【時計仕掛けのメフイストフェレス 番外編 星に願いを】

「【時計仕掛けのメフイストフェレス 番外編 星に願いを】」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

【時計仕掛けのメフイストフェレス 番外編 星に願いを】」(2009/07/24 (金) 01:26:11) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

[[ラノで読む>http://rano.jp/990]]  年に一度の七夕祭り。  学校ではみんな思い思いに笹を飾りつけ、そこに願いを書き込んで星に託す。  それは何時の時代でも、何処の場所でも変わることのない子供たちの営みである。  それぞれの家庭でもまた、七夕の笹を飾る所も多い。  そしてここ、時坂家では―― 「親父たちが笹送ってきた。なんだろーね、マメっつーかなんつーか」  宅配便の包みを開けながら祥吾が愚痴る。 「あら、家族サービスを怠らないいいお義父さんじゃないですか」 「なら本人達が帰って来いっての。まあいつでも会えるし別にいいんだけどよ。  つーか今、なんかオトウサのン字が違ってね?」 「間違ってませんよ?」  しれっと言い放つメフィスト。 「まあいいけど。」  言いながら祥吾は笹を取り出し、庭へと飾る。 「……」  七夕になると、妙な感覚に包まれる。  思い出してはいけないような、思い出さないほうがいいような、しかし思い出さないといけないような。  それが祥吾にはわからない。  ……しかしわからないということは、どうでもいいことなのだろう。  気にすると負けだ。  祥吾はそう、自らに言い聞かせる。 「お兄ちゃん、そろそろ行こうよ」  夕食の片付けを終えた一観が台所から顔を出す。 「ああ」 「? 何処にですか?」  メフィストの質問に、一観は満面の笑顔で答える。 「へへーん、みんなで七夕デートだよ」 時計仕掛けのメフィストフェレス 番外編 星に願いを 『さあ双葉学園都市のプロレスファンのみんな! 今日は年に一度のビッグタイトルだ!  なんと男子プロレスと女子プロレスの強豪がガチンコだ!  え? 男と女を戦わせるな? ハハッ、バカいっちゃいけない!  ここにいるのはただのレスラー、いやファイターだ! 男女なんて関係ねぇ!  むしろ区別しないのがフェミニズムってもんだぜ!?』  大歓声と共に花火が盛大に鳴る。  その火花の滝の中から、牛の角を模した覆面の巨漢が現れる。 『そのダッシュはまさに猛牛! 双葉学園の暴れ牛《マッドブル》!   牽牛仮面《マスクドアルタイル》ーーーっ!!』  反対側のコーナーにもまた、花火があがる。  現われたのは、羽織に身を包んだ覆面の女性レスラー。 『対するは双葉学園女子プロレス界の暗黒女帝《ヒールクイーン》! 関節技で対戦相手の手足をヘシ折る極悪非道からついた名は ザ・折姫《スナッププリンセス》!!』  二人の因縁の対決に、観客席は大いに沸く。 「……なんですか、これ」  歓声の中、メフィストは呟く。 「ん? 見て判るだろ、プロレスだよ」 「はあ……」  見れば、一観はリングの上をガン見して拳を振り上げている。コーラルも無理やり拳を上げさせられ、すこし迷惑そうな、それで も楽しそうな複雑な表情だ。 「一観さん、プロレス好きなんですね」 「ああ。俺も好きだしな、昔はよく家族で見に行ったよ。格闘技はいろいろと好きだけど、プロレスが一番かな」 「そうなんですか。……で、祥吾さん的に、プロレスの魅力って?」 「必殺技がある。」  断言した。 「な、なるほど」  やはりそうか、とメフィストは得心する。  必殺技というのは、男の子の浪漫なのだ。  共感は出来ないが理解は一応出来る。殿方の趣味にケチをつけないのもまた、いい女の条件である。  リングの上で、折姫のドロップキックが炸裂する。  もんどりうって倒れた姿勢のまま、折姫が牽牛仮面の上半身にまとわりつく。  そして腕を固め、関節技に持っていく。 『おおっと出たぁ――ッ!! 折姫の必殺技、天空機織り固めだぁーっ!!』 「ぐぉーっ!」  牽牛仮面の上半身がメキメキと音を鳴らす。 「頑張れアルタイルーっ! 