【MPE プロローグ】

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  マージナリープリンセスE    プロローグ  追い詰められても後ろを振り向くことはなかった。  滑らかな金髪が乱れ、白いセーラーにまとわりついている。街灯の下を通過したとき、左手から下げている黒の学生鞄と金髪をまとめる赤いリボンが色彩を帯びて横切った。中身の教科書が激しく揺さぶられる硬い物音と、必死なか弱い少女の呼吸だけが暗黒の夜道ではよく聞えた。 「逃げても無駄だよ。おとなしくするんだ・・・・・・」  耳元でささやかれているような優しい声。しかしそれは少女にとって尋常でない不快感をもたらした。まるで自分の横たわるベッドにずけずけと入られて、ぴったり背中に張り付かれてささやかれたような、生理的な反応。  彼女はこの声の持ち主から逃げ続けていた。捕らわれたら命は無いことはわかっていた。強く気持ちを持って、とある誇りを持って前を向き、一心不乱に夜を駆けるのみ。 「そこまでよぅ」  あっ、とその足を止めた。うっすらと闇に浮かぶ、白衣姿の女性。すかさず後ろを振り返り、夏服の薄いプリーツスカートを翻した。 「観念するんだ・・・・・・」  ところがまたも道をふさがれてしまった。耳障りな声の持ち主だ。それは男性のものとも女性のものともとれない、中間の性質を持った特長のないささやき声だった。  この嫌な奴はこう言ってのけた。それは金髪の中学生を驚愕に値させるものだった。 「小野セリア。中学三年生の十五歳。・・・・・・能力は『ハンドドライヤー』。手のひらからささやかな温風をかける力」  何ということだろう。この連中は自分の正体を知った上で襲ってきているのだ。  普通の学校に通い、普通の学生として生きている自分を、だ。  セリアは逃亡を止めて、じっとその場に留まる。そしてついに敵に対して口を開く。 「私が『異能者』だってこと、知ってるのね」 「異能者だからこそ、君が欲しい」  第三の声にびくっと驚き、その方向を見る。白衣の女性のいる、さらに奥のほうからだ。  そのとき暗闇から真紅の薔薇が咲いた。  日本人離れした赤いドレスに赤い髪、そして自分を捕らえる赤い瞳。紅、赤、朱。執拗なぐらいに真っ赤に染まった女性が登場したのだ。 「何者?」努めて冷静な口調で、セリアは問う。「どういうつもりなのです? こうやって私を――はうっ」  バキンという、後頭部がはじけて飛んだような衝撃。両膝の力が抜けてがくんと折れ曲がり、セリアは漆黒のアスファルトに崩れ落ちた。  すかさず背後から嫌みったらしいささやき声の人物がセリアを抑えにかかる。凶暴ともいえる乱暴な扱いでセリアの頬を地面に押し付け、容赦なく全体重をかけてつぶしてくる。そのような光景を見下ろしつつ、真紅の女性はにやにやと悲痛な喘ぎ声を楽しんでいる。 「どうしてこんなことを・・・・・!」  頭部を圧迫されつつ、セリアはそう言った。彼女は確かに異能者であるが、異能の内容からして戦闘や荒事を好むタイプでない。むしろ無害で無力なごく普通の中学生少女だといえた。そんなごく普通である自分自身が、このような者たちに乱暴される理由が、彼女には全くといっていいぐらいわからない。「なぜこんな目に合わなければならないのだ」と。 「『異能者』だからこそ、君が欲しいんだ」  同じ発言を再び耳にし、ますますセリアは混乱する。間違いなく言えることは、もはやこれまでということだった。だからなりふり構わず暴れて抵抗に出るが、ぐいっと顔を向けられて――。 「静かにするんだ」  顔立ちの整った銀髪の美青年が浮かび上がったと思ったら、視界が真横に跳ね飛んでしまった。殴られたのだ。  ぐるぐると目が回る。気づいたら路上に倒れていた。このようなことをされてひどく泣き喚きたい気持ちでたまらないが、何はともあれ拘束から解き放たれたのだ。何とか立ち上がって再び逃げようとしたときだ。  抱きしめられたのだ。誰に? 赤いドレスに。  これが、小野セリアの最後の記憶となる。 「君が欲しいんだ」  きゅん、という何かが一気に飛び出してきたような音。一体となったドレスの女性とセリアが、ひときわ強い発光を見せたのだ。  そしてもう、小野セリアの顔や瞳に色はなかった。何もかもが真っ白だった。全身の皮膚が、何よりも美しかった金髪が。何もかもが、古から続く干からびた史跡のように、彼女は枯れ果てた状態で前のめりに倒れた。 「どうだ、エリザベート。まだ足りないか?」 「足りない」  はっきりと、エリザベートと呼ばれた女性はそう答えた。 「全然足りない! もっとだ! もっと必要だ!」 「ま、こうしていく他ないだろう」  と、銀髪の青年はため息混じりに言った。ズボンのポケットに両手を入れて、満月をぼんやり眺めながら。  エリザベートは「はがゆい」と呟いてから、白衣姿の若い女にこうきいた。 「抜け殻は・・・・・・シホ。お前が使うか」 「ええ、もちろんです! 有効に使わせていただきます!」  両手をぽんと合わせて彼女は大きな喜びを見せる。茶色みのある長めのロングヘアーが、白衣を背にして左右に揺れる。  そんな彼女の足元では、真っ白に干からびたセリアが転がっている。何か「魂」を根こそぎ抜き取られたかのように、彼女は動かない。かっと開かれた両方の眼球も、微動たりしない。  街灯の明かりに照らされて、赤いリボンのみが変わらぬ艶と色合いを保っていた。 「そう、有効にねぇ」  白衣の女はにたりと微笑んでそう言った。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
