【十五夜バトルロワイヤル】

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---- 十五夜バトルロワイヤル  ボクが兎に出会ったのは、とある秋の日の帰り道でのことだった。 通学用のスクーターをのんびりふかせて群れなす赤とんぼと併走する帰り道。足を止めて澄んだ空を見上げれば真白い月が西の空に顔を覗かせている。  「中秋の名月」…所謂お月見。ススキとお団子を飾ってのんびりお月様を眺めるお祭りごと。 この手のイベントにやたら力を入れるこの町もご多分に漏れず、醒徒会主導の下で今年も盛大なお月見パーティーをやるらしい。  そしてふと視線を道路に戻した時だった。道の先から誰かが飛んできた。勢いよくボクの足元に転がり込む。  思わず視線を足元に向ける。兎のように長い耳、ウサギのように白い髪、兎のように赤い瞳。そしてその身を包む学生服。    「コスプレ?」  それはウサ耳を生やした少女の姿をしていた。少女の方も地面に寝転がったままじっこちらを見つめ返してくる。あまりのことに何が何やら思考が止まる。    「ワーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! 所詮はげっ歯類! 我輩の相手には少々物足りん!」  そして今度は息が詰まった。怪物。特撮ヒーローでよく見るような怪人。人間とカニをごちゃ混ぜにしたような異形がゆっくりとこちらに近づいてくる。    「乗って!」  叫んだ。腰に回される手とぬくもりを確認して急いで来た道をとんぼ返りに引き返す。目指すは学園、頼みの綱は醒徒会。    「ぬぁ!っ? 逃げるが卑怯者! しかし逃がさぬ。見ィよ。脅威の生態その一、カニ走り!(シャカシャカシャカシャカ)」  「ぎゃー!? 変なのが変な動きで変な速さで追いかけてくるゥー!?」  この逃避行がボクと兎の長い夜の始まりだった。          夕暮れ時の混雑時にありながら道が空いていたのは幸いだった。可能な限りの速度を維持して走る。背後では丁々発止のつばぜり合いが行われている。    「このっこのっこのっ!」  「おぐしー姫様のおぐしー。切りたい舐めたいしゃぶりたい。あー!姫様の御髪クンクンしたいよー!」    ボクのベルトにつま先を引っ掛け器用にバランスをとりながら、どこからか取り出した杵でカニ男をどつこうとする兎娘。 ありえない速度のカニ走りで併走しながら兎娘に目掛けて鋏を突きつけるカニ男。やがてその決着は第三者の手によって行われた。てゆーか止めさしたのボクだった。    「あ、赤信号」    急ブレーキ。書き換わるベクトル。働く慣性。それに従い宙を舞う兎。勢い余って交差点に突っ込むカニ男。横からダンプカー。はねられるカニ男。飛び散るキチン質。漂う磯の香り。アッと言う間に衝撃映像の出来上がり。  「まだまだぁ!」  そんなカオスな状況の中心で今しがたダンプにはねられボロボロのカニ男が吼える。  「見ぃよ! 脅威の生態その2!」  叫び声とともにカニ男の背中がボコりと膨らむ。ビシリとひびが入り、  「脱皮!」  ズルリと音を立てて傷一つないカニ男が現れた。相手を探してぐるりと周囲を見渡す。いない。  「重力子開放。半重力場形成」  否、上だ。降り注ぐ声。そして今から餅でもつくかのように振り上げられる杵。  「グラビトンハンマー」  そのまませっかく復活したカニ男は今度はまっすぐ地面に打ち込まれた。            場所は移って道路数本をはさんだコンビニの駐車場。ボクの奢ったキャロットジュースをちびちび飲みながら、彼女は自分たちが月の妖精であること、自分はその中の一人「玉兎」であることを明かしてくれた。 そう言えば地球から見える月の模様から想像される動物は国ごとに違ったイメージだったのを思い出す。それは例えばこの日本なら餅をつく兎であり、他にもカニに見えると言う国もある。 まぁ昔話の類・空想の存在といわれた怪物と超能力を持った学生たちが日夜闘争を繰り広げる新世紀だ。本当に月に兎がいたとしても不思議ではない。そう問題なのは、  「何でそんな連中がこの町で暴れてるのさ?」  「全ての発端はとある宇宙一のバカ姫のはた迷惑な思いつき」    まさに苦虫を噛み潰すといった表情で目の前の兎は言葉を吐き出す。 姫? そう言えばさっき無残にすり潰されたカニ男もそんなことを言っていた。月の住人と姫、この二つのキーワードから導き出される人物は一人しかいない。 その人物とは「なよ竹のかぐや姫」。日本人なら誰もが知る日本昔話のヒロインだ。    「あんなのがヒロイン? そもそもまともなお姫様なら地球に追放されないし自分に求婚してきた皇子を破滅させたりしないでしょ」  リアル月の住人の自分達の姫に対する感想は惨憺たる物だった。おかげで自分の中のかぐや姫像がガラガラ音を立てて崩れていく。    