負けちゃだめーっ!」  一観が声援を投げかける。  牽牛仮面は、そのまま……折姫に腕を極められたまま、立ち上がる。 『おおーっとぉ! なんたる怪力! 折姫の関節技をものともせず立ちあがるーっ!』 「何をする気だ、あれ……まさか!」 「知っているんですか、祥吾さん?」 「ああ、あれは牽牛仮面の必殺技……」  牽牛仮面は、そのままコーナーポストへと走る。 『おおーっとまさかあっ! 牽牛仮面必殺の体当たり、アルタイルエキスプレスだぁーーーーつ!!  自分ごとコーナーポストに叩きつけ、折姫を振り払ったあ! これぞ力任せのロデオだあっ!!』  盛大な炸裂音と共に、リングに投げ出される二人。 『両者ダブルノックダウーーーン!! 先に立ち上がるのは、果たしてどちらかーっ!?』 「牽牛仮面! 牽牛仮面! 牽牛仮面! 牽牛仮面!」 「折姫! 折姫! 折姫! 折姫!」  二人に声援が送られる。  両者共に必死に立ち上がろうとするが、ダメージは計り知れない。  そして…… 『ダァブル……ノックダウーーン!! 勝負つかず、決着つかず! 二人の戦いは来年の七夕までお預けだぁーーーーッ!!』 「いやー、面白かったねー、コーラルちゃん!」 「あ、そのごめんなさい。圧倒されてて……」 「うんうん、わかるよ。最前列での生の試合なんて中々見れないからねー」  はしゃぐ一観と相槌を打つコーラル。  祥吾とメフィストは一歩後ろからその二人を見る。 「なんか、とても楽しそうでよかったですね」 「まあな。お前は楽しくなかったのか?」 「楽しかったですよ。ああいうのを観戦するのも初めてでした。コーラルちゃんと同じで、ちょっと圧倒されましたけど」 「あの独特の熱狂の雰囲気がいいんだよ」  祥吾は拳を握る。 「好きなんですね、本当に」 「つーか男なら誰だってな。特に好きでなくても、テレビで格闘技の試合があれば興味示すだろ」 「私、男の子じゃないので判りませんけど……」 「いや一観だってプロレス好きだし」 「うーん……それは個人の趣味ですからね。  私はどちらかというとスポーツや格闘技よりインドアな趣味の方が好きです。  料理とか、プラモ作りとか」 「いや同列どうよそれ」  笑いあう。  メフィストは、空を見上げる。  空には天の川が煌いている。 「……こんな日も、いいですよね」 「ん?」  呟いたメフィストの言葉に、祥吾は聞き返す。 「私は、私達は……戦うために造られましたから。  この十年間、私達はずっとそうして生きてきた。ラルヴァと戦う。人の欲望を叶える。  ただそれだけが、私達の十年でした」  メフィストは、コーラルを見る。 「私も、そして彼女も。ずっとそうやって生きてきた。  だから、こういう普通の人間のような、平和な日常があるとは知っていても……  こうやって自分で体験できるなんて、思ってませんでした」 「なるほどな。ま、時間なら、たっぷりあるさ。ゆっくりとひとつひとつ、色々と楽しんでいけばいいだろ。  戦う事だけが俺たちの生活じゃない。  過去は変えられないけど、未来は作っていける。  だから、さ」 「ええ、そうですね」  メフィストは空を見上げる。  七夕。星に願いを託す日。  人は未来を願う。素晴らしい世界があるようにと。  自分も――自分達も、そこに願いを託してもいいのだろうか。  人間ではない、作られたラルヴァである、自分達にも。  だがそんな悩みも、この兄妹たちにかかれば、どうでもいい事だと吹き飛ばされる。  この二人は、その周囲の人間たちは、自分たちを時計仕掛けの怪物、と見下さない。  そこにいる存在だと、当たり前のように接してくる。まるで人のように、だ。  だから、自分の存在についての疑問など、確かに――馬鹿らしくなってしまう。  そう。自分はあるがままに自分なのだ。  そこには、人もラルヴァもない。 「――初めて知りました。夜空ってこんなに美しいんですね」  メフィストは目を細めて星の海を見上げる。 「……私も。初めて、知りました」  コーラルもまた、星を見上げる。 「ま、普通はこんなふうに夜空見上げるって機会、あまり無いしな。  知ってるか、学園都市じゃ街の光で見えにくいけど、山とかにいくと凄いんだぜ、星」 「あ、覚えてる。