【A new day has come】

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  戦うことが愛ならば   君のために戦い続けるだろう   君の幸せが僕の願いだから                    ――『ファイブマン 愛のテーマ』より 「おはよっ。みきおねーちゃん!」 「おはよう、みくちゃ!」  朝食を作っていたとき、みくちゃが起きてきました。ちらりと八重歯の覗いている、にこにことしたかわいい笑顔を見るのも、もうどれぐらい久しぶりのことなのでしょうか。 「私も手伝うね! やることある?」 「そうね。ほとんど終わっちゃってるから、紅茶入れてほしいな」 「うん! まかせて!」  隣に並んだみくちゃは、昔よりもずっとずっと背が伸びてて、しっかりしてて・・・・・・。私の知らないうちに、こんなにも成長したんだなと感心させられました。その反面、独りぼっちにさせてしまい、とても申し訳ない気もします。  今日は九月二日。一日が日曜日であったため、今日が学園の始業式になります。  そして、この日、私はついに学園に復学を果たします。  長かった、もう一人の「私」との戦い。それも、昨日のうちにすべて終わりました。ただの悪夢ではありません。私が私の手で終わらせた、私が終わらせなければならなかった悪夢でした。 「お姉ちゃん、緊張してる?」 「うん? そんな風に見えたかな?」 「三年ぶりだもんね!」  忘れてはいけないのは、私が血塗れ仔猫に打ち勝てたのも、たくさんの人の助けがあったからこそ。みくちゃ、マサさん、醒徒会のみなさん。みなさんが私なんかのために頑張ってくれたから、私は帰ってくることができた。  その中でもとりわけ、特別な人が私にはいる。  赤いランドセルを背負ったみくちゃが、マンションの一室を飛び出していきました。久しぶりに家の鍵を持った私は少々、かちゃかちゃと鍵をかけるのに苦戦します。 「何してんの、お姉ちゃん! 早く行こうよ!」 「あうう、ちょっと待っててー!」  このマンションはもともと、私たち三姉妹が下宿先として学園からあてがわれたものでした。私の復活に伴い、本当に久しぶりにこの部屋に明かりが点ったことになります。  昨晩はみくちゃと二人きりで、ゆっくり親密な時間を過ごしました。一緒に夕飯を作って、お風呂に入って、一緒のベッドで眠って。  やはり思い知ったのは、みくちゃはずっと一人で頑張ってきたんだな、ということでした。  三年前の事件をきっかけにして、私と姉さんは九歳のみくちゃを残して失踪してしまいました。それからみくちゃの独りぼっちの戦いは始まります。一人で暮らして、ご飯を食べて、ラルヴァと戦って。私たちと別れてから今日までの一日一日を、みくちゃは涙ぐみながら話してくれました。 「ごめんね、みくちゃ・・・・・・」  そう言って、布団の中で私はみくちゃを抱きしめてあげます。いつの間にかすうすうと寝息を立てていたその小さな寝顔に、久しぶりに家族の温もりや存在を感じました。 「お姉ちゃん? どうしたの? 早く鍵閉めて学校行こうよ!」  はっとして、私は我に返ります。 「あ、ごめんね! 今行くね!」  まだトーストとバターの香りが残っている、私たちの部屋。ドアを閉めて鍵をかけるその前に、ほの暗い空間に向かって私はこうささやきました。 「それでは、行ってきますね。姉さん」  誰もいない部屋に、私の声だけが響きます。  もう、姉さんはいない。私のことを守ってくれる姉さんは、もうこの世にはいない。  それでも、大丈夫。  私は強く生きるよ。みくちゃをしっかり守って生きていく。  今の私には「仲間」がいるのだから。  みくちゃが一緒に行動しているマサさん――遠藤雅さんは、昨日は大変疲れた様子で自分の部屋に帰っていきました。  あの優しそうな雰囲気の方が、みくちゃのパートナーだったとは。  やましい関係になるのはお姉さんとして一切許さないところですが、みくちゃも「仲間」を作って色々な困難や障壁を乗り越えていったんだと思うと、やっぱり友達とか仲間とか味方といったものはとても大切なんだなと思わされます。  海沿いの通学路を、みくちゃが先導して歩いていきます。機嫌がいいのかスキップをして、赤いランドセルを弾ませています。  今回、めでたく復学を果たす私ですが・・・・・・。できるのかなぁ、お友達。  実は、朝から不安に思っていたことは、このことだったのです。  まず、仕方のないことだったとはいえ、私は「留年」してしまったようなものであること。  