【タブレット・2nd piece】

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[[ラノで読む>http://rano.jp/1079]] *『束司文乃《つかじ・ふみの》の単語帳』  双葉学園の風紀委員には、加入する際に厳しい審査がある。  学園内の風紀を守るというその任務のために、時には無法を働く能力者を制圧する必要があるからだ。なので幼い頃から異能を発揮していた者や、異能を発揮する以前に武道の心得があった生徒が集まりやすい。  双葉学園二年G組出席番号十七番、束司文乃はそんな屈強なイメージある風紀委員の中で割と珍しい存在である。  鴉の濡れ羽色の美しい髪をきっちり三つ編みに結わえ、年齢の割には幼く見える顔の上に、くっきりと縁がある眼鏡を掛けている。線が細く、それに伴って起伏の乏しい身体付きは、守ってあげたいと思わせる雰囲気があった。  風紀委員と言われると万人が驚き、文学少女と言われると万人が納得する、そんな少女だ。  実際文芸部にも所属しているので、文学少女といっても間違いではないのだが。  ある日の文乃が放課後、文芸部の部室棟に向かう途中、なにやら不自然な人だかりができていた。 「どうしたのこれ?」 「ああ、P組の火野が女子に絡んだところに先輩が止めに入ったんだけど、その先輩と火野が険悪になっちゃって」 「なるほど、大体わかったわ」  適当に声をかけやすそうな人に事情を聞くと、なんとも厄介な名前が出てきた。  二年P組の火野拳児《ひの・けんじ》は表社会の高校ボクシングでもインターハイレベルの選手であり、ラルヴァ討伐チームでもアタッカーを勤める実力者だ。  ただその力を誇示し、よく気に入らない生徒とトラブルを起こすとして風紀委員でも要注意人物とされている。  目を凝らしてみると、野次馬の向こうに緊迫した空気の人影が見える片方は確かに火野で、もう片方は顔は見えないが特徴的な銀髪が目に入った。 「もう一度言ってみろこの黄色いサルめ!」 「何度でも言ってやるぜ、このラルヴァ野郎!」  銀髪と聞こえてきた声でもう一方の相手は、グイード・ヴィルデンブルフだと知れた。  ヴィルデンブルフは、ドイツからの留学生で、古くからの異能力者の家系の出という事もありプライドが高くとっつきにくいが真面目と評判な生徒だったハズだ。異能の扱いも上手く、学園でもチームの要として華々しい戦績を上げている。  評判ではこういったトラブルとは縁遠いように思える人物だが、今はむしろヴィルデンブルフから火野をけしかけているように見える。  二人はかなり殺気立っているようで、このままだといつ喧嘩に発展してもおかしくない。 「やれやれだわ」  嘆息して文乃は、鞄に突っ込んでいた風紀委員の腕章を取り出した。  ちなみに常時着用が推奨されているものなので、こういった扱いはあまり褒められたものではない。  そして目の前の野次馬に声をかけた。 「風紀委員です。通して下さい。風紀委員です」  人込みを掻き分けて進んでいくが、文乃の体格では風紀委員と言っても説得力が無く、なかなか進む事ができない。 「ああもう! 風紀委員だってば」  イライラとしてきた文乃は、制服の内ポケットから単語帳を取り出すとその中の一枚をちぎり取った。そして表面をさっと一撫でして、叫ぶ。 「『ここを通しなさい!』」  文乃が『地の底から震えるような声を上げる』。  二人を取り囲んでいた野次馬が一斉に振り向いた。 「風紀委員よ。ここを通しなさい」  腰に手を当てビシッと胸を張る文乃を見て、海を割ったように野次馬達が道をあける。  その中を堂々と進んでいく文乃を見て野次馬達がまたざわめきだす。 「小さいな」「大丈夫なのか?」「あんな人、風紀委員にいたっけ?」「結構可愛いな」「そうか? お前結構マニアックな趣味してんな」  びくんと、文乃の眉が動く。 「今マニアックって言ったヤツ、あとで覚えときなさいよ」  文乃は野次馬を抜けたあと、振り返って声が聞こえた方を指さす。  ひっと短い悲鳴を上げた男がいた。 (アイツか)  この落とし前はいつか付けてもらうと、文乃は個人的な指名手配リストにその男の顔を加えた。 