【斗え! ゲッソー仮面】

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[[ラノで読む>http://rano.jp/1210]]  時坂祥吾は、間が悪い。  だが注意して欲しいのは、間が悪いのと運が悪い事や不幸な事とは似て非なることである、ということだ。  間が悪いというのは、つまりは「タイミングが悪い」という事だ。それだけのことである。  故に。  福引で賞品あたっても、何らおかしくはない。 「おめでとうございまーす! 三等のリゾート海水浴チケットです!」  当選したのは、最近開いたリゾート地の家族用チケットだった。  超豪華……というほどでもないが、海水浴場の傍にあるホテルの宿泊チケットである。  それを手に入れたのはあくまでも運であり、間が悪いとかどうかは全く関係ない。  だから。 「まさか……そんな、ああ……ありえません、そんな……!!」  世界が終わるような顔をしないでくれメフィ。  そう時坂祥吾は思った。  ……彼女と一緒にいる時に福引があたったというのも、ある意味では間が悪いのかもしれない。 【斗え! ゲッコー仮面】   「しかしすごいねお兄ちゃん、うっわー、楽しみぃ」  自宅にて。  一観はその話を聞いて大喜びする。 「これ、最近出来たあれじゃない、大型リゾートの」 「ああ。海もあるしプールもあるらしい」 「すごいよねー、楽しみだよねー!」  一観はうれしそうにはしゃいでいる。  その笑顔だけで、祥吾は報われた気がする。 「ではしっかり準備しないといけませんね」  メフィが言う。 「えっと、私達も……その」  コーラルがそれに続き、上目遣いで言ってくる。 「……何言ってんの、当然でしょ? ほらほらここに、家族って書いてあるし」  その言葉に、コーラルはうれしそうに笑う。 「しかし海か……久しぶりだな」 「海といえば?」 「海といえば!」 「「そう!」」  祥吾と一観の言葉が同調する。  そう、海といえば―― ♪どこの烏賊かは知らないけれど  誰もがみんな知っている  ゲッソー仮面のおじさんは(お兄さんと呼べいっ!!)  正義の烏賊よ美味しいよ♪  BGMが海に響く。  刺すような真夏の日差し、灼熱の白い砂浜を蹴って白い覆面の戦士が跳躍する。  海上特設リングの白いマットに降り立つは…… 『母なる大海原が生んだ純白のイカすファイター! 謎の覆面レスラー、ゲッソー仮面だぁあああっ!!』  クルーザーに乗って解説が叫ぶ。  砂浜に集まった観客達がいっせいに応援の声を張り上げた。 「うおおおおおッ! おい一観、生だよ、生ゲソ仮面!」 「さすが迫力違うよね、お兄ちゃんッ!」  時坂兄妹もまた、拳を振り上げて応援する。  そう、海といえばプロレスだ! 「……」  その光景をメフィとコーラルは黙ってみている。  というか、ちょっと引いている。 (え? 普通海と言ったら……もっとこう)  気合を入れた水着が台無しだと思った。  というわけで二人の水着の詳しい描写は避ける。今はもっと描写すべきことがあるのだ。そう…… 『対戦者ぁ! その真紅のボディは返り血かぁ!? 多くのヒーローを血に染めてきた真紅の悪魔!  その八本足は全てを貫く! オクトパニッシャーだぁあ!!』  水柱があがる。  その中から飛び出してきたのは、蛸を象った仮面をつけた真紅の悪役レスラー。八本の蛸足の触手を持つそれは、処刑人の名を持 つ魔人である。 「ちょちょちょっと祥吾さんっ!?」 「ん、どうした」 「あれ、どう見てもラルヴァじゃないですか!?」 「何言ってんだお前」  祥吾は呆れ顔で言う。 「ラルヴァがこんな所でプロレスしてるはずないじゃん。