当時のクラスメートは、今やほとんどが大学一年生でしょう。そんな彼らと顔を合わせるようなことがあったら・・・・・・あうう。恥ずかしくて困ります。  そして次に心配なのは、新しいクラスの子が私のことをどう受け入れてくれるのか、ということです。  私は、できれば春奈せんせーのいる1Bに入りたいなとは思っています。が、それを決めるのは学園のすることです。AからZまである高等部のクラス。戦闘能力やスタイルからかんがみて、もっとも適切なクラスへと編入されることでしょう。 「やっていけるのかなぁ。私」  昔から消極的で、特に男の人が怖くてたまらない私。そんな私の手を引っ張ってくれたのは、もちろん姉さんでした。  しっかりしなくちゃ。  姉さんのことを思い出すたび、私はそういう強い気持ちになることができるのです。 「じゃ、しっかりね。お姉ちゃん!」 「うん。みくちゃもしっかりね」  初等部の校舎のほうへ消えていく赤いランドセルに、私はずっと手をゆっくり振っていました。  本当にみくちゃはしっかりしている。私のいないあいだに、私よりもずっと立派な異能者になったような気がする。これじゃ、私がみくちゃに守られるような、そんな情けない事態になりかねません。姉さんに呆れられそう。 「あうう、しっかり、しっかりしようよ私!」  そう、首をぶんぶん振って、ぱちんぱちんと両手で自分の頬を張りました。  むんと表情を引き締め、高等部のほうへ行こうとしましたときでした。 「みきちゃん・・・・・・だよね・・・・・・?」 「え・・・・・・?」  遠い昔の日に聞いたような、懐かしい女の子の声がしたのです。  声のしたほうを向くと、ショートカットの茶髪も可愛らしい、私服の女の子が私のほうを向いていました。  頭にはすでに、私のようなけもの耳が生えています。犬のものです。それを見て、私は目頭がじんと熱くなったのを感じました。 「ふみちゃん・・・・・・!」 「生きてたんだね。生きててよかったぁ・・・・・・!」  彼女は、三年前に一緒のクラスだった女の子で、名前を『川又ふみ』と言います。犬の血が流れており、私と似たような異能を持っています。 「あうう、私のことを覚えてくれてたんだね。ありがとう、本当に」 「忘れるわけないよぅ。みきちゃんがいなくなって、とっても寂しかったぁ・・・・・・」  と、ふみちゃんはぐすぐす言いました。普段から泣き虫だったふみちゃんの目元が、ものすごく真っ赤になっています。  ふみちゃんは今はもう、大学一年生だそうです。私の不安が一つ、杞憂に終わります。私の親友は今もこうして、親友でいてくれる。怯える必要はなかったのです。 「ところで、みきちゃん」と、ふみちゃんが言います。「みきちゃんの新しいクラス、まだ教えられてないんだよね?」 「うん。だからどのクラスになるのかなぁって、不安に思ってるところ・・・・・・。あうう」 「新しいクラスの担任の先生がね、みきちゃんのことを待ってるよ?」 「え?」  私は驚いて、ふみちゃんの円らな瞳を見つめます。 「その人はね、今、白樫の木でみきちゃんのことを待ってる」  私のお気に入りだった場所だ。 「だから、行ってあげて。誰よりもみきちゃんの帰りを、待っててくれた人だよ」  ひんやりとした横風が、秋の訪れを感じさせます。  校舎の様子は三年前と、ほとんど変わっていません。心なしか昔よりも生徒たちが、朗らかな、明るい笑顔をしていると感じます。  やがて、私はかつてのお気に入りの場所に到着しました。  そよ風が白樫の緑をさあっとなで上げたとき、私の頬から涙が零れ落ちます。 「久しぶりですね、立浪みきさん」 「春奈・・・・・・せんせぇ・・・・・・」  顔がぐしゃっと溶けて、熱い感情がいっぱい噴き出てくるのを感じました。  にっこりと穏やかな笑顔を向けてくれるその人は、一目見ただけでは高等部の先生だとなかなかわかりません。  でも、そういう人たちに私は教えてあげたい。この人は世界中の誰よりも優しくて、いい人で、私が大好きな人なんだってことを。 「昨日はよく眠れましたか?」 「眠れました・・・・・・」 「体調はいかがですか?」 「いいです・・・・・・」 「復学できそうですか?」 「いつでも、大丈夫です・・・・・・!」  一つ一つ、声をかけてもらえるたびに、私は大粒の涙を流します。  春奈せんせーは生徒思いの先生です。三年前もお昼ご飯も我慢して、日に日に疲労の溜まっていった私のことを気にかけてくれました。  そんな春奈せんせーがこうして、私の帰りを待ってくれていた。