小学校の頃、みんなで冬に天体観測に行ったよね」 「ああ。流星群見に行ったな」 「流星ですか……私、みたいです」 「じゃあ今度みんなで行こうぜ。親父たちも都合つけばいいんだけど」 「だよねー。最近付き合い悪すぎるよ。私、グレちゃうかも」 「冗談でも言うんじゃありません。お兄ちゃん泣くぞ」 「あはは、そんな勇気ないよー」  四人は笑いあう。 「……」  メフィストは、もう一度夜空を見上げた。 (……どうか、こんな日々が……ずっと続きますように。……永劫に)  家に帰ると、郵便受けに荷物が入っていた。 「あれ、なんか荷物届いてる」  一観がそれを確認する。 「えーと、何々…… 『七夕タイムトラベル。五年後の僕へ私へ。  あの時飾った七夕の短冊、お願いはかなっていますか』だって……」 「!!」  その瞬間。  祥吾の脳裏によみがえる記憶。  五年前。小学校の頃。  七夕の願いがかなったかどうか、タイムカプセルのように未来の自分へと手紙を出そう、というクラス行事。  その短冊を封筒にいれて、そして出す。  思い出した。  思い出してしまった! 「ちょ、ま、やめ……」  祥吾が叫ぶ。  手を伸ばす。  しかし、届かない。一観はその封筒を開ける。  ……兄の郵便を勝手にあけるんじゃありません。そう叫びたい。  しかし口から出るのはただひとつの絶叫。 「やめてぇええええええええええ!!」 ------------------------------------------------  ぼくの封印された闇の力が開放されて         みんなを傷つけたりしませんように                【闇黒銃士】時坂祥吾 ------------------------------------------------ 「……」  白日の下に、ソレは晒された。  晒されて、しまった。  しまったのだ。 「……」 「……」 「……」  空気が凍る。  時間が止まる。  視線が交差する。  ……いたたまれない。  祥吾は……ようやっと、口を開いた。  万感の思いを込めて。 「お願い殺して」  時坂祥吾の願いは、星に届かなかった。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品投稿場所に戻る>作品投稿場所]]
[[ラノで読む>http://rano.jp/990]]  年に一度の七夕祭り。  学校ではみんな思い思いに笹を飾りつけ、そこに願いを書き込んで星に託す。  それは何時の時代でも、何処の場所でも変わることのない子供たちの営みである。  それぞれの家庭でもまた、七夕の笹を飾る所も多い。  そしてここ、時坂家では―― 「親父たちが笹送ってきた。なんだろーね、マメっつーかなんつーか」  宅配便の包みを開けながら祥吾が愚痴る。 「あら、家族サービスを怠らないいいお義父さんじゃないですか」 「なら本人達が帰って来いっての。まあいつでも会えるし別にいいんだけどよ。  つーか今、なんかオトウサのン字が違ってね?」 「間違ってませんよ?」  しれっと言い放つメフィスト。 「まあいいけど。」  言いながら祥吾は笹を取り出し、庭へと飾る。 「……」  七夕になると、妙な感覚に包まれる。  思い出してはいけないような、思い出さないほうがいいような、しかし思い出さないといけないような。  それが祥吾にはわからない。  ……しかしわからないということは、どうでもいいことなのだろう。  気にすると負けだ。  祥吾はそう、自らに言い聞かせる。 「お兄ちゃん、そろそろ行こうよ」  夕食の片付けを終えた一観が台所から顔を出す。 「ああ」 「? 何処にですか?」  メフィストの質問に、一観は満面の笑顔で答える。 「へへーん、みんなで七夕デートだよ」 時計仕掛けのメフィストフェレス 番外編 星に願いを 『さあ双葉学園都市のプロレスファンのみんな! 今日は年に一度のビッグタイトルだ!  なんと男子プロレスと女子プロレスの強豪がガチンコだ!  え? 男と女を戦わせるな? ハハッ、バカいっちゃいけない!  ここにいるのはただのレスラー、いやファイターだ! 男女なんて関係ねぇ!  むしろ区別しないのがフェミニズムってもんだぜ!?』  