【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~前編②】

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[[ラノでまとめて読む>http://rano.jp/1392]] 【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~前編②】  遡ること数日。  双葉学園醒徒会棟の一室。  旅館か安下宿を思わせる十二畳の和室、畳敷きの上に卓子と座布団が並ぶ、醒徒会資料閲覧室。  普段は資料も書類も無い、醒徒会役員の憩いの部屋にプリントアウトと紙のファイルが積まれている、スマートメディアに入れればひとつで済む書類の山は、回し読みしやすく書き込みがしやすい紙の束となって、卓袱台の上を占拠していた。  紙ならば後で書き込みを見ても、筆跡や使ってるペンの色や種類で誰の意見かわかる。  書類の内容は、醒徒会の管轄事案の一部、学園の内外で起きるラルヴァとの交戦による被害や加害と、異能者による校則違反行為の報告書。  現在の面々が醒徒会役員になり、慧海と逢洲が風紀委員長になってから増化したわけではない、むしろ件数自体は減っていたが、それは事件の全体量からすれば微々たる物、異能者の養成、運用を行う機関の必然として、生徒や職員、あるいは区民による不正規の衝突や不逞行為は多い。  歴代の醒徒会と委員会の頭をずっと悩ませている問題は、醒徒会が藤神門御鈴会長の体制になってからも継続していた。  業を煮やした会長と副会長は、風紀委員長二人が醒徒会棟に揃ったのを見計らって、憩いのスペースである畳敷きの資料閲覧室に書類を持ち込み、抜き打ちの押しかけ会議を始めた。  こうでもしないと醒徒会と風紀委員会のトップ二人、そして学園実務を掌握する生徒課長の意思統一と、積極的な対処行動は図れない。  委員長の一人は多忙な上稽古熱心、もう一人の委員長はサボリ屋で、気が向いた時は醒徒会棟に来るが、それ以外の時間は呼んでも来ない。  必修授業が半日で終わる土曜日の昼、畳敷きの部屋で唐突に始まった会議、全員が寛いだ姿勢で話を聞いているのを見て、議事進行役の副会長、水分理緒は、今日こそ問題解決の具体的提案が出来るものと期待していた。  資料閲覧室の最奥で、脱いだブーツを枕に畳の上をゴロゴロと落ち着きなく寝転がった後、醒徒会長を捕まえて足を取り、御鈴の体を一回転させた後に畳に叩きつけてスピニング・アンクルホールドをかけている、寛ぎ過ぎの風紀委員長が議事進行に茶々を入れなければ、の話だが。  会議中の発言より先にバーリトゥードをおっ始める慧海もどうしようもない奴だが、畳に寝そべる慧海にもしどうしてもと頼まれれば、膝枕のひとつもしてやるのもやぶさかではない、と慧海の枕元でウェルカム状態の正座待機をしていた逢洲等華とは逆、足元側の位置に座り、口では慧海の不作法を咎めながらも、あそんであそんでと言わんばかりに指先で慧海をつついていた御鈴にも、責任の一端が無いこともない。  悪ガキ達の扱いに慣れた副会長の水分理緒は、畳の上でドッタンバッタンしている慧海と御鈴をスルーしながら、東京湾を始め、全国数箇所にある双葉学園に共通した問題、その原因のひとつ、自分達の裁量で何とかできる範囲の要素を、一言で断じた。 「風紀委員の人材が不足しています」  逢洲等華は面目ないといった様子で頭を下げると、隣で御鈴に膝十字固めをかけられ、腰をくねらせて技抜けを試みているもう一人の風紀委員長に目を向けた。 「デンジャー、貴様の職掌である風紀委員審査の選別基準は厳しすぎるぞ、百《もも》は休日返上で頑張っている」  山口・デリンジャー・慧海は、御鈴の足技を力押しで強引に解いた後、素早く背後と両腕を取り、醒徒会長をV1アームロックで締め上げながら発言した、一応、話の内容は聞いていたらしい。 