こうして気にかけてくれている。私にとって、これほど幸せなことはないのです。 「それでは、立浪みきさん。あなたのクラスを発表します」  私はうつむくのを止めて、まっすぐ前を向きます。  そして彼女は、優しくにこっと笑って、こう言いました。 「あなたは一年B組です! ふふ、またあたしのクラスだね! よろしくね!」  私は最後まで聞いていられず、大声で泣きながら春奈せんせーの胸に飛び込みました。 「あうう・・・・・・よかったぁ・・・・・・私、生きて帰ってこれて、本当によかったぁ・・・・・・!」 「よく頑張ったね。これからはあたしが付いているから」 「せんせぇ・・・・・・!」  あなたを殺すようなことがなくて、本当によかった。いつかの夜、この場であなたに鞭を振るってしまったときは、私は悲しすぎて死んでしまうかと思った。  それに、私には聴こえていました。  黒い私によって、私のなにもかもを掌握されていたとき。  春奈せんせーがあの子と、口頭で戦ってくれたことを。  あなたはこう言ってくれました。「あたしの教え子は、かえしてもらうよ」  あなたはこう言ってくれました。「立浪・・・・・・みきさん、頑張って!」  あなたは私のために、あの子と真正面から戦ってくれたのです。私はこれほど、誰かに愛されたことがこれまでにありましょうか? 一部の生徒たちから痛い目に合い、少々人間不信に陥っていた自分にとって、これほど救いになった出来事はありません。たとえ「宿命」に呑まれて命を落としたとしても、もう悔いはありませんでした。 「あたしはあなたの味方だから。心配しなくて、いいんだよ」  どんどん嗚咽交じりに言葉が出てくる私の頭を、春奈せんせーは撫でてくれます。  私たちは背丈がほとんど変わらないので、がっちりと包み込んでくれます。あったかい。  乾ききった冷たい横風から守られるように、私はずっとこの人によって守られていた。  だからもう、私は二度と死にたいなんて思わない。二度と自分自身の影に怯えない。  私のことを大切にしてくれる仲間や味方が側にいてくれるのだから、もう何も怖がる必要なんてないの。  私の新しい日々は始まった。  &bold(){作者からも言わせてください。せんせーさん、本当にありがとう}
  戦うことが愛ならば   君のために戦い続けるだろう   君の幸せが僕の願いだから                    ――『ファイブマン 愛のテーマ』より 「おはよっ。みきおねーちゃん!」 「おはよう、みくちゃ!」  朝食を作っていたとき、みくちゃが起きてきました。ちらりと八重歯の覗いている、にこにことしたかわいい笑顔を見るのも、もうどれぐらい久しぶりのことなのでしょうか。 「私も手伝うね! やることある?」 「そうね。ほとんど終わっちゃってるから、紅茶入れてほしいな」 「うん! まかせて!」  隣に並んだみくちゃは、昔よりもずっとずっと背が伸びてて、しっかりしてて・・・・・・。私の知らないうちに、こんなにも成長したんだなと感心させられました。その反面、独りぼっちにさせてしまい、とても申し訳ない気もします。  今日は九月二日。一日が日曜日であったため、今日が学園の始業式になります。  そして、この日、私はついに学園に復学を果たします。  長かった、もう一人の「私」との戦い。それも、昨日のうちにすべて終わりました。ただの悪夢ではありません。私が私の手で終わらせた、私が終わらせなければならなかった悪夢でした。 「お姉ちゃん、緊張してる?」 「うん? そんな風に見えたかな?」 「三年ぶりだもんね!」  忘れてはいけないのは、私が血塗れ仔猫に打ち勝てたのも、たくさんの人の助けがあったからこそ。みくちゃ、マサさん、醒徒会のみなさん。みなさんが私なんかのために頑張ってくれたから、私は帰ってくることができた。  その中でもとりわけ、特別な人が私にはいる。  赤いランドセルを背負ったみくちゃが、マンションの一室を飛び出していきました。久しぶりに家の鍵を持った私は少々、かちゃかちゃと鍵をかけるのに苦戦します。 「何してんの、お姉ちゃん! 早く行こうよ!」 「あうう、ちょっと待っててー!」  このマンションはもともと、私たち三姉妹が下宿先として学園からあてがわれたものでした。私の復活に伴い、本当に久しぶりにこの部屋に明かりが点ったことになります。  昨晩はみくちゃと二人きりで、ゆっくり親密な時間を過ごしました。一緒に夕飯を作って、お風呂に入って、一緒のベッドで眠って。  