あれは悪役レスラーだよ」 「そうだよ、ここは双葉学園じゃないし」 (ええ~~~~~~~~っ!?)  祥吾たちの瞳は、純真だった。 『ゲストの灰児さん、この戦いはどうなるでしょうね?』 『そもそも何で私がこんな所にいるのか聞きたいんだけど』 『はい、実に見事な試合の予測でした、さすがは専門家! さて彼の予想通りに試合は進むのか』 『いや私はプロレス専門家じゃなくてだな、というか』 『さあ、ゴングです! 試合開始ィっ!』 「ぅぉりゃあああああっ!」  ゲッソー仮面が走る。  左足を軸にした回し蹴り。しかしオクトバニッシャーの触手によってからめ取られ、そのままリングロープへと投げつけられる。 「くっ!」  オクトバニッシャーは、ロープの反動で跳ね飛ばされたゲッソー仮面へと走り、ラリアットを叩き込む。  それも、腕で首へ、そして触手で頭、胸、腹、足へと……その触手を活かした、四段ラリアット攻撃――! 『出たぁ! いきなりオクトバニッシャーの伝家の宝刀、タコアシギロチンだぁーッ!』 「ぐはっ」  マットにたたきつけられるゲッソー仮面。  仰向けに倒れたゲッソー仮面をオクトバニッシャーは蹴り上げてうつぶせにし、そしてその無防備な背中に向かい、 『あ――――っと、まさかこれはぁ!?』  触手を絡みつかせ、ドリルへと変える! 『タコドリルだぁーっ! これは危険、これはやばいッ!』  唸りを上げたタコドリルが、ゲッソー仮面の背中を直撃する! 「ぐあああああああああああああっ!!」 「ひどい、フォールすればいいのにあんな……!」  一観が悲鳴を上げる。 「大丈夫だ、まだ試合はこれからだ、ゲッソー仮面はこの程度じゃ負けないって」  そういいながらも、祥吾の拳は不安を押し潰すように握り締められている。 「いやあの、プロレスじゃないでしょこれ、ドリルですよドリル!? というかあれどう見ても」 「ごめんなさい、私もどう見ても……」  メフィとコーラルが言う。だが、 「悪役レスラーならドリルぐらい使うだろ」  祥吾は一言でその質問を却下した。  確かに、悪役レスラーに凶器攻撃はセオリーである。  それがフォークだったりバットだったりするなら、触手ドリルだって何らおかしくない。プロレスは非情なのだ。 「とどめだあっ!」  オクトバニッシャーがドリルを振り上げる。  その一瞬の隙を縫い、転がってドリル攻撃から脱したゲッソー仮面は、そのまま背筋をバネにしてドリルを蹴り上げた。 「ぬうっ!」 「お前の攻撃パターンは知っている、とどめを刺す時に……大振りになる事はな!」 「おのれ、ゲッソー仮面め! 小癪な真似を……」  歯軋りをするオクトバニッシャーに対して、ゲッソー仮面は指を振って笑う。 「違うな。そういう場合は、イカした真似を、って言うんだぜ?」 「ほざけぇえええっ!!」  叫ぶオクトバニッシャー。  その背中から八本の触手が襲い掛かる!  だが―― 「あイカわらずの触手攻撃か。だが――それならお前は俺には勝てない! なぜなら――」  ゲッソー仮面も走る。そして…… 「イカの足は――十本だからだ!」  ゲッソー仮面の背中からもまた触手が走る。  それはタコ足をかいくぐり、オクトバニッシャーの顔面に叩き込まれる。 「ぐはあっ!」 「ええええええええええ!? いやちょっ、あっちもラルヴァ!?」  メフィが驚愕の声をあげる。だが、 「だからレスラーだって、メフィさん」 「レスラーなあれぐらい普通だろ」  平然と観戦する二人にメフィはただただ首を振る。 「くそ、貴様ァッ!」 「そろそろ……ケリをつけようぜ!」  右手から墨が噴出される。  それが渦を巻き、螺旋状のドリルのようにオクトパニッシャーの眼前に突きつけられる。 