「で、その超銀河バカプリンが暇つぶしに思いついたのが十五夜の月面トップを賭けた月の民によるバトルロワイヤル。優勝者はどんな願いも姫が叶えるオマケつき」    なるほど。それでようやく合点がいった。そんな特上のご褒美があるのなら誰だって血眼になって争うだろう。 ん? となるとこのゲームに参加している目の前の兎にもかなえたい願いがあるのか?    「私? まぁ月で働いてる仲間のためね。知ってる? なぜ月の兎は餅をつくのか。それは罪を償うため。かつて不老不死の薬を盗み月へ逃げた上司(オヒメサマ)の尻拭い。 ただあれの部下とゆーだけで私たちは餅をつかされている。一年365日24時間休みなしに!」    あーつまり彼女の願いは労働条件の改善か。やだ。月の社会ってすげーブラック。    「そう、これは自由を勝ち取るための戦い。そのためには必ず優勝してあの悪魔を玉座から引き摺り下ろしてクーデターを……」  「オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! それは叶わなくてよウサギさん! 優勝するのはこのワタクシに決まってますわー! オーホッホッホッホッホッホッ―――」    何時の間に現れたのかコンビニの電光灯で輝く看板の上には、壷を小脇に抱えはちきれんばかりの胸を質素な服に押し込んだ妙齢の女性。こちらを睥睨しながら肺活量の限界に挑戦するような高笑いをしている。もしかしなくてもボクの横にいる兎の関係者だろう。    「ミルク売りの仕事にかまけて婚期を逃したアラサーがよく言う(ボソリ」  「ホゥッ!!?」    あ、落ちた。何となく気づいてたけどこの兎って毒舌だなぁ。  「ア、アアアラサーちゃうわ! まだ29歳と48ヶ月だわー!」    明らかに負け犬女の叫びだった。乳売り女は明らかに殺気の篭った目で持ってた壷をこちらに構え、パシュゥッ! と音を立てて白い何かを撃ち出す。 ボクは兎に手をひっぱられて寸での所でそれを避ける。避けて、    「んげっ!?」    自分たちがつい一刹那前までいた場所のアスファルトが停めていたボクのスクーターごと真っ二つに割れていた。 ウォーターカッター。ミクロンレベルの極細の穴から超高圧で噴出された液体はダイヤさえも切断する凶器と化す。 この場合その主成分は多分牛乳。それでもその破壊力は洒落にならない。    「栄えある十五夜の月を埋め尽くすワタクシのセクシーグラビア。性欲をもてあましてスベースシャトルでワタクシに求婚に来る地球のイケメンたち。そうワタクシは今夜生まれ変わるの! さようなら今までの惨めなワタクシ、そしてこんにちはニューワタクシ!」  「いやー同じ女として同情が湧かんでもないけどそれ以上にあーはなりたくないわー」  「何で今この状況でそんな火に油を注ぐかなぁ!」  「失礼。月の兎は嘘をつくと前歯が伸びるのです。きゅっきゅっ!」  「やだちょっとだけ可愛い……ちょおぅっアブね掠ったー!」    一層激しさを増すミルクカッター。縦横無尽に繰り出されるそれを気合で避け続ける。    「よしここは囮作戦。貴方が体であれを受け止める役。私がその隙に乳売り女を叩く役」    それやったら間違いなくボクが死ぬ。月の兎は毒を吐く上に外道だった。あーダンジョンの暗がりで冒険者の首刎ねるのも兎だったっけ。 そも自己犠牲は兎の専売特許だろう。今こそ仏陀のために焚き火に飛び込んでステーキになったご先祖を見習うべきだ。    「それは兎的に死亡フラグ」  「人間でももれなく死亡だよ!」  「出会ったばかりなのに息ぴったりで妬ましー!!!……ってあら?」    唐突に猛攻が途絶える。焦った表情で壷を逆さにして上下に揺する乳売り女。どうやら燃料(ミルク)切れらしい。    「ま、待って! ちょっとタンマ! 今新鮮なミルク絞って補給するからー!」    ワタシ外道ラビット。今後トモヨロシク。必死で懇願する乳売り女のその頭に、  「待ったなし。あと公衆の面前でのわいせつ物陳列は犯罪」  ドバカ!と一撃。重く鈍い音を立てて杵がめり込んだ。  日も暮れかかり西の空のお月様の輪郭が大分しっかりしてきた黄昏時の通学路を二人で歩く。互いに無言。疲労困憊で口を開くのも億劫だ。学園はもうすぐそこ、そこには最後の頼みの綱の醒徒会メンバーが待っている。 まぁ今さら彼らを頼った所で事態の解決はないという後ろ向きな確信が僕の中に生まれつつあるのだが、あえてそのことからは目を背けチラッと隣を歩く少女に視線を向ける。 願いを叶えるために遥か遠い月から地球に降り立った玉兎。その願いは月の姫「なよ竹のかぐや姫」解任とそれによる労働条件の改善。  ふと妙な考えが頭をよぎった。幾ら約束したとは言え主催者側は自分に不利益な願い事を叶えるだろうか? そんな願いを持つものがいることを見越して何らかの手を打っているのではないか?    