「あぁ!? 何だテメェは?」  突然の闖入者に火野がたっぷりと威嚇を込めた声を上げる。 「風紀委員よ。聞こえなかったの」  余裕で答える文乃の視界を、意外な人物が捕らえる。 「あれ、聖さん!?」  そこにいたのは、今日文乃と同じクラスに転入してきた聖風華だった。こういうときはさっさと逃げてしまうのが一番なのだが、多分先に野次馬に囲まれてしまったのだろう。  狼のような牙と爪が生えたヴィルデンブルフと拳に煌々と炎が燃え上がっている火野に挟まれ、迷惑そうな顔をしている。 「済まない。こちらは君を思い出せない」  驚く文乃に対し風華の返答は淡白なものだった。  確かに教室での様子をみる限り、聖さんは積極的に周りに溶け込むタイプではないようだったので無理もない。文乃も特に話し掛けるような事もなかったので、お互い様ではあるが。 「同じクラスの束司文乃よ、よろしく。あと風紀委員もやってるの」  文乃は風華に近付いて握手を交わす。やや強引だったが、能力を解放した二人から風華を庇う位置を確保したのだ。 「風紀委員か、手出し無用に願おう。これは我がヴィルデンブルフ家の誇りの問題だ! 邪魔をするなら風紀委員とて容赦はしない」  銀色の狼となったヴィルデンブルフが、鋭い眼光で文乃をにらみつける。 「そういう訳にも行かないんだって」  文乃は風紀委員専用の生徒手帳を開き、 「ええーと、能力を使った学内での私闘は、校則によって禁止されています。今すぐ能力を解除してください」  と、いかにも棒読みだとわかる口調で宣言した。 「テメェ、ふざけてんのか。デリンジャーや逢州のヤツならともかく、平の風紀委員がこの俺に敵うと思ってんのかよ」  火野は鋭いステップで文乃との間合いを詰め、その勢いのまま左の拳を突き出す。  しかしそれは、異能の力を使い更にすばやく文乃の前に回りこんだヴィルデンブルフによって阻まれた。 「何をしている? お前の相手は私だろう」  火野の炎を纏った拳を掴んでいる手から、グジュグジュと肉が燃えるイヤな匂いが立つ。 「おうおう、カッコイイね。さすが化物火なんてへっちゃらってか」  ヘラヘラと笑いを浮かべ、ヴィルデンブルフを挑発する火野。 「はいはい、ストップ、ストップ」  文乃はちぎり取った単語帳を持って、その間に割って入ると『両手から衝撃波を発生させ』て二人を吹き飛ばした。 「何しやがる!」 「手出しは無用に願ったハズだが」  火野は敵意をむき出しに、ヴィルデンブルフも不満そうに文乃へ視線を投げてきた。 「だからそういう訳にはいかないんだってば。でもあんた達運が良いわ。本来なら反省文の提出ってところだけど、単語帳の補充で済ませてあげる」  左手に単語帳のリングを引っ掛け、文乃は余裕の表情で答えた。 「ケッ! 雑魚がぁ!」  火野は叫び、文乃に向かって駆け出した。 「束司!」 「いいから大人しくしてて、てか今から動くと危ないから」  文乃をかばうように飛び出そうとした風華を制、さっと手早く単語帳をめくると、その一ページをちぎり取る。  その瞬間火野は踏み込んだ足を滑らせ、派手に転んだ。『地面の摩擦がゼロになって』いたのだ。  次に文乃はまた一ページちぎり取って、書かれた文章をそっと撫でる。 「下手に耐えない方がいいわよ。私は一〇〇万ボルトの電流は出せるけど、それで気絶するかどうかはあんた次第だからね」  そしてバリバリと音を立てる掌を火野に当てる。  『掌から一〇〇万ボルトの電流が走り』、火野は気絶した。 「さて先輩まだやりますか?」  文乃は、驚いた様子で立ち尽くすヴィルデンブルフに声をかけた。 「な、能力は一人一つのハズだろう。何だ君の能力は」 「ああ私の能力は、みんなの憧れ文章具現化よ。まあ成約が多いからそれほど便利なものでもないけどね」  文乃は腰に手を当て薄い胸を張って答えた。 「いや、別に憧れた記憶は無いが」 「何でよ!? 憧れなさいよ! そうだ、聖さんならわかるわよね? 小さい頃女の子が変身するアニメとか見てたでしょ」  その質問は風華にとって、火野に絡まれるより余程厄介な問題だった。 