「っ!!」  渦を巻く隅がオクトパニッシャーの動きを拘束する。  そして、ゲッソー仮面は跳躍し、ドロップキックを叩き込む!  これこそがゲッソー仮面の必殺技―― 「スパイラルインク・スクィッドハンマー!!」  超高速でのドロップキックがオクトバニッシャーを貫く。  マットに着地したゲッソー仮面の背後で、 「ぐ……ぅぉああああ!!」  オクトパニッシャーが爆発四散した。 『決まったァ~~~~! ゲッソー仮面の必殺技ァ!! イカすぜぇ!!』  ゲッソー仮面は指を天に突きつけて、勝利宣言をする。 「――カウントは、いらねぇな!」  開場は勝利に沸く。  それを見て、時坂兄妹もまたガッツポーズをとり、声援を送る。  そしてメフィ達は、 (ええええええええええ!?)  その光景に唖然としていた。 (今爆発しましたよね!? なんかすごいジャンプで飛んでキックしましたよね!? 相手が爆死しましたよ!? 異能者かラルヴァじゃ ないと無理ですよね!?)  メフィはそれを祥吾に告げる。いくらなんでもこれはおかしい。 「祥吾さん、あれどう見ても……」  だが…… 「何言ってんだ、お前。あれ見ろよ」 「え?」  海からざばりと姿を現し、控え室に移動しているオクトバニッシャーの姿が。 「え、あれさっき爆発して……」 「プロレスだからな」 「ええええええええ!?」  まあ確かにプロレスは入場の時の花火といい、火薬を使ったパフォーマンスはよくあるものである。  だから必殺技を喰らって爆発四散するぐらい、基本なのだ。 「プロレスラーさんってすごいよね、お兄ちゃん」 「ああ、全くだよ」 「いやいやいやいやいやいやいや!」  現実を直視しないメフィであった。 「すごかったよね、昼の」 「う、うん……」  一観とコーラルは夜の砂浜を散歩していた。 「本当に……プロレス……好きなんですね」 「うん、大好きだよ。一家そろってプロレスファンだし」 「そうなんですか……」 「うん!」  笑顔で頷く一観。  その時、二人の耳に足音が聞こえた。  振り向くと、 「へへへ、おじょ~ちゃんたち、こんな夜になにしてんの?」 「ナンパまちかな~? おにいちゃんたちとイイコトしようよ~」  目の妙に離れた顔の、二人の男が笑っていた。  祥吾とメフィは、それに気づく。 「祥吾さん、あれ……」 「な、一観たちが襲われてる?」  祥吾は持っていたジュースのカップを握り潰し、駆け出そうとして――  その祥吾と、メフィの肩にぼん、と置かれる手があった。 「?」  それは二人の、たくましい青年だった。 「俺たちに任せろ」 「君達は此処で待ってろ」  そう言って、一観たちの所に歩いていく青年二人。  祥吾は、その後姿に――背中に既視感を覚える。 「まさか……」  そして二人は駆け出し、 「変身!」  一瞬で、その姿を変えた。  純白の覆面レスラー、ゲッソー仮面。  真紅の覆面レスラー、オクトバニッシャー。 (ええええええええ!?)  メフィはその姿をみて驚愕する。 「祥吾さん、今あれ、変身しましたよ!?」 「そりゃ覆面レスラーだし変身するだろ」 「えええええええええええええええええええええええええ!?」  そのメフィの驚愕をよそに、二人はドロップキックを男達に叩き付ける。 「ぐわっ!」  直撃を受け、海に叩きつけられる二人。 「大丈夫か、君達」 「え……? ゲッソー仮面!?」 「さあ、彼らの所に行くんだ。ここは俺たちが引き受ける!」  ゲッソー仮面とオクトバニッシャーは、一観とコーラルを安全な場所へと逃がし、そして海を凝視する。  立ち上がってくる男二人。彼らは憎悪の視線をゲッソー仮面たちに向ける。 「貴様ら……よくも邪魔を!」 