「ん~、モモ、サボれっつってんのにな~、デートする時間も取れないのは悪ぃな」  風紀委員の戸隠流忍者、飯綱百《いづなもも》は、お台場の武専学校に幼馴染の彼氏が居て、月一回、半日のデートを楽しんでいるが、先月のデートは見習いから正規の風紀委員への昇格研修と重なったため出来なかった、百は特に文句を言うでもなく、案外あっさりしたもの、互いに忍びの者、修行と務めを優先するのは当たり前。  慧海は発言し終わった途端、関節が柔軟でヘンな方向に曲がるという特技を持つ御鈴にロックしていた両腕を抜かれ、反撃に転じた御鈴の合気小手返しで体を捻り飛ばされている。 「デートだと?百が?誰と?…まさか貴様と?…わたしじゃなくておっぱい忍者とデートなのか?おっぱいとデートか?」  百の彼氏について知らない逢洲が、瞳をフルフルと震えさせ、デンゾー第四話"ゴリラ"冒頭の御鈴のようにワン泣きしそうな顔をしたが、慧海は御鈴をジャックナイフ・クラッチで畳の上に抑えこみ、紫穏の3カウントでダウンを取る寸前、ゴキブリのように無駄に素早い御鈴に逃げられた後、再び発言する。 「風紀委員もさ、電話一本で注文できればいいのにな、ピザみたいに」  慧海の都合いい提案に、資料閲覧室の畳に座る醒徒会の役員が呆れ顔をする中、会議に同席していた生徒課長の都治倉喜久子《つじくらきくこ》はポンと手を打った。 「そう!ピザよ、ピザを注文しましょう!」  喜久子はさっそく、資料閲覧室備え付けの、部屋の雰囲気に合わせた黒電話を取り、神奈川の局番から始まる電話番号をダイヤルした。 「あの、Mi-Canさんですか?都治倉喜久子《つじくらきくこ じゅうななさい》です、ピザを注文したいんですが、ええ、東京湾の双葉学園までお願いします」  おんぶをねだるように背後を取った御鈴から三角絞めを食らってる慧海も知ってる店だった、かつてサイゴンにあった、ベトコンのテロで吹っ飛んだ高級水上レストランの名を冠した、無国籍料理のダイナーレストラン。  横須賀の海軍基地ゲート前にほど近い岸壁に突き出した店は、アメリカナイズドされた厚生地のピザが自慢で、違法な武器取引の場でもあった。  ダブルチーズ・ペパロニのピザとコーラを注文した喜久子は、最後にこう付け加えた、「黒を届けていただけませんか?」  その場に居た面々は、この一緒に仕事しててもよくわからない部分の多い実務トップの女性が、真昼間からジョニーウォーカーかニッカのウィスキーでも頼んだのかと思った。  喜久子は夏の間、しばしば午後の仕事をビール片手に行っていて、人外並みの処理能力が無ければちょっとした問題になっていた。  こういう時、妙に頭の切り替えが早いエヌR・ルールが「初めて聞く名前のピザ宅配店だが、どれくらいで届くのか?」と、喜久子に聞いた 「ん~、材料の仕入れとか出前の準備とかがあるから、三日後ってとこかしら」  慧海が御鈴をドラゴン・スープレックスで後頭部から畳の上に落とし、目をグルグルさせた御鈴は完全にノックアウト、ゴング替わりのびゃっこの鳴き声がフェードアウトする中、結論が出ないまま昼会議は終了した。  御鈴は後に、覆面とパイプ椅子があればデンジャーなんて3ラウンドでフォール出来た、と負け惜しみを言ったとか。  犯罪組織のみならず米軍や自衛隊までもが、表向きに出来ない武器の調達にしばしば利用している非公認流通武器の大物ヘッドディーラーMi-Canの店長より、東京湾の双葉学園に居るお得意様、都治倉喜久子の元に、最優先で「黒」を送り届けるべく手配がされた。  それから七十時間後、一騎の蒼黒い馬に乗った黒いチャイナ服の女性が、東京湾岸区域の一角にある双葉学園島の連絡橋入り口、一般人と異能関係者を隔てる本土側の門を叩いた。 「我叫《ウォジャオ》 幇緑林《パン ルーリン》 我想《ウォジュアン》 双葉学園 董事《ドウォンシー》 都治倉喜久子先生」(我が名は幇緑林、双葉学園生徒課長都治倉喜久子氏に会いたし)  黒が、やってきた。
