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シャイニング!
その2 山崎巡理の心情
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双葉敏明の祖父である双葉管理は、敏明の異能の危険を知るとすぐ、彼の周囲に警護の人間を手配した。
だが、敏明は自分の異能を自覚することなく平穏に成長し、小学校、中学校と何事も無く卒業していった。
いよいよ高校生となった敏明を、管理はあえて双葉学園へと進学させ、異能とラルヴァのことを自覚させることにした。
異能はいずれ開花する。一生、異能に関わらないまま生きていくと言う可能性も無くは無かったが、それに期待するのは少々楽観的だった。
問題をいつまでも先送りにするよりは、手の届く場所でしっかりと守ってやろうということだった。
高校生ともなれば、そろそろ自分の面倒も見れる歳だ。
そして、敏明は計画通り、否、計画よりも早く、入学式当日に異能を自覚し、ラルヴァと相対することになった。
山崎巡理は、双葉敏明の幼馴染だ。
幼稚園から今に至るまで続く腐れ縁。しかし、その関係は作られたものである。
敏明には、祖父によって警護の人間がついていた。
しかし、それら護衛に間近で囲まれた生活を子供に強いるのは酷だ。敏明だけでなくほかの家族だって困るし、ご近所の目もある。
そこで、同い年で幼少から異能に目覚めている子供を護衛として傍に置くことになった。
それが巡理だ。
本来であれば異能者は発見されれば、すぐさま双葉学園のような異能者を集めた施設へ入れられる。
しかし元々、巡理が双葉家と近所だった事、同い年ですでに異能を覚醒していた事など、偶然とは思えないような結びつきで、彼女に護衛が依頼される事になった。
もちろん、幼稚園児に「敏明を護衛しろ」と言ったところでまともに出来るわけが無い。
当初は彼女の両親にだけ説明がされ、巡理本人はただの同い年の友達として敏明と一緒にいることになった。唯一つ、異能に関する話をしないことだけ約束して。
護衛の依頼について詳しく聞かされたのは中学に入学するときだった。
敏明の異能によって危機が訪れたときは、近くにいるはずの別の警護と連携してこれを処理すること。
管理から「やってくれるか」と問われた巡理は二つ返事で請け負った。
「トッシーを守ればいいんでしょ? 友達なんだから当然だよ!」
長いこと一緒に過ごした二人の間には、既に十分な友情があった。
友達を守る。彼女にとってそれはお願いされるまでも無いことだった。
護衛を引き受けて三年。
結局、敏明は自分の異能を自覚することなく平穏に高校へ進むことになった。
それは巡理にとっても幸運であると同時に、一つの問題も持っていた。
実践不足。本来であれば幼少から異能に目覚めていた子供は、早い時期からそれを活用するための訓練を行う。
彼女の使命は敏明を常に傍で守ることだ。そこを離れるわけにはいかない。
最低限度の知識や異能の制御を覚えるために訓練などは受けもした。
だが、それが小学生程度から双葉学園に通っている異能者たちに比べれば不足である事は言うまでも無い。
それはすなわち、異能を自覚した敏明の身辺を守るには心許ないということ。
だから、すぐ傍で彼を守る人間を増やすというのも当然の結論と言えた。
「はい……はい、失礼します」
双葉管理からの電話が切れると、巡理はしばしその場に立ち尽くした。
ふと時計に目を向けると、家に帰ってきてから既に二時間以上も経っていた。
「あ、料理、作らないと……トッシーが待ってる」
力なく呟き、ノロノロとキッチンに立って、じゃがいもの皮を剥き始める。
無心に剥いて、水にさらし、そしてまた剥く。
管理からの電話は、敏明の護衛を増やすと言う話だった。
既に護衛を引き受けている巡理にそれを伝えるのは当然のことだ。
しかし、それはお前は役に立たないと直接言われるようなもので、非常に残酷なことでもある。
管理の声は巡理を気遣うもので、彼女には引き続き護衛を任せるとも言われた。
しかし、彼女の手は震え、剥きかけのじゃがいもが零れ落ちる。
ぎゅうっと締め付けられるような苦しさ。ちりちりと焦げるような痛み。
胸に渦巻くその感覚は、巡理にとって生まれてはじめてのものだった。
その原因は、悔しさだけではない。
新たな敏明の護衛者が同世代の女子だと聞かされたせいなのだと、彼女自身が明確に理解していた。
「……ぅ」
泣くまいと堪えるあまり、息がつまり、そのせいで視界が滲んだ。
「ひっく……」
雫が落ちる前に、さっと目元を拭う。
大急ぎでたまねぎを刻む。
ぽろぽろと頬を涙が伝う。
泣いてない。これはたまねぎのせい。
気付けば、たまねぎのスライスばかり山盛りになっていた。
バランスを取るために新たなじゃがいもを取り出す。
「……まだだよ」
剥いて、切り分け、水にさらす。
「まだ、なんだから」
剥いて、切り分け、水にさらす。
「まだ、護衛が一人増えただけ。ボクが敏明の一番の親友だよ」
剥いて、切り分け、水にさらす。
いつのまにやらボウル一杯になったじゃがいもとたまねぎ、ささやかな量のニンジンを沸騰しただし汁にだばだばと放り込んだ。
敏明が異能に目覚めたから、彼の周りに護衛が一人ばかり増える、ただそれだけのことだ。
幼馴染であり、最も仲のいい女子は自分以外にいない。
そして巡理自身の非力も、これからこの双葉学園で本格的な訓練を受けることで解消できる。
敏明の傍にいながら。敏明と一緒に強くなる。
「よーし! がんばるぞ!」
自分に言い聞かせるように叫びながら、彼女は酒と醤油をドボドボと鍋に注いだ。
to be continued...