「邪悪なレスラー協会、インスマンス団の連中だな!」 「ちぃっ、女の子をナンパして我らのラウンドガールに洗脳・改造しようとした計画をかぎつけたかっ!」 「そんな計画は知らん!」 「なんだとぉっ!! ならば何故我らの邪魔をしたっ!」 「そんな事は知らん!」  指を指して言ってのける。 「邪悪を阻み、正義の為に戦うのはプロレスラーの宿命だ!」 「ちいい! それに貴様……馬鹿な! 貴様は悪役のはず! 何故そいつに力を貸す!」  男は、オクトバニッシャーに向かって叫ぶ。 「愚問だな。俺は悪役であって、貴様らのような悪党ではない!!  そして、一度リングを離れたら……!」 「拳を交えた仲間と仲間!」 「拳は一つに重なって!」 「邪悪を討てと唸りを上げる!!」 「俺は真紅の処刑執行人! オクトバニッシャー!!」 「俺はイカした正義の戦士! ゲッソー仮面!!」  二人の背後で、赤と白の爆発が起きた。 「おのれぇえええっ!!」  インスマンス団の邪悪レスラーは、肩車の状態になる。 「合っ! 体! これぞ巨大レスラー、デビルマグーロ!!」 「くっ……!」  その巨体に気圧されるゲッソー仮面。 「ひるむなゲッソー仮面!」 「判っている、ただでかくなっただけなど……!」 「甘いな、ただでかくなつただけと思うか……分離ィ!」 「何ぃっ!?」  上半身と下半身が分離し、二人のレスラーへとなった。  そしてそれらは、飛び掛りラリアット攻撃をしてくる。 「ぐっ!」 「はははははは、油断したな!」  そしてそのままグラウンド技に持ち込んでくる。 「しまっ……」  そう、ここでゲッソー仮面たちは重大なミスを犯した。  それは、ここが砂浜だということだ。 「正統派レスラーなきさまらではリングの戦いに慣れているため、砂浜では思う存分に戦えまい! ましてや寝技から脱出など!」 「このまま砂の中に引きずり込んでくれる! ギョベ~ッベッベッベ!」  彼らの言うとおりだった。砂に脚を取られ、これでは思うままに戦えない。  だが…… 「ぐぼっ!」  絞められた苦痛ゆえか、黒い墨を口から盛大に吐き出す。 「ふははははは、どうした! もはや形無しだな……むうっ!?」  そこで気づく。  墨を盛大に吐き出した。  それによって、砂浜は濡れ、硬くなる。 「まさか貴様、これを狙って……!」 「その通り! ましてや墨は固まれば、ガチガチになるのさ!」  一気に絞め技から脱出するゲッソー仮面。オクトバニッシャーもまた同じである。  そして…… 「アルティメット・オクトパスホールド!」  オクトバニッシャーはそのまま、八本の触手を使い、必殺ホールドをガキィ、と決める。 「アーンド……!」  ゲッソー仮面が跳躍する。 「スクィッドパイルドライバー!」  十本の触手で捕らえ、空中に持ち上げる。 「フィニッシュ!!」  空中から流星のように叩きつけられ、二体の悪党レスラー、デビルマグーロは大爆発を起こした。 「すげぇ……!」 「本当、かっこいいよね!」  感激する時坂兄妹。  もはやメフィは、突っ込む気力すら失せていた。 (私が間違ってる……?)  間違っているとか正しいとか、そんな事は関係ない。  何故なら――真夏の海のプロレス、それはそれだけで十分なのだ!  だが、彼らは知らない。  その一部始終を、ホテル最上階から見下ろしていた視線を。 「全く、不出来なものだな」 「はい、お嬢様」  和風の豪奢な部屋。そこから全てを見下ろすのは――敷神楽鶴祁。 「和の心が欠落している。やはり任せてはおけぬ。  敷神楽グループ、プロレス部門の力を見せてやれ」 「了解いたしました、お嬢様」 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