「さあ、私は……」  風華としては学園がどういう所かわからない以上、あまり自分が記憶喪失である事は広まって欲しくなかったのだ。 「何よ何よ、アニメのヒロインみたいに何でも出来る力とか欲しくなかった? いやそこまでは出来ないんだけど」  文乃の能力は、他人の直筆でなければならない、対象は自分でなければならない、行為の結果を含んではならない、発動は一つずつ、というルールがある。  例えば『殴る』は、命中という結果があるので『殴りかかる』と書かなければいけないなど、けして万能ではないのだ。 「とにかく先輩も罰は受けてもらいますからね」  癇癪を起こしたようにその場で地団駄を踏んでいた文乃だったが、気を取り直したのか改めてヴィルデンブルフに向かって宣言した。 「そうだな、もはや抵抗はせんよ」 「じゃあ、一件落着って事で。先輩もちゃっちゃとその変身解いちゃって下さい」 「そうだったな」  ヴィルデンブルフが変身を解くと、端正なマスクが浮かび上がった。 「すまない、フロイライン。私は君を助けに入ったハズなのに、私の未熟さが原因で君にも迷惑をかけた」  風華に向かって、深く頭を下げるヴィルデンブルフ。 「気にしないでくれ、助けられたのは事実だ」  穏便に済ませようとする風華。 「全く、わかってるなら暴れないで下さいよ。仕事が増えるこっちの身にもなって下さい」  対して文乃は、ここぞとばかりに嫌味を言った。 「……面目ない」  ヴィルデンブルフの謝罪も、文乃に対してはどこか不満気な様子だった。 「じゃあ、私はこれで……」 「ああ、聖さんも来てね。一応話し聞かせてもらいたいから」  立ち去ろうとする風華を文乃が引き止める。  これが後に様々な事件を解決し、風紀委員きっての名コンビと言われるようになる二人の出会いであった。                                                つづく ---- キャラ紹介 [[聖 風華]] [[束司 文乃]] [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
[[ラノで読む>http://rano.jp/1079]] *『束司文乃《つかじ・ふみの》の単語帳』  双葉学園の風紀委員には、加入する際に厳しい審査がある。  学園内の風紀を守るというその任務のために、時には無法を働く能力者を制圧する必要があるからだ。なので幼い頃から異能を発揮していた者や、異能を発揮する以前に武道の心得があった生徒が集まりやすい。  双葉学園二年G組出席番号十七番、束司文乃はそんな屈強なイメージある風紀委員の中で割と珍しい存在である。  鴉の濡れ羽色の美しい髪をきっちり三つ編みに結わえ、年齢の割には幼く見える顔の上に、くっきりと縁がある眼鏡を掛けている。線が細く、それに伴って起伏の乏しい身体付きは、守ってあげたいと思わせる雰囲気があった。  風紀委員と言われると万人が驚き、文学少女と言われると万人が納得する、そんな少女だ。  実際文芸部にも所属しているので、文学少女といっても間違いではないのだが。  ある日の文乃が放課後、文芸部の部室棟に向かう途中、なにやら不自然な人だかりができていた。 「どうしたのこれ?」 「ああ、P組の火野が女子に絡んだところに先輩が止めに入ったんだけど、その先輩と火野が険悪になっちゃって」 「なるほど、大体わかったわ」  適当に声をかけやすそうな人に事情を聞くと、なんとも厄介な名前が出てきた。  二年P組の火野拳児《ひの・けんじ》は表社会の高校ボクシングでもインターハイレベルの選手であり、ラルヴァ討伐チームでもアタッカーを勤める実力者だ。  ただその力を誇示し、よく気に入らない生徒とトラブルを起こすとして風紀委員でも要注意人物とされている。  目を凝らしてみると、野次馬の向こうに緊迫した空気の人影が見える片方は確かに火野で、もう片方は顔は見えないが特徴的な銀髪が目に入った。 「もう一度言ってみろこの黄色いサルめ!」 「何度でも言ってやるぜ、このラルヴァ野郎!」  銀髪と聞こえてきた声でもう一方の相手は、グイード・ヴィルデンブルフだと知れた。  