やはり思い知ったのは、みくちゃはずっと一人で頑張ってきたんだな、ということでした。  三年前の事件をきっかけにして、私と姉さんは九歳のみくちゃを残して失踪してしまいました。それからみくちゃの独りぼっちの戦いは始まります。一人で暮らして、ご飯を食べて、ラルヴァと戦って。私たちと別れてから今日までの一日一日を、みくちゃは涙ぐみながら話してくれました。 「ごめんね、みくちゃ・・・・・・」  そう言って、布団の中で私はみくちゃを抱きしめてあげます。いつの間にかすうすうと寝息を立てていたその小さな寝顔に、久しぶりに家族の温もりや存在を感じました。 「お姉ちゃん? どうしたの? 早く鍵閉めて学校行こうよ!」  はっとして、私は我に返ります。 「あ、ごめんね! 今行くね!」  まだトーストとバターの香りが残っている、私たちの部屋。ドアを閉めて鍵をかけるその前に、ほの暗い空間に向かって私はこうささやきました。 「それでは、行ってきますね。姉さん」  誰もいない部屋に、私の声だけが響きます。  もう、姉さんはいない。私のことを守ってくれる姉さんは、もうこの世にはいない。  それでも、大丈夫。  私は強く生きるよ。みくちゃをしっかり守って生きていく。  今の私には「仲間」がいるのだから。  みくちゃが一緒に行動しているマサさん――遠藤雅さんは、昨日は大変疲れた様子で自分の部屋に帰っていきました。  あの優しそうな雰囲気の方が、みくちゃのパートナーだったとは。  やましい関係になるのはお姉さんとして一切許さないところですが、みくちゃも「仲間」を作って色々な困難や障壁を乗り越えていったんだと思うと、やっぱり友達とか仲間とか味方といったものはとても大切なんだなと思わされます。  海沿いの通学路を、みくちゃが先導して歩いていきます。機嫌がいいのかスキップをして、赤いランドセルを弾ませています。  今回、めでたく復学を果たす私ですが・・・・・・。できるのかなぁ、お友達。  実は、朝から不安に思っていたことは、このことだったのです。  まず、仕方のないことだったとはいえ、私は「留年」してしまったようなものであること。  当時のクラスメートは、今やほとんどが大学一年生でしょう。そんな彼らと顔を合わせるようなことがあったら・・・・・・あうう。恥ずかしくて困ります。  そして次に心配なのは、新しいクラスの子が私のことをどう受け入れてくれるのか、ということです。  私は、できれば春奈せんせーのいる1Bに入りたいなとは思っています。が、それを決めるのは学園のすることです。AからZまである高等部のクラス。戦闘能力やスタイルからかんがみて、もっとも適切なクラスへと編入されることでしょう。 「やっていけるのかなぁ。私」  昔から消極的で、特に男の人が怖くてたまらない私。そんな私の手を引っ張ってくれたのは、もちろん姉さんでした。  しっかりしなくちゃ。  姉さんのことを思い出すたび、私はそういう強い気持ちになることができるのです。 「じゃ、しっかりね。お姉ちゃん!」 「うん。みくちゃもしっかりね」  初等部の校舎のほうへ消えていく赤いランドセルに、私はずっと手をゆっくり振っていました。  本当にみくちゃはしっかりしている。私のいないあいだに、私よりもずっと立派な異能者になったような気がする。これじゃ、私がみくちゃに守られるような、そんな情けない事態になりかねません。姉さんに呆れられそう。 「あうう、しっかり、しっかりしようよ私!」  そう、首をぶんぶん振って、ぱちんぱちんと両手で自分の頬を張りました。  むんと表情を引き締め、高等部のほうへ行こうとしましたときでした。 「みきちゃん・・・・・・だよね・・・・・・?」 「え・・・・・・?」  遠い昔の日に聞いたような、懐かしい女の子の声がしたのです。  声のしたほうを向くと、ショートカットの茶髪も可愛らしい、私服の女の子が私のほうを向いていました。  頭にはすでに、私のようなけもの耳が生えています。犬のものです。それを見て、私は目頭がじんと熱くなったのを感じました。 「ふみちゃん・・・・・・!」 「生きてたんだね。生きててよかったぁ・・・・・・!」  彼女は、三年前に一緒のクラスだった女の子で、名前を『川又ふみ』と言います。犬の血が流れており、私と似たような異能を持っています。 「あうう、私のことを覚えてくれてたんだね。ありがとう、本当に」 「忘れるわけないよぅ。みきちゃんがいなくなって、とっても寂しかったぁ・・・・・・」  と、ふみちゃんはぐすぐす言いました。