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シャイニング!
その2 山崎巡理の心情
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双葉敏明の祖父である双葉管理は、敏明の異能の危険を知るとすぐ、彼の周囲に警護の人間を手配した。
だが、敏明は自分の異能を自覚することなく平穏に成長し、小学校、中学校と何事も無く卒業していった。
いよいよ高校生となった敏明を、管理はあえて双葉学園へと進学させ、異能とラルヴァのことを自覚させることにした。
異能はいずれ開花する。一生、異能に関わらないまま生きていくと言う可能性も無くは無かったが、それに期待するのは少々楽観的だった。
問題をいつまでも先送りにするよりは、手の届く場所でしっかりと守ってやろうということだった。
高校生ともなれば、そろそろ自分の面倒も見れる歳だ。
そして、敏明は計画通り、否、計画よりも早く、入学式当日に異能を自覚し、ラルヴァと相対することになった。
山崎巡理は、双葉敏明の幼馴染だ。
幼稚園から今に至るまで続く腐れ縁。しかし、その関係は作られたものである。
敏明には、祖父によって警護の人間がついていた。
しかし、それら護衛に間近で囲まれた生活を子供に強いるのは酷だ。敏明だけでなくほかの家族だって困るし、ご近所の目もある。
そこで、同い年で幼少から異能に目覚めている子供を護衛として傍に置くことになった。
それが巡理だ。
本来であれば異能者は発見されれば、すぐさま双葉学園のような異能者を集めた施設へ入れられる。
しかし元々、巡理が双葉家と近所だった事、同い年ですでに異能を覚醒していた事など、偶然とは思えないような結びつきで、彼女に護衛が依頼される事になった。
もちろん、幼稚園児に「敏明を護衛しろ」と言ったところでまともに出来るわけが無い。
当初は彼女の両親にだけ説明がされ、巡理本人はただの同い年の友達として敏明と一緒にいることになった。唯一つ、異能に関する話をしないことだけ約束して。
護衛の依頼について詳しく聞かされたのは中学に入学するときだった。
敏明の異能によって危機が訪れたときは、近くにいるはずの別の警護と連携してこれを処理すること。
管理から「やってくれるか」と問われた巡理は二つ返事で請け負った。
「トッシーを守ればいいんでしょ? 友達なんだから当然だよ!」
長いこと一緒に過ごした二人の間には、既に十分な友情があった。
友達を守る。彼女にとってそれはお願いされるまでも無いことだった。
護衛を引き受けて三年。
結局、敏明は自分の異能を自覚することなく平穏に高校へ進むことになった。
それは巡理にとっても幸運であると同時に、一つの問題も持っていた。
実践不足。本来であれば幼少から異能に目覚めていた子供は、早い時期からそれを活用するための訓練を行う。
彼女の使命は敏明を常に傍で守ることだ。そこを離れるわけにはいかない。
最低限度の知識や異能の制御を覚えるために訓練などは受けもした。
だが、それが小学生程度から双葉学園に通っている異能者たちに比べれば不足である事は言うまでも無い。
それはすなわち、異能を自覚した敏明の身辺を守るには心許ないということ。
だから、すぐ傍で彼を守る人間を増やすというのも当然の結論と言えた。
「はい……はい、失礼します」
双葉管理からの電話が切れると、巡理はしばしその場に立ち尽くした。
ふと時計に目を向けると、家に帰ってきてから既に二時間以上も経っていた。
「あ、料理、作らないと……トッシーが待ってる」
力なく呟き、ノロノロとキッチンに立って、じゃがいもの皮を剥き始める。
無心に剥いて、水にさらし、そしてまた剥く。
管理からの電話は、敏明の護衛を増やすと言う話だった。
既に護衛を引き受けている巡理にそれを伝えるのは当然のことだ。
しかし、それはお前は役に立たないと直接言われるようなもので、非常に残酷なことでもある。
管理の声は巡理を気遣うもので、彼女には引き続き護衛を任せるとも言われた。
しかし、彼女の手は震え、剥きかけのじゃがいもが零れ落ちる。
ぎゅうっと締め付けられるような苦しさ。ちりちりと焦げるような痛み。
胸に渦巻くその感覚は、巡理にとって生まれてはじめてのものだった。
その原因は、悔しさだけではない。
新たな敏明の護衛者が同世代の女子だと聞かされたせいなのだと、彼女自身が明確に理解していた。
「……ぅ」
泣くまいと堪えるあまり、息がつまり、そのせいで視界が滲んだ。
「ひっく……」
雫が落ちる前に、さっと目元を拭う。
大急ぎでたまねぎを刻む。
ぽろぽろと頬を涙が伝う。
泣いてない。これはたまねぎのせい。
気付けば、たまねぎのスライスばかり山盛りになっていた。
バランスを取るために新たなじゃがいもを取り出す。
「……まだだよ」
剥いて、切り分け、水にさらす。
「まだ、なんだから」
剥いて、切り分け、水にさらす。
「まだ、護衛が一人増えただけ。ボクが敏明の一番の親友だよ」
剥いて、切り分け、水にさらす。
いつのまにやらボウル一杯になったじゃがいもとたまねぎ、ささやかな量のニンジンを沸騰しただし汁にだばだばと放り込んだ。
敏明が異能に目覚めたから、彼の周りに護衛が一人ばかり増える、ただそれだけのことだ。
幼馴染であり、最も仲のいい女子は自分以外にいない。
そして巡理自身の非力も、これからこの双葉学園で本格的な訓練を受けることで解消できる。
敏明の傍にいながら。敏明と一緒に強くなる。
「よーし! がんばるぞ!」
自分に言い聞かせるように叫びながら、彼女は酒と醤油をドボドボと鍋に注いだ。
to be continued...
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