【怪物記 第四話OTHER】

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・・・・・・  &italic(){あなたがこの事件の解決にハッピーエンドを望むのならば、この先は読むべきではない。} ・・・・・・ ・OTHER SIDE  灰児とリリエラが去ってからどれほど経っただろう。火遼岳から人の気配が消え、日が落ちても、踊盃と火遼鬼達は無言だった。 「みんな……」  踊盃はようやく声を振り絞り、これまでのことを詫びようとするが、肝心の言葉が出てこない。それほどまでにしてしまったことは罪深く取り返しがつかない。許してくれとは、とても言えない。 「いいんじゃ、もういいんじゃよ、踊盃……いや踊鬼《ヨウキ》」  火遼鬼の中で一番年配の老人が踊盃……踊鬼の肩に手を置く。 「長老、でもアタシは、アタシが、死ななきゃ……」 「バカモノ! それではただの無駄死にじゃ。おぬしも、死んでしまった防人たちも、人間たちもな。……のう踊鬼、あの子供らを見ろ、みな……弱い。おぬしが護らねば、子供らは生きていけぬ。今のおぬしの命はお前だけのものではないのじゃ。おぬしは生きねばならぬ。だからこそわしらはおぬしを許そう」 「長老……みんな……許してくれるのかい……?」 「許すとも。そして踊鬼よ、護ってくれぬか、子供らを、この火遼岳を、火遼鬼の未来を」 「……ああ! アタシが護る! この子供たちを! この山を!! 火遼鬼の未来をアタシが護るんだ! この最強の火遼鬼、踊鬼が!」 ――ああ、それは無理だね 「!?」  それは、いつの間に行われたのだろう。  火遼鬼の城の広間の中央、その天井がぽっかりと真円に刳り貫かれている。刳り貫かれた穴からは、月の光が舞台を照らすライトのように注がれ、その中に一人の少年の姿があった。  黒い髪と、社交場かあるいはクラシックコンサートで着るような黒い燕尾服、そして黒いシルクハット。一見して普通ではない少年だ。 「あんたか」  しかし、踊鬼は少年を知っていた。なぜなら、彼女に<ワンオフ>のことや認定システムのことを教えたのも、そうすれば特別になれると吹き込んだのもこの少年だからだ。 「あんたに教えられたとおり<ワンオフ>を目指してみたけどさ、結果はご覧のとおりさ。あんたよりもよっぽど強い<ワンオフ>にコテンパンにのされちまった。アタシは<ワンオフ>になるのは諦めたよ。悪いけどあんたのところへの仲間入りはなしだ。あたしはここで一族を護って暮らしてくよ」 「ああ、君が<ワンオフ>になれるなんて僕はこれっぽっちも思ってはいなかったよ」 「……何だって?」  少年の言葉に踊鬼が怪訝な顔をする。 「最初から君に望んでいたのは僕らに仲間入りすることじゃなくて、調子に乗って引っ掻き回してもらうことだったんだよ。お陰でラルヴァ研究者が持っていた重要資料や情報がいくつか手に入ったし、行幸なことに行方知れずになっていた<ワンオフ>が一人見つかった。その点に関して君はよく働いてくれたね。礼を言ってもいいしご褒美をあげてもいいよ。ただ……」 「シルクロードが僕より強いというのは、少々無礼がすぎるんじゃないかな?」  少年から噴き出したその気配を、踊鬼だけが察知できた。それは「傷つけてやる」という害意でも「殺してやる」という殺意でもない。「殺すのが決まった」という決定事項を淡々と知らせる――悪意。 「僕が君に負けてあげたのは君を調子づかせるため、だけどさ、それを基準に<ワンオフ>に勝ったとかシルクロードの方が強いとか言われると……イライラしちゃうよね? どうしようか、この鬱憤」 「みんな! 逃げろォォォォォォ!!」  少年に危険を感じ取った踊鬼が一族の仲間達に避難を促し、自分自身は少年の前に立ちはだかる。本性を現し、得体の知れない気配を発する少年に勝てるとは微塵も思っていない。恐らく自分は死ぬと踊鬼は覚悟している。だがそれでも構わない、自分は新たな防人になったのだ! この身を呈してでも一族を護らねばならない! ――それが踊鬼の決意。  しかし不思議なことに少年は一歩も動かない。踊鬼を殺そうとも逃げ出した火遼鬼達を追おうともせずその場にジッと立ち尽くしている。  だが踊鬼は油断しない。少年から一時も目を離さず、まばたきもせず見据え続ける。逃げ出した一族を追おうとした瞬間に自らの身を盾とするために。 「良い顔だねぇ。使命感に燃えて、純粋でさ。特別になりたいって言ってたときよりも随分と良い顔だよ。そんな君に良い音を聞かせてあげよう。ほら、耳を澄ませてごらん?」 「音?」  