【金色蜘蛛と逢魔の空 第二話 2】

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[[ラノで読む>http://rano.jp/1434]]  私から見て、それが贔屓目でなければ……シュネーも十分に楽しんでくれているようだった。  ……というか、吸血鬼ってプリクラに写るんだ。  彼女の歌は、とても静かで澄んでいた。  内容は全くわからなかったけど。ドイツの民謡曲か童歌だったようで、ちんぷんかんぷんだけど。  何か、とても胸を打つ歌声だった。駄目だなあ、コブシきかせた私の演歌じゃ太刀打ちできません。いやみんなにウケてたけどさ。  そんなこんなでカラオケ終了。  私たちは、「シュネーちゃんの住んでるところが見たい」というデリカシーの欠片もない男子の言葉を発端にして、彼女の家に来ていた。  本当にいいのかな、と思う。男子も何人もいるんだけど。  まあなんか変なことしでかすようなら殴り倒せばいいわけだけど。  そして私たちが彼女に連れられてやってきたところは…… 「……洋館だ」 「やっぱり、って気もするけどねー」  そう、古めかしい洋館だった。  というかなんでこんなモン建ってるんだろうかこの学園都市。なんかこの洋館、傍目で築百年は軽く行ってそうなんですけど。 「……」  シュネーは鍵を開け、一足先に敷地に入ると振り向いて、私たちにお辞儀をする。  これはつまり、いらっしゃいという事なのだろう。 「ぅぉ、オレ女の子の家に入るの初めて」 「それ以前にこんな洋館入るの初めてだわ俺」 「そして起こる殺人事件、っと」 「恐えぇよ!」  笑いながら、みんなは洋館の敷地へと入る。私も続く。なんというか、確かに初めてだこういうのは。和式の家屋にはかなりでかいのも経験済みだが、こういう洋館は珍しい。  そしてその洋館は、外から見た不気味さとはうらはらに、驚くほど綺麗に清掃されていた。 「来日してから一週間、ずっと掃除していたんだって」  有紀が説明する。 「掃除ばかりしててそれでお腹すいて倒れたらしいけど」  周囲が笑い、シュネーは顔を赤らめて俯く。  ……もしかしてこの子、ドジっ娘属性もあるのか。 「それでお腹すいて外に出て行き倒れて、有紀と?」 「うん。それで血をあげたの」  なるほど。  咲螺との一件はその後なのだろうか。 「あーいい、俺も血ぃ吸われてぇー!」 「黙りなさいこの変態!」 「いやこんな美少女に血ぃ吸われて支配され下僕にされたいと思うのは普通だと思う」 「被虐嗜好(マゾヒズム)は双葉学園の外じゃ異常性癖!」  またそんなどうでもいいバカ話が始まる。飽きないよねみんな。 「……」  支配、下僕という言葉でふと、あのバカの顔を思い出す。  そしてぶんぶんと私は頭を振る。いやなんであいつの顔が浮かぶの? 関係ないしまったく。  みんなでやる歓迎会に、空気を読まずに姉に会いに行くからやめておくとか言い出すシスコン男じゃない。  どれだけ姉べったりなのよ高校生にもなって。なんというかガキすぎる。  ……あー、やめやめ!  そういうの考えるのはやめよう。 「ちょっとトイレ借りるわね」  私はそう言って席を立った。  そして迷った。  意外にかなりでかいよこの洋館。  建物って構造の違いで外観と体感の大きさが変えられるものなんだな、と感心する。  和風建築なんて結構そのまんまだし。いや忍者屋敷みたいなところは別だろうけど。  そう思いながらもなんとかトイレを探し当てて用を足した私は、来た道を思い出しながらみんなの居る部屋へと戻る。  そして……  そして――――  私は見た。見てしまった。  赤い部屋。赤いのは夕日のせい? いいえ違う。  部屋中に塗りたくられた、真っ赤な塗料(ペンキ)のせい。  かいだ事のある鉄錆臭を撒き散らしながら、一面を赤く染める紅。  私がいない間に、みんなで絵画教室でも開いたのだろうか。赤い絵の具だけで。そりゃどう考えても駄目でしょうに。  そしてみんな疲れたのか、ぐったりと寝ちゃってるよ。  運動不足? 体力が足りないよ。なんか死んでるみたいじゃない、それだと。  起きてるのは、有紀とシュネーの二人だけ。  最初は一人に見えたけど。だって二人の影はこう、恋人みたいに寄り添って、まるでひとつに見えたから。  ことり、と音が鳴る。  有紀の手から零れ落ちた携帯電話。まだ通話途中のようだ。  そして有紀が私を見る。青ざめた唇が何かの言葉のカタチに動く。でも私は読唇術なんて使えないから、何言ってるかわかんない。  ニゲテ、なんて声のない眼差しで言われてもわかんないのよ。  だからちゃんと言葉で言ってよ。元気なんでしょ? お願いだから。 「あ――」  私の体が震える。なんだろう、すごく寒い。  ああ、それはあの子の瞳を、顔を見たからだろう。ていうか、誰よこれ。  顔も髪も何もかも同じなのに、まったく別人に見える。  餓えた獣のように喘鳴するその口。するどく長い牙が、真っ赤に濡れている。  そしてその瞳は、私たちが宝石のようだと思った深い蒼はそこにはなくて。  闇のように落ち窪んだ眼窩の中に灯る、赤い光。  実感した。  これが――吸血鬼だ。  人の血を貪るモノ。殺し、喰らい、増える悪鬼。  やっと私は実感した。だけどそのときはもう何もかも遅い。  その瞳を視てしまった。私の身体は自由を奪われている。そう、そこに転がる同級生たちとおそらくは同じように。 「……あ……」  動かない。全身が凍りついたかのように動かない。とても寒い。  シュネーが有紀の体を放り出し、私にゆっくりと近づいてくる。  その顔に張り付く表情は、獣の欲動。  飢えている。どうしょうもなく餓えているのが判る。  つまり、私も食べられる。吸い尽くされて殺されると、直感した。  そして、その直感と恐怖をもってしても、私の身体は動かない。  助けて。  誰か、助けて!  だけど声にならない叫びは誰にも届かない。届くはずがない。  そして、シュネーの指が私の肩にかかる。  冷たい。服ごしで判るほどに冷たい。  首筋にかかる吐息だけが灼熱を伴う。  餌を前にした獣の熱さだ。  その牙が、私の首筋に――  触れるか否かの刹那。  風を切る音が聞こえ、そしてシュネーが頭を引く。  それは、私とシュネーの顔の間を通り過ぎた。  黄金の、輝き。  窓から差し込む黄昏の色を反射し、赤く染まる部屋の色を塗り替えるほどの、黄金色の糸。  ――ああ、知ってる。  私は知ってる、この色、この輝きを。  この、最も気高き黄金を。闇を払う輝きを。  だから、私はその名を叫ぶ。  いつの間にか、身体を凍えさせる冷たさは消えていた。 「ソラ……っ!!」  そう。  なんというご都合主義だろう。  逢魔ヶ刻(おうごん)の魔術師が。逢馬空が、そこに立っていた。  そして、彼は口を開く。 「そいつの処女は僕がもらった、だから美味しくないぞ、吸血鬼(エーデルシュタイン)』  ……。  …………。  …………………………………………。 「何寝ぼけたことヌカしてんじゃお前わーーーーーーーーーっ!!」  私は店の上に安置されていたでかい壷を手に掴み、思い切りぶん投げた。  プロ野球選手もかくやという見事な剛速球でソラの顔面を直撃し、高そうな壷は粉々に砕け散る。  そしてそのまま、固まっているシュネーを無視し、私は走る。  壷の欠片が宙を舞う中、私の身体は飛び上がる。  そして一直線。  私は両足で飛び蹴りをこのバカのあごにくらわせてやった。  我ながら惚れ惚れするほどの連続攻撃であった。 「……吸血鬼は処女の血を好むから、そう言えば躊躇うかなと」  あごを押さえながら、そう抜かすバカ男。私は詰め寄って叫ぶ。 「わわわわわわわ私がいつああああんたとっ!?」 「嘘も方便さ!」 「三回ぐらい死んどくかあんたっ!?」 「死者は生き返らない。生き返ってはいけないんだ。だからこそ、人の命は尊いと姉さんが」 「あんたの命はそこから除外よっ!」 「それは差別だ。差別はよくないと小学校で」 「よし死ね今死ねすぐに死ねっ!」  ああもう、さっきの感動返せこの大馬鹿野郎っ!  あ、いや、そうじゃなくて……! 「なんでここに……」 「彼女から、連絡を受けた」  有紀だ。私は直感する。彼女はシュネーに襲われていたとき、携帯電話を持っていた。それで連絡を入れたんだろう。  だけど、遅かった。遅かったよ。私だけ助かっても、意味なんてない。  なんでもっと早く来てくれなかったの。  私は、大事な事を口にする。言いたくない。こんなこと私の口から言いたくない!  でも……! 「有紀が……っ、みんなが……っ!」  殺された。  吸血鬼(シュネー)に血を吸われてしまった。  私のせいだ。  私が、最初に思ったように、醒徒会に連絡したりとかしていたら、こんな結末には……!  あの子を信じて、裏切られたのがすごく悲しい。  だけど……だけど、ソラの言葉はさらに私の予想をあっさりと裏切った。 「大丈夫だ」  ……?  なにが大丈夫なの? だって、みんな、みんな……! 『生きてるぜ、すげぇ、有り得ネェ』  ゴルトシュピーネの感嘆の、あるいは驚愕の声が私の耳に届く。  私は振り向く。  倒れた有紀たちの影から、金色蜘蛛の足が伸びている。  脈を測っているかのように。いや事実そうなのだろう。その事実を、私に告げる。 『まだ脈はある。確かに血ぃ吸われてるが、まだ致死量じゃねぇ。病院にいけば助かるぜこいつら。  つーか信じられねぇよ、兄弟』 「ああ、そうだな」  そしてソラは言う。 「暴走したドーターヴァンバイアが……人を吸い殺さなかったとは、驚きだ。  多分、完全に暴走しきっていない。まだ理性が、心のうちで働いている」 「え……?」  私は聞き返す。それはどういうことだろう。理性が残っている? 『ドーターヴァンパイアが何故ドーターなのか……  それは吸血鬼としては未成熟な固体だからだ。  自分の力だけでは、吸血鬼化に伴う激しい餓えと力の暴走を抑えられねぇ。  だがそのぶんは祖(おや)たる吸血鬼の支配力、強制力によって抑制されてる。  だが成熟前に、完璧な吸血鬼として一人立ちする前に親が死んだら……!』  その結果が、これなの……!? 『そのまま滅びるか、あるいは暴走するかだ。そしてアイツは後者のようだ、だが……!』  ソラが続ける。 「だが生きている。それは本来有り得ないんだ、暴走する吸血鬼は、目の前の全てを殺し、喰らう。  それが、殺さなかったし、僕の言葉にも反応した」 「……あ」  さっきのふざけた暴言のことか。 「理性が働いてるんだ。彼女も自分と、自分自身と戦ってる。  吸血鬼の本能、衝動、渇望から、みんなを守ろうと、助けようと。だから、ああ、手遅れじゃない、何も。まだ間に合う。いや……」  ソラは私の身体を廊下へと押しのける。庇う様に。  そしてまっすぐに、シュネーを見据えて言った。 「間に合わせてみせる。誰一人、死なせない」 『当然だ兄弟! 王は臣下の誰をも見捨てねぇ!』  そのソラ達に対して、シュネーのとった行動は迅速だった。  獣のように体をかがめ、そして弾けるように跳躍する。  その白魚のような細い指が、今は節くれ立った獣の爪となり、ソラを襲う。  ……本当に理性が働いてるの、これ!?  でも私はソラを、そしてシュネーを信じるしかない。  ソラは、とっさに影を操る。  自分の足元の影に魂源力を通し、一気に壁のように物質化させる。  黄金の盾だ。  だが―― 「っ!?」  氷を砕くような、澄んだ破砕音が部屋に響く。  いや、例えではなくまさしくその通り、影の盾が氷と砕けた。 『――凍結による物質崩壊か!』  ゴルトが叫ぶ。そしてソラは身をよじり、シュネーの爪を寸でのところで回避する。  ……よくわからないけど、おそらくはシュネーの能力だろう。  ゴルトの言葉どおりなら、彼女の能力は凍結能力。なるほど、名前の白雪の通りに、氷系の力を持つのか。  物質は凍らせれば脆くなり容易に破壊できると聞いた事がある。  ソラが影を物質化させたのなら、それは凍結させることで簡単に砕ける、ということなのだろう。 「っ、なら――!」  ソラはそのまま左足を軸にターンして体勢を変え、シュネーに向き直る。  そして、影から金色蜘蛛の脚を槍のように伸ばす。  だが―― 『んがっ……!』  ゴルトが叫ぶ。  それすらも凍りつき、シュネーには届かない。  触れるか否かの刹那に凍結し、そして砕けたのだ。 『俺のスラリとした脚がぁああっ!?』 「すぐに再練成する、文句を言うな――っ!」  ソラは再び影を盾にする。そしてシュネーはその盾を容易く破壊する。  戦況は防戦一方、というのがまさに正しかった。  盾をつくり、それで一瞬の時間を稼ぎ、回避し、逃げる。  シュネーの怒涛の連続攻撃に、ソラはあの姿に、黄金蜘蛛の鎧姿に変身する事すら出来ずにいた。   そしてついに、ソラの動きが止まる。  陽がさらに沈み、窓から差込んで影を伸ばす。  夕日を背にしたシュネーが、まるで揺らめく悪鬼のよう。  駄目だ。このままじゃソラはやられる。そしてみんな死んでしまう。  でも私には何も出来ない。何も……!  ただ、視ているだけしか…… 「それでいい」  ふと、ソラの言葉が耳に入った。  いや、私の考えてる事を察してフォローを入れてくれた?  それは有り得ない。だってこいつが、空気の読めないこの男がそんなことできるはずないし。  でも、それでも……私の心は軽くなる。  そうだ、さっき私は思ったはずだ。  この二人を信じるって。  だったら……最後まで見届ける。 「そうだ、それでいい」  ソラが言う。  影が伸びる。  そして……ソラが立ち上がり、一歩前に足を踏み出した。  異変は、それと同時だった。 「……ッ!!」  シュネーの体がびくん、と動く。それだけだ。  そう、それだけ。  シュネーは、もう動かなくなった。  その赤い双眸をソラに向け、牙を剥き出しながら、だけどそれだけだった。  ……どういうこと?  さっきまであれだけ、目に留まらぬ動きで飛び跳ねていたシュネーが、一転して動かない。いや、動けない。 「お前には説明しても無駄かもしれないな。この国の遊びだから」  ……あ。  それで私は察した。  この国で知らないものはいないであろう、遊び。  そう……影踏み遊びだ。  ソラの魔術は、影を操り影に通じる魔術だと、この間私は彼らに聞いた。  それはこういう芸当も出来るのか。  忍者漫画とかではポピュラーな、影縫いだとか影縛りだとかと同じタイプの魔術。  踏んだ影、その持ち主の身体の動きを止めてしまう……! 「術式構築に時間がかかるんだ、これ。だから言うほどあまり便利じゃない。  相手の抵抗力が強ければ、簡単に解かれる程度の、初歩の封縛魔術(バインドスペル)だしね。  助かったよ、今がまだ夕方で。これが夜なら吸血鬼(おまえ)の独壇場(せかい)だ。たぶん勝てなかっただろう」  ソラはゆっくりと歩みを進める。  慎重に、影を踏み外してしまわないように。 「近づけば凍らされる。確かに手は出ない。  だが――日が落ちれば影は伸びる。  そして伸びた影に触れるのは容易い、ということさ」  そして、ソラは自身の間合いへと到達する。 「いい夕方だ。逢魔ヶ刻に相応しい、金色の夕闇。  そして此処はもはや僕の巣だ。お前に逃れるすべは無い。  さあ、支配を始めようか」  そして、ソラは呪文を唱える。  それに従い、足元の影が黄金色に輝き、そして円を描く。  あれは魔法陣だ。それが輝き、そしてその光が舞い、部屋を照らしあげる。  我告げる、汝を統治せん(OL SONUF VALOSAGAI GOHU)  我は原初のアエティールに住まう、最初にして至高の存在なり(ZIR ILE IADIA DAYES PRAF ELILA)  我は地上の恐怖なり、死の角なり(ZIRDO KIAFI CAOSAGO MOSPELEH TELOCH)  ザザース・ザザース・ナサタナータ・ザザース(ZAZAS ZAZAS NASATANATA ZAZAS)  そして呪文と共に、黄金蜘蛛の体が変貌する。  それは……鎧だ。  黄金に輝く、蜘蛛の意匠を凝らした、荘厳な、力強く、頼もしい鎧。  それは、きっと王の鎧。  王だけが纏う事を許される、力の象徴。黄金の雄姿。  そして、二人の言葉がその奇跡を締め括る。 『――憑依召喚(Invocation)』 「黄金練装(Gold Yezirah)!」  一瞬にして黄金がソラの身体に纏われる。  そこに立つのは、黄金の鎧に身を固めた王だ。  黄金蜘蛛が手をかざす。  そして、黄金の影が、蜘蛛の巣を象った魔法陣のように宙に展開し、シュネーの全身を拘束する。  私は知っている。  あの時の――私に憑いた悪魔(アンドラス)を斃した技だ。  私はあの二人に疑問をぶつけてみたことがある。  影使いの魔術で、なんで雷撃が出来るのか、それは反則じゃないのか、と。  それに対して彼らは説明してくれた。  全ての現象には因果がある。原因と結果だ。  傍目どんなに反則な能力だろうが、解きほぐしてみればタネはある。  物質というものは、圧縮すればするほど高温になって、そしてそれはやがてプラズマ化するらしい。  影を練成、実体化、そして圧縮。  それを繰り返し繰り返し繰り返すことで、高温高圧を生み出し、プラズマを発生させる……  そしてその雷撃を叩きつける術。  それこそが――バアルの雷。 『決を下す。ああ、お前は悪くねぇよ。だけどそれでもお前は、あいつらを手にかけた』  黄金が、身を屈める。  拳が握られる。  その全身に力が漲るのがわかる。  纏う黄金の影が、火花を散らし、金色の電撃へと変じていく。 「故に僕らはこう言おう」 『享受せよ我が神罰――』 「“汝が稲妻を死まで送り込め(ABREQ AD HABRA)”」 5 血契  さて、どこから話したものだろうか。  とりあえずの結果として、みんな助かった。  あの後すぐに救急車を呼んで、病院に。  みんな輸血が間に合い、命に別状はなかった。  ただ血を失ったショックなどで記憶に混乱が見られるということで――  幸か不幸か、ほとんどの人はあの屋敷での凄惨な体験は覚えていない。  いや、たぶんこれで良かったんだと思う。  有紀は一部始終を覚えていたが、 「まあお腹すいてたら仕方ないんじゃないかな」  その一言であっさりとシュネーを許すあたり、とてつもなく大物だと思う。  私には絶対に無理だろう。  さて、そんなこんなで被害を受けた同級生たちも、個人差はあるがすぐに皆復帰した。  血が足りなくなって倒れた、という症状だけなのだから回復も早いわけだ。みんな若いし。  そして、我らが2―Eは再び日常を取り戻す。  いや……ひとつだけ、違う点があった。  それは…… 「はい、浅羽さんに引き続き、また転校生を紹介します」  先生の声が教室に響く。  うん、なんというかここまで来ると展開はバレバレだと思う。 「ドイツから留学してきた、シュネーヴァイス・エーデルシュタインさんだ」  ほら、こういうご都合主義というか予定調和というか、とてもつまらないオチだ。  でもつまらないオチだからといって、それが歓迎されないかというと必ずしもそうではない。  複雑だけど、私も大歓迎だ。  勝手に疑って、勝手に裏切られた気分になった私にはそんなこと言う資格なんてこれっぽっちもない気がするけどさ。  それでも、彼女が最終的に、自分自身に打ち勝って、こちら側に戻ってきてくれたことは本当に嬉しいと思う。  さて、補足で付け加えるなら……  あの屋敷で何があったか。  簡単に言うと、あの一撃は彼女を討ち滅ぼしたりはしなかった。まあ当然だ。ソラは確かに、「誰一人死なせない」と言ったのだから。  その中に彼女が入っているのは当然だ。珍しくあいつが空気呼を読んだ、ということなのだろうか。  電撃は彼女の身体の自由を奪った。だがそれだけだ。  そしてどうしたのかというと…… 「それでは、シュネーさんの席は……あれ? あの、ちょっと」  先生が戸惑う。  シュネーはとことこと歩き、そしてソラの席の隣……に座っている男子生徒をじっ、と見つめる。 「え、あの……」 「……変わってください、席」 「……」 「……」 「……」  シュネーがなんか目尻に涙さえ浮かべ始めたし。 「……お願い、します」  その懇願に耐え切れなくなって、彼は愛想笑いを浮かべながら席を立つ。  背中に哀愁が漂ってるよ。ああ、ご愁傷様。目の前に彼女が来たとき、たぶん一瞬心がときめいたんだろうね。  心より私は哀悼の意を示す。めげるな、頑張れ。 「先生、俺の新しい席……」 「あ、うん、はい。ええと、左隅のあの席に」  そして彼は隅っこに追いやられた。彼は何も悪いことしてないということを彼の名誉のために言っておこう。  そしてシュネーは、何事もなかったかのようにその席に座る。  ソラの隣に、寄り添うように。  ……うん、クラスの敵意がソラに向かっているのは絶対に私の気のせいじゃない。  特に男子生徒から。ああ、そりゃそうだろうね。  よかったじゃん逢馬空。空気脱出。一気に存在感が大増二百%だよ。これであんたもクラスの人気者だ。かなりマイナス方面に。  ……そう、彼女は……シュネーヴァイス・エーデルシュタインは、あろうことか……ソラの支配下(しもべ)になった。  使い魔(ファミリア)としての契約を交わしたらしい。  ゴル吉いわく、ドーターヴァンパイアの暴走は、親たる吸血鬼を失い、その支配下から解き放たれたことによる。  完全な吸血鬼に成っていない状態で支配力から解き放たれたら暴走する。  ではその暴走を押さえるにはどうすればいい?  つまりは簡単な話。  新しく支配してしまえばいい――そういうことなのだそうだ。  そしてその魔術の支配力で吸血鬼の衝動を抑え、元の状態に戻す。  吸血鬼ほどの強力なラルヴァを使い魔にすることはかなり難しいらしく、その術式は下手をすれば術者の命に関わるらしいと聞いた。  だから私は、シュネーの事はソラに任せて、救急車の手配を行ったのだが……  そして翌日、無事に儀式は終了し、彼女は自分を取り戻した。  だがまあ問題は、彼女がすっかりその、ソラに心酔している事だ。そりゃ確かに、暴走している自分を助けてくれた相手だし、魔術的な契約上の主人、ということにもなるのだろうが……  昨日の歓迎会に参加した男子連中からしてみたら、これがいわゆる寝取られって奴なのかなあ、と私は思うわけだ。いきなり出てきて掻っ攫われた感じで。そりゃ憤懣やるかたないよね。  陰湿ないじめはないだろうけど、たぶん暴力言語で友情確かめ合うぐらいはするんじゃなかろうか。というか一発ずつ殴られて来い、と私は思う。  そして昼休み。  盛大なプロレスごっこから無事生還したソラはげんなりとしていた。まあ自業自得だよね。  思いっきり過激に友情を深めてきたらしい。男の子っていいよね、と思う。  ちゃんと手加減していたようだし。そういう気遣いとか出来るあたり、みんないい人たちだ。  ひどい怪我人とか出なかった事を、私は嬉しく思う。 「死ぬかと思った」  そしてその横で、シュネーが無言でハンカチで汗を拭いている。  うん、しねばよかったのに。というかちゃんと仕留めなさいよ男子。息の根を。  そんな私の視線を受けた男子たちは、心なしか怯えている気がする。  別に私は怒ってないよ? だからそんなに怯えるな。怯えるぐらいならちゃんとトドメさせよコラ。 『なに人殺せるオーラ出してんだよお前』  ゴル吉が言ってくる。だから別に怒ってないってば。 『しかし新しくまた軍勢が増えたな、幸先いいぜ、なあ兄弟』 「そんなつもりはない。彼女はあくまでも暫定的な契約だよ。少なくとも、彼女が自立できるようになるまで」 「……」  そのソラの言葉に、シュネーは残念そうな表情を浮かべるが、当の本人は気づいていないようだ。このクソ鈍感。 『まあいいけどよ。お前がどういうつもりであれ、実際には軍勢は増えてる。それもあの宝石のラヴィーネの血継たるヴァンパイアだ。  こいつぁいい戦力になるぜってなもんよ』 「そう上手い話だといいが」 『あ? どういうことだよ兄弟』 「彼女を受け入れるということは即ち、僕らにとって新たな敵が出来たということだ」 『へ?』  素っ頓狂な声を影があげる。  ああ、気づいてないんだこのバカ。  シュネーの気持ち。そう…… 「いいか、彼女は親を殺された。親を殺された子供はどう思う?」 『……あ』  そう、それは私にも察しが付く。仮にもし、私が親を殺されて、そしてそのせいで友達を傷つけてしまったなら…… 『仇討ち、か』 「そうだ。そしてそれは僕らが無関係を気取ることは出来ないだろ」 『お前……ッ』  そしてゴル吉は言う。 『そこまで……そこまで王の自覚をッ! オレぁ嬉しいぞ兄弟ぃぃっ!!』 「違う」  ソラは即効で否定した。ゴル吉を殴りながら。 「それに、あのロードヴァンパイアのラヴィーネを倒すほどの相手が敵になるということだ。  相手が人間か、ラルヴァか、何者かは知らないけど……相手から彼女を狙ってくる可能性だって高い」 『まあ、その可能性も高いわなあ』  そう二人が話していると、シュネーはソラの裾をぎゅっ、と握ってソラの顔を見上げる。 「大丈夫だよ」  そしてソラは、そんなシュネーに笑顔を向ける。シュネーはこくこく、と頭を縦に振る。  ……なんか、すげぇムカつくんですけど。  頭を切り替えよう。こんなバカに構ってたら時間がもったいない。 「でも吸血鬼ねぇ。じゃあアレじゃない、次は狼男かフランケンでも来るとか」  私が軽くそういうと、有紀が話に割り込んでくる。 「狼男さんとなら友達になったよ? 病院で」  私は飲んでいたカフェオレを盛大に吹いた。そしてそれがシュネーの顔にぶっかかった。  むせる私。死ぬかと思った。ソラが呆れて言う。 「お前は本当に誰とでも友達になるな!?」  うん、ありえねぇでしょそれ。どんなフットワークの軽さよ!? あとどんなエンカウント率よ!? 『コイツを軍門に入れたらすごい軍団できるんじゃねぇかよ、オイ』  ゴル吉も影で、呆れたようにつぶやく。私もそんな気がする。  あれですか、こないだの私の件もそれに勘定するなら、有紀は怪物ホイホイか何かですか?  悪魔に吸血鬼に狼男に。そして次は何が来るのよ本当に。 「この学園なら、別に特別なことじゃないと思うけど」 「「「ないないそれはない」」」  この一瞬。クラスの心が一つになった。  さすがE組、団結の強さは折り紙つきだよ。さすがクラス委員長。実に華麗にクラスを一つに纏めたよ。  なんというか。  退屈しなさそうだわ、本当に。  了 ■登場人物 ・シュネーヴァイス・エーデルシュタイン  双葉島にやってきたドーターヴァンパイア。  有紀の友人となる。  外見年齢と実年齢は同じ17歳。  無口で心優しい性格。  親であるラヴィーネの意向もあり、人を下僕や吸血鬼にしない。  だが親が殺されてしまい、吸血衝動が暴走。  紆余曲折を経て、空の支配下に置かれ使い魔となる。  なお双葉学園への転入は、事前にラヴィーネと交わされていた密約によるもの。 ・ラヴィーネ・エーデルシュタイン  千年を生きる夜魔の王族たるロードヴァンパイア。  通称、宝石のラヴィーネ。  シュネーを吸血鬼化させた母親とも言える存在。  人間を襲い血を啜るが、殺しもしなければ滅多な事では同族にもしない穏健派。  双葉学園都市へと訪れる予定が、何者かに殺害される。 ・媛ヶ崎 咲螺(ひめがざき さくら)  鍔媛の実家の本家筋の少女。  傲慢で高慢で嫌味な性格だったが、シュネーに血を吸われる事で表層人格を破壊される。  以後、素直な性格へと変わり、鍔姫と和解する。  なお反動なのか、ちょっぴりはっちゃけた変な人になってしまったが些細なことである。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
