【芋煮怪 それゆけ委員長番外編】

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[[できればラノで読んで下さい>http://rano.jp/1302]]  どうも初めまして。  私、双葉学園高等部、二年C組の鈴木耶麻葉《すずきやまは》というものです。個性的なクラスメイトが多いため、埋もれがちですが、副委員長をやらせて頂いてます。  本日は双葉島の海岸沿いにある臨海公園にきております。この公園、非常に広く設備も充実しており、休日ともなれば、キャンプをする若者、カップル、親子連れで賑わう、双葉島でも人気のあるスポットになっていますね。今日も祝日ということで、キャンプ場ではあちこちでバーベキューや焼肉パーティーが開催されてます。  うーん、おいしそうな匂いが私の方まで漂ってきますよ。  そんな場所に私が何故いるかというと、今週金曜のHRで、委員長である笹島輝亥羽《ささじまきいは》さんがこう言ったからでした。 「突然ですが、今週日曜に“芋煮会”をすることにしました。異論は許さないから」  いや、ホント、いきなり過ぎます。委員長はいつもそうです。何故、人の話を聞かないのでしょう。クラスメイトの殆どもブーイングです。それはそうです。せっかくの休日の予定を潰されてしまうのですから。クラスメイトの中には積極的に化物《ラルヴア》と戦い、疲れている人だっているでしょうに。  あ、みんなの意見、軽く流してますね委員長。 「大体ね、この時期にコンビニの店先に薪が売ってないとかどうかしてるのよ。それに何? 海浜公園にはバーベキューの施設はあっても芋煮の施設はないって言うじゃない? どうかしてるわ。常備しとけっていうのよ。まったく、秋の風物ってのを分かってないのよのね、この島は。確かに、芋煮会といえば河原でやるものと相場が決まっているから、海浜公園にないっていうのは仕方ないかもしれないけど、この島に河原なんてないんだから、せめてキャンプ場には用意して欲しいわよねえ?」  委員長、コンビニで薪を売ってるのは仙台と山形のごく一部ですっ!! それと、芋煮のための施設が常設されているのはスポーツランド菅生や仙台ハイランドくらいですってば! 「いやいや、芋煮会とかやる方が普通じゃないから。というか、そもそも芋煮ってなんだよ? まず、それを説明してくれよ」  いいですよ召屋《めしや》くん。あなたはこのクラスの数少ないツッコミ役なんですからどんどんツッコんでください。 「黙りなさいっ!!」  あ、恫喝で逃げましたね委員長。全く、そんなだから、声と態度のでかさだけで委員長になったとか裏で言われるんですよ。 「いいこと、これは決めたことなの。せっかく、字元《あざもと》先生から材料費ふんだくったんだから、何が何でも決行します! もちろん、全員参加だから」  えーと、ちょっと待ってください? 先生から材料費を貰った? どういうことですか。何か弱みでも握ってるんですか? それとも、生徒と教師という禁断の………。  あっ、軽く妄想にトリップしてしまいましたよ。涎を拭かないとって、あれ? HRは終わりですか? って、いつの間にっ!? 「どーして、こいつらがいるの?」  あーもう、また委員長が機嫌を損ねてますよ。そりゃそーです。不倶戴天の敵と言ってもいい春部里衣《はるべりい》さんとイワン・カストロビッチさんが目の前にいるんですからね。なんで、H組は変な人が多いんでしょう。まあ、ウチのクラスもそれに関しては何もいえませんけど……。 「え? そりゃあんた、招待されたからに決まってるじゃない」  相変わらず偉そうですね、春部さん。 「うん!! 私、芋煮会って初めて。どんなことするの?」  あ、そういえば有葉千乃《あるはちの》さんもいましたね。どうにも最近影が薄いですけど。もう少し自己主張した方がいいですよ。  「ほら、俺は召屋の金魚のフンだから」  そんなこと言うからスカトロビッチとか呼ばれるんですよカストロビッチさん。というか、なんであなたはそうやってすぐに胸をはだけるんですか? それと、女性陣、ときめかない。この人は見た目がいいだけで中身は変態なんですから。 「招待されたですって?」 「ええ、そうよ」 「お、俺じゃない。少なくともこっちの二人は俺じゃないって!!」  あ、召屋くんが全力で否定している。この人たちといえば召屋くんなのに意外です。 「じゃあ、誰だって言うのよ。こんなトラブルメーカーを招待したのは?」 『ご招待ありがとう! 拍手くん!!』  うわー、にこやかに春部さんと有葉さんが手を振ってますよ。やっぱり、おっぱい要員として呼んだのでしょうか? いや、有葉さんは要員としては確実に無理ですけど。というか拍手くん、逃げようとしてません? 「みんな、拍手くんを確保よ!」  こういう時の統率された動きはさすが二年C組ですね。全くもって隙がないです。鋼のB組にも負けません。うん、自慢になりませんけど。あっという間に拍手くんが取り押さえられます。 