【藤沢君の危機的状況】

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藤沢君の危機的状況 ――備え付け以外の紙は絶対に流さないでください。 「……」  双葉学園のトイレは他の高校と比べてもかなり新しい部類に入るので、トイレもそこそこに広く、基本的にすべて洋式便座である。  個室となっている各トイレには上着やら手荷物やらを引っ掛けるホックのようなものも付いているし、トイレットペーパーも一応各個室に予備が2個、掃除がサボられていない限りは完備されている。  だが今問題なのはそこじゃない。  若干腹痛を覚えながら風紀委員の仕事として猫探しを始めたのが約2時間前。  ひとまずの進捗があり今日の捜索を終えたのが30分前。  最寄の男子トイレのドアが故障中で中に入れないという事態に気づいたのが15分前。  結局ここ以外ではどうしても人目に付くので、一番人が来ない外れの女子トイレの中に誰もいないか寒川と辻堂に確認してもらって忍び込んだのが10分前。  最奥の一番広い個室に入り、さぁ着替えようと思ったタイミングで腹痛を思い出したのが3分前。  動いている最中は全く気にならなかったのにちょっと立ち止まって落ち着いたらこの様だ。  ひとまず上はブラウスからYシャツに替え、スカートを脱いで便座に腰掛けている状態である。  紙は問題なくある、水も別に断水というわけじゃない。  一番の問題は、俺は男子で、ここは女子トイレということだけだ。  ここで俺を変態扱いしないで欲しい、これはきちんと生徒会と一部の先生方に許可をとってある行為だし、そもそも覗きの趣味はない。  バッと着替えてバッと出るのがいつもだし、基本的に同じチームの辻堂<<つじどう>> 悠希<<ゆうき>>か寒川<<さむかわ>> 玲子<<れいこ>>に中に誰かいないか調べてもらってから清掃中の看板を出して着替えてる。  今は清掃中の看板がないので辻堂に番をしてもらい、着替えて詰所に戻り報告をするだけだ。  しかしどうしたものか、時間が立てば立つほど腹痛が酷くなっていってる気がする。  ただ単にさっさと着替えて隣の男子トイレに駆け込めばいいだけなのだが、正直今の腹痛で動くのは非常に危ない。 「つ、辻堂」 「どしたん? ゴキブリでも出た?」  とにかく一人で考えても仕方がない、生徒手帳の携帯機能を呼び出してトイレの前で待機している辻堂を呼び出す。  話しているうちに腹痛も収まるかもしれないし、もしかしたら何かいいアイデアが思い浮かぶかもしれない。 「腹が痛いんだ」 「……女の子にお腹痛いって電話してくる人はじめてだよ」 「俺も腹痛いなんて女子に電話するのは初めてだ」 「いやまぁ、トイレなんだし普通にしちゃえばいいんじゃない?」 「俺もそう思うんだが、ここ女子トイレだぞ」 「え、あぁ、そっか……私は藤沢が男子トイレでしようと女子トイレでしようと別に気にしないけど」 「俺が気にするんだよ!」 「そういう所は地味にこだわるもんね藤沢」 「そこを崩すと本気で只の変態だからな」 「まぁそこは置いといて……我慢できそうなの?」 「正直危ないな……」 「うーん……何か腹痛を抑える薬をセーブしてないの?」 「薬箱はセーブしてたが……胃腸薬が入ってるかどうかと言われるとちょっと自信がない」 「今度から車椅子用のトイレで着替えればいいかもね」 「その手があったな、今後はそうするよ……って今はそうじゃねぇんだよ、目前の危機をどうにかして回避する手段が必要なんだよ」 「んなこと言われてもなぁ」  何か、何か有るはずなんだ。  気兼ねなく俺がトイレを済ますために必要な方法が。  それを見つけ出すんだ、俺の全身全霊をかけてでも、思考のしすぎで脳が焼き切れてでもだ、間違いなくここが今年の正念場だ。  ちょっと待て腹痛今酷くなるなやめろやめてお願いだから。 「うぅぅっ……」 「ちょっ、いきなりそんなサービスボイス流されても逆に気持ち悪いよ」 「腹痛がさらに酷くなってきた」 「えぇ~……」 「な、なんか無いか、本気でヤバイんだよ」 「う、うーん……いやまぁ最悪漏らすってことは無いからいいとしても、確かにできるなら藤沢には男子トイレでさせてあげたいし……」 「なんだか憐れみをかけられてる気分だが分かってもらえてちょっと嬉しいぞ……」 「私が薬を持ってくってのは?」 