【まけんりょーいきぶれーどぞーん まくあいのいち】

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 【まけんりょーいきぶれーどぞーん まくあいのいち】  榊芳春: 「ぬがーーー!! 何であのガイジンに勝てねえんだ!!」  某月某日。三度目を数えて恒例行事となった襲撃でまたもダルキーちゃんに撃退された佐藤君、もといアイアンちゃんが地面に大の字に倒れたまま唸っている。  一応見守っていたけれど、今回はダルキーちゃんの方が「そろそろ来る」ってわかっていたみたいで準備万端だったわね。とってもワンサイドゲームだったわ。 「年齢か! 年齢の差か! 年食えば俺もレベル上がって師匠みたいなエキスパートになれるのか!」 「私はあなたより二十年近く長生きはしてるけれどねぇ」  それはあまり大した問題じゃない。 「重要なのは年齢より修練を積んだ期間よ?」 「何か違うのかそれ?」 「土台に鉄を積み上げるかスポンジを積み上げるかって話よ。ただ年齢だけ上がって、力だけ増えても、中身が伴わなければ脆いもの」  だから日々の修練は重要なの。護り屋を辞めて教師になった私でも、衰えない程度には今も修練を欠かさない。 「なるほど師匠が鉄か。俺も鉄積み上げてエキスパートになりてえ」 「この双葉学園のカリキュラムは悪くないわよ? 心身を壊さず、きちんと強くなれる、今も将来もちゃんと考えられたコースだもの」  1999年、何らかの事情で異能を持つ人間の数は増大した。もちろん今もまだ世間に秘匿できるレベル。でも異能の子供達は確実に増えた。  子供達をきちんと育ててあげるために考えられたメニューは私から見ても上等。 「昔はひどかったものよ。苦行や効果のない特訓も多くて、無駄に亡くなったり、後遺症を負った上に成果がでなかったなんてこともよくあったわ」 「……俺はそんなの簡便だぜ師匠」 「大丈夫よ。今の特訓メニューは双葉学園のメニューに私が鉄使い用のプログラムを足したものだから、やっていれば確実に強くなれるわ」  彼が私のところに来る前にこなしていたメニューは短期的な強化は見込めるけれど、その分寿命を縮めるタイプのメニューだったから、今は改めさせた。  けれども逆に、伸びがいいからもう少しスパルタなプランも試したくなる。ま、それはもっと基礎が固まってからね。 「じゃああのガイジン野郎はいつごろ倒せるんだ?」 「あなたがここの高等部を卒業する頃には勝てるんじゃないかしら」 「ああ!? あいつその時にはイタリアに帰ってるじゃねえか! 駄目だ師匠! もっとパワーアップできるプランで頼む!」 「ダ~メ。さっきの話聞いてなかったの?」 「でもよぅ……」 「んー、じゃあ数ヶ月で一矢報いるプランは考えてあげてもいいわよ?」 「マジで!? 頼むぜ師匠!」  バッと跳ね起きてガッツポーズするアイアンちゃん。元気ねえ。 「た・だ・し」 「……ただし?」 「この小学校のドリルが全教科終わってからね」  あんぐりと口を開けてガッツポーズのまま固まるアイアンちゃん。  でもねアイアンちゃん、厳しいようだけど教師としてあの点数は見逃せないの。0点どころか自分の名前書き損じてマイナスとか初めてだわ。  だから今は師匠じゃなくて先生として指導しなきゃいけないの! 「い、いやだーーーーー!!」  走って逃げ出すアイアンちゃん。  それを砂鉄の『手』で捕まえて、そのまま校内の自習室に連れて行く。 「とりあえず九九と常用漢字はマスターしましょうね」 「そ、そんなことしてたらそれで卒業になっちまうぞ!?」 「大丈夫大丈夫」  こっちはスパルタで一気に教え込んじゃうから。  白東院迦楼羅: 「あらあら、どうしましょう」  某月某日。私は貯金通帳を眺めて困り果てています。  たしかこの通帳、一月ほど前まで九桁はあったはずなのですれど。  今は四桁しかありません。 「どうしてこんなことになっているのでしょう」 「……僭越ながら、それは姉さんの金銭感覚がおかしいからです」  不思議に思っていると、横から潤香さんが声を掛けてくれました。  けれど、金銭感覚がおかしいとはどういうことなのでしょう? 「姉さん、よろしければ一からご説明いたしますが」 「あらあら、じゃあお願いしようかしら」  潤香さんは私が気づかないことにも気づける人だから、こういうときにとても助けてもらえます。 