「止まって」    そんなことを考えていると、ずっと黙っていた兎が短く口を開いた。何故? もう目指す学園は目前で後はこの先に見える校門をくぐれば……って誰かいる。上品な着物を北尾バァさんがこっちを見ながらニコニコと手を振っている。それを見たとたん何故か猛烈に嫌な予感が背中を駆け抜けた。 自分のすぐ傍で突風が起きる。弾丸のように駆け出す兎。ターゲットは目の前の老婆。その腹めがけて繰り出される蹴り。それを片手で受け止める老婆。響き渡る打撃音。  「ヒッヒッヒッ、老人はもっと労わるもんだよ。こんな遠慮容赦のない蹴りを打ち込むなんて最近の若いのは恐ろしいねぇ。これもゆとり教育の弊害ってやつかい?」  「若者の夢を摘むのが趣味のお前のようなババァがいるか!」  「ホントに口の減らない小娘だ、ねぇっ!」    老婆は掴んだ足ごと兎を小枝のように振り回しボクの方向に投げ返す。兎は綺麗な月面宙返りを決めてボクの傍らに着地した。    「何この無駄にアグレッシブなバァさんは……」  「月で長年かぐや姫の家庭教師やってる人間よ」  「家庭教師? 姫の暴走を止める側の人間がなんで邪魔して来るのさ?」  「長年あのイカレたお姫様のお相手が務まるのは、決して自分を見失わないよほどの頑固者かあるいは……」   「姫様とぴったり波長の合う人間だけさね」    つまりクソババァである。これが姫の切り札。自分に都合の悪い願いを砕くこのゲームの最悪のラスボス。こいつを倒さない限り優勝はない。    「ワーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」  「オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!!」    ついでに高まる緊張をぶち壊すようについ最近どっかで聞いた笑い声がステレオで響く。適当な高さのビルの上、そこに先ほど兎に倒されたカニ男と乳売り女が立っていた。    「一般庶民な我輩では一生かかっても触れない姫の御髪を斬る揉む吸うまで我輩は不死身!」  「ハッピーウェディングこそがワタクシのエンディングでしてよー!」    ……何とかと煙は高いところが好きと言うが、ボクの隣の兎と目の前の老婆も含め月にはあんなのしかいないのだろうか。    「もうすぐお月様が完全に顔を出す。そうすりゃタイムアップさ。面倒だから負け兎も負けカニも負け女も纏めてかかっておいで」    それを聞いて、人差し指をくいくい曲げて挑発する老婆に向かって三人が一斉に襲いかかる。しかし、3対1にも関わらず戦況は圧倒的に老婆が優勢だった。 それもそのはずで3人は隙さえあれば残り二人を出し抜こうと脚の引っ張り合いをしているのだから実質1対1と変わりない。 その上この4人の中ではそのスペックは明らかに老婆が頭一つ抜きん出ている。これでは勝てるはずがない。  カニ男が殴られる。乳売り女が投げられる。兎が蹴飛ばされる。その度に立ち上がって老婆に向かって行ってはその繰り返し。    (何か大切な事を忘れてないか……?)  このままでは老婆は倒せない。倒すには3人が協力するしかない。しかしどうやって?本当に協力はできないのか? ボクたちは何か大切なことを見落としてないか? 思考を働かせろ。あの時の出会いから今までのことを思い出せ。どんな些細なことも見落とさないよう繰り返し繰り返し。 兎は願った。「暴君の姫を玉座より蹴落として仲間たちを救いたい」 カニ男は願った。「一般人の自分では一生叶わない雲の上の姫の髪に触れたい」 乳売り女は願った。「月面トップを飾り自分を変えて独身生活を終わらせたい」    「あ……」   頭の中でバラバラだったパズルのピースがカチリカチリと音を立てて組み合わさる。 タイミングよく仲良く僕の足元に転がってきた三人に向けてボクは叫ぶ。    「あんたら仲良くしなさい!」    そう、彼らは協力できる。だって3人は手段が同じだけでその目標はバラバラなのだから。そして、ボク達の逆転劇が始まった。    1.兎が勝ち抜き姫を下し姫が雲の上の人間でなくなれば、カニ男はその髪を触ることができる。    「見ィよ。驚異の生態その3! 泡!」    カニ男がブーッとあたり一面を包み込む大量の泡を吐き出す。    「小賢しい煙幕かえ? こんなもの鍛えに鍛えた我が感覚ならを……臭っ!?」    あわてて鼻を押さえる老婆。泡の煙幕の中立ちこめる異臭それは、    「オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! 乾いたミルクの香りはとてもキツくてよ!」    2.乳売り女の目的は十五夜の月面を飾ることで姫本人はどうでも良い。  「ぬぅっこしゃくなぁ!」    初めて老婆が取り乱した。