【立浪姉妹の伝説 第三話】

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  らのらのhttp://rano.jp/1073 「ふふ・・・・・・。そんなこともあったわねえ。懐かしいなあ・・・・・・」  みきの残した日誌に目を通しながら、みくはそう言った。日誌にはところどころに昔を懐かしむ記述がされていた。 「人の役に立つために、力を使わなければならない・・・・・・かあ」と、みくは言う。「みかお姉ちゃんに口すっぱく怒られたなあ。今でも、それが守れているかどうかは、自信ないけどネ」  舌をぺろっと出しておどけた。  特に印象に残ったのが、完全なる覚醒についての話であった。頭に猫耳が生え、尻尾も展開されたとき。姉妹は百パーセントの力を発揮することができる。完全体は、修行や努力でなれるものではなく、己の内なる魂源力が一定の壁を突き破ることで到達することができる。  みかの言っていたように、例えば友達を「救いたい」と思ったときや、愛する人を「守りたい」と願ったときにトリガーが引かれて、力が覚醒する。みくの場合は後者であった。 「だって・・・・・・。マサのこと、助けたかったんだもん」  十二歳という幼さで完全体を得るのは、珍しいことであった。それほど、みくの遠藤雅に対する想いや、与田光一に対する怒りは大きな膨張を見せ、爆発したのである。  そして、みきの日記は、長いこと忘れていた「猫の力」の使い方について、みくに思い出させてくれた。 「私たちが力を使うときは、大切な人やものを守るとき。自分が命の危機に陥ったとき。そして、『愛する人を守るとき』」  と、残された猫の血筋の末裔は、亡き長女が言った台詞をそのままそらんじる。それからこんなことを呟いた。  私は、愛する人を守るために力を使います。  私は、愛する人を守るためにいる猫の少女です。  私は、マサを守るために力を使う、マサの・・・・・・です。  その単語を呟いた瞬間、顔面から火が出たように赤くなってしまった。  しかし、それはみくにとって希望の光となる。少しだけ、表情が明るくなる。夏休みの間、誰に対しても姿を見せずに宿命から逃げ回っていた彼女は、自分の「本当の生き方」を導き出せたような気がして、ずっと暗かった気持ちが幾分かは楽になった。 「私は、ラルヴァなんかじゃない・・・・・・?」  小さな胸のうちに沸き起こった自信。未来への希望。  しかし、そのポジティブな気分も、日誌のページをめくったときに霧散してしまった。 『それからのことでした。超科学の方たちが、私たち姉妹に研究の話を持ちかけてきたのは・・・・・・』  みくの顔から、微笑みが一切消えた。    立浪姉妹の伝説 -その栄光と末路-    第三話 猫の血筋と超科学    我々は猫の力に興味がある。  君たちの持つ猫の力は、とても素晴らしいものがあり、それはラルヴァに脅かされているこの世界を救える鍵となるだろう。  リンガ・ストークとガリヴァーは、並大抵の異能者じゃ倒せない上級クラスのラルヴァであった。君たちがいなかったら、きっと双葉島と双葉学園は壊滅を迎えていたのかもしれない。これからもあのレベルのラルヴァは襲来してくるだろうし、もしかしたら、最悪、あれ以上のラルヴァも襲ってくるかもしれない。そうなってしまうと、この僕らでさえも、学園や日本がこの先どうなってしまうかはわからない。  我々が行き着く先は、敗北か? 破滅か? 終末か?  いいや、違う。そのような最悪の未来は断固として受け入れられないし、避けなければならない。単細胞のラルヴァと違って、僕ら異能者にはそれができる「知恵」というものがある。  これからの戦闘は、君たち立浪姉妹を先頭・中軸に据えた、総力戦が中心となるだろう。  しかし、この理想的な戦い方を実現するには、やや時間がかかってしまうようだ。・・・・・・ふふ、この前の異能者たちのすくみようを、君たちも見ただろう? 異能を持つ双葉学園の生徒とあろうものが、情けない。戦闘に参加できなかったあの高等部の龍河弾が、ものすごく憤慨していたぞ? どいつもこいつもなっちゃいねぇ、ってね。  本当はみんなもね、君たちに協力したいんだよ・・・・・・?  だけど、どうしても君たちに「遠慮」してしまうようなんだ、彼らは。  君たちは人気もあるし、桁違いに強い。それゆえ、なかなか近づきにくいようなんだねえ。  だからさ、君たちも学園のアイドルとしてじゃなく、立派な「戦友」として、もっと彼らに心を開いてやってもいいんじゃないかい?  立浪姉妹の邪魔をしたくない、近づきにくい。ここだけの話として教えてあげるけど、みんな本音はこう思っていたんだよ? 本当はみんなはもっと、君たちについて知りたいと思っているのに。  いいや、誤解しないでくれたまえ。何も君たちが余計なことをしているわけじゃないんだ。  君たちがいなかったら双葉学園は危なかった。ただ、学園生はもっときみたちのことを知りたい。近づきたい。一緒に戦いたい。そう思ってるんだけなんだ。そう、ただそれだけの話。  身体検査や、異能力測定、データ採取に協力してほしい。