【双葉学園の怖い噂 一怪目「隙間女」】

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[[縦読み版>http://rano.jp/3003]]     「隙間女」 「目比《めくらべ》くん。“隙間女”の噂知ってる?」  その日の放課後、委員会の仕事を終えた目比が帰りの支度をしていると、クラスメイトの飯島《いいじま》が話しかけてきた。  筆箱や教科書類を鞄につっこみながら目比は首を横に振る。 「知らないよ。なんなのそれ」 「あら。知らないの目比くん。遅れてるわねー」  飯島は馬鹿にするような口調で嗤った。机の上に行儀悪く座り、膝を組みながら彼女は目比を見下ろす。窓から差し込む金色の日差しがそんな彼女を怪しくひきたてていた。飯島はクラス一の美少女で、目比のような容姿も性格もさえない男子が話しかけられることなんてごくまれだ。 「隙間女はね、名前の通りに隙間に潜んでるだって。今女子の間で流行ってんのよ。ほら、二階の階段際にジュースの自動販売機あるでしょ?」 「うん。あるね」 「あの自動販売機の裏側と、壁との間に隙間女は住んでるだって。それでその隙間を覗くと、隙間女に隙間の世界へと連れて行かれちゃうとか。バカみたいな噂でしょ。でも実際に行方不明になった女の子はいるんだよねー」 「そうだね。C組の田中さんにA組の相田がこの間から学校にも寮にも来ないって聞いたよ」  頷く目比の言う通り、ここ最近中等部では謎の失踪者や家出人が多い。学園の性質上、そのような行方不明者は徹底的に捜索されるのだが、それでもいまだに行方はわかっていないのだという。 「そんなの、作り話だ。くだらない。くだらない噂さ」 「あら。でも目比くんの彼女の真奈美《まなみ》ちゃんもちょっと前に行方が分からなくなっちゃったんでしょ? もしかしたら隙間女に連れて行かれちゃったかもよ」  飯島のその言葉に目比は教科書を詰め込む手を止めた。飯島の言葉は本当であった。目比が付き合っていた同級生の真奈美もまた、先日行方をくらませ、学園の失踪者名簿に名前を連ねている。目比は虚ろな目で飯島を見た。飯島はいじめがいのある玩具を見るような目で、目比をじっと見ている。彼女にとって人の不幸などただの娯楽でしかない。恐らく、彼女が行方不明になったクラスメイト、というだけで彼女は目比に話しかけてきたのだろう。 「そんなわけないだろ。隙間女なんて、ただの噂さ」 「あら、わからないわよ。この学園では何が起こっても不思議じゃないもの。そうだ目比くん。今から確かめに行こうよ」 「え?」  飯島はさっと立ち上がり、目比の手をとった。 「ほら行くわよ。自動販売機なんてすぐそこなんだから、ちょっとくらい付き合ってよね」  飯島は半ば無理矢理に、目比を教室の外へと引っ張りだした。  廊下に出ればそこにはもう生徒の影はなく、遠くのグラウンドから野球部のバットにボールが当たる音が聞こえ、ブラスバンド部の下手なトランペットの音が廊下に木霊しているだけであった。 「ほら、ここよ」  二人は怪談際の自動販売機の前までやってきた。主にパック系のジュースが売られ、炭酸ものは少ない。その自販機は目比も昼になればよく利用するものであった。 「ほら、この後ろよ。後ろ。せーの、で一緒に覗きましょうよ」 「ああ、うん」  そう言って飯島は目比の襟首を引っ張り、自販機の横側に回った。 「さあ、行くわよ。ちょっとドキドキするわね」  飯島は怖くて緊張しているのか、少し指が震えていた。しかし、好奇心がそれが勝っているのだろう、意を決したようにぐっと掌を握っていた。 「さあいくわよ 目比くん。せーのっ――」  バッ、と飯島と目比は同時に自販機の裏を覗きこんだ。  しかし、そこにあるのは埃まみれのコードだけで、その先にある廊下が見えるくらいに見事に何も無かった。  飯島は落胆したように大きくため息を吐いた。 「なーんだ。つまんない。やっぱり噂は噂かー」 「だから言っただろ。そんなの無責任な噂さ」  目比の言葉に飯島は頬をぷくーっと膨らませながら睨みつけた。 「悪かったわね。くだらないことにつきあわせて。あーあ。なんだか喉がカラカラになっちゃった。