[[ラノで読む>http://rano.jp/1210]]  時坂祥吾は、間が悪い。  だが注意して欲しいのは、間が悪いのと運が悪い事や不幸な事とは似て非なることである、ということだ。  間が悪いというのは、つまりは「タイミングが悪い」という事だ。それだけのことである。  故に。  福引で賞品あたっても、何らおかしくはない。 「おめでとうございまーす! 三等のリゾート海水浴チケットです!」  当選したのは、最近開いたリゾート地の家族用チケットだった。  超豪華……というほどでもないが、海水浴場の傍にあるホテルの宿泊チケットである。  それを手に入れたのはあくまでも運であり、間が悪いとかどうかは全く関係ない。  だから。 「まさか……そんな、ああ……ありえません、そんな……!!」  世界が終わるような顔をしないでくれメフィ。  そう時坂祥吾は思った。  ……彼女と一緒にいる時に福引があたったというのも、ある意味では間が悪いのかもしれない。 【斗え! ゲッソー仮面】   「しかしすごいねお兄ちゃん、うっわー、楽しみぃ」  自宅にて。  一観はその話を聞いて大喜びする。 「これ、最近出来たあれじゃない、大型リゾートの」 「ああ。海もあるしプールもあるらしい」 「すごいよねー、楽しみだよねー!」  一観はうれしそうにはしゃいでいる。  その笑顔だけで、祥吾は報われた気がする。 「ではしっかり準備しないといけませんね」  メフィが言う。 「えっと、私達も……その」  コーラルがそれに続き、上目遣いで言ってくる。 「……何言ってんの、当然でしょ? ほらほらここに、家族って書いてあるし」  その言葉に、コーラルはうれしそうに笑う。 「しかし海か……久しぶりだな」 「海といえば?」 「海といえば!」 「「そう!」」  祥吾と一観の言葉が同調する。  そう、海といえば―― ♪どこの烏賊かは知らないけれど  誰もがみんな知っている  ゲッソー仮面のおじさんは(お兄さんと呼べいっ!!)  正義の烏賊よ美味しいよ♪  BGMが海に響く。  刺すような真夏の日差し、灼熱の白い砂浜を蹴って白い覆面の戦士が跳躍する。  海上特設リングの白いマットに降り立つは…… 『母なる大海原が生んだ純白のイカすファイター! 謎の覆面レスラー、ゲッソー仮面だぁあああっ!!』  クルーザーに乗って解説が叫ぶ。  砂浜に集まった観客達がいっせいに応援の声を張り上げた。 「うおおおおおッ! おい一観、生だよ、生ゲソ仮面!」 「さすが迫力違うよね、お兄ちゃんッ!」  時坂兄妹もまた、拳を振り上げて応援する。  そう、海といえばプロレスだ! 「……」  その光景をメフィとコーラルは黙ってみている。  というか、ちょっと引いている。 (え? 普通海と言ったら……もっとこう)  気合を入れた水着が台無しだと思った。  というわけで二人の水着の詳しい描写は避ける。今はもっと描写すべきことがあるのだ。そう…… 『対戦者ぁ! その真紅のボディは返り血かぁ!? 多くのヒーローを血に染めてきた真紅の悪魔!  その八本足は全てを貫く! オクトパニッシャーだぁあ!!』  水柱があがる。  その中から飛び出してきたのは、蛸を象った仮面をつけた真紅の悪役レスラー。八本の蛸足の触手を持つそれは、処刑人の名を持 つ魔人である。 「ちょちょちょっと祥吾さんっ!?」 「ん、どうした」 「あれ、どう見てもラルヴァじゃないですか!?」 「何言ってんだお前」  祥吾は呆れ顔で言う。 「ラルヴァがこんな所でプロレスしてるはずないじゃん。あれは悪役レスラーだよ」 「そうだよ、ここは双葉学園じゃないし」 (ええ~~~~~~~~っ!?)  祥吾たちの瞳は、純真だった。 