僕ら科学者が、より良い君たちの戦闘のやり方や、力の使い方。そして、学園生との付き合い方・共闘のやり方を導きだしてみせよう。  だから、立浪みか。立浪みき。  我々超科学者の歩み寄りを、ぜひ歓迎してほしい。  ・・・・・・私たちがあの恥ずかしいリンガ・ストークと、おっきなガリヴァー・リリパットを倒してから、数日たったそれからのことでした。超科学の方たちが、私たち姉妹に研究の話を持ちかけてきたのは。  その話を真剣に聞いていたのは、以外にも姉さんのほうでした。学園の仲間や島のみんなをこよなく愛している姉さんのことです。みんなが私たち姉妹に対して距離を置いていると知ったとき、強いショックを受けたと思います。  だから彼女はこう、彼らに対して宣言するよう言いました。 「わかった。あたしたちはあんたらに協力するよ。あたしたちはね、みんなの役に立ちたかったんだ。みんなを守りたかったんだ。それが出過ぎた行動だったということに気づいて、とても反省させられた。あたしはみんなと戦いたい。みんなと一緒に協力して戦っていきたい。だから、あんたらに力を貸すよ。何でも言うことを聞くよ。協力するよ」  姉さんは彼らにそう言いました。目元を真っ赤にして。一生懸命な顔をして。心からお願いするように。私は、そんな切実な横顔をしている姉さんを、初めて見ました。  正座の上に乗せている拳をぎりぎり握り締めながら、うつむく姉さんの姿なんて――。 「ぜー、はあー、ぜー、はあー」  学校でも表でもない、よその研究施設。その中にある戦闘場の真ん中で、姉さんは一人、肩で息をしながら辛うじて立っています。  真横からずどんと、そんな姉さんに容赦なくロボットが襲い掛かります。これで合計1012体め。足腰のおぼつかない姉さんに殴りかかろうとしています。 「があああああああ!」  姉さんは吼えました。残るわずかな力を振り絞って、左手の短剣を振りました。  首元をざっくり斬られたロボットは、拳を振り上げたままの姿勢で前のめりに倒れていきました。あとから遅れて、上空へ刎ね飛ばされた頭部が、ごとんと落下して重く響きました。  そのとき、私は姉さんの牙がより太くなったのを見ました。それとも、口元から大きく露出したのでしょうか。  そして、前から、横から、後ろから、天井から、床下から、いっぺんに五十体ぐらいの数のロボットが沸いたのです。信じられません。これまで一体ずつの戦闘であったのに! 姉さんはあんなにもボロボロなのに! 「もうやめてあげてえ!」  と、傷だらけのジャンパースカートを揺らしながら、私は彼らに叫びました。 「もう姉さんは限界だよお! 戦えないよお! こんなの、ひどすぎるよお!」  白衣に身を包んで横に整列し、データを記録していく彼らは、私に振り向きもしません。敵に囲まれ、今にも力尽きて倒れそうな姉さんを、つまらないものを見ているような冷淡な視線でじっと見つめていました。 「心配しないでいいんだよ、立浪みき」  そう呼び捨てでよんだ長身の男子を、私はきっと睨みつけました。  むやみに人を憎んだり嫌ったりしないこの私でも、この人だけは大嫌いでした。メガネをかけた、同い年の高等部の男子。与田光一と言いました。私たちの研究を担当する、総指揮者だそうです。 「君たち姉妹は、戦えば戦うほど。そして、相手を撃破すれば撃破するほど。戦闘力が右肩上がりになっていくんだ。二人が強いとされている真相だよ」 「どうみても大丈夫じゃないでしょうがあ! 姉さん、これじゃあ死んじゃうよお!」 「死にやしないよ。君たちはそういう性質なんだから」  そう耳元でささやかれ、肩を抱かれた私の背中を、形容しがたい嫌悪感が駆け抜けます。 「触らないでえ!」  のんびりとした自分とは信じられないぐらい、大きな声を出しました。  与田は苦笑を浮かべながら、両手を肩のあたりに上げ、諦めのサインを私に示します。 「そんな怖い顔をしちゃダメだよ。きれいなオッドアイが、もったいない」  彼がすまし顔でそんなことを言った時。データを採取している白衣の人たちから、ざわつきの声があがります。与田は「どうした、何が起こった」と、彼らの元へ近づきます。 「あれを・・・・・・見てください」  私も、姉さんのほうを見ます。そしてぞっとしました。  姉さんがロボットの大群を、もう半分以上撃破していたのです。  瞳が常に緑に輝いたまま、戦場を暴れています。一つのロボットを壊してはまたもう一方に飛び掛り、グラディウスでどんどん首を刎ねていきます。 「姉さん・・・・・・?」  私は思わず、遠くの姉さんに向かってそうきいていました。あれは、姉さんなの? 本当に姉さんなの?  私がこれまで見たことのない、恐ろしい形相をしていました。先ほどよりも大きな牙を露出させ、爪を限界まで伸ばし、短剣も、もはや大きな刀といえるぐらい巨大化しています。ゴムの切れた後ろ髪を振り回し、血反吐を辺りに撒き散らしながら、姉さんは次々とロボットに襲い掛かります。  短剣を投げ捨てると、姉さんは素手での戦闘に切り替えました。私たち猫の血筋ができる、もう一つの戦い方です。それからが圧倒的でした。  ロボットの背中に飛び掛ると、両手で頭をつかみ、ブチッとちぎってしまいました。