[[ラノで読む>http://rano.jp/1434]]  私から見て、それが贔屓目でなければ……シュネーも十分に楽しんでくれているようだった。  ……というか、吸血鬼ってプリクラに写るんだ。  彼女の歌は、とても静かで澄んでいた。  内容は全くわからなかったけど。ドイツの民謡曲か童歌だったようで、ちんぷんかんぷんだけど。  何か、とても胸を打つ歌声だった。駄目だなあ、コブシきかせた私の演歌じゃ太刀打ちできません。いやみんなにウケてたけどさ。  そんなこんなでカラオケ終了。  私たちは、「シュネーちゃんの住んでるところが見たい」というデリカシーの欠片もない男子の言葉を発端にして、彼女の家に来ていた。  本当にいいのかな、と思う。男子も何人もいるんだけど。  まあなんか変なことしでかすようなら殴り倒せばいいわけだけど。  そして私たちが彼女に連れられてやってきたところは…… 「……洋館だ」 「やっぱり、って気もするけどねー」  そう、古めかしい洋館だった。  というかなんでこんなモン建ってるんだろうかこの学園都市。なんかこの洋館、傍目で築百年は軽く行ってそうなんですけど。 「……」  シュネーは鍵を開け、一足先に敷地に入ると振り向いて、私たちにお辞儀をする。  これはつまり、いらっしゃいという事なのだろう。 「ぅぉ、オレ女の子の家に入るの初めて」 「それ以前にこんな洋館入るの初めてだわ俺」 「そして起こる殺人事件、っと」 「恐えぇよ!」  笑いながら、みんなは洋館の敷地へと入る。私も続く。なんというか、確かに初めてだこういうのは。和式の家屋にはかなりでかいのも経験済みだが、こういう洋館は珍しい。  そしてその洋館は、外から見た不気味さとはうらはらに、驚くほど綺麗に清掃されていた。 「来日してから一週間、ずっと掃除していたんだって」  有紀が説明する。 「掃除ばかりしててそれでお腹すいて倒れたらしいけど」  周囲が笑い、シュネーは顔を赤らめて俯く。  ……もしかしてこの子、ドジっ娘属性もあるのか。 「それでお腹すいて外に出て行き倒れて、有紀と?」 「うん。それで血をあげたの」  なるほど。  咲螺との一件はその後なのだろうか。 「あーいい、俺も血ぃ吸われてぇー!」 「黙りなさいこの変態!」 「いやこんな美少女に血ぃ吸われて支配され下僕にされたいと思うのは普通だと思う」 「被虐嗜好(マゾヒズム)は双葉学園の外じゃ異常性癖!」  またそんなどうでもいいバカ話が始まる。飽きないよねみんな。 「……」  支配、下僕という言葉でふと、あのバカの顔を思い出す。  そしてぶんぶんと私は頭を振る。いやなんであいつの顔が浮かぶの? 関係ないしまったく。  みんなでやる歓迎会に、空気を読まずに姉に会いに行くからやめておくとか言い出すシスコン男じゃない。  どれだけ姉べったりなのよ高校生にもなって。なんというかガキすぎる。  ……あー、やめやめ!  そういうの考えるのはやめよう。 「ちょっとトイレ借りるわね」  私はそう言って席を立った。  そして迷った。  意外にかなりでかいよこの洋館。  建物って構造の違いで外観と体感の大きさが変えられるものなんだな、と感心する。  和風建築なんて結構そのまんまだし。いや忍者屋敷みたいなところは別だろうけど。  そう思いながらもなんとかトイレを探し当てて用を足した私は、来た道を思い出しながらみんなの居る部屋へと戻る。  そして……  そして――――  私は見た。見てしまった。  赤い部屋。赤いのは夕日のせい? いいえ違う。  部屋中に塗りたくられた、真っ赤な塗料(ペンキ)のせい。  かいだ事のある鉄錆臭を撒き散らしながら、一面を赤く染める紅。  私がいない間に、みんなで絵画教室でも開いたのだろうか。赤い絵の具だけで。そりゃどう考えても駄目でしょうに。  そしてみんな疲れたのか、ぐったりと寝ちゃってるよ。  運動不足? 体力が足りないよ。なんか死んでるみたいじゃない、それだと。  起きてるのは、有紀とシュネーの二人だけ。  最初は一人に見えたけど。だって二人の影はこう、恋人みたいに寄り添って、まるでひとつに見えたから。  ことり、と音が鳴る。  有紀の手から零れ落ちた携帯電話。まだ通話途中のようだ。  そして有紀が私を見る。青ざめた唇が何かの言葉のカタチに動く。でも私は読唇術なんて使えないから、何言ってるかわかんない。  ニゲテ、なんて声のない眼差しで言われてもわかんないのよ。  だからちゃんと言葉で言ってよ。元気なんでしょ? お願いだから。 「あ――」  私の体が震える。なんだろう、すごく寒い。  ああ、それはあの子の瞳を、顔を見たからだろう。ていうか、誰よこれ。  顔も髪も何もかも同じなのに、まったく別人に見える。  餓えた獣のように喘鳴するその口。するどく長い牙が、真っ赤に濡れている。  そしてその瞳は、私たちが宝石のようだと思った深い蒼はそこにはなくて。  闇のように落ち窪んだ眼窩の中に灯る、赤い光。  実感した。  これが――吸血鬼だ。  人の血を貪るモノ。殺し、喰らい、増える悪鬼。  やっと私は実感した。だけどそのときはもう何もかも遅い。  その瞳を視てしまった。私の身体は自由を奪われている。そう、そこに転がる同級生たちとおそらくは同じように。 「……あ……」  動かない。全身が凍りついたかのように動かない。とても寒い。  シュネーが有紀の体を放り出し、私にゆっくりと近づいてくる。  その顔に張り付く表情は、獣の欲動。  飢えている。どうしょうもなく餓えているのが判る。  つまり、私も食べられる。吸い尽くされて殺されると、直感した。  そして、その直感と恐怖をもってしても、私の身体は動かない。  助けて。  誰か、助けて!  だけど声にならない叫びは誰にも届かない。届くはずがない。  そして、シュネーの指が私の肩にかかる。  冷たい。服ごしで判るほどに冷たい。  首筋にかかる吐息だけが灼熱を伴う。  餌を前にした獣の熱さだ。  その牙が、私の首筋に――  触れるか否かの刹那。  風を切る音が聞こえ、そしてシュネーが頭を引く。  それは、私とシュネーの顔の間を通り過ぎた。  黄金の、輝き。  窓から差し込む黄昏の色を反射し、赤く染まる部屋の色を塗り替えるほどの、黄金色の糸。  ――ああ、知ってる。  私は知ってる、この色、この輝きを。  この、最も気高き黄金を。闇を払う輝きを。  だから、私はその名を叫ぶ。  いつの間にか、身体を凍えさせる冷たさは消えていた。 「ソラ……っ!!」  そう。  なんというご都合主義だろう。  逢魔ヶ刻(おうごん)の魔術師が。逢馬空が、そこに立っていた。  そして、彼は口を開く。 「そいつの処女は僕がもらった、だから美味しくないぞ、吸血鬼(エーデルシュタイン)』  ……。  …………。  …………………………………………。 「何寝ぼけたことヌカしてんじゃお前わーーーーーーーーーっ!!」  