その隙を突いて今度こそ3人で一斉に襲いかかる。 だが老婆は気配を頼りに右から突っ込んできたカニ男を一歩後ろに下がって避け、その首を両の腕を使い裸締めで絞め落とす。 更に背後からこちらの頭めがけて壷を振り下ろそうとしていた乳売り女の方を振り向きボディに蹴りを一発。苦しさのあまり蹲ったところを踏んづけた。    (残る気配は後一つ。間違いなくあの小娘。残る片足で蹴り倒せば終わりさね)    だが長年の経験の末に生み出された冷静な戦術論で導き出された答えは、いるはずのないその叫び声に覆される。    「驚異の生態其の2応用編・変わり身ィ!」    実は抜け殻を囮にして自由の身のカニ男が老婆に迫る。煙幕はこれを隠すためだったのか。    「チィッ!」    今度は左から突っ込んできたカニ男を男を残る片足で蹴り飛ばす。そして残った最後の気配の持ち主が……、    「重力子全開放! 超反重力場形成!」   鋭い叫び声とともに真正面から風を切って迫る必殺の一撃。とっさに抜け殻を捨て両手で受け止める。      「これが奥の手かい? 久々にひやりとしたが惜しかったねぇ。私にゃ後一歩届かない! このまま時間切れさぁ!」    半重力場で吹き散らされ辺りを覆っていた煙幕が一気に晴れる。その先にある相手の顔を見て老婆は固まった。 だってそこにいたのは悔しさに顔を歪ませる兎ではなく、自分達の勝利を確信し会心の笑みを浮かべるボクだったのだから。    「これがその一歩だ!」    ボクのすぐ背後には兎。十分な距離を駆け溜めに溜めた運動エネルギーをまとって杵の頭に向けてキックを放つ。 その一撃で拮抗状態を打ち破られた杵は、老婆の手をすり抜けその腹に深々と突き刺さった。    息を潜めて合図を待つ。その一瞬を聞き逃さぬよう気を緩めることなく。自分達の勝利を祈りながら。    「重力子全開放! 超反重力場形成!」    合図とともに大地を蹴る。加速。加速。加速。加速。加速。加速。加速。 風の中で胸一杯に感謝の気持ちがあふれ出る。あの地球人の少年に。その少年に出会えた偶然に。そして少年がくれた最高の奇跡に。 今風を追い抜いて彼の元へ。そして放たれる乾坤一擲。    「し、しもうたぁぁぁぁぁぁ―――――!!!」  目の前でドップラー効果の聞いた悲鳴を上げながら、地球の重力と反発する超反重力場に包まれた老婆がロケットのように夜空の遥か彼方で美しい顔を見せている月まで飛んでいく。  これにて今年の十五夜バトルロワイヤルは終わりを告げるのだった。    当たり前のことだが夜が終われば朝がくる。かく言うボクもあの悪夢のようなお祭り騒ぎの一夜が明ければ再び平凡な日常にはじま―――    「ハァー…全く最低ね。まさかこの私のゴージャスでセレブーでエキサイティングな生活がこんな1人見かけたら30人はいそうな下民のせいで台無しになるなんて! ちょっと聞いてる! この私のかりょうびんがも頭を垂れる美声を聞けているのよ! 一語一句逃さずその空っぽな脳みそに刻み込まないと八つ裂きにしてやるわ!」    ――らなかったよorz 目覚ましコールは鼓膜も破れんばかりの破砕音。気づけば半壊してるマイハウス&マイルーム。目の前には時代錯誤の十二単を羽織った黒髪ショートの怒れる美少女。あとその美少女に可哀想な人を見るような視線を向けてる兎が一匹。 これは夢なのか? 夢だったら良いなー。もしこれが現実だったらボクは明日から何も信じられなくなりそうだ。  「気持ちは分かるけど全て現実。あの後優勝者である私の願いは叶えられ仲間たちは晴れて開放されたの。んでアレは留学の名目で再び地球に追放された月人A」    と言うことはさっきから騒いでるこの娘があの「なよたけのかぐや姫」なのか。いや月から追放されたのだから今は「なよたけのかぐや(元)姫」と呼ぶのが相応しいのか。  「で、それが何でよりにもよってボクのところに?」    兎は無言。ただ答えるのも面倒とばかりに(元)姫を顎でしゃくった。    「そもそも何よここホントに人間の家? 犬小屋の間違いじゃない! フッ仮にも月の姫を犬小屋送りにするなんて月のノータリン共め中々良い根性してるわね。でも今に見てなさい! もう堕ちるところまで堕ちたわ! 後はひたすら這い上がるのみ! 私の新たなミレニアムがここから始まる! あーなんか思い出してきたわ。確かこの国には四季というものがあるのよね? ほら下民、私の僕として最初の仕事よ。手始めに核の冬ってのが見たいから3秒以内にダイトーリョーとか言う偉そうな下民に取次ぎなさい!」    あー確かにこれを野放しにはできんわな。きっと今のボクは傍らの兎と同じ表情をしているだろう。そしてスッと差し出された彼女の杵を受け取ってボクは大きく振りかぶり――――。   [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