「まず始めに。……姉さん、このマンション、賃貸契約ではなく買ってしまったでしょう。それも一括で」 「ええ、月々ちょっとずつ減っていくより一気に済ませたほうが話は簡単ではなくて?」 「額を考えてください。それに……買ってもあと何年かすれば姉さんは卒業じゃないですか。数年お借りするのと、購入するとでは桁が違います。最低でも数千万、姉さん流に言って八桁しますよ」 「あらあら」  案外に値が張るのですね。前の別邸の百分の一程度なのに。これがぼったくりというものでしょうか? 「次です。食器をあれもこれも名品ばかり揃えないでください。食器全部合わせるとまた八桁ですよ」 「あ、そうなのよ。この間とても良い品物があったものだから。驚かないでね、禁裏様式の」 「だから普通はそんなもの食器にしないと言っているんです姉さん……。幸い、ダルキー様が洋食主体の方なのでこれまで高級な食器は使わずに済んでいますが、もし使ってお汚し、あまつさえ壊してしまったら金銭だけでなく歴史的にも問題が……」 「あらあら、ネガティブねえ潤香さん」 「姉さん、これは私の性格の問題ではなく常識の範囲で……」 「けれど別邸で使っていた食器もこんなものだったけれど」 「……姉さん、私、今初めて冷遇されていて良かったと思いました」 「あら駄目よ? そんな風に考えて」 「…………。いえ、いいです。それで、現状の財政状況に陥った極め付けなのですれけど」 「姉さん、普通ドラ○もん募金に億単位の金額を寄付する人はいません」 「ええ? けれど南アフリカの子供たちが飢えているのよ?」 「姉さん、そもそも募金と言うものは日々の糧から余裕があるだけ寄付するもので、全財産は入れません」 「あらあら、潤香さん。九桁くらい大した金額ではありませんよ。全財産なんて大袈裟な」 「…………姉さん」  潤香さん、顔色悪いですね。 もしかしてダルキーさんが昼食に何かヘンなものでも入れたのかしら。  ぶち殺してやろうかあのナポリタン。 「姉さん、現状を打開する手段ですが、一先ずは食器を手放しましょう。それでかなりまとまった金額になるはずですし、食器もきちんと愛でてくれる好事家の手元にあったほうがよいでしょう」 「あらあら」 「それと、これから銀行のカードと通帳は私が持ちます」 「ええ? どうして?」 「……姉さんに持たせたままでは確実に今の二の舞になるからです」  あらあら、それは困りますね。どうしてそうなるのかまだいまいちわかりませんけれど。  あ、でもそうなったら。 「潤香さん、お買い物をしたくなったらどうすればいいのでしょう?」 「姉さんの財布に常に三万円ほど入れておきます。常識的な範囲ならこれで足りるはずです」  三万円、って七桁くらいかしら? 「また、何か買いたいものがあったら言ってください。常識的な範囲なら大丈夫です」 「常識的な範囲ね! わかったわ!」  あ、これは常識的ですよね。 「ハイヤーと運転手を」 「却下」  ダルキー・アヴォガドロ:  某月某日。隣家、というかカルラの浪費に端を発した白東院姉妹の経済危機はウルカさんによって解決したようだ。  何だかんだでやはり姉妹。ウルカさんの性格改善の一番の薬はカルラかもしれない、良くも悪くも。  さて俺はと言えばパソコンとインターネット回線を使ってEADD本社にTV電話を掛けている。定期報告の一環だ。 「こちらダルキー・アヴォガドロ。EADD本社どうぞ」  コールから一拍置いて 『いょーう! ダッキーじゃーン! 元気してたー? 俺超元気ー! 昨日も街で知り合ったバンビーナとわーぉう!』 画面に出たのは陽気を通り越し馬鹿をも凌駕した弩阿呆の顔だった。 「シリウス・バルバート……」  俺と同じくEADD社員のイタリア人。しかし俺とは諸々反対の男が画面の向こうにいた。 『なになになになに? 所長に電話? ラブコール? ダッキーと社長ってそういう関係だったのわーぉう! マニアック!』 「うぜえ、黙れ」  一言で弩阿呆。二言では糞陽気な弩阿呆で表現できるこの男。アイアンのような馬鹿も大概だが、こいつは比較にならんレベルだ。生理的に、ない。  俺にとって一番屈辱だったのは、この国ではイタリア人のイメージがどちらかと言えばこいつ寄りのイメージだったこと。