【キャンパス・ライフ特別編1-3】

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      6 「21時40分」  立浪みくに部屋を追い出されたせいで、僕は手ぶらで学園に来てしまいました。  そのため歴史学部から貸し出された装備を一通り身につけてから、僕は指定された場所へと向かっています。  自分のものでない腕輪型通信機を、かちゃかちゃ調整しながら歩いていたときでした。 「こんばんは。いよいよ出陣ね、遠藤くん」  途中、星崎美沙さんと偶然会いました。学園トップの『治癒能力者』です。  それよりも僕は彼女の隣にいる、ライフルを担いだ男の人のほうに目が行きました。どこかで見たことのあるような顔ですが、まったく思い出せません。 「ひっどいなあ遠藤ちゃん! 俺だよ、体育委員長の・・・・・・」 「あー! あなたが体育委員長の討状之威さんですね!」  僕は本年度の役員一覧に載っていた、妙にチャラチャラしたロンゲを思い出しました。  逢洲等華さんが運転免許の写真でも撮っているかのような、とんでもない仏頂面をしていたのとは対照的に、この人は誰に向けているのかもわからない白い歯をニカッと見せていました。  恐らく特注と思われる、アホとしか言いようのないワインレッド一色の制服を着ています。こんなのが役員とは、学園は大丈夫なのでしょうか。 「遠藤くんは、こういった頭の軽い人は苦手そうよね」  頭が軽いとはなんだよぅ、と討状さんはふてくされます。美沙さんの言ったとおり、こういうタイプとは会話するのも疲れます。  それにしてもものすごい武装です。僕は銃器には全然詳しくありませんが、とんでもなく長いライフル銃を二丁持っていることはわかります。彼は狙撃手なのでしょうか? 「ま、戦いに出れば遠藤ちゃんもわかると思うよ。僕の強さ」 「そうね。この人に重火器持たせると、すごいことになるのよ?」  どうやら実力だけは美沙さんも一目置く学生のようです。 「遠藤くんのほうは準備万端? 覚悟は出来てる?」  僕はつい苦笑いをして、美沙さんに答えてしまいました。さすがの討状さんも呆れた様子で僕の顔をまじまじと見つめます。 「おいおーい。大丈夫なのかい? 北西部の指揮官さん?」 「まあまあ、無理もないわよ。この島にやってきて、数ヶ月足らずで指揮官なんて」  やれ、と言われたからにはやるしかないでしょう。僕もそのつもりです。学園が自信を持って選抜してくれたからにはやってやりますよ。くそったれ。  しかし、初めての実戦でまともな動きを期待されても困ります。やってみなければわからないのです。大丈夫なのかときかれても、自信を持って大丈夫ですとは言えないです。 「そういう場合はウソでも、大丈夫ですと言っておけばいいんだよ、遠藤ちゃん」  と、討状さんが僕に軽い口調で言いました。討状さんの言うこととはいえ、実際、そういうものなのかもしれません。 「自分の役割を一つ一つこなしていけば、何とかなるものよ。喫茶店で私が話したこと、よく思い出してね?」  討状さんが「え? 二人でお茶したの? どういう関係なの?」とニヤニヤしながら突っかかってきます。美沙さんは討状さんの茶化しを、笑顔でスルーしていました。  僕は美沙さんとの会話を思い起こします。 『治癒能力者』の僕には、戦場で傷ついた人を治す役割が自動的に与えられます。僕はその役割をきちんと果たしていけばいいのです。それができるかどうかが、今回の戦闘での重要なポイントとなります。  要は、いつもの訓練やラルヴァとの戦い通りにやればいいのです。これはパートナーのみくを欠いた戦いのようなものなのです。 「心配性の遠藤くんに、高等部二年生の有能なブレインを紹介するわ」 「え?」と、僕は美沙さんの顔を見上げます。  それはとてもありがたいことです。  大規模戦闘に慣れていない僕が小隊の指揮官なぞ、重圧で死んでしまいそうなところでした。高等部の人がサポートしてくれるのなら安心です。 「それは誰なんですか?」 「今、ちょうど来たところのようね。紹介するわ。・・・・・・舞華さん、こっちー!」  美沙さんが手を振った方向を見ると、僕よりもやや背の低い黒髪の女の子が立っていました。丁寧に前で組まれた両手に目が行きます。 「初めまして、遠藤さん。舞華風鈴と申します」  ぺこりと頭を下げた彼女に「よろしくね」と言おうとした瞬間、討状さんがビュンと俊敏な動きで前に出て、素早く彼女の手を取りました。 「やぁ、討状之威だよ舞華さん。頭良さそうでかわいいね、クラスはどこだい? 島のどこに住んでるんだい?」 「えぇ? やぁ、ちょっと、離してください!」  美沙さんはつかつかと討状さんの背後に近づくと、後頭部をゴチンと殴りました。  討状さんはその場でしゃがみこみ、殴られたところを押さえて悶絶しています。美沙さんは僕のほうを向くと、にっこり笑顔でこう言いました。 「このチャラ男はこういうところがあるからね。遠藤くんも、遠慮せずに殴っていいのよ?」  わかりました、覚えておきます。僕はそう答えました。  それから僕は舞華さんと一緒に車に乗り込み、持ち場である北西部へ向かいます。 「学園の北西部は、こういったラルヴァ強襲に備えてトーチカとなっています」 「トーチカ?」 「防御陣地のことです」  この双葉島はよく出来ていて、今回のような大規模戦闘に対応するためきちんと設計されています。僕もこの島にやってきてから数ヶ月経ちましたが、まったくそのようなことに気づきませんでした。  僕はこれから北西部にある陣地について、現場指揮を執ります。どうなることかと気が気でありませんでしたが、幸い、舞華風鈴さんはとても賢そうなので頼りにできそうです。 「遠藤さんがそんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。私たち二年生の力を見くびらないでください」 「なら、安心なのかな・・・・・・?」  これから戦地に赴くというのに、どうしてこの子はこんなにも落ち着いているのだろう。  美沙さんみたくどっしりと構えています。迫り来る恐怖や絶望との全面戦争を控えているようには見えません。さっきからあわあわしている僕が、なんだかマヌケです。 「へへ・・・・・・。数ヶ月前まで普通の暮らしをしていたのが、どうしてこんなことに」 「遠藤さんは・・・・・・そうでしたね。大学部から双葉島にいらっしゃったんですよね」 「うん。異能者とかラルヴァとか、まったく関係のない世界にいた」 「私も初めは、ラルヴァの存在なんて信じられませんでしたもの。遭遇することなんてないんじゃないかな、なんて思ってた」 「舞華さんが?」 「うん。日ごろの訓練はきちんと受けてたんだけど、実際に遭遇するまでは、どこか半信半疑だったわ」 「あんな化け物、常識から考えればありえないもんね」 「だから、あの人に怒られたのを私は今でも覚えてる」  舞華さんは目線を落として、昔を懐かしむような、含みのある笑顔をしてこう言いました。 