『ゲストの灰児さん、この戦いはどうなるでしょうね?』 『そもそも何で私がこんな所にいるのか聞きたいんだけど』 『はい、実に見事な試合の予測でした、さすがは専門家! さて彼の予想通りに試合は進むのか』 『いや私はプロレス専門家じゃなくてだな、というか』 『さあ、ゴングです! 試合開始ィっ!』 「ぅぉりゃあああああっ!」  ゲッソー仮面が走る。  左足を軸にした回し蹴り。しかしオクトバニッシャーの触手によってからめ取られ、そのままリングロープへと投げつけられる。 「くっ!」  オクトバニッシャーは、ロープの反動で跳ね飛ばされたゲッソー仮面へと走り、ラリアットを叩き込む。  それも、腕で首へ、そして触手で頭、胸、腹、足へと……その触手を活かした、四段ラリアット攻撃――! 『出たぁ! いきなりオクトバニッシャーの伝家の宝刀、タコアシギロチンだぁーッ!』 「ぐはっ」  マットにたたきつけられるゲッソー仮面。  仰向けに倒れたゲッソー仮面をオクトバニッシャーは蹴り上げてうつぶせにし、そしてその無防備な背中に向かい、 『あ――――っと、まさかこれはぁ!?』  触手を絡みつかせ、ドリルへと変える! 『タコドリルだぁーっ! これは危険、これはやばいッ!』  唸りを上げたタコドリルが、ゲッソー仮面の背中を直撃する! 「ぐあああああああああああああっ!!」 「ひどい、フォールすればいいのにあんな……!」  一観が悲鳴を上げる。 「大丈夫だ、まだ試合はこれからだ、ゲッソー仮面はこの程度じゃ負けないって」  そういいながらも、祥吾の拳は不安を押し潰すように握り締められている。 「いやあの、プロレスじゃないでしょこれ、ドリルですよドリル!? というかあれどう見ても」 「ごめんなさい、私もどう見ても……」  メフィとコーラルが言う。だが、 「悪役レスラーならドリルぐらい使うだろ」  祥吾は一言でその質問を却下した。  確かに、悪役レスラーに凶器攻撃はセオリーである。  それがフォークだったりバットだったりするなら、触手ドリルだって何らおかしくない。プロレスは非情なのだ。 「とどめだあっ!」  オクトバニッシャーがドリルを振り上げる。  その一瞬の隙を縫い、転がってドリル攻撃から脱したゲッソー仮面は、そのまま背筋をバネにしてドリルを蹴り上げた。 「ぬうっ!」 「お前の攻撃パターンは知っている、とどめを刺す時に……大振りになる事はな!」 「おのれ、ゲッソー仮面め! 小癪な真似を……」  歯軋りをするオクトバニッシャーに対して、ゲッソー仮面は指を振って笑う。 「違うな。そういう場合は、イカした真似を、って言うんだぜ?」 「ほざけぇえええっ!!」  叫ぶオクトバニッシャー。  その背中から八本の触手が襲い掛かる!  だが―― 「あイカわらずの触手攻撃か。だが――それならお前は俺には勝てない! なぜなら――」  ゲッソー仮面も走る。そして…… 「イカの足は――十本だからだ!」  ゲッソー仮面の背中からもまた触手が走る。  それはタコ足をかいくぐり、オクトバニッシャーの顔面に叩き込まれる。 「ぐはあっ!」 「ええええええええええ!? いやちょっ、あっちもラルヴァ!?」  メフィが驚愕の声をあげる。だが、 「だからレスラーだって、メフィさん」 「レスラーなあれぐらい普通だろ」  平然と観戦する二人にメフィはただただ首を振る。 「くそ、貴様ァッ!」 「そろそろ……ケリをつけようぜ!」  右手から墨が噴出される。  それが渦を巻き、螺旋状のドリルのようにオクトパニッシャーの眼前に突きつけられる。 「っ!!」  渦を巻く隅がオクトパニッシャーの動きを拘束する。  そして、ゲッソー仮面は跳躍し、ドロップキックを叩き込む!  