私は店の上に安置されていたでかい壷を手に掴み、思い切りぶん投げた。  プロ野球選手もかくやという見事な剛速球でソラの顔面を直撃し、高そうな壷は粉々に砕け散る。  そしてそのまま、固まっているシュネーを無視し、私は走る。  壷の欠片が宙を舞う中、私の身体は飛び上がる。  そして一直線。  私は両足で飛び蹴りをこのバカのあごにくらわせてやった。  我ながら惚れ惚れするほどの連続攻撃であった。 「……吸血鬼は処女の血を好むから、そう言えば躊躇うかなと」  あごを押さえながら、そう抜かすバカ男。私は詰め寄って叫ぶ。 「わわわわわわわ私がいつああああんたとっ!?」 「嘘も方便さ!」 「三回ぐらい死んどくかあんたっ!?」 「死者は生き返らない。生き返ってはいけないんだ。だからこそ、人の命は尊いと姉さんが」 「あんたの命はそこから除外よっ!」 「それは差別だ。差別はよくないと小学校で」 「よし死ね今死ねすぐに死ねっ!」  ああもう、さっきの感動返せこの大馬鹿野郎っ!  あ、いや、そうじゃなくて……! 「なんでここに……」 「彼女から、連絡を受けた」  有紀だ。私は直感する。彼女はシュネーに襲われていたとき、携帯電話を持っていた。それで連絡を入れたんだろう。  だけど、遅かった。遅かったよ。私だけ助かっても、意味なんてない。  なんでもっと早く来てくれなかったの。  私は、大事な事を口にする。言いたくない。こんなこと私の口から言いたくない!  でも……! 「有紀が……っ、みんなが……っ!」  殺された。  吸血鬼(シュネー)に血を吸われてしまった。  私のせいだ。  私が、最初に思ったように、醒徒会に連絡したりとかしていたら、こんな結末には……!  あの子を信じて、裏切られたのがすごく悲しい。  だけど……だけど、ソラの言葉はさらに私の予想をあっさりと裏切った。 「大丈夫だ」  ……?  なにが大丈夫なの? だって、みんな、みんな……! 『生きてるぜ、すげぇ、有り得ネェ』  ゴルトシュピーネの感嘆の、あるいは驚愕の声が私の耳に届く。  私は振り向く。  倒れた有紀たちの影から、金色蜘蛛の足が伸びている。  脈を測っているかのように。いや事実そうなのだろう。その事実を、私に告げる。 『まだ脈はある。確かに血ぃ吸われてるが、まだ致死量じゃねぇ。病院にいけば助かるぜこいつら。  つーか信じられねぇよ、兄弟』 「ああ、そうだな」  そしてソラは言う。 「暴走したドーターヴァンバイアが……人を吸い殺さなかったとは、驚きだ。  多分、完全に暴走しきっていない。まだ理性が、心のうちで働いている」 「え……?」  私は聞き返す。それはどういうことだろう。理性が残っている? 『ドーターヴァンパイアが何故ドーターなのか……  それは吸血鬼としては未成熟な固体だからだ。  自分の力だけでは、吸血鬼化に伴う激しい餓えと力の暴走を抑えられねぇ。  だがそのぶんは祖(おや)たる吸血鬼の支配力、強制力によって抑制されてる。  だが成熟前に、完璧な吸血鬼として一人立ちする前に親が死んだら……!』  その結果が、これなの……!? 『そのまま滅びるか、あるいは暴走するかだ。そしてアイツは後者のようだ、だが……!』  ソラが続ける。 「だが生きている。それは本来有り得ないんだ、暴走する吸血鬼は、目の前の全てを殺し、喰らう。  それが、殺さなかったし、僕の言葉にも反応した」 「……あ」  さっきのふざけた暴言のことか。 「理性が働いてるんだ。彼女も自分と、自分自身と戦ってる。  吸血鬼の本能、衝動、渇望から、みんなを守ろうと、助けようと。だから、ああ、手遅れじゃない、何も。まだ間に合う。いや……」  ソラは私の身体を廊下へと押しのける。庇う様に。  そしてまっすぐに、シュネーを見据えて言った。 「間に合わせてみせる。誰一人、死なせない」 『当然だ兄弟! 王は臣下の誰をも見捨てねぇ!』  そのソラ達に対して、シュネーのとった行動は迅速だった。  獣のように体をかがめ、そして弾けるように跳躍する。  その白魚のような細い指が、今は節くれ立った獣の爪となり、ソラを襲う。  ……本当に理性が働いてるの、これ!?  でも私はソラを、そしてシュネーを信じるしかない。  ソラは、とっさに影を操る。  自分の足元の影に魂源力を通し、一気に壁のように物質化させる。  黄金の盾だ。  だが―― 「っ!?」  氷を砕くような、澄んだ破砕音が部屋に響く。  いや、例えではなくまさしくその通り、影の盾が氷と砕けた。 『――凍結による物質崩壊か!』  ゴルトが叫ぶ。そしてソラは身をよじり、シュネーの爪を寸でのところで回避する。  ……よくわからないけど、おそらくはシュネーの能力だろう。  ゴルトの言葉どおりなら、彼女の能力は凍結能力。なるほど、名前の白雪の通りに、氷系の力を持つのか。  物質は凍らせれば脆くなり容易に破壊できると聞いた事がある。  ソラが影を物質化させたのなら、それは凍結させることで簡単に砕ける、ということなのだろう。 「っ、なら――!」  ソラはそのまま左足を軸にターンして体勢を変え、シュネーに向き直る。  そして、影から金色蜘蛛の脚を槍のように伸ばす。  だが―― 『んがっ……!』  ゴルトが叫ぶ。  それすらも凍りつき、シュネーには届かない。  触れるか否かの刹那に凍結し、そして砕けたのだ。 『俺のスラリとした脚がぁああっ!?』 「すぐに再練成する、文句を言うな――っ!」  ソラは再び影を盾にする。そしてシュネーはその盾を容易く破壊する。  戦況は防戦一方、というのがまさに正しかった。  盾をつくり、それで一瞬の時間を稼ぎ、回避し、逃げる。  シュネーの怒涛の連続攻撃に、ソラはあの姿に、黄金蜘蛛の鎧姿に変身する事すら出来ずにいた。   そしてついに、ソラの動きが止まる。  陽がさらに沈み、窓から差込んで影を伸ばす。  夕日を背にしたシュネーが、まるで揺らめく悪鬼のよう。  駄目だ。このままじゃソラはやられる。そしてみんな死んでしまう。  でも私には何も出来ない。何も……!  ただ、視ているだけしか…… 「それでいい」  ふと、ソラの言葉が耳に入った。  いや、私の考えてる事を察してフォローを入れてくれた?  それは有り得ない。だってこいつが、空気の読めないこの男がそんなことできるはずないし。  でも、それでも……私の心は軽くなる。  そうだ、さっき私は思ったはずだ。  この二人を信じるって。  だったら……最後まで見届ける。 「そうだ、それでいい」  ソラが言う。  影が伸びる。  そして……ソラが立ち上がり、一歩前に足を踏み出した。  異変は、それと同時だった。 「……ッ!!」  シュネーの体がびくん、と動く。それだけだ。  そう、それだけ。  シュネーは、もう動かなくなった。  その赤い双眸をソラに向け、牙を剥き出しながら、だけどそれだけだった。  ……どういうこと?  さっきまであれだけ、目に留まらぬ動きで飛び跳ねていたシュネーが、一転して動かない。いや、動けない。 