『本当に命を賭けることになる戦場に立つ事になる、という意識の薄い者達とは肩を並べられない』  ドキッとしてしまいました。  さっきからこうして物怖じをしている僕が、怒られたようなきがしたから。  舞華さんもそういう過去があったんだなと思いました。彼女を叱ったのが誰なのかということは、きくだけ野暮というものでしょう。  やがて、車は北西部にある防衛陣地に到着しました。  僕らは大きな建物に入りました。北西地区ゲート・中央建物です。  北西地区は、まず化け物の侵入を防ぐ高い壁が目に付きます。ラルヴァどもと戦う高等部の生徒たちは、自分の装備の点検をしたり、準備運動をしたり、チームを組む人たちは事前の打ち合わせをしていたりと、それぞれ思い思いのひと時を過ごしています。  あともう数分も経ったら、ここに大勢の恐ろしいラルヴァたちが押し寄せてくるのです。火蓋は切って落とされ、ここ、最前線は戦火に包まれるのです。 「司令室」ではすでにたくさんの教員や一般生徒たちが配置に付き、通信機器を調整したり、作戦内容の再確認をしたりしていました。僕が入室すると、 「大学部・遠藤指揮官! 歓迎する!」  などと教員から大仰に言われてしまいました。  舞華さんは専用の電動車椅子に座ります。コンソール類の装備された、指揮官にふさわしい特製の大型車椅子です。  いよいよ、戦争が始まっちゃうんだなあ。  僕がぽつりと呟くと、舞華さんがこう言いました。 「でも、これが現実なんです」 「だよね。そろそろ僕も、ようやくのことで受け入れつつあるよ」 「それならよかった」  時計がちょうど22時の針を指したところです。時間まであと十五分。 《『ラルヴァ』と思しき群集の双葉地北西・北東区画より上陸を確認、総員第一級戦闘配置!》  腕輪型の通信機から聞こえる無線が、強い語気でそう言いました。  どんなに強気になっても、このずっしり圧し掛かってくるような、物々しいぴりぴりとした雰囲気にだけは、どうしても馴染むことはできません。  さあ、敵軍はいよいよ島に上陸してきました。今更、尻尾巻いて逃げ出すわけにはいきません。僕らとラルヴァとの戦いは始まったのです。  そんなとき、舞華さんは「歓迎しますよ」と言いました。  それは双葉島に侵攻してきたラルヴァどもに対して、呟かれたものでしょうか? 僕はその言葉の意味がわからなかったので、舞華さんのほうを向きます。 「ようこそ、遠藤さん。この底なしにイカれた世界へ」  賢そうな彼女らしくない、おどけた笑顔を僕に見せてくれました。       7 「22時00分49秒」 「来た・・・・・・。来たわ! とても多い! 多すぎる!」 「え? わかるんだ、舞華さん?」 「私の能力は大気流動で外界を認識することです」  僕は支給されたスターライトスコープ(暗視スコープですね)を手に取り、死んだように静かになった夜の街を覗きます。  僕の顔が真っ青になって、司令室がざわっとなったのと同時でした。 「どこの誰なのかしらね。攻めてくるラルヴァは100体で間違いないって言ってたの」  そう舞華さんが毒づいたのです。 「本当だ! 多い、多すぎるよ!」と、僕も大声で叫んでいました。  確かに歴史学部の教員たちは『100体』と言っていました。間違いないとまで断言していました。それなのに何でしょう。この数百体はくだらない、ラルヴァの大勢力は・・・・・・? 「敵軍は北西地区から600メートルの地点を進行中。姿かたちは人間っぽいので、デミヒューマンでしょう」  すらすらと舞華さんが敵軍の情報を述べるたび、司令室の教員はあわただしく動きました。殴り書きで記録する者、特定箇所へ電報を飛ばす者、通信機で直接学生たちに情報を伝える者。 「ふふふ、それにしても何よこの、あまりにも統率のとれたラルヴァたち・・・・・・?」  さすがの舞華さんも額に汗を滲ませて、苦笑いを浮かべています。  素人の僕にも、これから攻めてくる連中がいつものラルヴァとは比べ物にならないぐらい強くて、恐ろしいというのは理解できました。  双眼鏡で見て、慄然としました。奴らは数え切れないぐらいの大勢で進軍してきたのです。しかも、きれいな陣形を組んでいっせいに押し寄せてきます。  まるで一国の軍隊を相手にしているようです。ここまで知能の高くて大規模なラルヴァの攻め込みは、初めて見ました。単なる化け物ってレベルじゃないです。人類の脅威そのものです。 「とりあえず、これからどうすればいいの!」 「落ち着いて遠藤さん。作戦は『専守防衛』です。何としてでも彼らの侵入を阻止することです!」 「ここで食い止めろってことだね!」  僕はマイクに口を近づけました。  ここまできたらやってやるよ! 徹底的にやってやるよ! そんな強い気持ちで放送のスイッチをバチンと入れます。 「北西部の指揮を担当します、大学部の遠藤雅です!」  威勢よく、堂々と高等部二年生の生徒たちに話します。この司令室から指示を飛ばそうというわけです。うむ、なかなか指揮官っぽい仕事だぞ! 「ラルヴァの群集はあと500メートルにまで迫ってきています! 怪我は全て僕が治します! ここは総員、死力を尽くして何としてでも食い止めま・・・・・・」  と、力強くノリノリでしゃべっていたそのときでした。  ズドドドドドドドドドドドドと、とんでもない爆発音が炸裂したのです。 「ぎゃああああああ! 何? 何が起こったの舞華さぁん!」  マイクのスイッチが入っているのもすっかり忘れて、僕はパニックになりながら舞華さんのほうを向きました。彼女も驚いた様子で車椅子から身を乗り出し、司令室の窓から表を見ています。  ラルヴァの攻め込んできている地点が、めらめらと一面に真っ赤に燃えているのです。舞華さんは目を瞑り、連中の動きを感じ取ろうとします。 「進軍してくるラルヴァの群集に、いきなり攻撃が加えられたようね。空中から絨毯爆撃でも敢行されたかのような、痛烈な先制攻撃よ。いったい誰がこんなことを・・・・・・」 「過激な生徒もいるもんですね・・・・・・」と、僕らはあっけにとられていました。  目の覚めるような絨毯爆撃の直後、ついにここ、外郭施設の投光器の火が点ります。  強烈なライトが照らし出したのは、焼死した死骸を蹴散らすように突撃してくる、怒り狂ったラルヴァたちの光景でした。ギャーとかキシャーとかいう形容しがたい絶叫が、司令室にも届いています。うわぁ、連中すっげえ怒ってるよ・・・・・・。 「さあ北西地区、戦闘開始よ! 私たち高等部二年生の力を見せてやりましょう!」  舞華さんが声を張り上げて生徒たちを鼓舞します。僕なんかよりもよっぽどサマになってます。舞華さんがいれば僕、別にいらないんじゃね?  そして、双葉学園を非常事態にまで陥れた、謎の異形の姿が明るみになります。  シルエットは人間にそっくりです。生意気にもきれいな陣形まで組んで突っ込んできたほどです、知能は半端なく高いと思われます。カテゴリー・デミヒューマンと断言してよいでしょう。  しかし、ありえない皮膚の色をしています。体全体が緑色をしているのです。  顔がまた禍々しく恐ろしいもので、クチバシなんかが付いています。  