大歓声と共に花火が盛大に鳴る。  その火花の滝の中から、牛の角を模した覆面の巨漢が現れる。 『そのダッシュはまさに猛牛! 双葉学園の暴れ牛《マッドブル》!   牽牛仮面《マスクドアルタイル》ーーーっ!!』  反対側のコーナーにもまた、花火があがる。  現われたのは、羽織に身を包んだ覆面の女性レスラー。 『対するは双葉学園女子プロレス界の暗黒女帝《ヒールクイーン》! 関節技で対戦相手の手足をヘシ折る極悪非道からついた名は ザ・折姫《スナッププリンセス》!!』  二人の因縁の対決に、観客席は大いに沸く。 「……なんですか、これ」  歓声の中、メフィストは呟く。 「ん? 見て判るだろ、プロレスだよ」 「はあ……」  見れば、一観はリングの上をガン見して拳を振り上げている。コーラルも無理やり拳を上げさせられ、すこし迷惑そうな、それで も楽しそうな複雑な表情だ。 「一観さん、プロレス好きなんですね」 「ああ。俺も好きだしな、昔はよく家族で見に行ったよ。格闘技はいろいろと好きだけど、プロレスが一番かな」 「そうなんですか。……で、祥吾さん的に、プロレスの魅力って?」 「必殺技がある。」  断言した。 「な、なるほど」  やはりそうか、とメフィストは得心する。  必殺技というのは、男の子の浪漫なのだ。  共感は出来ないが理解は一応出来る。殿方の趣味にケチをつけないのもまた、いい女の条件である。  リングの上で、折姫のドロップキックが炸裂する。  もんどりうって倒れた姿勢のまま、折姫が牽牛仮面の上半身にまとわりつく。  そして腕を固め、関節技に持っていく。 『おおっと出たぁ――ッ!! 折姫の必殺技、天空機織り固めだぁーっ!!』 「ぐぉーっ!」  牽牛仮面の上半身がメキメキと音を鳴らす。 「頑張れアルタイルーっ! 負けちゃだめーっ!」  一観が声援を投げかける。  牽牛仮面は、そのまま……折姫に腕を極められたまま、立ち上がる。 『おおーっとぉ! なんたる怪力! 折姫の関節技をものともせず立ちあがるーっ!』 「何をする気だ、あれ……まさか!」 「知っているんですか、祥吾さん?」 「ああ、あれは牽牛仮面の必殺技……」  牽牛仮面は、そのままコーナーポストへと走る。 『おおーっとまさかあっ! 牽牛仮面必殺の体当たり、アルタイルエキスプレスだぁーーーーつ!!  自分ごとコーナーポストに叩きつけ、折姫を振り払ったあ! これぞ力任せのロデオだあっ!!』  盛大な炸裂音と共に、リングに投げ出される二人。 『両者ダブルノックダウーーーン!! 先に立ち上がるのは、果たしてどちらかーっ!?』 「牽牛仮面! 牽牛仮面! 牽牛仮面! 牽牛仮面!」 「折姫! 折姫! 折姫! 折姫!」  二人に声援が送られる。  両者共に必死に立ち上がろうとするが、ダメージは計り知れない。  そして…… 『ダァブル……ノックダウーーン!! 勝負つかず、決着つかず! 二人の戦いは来年の七夕までお預けだぁーーーーッ!!』 「いやー、面白かったねー、コーラルちゃん!」 「あ、そのごめんなさい。圧倒されてて……」 「うんうん、わかるよ。最前列での生の試合なんて中々見れないからねー」  はしゃぐ一観と相槌を打つコーラル。  祥吾とメフィストは一歩後ろからその二人を見る。 「なんか、とても楽しそうでよかったですね」 「まあな。お前は楽しくなかったのか?」 「楽しかったですよ。ああいうのを観戦するのも初めてでした。コーラルちゃんと同じで、ちょっと圧倒されましたけど」 「あの独特の熱狂の雰囲気がいいんだよ」  祥吾は拳を握る。 「好きなんですね、本当に」 「つーか男なら誰だってな。特に好きでなくても、テレビで格闘技の試合があれば興味示すだろ」 「私、男の子じゃないので判りませんけど……」 「いや一観だってプロレス好きだし」 「うーん……それは個人の趣味ですからね。  私はどちらかというとスポーツや格闘技よりインドアな趣味の方が好きです。  料理とか、プラモ作りとか」 「いや同列どうよそれ」  笑いあう。  メフィストは、空を見上げる。  空には天の川が煌いている。 「……こんな日も、いいですよね」 「ん?」  呟いたメフィストの言葉に、祥吾は聞き返す。 「私は、私達は……戦うために造られましたから。  