「ここから保健室に行ってなおかつ事情を説明してもどってくるまで我慢できる自信がないぞ……第一胃腸薬があるかどうかも分からんのに」 「そっか……ひとまず着替えるだけ着替えて一個ずつ個室をずらして移動するってのは?」 「そんな事するくらいなら男子トイレに駆け込むぜ」 「うーん……オムツとか」 「お前それ本気で言ってる?」 「いや冗談だけど……そもそも高校にオムツは無いでしょ」 「いやまぁそうだな、ちょっと真面目に最悪それでもと思った俺が間違ってたな」 「やっぱ特に思いつかないなぁ……どうしてもそこでするのは許容できないの?」  それは最悪の事態だが、確かに考えておかねばならない事態の一つでもある。  ここで一度そのケースになった場合に懸念される事を考えておこう。 「ここでするとなるにしてもだ、もう一つ大事な要素がある」 「何?紙なら取るけど」 「俺は女装して女子トイレでするべきなのか? それとも普通に男子の制服に着替えて女子トイレでするべきなのか?」 「そこ!? そこ大事なところ!?」 「大事だろうどう考えても!」 「何がどう違うってのさ!」 「よく考えろ! 女装した男子が女子トイレに入ってる状態と、男子が女子トイレに入ってる状態だ」 「うん」 「ここで女装した男子が女子トイレに入ってる状態を考えるとだな、一見女子に見えるかもしれないがそれはあくまで女装してるというだけで結局男子が入ってることには変わらないだろ?」 「そうなるね」 「となるとただ単に変態行為の上乗せをしてることになるだろ? これはいい状態とはいえないな」 「確かに」 「しかしここで普通の男子が女子トイレに入ってる状態だと?」 「女装はしてないから少なくともいっこ変態要素は減ってるけど結局大差はないよね」 「しかしその差は重要だぞ、俺はもし今後女装がバレた場合今後女子トイレに女装して入った男子としてのレッテルを貼られる可能性がある」 「でも男子の制服で入ってたとしても結局はマイナスと……」 「だが幸か不幸か俺としては不本意だが俺の女装はそこまで悪くじゃないといろんな奴に言われてるのも事実なんだ」 「まぁ有葉ちゃんレベルには似合ってるよね」 「つまりそんな俺ならもしかしたら女装したままトイレしてても問題ないんじゃないかとも言える」 「ちょっと突っ込みどころがあるんだけどいい?」 「なんだ、言ってみろ」 「冷静に考えたら別にトイレしてるところ覗かれたりしないよね」 「……そういやそうだな」 「まぁ覗き目的のカメラが有るなら話は別だけどね」 「そんな不届き者は後でとっちめてやる」 「頼もしいことで……ところでずいぶん長電話してるけど結局お腹大丈夫なの?」 「ぶっちゃけそれを意識しないために余計なこと考えてるんだから思い出させるなはぅぅうううっ」 「あぁごめんごめん……でもそろそろ戻らないと寒川ちゃんが待ってるんじゃない?」 「ぐぬぬ……そういやそうだな……ううっ」 「ちょ、本気で大丈夫?」 「本気で限界が近い……くそぅ、このままここでするしかないのか……」 「緊急事態なんだしやむを得ないんじゃないかなぁと思うんだけど」 「いや待てよ、要するに男の俺が何一つ抵抗なくトイレをする方法がひとつだけあった! あったぞ!」 「何?どうすんの?」 「看板だよ看板! 今だけ看板をとっかえちまえばいいんだ! そうすれば少なくとも俺が入ってる時だけはこっちが男子トイレになるだろ!」 「いやそれ屁理屈じゃない?」 「屁理屈でも何でもとにかく言い訳できる余地を残しておけばいいんだ、俺はいたずらに巻き込まれた哀れな生徒という件で一件落着、誰も困りゃしない!」 「うーん、まぁとりあえず変えとくよ?」 「あぁ頼む、それと看板変えたらもう行ってくれていいぞ」 「うい、じゃあ先に行ってるからね」 「俺も着替えたらすぐ行く、切るぞ」 「……まぁその、頑張ってね」 「できる事ならこんな事で頑張りたくなかったんだけどなぁ……」  電話を切ると同時に外で辻堂がトイレの看板を弄る音が聞こえてくる。  これで中身はともかく外見的には男子トイレに切り替わったわけだ。  いや、切り替わったと思い込むんだ、ここは男子トイレなんだ、男子が男子トイレに入ってるのは何もおかしいことじゃない。  