「お、お前らそれでもクラスメイトかっ? 人でなしっ!!」 「さーて、どういうことかしら、拍手くん」  拍手くんの目の前に仁王立つ姿はまさに鬼です、鬼の形相です。 「やっぱり、春部さんのおっぱ……じゃなかった。えーと、あれだ、あれ。ほら、火を付けたりするのに召屋のドラゴンが便利だろ。だから、それを扱える有葉さんをだね……」 「…………ま、まあ、よしとしましょ。じゃあ、召屋くんと有葉さんは準備が出来次第、全部の鍋の火を付ける役をやってちょうだい。そろそろ買い出し部隊も到着するところだから。あと、拍手くんと春部さんは下準備を手伝って、それと……」  あ、あれぇ? 何ちょっと頬を染めてるんですか? どう考えても嘘でしょ?  でも、テキパキとクラスメイトに指示を与えていく姿はさすがです。伊達に委員長ではないですよ。やっぱり、クラス委員長は笹島さんが一番です。あっ、ちょっと、召屋くんの召喚したミニドラゴンに吸い寄せられるように近づくのは止めてください。私たちには各役割を見回るという仕事があるんですからね。さあ行きますよ。  そんな悲しそうな顔をしないで下さい。そんな目でこっちを見てもダメですよ。  ここは炊事場ですね。いくつかダンボール箱がありますけど、買い出し部隊はまだ戻ってないのでは? ああ、なるほど星崎真琴《ほしざきまこと》さんに送ってもらったんですね。やっぱりテレポート能力は便利ですねー。  拍手くんも春部さんも他のクラスメイトも下ごしらえに入りましたね。うん、いいことです。あれ? でも春部さん、それはちょと、ねえ……。 「ところで春部さん?」 「何かしら?」  日向ぼっこをしている猫のような笑顔で、委員長の方に振り向きます。ホント無駄に笑顔だけは爽やかですね。 「その手は何?」 「何って、皮を向いてるんだけど?」 「なら、ちゃんと包丁使ってくれる?」  まあ、能力者なら、そりゃ使った方が楽ってのはあるでしょうけど、それにしたって、爪で里芋剥くのは止めてください。 「えーっ!? 面倒じゃない?」  そういう問題じゃないですから。  買い出し部隊が到着したみたいですね。というか瑠杜賀羽宇《るとがはう》さんの背負ってる量はなんですか? 委員長、身の丈の数倍ありますよ。 「ああ、あれ? あの子ならあれくらい持てるでしょ。ロボットなんだし」  え、えーと、彼女はロボットではなく自動人形《オートマトン》じゃなかったでしたっけ? 「そんなのどうでもいいでしょ? おーい、こっち、こっちよー!」  委員長が買い出し部隊に大きく手を振ります。先頭で歩いていた星崎真琴《ほしざきまこと》さんがこちらに気づき、向かってきます。 「ふう、ようやく到着。つかれたー!」  汗だくになった星崎真琴《ほしざきまこと》さんがその場にペタリと座り込みます。愛用の鉄扇で扇いで涼んでますね。まあ、これだけの荷物なら仕方ないですよね。しかも能力も使ったりしてますし。 「じゃあ、星崎さん、悪いんだけどその手に持っている鉄扇で火種がついてる薪を扇いで火を起こしてくれるくれるかしら?」 「えーっ!?」  委員長? あなたは悪魔ですか? 「労わるよりも、芋煮を作るのが大事なの」  うーん、それはちょっと違うような気もしますけど、その芋煮会に対する無駄な情熱は仙台人らしいですね。  こっちは設営部ですね。陣頭指揮を執っているのは美作聖《みまさかひじり》さんです。確か大工部でしたっけ? さすがです、竈の設営は慣れたものですね。 「ねえ、委員長。この鍋どうしたの? レンタル?」  まあ、普通にそう思いますよね。直径八十センチ超えの銅鍋が三つとか有り得ないですからね。 「ああ、それ? 実家から送ってもらったのよ」 「え!? こんなの家にあるの?」 「当たり前でしょ? 仙台人なら一家に一鍋よ。第一、鍋がなければ芋煮会ができないじゃない?」  いや、絶対嘘です。持ってませんよ。ホントに。 「だったら、なんで三つもあるのよ?」 「そりゃ、実家が町内会長やってるからよ。子供会とかのイベントで必須だから、最低三つは用意してないとね。これ仙台の常識よ、知らないの?」  だから、それって仙台の常識でもないですから。普通にレンタルですよ。 「で、そろそろ設営も終わるんだけど、材料の方はどうなの?」 「あっちも、もうすぐ終わりそうね。途中から手伝いに入ったポンコツロボットが『私の刀は残念ながらこんにゃくは切れないのですけど』とかワケ分からないこと言ってたけど。じゃあ、材料の仕込みが終わり次第、こっちに来ると思うから、その辺で遊んでる有葉さんを探しといて……。いや、私が探してくるわ」  そこで、なんで頬を染めるんですか? 委員長、絶対に他意がありますよね? やっぱりドラゴンが好きですか、そうですか?  ダメですよ。私が責任持って探してきます。だから、なんでそんな哀しそうな顔をするんですか。分かりました一緒に行きましょう。ただ、呼び戻すだけですよ。遊んだり、じゃれたりするのは無しですよ。いいですね。  さて、下準備も終りましたから、里芋が煮えるまでは一休みですね。