ばちばちと火花の散っている頭部を、今度は他のロボットの顔面目掛けて投げつけます。瞬く間に二機破壊。着地したところを後ろから襲い掛かってきたロボットの首を、後ろ回し蹴りで刎ね、これで三機め。  自ら前傾姿勢でロボットを襲い、真っ直ぐ拳で突きます。腹部を貫通されたロボットの眼球ライトが、すっと消滅しました。四機め。  白い猫耳と尻尾を天に向けて尖らせ、姉さんはまた野獣の咆哮をあげます。  正面から切りかかってきたロボットの顔面に、膝蹴りを食らわせました。仰向けになって、飛びかかった勢いのまま足から滑っていくように倒れていくロボットの首に、姉さんの右腕がしっかりかかります。  ネックブリーカーです。床に叩きつけられたロボットは、首の部分に強い力がかかってつぶれてしまいました。五機め・・・・・・。 「か、かまわん! 全機同時に飛び掛るよう、一括指令を下せ!」  あの与田の声に、強い当惑が見られます。あせった科学者がキーボードを素早く打鍵し、エンターキーに小指を叩き込みました。  ロボットたちの目がいっせいに同時に光ると、集団で姉さんに襲撃をしかけます。  しかし、姉さんの瞳の輝きのほうが、ずっとずっと上でした。  歯を食いしばった姉さんには、ロボットたちが自分に収束してくるように襲いかかってくるように・・・・・・見えない。きっと、襲いかかる格好のまま、彼らが空中で静止しているように見えていたと思います。  極限までじゃきんと伸びた、長くて切れ味鋭い爪。  姉さんはあっという間に、総勢二十機の集団を粉々にしてしまいました。 「・・・・・・はーい、立浪さん? 涎垂らしてないで起きなさーい?」  私はゆっくりと頭を上げました。いつもは授業では絶対に眠らないのに、いつのまにか力尽きたように眠っていたようです。あうう、決して春奈せんせーの現代文がつまらないとか、そういうわけではないですよう・・・・・・? 「いつものお昼寝の時間には、まだ三十二分早いですよー?」  どっと教室じゅうに笑い声が上がり、私はきゅーっと縮こまってしまいました。 「あううー・・・・・・」  ぽけーと半ば眠気に支配されながら、うとうとといつもの白樫の木に行くと。先客がいたので、私はとてもびっくりしました。 「このごろどうしたの? 元気がないし、とても気になっているんですよ?」  春奈せんせーが、太い根っこに腰かけて私を待っていたのです。私は慌てて、 「いや、申し訳ございません・・・・・・。その、最近勉強に励んでまして」  と、適当なことを口走ってしまいました。 「勉強ですか、自学自習はとてもいいことです」  春奈せんせーは、私の担任です。今年初めてクラスを受け持つことになった女の子みたいな先生で、私たちに混じってしまうと見分けがつかなくなってしまいます。  せんせーがそう言ってくれたので、私は内心ほっとして、大好きな大木に背中を預けました。いいお天気。お昼下がりの羽毛のような暖かさに包まれて、目を閉じて・・・・・・。 「毎晩毎晩遅くまで、姉妹揃って与田の研究所で自学自習です、か」  その瞬間、私の両目が、裂けてしまいそうなぐらい大きく開きました。 「そこでちゃんと現代文の自学自習でもやってくれてれば、あたしもちょっとは嬉しいんだけどね」  ぎゅっとスカートの上で拳を握りました。まさか、春奈せんせーに、私たち姉妹のやっていることが、知られていたなんて・・・・・・。  いや、特に隠しておく必要なんてなかったのです。私たちのやっていることは、特別重大なことではありませんでした。ただ、このようにしてせんせーやクラスメートたちに心配されてしまうことが、とにかく怖かったのです。申し訳ありませんでした。  私たちが毎晩、与田によって徹底的に痛めつけられていることが知られたら、春奈せんせーはどのような行動に出るのだろう? 私たちにやめるよう促すのだろうか? 学校を通じて、超科学者側に抗議をするのだろうか? もしそうなってしまったら、あれだけ強い気持ちとやる気を見せていた姉さんが、救われない。  それに・・・・・・。昨日、姉さんが見せた鬼のような戦いぶり。  私は彼女の恐ろしい横顔に、何か、見てはならないものを見たような気がしてならないのです。私たち姉妹は、何か、到達してはならない領域に到達しようとしているのではないか?  やっぱり、あまり他人に触れられたくはなかったのが本音でした。 「ちょっと調べ上げればね、物事は簡単にバレてしまうもんなんです。・・・・・・ねぇ、いったい与田のところで何をやっているの?」  と、春奈せんせーはきいてきました。私は目線を落としたまま、震えていました。 「少し、私たちの異能力に関する研究に、お付き合いさせていただいているだけです・・・・・・。大丈夫です・・・・・・」  嫌な汗を流しながらそれだけ言うと、せんせーはため息をついてこう言いました。 「大丈夫なわけないでしょ? 顔面も腕も足もアザだらけ。暴行されたと勘違いされても、文句は言えないレベルだよ?」  私の隣に、春奈せんせーがふわりと肩を寄せてきました。私たちは背丈がほとんど変わらないので、肩と肩がちょうどよくぶつかって、いい感じです。