---- [[【十五夜バトルロワイヤル】]]  ボクが兎に出会ったのは、とある秋の日の帰り道でのことだった。 通学用のスクーターをのんびりふかせて群れなす赤とんぼと併走する帰り道。足を止めて澄んだ空を見上げれば真白い月が西の空に顔を覗かせている。  「中秋の名月」…所謂お月見。ススキとお団子を飾ってのんびりお月様を眺めるお祭りごと。 この手のイベントにやたら力を入れるこの町もご多分に漏れず、醒徒会主導の下で今年も盛大なお月見パーティーをやるらしい。  そしてふと視線を道路に戻した時だった。道の先から誰かが飛んできた。勢いよくボクの足元に転がり込む。  思わず視線を足元に向ける。兎のように長い耳、ウサギのように白い髪、兎のように赤い瞳。そしてその身を包む学生服。    「コスプレ?」  それはウサ耳を生やした少女の姿をしていた。少女の方も地面に寝転がったままじっこちらを見つめ返してくる。あまりのことに何が何やら思考が止まる。    「ワーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! 所詮はげっ歯類! 我輩の相手には少々物足りん!」  そして今度は息が詰まった。怪物。特撮ヒーローでよく見るような怪人。人間とカニをごちゃ混ぜにしたような異形がゆっくりとこちらに近づいてくる。    「乗って!」  叫んだ。腰に回される手とぬくもりを確認して急いで来た道をとんぼ返りに引き返す。目指すは学園、頼みの綱は醒徒会。    「ぬぁ!っ? 逃げるが卑怯者! しかし逃がさぬ。見ィよ。脅威の生態その一、カニ走り!(シャカシャカシャカシャカ)」  「ぎゃー!? 変なのが変な動きで変な速さで追いかけてくるゥー!?」  この逃避行がボクと兎の長い夜の始まりだった。          夕暮れ時の混雑時にありながら道が空いていたのは幸いだった。可能な限りの速度を維持して走る。背後では丁々発止のつばぜり合いが行われている。    「このっこのっこのっ!」  「おぐしー姫様のおぐしー。切りたい舐めたいしゃぶりたい。あー!姫様の御髪クンクンしたいよー!」    ボクのベルトにつま先を引っ掛け器用にバランスをとりながら、どこからか取り出した杵でカニ男をどつこうとする兎娘。 ありえない速度のカニ走りで併走しながら兎娘に目掛けて鋏を突きつけるカニ男。やがてその決着は第三者の手によって行われた。てゆーか止めさしたのボクだった。    「あ、赤信号」    急ブレーキ。書き換わるベクトル。働く慣性。それに従い宙を舞う兎。勢い余って交差点に突っ込むカニ男。横からダンプカー。はねられるカニ男。飛び散るキチン質。漂う磯の香り。アッと言う間に衝撃映像の出来上がり。  「まだまだぁ!」  そんなカオスな状況の中心で今しがたダンプにはねられボロボロのカニ男が吼える。  「見ぃよ! 脅威の生態その2!」  叫び声とともにカニ男の背中がボコりと膨らむ。ビシリとひびが入り、  「脱皮!」  ズルリと音を立てて傷一つないカニ男が現れた。相手を探してぐるりと周囲を見渡す。いない。  「重力子開放。半重力場形成」  否、上だ。降り注ぐ声。そして今から餅でもつくかのように振り上げられる杵。  「グラビトンハンマー」  そのまませっかく復活したカニ男は今度はまっすぐ地面に打ち込まれた。            場所は移って道路数本をはさんだコンビニの駐車場。ボクの奢ったキャロットジュースをちびちび飲みながら、彼女は自分たちが月の妖精であること、自分はその中の一人「玉兎」であることを明かしてくれた。 そう言えば地球から見える月の模様から想像される動物は国ごとに違ったイメージだったのを思い出す。それは例えばこの日本なら餅をつく兎であり、他にもカニに見えると言う国もある。 まぁ昔話の類・空想の存在といわれた怪物と超能力を持った学生たちが日夜闘争を繰り広げる新世紀だ。本当に月に兎がいたとしても不思議ではない。そう問題なのは、  「何でそんな連中がこの町で暴れてるのさ?」  「全ての発端はとある宇宙一のバカ姫のはた迷惑な思いつき」    まさに苦虫を噛み潰すといった表情で目の前の兎は言葉を吐き出す。 姫? そう言えばさっき無残にすり潰されたカニ男もそんなことを言っていた。月の住人と姫、この二つのキーワードから導き出される人物は一人しかいない。 その人物とは「なよ竹のかぐや姫」。日本人なら誰もが知る日本昔話のヒロインだ。    「あんなのがヒロイン? そもそもまともなお姫様なら地球に追放されないし自分に求婚してきた皇子を破滅させたりしないでしょ」  リアル月の住人の自分達の姫に対する感想は惨憺たる物だった。おかげで自分の中のかぐや姫像がガラガラ音を立てて崩れていく。    「で、その超銀河バカプリンが暇つぶしに思いついたのが十五夜の月面トップを賭けた月の民によるバトルロワイヤル。