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小気味いいお気に入りの目覚まし時計の音で目を覚ました私は、すくっとベッドから起き上り窓を開く。
春の温かな空気が流れ込み、小鳥のさえずりが私の耳をくすぐる。
なんて爽やかな朝なんだろう。昨日の大雨が嘘のように上がり、雲ひとつ無いからりとした天気になっていた。
そうして空に輝く太陽は、まるで希望の象徴のようだった。
恋は人生をバラ色に変えると昔の人は言った。
それは本当で、私はそれを自分の身を持って実感した。私は今、ある人に恋をしている。自分の気持ちに気付いた時、いままでなんでもなかった世界ががらりと色を変え、目に映る総てが色鮮やかに見えるようになっていた。
毎日が楽しい。
あの人がいる学校へ行くのが楽しみ。
いつもは朝ごはんを食べるのもおっくうで、適当にパンを牛乳で流し込んで登校するのだけれど、彼に恋をしてからは朝も気分がよく、食欲もわく。だからと言って食べ過ぎて太ってしまっては彼に嫌われてしまうかもしれない。そこは気をつけなきゃいけないわ。
今日の朝食はご飯に漬物、納豆に味噌汁だ。おばさん臭いとか言われるかもしれないけど、これが結構おいしいし健康にもいい。
もくもくと自分で作った朝食を食べながら、私は彼のことを考える。
彼は和食派だろうか、洋食派なんだろうか。そんな些細なことすらも気になってしまう。もし彼が洋食派なら、もっと料理をお勉強しなくちゃ。
彼のことを想うだけで頬が紅潮し、頭がぽーっとしてしまう。自然と箸の進みも遅くなる。
『八時になりました朝のニュースです』
そんなテレビから聞こえる声にはっとし、私は慌ててご飯をかきこむ。女の子の朝は忙しい。髪も整えて先生にばれない程度にお化粧も少ししないといけない。彼の好みはわからないけど、それでも身なりは最低限整えたい。
私は鏡の前に座り、自分の顔と格闘を始めた。
教科書とその他必要なものを鞄に詰め込み、なんとか準備を整えた私は、軽くスキップをしながら通学路を歩く。昨日の雨の影響か、ところどころに水溜まりがあり、たまにそれを踏んでしまいソックスに泥が被ってしまう。いつもなら叫んで絶望を表現するところだけど、今の私はそんなことでは動じない。学校に着いたら穿きかえればいいんだ。
だけど、そんな幸せな気分だったのに、“それ”を見た瞬間に心が凍ってしまった。
少し離れたところに“あの人”がいた。
それだけならむしろ私の心は躍り狂っていただろう。だけど彼の傍には他の女の子がいる。
それは隣のクラスの女の子で彼は元気よく彼女の名前を呼んで彼女を呼びとめていた。一体どんな話をしているかはここからではわからない。
だけど私は気が気でなかった。もしかしたらあの女の子は彼の彼氏じゃないだろうか、そうでなくても彼が好きな女の子ではないかと考え、足が震えてその場から動けなくなってしまう。
だけどそれは私の思い込みだったみたいだった。
彼はすぐに彼女と別れ、先に行ってしまう。よかった、ただ挨拶をしただけみたい。
ほっと胸を撫で下ろした私は、彼に気付かれないようにそっと後ろをついていく。
そこで私は彼の素敵なところをたくさん見た。
彼は財布を忘れたクラスメイトにお金を貸したり、車に轢かれそうになった猫を助けたりしている。それを見た私はますます彼のことが好きになってしまった。
今日はなんていい日だろう。彼のこんな素敵なところが見られるなんて、きっとこれは運命なんだわ。
やがて学校につき、授業が始まる。彼は私が後ろからつけていたことに気付かなかったようで、眠たいのかのんびりと欠伸をしている。
やがて眠気に耐えられなくなった彼は机に突っ伏し眠り始めてしまう。私はそれを見てどうしようかと思う。起こすべきか、やめておくべきか。
私があわあわと手をひっこめたり出したりしていると、先生が彼を起こして叱っていた。
ああ、やっぱり起した方がよかったかな。
私が起さなかったせいで、彼は先生に問題を解けと言われていた。それは少し難しく、私にはわからなかった。私は心配で彼を見つめる。だけど彼は難なくその問題の答えを述べていた。まるで最初から答えを知っているかのように、考える時間も無いくらいの速さで出された問いを全部答えていく。
すごい。それに対して呆れながらも困惑する先生に同情すらしてしまうほどだ。
優しく正義感もあり、頭もいい彼のことを私はますます好きになっていってしまう。
その放課後、彼は教室から姿を消した。
どこかへ行ったのだろうかとあたりを見回してみるがどこにもいない。
寮に帰る前に一目だけ、彼の顔をもう一度だけ見たいと思っていた。まるでそんなのストーカーみたいだと理性ではわかっていても、身体が勝手に動いてしまう。
私は凄く広い学園の敷地を探し回った。
でも彼はどこにもいない。もう帰ってしまったのだろうか。