自然発生した種というよりも、「人間」の何かこう、いじっちゃいけない箇所をいじってしまった結果生まれちゃったとんでもない生物兵器って感じがします。ええ、大昔に流行したホラーゲームに出てくるクリーチャーのような感じです。この想像が真実だとしたら、この現代日本は「倫理」の二文字なんて死んでいるようなもんです。 「そう、そんなに気持ち悪い顔をしているの」  と舞華さんが言いました。彼女は生まれつき目が悪いようなので、僕が伝えてあげました。 「全然聞いたことのないラルヴァね。緑人間とでも仮に呼びましょうか」 「何だろう、こいつらから感じられる恐怖は・・・・・・。薄気味悪いってレベルじゃない」  まず、知能がやたら高すぎる。ラルヴァというよりも、人間を兵器にしたものを相手にしているような気分です。  そして冷や汗の止まらない僕は、なんとなく舞華さんに言います。 「こいつら絶対に双葉学園に好きで攻め込んでるわけじゃないだろ。こんな戦闘に特化したとんでもないものを、誰かが学園に仕向けてるんだろ・・・・・・?」 「もしもそうだとしたら、恐ろしい話ね・・・・・・!」  舞華さんがそう言ったときには、もう双眼鏡など使わなくとも十分その姿がうかがえるところまで、奴らは接近していました。 「とうとう来やがった! 門に到達する!」  僕は叫びます。ついに、五体のラルヴァが北西部の防衛拠点に到達しました。  高等部の生徒たちが身構えて、連中を迎え撃とうとしたその瞬間。  ズドンと、真っ白で巨大な壁が構築されたのです! 門を塞いでしまいました! この防衛拠点を覆う壁よりも、ずっとずっと高くて分厚くて、強固な壁です! 「何だあれーーーーーー!」  僕はラルヴァなんかよりもそっちに驚愕していました。  どんな大津波も浸入を許さない、圧倒的な堤防です。あの白い壁は何だ? 誰が展開した? 「あれは氷・・・・・・? なるほど、わかったわ! 私のクラスメート『如月千鶴』さんです!」  二年B組、如月千鶴。舞華さんによれば、氷を操る異能者だそうです。  緑人間が門を突破しようとした瞬間、如月さんが「氷の壁」を構築したのです。真っ直ぐ突っ込んできたラルヴァたちは、氷の中に閉じ込められてしまったようです。 「前に訓練で見たことがあります。如月さんの作る氷の壁は、触れるとダメージを受けるの」 「HAHAHA、チートクラスだねぇ」  堂々と拠点に君臨する、真っ白に照らし出された氷の壁を唖然として見つめていました。すげー、高等部の生徒、ホントすげー・・・・・・。 「じゃあ、連中どうしようもないじゃないか?」  実際、強襲に身構えていた生徒たちですら、この壁のために役割を失って拍子抜けをしているようです。敵は壁によって侵入できない。壁を殴ったらダメージを受けてしまう。それでも強引に越えてくるようなことがあったら、今度は生徒たちの異能力が火を噴くことでしょう。  肩の力がすっと抜けました。如月さんとやらのおかげで、少なくとも北西部の戦いは楽な展開を見せそうです。戦場にいる彼らも棒立ちになっていて、笑顔すら見られます。  しかし舞華さんが立ち上がり、血相を変えてこう叫びました。 「だめ! みんな油断しちゃだめぇ! 上を見てぇ!」  僕ははっとして上空に目を移します。そして血の気が引いていきました。  上から来やがるぞという怒鳴り声で、ようやく現場も異変に気づいたようです。ぐいっとライトが夜空に向けられます。  生徒たちが見たものは、コウモリの翼を生やしたラルヴァの飛行編隊でした。 「空からも攻めてくるのかよ!」  瞠目して声を荒げました。まずい。敵はみんなの考えている以上に危険です。  よく目を凝らすと、飛行ラルヴァは何かを抱えていました。僕は慌てて双眼鏡を取り、それが何であるのかを調べます。  ・・・・・・たまらず両手の力が抜けて、僕は双眼鏡を落としてしまいました。 「遠藤さん、何があったの?」 「あいつら、緑人間を抱えてる・・・・・・」  それを聞いた舞華さんが、一瞬呆けたような表情を見せました。 「壁を越えられる! 敵が攻め込んでくる! みんな、警戒しろぉおおお!」  僕はマイク越しに、必死になって高等部のみんなに怒鳴りました。  正直、連中を見くびっていました。侮っていました。  コウモリラルヴァは緑ラルヴァを運んできては、ここの防衛拠点に投下していきました。何てことでしょう、軍人顔負けの立派な人海戦術です。  かくして、緑ラルヴァたちと高等部生とのバトルは始まりました。  爪の攻撃を避けながら持ち前の長剣で切り裂いたり、素手でぶん殴って潰したり。  おのおのがおのおののスタイルで、回転寿司のように次々と投入されてくるラルヴァを倒していきます。武器庫で武器をあさってきた一般人生徒――異能を持たない者たちは、思う存分対空射撃をしています。  なかでも、一人の異能者が圧巻でした。  その人は筋肉モリモリのガチムチな男子でした。緑人間をサンドバッグか何かと思っているのか、物騒な武器で何匹も殴り殺してしまいます。北西部の生徒のなかで、下手したら一番強いんじゃないかと思ってしまうぐらい、圧倒的な戦いぶりを周りに見せ付けています。 「さっきから緑人間をちぎっては投げてちぎっては投げてるあの人、誰か知ってる・・・・・・?」 「クラスメートの、三浦孝和くんです・・・・・・」  と、舞華さんは少々言いにくそうにして答えました。  三浦孝和。どこかで聞いた名前です。  うーんと首を捻りながら、その名を思い出そうとしていたときでした。司令室のドアが開いたのです。 「二年生じゃちょいと名の知れた女ったらしだな。ついこの前も女子更衣室に飛び込んで、職員室から呼び出しの放送がかかったぐらいだ」  そう、突如としてこの場に現れた、高等部の男子生徒が言いました。 「あれ、君は誰だい?」と僕がきくと、舞華さんがにっこりとしながら紹介してくれました。 「『唐橋悠斗』くん。私の指示で、これからはこの部屋に待機してもらうことにしたの」 「特に戦わなくていいのなら、それにこしたことはない。畜生、この学園に来てしまったせいで、こんな戦争まがいの大騒動に巻き込まれるとはな・・・・・・」 「こら、そんなこと言わないの! 唐橋くん!」  舞華さんが彼をたしなめます。しかし僕は彼に近づいて、同情の眼差しを向けました。 「まったくだ・・・・・・。異能者やらラルヴァやら、この学園に来てからよくわからないことだらけだよ。もういい加減お家に帰って寝たいよ・・・・・・!」 「あんたも平凡あがりの異能者か。あんたとは話がわかるな。まあ、ここは大人しく巻き込まれておくしかねえよ。クソ、いったい何なんだよ・・・・・・!」  やれやれ、と舞華さんがため息をついたのが聞えます。  それにしても唐橋くんとは何者なのだろう。  この司令室に彼を配置した、舞華さんの狙いは何だろう。  そのとき、ガラスが何度も割れる音が司令室に聞えてきました。僕は「何が起こったの!」と叫びながら、おろおろ慌てふためきます。 