   プロローグ  追い詰められても後ろを振り向くことはなかった。  滑らかな金髪が乱れ、白いセーラーにまとわりついている。街灯の下を通過したとき、左手から下げている黒の学生鞄と金髪をまとめる赤いリボンが色彩を帯びて横切った。中身の教科書が激しく揺さぶられる硬い物音と、必死なか弱い少女の呼吸だけが暗黒の夜道ではよく聞えた。 「逃げても無駄だよ。おとなしくするんだ・・・・・・」  耳元でささやかれているような優しい声。しかしそれは少女にとって尋常でない不快感をもたらした。まるで自分の横たわるベッドにずけずけと入られて、ぴったり背中に張り付かれてささやかれたような、生理的な反応。  彼女はこの声の持ち主から逃げ続けていた。捕らわれたら命は無いことはわかっていた。強く気持ちを持って、とある誇りを持って前を向き、一心不乱に夜を駆けるのみ。 「そこまでよぅ」  あっ、とその足を止めた。うっすらと闇に浮かぶ、白衣姿の女性。すかさず後ろを振り返り、夏服の薄いプリーツスカートを翻した。 「観念するんだ・・・・・・」  ところがまたも道をふさがれてしまった。耳障りな声の持ち主だ。それは男性のものとも女性のものともとれない、中間の性質を持った特長のないささやき声だった。  この嫌な奴はこう言ってのけた。それは金髪の中学生を驚愕に値させるものだった。 「小野セリア。中学三年生の十五歳。・・・・・・能力は『ハンドドライヤー』。手のひらからささやかな温風をかける力」  何ということだろう。この連中は自分の正体を知った上で襲ってきているのだ。  普通の学校に通い、普通の学生として生きている自分を、だ。  セリアは逃亡を止めて、じっとその場に留まる。そしてついに敵に対して口を開く。 「私が『異能者』だってこと、知ってるのね」 「異能者だからこそ、君が欲しい」  第三の声にびくっと驚き、その方向を見る。白衣の女性のいる、さらに奥のほうからだ。  そのとき暗闇から真紅の薔薇が咲いた。  日本人離れした赤いドレスに赤い髪、そして自分を捕らえる赤い瞳。紅、赤、朱。執拗なぐらいに真っ赤に染まった女性が登場したのだ。 「何者?」努めて冷静な口調で、セリアは問う。「どういうつもりなのです? こうやって私を――はうっ」  バキンという、後頭部がはじけて飛んだような衝撃。両膝の力が抜けてがくんと折れ曲がり、セリアは漆黒のアスファルトに崩れ落ちた。  すかさず背後から嫌みったらしいささやき声の人物がセリアを抑えにかかる。凶暴ともいえる乱暴な扱いでセリアの頬を地面に押し付け、容赦なく全体重をかけてつぶしてくる。そのような光景を見下ろしつつ、真紅の女性はにやにやと悲痛な喘ぎ声を楽しんでいる。 「どうしてこんなことを・・・・・!」  頭部を圧迫されつつ、セリアはそう言った。彼女は確かに異能者であるが、異能の内容からして戦闘や荒事を好むタイプでない。むしろ無害で無力なごく普通の中学生少女だといえた。そんなごく普通である自分自身が、このような者たちに乱暴される理由が、彼女には全くといっていいぐらいわからない。「なぜこんな目に合わなければならないのだ」と。 「『異能者』だからこそ、君が欲しいんだ」  同じ発言を再び耳にし、ますますセリアは混乱する。間違いなく言えることは、もはやこれまでということだった。だからなりふり構わず暴れて抵抗に出るが、ぐいっと顔を向けられて――。 「静かにするんだ」  顔立ちの整った銀髪の美青年が浮かび上がったと思ったら、視界が真横に跳ね飛んでしまった。殴られたのだ。  ぐるぐると目が回る。気づいたら路上に倒れていた。このようなことをされてひどく泣き喚きたい気持ちでたまらないが、何はともあれ拘束から解き放たれたのだ。何とか立ち上がって再び逃げようとしたときだ。  抱きしめられたのだ。誰に? 赤いドレスに。  これが、小野セリアの最後の記憶となる。 「君が欲しいんだ」  きゅん、という何かが一気に飛び出してきたような音。一体となったドレスの女性とセリアが、ひときわ強い発光を見せたのだ。  そしてもう、小野セリアの顔や瞳に色はなかった。何もかもが真っ白だった。全身の皮膚が、何よりも美しかった金髪が。何もかもが、古から続く干からびた史跡のように、彼女は枯れ果てた状態で前のめりに倒れた。 「どうだ、エリザベート。まだ足りないか?」 「足りない」  はっきりと、エリザベートと呼ばれた女性はそう答えた。 「全然足りない! もっとだ! もっと必要だ!」 「ま、こうしていく他ないだろう」  と、銀髪の青年はため息混じりに言った。ズボンのポケットに両手を入れて、満月をぼんやり眺めながら。  エリザベートは「はがゆい」と呟いてから、白衣姿の若い女にこうきいた。 「抜け殻は・・・・・・シホ。お前が使うか」 「ええ、もちろんです! 有効に使わせていただきます!」  両手をぽんと合わせて彼女は大きな喜びを見せる。茶色みのある長めのロングヘアーが、白衣を背にして左右に揺れる。  そんな彼女の足元では、真っ白に干からびたセリアが転がっている。何か「魂」を根こそぎ抜き取られたかのように、彼女は動かない。かっと開かれた両方の眼球も、微動たりしない。  街灯の明かりに照らされて、赤いリボンのみが変わらぬ艶と色合いを保っていた。 「そう、有効にねぇ」  白衣の女はにたりと微笑んでそう言った。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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