日が沈みかけ、金色の空が世界を覆っていく。諦めかけ、もう自分も帰ろうとした時、彼の声がかすかに聞こえた。
それは怒鳴り声だった。
普段聞く事のない、焦りと怒りが混じったようなそんな声。
どこからそんな声が聞こえてくるのだろう、私は驚きながらその声の居場所を探した。すると校舎裏に続く角から、黒い影が飛び出てきた。
私は目を疑う。
それはとても滑稽で、おかしな姿をしたものだ。
文字通りの道化、黒マントをなびかせて走っている白化粧のピエロだった。
ピエロは横目で私を見ながらもそのまま通り過ぎて行ってしまう。一体何があったのだろうかと角からそっと覗くと、肩を落として暗い顔をしている彼の顔が見える。
ズキリ、と私の心に痛みが走る。
一体彼とあの変な格好の人の間に何があったんだろう。彼の悲しげな顔を見ると、自分も同じように悲しくなる。
いたたまれなくなった私は、彼に気付かれる前にそこを去った。
寮の自室に籠り、私は彼のことをずっと考えていた。
彼の力になれないだろうか。彼の悩みをどうにかできないだろうか。
彼が何に悩んでいるのかはわからない。だけどそれを支えてあげたいと私は思う。でもきっと彼は私のことなんてなんとも思っていないだろう。もしかしたらろくに名前も覚えられてないかもしれない。
そうだ、まずは彼に私の想いを伝えよう。
告白だ。
あなたが好きです――そう伝えるんだ。
私はカレンダーに赤ペンで文字を書き込む。それは私の決意を書き記したものだ。
『五月三日(金)告白決行!』
よし、これでいい。絶対に“明日”告白する。
ふられる可能性が高くても、私の想いを絶対伝えるんだ。
そう、明日、明日だ。
私は明日に備え早めに布団に入る。目にクマをつけたまま告白したんじゃ笑われちゃうもの。
でも明日のことを想うと胸が高鳴り心臓が破けそうになる。
告白するのは怖い。だけど私は明日がやってくるのが楽しみだった。
よくも悪くも、私の恋は明日ですべてが変わる。
私の大好きなあの人――比留間《ひるま》玲《れい》くん。彼は今どんな想いで眠りについているんだろう。
私と彼の明日は何色だろうか。
幸せな明日を夢見て、私は眠りについた。
――――(つづかないしおわらない)
勝手ながら[[【今日を夢見て】]]とリンクする話を書かせていただきました。
ありがとうございました。
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小気味いいお気に入りの目覚まし時計の音で目を覚ました私は、すくっとベッドから起き上り窓を開く。
春の温かな空気が流れ込み、小鳥のさえずりが私の耳をくすぐる。
なんて爽やかな朝なんだろう。昨日の大雨が嘘のように上がり、雲ひとつ無いからりとした天気になっていた。
そうして空に輝く太陽は、まるで希望の象徴のようだった。
恋は人生をバラ色に変えると昔の人は言った。
それは本当で、私はそれを自分の身を持って実感した。私は今、ある人に恋をしている。自分の気持ちに気付いた時、いままでなんでもなかった世界ががらりと色を変え、目に映る総てが色鮮やかに見えるようになっていた。
毎日が楽しい。
あの人がいる学校へ行くのが楽しみ。
いつもは朝ごはんを食べるのもおっくうで、適当にパンを牛乳で流し込んで登校するのだけれど、彼に恋をしてからは朝も気分がよく、食欲もわく。だからと言って食べ過ぎて太ってしまっては彼に嫌われてしまうかもしれない。そこは気をつけなきゃいけないわ。
今日の朝食はご飯に漬物、納豆に味噌汁だ。おばさん臭いとか言われるかもしれないけど、これが結構おいしいし健康にもいい。
もくもくと自分で作った朝食を食べながら、私は彼のことを考える。
彼は和食派だろうか、洋食派なんだろうか。そんな些細なことすらも気になってしまう。もし彼が洋食派なら、もっと料理をお勉強しなくちゃ。
彼のことを想うだけで頬が紅潮し、頭がぽーっとしてしまう。自然と箸の進みも遅くなる。
『八時になりました朝のニュースです』
そんなテレビから聞こえる声にはっとし、私は慌ててご飯をかきこむ。女の子の朝は忙しい。髪も整えて先生にばれない程度にお化粧も少ししないといけない。彼の好みはわからないけど、それでも身なりは最低限整えたい。
私は鏡の前に座り、自分の顔と格闘を始めた。
教科書とその他必要なものを鞄に詰め込み、なんとか準備を整えた私は、軽くスキップをしながら通学路を歩く。昨日の雨の影響か、ところどころに水溜まりがあり、たまにそれを踏んでしまいソックスに泥が被ってしまう。いつもなら叫んで絶望を表現するところだけど、今の私はそんなことでは動じない。学校に着いたら穿きかえればいいんだ。
だけど、そんな幸せな気分だったのに、“それ”を見た瞬間に心が凍ってしまった。
少し離れたところに“あの人”がいた。