あったかい。 「本当に大丈夫なの? 本当にただの能力解析なの? あなたが言いたくないのなら、これ以上突っ込もうとは思わないけど」と、春奈せんせーは優しく言います。「不安なんだ。初めて受け持ったクラスの子だから、気になってしかたがない」 「本当に大丈夫ですよ。ちょっとハードなだけで、どうってことはありません。授業中、寝ててすみませんでした。次からは気をつけますね」 「きつかったら、今日からでもやめたほうがいい。真面目な立浪さんが急に授業もまともに聞けなくなって、他の教科の担当も動揺してるぐらいなの。それに、立浪さんたち姉妹はとても強い。はっきり言ってめちゃくちゃ強い。無理にそのような研究に参加しなくても、これまで通り何も気にせず戦ってもらえれば」 「いいえ、私たちは研究に参加し続けます」  そう、私はきっぱりと言った。 「私たちが、もっとちゃんとこの力を使えれば、もっとたくさんの人を助けられます。そのお手伝いをしてもらっているんですから、これぐらいで根をあげちゃいけません」 「そう・・・・・・」と、春奈せんせーはしょんぼりしながら言いました。彼女が向けてくれた優しさをはねつけてしまったようで、私は非常に申し訳ない気持ちになります。  それでも私たち姉妹は、もっとみんなの役に立ちたい。もっと自分の異能力に詳しくなって、強くなりたい。それが共通の認識でした。  それに私には、今日まで誰にも明かしたことのない、別の気持ちというものがあります。  私は優秀な姉さんに対して強いコンプレックスを隠し持っていました。  私なんかと違って明るくて、強くて、人気者の姉さん。それに比べて私は何だろう? 足は遅いし、高く飛べないし、敵に大きなダメージを与えることもできません。ですから姉さんに続く二番手として、戦闘をフォローする立場に甘んじてきました。  ・・・・・・本当は、姉さんよりも強くなりたい。  あの夜、圧倒的な力を見せ付けられて、自分の中でどくどくとそんな気持ちが大きく膨れ上がっていました。与田の力を借りるのはしゃくでたまりませんが、これは私に与えられたチャンスでもあります。今はまだ百体程度しかロボットを倒せなくても、自分の戦い方や能力を深く知って、いつの日かは姉さんを越えたい。絶対に越えたい。  春奈せんせーは、白樫の枝から飛び立った小鳥を見ながらこういいました。 「立浪さんのことは、目を瞑っておいてあげる。でも、こちらが見かねるぐらい大怪我をしてたり、弱ってたりしたら、何としてでもあたしが止めてやるからね?」  嬉しかった。春奈せんせーのおかげで、私はいくらか疲弊していた心に元気が出ました。  ありがとうございます。私がそう呟いたとき、せんせーはにこっと微笑んでから立ち上がります。  ぐきゅるるるるる。  春奈せんせーの顔が、赤く染まりました。  私は吹き出してしまいました。この人、お昼も我慢して私の側にいてくれたのですね。 「すっかり忘れてましたけど、これ食べてください。昨日のお夕飯の余りものです」  すると、今にも飛び跳ねそうなぐらい、春奈せんせーはきらきらと瞳を輝かせました。 「いーの? ほんとーにいーの!」 「はい。私のお昼だったんですが、あいにくお腹が空いていなかったものですから。良ければ明日からも、うちの余りものでよければ差し上げますよ」 「やったー! やっぱ持つべきものは頼れる生徒だねえー!」  春奈せんせーの無邪気な笑顔を見て、私も気が抜けたように頬が緩みました。  ダイアモンド・プリンセス。この初々しい担任が披露した想像以上の異能力に、私たちクラスメートの誰もが驚かされていました。しかし、その実戦的な力はクラスの結束を非常に硬くさせました。お互いがお互いを心から信頼している、そんな素晴らしいものになりつつありました。  そう、それはまるでダイアモンド。ちょっとやそっとの衝撃じゃ崩されることのない、強固な結晶。輝かしい絆。これ、春奈せんせーが磨き上げたものなんですよ? 私は、優しくて頼りがいがあって、可愛い春奈せんせーがとても大好きでした。  ・・・・・・そんな気持ちをいつか、春奈せんせーに伝えてあげたいなと思っていたところでしたのに。  彼女は数日後に、別の仕事のため一週間ほどヨーロッパへ飛び立ちました。  もしも彼女があの日、あの場所にいてくれたら。私たち姉妹は救われたのでしょうか? &br() &br() #right(){&bold(){&sizex(4){&link_up(最初に戻る)}}} ---- |>|>|BGCOLOR(#E0EEE0):CENTER:&bold(){【立浪姉妹の伝説】}| |BGCOLOR(#E0EEE0):&bold(){作品}|>|[[第一話>【立浪姉妹の伝説 第一話】]] [[第二話>【立浪姉妹の伝説 第二話】]] [[第三話>【立浪姉妹の伝説 第三話】]] [[第四話>【立浪姉妹の伝説 第四話】]] [[第五話>【立浪姉妹の伝説 第五話】]] [[第六話>【立浪姉妹の伝説 第六話】]] [[第七話>【立浪姉妹の伝説 第七話】]] [[最終話>【立浪姉妹の伝説 