「あの空を飛んでるヤツが、歩兵ラルヴァを建物めがけて投下しているんだ」 「どうやらこの建物が狙いのようですね」  舞華さんは眼鏡をかちゃりと動かします。つまり、緑人間を直接この建物に攻め込ませて、北西部を制圧しにきているということなのでしょう。 「誰か戦える生徒はこの建物にいるの?」 「ええ、数人が防衛に回っています。今ちょうど、建物内でも戦闘が始まりましたね」  と、舞華さんが感覚を研ぎ澄ませながら言いました。彼女はなおも僕らに言います。 「連中は絶対にこの司令室には近づくことはできません。対策を打ってありますので」 「ああ、なるほど。それで俺がこの部屋に呼ばれたってわけか」  僕には何の話かまったく見えません。とにかく、ここにいるぶんには安全だということでしょう。       8 「22時43分」  ジジジ、というノイズが聞えました。僕らが着けている腕輪型通信機からでした。 「北西地区司令室、聞えますか?」 「はい、司令室です。どうぞ」  現場から無線が流れてきました。インカムを装着した教員たちが、真剣な表情で戦場からの声に応答します。 「一部地域でけが人が数名出ています。遠藤さんの『治癒』を要求します」  僕の心臓が跳ねました。とうとう、この時が来てしまったか・・・・・・。  如月さんの構築した『氷壁』は絶大な効果をもたらしています。もしもこの壁がなかったら、倍以上の数のラルヴァに攻められていたところでしょう。  しかしいたる箇所で、コウモリラルヴァによって投下された個体との戦闘が発生しています。緑人間そのものは並みではない戦闘力を持っていますので、ところどころ苦戦している場所があるようなのです。  書類を教員から受け取った舞華さんは、口頭で僕にこう伝えました。 「遠藤さん、出番です! 怪我人を治療してきてください! 現場はここからやや南下したところです!」 「わかったよ。やるよ。何人でも回復させてやるよ!」  階下では、ラルヴァの侵入を防ぐための激しい戦いが行われています。  みくがこの場にいない今、戦闘においては、僕は無力も同然です。緑人間に遭遇しないことを祈りながら、僕は司令室を後にしました。  建物の一室にて、一人の少女が緑人間に囲まれていました。 「およよ」  やたら背の高いその子はでっかいバスケットを抱えて、立ち尽くしていました。 「何か囲まれちゃったねー、シロー」 「キュルキュー?」  彼女の足元にいる、手足の生えた白い饅頭(?)が鳴いて応えます。  二人は薄暗い部屋のど真ん中にいます。その周りを、緑ラルヴァが二十匹ぐらい囲んでいます。極上に絶望的な状況下です。  緑ラルヴァの一匹が、太くて鋭い爪を露出させて彼女に切りかかりました。  襲われた少女はバスケットを落としてしまいました。ガタンとバスケットのふたが吹っ飛びます。中から溢れてきたのは、白いお米・・・・・・たくさんのおにぎりでした。  ぐちゃぐちゃに粉々に散らかされたおにぎりを、金髪の少女はがたがた震えながら見下ろしています。 「わたしの・・・・・・」 「キュー・・・・・・」 「わたしのぉ・・・・・・!」 「キュキュキュー・・・・・・!」 「ごはぁぁぁぁぁぁんんん・・・・・・・・・・・・!」 「キューーーーーー!」  両膝両手の順に床に崩れ落ち、少女は小刻みに震えます。とても悲しそうです。  哀れな少女をよそに、緑人間たちは機嫌がいいのか、気味の悪い鳴き声を出して、歌って、彼女を嘲り笑っています。  そして、少女は泣くのを止めました。 「いくよ・・・・・・」 「・・・・・・キュ」  少女がゆらりと立ち上がります。ラルヴァたちは一斉に黙りました。空気の変化を敏感に察知したのでしょう。  部屋に降りてきた一瞬の沈黙ののち、死刑宣告はなされました。 「我、命ず」 「キュ・・・・・・」 「殲 滅 せ よ !」 「キュオ・・・・・・・・・・・・グォォォオオオオオオオオオオオオ!」  まず少女に一番近い位置で囲んでいた緑人間たちが、ボスンと爆発しました。頭部が風船玉のようにはじけ飛んだのです。  そして白い饅頭は咆哮を終えると、とんでもない生命体に変化していました。屈強な体、人間の肉体などあっさり裂いてしまえそうな爪、牙。  どっしどっしと、緑人間たちへ俊敏に詰め寄り、集団をまるごと大きな手でなぎ払いました。敵は爪によって一気にバラバラに切り裂かれながら、汚い血や内臓を部屋のあちらこちらに撒き散らしていきます。  その強さを恐れた緑人間たちが、今度は無力そうな少女を襲います。残された全員が、四方八方から飛び掛ります。  しかし、それで全てが終わってしまいました。  緑人間はみんな少女に触れることすらできず、空中でボンと散ってしまいました。ぼたぼたと肉塊が彼女の周りに降り注ぎ、汚い肉の輪を描いていきます。  そんな想像を絶する光景に、僕は道すがら出会ってしまったのです。 「この学園の生徒って、ほんととんでもないのばかりだ・・・・・・」  そうしてこっそり覗いていたとき、血塗れた少女と目が合ってしまいました。僕はもう何度目なのかもわからない、心臓が跳ねた音を聞きました。  少女は表現のしづらい、ものすごい目をしていました。キレイなはずの青い目が、どす黒い渦を巻いていたのです。  私のごはん・・・・・・、私のごはん・・・・・・! 瞳がそう慟哭を上げています。  悲しんでいる人を放っておけません。僕は(恐る恐る)部屋に入りました。 「・・・・・・おにぎり、もったいないよね」  僕はそう言って彼女に近づきます。少女は目をぱちぱちさせて、散らばったお米に両手をかざしている僕を見下ろしていました。  このおにぎりが、もの姿を取り戻せますように。ほかほかでふっくら作りたてのおにぎりに、その姿を取り戻せますように・・・・・・。  何かマヌケなことを必死こいて念じていますが、僕はいたって真面目です。真剣です。両腕が温かくなります。その温もりを、百パーセントコシヒカリに分け与えるようにして、僕は『治癒』を行使します。  バスケットごと、ぴかっと眩しく光りました。薄暗い部屋が白い光に包まれます。 「わあ・・・・・・」  彼女は瞳をきらきらさせました。当然でしょう、おにぎりが全部もとにもどって、バスケットに詰まっているのだから。 「私の・・・・・・私のごはん!」 「キュキュキューーーー!」  バスケットに抱きつき、いつのまにか白饅頭に戻っていたペット(?)と共に喜んでいます。  バスケットにたぷんと乗っかった、でっかいおっぱい。  よかった。本当によかった――。  僕はそれを優しい紳士の微笑で見つめてから、本来の目的のために戦線へと躍り出ていきました。おっぱいを見てものすごい元気が出ました。緑ラルヴァ程度なら、今の僕なら爽やかに殴って倒せそうです。  こういうことにいちいち『治癒』を使ってしまうあたり、僕は美沙さんと大違いのバカヒーラーです・・・・・・。  ほんの少しだけ、体が右にふらついてしまいました。  いつもよりも力の消費が激しかったようだと、僕はそのとき思い込んでいました。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