委員長? 有葉さんの方を見てますけど、どうしました? だから、私たちは飯盒の様子を見に行くんじゃないですか。ダメですよ。  というか、あれ拍手くんですよね? なんか豪快に中華鍋振るってますけど? 余った材料で野菜炒め作ってるみたいですよ。きっと、一緒にいる美作さんと星崎さんに唆されたんでしょうねえ。お二人とも大食漢ですからね。  さあ、おっぱいの魅力に負けた人は無視して、飯盒炊爨してる方にいきましょう。  仕切っているのは松戸科学《まつどしながく》くんですね。ところで、なんで彼は怪しげな道具を手に持って振りかざしているんですかね? なんか、きのこのようなものがグイングイン動き回ってますよ。どうみても変態じゃないですか。というか、遠くから『みるんじゃありません!』とか聞こえてきますよ。 「あのー、松戸くん、その手に持っているのはなにかしら?」 「やあ、委員長」  あいも変わらず不健康な表情でこちらに振り返ります。しかし、よくそれで生きてますね。殆ど天国に片足突っ込んでるような容貌じゃないですか。 「もう一度聞くけど、その手に持っているのはなに?」 「ああ、これかい? これは我が第四科学部の技術の粋を結集して完成させた“飯盒炊爨がマツタケご飯なみに美味しくなるマシーン”だよ。これを使うことで森羅万象のえねるぎーを飯盒に凝縮させ、まつたけの匂いもかぐわしいご飯を炊き上げるという……」  委員長、周りの人が力を吸われてバタバタと倒れているんですけど、これヤバくないですか? かく言う私も心なしかちょっと意識が遠の……。 「却下! 却下です!! 松戸くん、さっさとその道具を放棄しなさい。でないと、貴方の人生をここで放棄させるわよ!!」 「えーっ? せっかくのアイテムなのに勿体無い。……あ、委員長、私的に使います?」 「使いませんっ!!」  ほーら、殴られた。一言多いんですよ、松戸さんは。  ようやく、下準備ができたみたいですね。これで人参やごぼう、コンニャクにお肉といった具材も投入できます。完成もまじかです。  あれ、なんか、大歓声が聞こえてきますけど……。 「ちょっと、瑠杜賀さんっ! 放り投げた大根や人参を空中で切り裂くとかやめなさいっ!!」 「そうですか? 周りのお子様には評判がよろしいんですけど」 「おねーちゃーん、今度はこれ斬ってー!」 「牛蒡ですか? ささがきはちょっと難しいのですけれどやってみましょうか」 「するんじゃないっ! それと、カストロビッチくん、これは貴方の仕業ね」  あ、余った野菜をダンボールごと抱えてますねえ。なんか、彼の目の前にどんぶりが置いてありますよ。小銭が沢山入ってます。 「いや、ほら、この方が盛り上がるしー」 「いいから、今すぐ解散ですっ!! それとこれは没収します」 「えっ? だってそれはせっかく俺とメイドさんが汗水垂らして――」  カストロビッチさんは特に汗もかいてないかと思いますが? 「四の五の言わず没収ですっ!!」 「ちぇ、なんだよあの小姑」 「ああいうタイプが行き遅れるんだよな」  最近の小学生はキツイことを言いますね。委員長、気を確かに。しょうがないですよ、管理する立場なんですから、多少は融通が利かないのも致し方ないですよ。気にしていると小皺が増えます。ところで、醤油風味の匂いがしませんか? 実に美味しそうですけど。いや、これは……。 「ちょ、ちょっと、誰よ、この鍋作ったのは!?」  かなりのお怒りですよね。それはそうです。よく見れば、三つの鍋の内のひとつは牛肉&醤油の味付けです。これは芋煮会への冒涜ですよ。 「え!? 芋煮会って、こんなじゃないの?」  召屋くん、それは間違いですよ。いいですか、それは“山形県人においての芋煮会”ですよ。委員長や私の前でそれやっちゃあいけません。それと、それに続きそうなあの台詞もご法度ですよ。 「だって、委員長。豚肉で味噌の味付けだと、どう考えても豚じ―――」  間髪いれず委員長の幻の右が炸裂します。駄目ですよ召屋くん、仙台人にそれは禁句なんです。だから、海の彼方まで吹き飛ばされるんですよ。 「全く、これだから、芋煮会を分からない田舎者は困るのよ」  都会の人は芋煮会自体を知らないと思いますよ。というか、いい加減、山形風芋煮と対立するのはやめませんか? 「はぁ? 何言っているの鈴木さん? あいつらはね、芋煮を自らのものとしようとする悪しき民族なの。世界一大きい鍋の芋煮会とか馬鹿なイベントとか立ててさ。全く風情がないったらありゃしないわね。おだって(※)んじゃないわよっ!! いいこと、芋煮会もずんだ餅も仙台の名物、発祥のものなの。それと蔵王も仙台の領土よ。それは絶対に譲らないわ」  うわー、それは非常に歪んだ考えですけど……。  そんな時です、ポケットに仕舞っていたモバイル手帳が振動します。 「――っ!! ついにアイツが現れたのね。いくわよ、鈴木さん」  あー、あれですかやっぱりアイツですか。私たちにとっては積年のライバルですからね。しょうがありません。危険区域に入る前に排除するにこしたことはありません。