せっかくだしジュースでも飲もうかしら」  そう言って飯島は財布を取り出した。中学生らしくない高価なブランド物だ。 「まあ付き合ってくれたお礼に、ジュースぐらい奢ってあげてもいいわよ目比くん」  誘うような目つきで飯島はそう言った。しかし目比は「いらない」と、手を振った。それに感が触ったのか、飯島はまた怒ったようにぷいっと彼から視線を外す。 「何よ、せっかくこの私が奢ってあげようって言うのに……」  ぶつぶつとそう言いながら飯島は財布から小銭を取り出す。しかし、手が滑ったのか、百円玉が床に落ち、その百円玉は自動販売機の真下に転がっていく。 「あ、ああ~。もう失礼な百円玉ね。ちょっと、目比くん。とってよ」 「やだよ。自分でとりな」 「女の子にこんな汚いところに手を突っ込めっての? わかったわよ。あなたなんてもう知らないわ」  ぷりぷりと怒りながら、飯島は体を屈め、自販機の下に手を突っ込んだ。 「ひっ!」  しかしその瞬間、飯島の身体に異変が起きた。まるで誰かに引っ張られているかのように、彼女の腕がどんどん自販機と床の間に引きずり込まれてく。肩のあたりまで引きずり込まれるが、それ以上は肩と頭が邪魔していてなかなか進まない。だが骨の軋む音と、肉の裂ける音が廊下中に響いている。 「痛い! 目比くん助けて! 誰かが私の手を引っ張ってる! 助けて、助け――」  そのほんのわずかな空間に人の身体が入るはずはない。それでも強力な力で引きずり込まれていく彼女の身体は砕け、原型を留めていないほどに無残な姿のまま自販機の下にすっぽりと入ってしまった。  そしてその自販機の下から、 「ペッ」  という何かを吐きだす音が聞こえ、自販機の真下から血塗れの百円玉が転がってきた。  それを目比はひょいっと拾い上げる。 「噂なんていい加減なものだよね真奈美ちゃん。キミがいるのは横じゃなくて真下なのに」  そう言って目比は自販機の下を、愛おしそうに覗きこんだ。  オワリ ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
[[縦読み版>http://rano.jp/3003]]     「隙間女」 「目比《めくらべ》くん。“隙間女”の噂知ってる?」  その日の放課後、委員会の仕事を終えた目比が帰りの支度をしていると、クラスメイトの飯島《いいじま》が話しかけてきた。  筆箱や教科書類を鞄につっこみながら目比は首を横に振る。 「知らないよ。なんなのそれ」 「あら。知らないの目比くん。遅れてるわねー」  飯島は馬鹿にするような口調で嗤った。机の上に行儀悪く座り、膝を組みながら彼女は目比を見下ろす。窓から差し込む金色の日差しがそんな彼女を怪しくひきたてていた。飯島はクラス一の美少女で、目比のような容姿も性格もさえない男子が話しかけられることなんてごくまれだ。 「隙間女はね、名前の通りに隙間に潜んでるだって。今女子の間で流行ってんのよ。ほら、二階の階段際にジュースの自動販売機あるでしょ?」 「うん。あるね」 「あの自動販売機の裏側と、壁との間に隙間女は住んでるだって。それでその隙間を覗くと、隙間女に隙間の世界へと連れて行かれちゃうとか。バカみたいな噂でしょ。でも実際に行方不明になった女の子はいるんだよねー」 「そうだね。C組の田中さんにA組の相田がこの間から学校にも寮にも来ないって聞いたよ」  頷く目比の言う通り、ここ最近中等部では謎の失踪者や家出人が多い。学園の性質上、そのような行方不明者は徹底的に捜索されるのだが、それでもいまだに行方はわかっていないのだという。 「そんなの、作り話だ。くだらない。くだらない噂さ」 「あら。でも目比くんの彼女の真奈美《まなみ》ちゃんもちょっと前に行方が分からなくなっちゃったんでしょ? もしかしたら隙間女に連れて行かれちゃったかもよ」  飯島のその言葉に目比は教科書を詰め込む手を止めた。飯島の言葉は本当であった。目比が付き合っていた同級生の真奈美もまた、先日行方をくらませ、学園の失踪者名簿に名前を連ねている。目比は虚ろな目で飯島を見た。飯島はいじめがいのある玩具を見るような目で、目比をじっと見ている。