      6 「21時40分」  立浪みくに部屋を追い出されたせいで、僕は手ぶらで学園に来てしまいました。  そのため歴史学部から貸し出された装備を一通り身につけてから、僕は指定された場所へと向かっています。  自分のものでない腕輪型通信機を、かちゃかちゃ調整しながら歩いていたときでした。 「こんばんは。いよいよ出陣ね、遠藤くん」  途中、星崎美沙さんと偶然会いました。学園トップの『治癒能力者』です。  それよりも僕は彼女の隣にいる、ライフルを担いだ男の人のほうに目が行きました。どこかで見たことのあるような顔ですが、まったく思い出せません。 「ひっどいなあ遠藤ちゃん! 俺だよ、体育委員長の・・・・・・」 「あー! あなたが体育委員長の討状之威さんですね!」  僕は本年度の役員一覧に載っていた、妙にチャラチャラしたロンゲを思い出しました。  逢洲等華さんが運転免許の写真でも撮っているかのような、とんでもない仏頂面をしていたのとは対照的に、この人は誰に向けているのかもわからない白い歯をニカッと見せていました。  恐らく特注と思われる、アホとしか言いようのないワインレッド一色の制服を着ています。こんなのが役員とは、学園は大丈夫なのでしょうか。 「遠藤くんは、こういった頭の軽い人は苦手そうよね」  頭が軽いとはなんだよぅ、と討状さんはふてくされます。美沙さんの言ったとおり、こういうタイプとは会話するのも疲れます。  それにしてもものすごい武装です。僕は銃器には全然詳しくありませんが、とんでもなく長いライフル銃を二丁持っていることはわかります。彼は狙撃手なのでしょうか? 「ま、戦いに出れば遠藤ちゃんもわかると思うよ。僕の強さ」 「そうね。この人に重火器持たせると、すごいことになるのよ?」  どうやら実力だけは美沙さんも一目置く学生のようです。 「遠藤くんのほうは準備万端? 覚悟は出来てる?」  僕はつい苦笑いをして、美沙さんに答えてしまいました。さすがの討状さんも呆れた様子で僕の顔をまじまじと見つめます。 「おいおーい。大丈夫なのかい? 北西部の指揮官さん?」 「まあまあ、無理もないわよ。この島にやってきて、数ヶ月足らずで指揮官なんて」  やれ、と言われたからにはやるしかないでしょう。僕もそのつもりです。学園が自信を持って選抜してくれたからにはやってやりますよ。くそったれ。  しかし、初めての実戦でまともな動きを期待されても困ります。やってみなければわからないのです。大丈夫なのかときかれても、自信を持って大丈夫ですとは言えないです。 「そういう場合はウソでも、大丈夫ですと言っておけばいいんだよ、遠藤ちゃん」  と、討状さんが僕に軽い口調で言いました。討状さんの言うこととはいえ、実際、そういうものなのかもしれません。 「自分の役割を一つ一つこなしていけば、何とかなるものよ。喫茶店で私が話したこと、よく思い出してね?」  討状さんが「え? 二人でお茶したの? どういう関係なの?」とニヤニヤしながら突っかかってきます。美沙さんは討状さんの茶化しを、笑顔でスルーしていました。  僕は美沙さんとの会話を思い起こします。 『治癒能力者』の僕には、戦場で傷ついた人を治す役割が自動的に与えられます。僕はその役割をきちんと果たしていけばいいのです。それができるかどうかが、今回の戦闘での重要なポイントとなります。  要は、いつもの訓練やラルヴァとの戦い通りにやればいいのです。これはパートナーのみくを欠いた戦いのようなものなのです。 「心配性の遠藤くんに、高等部二年生の有能なブレインを紹介するわ」 「え?」と、僕は美沙さんの顔を見上げます。  それはとてもありがたいことです。  大規模戦闘に慣れていない僕が小隊の指揮官なぞ、重圧で死んでしまいそうなところでした。高等部の人がサポートしてくれるのなら安心です。 「それは誰なんですか?」 「今、ちょうど来たところのようね。紹介するわ。・・・・・・舞華さん、こっちー!」  美沙さんが手を振った方向を見ると、僕よりもやや背の低い黒髪の女の子が立っていました。丁寧に前で組まれた両手に目が行きます。 「初めまして、遠藤さん。舞華風鈴と申します」  ぺこりと頭を下げた彼女に「よろしくね」と言おうとした瞬間、討状さんがビュンと俊敏な動きで前に出て、素早く彼女の手を取りました。 「やぁ、討状之威だよ舞華さん。頭良さそうでかわいいね、クラスはどこだい? 島のどこに住んでるんだい?」 「えぇ? やぁ、ちょっと、離してください!」  美沙さんはつかつかと討状さんの背後に近づくと、後頭部をゴチンと殴りました。  討状さんはその場でしゃがみこみ、殴られたところを押さえて悶絶しています。美沙さんは僕のほうを向くと、にっこり笑顔でこう言いました。 「このチャラ男はこういうところがあるからね。遠藤くんも、遠慮せずに殴っていいのよ?」  わかりました、覚えておきます。僕はそう答えました。  それから僕は舞華さんと一緒に車に乗り込み、持ち場である北西部へ向かいます。 「学園の北西部は、こういったラルヴァ強襲に備えてトーチカとなっています」 「トーチカ?」 「防御陣地のことです」  この双葉島はよく出来ていて、今回のような大規模戦闘に対応するためきちんと設計されています。僕もこの島にやってきてから数ヶ月経ちましたが、まったくそのようなことに気づきませんでした。  僕はこれから北西部にある陣地について、現場指揮を執ります。どうなることかと気が気でありませんでしたが、幸い、舞華風鈴さんはとても賢そうなので頼りにできそうです。 「遠藤さんがそんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。私たち二年生の力を見くびらないでください」 「なら、安心なのかな・・・・・・?」  これから戦地に赴くというのに、どうしてこの子はこんなにも落ち着いているのだろう。  美沙さんみたくどっしりと構えています。迫り来る恐怖や絶望との全面戦争を控えているようには見えません。さっきからあわあわしている僕が、なんだかマヌケです。 「へへ・・・・・・。数ヶ月前まで普通の暮らしをしていたのが、どうしてこんなことに」 「遠藤さんは・・・・・・そうでしたね。大学部から双葉島にいらっしゃったんですよね」 「うん。異能者とかラルヴァとか、まったく関係のない世界にいた」 「私も初めは、ラルヴァの存在なんて信じられませんでしたもの。遭遇することなんてないんじゃないかな、なんて思ってた」 「舞華さんが?」 「うん。日ごろの訓練はきちんと受けてたんだけど、実際に遭遇するまでは、どこか半信半疑だったわ」 「あんな化け物、常識から考えればありえないもんね」 「だから、あの人に怒られたのを私は今でも覚えてる」  舞華さんは目線を落として、昔を懐かしむような、含みのある笑顔をしてこう言いました。 『本当に命を賭けることになる戦場に立つ事になる、という意識の薄い者達とは肩を並べられない』  ドキッとしてしまいました。  