あ、いますねえ、なんですか? 焼肉パーティーをしている家族に絡んでますよ。相変わらず時代錯誤な大層な格好ですね。加藤剛ばりのイケメンっぷりも相変わらずです。 「ちょっと待ちなさい!!」  委員長がその男の前に立ちふさがります。絡まれてた家族もなんかほっとしてますね。うん、良かった。 「ん!? 私に何か用でもあるのか?」  あいも変わらず偉そうです。その裃と髷はなんとかなりませんか? 「だから、邪魔だって言っているのよ! アンタの出番は今日は無いの」 「それは異なことを言う。私は呼ばれてここに来たのだ。おお、おぬし達の来た方向から匂いがするぞ」  やばいですよ、完全に気付かれてますよ。惨劇が起こるのもまじかですっ!! 「違うの、あれは違うの」 「何が違うというのだね? どうみても鍋祭りが開催されているではないか?」 「だから、違うって言ってるんでしょうがっ!! 芋煮会は鍋とは違うの?」  あー、違うかどうかは微妙ですけどねー。 「ほほぉ、なら、何が違うか、私にも教えてくれぬか?」 「だ、だから……。そ、そう! 鍋は土鍋を使うじゃない? 芋煮は普通の鍋よ」 「すき焼きもしゃぶしゃぶも土鍋ではないな」 「―――ぐっ。だったら、ほら、鍋は具材を後から入れたりすけど、芋煮は最初から調理するわ」 「モツ鍋も基本的にそうだな」  あー、ヤバイですよ。完全に劣勢ですよ。 「い、芋煮は鍋を囲んで箸で具を突いたりしないでしょ?」 「湯豆腐やおでんもそういう場合が多いぞ」 「だ、だ、大体、鍋なんて屋外ではしないもんじゃない」  もう、かなり言い訳が苦しくなってますよー。 「そんなのは趣味の問題ではないか?」 「じゃ、じゃあ、あれよ、ほら、焼肉とバーベキューは違うでしょ? それと同じことよ」 「それは議論のすり替えだな。今話しているのは芋煮が鍋か、鍋でないかだ」 「と……なの」  あ、それは言わない方がいいですよ。多分、自分のプライドざっくりと袈裟斬りですよ。確実に復活できませんよ。 「ト○汁なのよ! 仙台風芋煮会に見えるけど、あれはただの豚○の炊き出しなのっ!!」  あー、言っちゃった……。 「なっ、なんだとっ!! ならば、私が早計であった。そこの女子よ。失礼だったな。存分に○汁を味わうがいい。それではさらばだっ!!」  すっごい肩落としてるけど大丈夫ですか委員長。  でもようやく海の方へと去って行きましたね。伝説の化物《ラルヴア》、“鍋奉行”。彼が現れたら最後、全てにおいて仕切られて、楽しいはずの鍋パーティーが地獄と化しますからね。しかも、どんな攻撃にも耐えるという化物ですからたちが悪いですよねー。まあ、異例の空気の読めなさで鍋を仕切るという以外は実害はないんですけど。  さあ、戻りましょう、委員長。芋煮も出来ているところです。  あれ? もう殆ど残ってないじゃないですか? 人数分は十分に用意されたはずですけど。 「どういうこと? 拍手くん」 「ああ、それ? 委員長たちがいない間に美作さんと星崎さんが大食い勝負を始めたんだわ」  しまった、あの二人、こちらの計算以上の食いっぷりですか。不覚です。  委員長、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。みんなの幸せを守れたんですからいいじゃないですか。  あ、瑠杜賀さんありがとうございます。  ほら、委員長、瑠杜賀さんがちゃんと私たちの分を取っといてくれたそうですよ。まあ、殆ど具はないですけどね。良いじゃないですか、こんな冷える日は身体が温まりますよ……って、えっ? なんかめちゃくちゃ寒くなってないですか? 心なしか雪もちらついてますよ。 「鈴木さん。奴よ、奴がきたのよ。季節外れだけどね。PADを見て御覧なさい。ものすごいスピードで気象情報が書き換えられているわ。そう、アイツがきたの。“冬将軍”が……」  ふと北の方を見ると、そこには煌びやかな鎧兜に身を包んだ武者がこちらに向かってゆっくりと歩く姿が。ご丁寧に兜には冬の文字をあしらった前立ても付いてます。どーしますあれ? 「どーもこーもないわ。このままじゃ、今年は大雪で、北国のおじいちゃん、おばあちゃんが雪かきで大変なことになってしまうでしょ。さあ、みんな、なんとかしてあの化物《ラルヴア》を追い払うのよっ!!」  みんな、食後のひと時を邪魔されて随分と殺気立ってますね。薄着の春部さんなんか、かなりイライラしてますよ。きっと、これなら勝てるはずです。ちょっとおかしな人は多いですけど、無駄な団結だけは強いのが二年C組のモットーです。  さあ、みんなであのコスプレ大魔神をブチ倒しますよ!!  追記:その後、クラスメイトたちの尽力もあり、何とか冬将軍は撃退に成功しましたが、海へ飛ばされた召屋くんは、そのまま誰からも忘れ去られ、一週間ほど学校を休んだそうです。めでたしめでたし。 ※ おだつ 調子に乗る、ふざけるなどの意味。おだつもっこ(お調子もん) ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