優勝者はどんな願いも姫が叶えるオマケつき」    なるほど。それでようやく合点がいった。そんな特上のご褒美があるのなら誰だって血眼になって争うだろう。 ん? となるとこのゲームに参加している目の前の兎にもかなえたい願いがあるのか?    「私? まぁ月で働いてる仲間のためね。知ってる? なぜ月の兎は餅をつくのか。それは罪を償うため。かつて不老不死の薬を盗み月へ逃げた上司(オヒメサマ)の尻拭い。 ただあれの部下とゆーだけで私たちは餅をつかされている。一年365日24時間休みなしに!」    あーつまり彼女の願いは労働条件の改善か。やだ。月の社会ってすげーブラック。    「そう、これは自由を勝ち取るための戦い。そのためには必ず優勝してあの悪魔を玉座から引き摺り下ろしてクーデターを……」  「オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! それは叶わなくてよウサギさん! 優勝するのはこのワタクシに決まってますわー! オーホッホッホッホッホッホッ―――」    何時の間に現れたのかコンビニの電光灯で輝く看板の上には、壷を小脇に抱えはちきれんばかりの胸を質素な服に押し込んだ妙齢の女性。こちらを睥睨しながら肺活量の限界に挑戦するような高笑いをしている。もしかしなくてもボクの横にいる兎の関係者だろう。    「ミルク売りの仕事にかまけて婚期を逃したアラサーがよく言う(ボソリ」  「ホゥッ!!?」    あ、落ちた。何となく気づいてたけどこの兎って毒舌だなぁ。  「ア、アアアラサーちゃうわ! まだ29歳と48ヶ月だわー!」    明らかに負け犬女の叫びだった。乳売り女は明らかに殺気の篭った目で持ってた壷をこちらに構え、パシュゥッ! と音を立てて白い何かを撃ち出す。 ボクは兎に手をひっぱられて寸での所でそれを避ける。避けて、    「んげっ!?」    自分たちがつい一刹那前までいた場所のアスファルトが停めていたボクのスクーターごと真っ二つに割れていた。 ウォーターカッター。ミクロンレベルの極細の穴から超高圧で噴出された液体はダイヤさえも切断する凶器と化す。 この場合その主成分は多分牛乳。それでもその破壊力は洒落にならない。    「栄えある十五夜の月を埋め尽くすワタクシのセクシーグラビア。性欲をもてあましてスベースシャトルでワタクシに求婚に来る地球のイケメンたち。そうワタクシは今夜生まれ変わるの! さようなら今までの惨めなワタクシ、そしてこんにちはニューワタクシ!」  「いやー同じ女として同情が湧かんでもないけどそれ以上にあーはなりたくないわー」  「何で今この状況でそんな火に油を注ぐかなぁ!」  「失礼。月の兎は嘘をつくと前歯が伸びるのです。きゅっきゅっ!」  「やだちょっとだけ可愛い……ちょおぅっアブね掠ったー!」    一層激しさを増すミルクカッター。縦横無尽に繰り出されるそれを気合で避け続ける。    「よしここは囮作戦。貴方が体であれを受け止める役。私がその隙に乳売り女を叩く役」    それやったら間違いなくボクが死ぬ。月の兎は毒を吐く上に外道だった。あーダンジョンの暗がりで冒険者の首刎ねるのも兎だったっけ。 そも自己犠牲は兎の専売特許だろう。今こそ仏陀のために焚き火に飛び込んでステーキになったご先祖を見習うべきだ。    「それは兎的に死亡フラグ」  「人間でももれなく死亡だよ!」  「出会ったばかりなのに息ぴったりで妬ましー!!!……ってあら?」    唐突に猛攻が途絶える。焦った表情で壷を逆さにして上下に揺する乳売り女。どうやら燃料(ミルク)切れらしい。    「ま、待って! ちょっとタンマ! 今新鮮なミルク絞って補給するからー!」    ワタシ外道ラビット。今後トモヨロシク。必死で懇願する乳売り女のその頭に、  「待ったなし。あと公衆の面前でのわいせつ物陳列は犯罪」  ドバカ!と一撃。重く鈍い音を立てて杵がめり込んだ。  日も暮れかかり西の空のお月様の輪郭が大分しっかりしてきた黄昏時の通学路を二人で歩く。互いに無言。疲労困憊で口を開くのも億劫だ。学園はもうすぐそこ、そこには最後の頼みの綱の醒徒会メンバーが待っている。 まぁ今さら彼らを頼った所で事態の解決はないという後ろ向きな確信が僕の中に生まれつつあるのだが、あえてそのことからは目を背けチラッと隣を歩く少女に視線を向ける。 願いを叶えるために遥か遠い月から地球に降り立った玉兎。その願いは月の姫「なよ竹のかぐや姫」解任とそれによる労働条件の改善。  ふと妙な考えが頭をよぎった。幾ら約束したとは言え主催者側は自分に不利益な願い事を叶えるだろうか? そんな願いを持つものがいることを見越して何らかの手を打っているのではないか?    「止まって」    そんなことを考えていると、ずっと黙っていた兎が短く口を開いた。