さっきからこうして物怖じをしている僕が、怒られたようなきがしたから。  舞華さんもそういう過去があったんだなと思いました。彼女を叱ったのが誰なのかということは、きくだけ野暮というものでしょう。  やがて、車は北西部にある防衛陣地に到着しました。  僕らは大きな建物に入りました。北西地区ゲート・中央建物です。  北西地区は、まず化け物の侵入を防ぐ高い壁が目に付きます。ラルヴァどもと戦う高等部の生徒たちは、自分の装備の点検をしたり、準備運動をしたり、チームを組む人たちは事前の打ち合わせをしていたりと、それぞれ思い思いのひと時を過ごしています。  あともう数分も経ったら、ここに大勢の恐ろしいラルヴァたちが押し寄せてくるのです。火蓋は切って落とされ、ここ、最前線は戦火に包まれるのです。 「司令室」ではすでにたくさんの教員や一般生徒たちが配置に付き、通信機器を調整したり、作戦内容の再確認をしたりしていました。僕が入室すると、 「大学部・遠藤指揮官! 歓迎する!」  などと教員から大仰に言われてしまいました。  舞華さんは専用の電動車椅子に座ります。コンソール類の装備された、指揮官にふさわしい特製の大型車椅子です。  いよいよ、戦争が始まっちゃうんだなあ。  僕がぽつりと呟くと、舞華さんがこう言いました。 「でも、これが現実なんです」 「だよね。そろそろ僕も、ようやくのことで受け入れつつあるよ」 「それならよかった」  時計がちょうど22時の針を指したところです。時間まであと十五分。 《『ラルヴァ』と思しき群集の双葉地北西・北東区画より上陸を確認、総員第一級戦闘配置!》  腕輪型の通信機から聞こえる無線が、強い語気でそう言いました。  どんなに強気になっても、このずっしり圧し掛かってくるような、物々しいぴりぴりとした雰囲気にだけは、どうしても馴染むことはできません。  さあ、敵軍はいよいよ島に上陸してきました。今更、尻尾巻いて逃げ出すわけにはいきません。僕らとラルヴァとの戦いは始まったのです。  そんなとき、舞華さんは「歓迎しますよ」と言いました。  それは双葉島に侵攻してきたラルヴァどもに対して、呟かれたものでしょうか? 僕はその言葉の意味がわからなかったので、舞華さんのほうを向きます。 「ようこそ、遠藤さん。この底なしにイカれた世界へ」  賢そうな彼女らしくない、おどけた笑顔を僕に見せてくれました。       7 「22時00分49秒」 「来た・・・・・・。来たわ! とても多い! 多すぎる!」 「え? わかるんだ、舞華さん?」 「私の能力は大気流動で外界を認識することです」  僕は支給されたスターライトスコープ(暗視スコープですね)を手に取り、死んだように静かになった夜の街を覗きます。  僕の顔が真っ青になって、司令室がざわっとなったのと同時でした。 「どこの誰なのかしらね。攻めてくるラルヴァは100体で間違いないって言ってたの」  そう舞華さんが毒づいたのです。 「本当だ! 多い、多すぎるよ!」と、僕も大声で叫んでいました。  確かに歴史学部の教員たちは『100体』と言っていました。間違いないとまで断言していました。それなのに何でしょう。この数百体はくだらない、ラルヴァの大勢力は・・・・・・? 「敵軍は北西地区から600メートルの地点を進行中。姿かたちは人間っぽいので、デミヒューマンでしょう」  すらすらと舞華さんが敵軍の情報を述べるたび、司令室の教員はあわただしく動きました。殴り書きで記録する者、特定箇所へ電報を飛ばす者、通信機で直接学生たちに情報を伝える者。 「ふふふ、それにしても何よこの、あまりにも統率のとれたラルヴァたち・・・・・・?」  さすがの舞華さんも額に汗を滲ませて、苦笑いを浮かべています。  素人の僕にも、これから攻めてくる連中がいつものラルヴァとは比べ物にならないぐらい強くて、恐ろしいというのは理解できました。  双眼鏡で見て、慄然としました。奴らは数え切れないぐらいの大勢で進軍してきたのです。しかも、きれいな陣形を組んでいっせいに押し寄せてきます。  まるで一国の軍隊を相手にしているようです。ここまで知能の高くて大規模なラルヴァの攻め込みは、初めて見ました。単なる化け物ってレベルじゃないです。人類の脅威そのものです。 「とりあえず、これからどうすればいいの!」 「落ち着いて遠藤さん。作戦は『専守防衛』です。何としてでも彼らの侵入を阻止することです!」 「ここで食い止めろってことだね!」  僕はマイクに口を近づけました。  ここまできたらやってやるよ! 徹底的にやってやるよ! そんな強い気持ちで放送のスイッチをバチンと入れます。 「北西部の指揮を担当します、大学部の遠藤雅です!」  威勢よく、堂々と高等部二年生の生徒たちに話します。この司令室から指示を飛ばそうというわけです。うむ、なかなか指揮官っぽい仕事だぞ! 「ラルヴァの群集はあと500メートルにまで迫ってきています! 怪我は全て僕が治します! ここは総員、死力を尽くして何としてでも食い止めま・・・・・・」  と、力強くノリノリでしゃべっていたそのときでした。  ズドドドドドドドドドドドドと、とんでもない爆発音が炸裂したのです。 「ぎゃああああああ! 何? 何が起こったの舞華さぁん!」  マイクのスイッチが入っているのもすっかり忘れて、僕はパニックになりながら舞華さんのほうを向きました。彼女も驚いた様子で車椅子から身を乗り出し、司令室の窓から表を見ています。  ラルヴァの攻め込んできている地点が、めらめらと一面に真っ赤に燃えているのです。舞華さんは目を瞑り、連中の動きを感じ取ろうとします。 「進軍してくるラルヴァの群集に、いきなり攻撃が加えられたようね。空中から絨毯爆撃でも敢行されたかのような、痛烈な先制攻撃よ。いったい誰がこんなことを・・・・・・」 「過激な生徒もいるもんですね・・・・・・」と、僕らはあっけにとられていました。  目の覚めるような絨毯爆撃の直後、ついにここ、外郭施設の投光器の火が点ります。  強烈なライトが照らし出したのは、焼死した死骸を蹴散らすように突撃してくる、怒り狂ったラルヴァたちの光景でした。ギャーとかキシャーとかいう形容しがたい絶叫が、司令室にも届いています。うわぁ、連中すっげえ怒ってるよ・・・・・・。 「さあ北西地区、戦闘開始よ! 私たち高等部二年生の力を見せてやりましょう!」  舞華さんが声を張り上げて生徒たちを鼓舞します。僕なんかよりもよっぽどサマになってます。舞華さんがいれば僕、別にいらないんじゃね?  そして、双葉学園を非常事態にまで陥れた、謎の異形の姿が明るみになります。  シルエットは人間にそっくりです。生意気にもきれいな陣形まで組んで突っ込んできたほどです、知能は半端なく高いと思われます。カテゴリー・デミヒューマンと断言してよいでしょう。  しかし、ありえない皮膚の色をしています。体全体が緑色をしているのです。  顔がまた禍々しく恐ろしいもので、クチバシなんかが付いています。  自然発生した種というよりも、「人間」の何かこう、いじっちゃいけない箇所をいじってしまった結果生まれちゃったとんでもない生物兵器って感じがします。