[[できればラノで読んで下さい>http://rano.jp/1302]]  どうも初めまして。  私、双葉学園高等部、二年C組の鈴木耶麻葉《すずきやまは》というものです。個性的なクラスメイトが多いため、埋もれがちですが、副委員長をやらせて頂いてます。  本日は双葉島の海岸沿いにある臨海公園にきております。この公園、非常に広く設備も充実しており、休日ともなれば、キャンプをする若者、カップル、親子連れで賑わう、双葉島でも人気のあるスポットになっていますね。今日も祝日ということで、キャンプ場ではあちこちでバーベキューや焼肉パーティーが開催されてます。  うーん、おいしそうな匂いが私の方まで漂ってきますよ。  そんな場所に私が何故いるかというと、今週金曜のHRで、委員長である笹島輝亥羽《ささじまきいは》さんがこう言ったからでした。 「突然ですが、今週日曜に“芋煮会”をすることにしました。異論は許さないから」  いや、ホント、いきなり過ぎます。委員長はいつもそうです。何故、人の話を聞かないのでしょう。クラスメイトの殆どもブーイングです。それはそうです。せっかくの休日の予定を潰されてしまうのですから。クラスメイトの中には積極的に化物《ラルヴア》と戦い、疲れている人だっているでしょうに。  あ、みんなの意見、軽く流してますね委員長。 「大体ね、この時期にコンビニの店先に薪が売ってないとかどうかしてるのよ。それに何? 海浜公園にはバーベキューの施設はあっても芋煮の施設はないって言うじゃない? どうかしてるわ。常備しとけっていうのよ。まったく、秋の風物ってのを分かってないのよのね、この島は。確かに、芋煮会といえば河原でやるものと相場が決まっているから、海浜公園にないっていうのは仕方ないかもしれないけど、この島に河原なんてないんだから、せめてキャンプ場には用意して欲しいわよねえ?」  委員長、コンビニで薪を売ってるのは仙台と山形のごく一部ですっ!! それと、芋煮のための施設が常設されているのはスポーツランド菅生や仙台ハイランドくらいですってば! 「いやいや、芋煮会とかやる方が普通じゃないから。というか、そもそも芋煮ってなんだよ? まず、それを説明してくれよ」  いいですよ召屋《めしや》くん。あなたはこのクラスの数少ないツッコミ役なんですからどんどんツッコんでください。 「黙りなさいっ!!」  あ、恫喝で逃げましたね委員長。全く、そんなだから、声と態度のでかさだけで委員長になったとか裏で言われるんですよ。 「いいこと、これは決めたことなの。せっかく、字元《あざもと》先生から材料費ふんだくったんだから、何が何でも決行します! もちろん、全員参加だから」  えーと、ちょっと待ってください? 先生から材料費を貰った? どういうことですか。何か弱みでも握ってるんですか? それとも、生徒と教師という禁断の………。  あっ、軽く妄想にトリップしてしまいましたよ。涎を拭かないとって、あれ? HRは終わりですか? って、いつの間にっ!? 「どーして、こいつらがいるの?」  あーもう、また委員長が機嫌を損ねてますよ。そりゃそーです。不倶戴天の敵と言ってもいい春部里衣《はるべりい》さんとイワン・カストロビッチさんが目の前にいるんですからね。なんで、H組は変な人が多いんでしょう。まあ、ウチのクラスもそれに関しては何もいえませんけど……。 「え? そりゃあんた、招待されたからに決まってるじゃない」  相変わらず偉そうですね、春部さん。 「うん!! 私、芋煮会って初めて。どんなことするの?」  あ、そういえば有葉千乃《あるはちの》さんもいましたね。どうにも最近影が薄いですけど。もう少し自己主張した方がいいですよ。  「ほら、俺は召屋の金魚のフンだから」  そんなこと言うからスカトロビッチとか呼ばれるんですよカストロビッチさん。というか、なんであなたはそうやってすぐに胸をはだけるんですか? それと、女性陣、ときめかない。この人は見た目がいいだけで中身は変態なんですから。 「招待されたですって?」 「ええ、そうよ」 「お、俺じゃない。少なくともこっちの二人は俺じゃないって!!」  あ、召屋くんが全力で否定している。この人たちといえば召屋くんなのに意外です。 「じゃあ、誰だって言うのよ。こんなトラブルメーカーを招待したのは?」 『ご招待ありがとう! 拍手くん!!』  うわー、にこやかに春部さんと有葉さんが手を振ってますよ。やっぱり、おっぱい要員として呼んだのでしょうか? いや、有葉さんは要員としては確実に無理ですけど。というか拍手くん、逃げようとしてません? 「みんな、拍手くんを確保よ!」  こういう時の統率された動きはさすが二年C組ですね。全くもって隙がないです。鋼のB組にも負けません。うん、自慢になりませんけど。あっという間に拍手くんが取り押さえられます。 「お、お前らそれでもクラスメイトかっ? 人でなしっ!!」 「さーて、どういうことかしら、拍手くん」  拍手くんの目の前に仁王立つ姿はまさに鬼です、鬼の形相です。 