最終話】]]| |BGCOLOR(#E0EEE0):&bold(){登場人物}|>|[[立浪みか>立浪 みか]] [[立浪みき>立浪 みき]] [[遠藤雅>遠藤 雅]] [[立浪みく>立浪 みく]] [[与田光一>与田 光一]]∥[[藤神門御鈴]]| |BGCOLOR(#E0EEE0):&bold(){登場ラルヴァ}|>|[[リンガ・ストーク]] [[ガリヴァー・リリパット]] [[マイク]] [[血塗れ仔猫]]| |BGCOLOR(#E0EEE0):&bold(){関連項目}|>|[[双葉学園]]| |BGCOLOR(#E0EEE0):&bold(){LINK}|>|[[トップページ]] [[作品保管庫>投稿作品のまとめ]] [[登場キャラクター>作品登場キャラ設定]] [[NPCキャラクター>NPC設定]] [[今まで確認されたラルヴァ]]|
  らのらのhttp://rano.jp/1073 「ふふ・・・・・・。そんなこともあったわねえ。懐かしいなあ・・・・・・」  みきの残した日誌に目を通しながら、みくはそう言った。日誌にはところどころに昔を懐かしむ記述がされていた。 「人の役に立つために、力を使わなければならない・・・・・・かあ」と、みくは言う。「みかお姉ちゃんに口すっぱく怒られたなあ。今でも、それが守れているかどうかは、自信ないけどネ」  舌をぺろっと出しておどけた。  特に印象に残ったのが、完全なる覚醒についての話であった。頭に猫耳が生え、尻尾も展開されたとき。姉妹は百パーセントの力を発揮することができる。完全体は、修行や努力でなれるものではなく、己の内なる魂源力が一定の壁を突き破ることで到達することができる。  みかの言っていたように、例えば友達を「救いたい」と思ったときや、愛する人を「守りたい」と願ったときにトリガーが引かれて、力が覚醒する。みくの場合は後者であった。 「だって・・・・・・。マサのこと、助けたかったんだもん」  十二歳という幼さで完全体を得るのは、珍しいことであった。それほど、みくの遠藤雅に対する想いや、与田光一に対する怒りは大きな膨張を見せ、爆発したのである。  そして、みきの日記は、長いこと忘れていた「猫の力」の使い方について、みくに思い出させてくれた。 「私たちが力を使うときは、大切な人やものを守るとき。自分が命の危機に陥ったとき。そして、『愛する人を守るとき』」  と、残された猫の血筋の末裔は、亡き長女が言った台詞をそのままそらんじる。それからこんなことを呟いた。  私は、愛する人を守るために力を使います。  私は、愛する人を守るためにいる猫の少女です。  私は、マサを守るために力を使う、マサの・・・・・・です。  その単語を呟いた瞬間、顔面から火が出たように赤くなってしまった。  しかし、それはみくにとって希望の光となる。少しだけ、表情が明るくなる。夏休みの間、誰に対しても姿を見せずに宿命から逃げ回っていた彼女は、自分の「本当の生き方」を導き出せたような気がして、ずっと暗かった気持ちが幾分かは楽になった。 「私は、ラルヴァなんかじゃない・・・・・・?」  小さな胸のうちに沸き起こった自信。未来への希望。  しかし、そのポジティブな気分も、日誌のページをめくったときに霧散してしまった。 『それからのことでした。超科学の方たちが、私たち姉妹に研究の話を持ちかけてきたのは・・・・・・』  みくの顔から、微笑みが一切消えた。    立浪姉妹の伝説 -その栄光と末路-    第三話 猫の血筋と超科学    我々は猫の力に興味がある。  君たちの持つ猫の力は、とても素晴らしいものがあり、それはラルヴァに脅かされているこの世界を救える鍵となるだろう。  リンガ・ストークとガリヴァーは、並大抵の異能者じゃ倒せない上級クラスのラルヴァであった。君たちがいなかったら、きっと双葉島と双葉学園は壊滅を迎えていたのかもしれない。これからもあのレベルのラルヴァは襲来してくるだろうし、もしかしたら、最悪、あれ以上のラルヴァも襲ってくるかもしれない。そうなってしまうと、この僕らでさえも、学園や日本がこの先どうなってしまうかはわからない。  我々が行き着く先は、敗北か? 破滅か? 終末か?  いいや、違う。そのような最悪の未来は断固として受け入れられないし、避けなければならない。単細胞のラルヴァと違って、僕ら異能者にはそれができる「知恵」というものがある。  これからの戦闘は、君たち立浪姉妹を先頭・中軸に据えた、総力戦が中心となるだろう。  しかし、この理想的な戦い方を実現するには、やや時間がかかってしまうようだ。・・・・・・ふふ、この前の異能者たちのすくみようを、君たちも見ただろう? 異能を持つ双葉学園の生徒とあろうものが、情けない。戦闘に参加できなかったあの高等部の龍河弾が、ものすごく憤慨していたぞ? どいつもこいつもなっちゃいねぇ、ってね。  本当はみんなもね、君たちに協力したいんだよ・・・・・・?  だけど、どうしても君たちに「遠慮」してしまうようなんだ、彼らは。  君たちは人気もあるし、桁違いに強い。それゆえ、なかなか近づきにくいようなんだねえ。  