イタリア人がみんなこんなんだと思われても困る。 「たしかに所長に電話だけどな、用件は定期報告だ。わかったら代われ、脳みそ空っぽ野郎」  所長、つまりは俺の上司。俺を島流しにした人物だが、会社的には俺はまだ彼女の直属の部下だ。よって面倒だが報告も彼女に直接行う。 『えー? でも所長いないぜー?』 「あ?」 『さっき急用でなー、前から網張ってた殺人鬼見つけたから狩り行ったよーん。『犬』も一緒だったから大捕り物になるんじゃない? わーぉう♪』 「いつごろ戻る?」 『さーあ? ロシアまで飛んでったからわからんさー!』  一ヶ月少々では上司の現場主義は直るわけもなかったらしい。相変わらずのようだ。 「そうか、じゃあ所長が帰ったら俺が報告待ちだと伝えてくれ」 『あいよあいよー♪ あ、ところでダッキー』 「何だ?」 『お前今黒髪美人姉妹と半同棲なんだって!? マジうらやま! で、実際どうなの! 姉妹二人に挟まれてきゃっきゃうふふふふーって! わーおぅ!』 「死ね」  PCの主電源ボタン押して強引に糞陽気な弩阿呆との会話をシャットダウンした。    シリウス・バルバート: 「うわーおぅ、ダッキーってばPCの電源ごと落っことしたな!」  こっちからコールしようとしてもダッキーのアイコン無反応。  んー、ちょっとからかいすぎた、かなン? 「どーしよー! 所長から預かってた伝言まだ言ってないぜぃわーおぅ!」  手元には所長がダッキー宛に残した伝言文書が一通。……所長も直でメールすればいいのにね。あの人、肝心なところで回りくどいんだから。  けど伝えようにもダッキーってば俺からの着信とメール全拒否だもんなー。公衆電話から掛けても切るってどういうことなのさー。 「まー、別に伝えなかったからって死ぬわけでもないだろうしいっかな!」  そういえばどんな文面だったんだろこの伝言。  『ダルキーへ。   こっちで指名手配中の<赤色の魔女達>が日本へと渡ったらしい。   連中の狙いはわからない。 関わることは無いと思うけど、一応用心だけはしといてね。 PS.あんたのマンションの賃貸料は経費では落ちないから自腹ね』  NEXT
 【まけんりょーいきぶれーどぞーん まくあいのいち】  榊芳春: 「ぬがーーー!! 何であのガイジンに勝てねえんだ!!」  某月某日。三度目を数えて恒例行事となった襲撃でまたもダルキーちゃんに撃退された佐藤君、もといアイアンちゃんが地面に大の字に倒れたまま唸っている。  一応見守っていたけれど、今回はダルキーちゃんの方が「そろそろ来る」ってわかっていたみたいで準備万端だったわね。とってもワンサイドゲームだったわ。 「年齢か! 年齢の差か! 年食えば俺もレベル上がって師匠みたいなエキスパートになれるのか!」 「私はあなたより二十年近く長生きはしてるけれどねぇ」  それはあまり大した問題じゃない。 「重要なのは年齢より修練を積んだ期間よ?」 「何か違うのかそれ?」 「土台に鉄を積み上げるかスポンジを積み上げるかって話よ。ただ年齢だけ上がって、力だけ増えても、中身が伴わなければ脆いもの」  だから日々の修練は重要なの。護り屋を辞めて教師になった私でも、衰えない程度には今も修練を欠かさない。 「なるほど師匠が鉄か。俺も鉄積み上げてエキスパートになりてえ」 「この双葉学園のカリキュラムは悪くないわよ? 心身を壊さず、きちんと強くなれる、今も将来もちゃんと考えられたコースだもの」  1999年、何らかの事情で異能を持つ人間の数は増大した。もちろん今もまだ世間に秘匿できるレベル。でも異能の子供達は確実に増えた。  子供達をきちんと育ててあげるために考えられたメニューは私から見ても上等。 「昔はひどかったものよ。苦行や効果のない特訓も多くて、無駄に亡くなったり、後遺症を負った上に成果がでなかったなんてこともよくあったわ」 「……俺はそんなの簡便だぜ師匠」 「大丈夫よ。今の特訓メニューは双葉学園のメニューに私が鉄使い用のプログラムを足したものだから、やっていれば確実に強くなれるわ」  彼が私のところに来る前にこなしていたメニューは短期的な強化は見込めるけれど、その分寿命を縮めるタイプのメニューだったから、今は改めさせた。  けれども逆に、伸びがいいからもう少しスパルタなプランも試したくなる。