何もおかしくはないから俺は大丈夫だ、うん、なんか涙出てきたな……  しかしこの腹痛は俺をさっさと便座に座れと急かしてきやがる、とにかく早いとこ済ましてしまおう。  あぁ、神様、俺が何をしたってんだよ…… 「……ふぅ」  ひとまず腹痛との戦いは終わった。  だが人としての尊厳の戦いには負けた気がする。  いやまぁ別に漏らしたわけでもないし、我慢の限界で女子トイレに入った奴なんていくらでもいるはずだろう。  そうさ、俺が特別なわけじゃないんだ。  だから泣くんじゃない藤沢来栖、お前はまだ前を向いて生きていけるはずだ。 「ぐすっ」  でも、涙が出ちゃう、男の子だもの。  明日から辻堂にこのネタで弄られるんだろうなぁ……あいつは二人きりの時にだけこの手のネタで弄ってくるからまだ救いがあるが…… 「……ったく、誰よ、こんなイタズラし……」  トイレでこれから先のドブ色の未来に想いを馳せていると外で何やら声が聞こえる。  イタズラ……まさか、いやまさか、だってここは授業でもあんまり使われてない一角で一番不便な位置にあるトイレだぞ!?  マズイマズイマズイ、隠れてるべきか? それともさっさと出て酷いイタズラもあるもんですねと言い切って逃げるべきか?  いや少し待てよ?  女子トイレは構造的にすべて個室だ。  つまり隠れてる分にはバレないわけだし、相手が入ってきたならそれに合わせて出ていきゃいいんだ。  さすが俺、ここ一番で冴え渡っている。  後は相手が入ってくるのを待つだけだ、なぁにあと1分もかかるまい。  それでこの俺を苦しめたトイレともおさらばだ、お前はなかなかの強敵だったよ。  よし、どうやら入ってきた奴も個室に入ったようだ、後は何食わぬ顔して出てしまえば―― 「なによ、紙がないじゃないの」 「「え?」」  その後、そのトイレは完膚なきまでに破壊され、町田<<まちだ>>来栖<<くるす>>の双葉学園に対する借金が増えたことは言うまでもない。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
藤沢君の危機的状況 ――備え付け以外の紙は絶対に流さないでください。 「……」  双葉学園のトイレは他の高校と比べてもかなり新しい部類に入るので、トイレもそこそこに広く、基本的にすべて洋式便座である。  個室となっている各トイレには上着やら手荷物やらを引っ掛けるホックのようなものも付いているし、トイレットペーパーも一応各個室に予備が2個、掃除がサボられていない限りは完備されている。  だが今問題なのはそこじゃない。  若干腹痛を覚えながら風紀委員の仕事として猫探しを始めたのが約2時間前。  ひとまずの進捗があり今日の捜索を終えたのが30分前。  最寄の男子トイレのドアが故障中で中に入れないという事態に気づいたのが15分前。  結局ここ以外ではどうしても人目に付くので、一番人が来ない外れの女子トイレの中に誰もいないか寒川と辻堂に確認してもらって忍び込んだのが10分前。  最奥の一番広い個室に入り、さぁ着替えようと思ったタイミングで腹痛を思い出したのが3分前。  動いている最中は全く気にならなかったのにちょっと立ち止まって落ち着いたらこの様だ。  ひとまず上はブラウスからYシャツに替え、スカートを脱いで便座に腰掛けている状態である。  紙は問題なくある、水も別に断水というわけじゃない。  一番の問題は、俺は男子で、ここは女子トイレということだけだ。  ここで俺を変態扱いしないで欲しい、これはきちんと生徒会と一部の先生方に許可をとってある行為だし、そもそも覗きの趣味はない。  バッと着替えてバッと出るのがいつもだし、基本的に同じチームの辻堂<<つじどう>> 悠希<<ゆうき>>か寒川<<さむかわ>> 玲子<<れいこ>>に中に誰かいないか調べてもらってから清掃中の看板を出して着替えてる。  今は清掃中の看板がないので辻堂に番をしてもらい、着替えて詰所に戻り報告をするだけだ。  しかしどうしたものか、時間が立てば立つほど腹痛が酷くなっていってる気がする。  ただ単にさっさと着替えて隣の男子トイレに駆け込めばいいだけなのだが、正直今の腹痛で動くのは非常に危ない。 