門の体はまったくといっていいほど動かなかった。
戦闘機人の筋力を押さえ込む長門の力に驚愕を覚えながらも必死に振り払おうとするがどうしても振りほどけない。
その間に長門は左の腕を振り上げ、拳を打ち下ろす。

『Protection.』

しかし今度は絶妙のタイミングでレイジングハートが防御用の障壁を展開し、長門の拳打はスバルの顔面すれすれの虚空を叩く。

「ぐ、うっ!!」

だが、それでもなおスバルの体に激痛が走る。
体が地面にめり込み、背骨が軋む。
拳打の衝撃でスバルの体は地面へと埋まっていた。
痛みに呻きながらなんとか拘束を解こうとあがくが、その細い体からは信じられないほどのパワーで長門はこちらの体を締め付ける。
その力に、スバルの心に怒り以外の感情が生まれる。
恐怖。
何をやっても抗えない存在を前に、スバルは確かに恐怖していた。


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 | あーーーーっと! これはひどい、長門の残虐ファイトが炸裂ーーー!        |
 | このままスバルは終わってしまうのかーーーー!!                   |
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ガッ!ガッ!

繰り出される長門の拳にスバルはただ耐えることしかできなかった。
全力で障壁へと魔力を注いでこれだ、少しでも集中力を欠いたらあっさりと障壁を壊される予感がしていた。
そうなったら最後、ただ殴り殺されてしまうだろう。
そう考え、必死に切れそうになる集中力を保ちながら障壁を張り続けたのだが。

ミシリ!

そんなスバルをあざ笑うかのように放たれた一際強い強打により、地面にめり込んだスバルの背骨が大きく軋む。

「はっ……ガッ……」

激痛にスバルの意識が一瞬途切れ、同時に障壁も掻き消えてしまう。
それを見てか、長門はこれで最後とばかりに拳を大きく振り上げスバルの命を狩るべき拳を―――


 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | もうやめて、スバルが死んじゃうよ!    |
 |__________________|
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振り下ろさなかった。
中トトロがスバルと長門の間に飛び込んできたからだ。
長門はしばらくじっと中トトロを見つめ、虚空に向かって何かを呟くと。

「そう」

といって納得したように拳を下ろした。
がっしりと挟んでいたスバルの下半身を開放すると何事もなかったかのように立ち上がる。
そして軽く埃を払うように服を叩くとあっさりと後ろを向き、立ち去っていく。

(助かった……の?)

そう思った瞬間、瞼が急激に重くなった。
緊張の糸が切れ、視界が急激に暗くなる。
暗くなる視界内で中トトロがこちらに頭を下げる姿が目に入る。

「『さようなら、スバル』」

そう告げて長門のうしろをトテトテと走り出す中トトロ。

「いっちゃだめ……中トトロ……!」

中トトロの瞳に悲しい光を見てスバルは声を振り絞る。
だけど体は鉛のように重く……動かない。
中トトロの名前を呼びながら―――スバルの意識は闇へと落ちていった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「うっ……つう……わたし?」
『スバル、気が付きましたか?』
「……レイジング、ハート?」

レイジングハートの方を向こうと頭を上げようとするが、なかなか起き上がれなかった。
頭が重い。一体……何が?
ぼんやりとした頭はなかなか動いてくれない。
何か大事なことがあったような気がしてゆっくりとあたりを見ながら目を瞬かせる。
そして次の瞬間、唐突に全てを思い出す。

「中トトロ!」

連れて行かれた中トトロの姿を探し、重い体をなんとか起こして辺りを見回すが
二人の影すら見つけることは出来ない。

「レイジングハート、あの二人は!?」
『落ち着いてくださいスバル。貴女が気絶してからすでに数十分ほど経過しています』
「そんな……二人が何処へ行ったかは判る?」
『奥へと歩いていったのを確認しています、ただ途中で生体反応はロストしましたが』
「奥……この先だね」

ふらふらと痛む体をなんとか動かし立ち上がる。
ダメージが抜けきっていないせいか体が鉛のように重かったが、それでも動けないほどじゃない。

『警告します、スバル。追跡は推奨しません』
「なんで……?」
『主催者に逆らったら首輪が発動する、彼らが言っていた事です』
「……」
『今回は何故かそうしなかったようですが、次もそうだとは限りません』
「ごめん、それでも……中トトロを放っておけない」
『スバル……』