彼女にとって人の不幸などただの娯楽でしかない。恐らく、彼女が行方不明になったクラスメイト、というだけで彼女は目比に話しかけてきたのだろう。 「そんなわけないだろ。隙間女なんて、ただの噂さ」 「あら、わからないわよ。この学園では何が起こっても不思議じゃないもの。そうだ目比くん。今から確かめに行こうよ」 「え?」  飯島はさっと立ち上がり、目比の手をとった。 「ほら行くわよ。自動販売機なんてすぐそこなんだから、ちょっとくらい付き合ってよね」  飯島は半ば無理矢理に、目比を教室の外へと引っ張りだした。  廊下に出ればそこにはもう生徒の影はなく、遠くのグラウンドから野球部のバットにボールが当たる音が聞こえ、ブラスバンド部の下手なトランペットの音が廊下に木霊しているだけであった。 「ほら、ここよ」  二人は怪談際の自動販売機の前までやってきた。主にパック系のジュースが売られ、炭酸ものは少ない。その自販機は目比も昼になればよく利用するものであった。 「ほら、この後ろよ。後ろ。せーの、で一緒に覗きましょうよ」 「ああ、うん」  そう言って飯島は目比の襟首を引っ張り、自販機の横側に回った。 「さあ、行くわよ。ちょっとドキドキするわね」  飯島は怖くて緊張しているのか、少し指が震えていた。しかし、好奇心がそれが勝っているのだろう、意を決したようにぐっと掌を握っていた。 「さあいくわよ 目比くん。せーのっ――」  バッ、と飯島と目比は同時に自販機の裏を覗きこんだ。  しかし、そこにあるのは埃まみれのコードだけで、その先にある廊下が見えるくらいに見事に何も無かった。  飯島は落胆したように大きくため息を吐いた。 「なーんだ。つまんない。やっぱり噂は噂かー」 「だから言っただろ。そんなの無責任な噂さ」  目比の言葉に飯島は頬をぷくーっと膨らませながら睨みつけた。 「悪かったわね。くだらないことにつきあわせて。あーあ。なんだか喉がカラカラになっちゃった。せっかくだしジュースでも飲もうかしら」  そう言って飯島は財布を取り出した。中学生らしくない高価なブランド物だ。 「まあ付き合ってくれたお礼に、ジュースぐらい奢ってあげてもいいわよ目比くん」  誘うような目つきで飯島はそう言った。しかし目比は「いらない」と、手を振った。それに感が触ったのか、飯島はまた怒ったようにぷいっと彼から視線を外す。 「何よ、せっかくこの私が奢ってあげようって言うのに……」  ぶつぶつとそう言いながら飯島は財布から小銭を取り出す。しかし、手が滑ったのか、百円玉が床に落ち、その百円玉は自動販売機の真下に転がっていく。 「あ、ああ~。もう失礼な百円玉ね。ちょっと、目比くん。とってよ」 「やだよ。自分でとりな」 「女の子にこんな汚いところに手を突っ込めっての? わかったわよ。あなたなんてもう知らないわ」  ぷりぷりと怒りながら、飯島は体を屈め、自販機の下に手を突っ込んだ。 「ひっ!」  しかしその瞬間、飯島の身体に異変が起きた。まるで誰かに引っ張られているかのように、彼女の腕がどんどん自販機と床の間に引きずり込まれてく。肩のあたりまで引きずり込まれるが、それ以上は肩と頭が邪魔していてなかなか進まない。だが骨の軋む音と、肉の裂ける音が廊下中に響いている。 「痛い! 目比くん助けて! 誰かが私の手を引っ張ってる! 助けて、助け――」  そのほんのわずかな空間に人の身体が入るはずはない。それでも強力な力で引きずり込まれていく彼女の身体は砕け、原型を留めていないほどに無残な姿のまま自販機の下にすっぽりと入ってしまった。  そしてその自販機の下から、 「ペッ」  という何かを吐きだす音が聞こえ、自販機の真下から血塗れの百円玉が転がってきた。  それを目比はひょいっと拾い上げる。 「噂なんていい加減なものだよね真奈美ちゃん。キミがいるのは横じゃなくて真下なのに」  そう言って目比は自販機の下を、愛おしそうに覗きこんだ。  オワリ ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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