これこそがゲッソー仮面の必殺技―― 「スパイラルインク・スクィッドハンマー!!」  超高速でのドロップキックがオクトバニッシャーを貫く。  マットに着地したゲッソー仮面の背後で、 「ぐ……ぅぉああああ!!」  オクトパニッシャーが爆発四散した。 『決まったァ~~~~! ゲッソー仮面の必殺技ァ!! イカすぜぇ!!』  ゲッソー仮面は指を天に突きつけて、勝利宣言をする。 「――カウントは、いらねぇな!」  開場は勝利に沸く。  それを見て、時坂兄妹もまたガッツポーズをとり、声援を送る。  そしてメフィ達は、 (ええええええええええ!?)  その光景に唖然としていた。 (今爆発しましたよね!? なんかすごいジャンプで飛んでキックしましたよね!? 相手が爆死しましたよ!? 異能者かラルヴァじゃ ないと無理ですよね!?)  メフィはそれを祥吾に告げる。いくらなんでもこれはおかしい。 「祥吾さん、あれどう見ても……」  だが…… 「何言ってんだ、お前。あれ見ろよ」 「え?」  海からざばりと姿を現し、控え室に移動しているオクトバニッシャーの姿が。 「え、あれさっき爆発して……」 「プロレスだからな」 「ええええええええ!?」  まあ確かにプロレスは入場の時の花火といい、火薬を使ったパフォーマンスはよくあるものである。  だから必殺技を喰らって爆発四散するぐらい、基本なのだ。 「プロレスラーさんってすごいよね、お兄ちゃん」 「ああ、全くだよ」 「いやいやいやいやいやいやいや!」  現実を直視しないメフィであった。 「すごかったよね、昼の」 「う、うん……」  一観とコーラルは夜の砂浜を散歩していた。 「本当に……プロレス……好きなんですね」 「うん、大好きだよ。一家そろってプロレスファンだし」 「そうなんですか……」 「うん!」  笑顔で頷く一観。  その時、二人の耳に足音が聞こえた。  振り向くと、 「へへへ、おじょ~ちゃんたち、こんな夜になにしてんの?」 「ナンパまちかな~? おにいちゃんたちとイイコトしようよ~」  目の妙に離れた顔の、二人の男が笑っていた。  祥吾とメフィは、それに気づく。 「祥吾さん、あれ……」 「な、一観たちが襲われてる?」  祥吾は持っていたジュースのカップを握り潰し、駆け出そうとして――  その祥吾と、メフィの肩にぼん、と置かれる手があった。 「?」  それは二人の、たくましい青年だった。 「俺たちに任せろ」 「君達は此処で待ってろ」  そう言って、一観たちの所に歩いていく青年二人。  祥吾は、その後姿に――背中に既視感を覚える。 「まさか……」  そして二人は駆け出し、 「変身!」  一瞬で、その姿を変えた。  純白の覆面レスラー、ゲッソー仮面。  真紅の覆面レスラー、オクトバニッシャー。 (ええええええええ!?)  メフィはその姿をみて驚愕する。 「祥吾さん、今あれ、変身しましたよ!?」 「そりゃ覆面レスラーだし変身するだろ」 「えええええええええええええええええええええええええ!?」  そのメフィの驚愕をよそに、二人はドロップキックを男達に叩き付ける。 「ぐわっ!」  直撃を受け、海に叩きつけられる二人。 「大丈夫か、君達」 「え……? ゲッソー仮面!?」 「さあ、彼らの所に行くんだ。ここは俺たちが引き受ける!」  ゲッソー仮面とオクトバニッシャーは、一観とコーラルを安全な場所へと逃がし、そして海を凝視する。  立ち上がってくる男二人。彼らは憎悪の視線をゲッソー仮面たちに向ける。 「貴様ら……よくも邪魔を!」 「邪悪なレスラー協会、インスマンス団の連中だな!」 「ちぃっ、女の子をナンパして我らのラウンドガールに洗脳・改造しようとした計画をかぎつけたかっ!」 