【暗黙のルール・完結篇】

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【 3 】  闇に漂う。再びルールはその世界へと戻ってきていた。  そしてそんなルールを待ちわびたよう、 [ おかえり~。なんともまー、最後の最後に派手にやったねぇ ]  あの声もまた彼を迎え入れた。 [ 短くも太い人生だったね。どうかな? 形はどうあれゴールを迎えた瞬間は? ]  嬉々としてそれを聞いてくる声にしかし、ルールは 答えを返せずにいた。  なぜなら―― [ どうしたの? もっと嬉しそうなさぁ、達成感みたいな顔してよ ]  自分はまだ―― [ 猿岩石だってゴールの時には泣いたんだから。あんなヤラセじゃない人生だったんだから、もっとこう感じ入る所とかあるでしょ? ]  自分はまだ、死にたくはないのだ! ――そうルールは告げた。  そんなルールの言葉に声の主も思わず面喰ったようであった。  しばし沈黙する。やがてはため息をひとつ重ねたと思うと、 [ あのさぁ、それってあまりにも都合よすぎると思わない? っていうか今までの展開も考えてみてよ ]  声はルールを諭していく。 [ いくら敵対してたからって人間一人殺しておいてさ、『ぼくの命は双葉学園が在り続ける限り、永遠にここに在る』、なんてキメ台詞までばっちり決めておいて、それでまだ生きたいだなんて――君、恥ずかしくないの? ]  砕けた口調ながらも、事の本質をえぐる辛辣な言葉がルールに掛けられる。  それを前に一度は口つぐむルール。しかし次の瞬間、 「恥ずかしいさ。醜態をさらしていることは判っている」  ルールは、『声』を出した。思わぬその展開に、今まで対話していた声の主もまた息を飲む。  しかしそんな己の変化にも気付くことなく、相手のことなどもお構いなしにルールは続ける。 「だけど、『恥ずかしい』と思える自分にぼくは成長できたんだ。今までは、ただ物事を『知ってる』だけだった。『感じる』なんて出来やしなかった。だけど今のぼくは、恥ずかしいと『感じている』。ぼくは――ぼくは、ようやく人間になれたんだ!」  飾りも衒いもない素の自分を解放した瞬間、ルールは肉体を取り戻す。 「恥を知れるようになった! 死に恐怖できるようになった! そして、友達たちともう一度会いたいと今は思っている! 生きたい――ぼくは生きたいんだ!」  ルール本人も気づいてはいない。彼が心の内を打ち明けるたび、そして己の弱さと向きうたびに、その体は徐々に強い生命力の輝きを増していることに。  そして、 「ぼくは『物』なんかじゃない! ぼくは――双葉学園・高等部三年生、エヌR・ルールだ!」  その名を叫んだ瞬間――拍手が沸き起こった。  闇一色に彩られていた世界は、見るもまばゆい光に満ちた空間へと一変する。  そんな突然の展開に慌てふためくルールをよそに、 [ 素晴らしい素晴らしい。いいキャラじゃない。このまま殺しちゃうのはもったいないよ ]  再び声が響いた。しかしそれは今までルールと対話していたものとは違った。 [ そもそも、コイツ殺すなんてこと俺達には無理でしょ? ]  さらに別の声。 [ でもコレジャナイんだよなぁ。俺の中のルールは ]  もうひとつ。  そしてそれら声達のしんがりに、 [ あーあ、やっぱり無理だったか。主要キャラの一人でも死ねば、後の展開に緊張感が生まれると思ったんだけどな―。せっかく『俺Tueeee!』な敵キャラも用意したのに ]  つい先ほどまでルールの相手をしていた声のため息が聞こえた。 [ ほんじゃまぁ、そう言う訳だから、キミ復活ね。これからもよろしく頼むよ ]  あまりにもあっさりとルールはそれを約束される。 [ やったなルール。今度は俺がお前に舞台を用意してやるぞ ] [ でもちゃんと設定は守ってくれよ?  ] [ ネタ投下だけで感想求めるのも勘弁してね ] [ そろそろ次のお題でも考えるか ]  ルール一人を置いてきぼりにして話を進めてしまう声達の言葉にただルールは戸惑うばかりである。  そんな中、やがてルールは自分の体に重みを感じた。 [ お? そろそろ宴もたけなわか。じゃ、これからもがんばってよ ]  次いで寒さと痛みとが体に戻る――五感が正常に機能し始めているその様子に、ルールは無意識ながらもこの世界の終わりを感じていた。 「ま、待ってほしい。あなた達は……一体何者なんだ? もしかしてあなた達が、『神』という存在なのか?」 [ そうだ――ともいえるし、はたまた全く違うものともいえる ]  この時、初めて声は人間味を持った重さを言葉に含ませた。 [ 俺達はお前らとその世界を生みだした者であり、試練を与える者であり、そして守り育む者でもある――だけど、神とはまた微妙に違うかな ] 「そうか。……でも、ぼくとこの世界を生み出してくれた誰かなんだろ?」 [ 俺はお前の親御さんじゃないけどね ] 「それでもぼくをこの世界に産み出してくれたこと、そしてあの仲間達を巡り合わせてくれた、全ての『あなた達』に感謝するよ」  ルールはひとつ息を飲んで、次なる言葉を胸に溜める。  そして大きく天を仰ぎ、見ることの叶わぬそれら声達へ微笑んだかと思うと―― 「ありがとう。ぼくを、生み出してくれて」  そんな感謝の言葉を送った。  それが最後であった。  次の瞬間――ルールの知感する全ての世界と、そして意識とが失われた。  その最後の瞬間にふとルールは思う。  もしこれが夢ならば、きっと目が覚めた時にはここで会話したことの全てを忘れてしまうことだろう――  しかしこれだけは忘れまい――  自分の命のその意味を――  仲間達を、世界を、そしてここに居るみんなを自分が『繋げて』いるという責任感と喜びを――。    ルールは強く愛おしく、そんな自分の命を抱きしめるのであった。 【 4 】  かの事件からすでに二日――本日双葉学園においては、とある人物の葬儀がしめやかに執り行われていた。  高等学部の体育館を貸し切られて行われたその葬儀は誰でもない『エヌR・ルール』を弔う為のものであった。  事件があったあの日――紫隠とルールの能力を介して学園に降り注がれた光の粒子は傷ついた者達を癒すと同時、そこにて行われた戦いの一部始終を学園にいた全ての生徒達へと伝えていた。だからこそ本日の葬儀には小中高・大学――さらには教員や用務員もはじめとした、ほぼ全員の学園関係者が集まる運びとなった。 『ルール様。ご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申しあげますとともに、衷心より哀悼の意を表します――』  表彰台の上には季節の菊花に彩られた巨大なルールの遺影パネルと、そしてその下に設けられた献花台がひとつ。その前に立ち、醒徒会副会長である水分は彼・ルールへの弔文を読み上げていた。  それを前に誰もが顔を伏せていた。ルールがその一命を賭して学園を救ってくれたことを知るからこそ――そしてそれに感謝するからこそ、その悲しみは夏の雲のよう胸に込み上がり、まともに彼の遺影を見つめることを叶わなくさせていた。  そしてそれは醒徒会役員達も然りである。――否、より密に関係を築いてきていた醒徒会にとって、彼の喪失は家族の死に匹敵するほどの深い悲しみと絶望をもたらせていたのだ。  故に醒徒会一同はルールの親族席に着席することを選び、なおかつ醒徒会会長である藤神門御鈴のその隣の席はあえて『空席』として、ルールの存在を自分達の中から消してしまわぬよう努めるのであった。 「……エヌルン……エヌルン……ッ――」  そんな醒徒会席の末席にて葬儀に参列してた紫隠は遂にこらえ切れなくなり声を押し殺して嗚咽を漏らす。握りしめ、額に当てた両手の中には、あの日ルールから受け取ったままのサングラスが握られていた。  そんな紫隠の姿を瞳の端で確認し、会長であるところの御鈴もまた必死に泣きだしたい衝動を胸の中に押し込める。 ――私だけはこらえなければ……! そうでなければ、お前に合わせる顔もないというもだ……ルール。  大きく鼻をすすり、込み上がる涙を堪える。こんな時だからこそ自分は強く在らねばならないのだ。そうでもなければルールもまた浮かばれまい。  そんな御鈴の隣に…… 「――すまない、遅刻した」  そう声を潜め謝りながらに、何者かが着席する。 「……ばか者ッ。この大切な日に遅刻してくるものがあるか。昨日アレほど今日の段取りを説明したじゃろ」  一方で御鈴もまた、式の進行を妨げぬよう隣の遅刻者を窘める。悲しみを我慢している分、若干感情的なってしまっていた。 「昨日は欠席してたらしく、故に今日のこれも判らなかったんだ。――しかしこれは、一体何をしているんだ?」 「何をって、正面玄関には立て看板も出して告知してあったろうに。今日はルールの葬、ぎ……――」  遂には隣の不埒者へ一喝を与えるべく顔を上げる御鈴であったがしかし――そんな『隣人』を確認した瞬間、御鈴は大きく目をむいて固まった。  なぜならばそこには―― 「あの表彰台の上に大きく飾られているのはぼくの写真じゃないか? 本当に何をしているんだ、この集まりは……?」  そこに居た者は―― 「るッ……ルールがおる――――――ッ!!」  御鈴の絶叫に参列者一同はその顔を上げる。  そして全校生徒の視線が集まるその先には、深い蒼の黒髪を襟足で丸くまとめた痩躯の青年が一人――誰でもない『エヌR・ルール』がそこにはいた。  次の瞬間、 『ぎ、ぎゃあああああああああああああああああッッ!!』  醒徒会役員一同は、残らずパイプ椅子から地にずり落ちて、巨漢の龍河の背後へと隠れる。 「ル、ルール! てめぇ化けて出やがったなぁッ!!」 「この通りじゃー! 成仏してくれー!!」 