ええ、大昔に流行したホラーゲームに出てくるクリーチャーのような感じです。この想像が真実だとしたら、この現代日本は「倫理」の二文字なんて死んでいるようなもんです。 「そう、そんなに気持ち悪い顔をしているの」  と舞華さんが言いました。彼女は生まれつき目が悪いようなので、僕が伝えてあげました。 「全然聞いたことのないラルヴァね。緑人間とでも仮に呼びましょうか」 「何だろう、こいつらから感じられる恐怖は・・・・・・。薄気味悪いってレベルじゃない」  まず、知能がやたら高すぎる。ラルヴァというよりも、人間を兵器にしたものを相手にしているような気分です。  そして冷や汗の止まらない僕は、なんとなく舞華さんに言います。 「こいつら絶対に双葉学園に好きで攻め込んでるわけじゃないだろ。こんな戦闘に特化したとんでもないものを、誰かが学園に仕向けてるんだろ・・・・・・?」 「もしもそうだとしたら、恐ろしい話ね・・・・・・!」  舞華さんがそう言ったときには、もう双眼鏡など使わなくとも十分その姿がうかがえるところまで、奴らは接近していました。 「とうとう来やがった! 門に到達する!」  僕は叫びます。ついに、五体のラルヴァが北西部の防衛拠点に到達しました。  高等部の生徒たちが身構えて、連中を迎え撃とうとしたその瞬間。  ズドンと、真っ白で巨大な壁が構築されたのです! 門を塞いでしまいました! この防衛拠点を覆う壁よりも、ずっとずっと高くて分厚くて、強固な壁です! 「何だあれーーーーーー!」  僕はラルヴァなんかよりもそっちに驚愕していました。  どんな大津波も浸入を許さない、圧倒的な堤防です。あの白い壁は何だ? 誰が展開した? 「あれは氷・・・・・・? なるほど、わかったわ! 私のクラスメート『如月千鶴』さんです!」  二年B組、如月千鶴。舞華さんによれば、氷を操る異能者だそうです。  緑人間が門を突破しようとした瞬間、如月さんが「氷の壁」を構築したのです。真っ直ぐ突っ込んできたラルヴァたちは、氷の中に閉じ込められてしまったようです。 「前に訓練で見たことがあります。如月さんの作る氷の壁は、触れるとダメージを受けるの」 「HAHAHA、チートクラスだねぇ」  堂々と拠点に君臨する、真っ白に照らし出された氷の壁を唖然として見つめていました。すげー、高等部の生徒、ホントすげー・・・・・・。 「じゃあ、連中どうしようもないじゃないか?」  実際、強襲に身構えていた生徒たちですら、この壁のために役割を失って拍子抜けをしているようです。敵は壁によって侵入できない。壁を殴ったらダメージを受けてしまう。それでも強引に越えてくるようなことがあったら、今度は生徒たちの異能力が火を噴くことでしょう。  肩の力がすっと抜けました。如月さんとやらのおかげで、少なくとも北西部の戦いは楽な展開を見せそうです。戦場にいる彼らも棒立ちになっていて、笑顔すら見られます。  しかし舞華さんが立ち上がり、血相を変えてこう叫びました。 「だめ! みんな油断しちゃだめぇ! 上を見てぇ!」  僕ははっとして上空に目を移します。そして血の気が引いていきました。  上から来やがるぞという怒鳴り声で、ようやく現場も異変に気づいたようです。ぐいっとライトが夜空に向けられます。  生徒たちが見たものは、コウモリの翼を生やしたラルヴァの飛行編隊でした。 「空からも攻めてくるのかよ!」  瞠目して声を荒げました。まずい。敵はみんなの考えている以上に危険です。  よく目を凝らすと、飛行ラルヴァは何かを抱えていました。僕は慌てて双眼鏡を取り、それが何であるのかを調べます。  ・・・・・・たまらず両手の力が抜けて、僕は双眼鏡を落としてしまいました。 「遠藤さん、何があったの?」 「あいつら、緑人間を抱えてる・・・・・・」  それを聞いた舞華さんが、一瞬呆けたような表情を見せました。 「壁を越えられる! 敵が攻め込んでくる! みんな、警戒しろぉおおお!」  僕はマイク越しに、必死になって高等部のみんなに怒鳴りました。  正直、連中を見くびっていました。侮っていました。  コウモリラルヴァは緑ラルヴァを運んできては、ここの防衛拠点に投下していきました。何てことでしょう、軍人顔負けの立派な人海戦術です。  かくして、緑ラルヴァたちと高等部生とのバトルは始まりました。  爪の攻撃を避けながら持ち前の長剣で切り裂いたり、素手でぶん殴って潰したり。  おのおのがおのおののスタイルで、回転寿司のように次々と投入されてくるラルヴァを倒していきます。武器庫で武器をあさってきた一般人生徒――異能を持たない者たちは、思う存分対空射撃をしています。  なかでも、一人の異能者が圧巻でした。  その人は筋肉モリモリのガチムチな男子でした。緑人間をサンドバッグか何かと思っているのか、物騒な武器で何匹も殴り殺してしまいます。北西部の生徒のなかで、下手したら一番強いんじゃないかと思ってしまうぐらい、圧倒的な戦いぶりを周りに見せ付けています。 「さっきから緑人間をちぎっては投げてちぎっては投げてるあの人、誰か知ってる・・・・・・?」 「クラスメートの、三浦孝和くんです・・・・・・」  と、舞華さんは少々言いにくそうにして答えました。  三浦孝和。どこかで聞いた名前です。  うーんと首を捻りながら、その名を思い出そうとしていたときでした。司令室のドアが開いたのです。 「二年生じゃちょいと名の知れた女ったらしだな。ついこの前も女子更衣室に飛び込んで、職員室から呼び出しの放送がかかったぐらいだ」  そう、突如としてこの場に現れた、高等部の男子生徒が言いました。 「あれ、君は誰だい?」と僕がきくと、舞華さんがにっこりとしながら紹介してくれました。 「『唐橋悠斗』くん。私の指示で、これからはこの部屋に待機してもらうことにしたの」 「特に戦わなくていいのなら、それにこしたことはない。畜生、この学園に来てしまったせいで、こんな戦争まがいの大騒動に巻き込まれるとはな・・・・・・」 「こら、そんなこと言わないの! 唐橋くん!」  舞華さんが彼をたしなめます。しかし僕は彼に近づいて、同情の眼差しを向けました。 「まったくだ・・・・・・。異能者やらラルヴァやら、この学園に来てからよくわからないことだらけだよ。もういい加減お家に帰って寝たいよ・・・・・・!」 「あんたも平凡あがりの異能者か。あんたとは話がわかるな。まあ、ここは大人しく巻き込まれておくしかねえよ。クソ、いったい何なんだよ・・・・・・!」  やれやれ、と舞華さんがため息をついたのが聞えます。  それにしても唐橋くんとは何者なのだろう。  この司令室に彼を配置した、舞華さんの狙いは何だろう。  そのとき、ガラスが何度も割れる音が司令室に聞えてきました。僕は「何が起こったの!」と叫びながら、おろおろ慌てふためきます。 「あの空を飛んでるヤツが、歩兵ラルヴァを建物めがけて投下しているんだ」 「どうやらこの建物が狙いのようですね」  舞華さんは眼鏡をかちゃりと動かします。