何故? もう目指す学園は目前で後はこの先に見える校門をくぐれば……って誰かいる。上品な着物を北尾バァさんがこっちを見ながらニコニコと手を振っている。それを見たとたん何故か猛烈に嫌な予感が背中を駆け抜けた。 自分のすぐ傍で突風が起きる。弾丸のように駆け出す兎。ターゲットは目の前の老婆。その腹めがけて繰り出される蹴り。それを片手で受け止める老婆。響き渡る打撃音。  「ヒッヒッヒッ、老人はもっと労わるもんだよ。こんな遠慮容赦のない蹴りを打ち込むなんて最近の若いのは恐ろしいねぇ。これもゆとり教育の弊害ってやつかい?」  「若者の夢を摘むのが趣味のお前のようなババァがいるか!」  「ホントに口の減らない小娘だ、ねぇっ!」    老婆は掴んだ足ごと兎を小枝のように振り回しボクの方向に投げ返す。兎は綺麗な月面宙返りを決めてボクの傍らに着地した。    「何この無駄にアグレッシブなバァさんは……」  「月で長年かぐや姫の家庭教師やってる人間よ」  「家庭教師? 姫の暴走を止める側の人間がなんで邪魔して来るのさ?」  「長年あのイカレたお姫様のお相手が務まるのは、決して自分を見失わないよほどの頑固者かあるいは……」   「姫様とぴったり波長の合う人間だけさね」    つまりクソババァである。これが姫の切り札。自分に都合の悪い願いを砕くこのゲームの最悪のラスボス。こいつを倒さない限り優勝はない。    「ワーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」  「オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!!」    ついでに高まる緊張をぶち壊すようについ最近どっかで聞いた笑い声がステレオで響く。適当な高さのビルの上、そこに先ほど兎に倒されたカニ男と乳売り女が立っていた。    「一般庶民な我輩では一生かかっても触れない姫の御髪を斬る揉む吸うまで我輩は不死身!」  「ハッピーウェディングこそがワタクシのエンディングでしてよー!」    ……何とかと煙は高いところが好きと言うが、ボクの隣の兎と目の前の老婆も含め月にはあんなのしかいないのだろうか。    「もうすぐお月様が完全に顔を出す。そうすりゃタイムアップさ。面倒だから負け兎も負けカニも負け女も纏めてかかっておいで」    それを聞いて、人差し指をくいくい曲げて挑発する老婆に向かって三人が一斉に襲いかかる。しかし、3対1にも関わらず戦況は圧倒的に老婆が優勢だった。 それもそのはずで3人は隙さえあれば残り二人を出し抜こうと脚の引っ張り合いをしているのだから実質1対1と変わりない。 その上この4人の中ではそのスペックは明らかに老婆が頭一つ抜きん出ている。これでは勝てるはずがない。  カニ男が殴られる。乳売り女が投げられる。兎が蹴飛ばされる。その度に立ち上がって老婆に向かって行ってはその繰り返し。    (何か大切な事を忘れてないか……?)  このままでは老婆は倒せない。倒すには3人が協力するしかない。しかしどうやって?本当に協力はできないのか? ボクたちは何か大切なことを見落としてないか? 思考を働かせろ。あの時の出会いから今までのことを思い出せ。どんな些細なことも見落とさないよう繰り返し繰り返し。 兎は願った。「暴君の姫を玉座より蹴落として仲間たちを救いたい」 カニ男は願った。「一般人の自分では一生叶わない雲の上の姫の髪に触れたい」 乳売り女は願った。「月面トップを飾り自分を変えて独身生活を終わらせたい」    「あ……」   頭の中でバラバラだったパズルのピースがカチリカチリと音を立てて組み合わさる。 タイミングよく仲良く僕の足元に転がってきた三人に向けてボクは叫ぶ。    「あんたら仲良くしなさい!」    そう、彼らは協力できる。だって3人は手段が同じだけでその目標はバラバラなのだから。そして、ボク達の逆転劇が始まった。    1.兎が勝ち抜き姫を下し姫が雲の上の人間でなくなれば、カニ男はその髪を触ることができる。    「見ィよ。驚異の生態その3! 泡!」    カニ男がブーッとあたり一面を包み込む大量の泡を吐き出す。    「小賢しい煙幕かえ? こんなもの鍛えに鍛えた我が感覚ならを……臭っ!?」    あわてて鼻を押さえる老婆。泡の煙幕の中立ちこめる異臭それは、    「オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! 乾いたミルクの香りはとてもキツくてよ!」    2.乳売り女の目的は十五夜の月面を飾ることで姫本人はどうでも良い。  「ぬぅっこしゃくなぁ!」    初めて老婆が取り乱した。その隙を突いて今度こそ3人で一斉に襲いかかる。 だが老婆は気配を頼りに右から突っ込んできたカニ男を一歩後ろに下がって避け、その首を両の腕を使い裸締めで絞め落とす。 