「お前には説明しても無駄かもしれないな。この国の遊びだから」  ……あ。  それで私は察した。  この国で知らないものはいないであろう、遊び。  そう……影踏み遊びだ。  ソラの魔術は、影を操り影に通じる魔術だと、この間私は彼らに聞いた。  それはこういう芸当も出来るのか。  忍者漫画とかではポピュラーな、影縫いだとか影縛りだとかと同じタイプの魔術。  踏んだ影、その持ち主の身体の動きを止めてしまう……! 「術式構築に時間がかかるんだ、これ。だから言うほどあまり便利じゃない。  相手の抵抗力が強ければ、簡単に解かれる程度の、初歩の封縛魔術(バインドスペル)だしね。  助かったよ、今がまだ夕方で。これが夜なら吸血鬼(おまえ)の独壇場(せかい)だ。たぶん勝てなかっただろう」  ソラはゆっくりと歩みを進める。  慎重に、影を踏み外してしまわないように。 「近づけば凍らされる。確かに手は出ない。  だが――日が落ちれば影は伸びる。  そして伸びた影に触れるのは容易い、ということさ」  そして、ソラは自身の間合いへと到達する。 「いい夕方だ。逢魔ヶ刻に相応しい、金色の夕闇。  そして此処はもはや僕の巣だ。お前に逃れるすべは無い。  さあ、支配を始めようか」  そして、ソラは呪文を唱える。  それに従い、足元の影が黄金色に輝き、そして円を描く。  あれは魔法陣だ。それが輝き、そしてその光が舞い、部屋を照らしあげる。  我告げる、汝を統治せん(OL SONUF VALOSAGAI GOHU)  我は原初のアエティールに住まう、最初にして至高の存在なり(ZIR ILE IADIA DAYES PRAF ELILA)  我は地上の恐怖なり、死の角なり(ZIRDO KIAFI CAOSAGO MOSPELEH TELOCH)  ザザース・ザザース・ナサタナータ・ザザース(ZAZAS ZAZAS NASATANATA ZAZAS)  そして呪文と共に、黄金蜘蛛の体が変貌する。  それは……鎧だ。  黄金に輝く、蜘蛛の意匠を凝らした、荘厳な、力強く、頼もしい鎧。  それは、きっと王の鎧。  王だけが纏う事を許される、力の象徴。黄金の雄姿。  そして、二人の言葉がその奇跡を締め括る。 『――憑依召喚(Invocation)』 「黄金練装(Gold Yezirah)!」  一瞬にして黄金がソラの身体に纏われる。  そこに立つのは、黄金の鎧に身を固めた王だ。  黄金蜘蛛が手をかざす。  そして、黄金の影が、蜘蛛の巣を象った魔法陣のように宙に展開し、シュネーの全身を拘束する。  私は知っている。  あの時の――私に憑いた悪魔(アンドラス)を斃した技だ。  私はあの二人に疑問をぶつけてみたことがある。  影使いの魔術で、なんで雷撃が出来るのか、それは反則じゃないのか、と。  それに対して彼らは説明してくれた。  全ての現象には因果がある。原因と結果だ。  傍目どんなに反則な能力だろうが、解きほぐしてみればタネはある。  物質というものは、圧縮すればするほど高温になって、そしてそれはやがてプラズマ化するらしい。  影を練成、実体化、そして圧縮。  それを繰り返し繰り返し繰り返すことで、高温高圧を生み出し、プラズマを発生させる……  そしてその雷撃を叩きつける術。  それこそが――バアルの雷。 『決を下す。ああ、お前は悪くねぇよ。だけどそれでもお前は、あいつらを手にかけた』  黄金が、身を屈める。  拳が握られる。  その全身に力が漲るのがわかる。  纏う黄金の影が、火花を散らし、金色の電撃へと変じていく。 「故に僕らはこう言おう」 『享受せよ我が神罰――』 「“汝が稲妻を死まで送り込め(ABREQ AD HABRA)”」 5 血契  さて、どこから話したものだろうか。  とりあえずの結果として、みんな助かった。  あの後すぐに救急車を呼んで、病院に。  みんな輸血が間に合い、命に別状はなかった。  ただ血を失ったショックなどで記憶に混乱が見られるということで――  幸か不幸か、ほとんどの人はあの屋敷での凄惨な体験は覚えていない。  いや、たぶんこれで良かったんだと思う。  有紀は一部始終を覚えていたが、 「まあお腹すいてたら仕方ないんじゃないかな」  その一言であっさりとシュネーを許すあたり、とてつもなく大物だと思う。  私には絶対に無理だろう。  さて、そんなこんなで被害を受けた同級生たちも、個人差はあるがすぐに皆復帰した。  血が足りなくなって倒れた、という症状だけなのだから回復も早いわけだ。みんな若いし。  そして、我らが2―Eは再び日常を取り戻す。  いや……ひとつだけ、違う点があった。  それは…… 「はい、浅羽さんに引き続き、また転校生を紹介します」  先生の声が教室に響く。  うん、なんというかここまで来ると展開はバレバレだと思う。 「ドイツから留学してきた、シュネーヴァイス・エーデルシュタインさんだ」  ほら、こういうご都合主義というか予定調和というか、とてもつまらないオチだ。  でもつまらないオチだからといって、それが歓迎されないかというと必ずしもそうではない。  複雑だけど、私も大歓迎だ。  勝手に疑って、勝手に裏切られた気分になった私にはそんなこと言う資格なんてこれっぽっちもない気がするけどさ。  それでも、彼女が最終的に、自分自身に打ち勝って、こちら側に戻ってきてくれたことは本当に嬉しいと思う。  さて、補足で付け加えるなら……  あの屋敷で何があったか。  簡単に言うと、あの一撃は彼女を討ち滅ぼしたりはしなかった。まあ当然だ。ソラは確かに、「誰一人死なせない」と言ったのだから。  その中に彼女が入っているのは当然だ。珍しくあいつが空気呼を読んだ、ということなのだろうか。  電撃は彼女の身体の自由を奪った。だがそれだけだ。  そしてどうしたのかというと…… 「それでは、シュネーさんの席は……あれ? あの、ちょっと」  先生が戸惑う。  シュネーはとことこと歩き、そしてソラの席の隣……に座っている男子生徒をじっ、と見つめる。 「え、あの……」 「……変わってください、席」 「……」 「……」 「……」  シュネーがなんか目尻に涙さえ浮かべ始めたし。 「……お願い、します」  その懇願に耐え切れなくなって、彼は愛想笑いを浮かべながら席を立つ。  背中に哀愁が漂ってるよ。ああ、ご愁傷様。目の前に彼女が来たとき、たぶん一瞬心がときめいたんだろうね。  心より私は哀悼の意を示す。めげるな、頑張れ。 「先生、俺の新しい席……」 「あ、うん、はい。ええと、左隅のあの席に」  そして彼は隅っこに追いやられた。彼は何も悪いことしてないということを彼の名誉のために言っておこう。  そしてシュネーは、何事もなかったかのようにその席に座る。  ソラの隣に、寄り添うように。  ……うん、クラスの敵意がソラに向かっているのは絶対に私の気のせいじゃない。  特に男子生徒から。ああ、そりゃそうだろうね。  よかったじゃん逢馬空。