普段から泣き虫だったふみちゃんの目元が、ものすごく真っ赤になっています。  ふみちゃんは今はもう、大学一年生だそうです。私の不安が一つ、杞憂に終わります。私の親友は今もこうして、親友でいてくれる。怯える必要はなかったのです。 「ところで、みきちゃん」と、ふみちゃんが言います。「みきちゃんの新しいクラス、まだ教えられてないんだよね?」 「うん。だからどのクラスになるのかなぁって、不安に思ってるところ・・・・・・。あうう」 「新しいクラスの担任の先生がね、みきちゃんのことを待ってるよ?」 「え?」  私は驚いて、ふみちゃんの円らな瞳を見つめます。 「その人はね、今、白樫の木でみきちゃんのことを待ってる」  私のお気に入りだった場所だ。 「だから、行ってあげて。誰よりもみきちゃんの帰りを、待っててくれた人だよ」  ひんやりとした横風が、秋の訪れを感じさせます。  校舎の様子は三年前と、ほとんど変わっていません。心なしか昔よりも生徒たちが、朗らかな、明るい笑顔をしていると感じます。  やがて、私はかつてのお気に入りの場所に到着しました。  そよ風が白樫の緑をさあっとなで上げたとき、私の頬から涙が零れ落ちます。 「久しぶりですね、立浪みきさん」 「春奈・・・・・・せんせぇ・・・・・・」  顔がぐしゃっと溶けて、熱い感情がいっぱい噴き出てくるのを感じました。  にっこりと穏やかな笑顔を向けてくれるその人は、一目見ただけでは高等部の先生だとなかなかわかりません。  でも、そういう人たちに私は教えてあげたい。この人は世界中の誰よりも優しくて、いい人で、私が大好きな人なんだってことを。 「昨日はよく眠れましたか?」 「眠れました・・・・・・」 「体調はいかがですか?」 「いいです・・・・・・」 「復学できそうですか?」 「いつでも、大丈夫です・・・・・・!」  一つ一つ、声をかけてもらえるたびに、私は大粒の涙を流します。  春奈せんせーは生徒思いの先生です。三年前もお昼ご飯も我慢して、日に日に疲労の溜まっていった私のことを気にかけてくれました。  そんな春奈せんせーがこうして、私の帰りを待ってくれていた。こうして気にかけてくれている。私にとって、これほど幸せなことはないのです。 「それでは、立浪みきさん。あなたのクラスを発表します」  私はうつむくのを止めて、まっすぐ前を向きます。  そして彼女は、優しくにこっと笑って、こう言いました。 「あなたは一年B組です! ふふ、またあたしのクラスだね! よろしくね!」  私は最後まで聞いていられず、大声で泣きながら春奈せんせーの胸に飛び込みました。 「あうう・・・・・・よかったぁ・・・・・・私、生きて帰ってこれて、本当によかったぁ・・・・・・!」 「よく頑張ったね。これからはあたしが付いているから」 「せんせぇ・・・・・・!」  あなたを殺すようなことがなくて、本当によかった。いつかの夜、この場であなたに鞭を振るってしまったときは、私は悲しすぎて死んでしまうかと思った。  それに、私には聴こえていました。  黒い私によって、私のなにもかもを掌握されていたとき。  春奈せんせーがあの子と、口頭で戦ってくれたことを。  あなたはこう言ってくれました。「あたしの教え子は、かえしてもらうよ」  あなたはこう言ってくれました。「立浪・・・・・・みきさん、頑張って!」  あなたは私のために、あの子と真正面から戦ってくれたのです。私はこれほど、誰かに愛されたことがこれまでにありましょうか? 一部の生徒たちから痛い目に合い、少々人間不信に陥っていた自分にとって、これほど救いになった出来事はありません。たとえ「宿命」に呑まれて命を落としたとしても、もう悔いはありませんでした。 「あたしはあなたの味方だから。心配しなくて、いいんだよ」  どんどん嗚咽交じりに言葉が出てくる私の頭を、春奈せんせーは撫でてくれます。  私たちは背丈がほとんど変わらないので、がっちりと包み込んでくれます。あったかい。  乾ききった冷たい横風から守られるように、私はずっとこの人によって守られていた。  だからもう、私は二度と死にたいなんて思わない。二度と自分自身の影に怯えない。  私のことを大切にしてくれる仲間や味方が側にいてくれるのだから、もう何も怖がる必要なんてないの。  私の新しい日々は始まった。  &bold(){作者からも言わせてください。せんせーさん、本当にありがとう}

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