「つ、辻堂」 「どしたん? ゴキブリでも出た?」  とにかく一人で考えても仕方がない、生徒手帳の携帯機能を呼び出してトイレの前で待機している辻堂を呼び出す。  話しているうちに腹痛も収まるかもしれないし、もしかしたら何かいいアイデアが思い浮かぶかもしれない。 「腹が痛いんだ」 「……女の子にお腹痛いって電話してくる人はじめてだよ」 「俺も腹痛いなんて女子に電話するのは初めてだ」 「いやまぁ、トイレなんだし普通にしちゃえばいいんじゃない?」 「俺もそう思うんだが、ここ女子トイレだぞ」 「え、あぁ、そっか……私は藤沢が男子トイレでしようと女子トイレでしようと別に気にしないけど」 「俺が気にするんだよ!」 「そういう所は地味にこだわるもんね藤沢」 「そこを崩すと本気で只の変態だからな」 「まぁそこは置いといて……我慢できそうなの?」 「正直危ないな……」 「うーん……何か腹痛を抑える薬をセーブしてないの?」 「薬箱はセーブしてたが……胃腸薬が入ってるかどうかと言われるとちょっと自信がない」 「今度から車椅子用のトイレで着替えればいいかもね」 「その手があったな、今後はそうするよ……って今はそうじゃねぇんだよ、目前の危機をどうにかして回避する手段が必要なんだよ」 「んなこと言われてもなぁ」  何か、何か有るはずなんだ。  気兼ねなく俺がトイレを済ますために必要な方法が。  それを見つけ出すんだ、俺の全身全霊をかけてでも、思考のしすぎで脳が焼き切れてでもだ、間違いなくここが今年の正念場だ。  ちょっと待て腹痛今酷くなるなやめろやめてお願いだから。 「うぅぅっ……」 「ちょっ、いきなりそんなサービスボイス流されても逆に気持ち悪いよ」 「腹痛がさらに酷くなってきた」 「えぇ~……」 「な、なんか無いか、本気でヤバイんだよ」 「う、うーん……いやまぁ最悪漏らすってことは無いからいいとしても、確かにできるなら藤沢には男子トイレでさせてあげたいし……」 「なんだか憐れみをかけられてる気分だが分かってもらえてちょっと嬉しいぞ……」 「私が薬を持ってくってのは?」 「ここから保健室に行ってなおかつ事情を説明してもどってくるまで我慢できる自信がないぞ……第一胃腸薬があるかどうかも分からんのに」 「そっか……ひとまず着替えるだけ着替えて一個ずつ個室をずらして移動するってのは?」 「そんな事するくらいなら男子トイレに駆け込むぜ」 「うーん……オムツとか」 「お前それ本気で言ってる?」 「いや冗談だけど……そもそも高校にオムツは無いでしょ」 「いやまぁそうだな、ちょっと真面目に最悪それでもと思った俺が間違ってたな」 「やっぱ特に思いつかないなぁ……どうしてもそこでするのは許容できないの?」  それは最悪の事態だが、確かに考えておかねばならない事態の一つでもある。  ここで一度そのケースになった場合に懸念される事を考えておこう。 「ここでするとなるにしてもだ、もう一つ大事な要素がある」 「何?紙なら取るけど」 「俺は女装して女子トイレでするべきなのか? それとも普通に男子の制服に着替えて女子トイレでするべきなのか?」 「そこ!? そこ大事なところ!?」 「大事だろうどう考えても!」 「何がどう違うってのさ!」 「よく考えろ! 女装した男子が女子トイレに入ってる状態と、男子が女子トイレに入ってる状態だ」 「うん」 「ここで女装した男子が女子トイレに入ってる状態を考えるとだな、一見女子に見えるかもしれないがそれはあくまで女装してるというだけで結局男子が入ってることには変わらないだろ?」 「そうなるね」 「となるとただ単に変態行為の上乗せをしてることになるだろ? これはいい状態とはいえないな」 「確かに」 「しかしここで普通の男子が女子トイレに入ってる状態だと?」 「女装はしてないから少なくともいっこ変態要素は減ってるけど結局大差はないよね」 「しかしその差は重要だぞ、俺はもし今後女装がバレた場合今後女子トイレに女装して入った男子としてのレッテルを貼られる可能性がある」 「でも男子の制服で入ってたとしても結局はマイナスと……」 「だが幸か不幸か俺としては不本意だが俺の女装はそこまで悪くじゃないといろんな奴に言われてるのも事実なんだ」 「まぁ有葉ちゃんレベルには似合ってるよね」 「つまりそんな俺ならもしかしたら女装したままトイレしてても問題ないんじゃないかとも言える」 「ちょっと突っ込みどころがあるんだけどいい?」 