ま、それはもっと基礎が固まってからね。 「じゃああのガイジン野郎はいつごろ倒せるんだ?」 「あなたがここの高等部を卒業する頃には勝てるんじゃないかしら」 「ああ!? あいつその時にはイタリアに帰ってるじゃねえか! 駄目だ師匠! もっとパワーアップできるプランで頼む!」 「ダ~メ。さっきの話聞いてなかったの?」 「でもよぅ……」 「んー、じゃあ数ヶ月で一矢報いるプランは考えてあげてもいいわよ?」 「マジで!? 頼むぜ師匠!」  バッと跳ね起きてガッツポーズするアイアンちゃん。元気ねえ。 「た・だ・し」 「……ただし?」 「この小学校のドリルが全教科終わってからね」  あんぐりと口を開けてガッツポーズのまま固まるアイアンちゃん。  でもねアイアンちゃん、厳しいようだけど教師としてあの点数は見逃せないの。0点どころか自分の名前書き損じてマイナスとか初めてだわ。  だから今は師匠じゃなくて先生として指導しなきゃいけないの! 「い、いやだーーーーー!!」  走って逃げ出すアイアンちゃん。  それを砂鉄の『手』で捕まえて、そのまま校内の自習室に連れて行く。 「とりあえず九九と常用漢字はマスターしましょうね」 「そ、そんなことしてたらそれで卒業になっちまうぞ!?」 「大丈夫大丈夫」  こっちはスパルタで一気に教え込んじゃうから。  白東院迦楼羅: 「あらあら、どうしましょう」  某月某日。私は貯金通帳を眺めて困り果てています。  たしかこの通帳、一月ほど前まで九桁はあったはずなのですれど。  今は四桁しかありません。 「どうしてこんなことになっているのでしょう」 「……僭越ながら、それは姉さんの金銭感覚がおかしいからです」  不思議に思っていると、横から潤香さんが声を掛けてくれました。  けれど、金銭感覚がおかしいとはどういうことなのでしょう? 「姉さん、よろしければ一からご説明いたしますが」 「あらあら、じゃあお願いしようかしら」  潤香さんは私が気づかないことにも気づける人だから、こういうときにとても助けてもらえます。 「まず始めに。……姉さん、このマンション、賃貸契約ではなく買ってしまったでしょう。それも一括で」 「ええ、月々ちょっとずつ減っていくより一気に済ませたほうが話は簡単ではなくて?」 「額を考えてください。それに……買ってもあと何年かすれば姉さんは卒業じゃないですか。数年お借りするのと、購入するとでは桁が違います。最低でも数千万、姉さん流に言って八桁しますよ」 「あらあら」  案外に値が張るのですね。前の別邸の百分の一程度なのに。これがぼったくりというものでしょうか? 「次です。食器をあれもこれも名品ばかり揃えないでください。食器全部合わせるとまた八桁ですよ」 「あ、そうなのよ。この間とても良い品物があったものだから。驚かないでね、禁裏様式の」 「だから普通はそんなもの食器にしないと言っているんです姉さん……。幸い、ダルキー様が洋食主体の方なのでこれまで高級な食器は使わずに済んでいますが、もし使ってお汚し、あまつさえ壊してしまったら金銭だけでなく歴史的にも問題が……」 「あらあら、ネガティブねえ潤香さん」 「姉さん、これは私の性格の問題ではなく常識の範囲で……」 「けれど別邸で使っていた食器もこんなものだったけれど」 「……姉さん、私、今初めて冷遇されていて良かったと思いました」 「あら駄目よ? そんな風に考えて」 「…………。いえ、いいです。それで、現状の財政状況に陥った極め付けなのですれけど」 「姉さん、普通ドラ○もん募金に億単位の金額を寄付する人はいません」 「ええ? けれど南アフリカの子供たちが飢えているのよ?」 「姉さん、そもそも募金と言うものは日々の糧から余裕があるだけ寄付するもので、全財産は入れません」 「あらあら、潤香さん。九桁くらい大した金額ではありませんよ。全財産なんて大袈裟な」 「…………姉さん」  潤香さん、顔色悪いですね。  もしかしてダルキーさんが昼食に何かヘンなものでも入れたのかしら。  ぶち殺してやろうかあのナポリタン。 「姉さん、現状を打開する手段ですが、一先ずは食器を手放しましょう。それでかなりまとまった金額になるはずですし、食器もきちんと愛でてくれる好事家の手元にあったほうがよいでしょう」 「あらあら」 「それと、これから銀行のカードと通帳は私が持ちます」 「ええ? どうして?」 