耳を済ませると、たしかに何か小さな音が聞こえる。しかし、それは決して良い音などではない。柔らかいものが硬いものに磨り潰されるような音。肉を磨り潰すのに似たその音の出処は踊鬼の後ろ――火遼鬼達が逃げていった方向だった。 「みんな!?」  踊鬼は振り向き、『それ』を見てしまった。  『それ』は火遼鬼達だった。  彼らは、老若関係なく ――巨大な歯に磨り潰されていた。 「食べてみたのはいいけど、やっぱり下級のラルヴァは不味いねぇ。これならまだ人間の方が味わい深いよ。ま、一番美味しいのは強い異能力者だけどね」  そんな少年の言葉は、踊鬼の耳には届かない。 「あ、あぁ、嗚呼あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」  許してもらったばかりだった。護ると誓ったばかりだった。これから子供たちを、みんなを、火遼岳を、火遼鬼の未来を護っていくはずだったのに……。  それはもう、永遠に叶わない。 「アハハハハハハハハ! 君の絶叫は楽器に似合った良い歌じゃないか。何ならこれからは僕のところで歌手として生きてみるのはどうだい?」 「……………………殺してやる」  踊鬼から殺気が噴き出す。それは正に憎しみだけで人が殺せるならば殺せるだけの憎悪。しかし哀しいかな、この世にそんな法則はなく……相手は人ではない。相手はラルヴァ。相手は<ワンオフ>。相手は…… 「殺してやるぞ!! ナイトヘッドォ!!」  <ワンオフ>登録番号Ⅳ――【夜闇ノ魔人《ナイトヘッド》】 「オオォォォォォォォォ!!!」  ナイトヘッドに殺された火遼鬼達の血が沸き立ち、 「<燃>!!」 紅蓮に燃え、 「<潰>!!」 土塊を操り、 「<滅>!!」 破壊の力となってナイトヘッドへと放たれる。それは火遼鬼という種族全ての力と命の篭もった攻撃だった。  しかし、ナイトヘッドは微動だにしないままその攻撃を迎え入れる。  そして彼は嘲笑い、告げた。 「殺してやる? 馬鹿を言うなよ」 ――夜闇の中で僕を殺せる生物はいないよ  紅蓮の炎は吹き消され  土塊は微塵に砕かれ  破壊は届かず  ――踊鬼はその身を一瞬で塵となるまで寸断された  この日、火遼岳に数百年間暮らしていた火遼鬼という種族は<ワンオフ>ナイトヘッドの手によって絶滅した。 第四話 【踊盃】 了
・・・・・・  &italic(){あなたがこの事件の解決にハッピーエンドを望むのならば、この先は読むべきではない。} ・・・・・・ ・OTHER SIDE  灰児とリリエラが去ってからどれほど経っただろう。火遼岳から人の気配が消え、日が落ちても、踊盃と火遼鬼達は無言だった。 「みんな……」  踊盃はようやく声を振り絞り、これまでのことを詫びようとするが、肝心の言葉が出てこない。それほどまでにしてしまったことは罪深く取り返しがつかない。許してくれとは、とても言えない。 「いいんじゃ、もういいんじゃよ、踊盃……いや踊鬼《ヨウキ》」  火遼鬼の中で一番年配の老人が踊盃……踊鬼の肩に手を置く。 「長老、でもアタシは、アタシが、死ななきゃ……」 「バカモノ! それではただの無駄死にじゃ。おぬしも、死んでしまった防人たちも、人間たちもな。……のう踊鬼、あの子供らを見ろ、みな……弱い。おぬしが護らねば、子供らは生きていけぬ。今のおぬしの命はお前だけのものではないのじゃ。おぬしは生きねばならぬ。だからこそわしらはおぬしを許そう」 「長老……みんな……許してくれるのかい……?」 「許すとも。そして踊鬼よ、護ってくれぬか、子供らを、この火遼岳を、火遼鬼の未来を」 「……ああ! アタシが護る! この子供たちを! この山を!! 火遼鬼の未来をアタシが護るんだ! この最強の火遼鬼、踊鬼が!」 ――ああ、それは無理だね 「!?」  それは、いつの間に行われたのだろう。  火遼鬼の城の広間の中央、その天井がぽっかりと真円に刳り貫かれている。刳り貫かれた穴からは、月の光が舞台を照らすライトのように注がれ、その中に一人の少年の姿があった。  黒い髪と、社交場かあるいはクラシックコンサートで着るような黒い燕尾服、そして黒いシルクハット。一見して普通ではない少年だ。 「あんたか」  しかし、踊鬼は少年を知っていた。なぜなら、彼女に<ワンオフ>のことや認定システムのことを教えたのも、そうすれば特別になれると吹き込んだのもこの少年だからだ。 「あんたに教えられたとおり<ワンオフ>を目指してみたけどさ、結果はご覧のとおりさ。あんたよりもよっぽど強い<ワンオフ>にコテンパンにのされちまった。アタシは<ワンオフ>になるのは諦めたよ。