だからさ、君たちも学園のアイドルとしてじゃなく、立派な「戦友」として、もっと彼らに心を開いてやってもいいんじゃないかい?  立浪姉妹の邪魔をしたくない、近づきにくい。ここだけの話として教えてあげるけど、みんな本音はこう思っていたんだよ? 本当はみんなはもっと、君たちについて知りたいと思っているのに。  いいや、誤解しないでくれたまえ。何も君たちが余計なことをしているわけじゃないんだ。  君たちがいなかったら双葉学園は危なかった。ただ、学園生はもっときみたちのことを知りたい。近づきたい。一緒に戦いたい。そう思ってるんだけなんだ。そう、ただそれだけの話。  身体検査や、異能力測定、データ採取に協力してほしい。僕ら科学者が、より良い君たちの戦闘のやり方や、力の使い方。そして、学園生との付き合い方・共闘のやり方を導きだしてみせよう。  だから、立浪みか。立浪みき。  我々超科学者の歩み寄りを、ぜひ歓迎してほしい。  ・・・・・・私たちがあの恥ずかしいリンガ・ストークと、おっきなガリヴァー・リリパットを倒してから、数日たったそれからのことでした。超科学の方たちが、私たち姉妹に研究の話を持ちかけてきたのは。  その話を真剣に聞いていたのは、以外にも姉さんのほうでした。学園の仲間や島のみんなをこよなく愛している姉さんのことです。みんなが私たち姉妹に対して距離を置いていると知ったとき、強いショックを受けたと思います。  だから彼女はこう、彼らに対して宣言するよう言いました。 「わかった。あたしたちはあんたらに協力するよ。あたしたちはね、みんなの役に立ちたかったんだ。みんなを守りたかったんだ。それが出過ぎた行動だったということに気づいて、とても反省させられた。あたしはみんなと戦いたい。みんなと一緒に協力して戦っていきたい。だから、あんたらに力を貸すよ。何でも言うことを聞くよ。協力するよ」  姉さんは彼らにそう言いました。目元を真っ赤にして。一生懸命な顔をして。心からお願いするように。私は、そんな切実な横顔をしている姉さんを、初めて見ました。  正座の上に乗せている拳をぎりぎり握り締めながら、うつむく姉さんの姿なんて――。 「ぜー、はあー、ぜー、はあー」  学校でも表でもない、よその研究施設。その中にある戦闘場の真ん中で、姉さんは一人、肩で息をしながら辛うじて立っています。  真横からずどんと、そんな姉さんに容赦なくロボットが襲い掛かります。これで合計1012体め。足腰のおぼつかない姉さんに殴りかかろうとしています。 「があああああああ!」  姉さんは吼えました。残るわずかな力を振り絞って、左手の短剣を振りました。  首元をざっくり斬られたロボットは、拳を振り上げたままの姿勢で前のめりに倒れていきました。あとから遅れて、上空へ刎ね飛ばされた頭部が、ごとんと落下して重く響きました。  そのとき、私は姉さんの牙がより太くなったのを見ました。それとも、口元から大きく露出したのでしょうか。  そして、前から、横から、後ろから、天井から、床下から、いっぺんに五十体ぐらいの数のロボットが沸いたのです。信じられません。これまで一体ずつの戦闘であったのに! 姉さんはあんなにもボロボロなのに! 「もうやめてあげてえ!」  と、傷だらけのジャンパースカートを揺らしながら、私は彼らに叫びました。 「もう姉さんは限界だよお! 戦えないよお! こんなの、ひどすぎるよお!」  白衣に身を包んで横に整列し、データを記録していく彼らは、私に振り向きもしません。敵に囲まれ、今にも力尽きて倒れそうな姉さんを、つまらないものを見ているような冷淡な視線でじっと見つめていました。 「心配しないでいいんだよ、立浪みき」  そう呼び捨てでよんだ長身の男子を、私はきっと睨みつけました。  むやみに人を憎んだり嫌ったりしないこの私でも、この人だけは大嫌いでした。メガネをかけた、同い年の高等部の男子。与田光一と言いました。私たちの研究を担当する、総指揮者だそうです。 「君たち姉妹は、戦えば戦うほど。そして、相手を撃破すれば撃破するほど。戦闘力が右肩上がりになっていくんだ。二人が強いとされている真相だよ」 「どうみても大丈夫じゃないでしょうがあ! 姉さん、これじゃあ死んじゃうよお!」 「死にやしないよ。君たちはそういう性質なんだから」  そう耳元でささやかれ、肩を抱かれた私の背中を、形容しがたい嫌悪感が駆け抜けます。 「触らないでえ!」  のんびりとした自分とは信じられないぐらい、大きな声を出しました。  与田は苦笑を浮かべながら、両手を肩のあたりに上げ、諦めのサインを私に示します。 「そんな怖い顔をしちゃダメだよ。きれいなオッドアイが、もったいない」  彼がすまし顔でそんなことを言った時。データを採取している白衣の人たちから、ざわつきの声があがります。与田は「どうした、何が起こった」と、彼らの元へ近づきます。 「あれを・・・・・・見てください」  私も、姉さんのほうを見ます。そしてぞっとしました。  姉さんがロボットの大群を、もう半分以上撃破していたのです。  瞳が常に緑に輝いたまま、戦場を暴れています。一つのロボットを壊してはまたもう一方に飛び掛り、グラディウスでどんどん首を刎ねていきます。 