足をなんとか動かし、洞窟の奥を目指す。
レイジングハートもそれ以上は何も言わないでいてくれた。
スバルにも判っていた。
本当なら殴りかかった時点で中トトロのいうLCLにされていてもおかしくないという事は。
どんな気紛れかは判らないがあえて見逃された……ただそれだけの理由でいま生きているという事も。
二度目はないかもしれない。
それでもスバルは進む。
先ほどは怒りのためだったが、今は違う。
中トトロの哀しそうな目を見てしまったから。
放っておけないから。
心の中で渦巻く怒りも恐怖も痛みも、全てを後回しにして中トトロを助けるという一念だけでスバルは足を動かす。
だが―――

「レイジングハート」

彼女は足を止めデバイスに尋ねる。

『はい』
「二人は本当にこっちへ来たの?」

目の前の壁を見ながらデバイスに尋ねる。
たどり着いた先は―――行き止まりだった。
この先に道はない……だというのに二人の姿はどこにもない。

『間違いありません』

デバイスの声だけが虚ろに響き渡った。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


そこは見慣れた小部屋だった。
待機室。
地上絵のような地面に描かれた魔方陣……それが、各リングとこの部屋を繋ぐ連絡路。
僕はそれを通ってリングへと転送された。
そして僕は戻ってきた。
いや、戻ってきてしまった。

「傷を見せて」

立ち尽くす僕に隣に立っていた長門がそう言ってきた。
長門はスッと地面に膝をつき、僕の傷ついたわき腹を見る。
そしてその手が僕のわき腹に触れ―――

「これで平気」

あっという間に僕の怪我が治った。

驚きに目を開く僕。
情報制御という力のことは聞いていたけど、これほどの力とは知らなかった。
目を見開く僕をよそにそれで用が済んだとばかりに長門は僕の前からあっさりと消える。
たぶんワープという力。
とてとてと僕は定位置へと歩き出す。
再び呼ばれるまで、僕にできる事はただ出番を待つ事だけ。

目の前の闇を見つめながら僕はため息をつく。

あの方達に逆らえない。
逆らうだけ無駄だ。
でも逆らわなくてもスバルや僕の家族達は死んでいく。

こんな僕にも……彼らの為に何か出来るのだろうか?

(あれ?)

そんな事を考えている自分に僕自身が驚いた。
あの方達に逆らうなんて、無駄だと諦めていたのに。
諦めは今もある。

ただ、死ぬかも知れないのに長門に立ち向かったスバルの姿が―――僕の脳裏からどうしても離れなかった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「また、助けられなかった……」

体から力が抜ける。
いくつもの打撲傷も打ち据えられた右腕や背中も何の痛みすら感じなかった。
それどころか自分がいま立っているのか、倒れているのかすらあやふやだ。

「フェイトさん、アシュラマン、中尉……中トトロ。結局私は、誰も助けられない……」

救えなかった人たちの姿が脳裏をよぎる。

ぽつり

視界が揺らぎ、地面が何処にあるかもすらすでに分からない。
だから。

「もう、立てないよ」

全ての元凶がいた。
殺人ゲームを開催し、悲しみをばら撒いた張本人がいた。

それなのに……何も出来なかった。

掴む事すら出来ず、ただ一方的に殴られ続けた。
そんな自分にこれ以上何が出来るというのだろう……。

「立てないよ」

出来る事など―――ないのかもしれない。
そう考えた瞬間、押し殺していた悲しみがあふれ出た。

ぽつり、ぽつり

これじゃあダメだと強い自分が言っている。
でも。
どうしても。

こぼれ落ちる涙を止める事が出来なかった。



【G-7 採掘場/一日目・昼前】


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】中ダメージ、ところどころに擦り傷、軽い火傷、無力感と深い悲しみと長門への恐怖
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(小ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【持ち物】 支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(アラミド日傘・零式ヘルメット・砂漠マント)@砂ぼうず、
     ガルルの遺文、スリングショットの弾×6
【思考】
0:負けたくない……でも、もう立てないよ……。
1:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
2:山小屋を通って、人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
3:セインにわだかまり。

※参戦時期は第19話「ゆりかご」の聖王の揺り籠が起動する前です
※ガルルの遺文はケロン文字で書かれている為、ケロン人以外には読めません。
 以下の要項が書かれています。
 1:ガルルのスバルへの評価と安全性の保障
 2:ケロロ、タママ、ドロロへのスバルに対する協力要請



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採掘場のヒロイン スバル・ナカジマ 少女が見た理想
中トトロ Girl who does lesson
第一回放送  長門有紀 第二回放送






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