この十年間、私達はずっとそうして生きてきた。ラルヴァと戦う。人の欲望を叶える。  ただそれだけが、私達の十年でした」  メフィストは、コーラルを見る。 「私も、そして彼女も。ずっとそうやって生きてきた。  だから、こういう普通の人間のような、平和な日常があるとは知っていても……  こうやって自分で体験できるなんて、思ってませんでした」 「なるほどな。ま、時間なら、たっぷりあるさ。ゆっくりとひとつひとつ、色々と楽しんでいけばいいだろ。  戦う事だけが俺たちの生活じゃない。  過去は変えられないけど、未来は作っていける。  だから、さ」 「ええ、そうですね」  メフィストは空を見上げる。  七夕。星に願いを託す日。  人は未来を願う。素晴らしい世界があるようにと。  自分も――自分達も、そこに願いを託してもいいのだろうか。  人間ではない、作られたラルヴァである、自分達にも。  だがそんな悩みも、この兄妹たちにかかれば、どうでもいい事だと吹き飛ばされる。  この二人は、その周囲の人間たちは、自分たちを時計仕掛けの怪物、と見下さない。  そこにいる存在だと、当たり前のように接してくる。まるで人のように、だ。  だから、自分の存在についての疑問など、確かに――馬鹿らしくなってしまう。  そう。自分はあるがままに自分なのだ。  そこには、人もラルヴァもない。 「――初めて知りました。夜空ってこんなに美しいんですね」  メフィストは目を細めて星の海を見上げる。 「……私も。初めて、知りました」  コーラルもまた、星を見上げる。 「ま、普通はこんなふうに夜空見上げるって機会、あまり無いしな。  知ってるか、学園都市じゃ街の光で見えにくいけど、山とかにいくと凄いんだぜ、星」 「あ、覚えてる。小学校の頃、みんなで冬に天体観測に行ったよね」 「ああ。流星群見に行ったな」 「流星ですか……私、みたいです」 「じゃあ今度みんなで行こうぜ。親父たちも都合つけばいいんだけど」 「だよねー。最近付き合い悪すぎるよ。私、グレちゃうかも」 「冗談でも言うんじゃありません。お兄ちゃん泣くぞ」 「あはは、そんな勇気ないよー」  四人は笑いあう。 「……」  メフィストは、もう一度夜空を見上げた。 (……どうか、こんな日々が……ずっと続きますように。……永劫に)  家に帰ると、郵便受けに荷物が入っていた。 「あれ、なんか荷物届いてる」  一観がそれを確認する。 「えーと、何々…… 『七夕タイムトラベル。五年後の僕へ私へ。  あの時飾った七夕の短冊、お願いはかなっていますか』だって……」 「!!」  その瞬間。  祥吾の脳裏によみがえる記憶。  五年前。小学校の頃。  七夕の願いがかなったかどうか、タイムカプセルのように未来の自分へと手紙を出そう、というクラス行事。  その短冊を封筒にいれて、そして出す。  思い出した。  思い出してしまった! 「ちょ、ま、やめ……」  祥吾が叫ぶ。  手を伸ばす。  しかし、届かない。一観はその封筒を開ける。  ……兄の郵便を勝手にあけるんじゃありません。そう叫びたい。  しかし口から出るのはただひとつの絶叫。 「やめてぇええええええええええ!!」 ------------------------------------------------  ぼくの封印された闇の力が開放されて         みんなを傷つけたりしませんように                【闇黒銃士】時坂祥吾 ------------------------------------------------ 「……」  白日の下に、ソレは晒された。  晒されて、しまった。  しまったのだ。 「……」 「……」 「……」  空気が凍る。  時間が止まる。  視線が交差する。  ……いたたまれない。  祥吾は……ようやっと、口を開いた。  万感の思いを込めて。 「お願い殺して」  時坂祥吾の願いは、星に届かなかった。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品投稿場所に戻る>作品投稿場所]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。