「……姉さんに持たせたままでは確実に今の二の舞になるからです」  あらあら、それは困りますね。どうしてそうなるのかまだいまいちわかりませんけれど。  あ、でもそうなったら。 「潤香さん、お買い物をしたくなったらどうすればいいのでしょう?」 「姉さんの財布に常に三万円ほど入れておきます。常識的な範囲ならこれで足りるはずです」  三万円、って七桁くらいかしら? 「また、何か買いたいものがあったら言ってください。常識的な範囲なら大丈夫です」 「常識的な範囲ね! わかったわ!」  あ、これは常識的ですよね。 「ハイヤーと運転手を」 「却下」  ダルキー・アヴォガドロ:  某月某日。隣家、というかカルラの浪費に端を発した白東院姉妹の経済危機はウルカさんによって解決したようだ。  何だかんだでやはり姉妹。ウルカさんの性格改善の一番の薬はカルラかもしれない、良くも悪くも。  さて俺はと言えばパソコンとインターネット回線を使ってEADD本社にTV電話を掛けている。定期報告の一環だ。 「こちらダルキー・アヴォガドロ。EADD本社どうぞ」  コールから一拍置いて 『いょーう! ダッキーじゃーン! 元気してたー? 俺超元気ー! 昨日も街で知り合ったバンビーナとわーぉう!』  画面に出たのは陽気を通り越し馬鹿をも凌駕した弩阿呆の顔だった。 「シリウス・バルバート……」  俺と同じくEADD社員のイタリア人。しかし俺とは諸々反対の男が画面の向こうにいた。 『なになになになに? 所長に電話? ラブコール? ダッキーと社長ってそういう関係だったのわーぉう! マニアック!』 「うぜえ、黙れ」  一言で弩阿呆。二言では糞陽気な弩阿呆で表現できるこの男。アイアンのような馬鹿も大概だが、こいつは比較にならんレベルだ。生理的に、ない。  俺にとって一番屈辱だったのは、この国ではイタリア人のイメージがどちらかと言えばこいつ寄りのイメージだったこと。イタリア人がみんなこんなんだと思われても困る。 「たしかに所長に電話だけどな、用件は定期報告だ。わかったら代われ、脳みそ空っぽ野郎」  所長、つまりは俺の上司。俺を島流しにした人物だが、会社的には俺はまだ彼女の直属の部下だ。よって面倒だが報告も彼女に直接行う。 『えー? でも所長いないぜー?』 「あ?」 『さっき急用でなー、前から網張ってた殺人鬼見つけたから狩り行ったよーん。『犬』も一緒だったから大捕り物になるんじゃない? わーぉう♪』 「いつごろ戻る?」 『さーあ? ロシアまで飛んでったからわからんさー!』  一ヶ月少々では上司の現場主義は直るわけもなかったらしい。相変わらずのようだ。 「そうか、じゃあ所長が帰ったら俺が報告待ちだと伝えてくれ」 『あいよあいよー♪ あ、ところでダッキー』 「何だ?」 『お前今黒髪美人姉妹と半同棲なんだって!? マジうらやま! で、実際どうなの! 姉妹二人に挟まれてきゃっきゃうふふふふーって! わーおぅ!』 「死ね」  PCの主電源ボタン押して強引に糞陽気な弩阿呆との会話をシャットダウンした。    シリウス・バルバート: 「うわーおぅ、ダッキーってばPCの電源ごと落っことしたな!」  こっちからコールしようとしてもダッキーのアイコン無反応。  んー、ちょっとからかいすぎた、かなン? 「どーしよー! 所長から預かってた伝言まだ言ってないぜぃわーおぅ!」  手元には所長がダッキー宛に残した伝言文書が一通。……所長も直でメールすればいいのにね。あの人、肝心なところで回りくどいんだから。  けど伝えようにもダッキーってば俺からの着信とメール全拒否だもんなー。公衆電話から掛けても切るってどういうことなのさー。 「まー、別に伝えなかったからって死ぬわけでもないだろうしいっかな!」  そういえばどんな文面だったんだろこの伝言。  『ダルキーへ。   こっちで指名手配中の<赤色の魔女達>が日本へと渡ったらしい。   連中の狙いはわからない。   関わることは無いと思うけど、一応用心だけはしといてね。   PS.あんたのマンションの賃貸料、経費で落ちないから自腹ね』  NEXT

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