ヴィルデンブルフは、ドイツからの留学生で、古くからの異能力者の家系の出という事もありプライドが高くとっつきにくいが真面目と評判な生徒だったハズだ。異能の扱いも上手く、学園でもチームの要として華々しい戦績を上げている。  評判ではこういったトラブルとは縁遠いように思える人物だが、今はむしろヴィルデンブルフから火野をけしかけているように見える。  二人はかなり殺気立っているようで、このままだといつ喧嘩に発展してもおかしくない。 「やれやれだわ」  嘆息して文乃は、鞄に突っ込んでいた風紀委員の腕章を取り出した。  ちなみに常時着用が推奨されているものなので、こういった扱いはあまり褒められたものではない。  そして目の前の野次馬に声をかけた。 「風紀委員です。通して下さい。風紀委員です」  人込みを掻き分けて進んでいくが、文乃の体格では風紀委員と言っても説得力が無く、なかなか進む事ができない。 「ああもう! 風紀委員だってば」  イライラとしてきた文乃は、制服の内ポケットから単語帳を取り出すとその中の一枚をちぎり取った。そして表面をさっと一撫でして、叫ぶ。 「『ここを通しなさい!』」  文乃が『地の底から震えるような声を上げる』。  二人を取り囲んでいた野次馬が一斉に振り向いた。 「風紀委員よ。ここを通しなさい」  腰に手を当てビシッと胸を張る文乃を見て、海を割ったように野次馬達が道をあける。  その中を堂々と進んでいく文乃を見て野次馬達がまたざわめきだす。 「小さいな」「大丈夫なのか?」「あんな人、風紀委員にいたっけ?」「結構可愛いな」「そうか? お前結構マニアックな趣味してんな」  びくんと、文乃の眉が動く。 「今マニアックって言ったヤツ、あとで覚えときなさいよ」  文乃は野次馬を抜けたあと、振り返って声が聞こえた方を指さす。  ひっと短い悲鳴を上げた男がいた。 (アイツか)  この落とし前はいつか付けてもらうと、文乃は個人的な指名手配リストにその男の顔を加えた。 「あぁ!? 何だテメェは?」  突然の闖入者に火野がたっぷりと威嚇を込めた声を上げる。 「風紀委員よ。聞こえなかったの」  余裕で答える文乃の視界を、意外な人物が捕らえる。 「あれ、聖さん!?」  そこにいたのは、今日文乃と同じクラスに転入してきた聖風華だった。こういうときはさっさと逃げてしまうのが一番なのだが、多分先に野次馬に囲まれてしまったのだろう。  狼のような牙と爪が生えたヴィルデンブルフと拳に煌々と炎が燃え上がっている火野に挟まれ、迷惑そうな顔をしている。 「済まない。こちらは君を思い出せない」  驚く文乃に対し風華の返答は淡白なものだった。  確かに教室での様子をみる限り、聖さんは積極的に周りに溶け込むタイプではないようだったので無理もない。文乃も特に話し掛けるような事もなかったので、お互い様ではあるが。 「同じクラスの束司文乃よ、よろしく。あと風紀委員もやってるの」  文乃は風華に近付いて握手を交わす。やや強引だったが、能力を解放した二人から風華を庇う位置を確保したのだ。 「風紀委員か、手出し無用に願おう。これは我がヴィルデンブルフ家の誇りの問題だ! 邪魔をするなら風紀委員とて容赦はしない」  銀色の狼となったヴィルデンブルフが、鋭い眼光で文乃をにらみつける。 「そういう訳にも行かないんだって」  文乃は風紀委員専用の生徒手帳を開き、 「ええーと、能力を使った学内での私闘は、校則によって禁止されています。今すぐ能力を解除してください」  と、いかにも棒読みだとわかる口調で宣言した。 「テメェ、ふざけてんのか。デリンジャーや逢州のヤツならともかく、平の風紀委員がこの俺に敵うと思ってんのかよ」  火野は鋭いステップで文乃との間合いを詰め、その勢いのまま左の拳を突き出す。  しかしそれは、異能の力を使い更にすばやく文乃の前に回りこんだヴィルデンブルフによって阻まれた。 「何をしている? お前の相手は私だろう」  火野の炎を纏った拳を掴んでいる手から、グジュグジュと肉が燃えるイヤな匂いが立つ。 「おうおう、カッコイイね。さすが化物火なんてへっちゃらってか」  ヘラヘラと笑いを浮かべ、ヴィルデンブルフを挑発する火野。 