悪いけどあんたのところへの仲間入りはなしだ。あたしはここで一族を護って暮らしてくよ」 「ああ、君が<ワンオフ>になれるなんて僕はこれっぽっちも思ってはいなかったよ」 「……何だって?」  少年の言葉に踊鬼が怪訝な顔をする。 「最初から君に望んでいたのは僕らに仲間入りすることじゃなくて、調子に乗って引っ掻き回してもらうことだったんだよ。お陰でラルヴァ研究者が持っていた重要資料や情報がいくつか手に入ったし、行幸なことに行方知れずになっていた<ワンオフ>が一人見つかった。その点に関して君はよく働いてくれたね。礼を言ってもいいしご褒美をあげてもいいよ。ただ……」 「シルクロードが僕より強いというのは、少々無礼がすぎるんじゃないかな?」  少年から噴き出したその気配を、踊鬼だけが察知できた。それは「傷つけてやる」という害意でも「殺してやる」という殺意でもない。「殺すのが決まった」という決定事項を淡々と知らせる――悪意。 「僕が君に負けてあげたのは君を調子づかせるため、だけどさ、それを基準に<ワンオフ>に勝ったとかシルクロードの方が強いとか言われると……イライラしちゃうよね? どうしようか、この鬱憤」 「みんな! 逃げろォォォォォォ!!」  少年に危険を感じ取った踊鬼が一族の仲間達に避難を促し、自分自身は少年の前に立ちはだかる。本性を現し、得体の知れない気配を発する少年に勝てるとは微塵も思っていない。恐らく自分は死ぬと踊鬼は覚悟している。だがそれでも構わない、自分は新たな防人になったのだ! この身を呈してでも一族を護らねばならない! ――それが踊鬼の決意。  しかし不思議なことに少年は一歩も動かない。踊鬼を殺そうとも逃げ出した火遼鬼達を追おうともせずその場にジッと立ち尽くしている。  だが踊鬼は油断しない。少年から一時も目を離さず、まばたきもせず見据え続ける。逃げ出した一族を追おうとした瞬間に自らの身を盾とするために。 「良い顔だねぇ。使命感に燃えて、純粋でさ。特別になりたいって言ってたときよりも随分と良い顔だよ。そんな君に良い音を聞かせてあげよう。ほら、耳を澄ませてごらん?」 「音?」  耳を済ませると、たしかに何か小さな音が聞こえる。しかし、それは決して良い音などではない。柔らかいものが硬いものに磨り潰されるような音。肉を磨り潰すのに似たその音の出処は踊鬼の後ろ――火遼鬼達が逃げていった方向だった。 「みんな!?」  踊鬼は振り向き、『それ』を見てしまった。  『それ』は火遼鬼達だった。  彼らは、老若関係なく ――巨大な歯に磨り潰されていた。 「食べてみたのはいいけど、やっぱり下級のラルヴァは不味いねぇ。これならまだ人間の方が味わい深いよ。ま、一番美味しいのは強い異能力者だけどね」  そんな少年の言葉は、踊鬼の耳には届かない。 「あ、あぁ、嗚呼あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」  許してもらったばかりだった。護ると誓ったばかりだった。これから子供たちを、みんなを、火遼岳を、火遼鬼の未来を護っていくはずだったのに……。  それはもう、永遠に叶わない。 「アハハハハハハハハ! 君の絶叫は楽器に似合った良い歌じゃないか。何ならこれからは僕のところで歌手として生きてみるのはどうだい?」 「……………………殺してやる」  踊鬼から殺気が噴き出す。それは正に憎しみだけで人が殺せるならば殺せるだけの憎悪。しかし哀しいかな、この世にそんな法則はなく……相手は人ではない。相手はラルヴァ。相手は<ワンオフ>。相手は…… 「殺してやるぞ!! ナイトヘッドォ!!」  <ワンオフ>登録番号Ⅳ――【夜闇ノ魔人《ナイトヘッド》】 「オオォォォォォォォォ!!!」  ナイトヘッドに殺された火遼鬼達の血が沸き立ち、 「<燃>!!」 紅蓮に燃え、 「<潰>!!」 土塊を操り、 「<滅>!!」 破壊の力となってナイトヘッドへと放たれる。それは火遼鬼という種族全ての力と命の篭もった攻撃だった。  しかし、ナイトヘッドは微動だにしないままその攻撃を迎え入れる。  そして彼は嘲笑い、告げた。 「殺してやる? 馬鹿を言うなよ」 ――夜闇の中で僕を殺せる生物はいないよ  紅蓮の炎は吹き消され  土塊は微塵に砕かれ  破壊は届かず  ――踊鬼はその身を一瞬で塵となるまで寸断された  この日、火遼岳に数百年間暮らしていた火遼鬼という種族は<ワンオフ>ナイトヘッドの手によって絶滅した。 第四話 【踊盃】 了

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