「な、成宮が棺桶のランクを一番低いヤツで注文したりするから怒って化けて出たんぞぉ!?」 「それを言うんだったら、参列者から香典取って醒徒会室の新築に当てようって言ってた早瀬だって大概だろ!」  この状況に対して皆が混乱の極みにあった。あの水分でさえもが遠く表彰台のそこから必死に九字を切り、悪霊(ルール)を自分に近付けさせまいと躍起になっている。  しかしそんな中――ただひとりルールに歩み寄る者がいた。  その人物こそは、 「エヌルン……本当に、エヌルンなの?」  誰でもない紫隠であった。 「ぼく以外に誰がいる? 笑えないジョークは嫌いだ」 「本当? 本当に、幽霊とかじゃなくて?」 「足も付いている。なんなら触ってみろ」  言いながら屈みこんで、ルールは紫隠の目線の高さまで顔を下ろす。  そんなルールの目元に、紫隠は今日までずっと握りしめていた彼のサングラスを装着させた。  そしてそこに、紛う方ないルールを確認すると―― 「エヌルーン!!」 「むぅ。っとと……ただいま」  紫隠は両腕を広げ、目の前のルールに抱きしめていた。今度こそしっかりと、紫隠はルールをこの両腕の中に抱きしめることが出来たのだ。  そんな紫隠とルールを前に、次第に他の醒徒会役員一同も冷静さを取り戻していく。そして本当にそこに ルールがいることと、さらには一拍子遅れてきた喜びとが脳とリンクした瞬間―― 「か……帰ってきやがったー! コノヤロー!!」 「ん? って、うおわぁ!?」  龍河を先頭に、一同もまたルールへと抱きつくのであった。 「心配させやがってこの野郎! どうしてもっと早く出てこねーんだよ、コイツは」 「まったくじゃ! どれほどこの二日間、私達が悲しだか判っておるのか!」 「それに関しては申し訳ない。だけどぼく自身、目覚めたのは今朝だったんだ」  ひとしきり抱擁を交わし、改めてルールの話に耳を傾ける一同。 「一体どういうことじゃ?」 「それがぼくにもさっぱりで……。気がついたら――いや、目が覚めたらいつもと同じように自分の部屋で寝ていた。ご丁寧にパジャマまで着て」  そのあまりにいつもと変わらない日常の再生に、ルールは全ての出来事は夢ではなかったのではないかと疑ったほどである。それでもしかし、携帯電話に残される仲間達からの悲哀な留守番メッセージやメールなどを確認して、ようやく全てが事実であったことを確認した。 「気付けばあの戦いから二日が過ぎていたようだし、とりあえずは情報を集めようと登校したんだ」  そう説明をするルールではあったが、 「お、おい押すなお前ら! ちょっと待ってくれ!!」 「落ち着け! 落ち着くのじゃ!! 今、説明をするから」  再び視線を仲間達に戻せば、そこにはルールに触れようと詰めかける生徒達を必死に押し留め、そして整理する仲間達の姿が見えた。 「ルールの金運上昇がハンパじゃねぇ。これは……商売が出来る! 早瀬、グッズ発注だ。『秋のルール祭り』いくぞ!」 「……お前、まだ懲りてねぇのかよ?」  さらには別の盛り上がりも見せ始めている成宮を見るに至ってはもはや、腰を据えて話の出来るような状態ではなくなっているように思えた。  やがて遂には醒徒会のメンバー達でも抑えきれなくなり、龍河のガードすら弾いて全校生徒達はルールへとたどり着いた。 『良く帰ってきたな!』―― 『ありがとう、本当にありがとう!』―― 『ルールさん、大好きです!』――  迎えられ祝福され、その中で存分にもみくちゃにされて――遂には掲げ上げられて、そのまま胴上げされるような形で生徒達の波の中を泳がされていくルール。  斯様にして興奮の坩堝と化した会場には秩序や調和というものは全く感じられない。  それこそはもっともルールが嫌うものであった。……忌避すべきものであったはずだか――『ありがとう』の気持ちが満ちる多くの生徒達の感謝の声と、そしてその想いとを一身に受け止めて、らしくもなくルールはこの混沌の場に居心地の良さを感じていてしまった。 ――これもまた、一興か。  またしてもらしくないことを考え、そしてそんな自分に苦笑いをひとつ。  しかしこれは喜びでもあるのだ。  自分の命が在ったということ、全ての生徒達のそれを守れたこと――そして今のこの平和を自分の行動が今日に繋げられたということ。 「――ありがとう」  その全てに、ルールもまた感謝の言葉を口にする。  愛しき仲間達、守るべき世界、そしてこんな自分を生み出してくれた者達――それらすべての存在に、『ありがとう』を。  これこそが双葉学園のルール  秩序と平和を、繋ぐもの。                  了 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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