「やっぱり、春部さんのおっぱ……じゃなかった。えーと、あれだ、あれ。ほら、火を付けたりするのに召屋のドラゴンが便利だろ。だから、それを扱える有葉さんをだね……」 「…………ま、まあ、よしとしましょ。じゃあ、召屋くんと有葉さんは準備が出来次第、全部の鍋の火を付ける役をやってちょうだい。そろそろ買い出し部隊も到着するところだから。あと、拍手くんと春部さんは下準備を手伝って、それと……」  あ、あれぇ? 何ちょっと頬を染めてるんですか? どう考えても嘘でしょ?  でも、テキパキとクラスメイトに指示を与えていく姿はさすがです。伊達に委員長ではないですよ。やっぱり、クラス委員長は笹島さんが一番です。あっ、ちょっと、召屋くんの召喚したミニドラゴンに吸い寄せられるように近づくのは止めてください。私たちには各役割を見回るという仕事があるんですからね。さあ行きますよ。  そんな悲しそうな顔をしないで下さい。そんな目でこっちを見てもダメですよ。  ここは炊事場ですね。いくつかダンボール箱がありますけど、買い出し部隊はまだ戻ってないのでは? ああ、なるほど星崎真琴《ほしざきまこと》さんに送ってもらったんですね。やっぱりテレポート能力は便利ですねー。  拍手くんも春部さんも他のクラスメイトも下ごしらえに入りましたね。うん、いいことです。あれ? でも春部さん、それはちょと、ねえ……。 「ところで春部さん?」 「何かしら?」  日向ぼっこをしている猫のような笑顔で、委員長の方に振り向きます。ホント無駄に笑顔だけは爽やかですね。 「その手は何?」 「何って、皮を向いてるんだけど?」 「なら、ちゃんと包丁使ってくれる?」  まあ、能力者なら、そりゃ使った方が楽ってのはあるでしょうけど、それにしたって、爪で里芋剥くのは止めてください。 「えーっ!? 面倒じゃない?」  そういう問題じゃないですから。  買い出し部隊が到着したみたいですね。というか瑠杜賀羽宇《るとがはう》さんの背負ってる量はなんですか? 委員長、身の丈の数倍ありますよ。 「ああ、あれ? あの子ならあれくらい持てるでしょ。ロボットなんだし」  え、えーと、彼女はロボットではなく自動人形《オートマトン》じゃなかったでしたっけ? 「そんなのどうでもいいでしょ? おーい、こっち、こっちよー!」  委員長が買い出し部隊に大きく手を振ります。先頭で歩いていた星崎真琴《ほしざきまこと》さんがこちらに気づき、向かってきます。 「ふう、ようやく到着。つかれたー!」  汗だくになった星崎真琴《ほしざきまこと》さんがその場にペタリと座り込みます。愛用の鉄扇で扇いで涼んでますね。まあ、これだけの荷物なら仕方ないですよね。しかも能力も使ったりしてますし。 「じゃあ、星崎さん、悪いんだけどその手に持っている鉄扇で火種がついてる薪を扇いで火を起こしてくれるくれるかしら?」 「えーっ!?」  委員長? あなたは悪魔ですか? 「労わるよりも、芋煮を作るのが大事なの」  うーん、それはちょっと違うような気もしますけど、その芋煮会に対する無駄な情熱は仙台人らしいですね。  こっちは設営部ですね。陣頭指揮を執っているのは美作聖《みまさかひじり》さんです。確か大工部でしたっけ? さすがです、竈の設営は慣れたものですね。 「ねえ、委員長。この鍋どうしたの? レンタル?」  まあ、普通にそう思いますよね。直径八十センチ超えの銅鍋が三つとか有り得ないですからね。 「ああ、それ? 実家から送ってもらったのよ」 「え!? こんなの家にあるの?」 「当たり前でしょ? 仙台人なら一家に一鍋よ。第一、鍋がなければ芋煮会ができないじゃない?」  いや、絶対嘘です。持ってませんよ。ホントに。 「だったら、なんで三つもあるのよ?」 「そりゃ、実家が町内会長やってるからよ。子供会とかのイベントで必須だから、最低三つは用意してないとね。これ仙台の常識よ、知らないの?」  だから、それって仙台の常識でもないですから。普通にレンタルですよ。 「で、そろそろ設営も終わるんだけど、材料の方はどうなの?」 「あっちも、もうすぐ終わりそうね。途中から手伝いに入ったポンコツロボットが『私の刀は残念ながらこんにゃくは切れないのですけど』とかワケ分からないこと言ってたけど。じゃあ、材料の仕込みが終わり次第、こっちに来ると思うから、その辺で遊んでる有葉さんを探しといて……。いや、私が探してくるわ」  そこで、なんで頬を染めるんですか? 委員長、絶対に他意がありますよね? やっぱりドラゴンが好きですか、そうですか?  ダメですよ。私が責任持って探してきます。だから、なんでそんな哀しそうな顔をするんですか。分かりました一緒に行きましょう。ただ、呼び戻すだけですよ。遊んだり、じゃれたりするのは無しですよ。いいですね。  さて、下準備も終りましたから、里芋が煮えるまでは一休みですね。委員長? 有葉さんの方を見てますけど、どうしました? だから、私たちは飯盒の様子を見に行くんじゃないですか。ダメですよ。  