[[ラノでまとめて読む>http://rano.jp/1392]] 【danger zone6~黒白黒~hei bai hei~前編②】  遡ること数日。  双葉学園醒徒会棟の一室。  旅館か安下宿を思わせる十二畳の和室、畳敷きの上に卓子と座布団が並ぶ、醒徒会資料閲覧室。  普段は資料も書類も無い、醒徒会役員の憩いの部屋にプリントアウトと紙のファイルが積まれている、スマートメディアに入れればひとつで済む書類の山は、回し読みしやすく書き込みがしやすい紙の束となって、卓袱台の上を占拠していた。  紙ならば後で書き込みを見ても、筆跡や使ってるペンの色や種類で誰の意見かわかる。  書類の内容は、醒徒会の管轄事案の一部、学園の内外で起きるラルヴァとの交戦による被害や加害と、異能者による校則違反行為の報告書。  現在の面々が醒徒会役員になり、慧海と逢洲が風紀委員長になってから増化したわけではない、むしろ件数自体は減っていたが、それは事件の全体量からすれば微々たる物、異能者の養成、運用を行う機関の必然として、生徒や職員、あるいは区民による不正規の衝突や不逞行為は多い。  歴代の醒徒会と委員会の頭をずっと悩ませている問題は、醒徒会が藤神門御鈴会長の体制になってからも継続していた。  業を煮やした会長と副会長は、風紀委員長二人が醒徒会棟に揃ったのを見計らって、憩いのスペースである畳敷きの資料閲覧室に書類を持ち込み、抜き打ちの押しかけ会議を始めた。  こうでもしないと醒徒会と風紀委員会のトップ二人、そして学園実務を掌握する生徒課長の意思統一と、積極的な対処行動は図れない。  委員長の一人は多忙な上稽古熱心、もう一人の委員長はサボリ屋で、気が向いた時は醒徒会棟に来るが、それ以外の時間は呼んでも来ない。  必修授業が半日で終わる土曜日の昼、畳敷きの部屋で唐突に始まった会議、全員が寛いだ姿勢で話を聞いているのを見て、議事進行役の副会長、水分理緒は、今日こそ問題解決の具体的提案が出来るものと期待していた。  資料閲覧室の最奥で、脱いだブーツを枕に畳の上をゴロゴロと落ち着きなく寝転がった後、醒徒会長を捕まえて足を取り、御鈴の体を一回転させた後に畳に叩きつけてスピニング・アンクルホールドをかけている、寛ぎ過ぎの風紀委員長が議事進行に茶々を入れなければ、の話だが。  会議中の発言より先にバーリトゥードをおっ始める慧海もどうしようもない奴だが、畳に寝そべる慧海にもしどうしてもと頼まれれば、膝枕のひとつもしてやるのもやぶさかではない、と慧海の枕元でウェルカム状態の正座待機をしていた逢洲等華とは逆、足元側の位置に座り、口では慧海の不作法を咎めながらも、あそんであそんでと言わんばかりに指先で慧海をつついていた御鈴にも、責任の一端が無いこともない。  悪ガキ達の扱いに慣れた副会長の水分理緒は、畳の上でドッタンバッタンしている慧海と御鈴をスルーしながら、東京湾を始め、全国数箇所にある双葉学園に共通した問題、その原因のひとつ、自分達の裁量で何とかできる範囲の要素を、一言で断じた。 「風紀委員の人材が不足しています」  逢洲等華は面目ないといった様子で頭を下げると、隣で御鈴に膝十字固めをかけられ、腰をくねらせて技抜けを試みているもう一人の風紀委員長に目を向けた。 「デンジャー、貴様の職掌である風紀委員審査の選別基準は厳しすぎるぞ、百《もも》は休日返上で頑張っている」  山口・デリンジャー・慧海は、御鈴の足技を力押しで強引に解いた後、素早く背後と両腕を取り、醒徒会長をV1アームロックで締め上げながら発言した、一応、話の内容は聞いていたらしい。 