「そんな計画は知らん!」 「なんだとぉっ!! ならば何故我らの邪魔をしたっ!」 「そんな事は知らん!」  指を指して言ってのける。 「邪悪を阻み、正義の為に戦うのはプロレスラーの宿命だ!」 「ちいい! それに貴様……馬鹿な! 貴様は悪役のはず! 何故そいつに力を貸す!」  男は、オクトバニッシャーに向かって叫ぶ。 「愚問だな。俺は悪役であって、貴様らのような悪党ではない!!  そして、一度リングを離れたら……!」 「拳を交えた仲間と仲間!」 「拳は一つに重なって!」 「邪悪を討てと唸りを上げる!!」 「俺は真紅の処刑執行人! オクトバニッシャー!!」 「俺はイカした正義の戦士! ゲッソー仮面!!」  二人の背後で、赤と白の爆発が起きた。 「おのれぇえええっ!!」  インスマンス団の邪悪レスラーは、肩車の状態になる。 「合っ! 体! これぞ巨大レスラー、デビルマグーロ!!」 「くっ……!」  その巨体に気圧されるゲッソー仮面。 「ひるむなゲッソー仮面!」 「判っている、ただでかくなっただけなど……!」 「甘いな、ただでかくなつただけと思うか……分離ィ!」 「何ぃっ!?」  上半身と下半身が分離し、二人のレスラーへとなった。  そしてそれらは、飛び掛りラリアット攻撃をしてくる。 「ぐっ!」 「はははははは、油断したな!」  そしてそのままグラウンド技に持ち込んでくる。 「しまっ……」  そう、ここでゲッソー仮面たちは重大なミスを犯した。  それは、ここが砂浜だということだ。 「正統派レスラーなきさまらではリングの戦いに慣れているため、砂浜では思う存分に戦えまい! ましてや寝技から脱出など!」 「このまま砂の中に引きずり込んでくれる! ギョベ~ッベッベッベ!」  彼らの言うとおりだった。砂に脚を取られ、これでは思うままに戦えない。  だが…… 「ぐぼっ!」  絞められた苦痛ゆえか、黒い墨を口から盛大に吐き出す。 「ふははははは、どうした! もはや形無しだな……むうっ!?」  そこで気づく。  墨を盛大に吐き出した。  それによって、砂浜は濡れ、硬くなる。 「まさか貴様、これを狙って……!」 「その通り! ましてや墨は固まれば、ガチガチになるのさ!」  一気に絞め技から脱出するゲッソー仮面。オクトバニッシャーもまた同じである。  そして…… 「アルティメット・オクトパスホールド!」  オクトバニッシャーはそのまま、八本の触手を使い、必殺ホールドをガキィ、と決める。 「アーンド……!」  ゲッソー仮面が跳躍する。 「スクィッドパイルドライバー!」  十本の触手で捕らえ、空中に持ち上げる。 「フィニッシュ!!」  空中から流星のように叩きつけられ、二体の悪党レスラー、デビルマグーロは大爆発を起こした。 「すげぇ……!」 「本当、かっこいいよね!」  感激する時坂兄妹。  もはやメフィは、突っ込む気力すら失せていた。 (私が間違ってる……?)  間違っているとか正しいとか、そんな事は関係ない。  何故なら――真夏の海のプロレス、それはそれだけで十分なのだ!  だが、彼らは知らない。  その一部始終を、ホテル最上階から見下ろしていた視線を。 「全く、不出来なものだな」 「はい、お嬢様」  和風の豪奢な部屋。そこから全てを見下ろすのは――敷神楽鶴祁。 「和の心が欠落している。やはり任せてはおけぬ。  敷神楽グループ、プロレス部門の力を見せてやれ」 「了解いたしました、お嬢様」 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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