というか、あれ拍手くんですよね? なんか豪快に中華鍋振るってますけど? 余った材料で野菜炒め作ってるみたいですよ。きっと、一緒にいる美作さんと星崎さんに唆されたんでしょうねえ。お二人とも大食漢ですからね。  さあ、おっぱいの魅力に負けた人は無視して、飯盒炊爨してる方にいきましょう。  仕切っているのは松戸科学《まつどしながく》くんですね。ところで、なんで彼は怪しげな道具を手に持って振りかざしているんですかね? なんか、きのこのようなものがグイングイン動き回ってますよ。どうみても変態じゃないですか。というか、遠くから『みるんじゃありません!』とか聞こえてきますよ。 「あのー、松戸くん、その手に持っているのはなにかしら?」 「やあ、委員長」  あいも変わらず不健康な表情でこちらに振り返ります。しかし、よくそれで生きてますね。殆ど天国に片足突っ込んでるような容貌じゃないですか。 「もう一度聞くけど、その手に持っているのはなに?」 「ああ、これかい? これは我が第四科学部の技術の粋を結集して完成させた“飯盒炊爨がマツタケご飯なみに美味しくなるマシーン”だよ。これを使うことで森羅万象のえねるぎーを飯盒に凝縮させ、まつたけの匂いもかぐわしいご飯を炊き上げるという……」  委員長、周りの人が力を吸われてバタバタと倒れているんですけど、これヤバくないですか? かく言う私も心なしかちょっと意識が遠の……。 「却下! 却下です!! 松戸くん、さっさとその道具を放棄しなさい。でないと、貴方の人生をここで放棄させるわよ!!」 「えーっ? せっかくのアイテムなのに勿体無い。……あ、委員長、私的に使います?」 「使いませんっ!!」  ほーら、殴られた。一言多いんですよ、松戸さんは。  ようやく、下準備ができたみたいですね。これで人参やごぼう、コンニャクにお肉といった具材も投入できます。完成もまじかです。  あれ、なんか、大歓声が聞こえてきますけど……。 「ちょっと、瑠杜賀さんっ! 放り投げた大根や人参を空中で切り裂くとかやめなさいっ!!」 「そうですか? 周りのお子様には評判がよろしいんですけど」 「おねーちゃーん、今度はこれ斬ってー!」 「牛蒡ですか? ささがきはちょっと難しいのですけれどやってみましょうか」 「するんじゃないっ! それと、カストロビッチくん、これは貴方の仕業ね」  あ、余った野菜をダンボールごと抱えてますねえ。なんか、彼の目の前にどんぶりが置いてありますよ。小銭が沢山入ってます。 「いや、ほら、この方が盛り上がるしー」 「いいから、今すぐ解散ですっ!! それとこれは没収します」 「えっ? だってそれはせっかく俺とメイドさんが汗水垂らして――」  カストロビッチさんは特に汗もかいてないかと思いますが? 「四の五の言わず没収ですっ!!」 「ちぇ、なんだよあの小姑」 「ああいうタイプが行き遅れるんだよな」  最近の小学生はキツイことを言いますね。委員長、気を確かに。しょうがないですよ、管理する立場なんですから、多少は融通が利かないのも致し方ないですよ。気にしていると小皺が増えます。ところで、醤油風味の匂いがしませんか? 実に美味しそうですけど。いや、これは……。 「ちょ、ちょっと、誰よ、この鍋作ったのは!?」  かなりのお怒りですよね。それはそうです。よく見れば、三つの鍋の内のひとつは牛肉&醤油の味付けです。これは芋煮会への冒涜ですよ。 「え!? 芋煮会って、こんなじゃないの?」  召屋くん、それは間違いですよ。いいですか、それは“山形県人においての芋煮会”ですよ。委員長や私の前でそれやっちゃあいけません。それと、それに続きそうなあの台詞もご法度ですよ。 「だって、委員長。豚肉で味噌の味付けだと、どう考えても豚じ―――」  間髪いれず委員長の幻の右が炸裂します。駄目ですよ召屋くん、仙台人にそれは禁句なんです。だから、海の彼方まで吹き飛ばされるんですよ。 「全く、これだから、芋煮会を分からない田舎者は困るのよ」  都会の人は芋煮会自体を知らないと思いますよ。というか、いい加減、山形風芋煮と対立するのはやめませんか? 「はぁ? 何言っているの鈴木さん? あいつらはね、芋煮を自らのものとしようとする悪しき民族なの。世界一大きい鍋の芋煮会とか馬鹿なイベントとか立ててさ。全く風情がないったらありゃしないわね。おだって(※)んじゃないわよっ!! いいこと、芋煮会もずんだ餅も仙台の名物、発祥のものなの。それと蔵王も仙台の領土よ。それは絶対に譲らないわ」  うわー、それは非常に歪んだ考えですけど……。  そんな時です、ポケットに仕舞っていたモバイル手帳が振動します。 「――っ!! ついにアイツが現れたのね。いくわよ、鈴木さん」  あー、あれですかやっぱりアイツですか。私たちにとっては積年のライバルですからね。しょうがありません。危険区域に入る前に排除するにこしたことはありません。あ、いますねえ、なんですか? 焼肉パーティーをしている家族に絡んでますよ。相変わらず時代錯誤な大層な格好ですね。