それだけならむしろ私の心は躍り狂っていただろう。だけど彼の傍には他の女の子がいる。
それは隣のクラスの女の子で彼は元気よく彼女の名前を呼んで彼女を呼びとめていた。一体どんな話をしているかはここからではわからない。
だけど私は気が気でなかった。もしかしたらあの女の子は彼の彼氏じゃないだろうか、そうでなくても彼が好きな女の子ではないかと考え、足が震えてその場から動けなくなってしまう。
だけどそれは私の思い込みだったみたいだった。
彼はすぐに彼女と別れ、先に行ってしまう。よかった、ただ挨拶をしただけみたい。
ほっと胸を撫で下ろした私は、彼に気付かれないようにそっと後ろをついていく。
そこで私は彼の素敵なところをたくさん見た。
彼は財布を忘れたクラスメイトにお金を貸したり、車に轢かれそうになった猫を助けたりしている。それを見た私はますます彼のことが好きになってしまった。
今日はなんていい日だろう。彼のこんな素敵なところが見られるなんて、きっとこれは運命なんだわ。
やがて学校につき、授業が始まる。彼は私が後ろからつけていたことに気付かなかったようで、眠たいのかのんびりと欠伸をしている。
やがて眠気に耐えられなくなった彼は机に突っ伏し眠り始めてしまう。私はそれを見てどうしようかと思う。起こすべきか、やめておくべきか。
私があわあわと手をひっこめたり出したりしていると、先生が彼を起こして叱っていた。
ああ、やっぱり起した方がよかったかな。
私が起さなかったせいで、彼は先生に問題を解けと言われていた。それは少し難しく、私にはわからなかった。私は心配で彼を見つめる。だけど彼は難なくその問題の答えを述べていた。まるで最初から答えを知っているかのように、考える時間も無いくらいの速さで出された問いを全部答えていく。
すごい。それに対して呆れながらも困惑する先生に同情すらしてしまうほどだ。
優しく正義感もあり、頭もいい彼のことを私はますます好きになっていってしまう。
その放課後、彼は教室から姿を消した。
どこかへ行ったのだろうかとあたりを見回してみるがどこにもいない。
寮に帰る前に一目だけ、彼の顔をもう一度だけ見たいと思っていた。まるでそんなのストーカーみたいだと理性ではわかっていても、身体が勝手に動いてしまう。
私は凄く広い学園の敷地を探し回った。
でも彼はどこにもいない。もう帰ってしまったのだろうか。
日が沈みかけ、金色の空が世界を覆っていく。諦めかけ、もう自分も帰ろうとした時、彼の声がかすかに聞こえた。
それは怒鳴り声だった。
普段聞く事のない、焦りと怒りが混じったようなそんな声。
どこからそんな声が聞こえてくるのだろう、私は驚きながらその声の居場所を探した。すると校舎裏に続く角から、黒い影が飛び出てきた。
私は目を疑う。
それはとても滑稽で、おかしな姿をしたものだ。
文字通りの道化、黒マントをなびかせて走っている白化粧のピエロだった。
ピエロは横目で私を見ながらもそのまま通り過ぎて行ってしまう。一体何があったのだろうかと角からそっと覗くと、肩を落として暗い顔をしている彼の顔が見える。
ズキリ、と私の心に痛みが走る。
一体彼とあの変な格好の人の間に何があったんだろう。彼の悲しげな顔を見ると、自分も同じように悲しくなる。
いたたまれなくなった私は、彼に気付かれる前にそこを去った。
寮の自室に籠り、私は彼のことをずっと考えていた。
彼の力になれないだろうか。彼の悩みをどうにかできないだろうか。
彼が何に悩んでいるのかはわからない。だけどそれを支えてあげたいと私は思う。でもきっと彼は私のことなんてなんとも思っていないだろう。もしかしたらろくに名前も覚えられてないかもしれない。
そうだ、まずは彼に私の想いを伝えよう。
告白だ。
あなたが好きです――そう伝えるんだ。
私はカレンダーに赤ペンで文字を書き込む。それは私の決意を書き記したものだ。
『五月三日(金)告白決行!』
よし、これでいい。絶対に“明日”告白する。
ふられる可能性が高くても、私の想いを絶対伝えるんだ。
そう、明日、明日だ。
私は明日に備え早めに布団に入る。目にクマをつけたまま告白したんじゃ笑われちゃうもの。
でも明日のことを想うと胸が高鳴り心臓が破けそうになる。
告白するのは怖い。だけど私は明日がやってくるのが楽しみだった。
よくも悪くも、私の恋は明日ですべてが変わる。
私の大好きなあの人――比留間《ひるま》玲《れい》くん。彼は今どんな想いで眠りについているんだろう。
私と彼の明日は何色だろうか。
幸せな明日を夢見て、私は眠りについた。
――――(つづかないしおわらない)
勝手ながら[[【今日を夢見て】]]とリンクする話を書かせていただきました。
ありがとうございました。
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