「姉さん・・・・・・?」  私は思わず、遠くの姉さんに向かってそうきいていました。あれは、姉さんなの? 本当に姉さんなの?  私がこれまで見たことのない、恐ろしい形相をしていました。先ほどよりも大きな牙を露出させ、爪を限界まで伸ばし、短剣も、もはや大きな刀といえるぐらい巨大化しています。ゴムの切れた後ろ髪を振り回し、血反吐を辺りに撒き散らしながら、姉さんは次々とロボットに襲い掛かります。  短剣を投げ捨てると、姉さんは素手での戦闘に切り替えました。私たち猫の血筋ができる、もう一つの戦い方です。それからが圧倒的でした。  ロボットの背中に飛び掛ると、両手で頭をつかみ、ブチッとちぎってしまいました。ばちばちと火花の散っている頭部を、今度は他のロボットの顔面目掛けて投げつけます。瞬く間に二機破壊。着地したところを後ろから襲い掛かってきたロボットの首を、後ろ回し蹴りで刎ね、これで三機め。  自ら前傾姿勢でロボットを襲い、真っ直ぐ拳で突きます。腹部を貫通されたロボットの眼球ライトが、すっと消滅しました。四機め。  白い猫耳と尻尾を天に向けて尖らせ、姉さんはまた野獣の咆哮をあげます。  正面から切りかかってきたロボットの顔面に、膝蹴りを食らわせました。仰向けになって、飛びかかった勢いのまま足から滑っていくように倒れていくロボットの首に、姉さんの右腕がしっかりかかります。  ネックブリーカーです。床に叩きつけられたロボットは、首の部分に強い力がかかってつぶれてしまいました。五機め・・・・・・。 「か、かまわん! 全機同時に飛び掛るよう、一括指令を下せ!」  あの与田の声に、強い当惑が見られます。あせった科学者がキーボードを素早く打鍵し、エンターキーに小指を叩き込みました。  ロボットたちの目がいっせいに同時に光ると、集団で姉さんに襲撃をしかけます。  しかし、姉さんの瞳の輝きのほうが、ずっとずっと上でした。  歯を食いしばった姉さんには、ロボットたちが自分に収束してくるように襲いかかってくるように・・・・・・見えない。きっと、襲いかかる格好のまま、彼らが空中で静止しているように見えていたと思います。  極限までじゃきんと伸びた、長くて切れ味鋭い爪。  姉さんはあっという間に、総勢二十機の集団を粉々にしてしまいました。 「・・・・・・はーい、立浪さん? 涎垂らしてないで起きなさーい?」  私はゆっくりと頭を上げました。いつもは授業では絶対に眠らないのに、いつのまにか力尽きたように眠っていたようです。あうう、決して春奈せんせーの現代文がつまらないとか、そういうわけではないですよう・・・・・・? 「いつものお昼寝の時間には、まだ三十二分早いですよー?」  どっと教室じゅうに笑い声が上がり、私はきゅーっと縮こまってしまいました。 「あううー・・・・・・」  ぽけーと半ば眠気に支配されながら、うとうとといつもの白樫の木に行くと。先客がいたので、私はとてもびっくりしました。 「このごろどうしたの? 元気がないし、とても気になっているんですよ?」  春奈せんせーが、太い根っこに腰かけて私を待っていたのです。私は慌てて、 「いや、申し訳ございません・・・・・・。その、最近勉強に励んでまして」  と、適当なことを口走ってしまいました。 「勉強ですか、自学自習はとてもいいことです」  春奈せんせーは、私の担任です。今年初めてクラスを受け持つことになった女の子みたいな先生で、私たちに混じってしまうと見分けがつかなくなってしまいます。  せんせーがそう言ってくれたので、私は内心ほっとして、大好きな大木に背中を預けました。いいお天気。お昼下がりの羽毛のような暖かさに包まれて、目を閉じて・・・・・・。 「毎晩毎晩遅くまで、姉妹揃って与田の研究所で自学自習です、か」  その瞬間、私の両目が、裂けてしまいそうなぐらい大きく開きました。 「そこでちゃんと現代文の自学自習でもやってくれてれば、あたしもちょっとは嬉しいんだけどね」  ぎゅっとスカートの上で拳を握りました。まさか、春奈せんせーに、私たち姉妹のやっていることが、知られていたなんて・・・・・・。  いや、特に隠しておく必要なんてなかったのです。私たちのやっていることは、特別重大なことではありませんでした。ただ、このようにしてせんせーやクラスメートたちに心配されてしまうことが、とにかく怖かったのです。申し訳ありませんでした。  私たちが毎晩、与田によって徹底的に痛めつけられていることが知られたら、春奈せんせーはどのような行動に出るのだろう? 私たちにやめるよう促すのだろうか? 学校を通じて、超科学者側に抗議をするのだろうか? もしそうなってしまったら、あれだけ強い気持ちとやる気を見せていた姉さんが、救われない。  それに・・・・・・。昨日、姉さんが見せた鬼のような戦いぶり。  私は彼女の恐ろしい横顔に、何か、見てはならないものを見たような気がしてならないのです。私たち姉妹は、何か、到達してはならない領域に到達しようとしているのではないか?  やっぱり、あまり他人に触れられたくはなかったのが本音でした。 「ちょっと調べ上げればね、物事は簡単にバレてしまうもんなんです。