加藤剛ばりのイケメンっぷりも相変わらずです。 「ちょっと待ちなさい!!」  委員長がその男の前に立ちふさがります。絡まれてた家族もなんかほっとしてますね。うん、良かった。 「ん!? 私に何か用でもあるのか?」  あいも変わらず偉そうです。その裃と髷はなんとかなりませんか? 「だから、邪魔だって言っているのよ! アンタの出番は今日は無いの」 「それは異なことを言う。私は呼ばれてここに来たのだ。おお、おぬし達の来た方向から匂いがするぞ」  やばいですよ、完全に気付かれてますよ。惨劇が起こるのもまじかですっ!! 「違うの、あれは違うの」 「何が違うというのだね? どうみても鍋祭りが開催されているではないか?」 「だから、違うって言ってるんでしょうがっ!! 芋煮会は鍋とは違うの?」  あー、違うかどうかは微妙ですけどねー。 「ほほぉ、なら、何が違うか、私にも教えてくれぬか?」 「だ、だから……。そ、そう! 鍋は土鍋を使うじゃない? 芋煮は普通の鍋よ」 「すき焼きもしゃぶしゃぶも土鍋ではないな」 「―――ぐっ。だったら、ほら、鍋は具材を後から入れたりすけど、芋煮は最初から調理するわ」 「モツ鍋も基本的にそうだな」  あー、ヤバイですよ。完全に劣勢ですよ。 「い、芋煮は鍋を囲んで箸で具を突いたりしないでしょ?」 「湯豆腐やおでんもそういう場合が多いぞ」 「だ、だ、大体、鍋なんて屋外ではしないもんじゃない」  もう、かなり言い訳が苦しくなってますよー。 「そんなのは趣味の問題ではないか?」 「じゃ、じゃあ、あれよ、ほら、焼肉とバーベキューは違うでしょ? それと同じことよ」 「それは議論のすり替えだな。今話しているのは芋煮が鍋か、鍋でないかだ」 「と……なの」  あ、それは言わない方がいいですよ。多分、自分のプライドざっくりと袈裟斬りですよ。確実に復活できませんよ。 「ト○汁なのよ! 仙台風芋煮会に見えるけど、あれはただの豚○の炊き出しなのっ!!」  あー、言っちゃった……。 「なっ、なんだとっ!! ならば、私が早計であった。そこの女子よ。失礼だったな。存分に○汁を味わうがいい。それではさらばだっ!!」  すっごい肩落としてるけど大丈夫ですか委員長。  でもようやく海の方へと去って行きましたね。伝説の化物《ラルヴア》、“鍋奉行”。彼が現れたら最後、全てにおいて仕切られて、楽しいはずの鍋パーティーが地獄と化しますからね。しかも、どんな攻撃にも耐えるという化物ですからたちが悪いですよねー。まあ、異例の空気の読めなさで鍋を仕切るという以外は実害はないんですけど。  さあ、戻りましょう、委員長。芋煮も出来ているところです。  あれ? もう殆ど残ってないじゃないですか? 人数分は十分に用意されたはずですけど。 「どういうこと? 拍手くん」 「ああ、それ? 委員長たちがいない間に美作さんと星崎さんが大食い勝負を始めたんだわ」  しまった、あの二人、こちらの計算以上の食いっぷりですか。不覚です。  委員長、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。みんなの幸せを守れたんですからいいじゃないですか。  あ、瑠杜賀さんありがとうございます。  ほら、委員長、瑠杜賀さんがちゃんと私たちの分を取っといてくれたそうですよ。まあ、殆ど具はないですけどね。良いじゃないですか、こんな冷える日は身体が温まりますよ……って、えっ? なんかめちゃくちゃ寒くなってないですか? 心なしか雪もちらついてますよ。 「鈴木さん。奴よ、奴がきたのよ。季節外れだけどね。PADを見て御覧なさい。ものすごいスピードで気象情報が書き換えられているわ。そう、アイツがきたの。“冬将軍”が……」  ふと北の方を見ると、そこには煌びやかな鎧兜に身を包んだ武者がこちらに向かってゆっくりと歩く姿が。ご丁寧に兜には冬の文字をあしらった前立ても付いてます。どーしますあれ? 「どーもこーもないわ。このままじゃ、今年は大雪で、北国のおじいちゃん、おばあちゃんが雪かきで大変なことになってしまうでしょ。さあ、みんな、なんとかしてあの化物《ラルヴア》を追い払うのよっ!!」  みんな、食後のひと時を邪魔されて随分と殺気立ってますね。薄着の春部さんなんか、かなりイライラしてますよ。きっと、これなら勝てるはずです。ちょっとおかしな人は多いですけど、無駄な団結だけは強いのが二年C組のモットーです。  さあ、みんなであのコスプレ大魔神をブチ倒しますよ!!  追記:その後、クラスメイトたちの尽力もあり、何とか冬将軍は撃退に成功しましたが、海へ飛ばされた召屋くんは、そのまま誰からも忘れ去られ、一週間ほど学校を休んだそうです。めでたしめでたし。 ※ おだつ 調子に乗る、ふざけるなどの意味。おだつもっこ(お調子もん) ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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