「はいはい、ストップ、ストップ」  文乃はちぎり取った単語帳を持って、その間に割って入ると『両手から衝撃波を発生させ』て二人を吹き飛ばした。 「何しやがる!」 「手出しは無用に願ったハズだが」  火野は敵意をむき出しに、ヴィルデンブルフも不満そうに文乃へ視線を投げてきた。 「だからそういう訳にはいかないんだってば。でもあんた達運が良いわ。本来なら反省文の提出ってところだけど、単語帳の補充で済ませてあげる」  左手に単語帳のリングを引っ掛け、文乃は余裕の表情で答えた。 「ケッ! 雑魚がぁ!」  火野は叫び、文乃に向かって駆け出した。 「束司!」 「いいから大人しくしてて、てか今から動くと危ないから」  文乃をかばうように飛び出そうとした風華を制、さっと手早く単語帳をめくると、その一ページをちぎり取る。  その瞬間火野は踏み込んだ足を滑らせ、派手に転んだ。『地面の摩擦がゼロになって』いたのだ。  次に文乃はまた一ページちぎり取って、書かれた文章をそっと撫でる。 「下手に耐えない方がいいわよ。私は一〇〇万ボルトの電流は出せるけど、それで気絶するかどうかはあんた次第だからね」  そしてバリバリと音を立てる掌を火野に当てる。  『掌から一〇〇万ボルトの電流が走り』、火野は気絶した。 「さて先輩まだやりますか?」  文乃は、驚いた様子で立ち尽くすヴィルデンブルフに声をかけた。 「な、能力は一人一つのハズだろう。何だ君の能力は」 「ああ私の能力は、みんなの憧れ文章具現化よ。まあ成約が多いからそれほど便利なものでもないけどね」  文乃は腰に手を当て薄い胸を張って答えた。 「いや、別に憧れた記憶は無いが」 「何でよ!? 憧れなさいよ! そうだ、聖さんならわかるわよね? 小さい頃女の子が変身するアニメとか見てたでしょ」  その質問は風華にとって、火野に絡まれるより余程厄介な問題だった。 「さあ、私は……」  風華としては学園がどういう所かわからない以上、あまり自分が記憶喪失である事は広まって欲しくなかったのだ。 「何よ何よ、アニメのヒロインみたいに何でも出来る力とか欲しくなかった? いやそこまでは出来ないんだけど」  文乃の能力は、他人の直筆でなければならない、対象は自分でなければならない、行為の結果を含んではならない、発動は一つずつ、というルールがある。  例えば『殴る』は、命中という結果があるので『殴りかかる』と書かなければいけないなど、けして万能ではないのだ。 「とにかく先輩も罰は受けてもらいますからね」  癇癪を起こしたようにその場で地団駄を踏んでいた文乃だったが、気を取り直したのか改めてヴィルデンブルフに向かって宣言した。 「そうだな、もはや抵抗はせんよ」 「じゃあ、一件落着って事で。先輩もちゃっちゃとその変身解いちゃって下さい」 「そうだったな」  ヴィルデンブルフが変身を解くと、端正なマスクが浮かび上がった。 「すまない、フロイライン。私は君を助けに入ったハズなのに、私の未熟さが原因で君にも迷惑をかけた」  風華に向かって、深く頭を下げるヴィルデンブルフ。 「気にしないでくれ、助けられたのは事実だ」  穏便に済ませようとする風華。 「全く、わかってるなら暴れないで下さいよ。仕事が増えるこっちの身にもなって下さい」  対して文乃は、ここぞとばかりに嫌味を言った。 「……面目ない」  ヴィルデンブルフの謝罪も、文乃に対してはどこか不満気な様子だった。 「じゃあ、私はこれで……」 「ああ、聖さんも来てね。一応話し聞かせてもらいたいから」  立ち去ろうとする風華を文乃が引き止める。  これが後に様々な事件を解決し、風紀委員きっての名コンビと言われるようになる二人の出会いであった。                                                つづく ---- キャラ紹介 [[聖 風華]] [[束司 文乃]] [[タブレットシリーズ]] [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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