「ん~、モモ、サボれっつってんのにな~、デートする時間も取れないのは悪ぃな」  風紀委員の戸隠流忍者、飯綱百《いづなもも》は、お台場の武専学校に幼馴染の彼氏が居て、月一回、半日のデートを楽しんでいるが、先月のデートは見習いから正規の風紀委員への昇格研修と重なったため出来なかった、百は特に文句を言うでもなく、案外あっさりしたもの、互いに忍びの者、修行と務めを優先するのは当たり前。  慧海は発言し終わった途端、関節が柔軟でヘンな方向に曲がるという特技を持つ御鈴にロックしていた両腕を抜かれ、反撃に転じた御鈴の合気小手返しで体を捻り飛ばされている。 「デートだと?百が?誰と?…まさか貴様と?…わたしじゃなくておっぱい忍者とデートなのか?おっぱいとデートか?」  百の彼氏について知らない逢洲が、瞳をフルフルと震えさせ、デンゾー第四話"ゴリラ"冒頭の御鈴のようにワン泣きしそうな顔をしたが、慧海は御鈴をジャックナイフ・クラッチで畳の上に抑えこみ、紫穏の3カウントでダウンを取る寸前、ゴキブリのように無駄に素早い御鈴に逃げられた後、再び発言する。 「風紀委員もさ、電話一本で注文できればいいのにな、ピザみたいに」  慧海の都合いい提案に、資料閲覧室の畳に座る醒徒会の役員が呆れ顔をする中、会議に同席していた生徒課長の都治倉喜久子《つじくらきくこ》はポンと手を打った。 「そう!ピザよ、ピザを注文しましょう!」  喜久子はさっそく、資料閲覧室備え付けの、部屋の雰囲気に合わせた黒電話を取り、神奈川の局番から始まる電話番号をダイヤルした。 「あの、Mi-Canさんですか?都治倉喜久子《つじくらきくこ じゅうななさい》です、ピザを注文したいんですが、ええ、東京湾の双葉学園までお願いします」  おんぶをねだるように背後を取った御鈴から三角絞めを食らってる慧海も知ってる店だった、かつてサイゴンにあった、ベトコンのテロで吹っ飛んだ高級水上レストランの名を冠した、無国籍料理のダイナーレストラン。  横須賀の海軍基地ゲート前にほど近い岸壁に突き出した店は、アメリカナイズドされた厚生地のピザが自慢で、違法な武器取引の場でもあった。  ダブルチーズ・ペパロニのピザとコーラを注文した喜久子は、最後にこう付け加えた、「黒を届けていただけませんか?」  その場に居た面々は、この一緒に仕事しててもよくわからない部分の多い実務トップの女性が、真昼間からジョニーウォーカーかニッカのウィスキーでも頼んだのかと思った。  喜久子は夏の間、しばしば午後の仕事をビール片手に行っていて、人外並みの処理能力が無ければちょっとした問題になっていた。  こういう時、妙に頭の切り替えが早いエヌR・ルールが「初めて聞く名前のピザ宅配店だが、どれくらいで届くのか?」と、喜久子に聞いた 「ん~、材料の仕入れとか出前の準備とかがあるから、三日後ってとこかしら」  慧海が御鈴をドラゴン・スープレックスで後頭部から畳の上に落とし、目をグルグルさせた御鈴は完全にノックアウト、ゴング替わりのびゃっこの鳴き声がフェードアウトする中、結論が出ないまま昼会議は終了した。  御鈴は後に、覆面とパイプ椅子があればデンジャーなんて3ラウンドでフォール出来た、と負け惜しみを言ったとか。  犯罪組織のみならず米軍や自衛隊までもが、表向きに出来ない武器の調達にしばしば利用している非公認流通武器の大物ヘッドディーラーMi-Canの店長より、東京湾の双葉学園に居るお得意様、都治倉喜久子の元に、最優先で「黒」を送り届けるべく手配がされた。  それから七十時間後、一騎の蒼黒い馬に乗った黒いチャイナ服の女性が、東京湾岸区域の一角にある双葉学園島の連絡橋入り口、一般人と異能関係者を隔てる本土側の門を叩いた。 「我叫《ウォジャオ》 幇緑林《パン ルーリン》 我想《ウォジュアン》 双葉学園 董事《ドウォンシー》 都治倉喜久子先生」(我が名は幇緑林、双葉学園生徒課長都治倉喜久子氏に会いたし)  黒が、やってきた。

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