・・・・・・ねぇ、いったい与田のところで何をやっているの?」  と、春奈せんせーはきいてきました。私は目線を落としたまま、震えていました。 「少し、私たちの異能力に関する研究に、お付き合いさせていただいているだけです・・・・・・。大丈夫です・・・・・・」  嫌な汗を流しながらそれだけ言うと、せんせーはため息をついてこう言いました。 「大丈夫なわけないでしょ? 顔面も腕も足もアザだらけ。暴行されたと勘違いされても、文句は言えないレベルだよ?」  私の隣に、春奈せんせーがふわりと肩を寄せてきました。私たちは背丈がほとんど変わらないので、肩と肩がちょうどよくぶつかって、いい感じです。あったかい。 「本当に大丈夫なの? 本当にただの能力解析なの? あなたが言いたくないのなら、これ以上突っ込もうとは思わないけど」と、春奈せんせーは優しく言います。「不安なんだ。初めて受け持ったクラスの子だから、気になってしかたがない」 「本当に大丈夫ですよ。ちょっとハードなだけで、どうってことはありません。授業中、寝ててすみませんでした。次からは気をつけますね」 「きつかったら、今日からでもやめたほうがいい。真面目な立浪さんが急に授業もまともに聞けなくなって、他の教科の担当も動揺してるぐらいなの。それに、立浪さんたち姉妹はとても強い。はっきり言ってめちゃくちゃ強い。無理にそのような研究に参加しなくても、これまで通り何も気にせず戦ってもらえれば」 「いいえ、私たちは研究に参加し続けます」  そう、私はきっぱりと言った。 「私たちが、もっとちゃんとこの力を使えれば、もっとたくさんの人を助けられます。そのお手伝いをしてもらっているんですから、これぐらいで根をあげちゃいけません」 「そう・・・・・・」と、春奈せんせーはしょんぼりしながら言いました。彼女が向けてくれた優しさをはねつけてしまったようで、私は非常に申し訳ない気持ちになります。  それでも私たち姉妹は、もっとみんなの役に立ちたい。もっと自分の異能力に詳しくなって、強くなりたい。それが共通の認識でした。  それに私には、今日まで誰にも明かしたことのない、別の気持ちというものがあります。  私は優秀な姉さんに対して強いコンプレックスを隠し持っていました。  私なんかと違って明るくて、強くて、人気者の姉さん。それに比べて私は何だろう? 足は遅いし、高く飛べないし、敵に大きなダメージを与えることもできません。ですから姉さんに続く二番手として、戦闘をフォローする立場に甘んじてきました。  ・・・・・・本当は、姉さんよりも強くなりたい。  あの夜、圧倒的な力を見せ付けられて、自分の中でどくどくとそんな気持ちが大きく膨れ上がっていました。与田の力を借りるのはしゃくでたまりませんが、これは私に与えられたチャンスでもあります。今はまだ百体程度しかロボットを倒せなくても、自分の戦い方や能力を深く知って、いつの日かは姉さんを越えたい。絶対に越えたい。  春奈せんせーは、白樫の枝から飛び立った小鳥を見ながらこういいました。 「立浪さんのことは、目を瞑っておいてあげる。でも、こちらが見かねるぐらい大怪我をしてたり、弱ってたりしたら、何としてでもあたしが止めてやるからね?」  嬉しかった。春奈せんせーのおかげで、私はいくらか疲弊していた心に元気が出ました。  ありがとうございます。私がそう呟いたとき、せんせーはにこっと微笑んでから立ち上がります。  ぐきゅるるるるる。  春奈せんせーの顔が、赤く染まりました。  私は吹き出してしまいました。この人、お昼も我慢して私の側にいてくれたのですね。 「すっかり忘れてましたけど、これ食べてください。昨日のお夕飯の余りものです」  すると、今にも飛び跳ねそうなぐらい、春奈せんせーはきらきらと瞳を輝かせました。 「いーの? ほんとーにいーの!」 「はい。私のお昼だったんですが、あいにくお腹が空いていなかったものですから。良ければ明日からも、うちの余りものでよければ差し上げますよ」 「やったー! やっぱ持つべきものは頼れる生徒だねえー!」  春奈せんせーの無邪気な笑顔を見て、私も気が抜けたように頬が緩みました。  ダイアモンド・プリンセス。この初々しい担任が披露した想像以上の異能力に、私たちクラスメートの誰もが驚かされていました。しかし、その実戦的な力はクラスの結束を非常に硬くさせました。お互いがお互いを心から信頼している、そんな素晴らしいものになりつつありました。  そう、それはまるでダイアモンド。ちょっとやそっとの衝撃じゃ崩されることのない、強固な結晶。輝かしい絆。これ、春奈せんせーが磨き上げたものなんですよ? 私は、優しくて頼りがいがあって、可愛い春奈せんせーがとても大好きでした。  ・・・・・・そんな気持ちをいつか、春奈せんせーに伝えてあげたいなと思っていたところでしたのに。  彼女は数日後に、別の仕事のため一週間ほどヨーロッパへ飛び立ちました。  もしも彼女があの日、あの場所にいてくれたら。私たち姉妹は救われたのでしょうか? 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