空気脱出。一気に存在感が大増二百%だよ。これであんたもクラスの人気者だ。かなりマイナス方面に。  ……そう、彼女は……シュネーヴァイス・エーデルシュタインは、あろうことか……ソラの支配下(しもべ)になった。  使い魔(ファミリア)としての契約を交わしたらしい。  ゴル吉いわく、ドーターヴァンパイアの暴走は、親たる吸血鬼を失い、その支配下から解き放たれたことによる。  完全な吸血鬼に成っていない状態で支配力から解き放たれたら暴走する。  ではその暴走を押さえるにはどうすればいい?  つまりは簡単な話。  新しく支配してしまえばいい――そういうことなのだそうだ。  そしてその魔術の支配力で吸血鬼の衝動を抑え、元の状態に戻す。  吸血鬼ほどの強力なラルヴァを使い魔にすることはかなり難しいらしく、その術式は下手をすれば術者の命に関わるらしいと聞いた。  だから私は、シュネーの事はソラに任せて、救急車の手配を行ったのだが……  そして翌日、無事に儀式は終了し、彼女は自分を取り戻した。  だがまあ問題は、彼女がすっかりその、ソラに心酔している事だ。そりゃ確かに、暴走している自分を助けてくれた相手だし、魔術的な契約上の主人、ということにもなるのだろうが……  昨日の歓迎会に参加した男子連中からしてみたら、これがいわゆる寝取られって奴なのかなあ、と私は思うわけだ。いきなり出てきて掻っ攫われた感じで。そりゃ憤懣やるかたないよね。  陰湿ないじめはないだろうけど、たぶん暴力言語で友情確かめ合うぐらいはするんじゃなかろうか。というか一発ずつ殴られて来い、と私は思う。  そして昼休み。  盛大なプロレスごっこから無事生還したソラはげんなりとしていた。まあ自業自得だよね。  思いっきり過激に友情を深めてきたらしい。男の子っていいよね、と思う。  ちゃんと手加減していたようだし。そういう気遣いとか出来るあたり、みんないい人たちだ。  ひどい怪我人とか出なかった事を、私は嬉しく思う。 「死ぬかと思った」  そしてその横で、シュネーが無言でハンカチで汗を拭いている。  うん、しねばよかったのに。というかちゃんと仕留めなさいよ男子。息の根を。  そんな私の視線を受けた男子たちは、心なしか怯えている気がする。  別に私は怒ってないよ? だからそんなに怯えるな。怯えるぐらいならちゃんとトドメさせよコラ。 『なに人殺せるオーラ出してんだよお前』  ゴル吉が言ってくる。だから別に怒ってないってば。 『しかし新しくまた軍勢が増えたな、幸先いいぜ、なあ兄弟』 「そんなつもりはない。彼女はあくまでも暫定的な契約だよ。少なくとも、彼女が自立できるようになるまで」 「……」  そのソラの言葉に、シュネーは残念そうな表情を浮かべるが、当の本人は気づいていないようだ。このクソ鈍感。 『まあいいけどよ。お前がどういうつもりであれ、実際には軍勢は増えてる。それもあの宝石のラヴィーネの血継たるヴァンパイアだ。  こいつぁいい戦力になるぜってなもんよ』 「そう上手い話だといいが」 『あ? どういうことだよ兄弟』 「彼女を受け入れるということは即ち、僕らにとって新たな敵が出来たということだ」 『へ?』  素っ頓狂な声を影があげる。  ああ、気づいてないんだこのバカ。  シュネーの気持ち。そう…… 「いいか、彼女は親を殺された。親を殺された子供はどう思う?」 『……あ』  そう、それは私にも察しが付く。仮にもし、私が親を殺されて、そしてそのせいで友達を傷つけてしまったなら…… 『仇討ち、か』 「そうだ。そしてそれは僕らが無関係を気取ることは出来ないだろ」 『お前……ッ』  そしてゴル吉は言う。 『そこまで……そこまで王の自覚をッ! オレぁ嬉しいぞ兄弟ぃぃっ!!』 「違う」  ソラは即効で否定した。ゴル吉を殴りながら。 「それに、あのロードヴァンパイアのラヴィーネを倒すほどの相手が敵になるということだ。  相手が人間か、ラルヴァか、何者かは知らないけど……相手から彼女を狙ってくる可能性だって高い」 『まあ、その可能性も高いわなあ』  そう二人が話していると、シュネーはソラの裾をぎゅっ、と握ってソラの顔を見上げる。 「大丈夫だよ」  そしてソラは、そんなシュネーに笑顔を向ける。シュネーはこくこく、と頭を縦に振る。  ……なんか、すげぇムカつくんですけど。  頭を切り替えよう。こんなバカに構ってたら時間がもったいない。 「でも吸血鬼ねぇ。じゃあアレじゃない、次は狼男かフランケンでも来るとか」  私が軽くそういうと、有紀が話に割り込んでくる。 「狼男さんとなら友達になったよ? 病院で」  私は飲んでいたカフェオレを盛大に吹いた。そしてそれがシュネーの顔にぶっかかった。  むせる私。死ぬかと思った。ソラが呆れて言う。 「お前は本当に誰とでも友達になるな!?」  うん、ありえねぇでしょそれ。どんなフットワークの軽さよ!? あとどんなエンカウント率よ!? 『コイツを軍門に入れたらすごい軍団できるんじゃねぇかよ、オイ』  ゴル吉も影で、呆れたようにつぶやく。私もそんな気がする。  あれですか、こないだの私の件もそれに勘定するなら、有紀は怪物ホイホイか何かですか?  悪魔に吸血鬼に狼男に。そして次は何が来るのよ本当に。 「この学園なら、別に特別なことじゃないと思うけど」 「「「ないないそれはない」」」  この一瞬。クラスの心が一つになった。  さすがE組、団結の強さは折り紙つきだよ。さすがクラス委員長。実に華麗にクラスを一つに纏めたよ。  なんというか。  退屈しなさそうだわ、本当に。  了 ■登場人物 ・シュネーヴァイス・エーデルシュタイン  双葉島にやってきたドーターヴァンパイア。  有紀の友人となる。  外見年齢と実年齢は同じ17歳。  無口で心優しい性格。  親であるラヴィーネの意向もあり、人を下僕や吸血鬼にしない。  だが親が殺されてしまい、吸血衝動が暴走。  紆余曲折を経て、空の支配下に置かれ使い魔となる。  なお双葉学園への転入は、事前にラヴィーネと交わされていた密約によるもの。 ・ラヴィーネ・エーデルシュタイン  千年を生きる夜魔の王族たるロードヴァンパイア。  通称、宝石のラヴィーネ。  シュネーを吸血鬼化させた母親とも言える存在。  人間を襲い血を啜るが、殺しもしなければ滅多な事では同族にもしない穏健派。  双葉学園都市へと訪れる予定が、何者かに殺害される。 ・媛ヶ崎 咲螺(ひめがざき さくら)  鍔媛の実家の本家筋の少女。  傲慢で高慢で嫌味な性格だったが、シュネーに血を吸われる事で表層人格を破壊される。  以後、素直な性格へと変わり、鍔姫と和解する。  なお反動なのか、ちょっぴりはっちゃけた変な人になってしまったが些細なことである。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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