「なんだ、言ってみろ」 「冷静に考えたら別にトイレしてるところ覗かれたりしないよね」 「……そういやそうだな」 「まぁ覗き目的のカメラが有るなら話は別だけどね」 「そんな不届き者は後でとっちめてやる」 「頼もしいことで……ところでずいぶん長電話してるけど結局お腹大丈夫なの?」 「ぶっちゃけそれを意識しないために余計なこと考えてるんだから思い出させるなはぅぅうううっ」 「あぁごめんごめん……でもそろそろ戻らないと寒川ちゃんが待ってるんじゃない?」 「ぐぬぬ……そういやそうだな……ううっ」 「ちょ、本気で大丈夫?」 「本気で限界が近い……くそぅ、このままここでするしかないのか……」 「緊急事態なんだしやむを得ないんじゃないかなぁと思うんだけど」 「いや待てよ、要するに男の俺が何一つ抵抗なくトイレをする方法がひとつだけあった! あったぞ!」 「何?どうすんの?」 「看板だよ看板! 今だけ看板をとっかえちまえばいいんだ! そうすれば少なくとも俺が入ってる時だけはこっちが男子トイレになるだろ!」 「いやそれ屁理屈じゃない?」 「屁理屈でも何でもとにかく言い訳できる余地を残しておけばいいんだ、俺はいたずらに巻き込まれた哀れな生徒という件で一件落着、誰も困りゃしない!」 「うーん、まぁとりあえず変えとくよ?」 「あぁ頼む、それと看板変えたらもう行ってくれていいぞ」 「うい、じゃあ先に行ってるからね」 「俺も着替えたらすぐ行く、切るぞ」 「……まぁその、頑張ってね」 「できる事ならこんな事で頑張りたくなかったんだけどなぁ……」  電話を切ると同時に外で辻堂がトイレの看板を弄る音が聞こえてくる。  これで中身はともかく外見的には男子トイレに切り替わったわけだ。  いや、切り替わったと思い込むんだ、ここは男子トイレなんだ、男子が男子トイレに入ってるのは何もおかしいことじゃない。  何もおかしくはないから俺は大丈夫だ、うん、なんか涙出てきたな……  しかしこの腹痛は俺をさっさと便座に座れと急かしてきやがる、とにかく早いとこ済ましてしまおう。  あぁ、神様、俺が何をしたってんだよ…… 「……ふぅ」  ひとまず腹痛との戦いは終わった。  だが人としての尊厳の戦いには負けた気がする。  いやまぁ別に漏らしたわけでもないし、我慢の限界で女子トイレに入った奴なんていくらでもいるはずだろう。  そうさ、俺が特別なわけじゃないんだ。  だから泣くんじゃない藤沢来栖、お前はまだ前を向いて生きていけるはずだ。 「ぐすっ」  でも、涙が出ちゃう、男の子だもの。  明日から辻堂にこのネタで弄られるんだろうなぁ……あいつは二人きりの時にだけこの手のネタで弄ってくるからまだ救いがあるが…… 「……ったく、誰よ、こんなイタズラし……」  トイレでこれから先のドブ色の未来に想いを馳せていると外で何やら声が聞こえる。  イタズラ……まさか、いやまさか、だってここは授業でもあんまり使われてない一角で一番不便な位置にあるトイレだぞ!?  マズイマズイマズイ、隠れてるべきか? それともさっさと出て酷いイタズラもあるもんですねと言い切って逃げるべきか?  いや少し待てよ?  女子トイレは構造的にすべて個室だ。  つまり隠れてる分にはバレないわけだし、相手が入ってきたならそれに合わせて出ていきゃいいんだ。  さすが俺、ここ一番で冴え渡っている。  後は相手が入ってくるのを待つだけだ、なぁにあと1分もかかるまい。  それでこの俺を苦しめたトイレともおさらばだ、お前はなかなかの強敵だったよ。  よし、どうやら入ってきた奴も個室に入ったようだ、後は何食わぬ顔して出てしまえば―― 「なによ、紙がないじゃないの」 「「え?」」  その後、そのトイレは完膚なきまでに破壊され、町田<<まちだ>>来栖<<くるす>>の双葉学園に対する借金が増えたことは言うまでもない。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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