つまり、緑人間を直接この建物に攻め込ませて、北西部を制圧しにきているということなのでしょう。 「誰か戦える生徒はこの建物にいるの?」 「ええ、数人が防衛に回っています。今ちょうど、建物内でも戦闘が始まりましたね」  と、舞華さんが感覚を研ぎ澄ませながら言いました。彼女はなおも僕らに言います。 「連中は絶対にこの司令室には近づくことはできません。対策を打ってありますので」 「ああ、なるほど。それで俺がこの部屋に呼ばれたってわけか」  僕には何の話かまったく見えません。とにかく、ここにいるぶんには安全だということでしょう。       8 「22時43分」  ジジジ、というノイズが聞えました。僕らが着けている腕輪型通信機からでした。 「北西地区司令室、聞えますか?」 「はい、司令室です。どうぞ」  現場から無線が流れてきました。インカムを装着した教員たちが、真剣な表情で戦場からの声に応答します。 「一部地域でけが人が数名出ています。遠藤さんの『治癒』を要求します」  僕の心臓が跳ねました。とうとう、この時が来てしまったか・・・・・・。  如月さんの構築した『氷壁』は絶大な効果をもたらしています。もしもこの壁がなかったら、倍以上の数のラルヴァに攻められていたところでしょう。  しかしいたる箇所で、コウモリラルヴァによって投下された個体との戦闘が発生しています。緑人間そのものは並みではない戦闘力を持っていますので、ところどころ苦戦している場所があるようなのです。  書類を教員から受け取った舞華さんは、口頭で僕にこう伝えました。 「遠藤さん、出番です! 怪我人を治療してきてください! 現場はここからやや南下したところです!」 「わかったよ。やるよ。何人でも回復させてやるよ!」  階下では、ラルヴァの侵入を防ぐための激しい戦いが行われています。  みくがこの場にいない今、戦闘においては、僕は無力も同然です。緑人間に遭遇しないことを祈りながら、僕は司令室を後にしました。  建物の一室にて、一人の少女が緑人間に囲まれていました。 「およよ」  やたら背の高いその子はでっかいバスケットを抱えて、立ち尽くしていました。 「何か囲まれちゃったねー、シロー」 「キュルキュー?」  彼女の足元にいる、手足の生えた白い饅頭(?)が鳴いて応えます。  二人は薄暗い部屋のど真ん中にいます。その周りを、緑ラルヴァが二十匹ぐらい囲んでいます。極上に絶望的な状況下です。  緑ラルヴァの一匹が、太くて鋭い爪を露出させて彼女に切りかかりました。  襲われた少女はバスケットを落としてしまいました。ガタンとバスケットのふたが吹っ飛びます。中から溢れてきたのは、白いお米・・・・・・たくさんのおにぎりでした。  ぐちゃぐちゃに粉々に散らかされたおにぎりを、金髪の少女はがたがた震えながら見下ろしています。 「わたしの・・・・・・」 「キュー・・・・・・」 「わたしのぉ・・・・・・!」 「キュキュキュー・・・・・・!」 「ごはぁぁぁぁぁぁんんん・・・・・・・・・・・・!」 「キューーーーーー!」  両膝両手の順に床に崩れ落ち、少女は小刻みに震えます。とても悲しそうです。  哀れな少女をよそに、緑人間たちは機嫌がいいのか、気味の悪い鳴き声を出して、歌って、彼女を嘲り笑っています。  そして、少女は泣くのを止めました。 「いくよ・・・・・・」 「・・・・・・キュ」  少女がゆらりと立ち上がります。ラルヴァたちは一斉に黙りました。空気の変化を敏感に察知したのでしょう。  部屋に降りてきた一瞬の沈黙ののち、死刑宣告はなされました。 「我、命ず」 「キュ・・・・・・」 「殲 滅 せ よ !」 「キュオ・・・・・・・・・・・・グォォォオオオオオオオオオオオオ!」  まず少女に一番近い位置で囲んでいた緑人間たちが、ボスンと爆発しました。頭部が風船玉のようにはじけ飛んだのです。  そして白い饅頭は咆哮を終えると、とんでもない生命体に変化していました。屈強な体、人間の肉体などあっさり裂いてしまえそうな爪、牙。  どっしどっしと、緑人間たちへ俊敏に詰め寄り、集団をまるごと大きな手でなぎ払いました。敵は爪によって一気にバラバラに切り裂かれながら、汚い血や内臓を部屋のあちらこちらに撒き散らしていきます。  その強さを恐れた緑人間たちが、今度は無力そうな少女を襲います。残された全員が、四方八方から飛び掛ります。  しかし、それで全てが終わってしまいました。  緑人間はみんな少女に触れることすらできず、空中でボンと散ってしまいました。ぼたぼたと肉塊が彼女の周りに降り注ぎ、汚い肉の輪を描いていきます。  そんな想像を絶する光景に、僕は道すがら出会ってしまったのです。 「この学園の生徒って、ほんととんでもないのばかりだ・・・・・・」  そうしてこっそり覗いていたとき、血塗れた少女と目が合ってしまいました。僕はもう何度目なのかもわからない、心臓が跳ねた音を聞きました。  少女は表現のしづらい、ものすごい目をしていました。キレイなはずの青い目が、どす黒い渦を巻いていたのです。  私のごはん・・・・・・、私のごはん・・・・・・! 瞳がそう慟哭を上げています。  悲しんでいる人を放っておけません。僕は(恐る恐る)部屋に入りました。 「・・・・・・おにぎり、もったいないよね」  僕はそう言って彼女に近づきます。少女は目をぱちぱちさせて、散らばったお米に両手をかざしている僕を見下ろしていました。  このおにぎりが、もの姿を取り戻せますように。ほかほかでふっくら作りたてのおにぎりに、その姿を取り戻せますように・・・・・・。  何かマヌケなことを必死こいて念じていますが、僕はいたって真面目です。真剣です。両腕が温かくなります。その温もりを、百パーセントコシヒカリに分け与えるようにして、僕は『治癒』を行使します。  バスケットごと、ぴかっと眩しく光りました。薄暗い部屋が白い光に包まれます。 「わあ・・・・・・」  彼女は瞳をきらきらさせました。当然でしょう、おにぎりが全部もとにもどって、バスケットに詰まっているのだから。 「私の・・・・・・私のごはん!」 「キュキュキューーーー!」  バスケットに抱きつき、いつのまにか白饅頭に戻っていたペット(?)と共に喜んでいます。  バスケットにたぷんと乗っかった、でっかいおっぱい。  よかった。本当によかった――。  僕はそれを優しい紳士の微笑で見つめてから、本来の目的のために戦線へと躍り出ていきました。おっぱいを見てものすごい元気が出ました。緑ラルヴァ程度なら、今の僕なら爽やかに殴って倒せそうです。  こういうことにいちいち『治癒』を使ってしまうあたり、僕は美沙さんと大違いのバカヒーラーです・・・・・・。  ほんの少しだけ、体が右にふらついてしまいました。  いつもよりも力の消費が激しかったようだと、僕はそのとき思い込んでいました。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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