更に背後からこちらの頭めがけて壷を振り下ろそうとしていた乳売り女の方を振り向きボディに蹴りを一発。苦しさのあまり蹲ったところを踏んづけた。    (残る気配は後一つ。間違いなくあの小娘。残る片足で蹴り倒せば終わりさね)    だが長年の経験の末に生み出された冷静な戦術論で導き出された答えは、いるはずのないその叫び声に覆される。    「驚異の生態其の2応用編・変わり身ィ!」    実は抜け殻を囮にして自由の身のカニ男が老婆に迫る。煙幕はこれを隠すためだったのか。    「チィッ!」    今度は左から突っ込んできたカニ男を男を残る片足で蹴り飛ばす。そして残った最後の気配の持ち主が……、    「重力子全開放! 超反重力場形成!」   鋭い叫び声とともに真正面から風を切って迫る必殺の一撃。とっさに抜け殻を捨て両手で受け止める。      「これが奥の手かい? 久々にひやりとしたが惜しかったねぇ。私にゃ後一歩届かない! このまま時間切れさぁ!」    半重力場で吹き散らされ辺りを覆っていた煙幕が一気に晴れる。その先にある相手の顔を見て老婆は固まった。 だってそこにいたのは悔しさに顔を歪ませる兎ではなく、自分達の勝利を確信し会心の笑みを浮かべるボクだったのだから。    「これがその一歩だ!」    ボクのすぐ背後には兎。十分な距離を駆け溜めに溜めた運動エネルギーをまとって杵の頭に向けてキックを放つ。 その一撃で拮抗状態を打ち破られた杵は、老婆の手をすり抜けその腹に深々と突き刺さった。    息を潜めて合図を待つ。その一瞬を聞き逃さぬよう気を緩めることなく。自分達の勝利を祈りながら。    「重力子全開放! 超反重力場形成!」    合図とともに大地を蹴る。加速。加速。加速。加速。加速。加速。加速。 風の中で胸一杯に感謝の気持ちがあふれ出る。あの地球人の少年に。その少年に出会えた偶然に。そして少年がくれた最高の奇跡に。 今風を追い抜いて彼の元へ。そして放たれる乾坤一擲。    「し、しもうたぁぁぁぁぁぁ―――――!!!」  目の前でドップラー効果の聞いた悲鳴を上げながら、地球の重力と反発する超反重力場に包まれた老婆がロケットのように夜空の遥か彼方で美しい顔を見せている月まで飛んでいく。  これにて今年の十五夜バトルロワイヤルは終わりを告げるのだった。    当たり前のことだが夜が終われば朝がくる。かく言うボクもあの悪夢のようなお祭り騒ぎの一夜が明ければ再び平凡な日常にはじま―――    「ハァー…全く最低ね。まさかこの私のゴージャスでセレブーでエキサイティングな生活がこんな1人見かけたら30人はいそうな下民のせいで台無しになるなんて! ちょっと聞いてる! この私のかりょうびんがも頭を垂れる美声を聞けているのよ! 一語一句逃さずその空っぽな脳みそに刻み込まないと八つ裂きにしてやるわ!」    ――らなかったよorz 目覚ましコールは鼓膜も破れんばかりの破砕音。気づけば半壊してるマイハウス&マイルーム。目の前には時代錯誤の十二単を羽織った黒髪ショートの怒れる美少女。あとその美少女に可哀想な人を見るような視線を向けてる兎が一匹。 これは夢なのか? 夢だったら良いなー。もしこれが現実だったらボクは明日から何も信じられなくなりそうだ。  「気持ちは分かるけど全て現実。あの後優勝者である私の願いは叶えられ仲間たちは晴れて開放されたの。んでアレは留学の名目で再び地球に追放された月人A」    と言うことはさっきから騒いでるこの娘があの「なよたけのかぐや姫」なのか。いや月から追放されたのだから今は「なよたけのかぐや(元)姫」と呼ぶのが相応しいのか。  「で、それが何でよりにもよってボクのところに?」    兎は無言。ただ答えるのも面倒とばかりに(元)姫を顎でしゃくった。    「そもそも何よここホントに人間の家? 犬小屋の間違いじゃない! フッ仮にも月の姫を犬小屋送りにするなんて月のノータリン共め中々良い根性してるわね。でも今に見てなさい! もう堕ちるところまで堕ちたわ! 後はひたすら這い上がるのみ! 私の新たなミレニアムがここから始まる! あーなんか思い出してきたわ。確かこの国には四季というものがあるのよね? ほら下民、私の僕として最初の仕事よ。手始めに核の冬ってのが見たいから3秒以内にダイトーリョーとか言う偉そうな下民に取次ぎなさい!」    あー確かにこれを野放しにはできんわな。きっと今のボクは傍らの兎と同じ表情をしているだろう。そしてスッと差し出された彼女の杵を受け取ってボクは大きく振りかぶり――――。   [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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