【金色蜘蛛と聖夜の空】


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「ケェアアアアアアアアアアアア!!」
 怪鳥が絶叫をあげる。
 その声の残響は、まるで七羽の鳥が同時に叫ぶかのようだ。
 いや――実際に、そうであった。その巨大な、全長十メートルはあろうかという鳥は、首が七つあったのだ。
 七色の鶏冠を持つ鳥。その各々の首が、それぞれの力を放つ。
 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、それぞれの色と属性を持つ魂源力の閃光が少年に向かって襲い掛かる。森の木々を焼き、放たれる。
「遅いッ!」
 野球帽をかぶった少年、鋭斗はその悉くを、木の幹を蹴りながら跳躍し、まさしく獣のごとき柔軟な身のこなしでかわしていく。
「しゃあっ!」
 爪がうなり、鳥の体を穿つ。だが、幾重にも折り重なった羽毛が鎧となり、爪の威力を殺ぐ。鋭斗の爪は鳥の肉へと到達しない。そして巨大な、翼というよりはもはや巨腕と読んでさしつかえないその翼が拳を握り、鋭斗を殴りつける。
「がはあっ!」
 木っ端のように吹き飛ぶ鋭斗の小柄な体。
 だが、鋭斗は倒れない。歯を食いしばり立ち上がる。その小柄な体で、巨鳥を見上げる。
「必ず……必ず持って帰るんだ。己は、約束したんだ!」
 思い出すのは、双葉学園で交わした約束。あの地でボロボロになった自分に初めて優しくしてくれた少女、人ではない自分を友達と呼んでくれた少女とのかけがえの無い約束なのだ。
『鋭斗くん、七面鳥を買ってきてね』
 笑顔の有紀の言葉が思い出される。その言葉が鋭斗の小さな胸に火を灯す。
 頼まれた。託された。認められた。戦士として、狩人として。
 だから!
「己は必ず……七面鳥を狩って帰る!」
 ラルヴァ、七面鳥。文字通り、七つの面を、首を持つ巨大な鳥のラルヴァ。
 友との約束。狼は、それを決して違えない。己の誇りに懸けて。友との信頼に懸けて。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 鋭斗は吼える。狼は吼える。
 そして巨大な敵に立ち向かっていく。獲物ではない。獲物というにはあまりにも強大で、雄大な森の王者だ。だがそれでも鋭斗は怯まない。鋭斗は跳躍し、七面鳥へと立ち向かった。





 金色蜘蛛と聖夜の空





「グモォオオオオオオオオオ!!」
 巨大な牛の雄たけびが荒野に響く。
 眼前にあるのは、全長五メートルはあろうかという巨体。黒い牛の頭部に張り付いた人面が凶気をやどして叫ぶ。
『序列二十一番目の魔神、モラクス……ミノタウロスや魔王モロクとも同一視される強大な固体だ』
 逢馬空の影から声が響く。黄金の蜘蛛、バアルの欠片、悪魔ゴルトシュピーネ。
 空と魂を共有し生かしているラルヴァ。二人三脚の悪魔と異能者である彼らは、その力でラルヴァと、そして悪魔と戦う。この日もまた、彼らは悪魔と戦っていた。目的がある。果たさねばならない使命がある。その為にもどうしてもこの悪魔を倒さねばならない。
 空の脳裏に、約束が思い出される。
『逢馬くん、牛乳買ってきてね』
 それは委員長との約束。クラス会のクリスマスパーティーで、案の定スルーされかけた空を誘った有紀の、空への頼みだった。
 それは絆だ。違えるわけにはいかない。ケーキを作るための材料だ。必要にして不可欠だ。
 だが、スーパーで牛乳が品切れだった。
 ないならどうする? そう、牛から直接とればいい。双葉学園島の牧場地区に牛乳を取りに行った空はそこで遭遇する。
 牛の悪魔。マラクスと。
 マラクスは牛だ。ならば目的は一致する。
 マラクスを倒し、その力を手に入れ、統べる。そうすれば最上級の牛乳が手に入るだろう。完璧だ。
 だから――逢馬空は戦わねばならない。
「いくぞ、ゴルトシュピーネ!」
『おう!』
 叫びながら、答えながら、しかしゴルトシュピーネは思う。
(アレ、雄牛だよなあ……?)
 どこからどう見ても雄牛の悪魔だった。そして雄牛はミルクを出さない。だって雄だから。
(……まあ、いいか)
 ここで空気を読まずに口出ししても意味が無い。駄目だったらまた別の方法で牛乳を探せばいいだけだ。 
 そして、黄金の影が実体化する。
 バアルの鎧。東の王、序列第一位の魔王の力の欠片をその身に纏う。
「さあ、支配を始めようか」
 王の言葉が、宣言された。





 大地を覆う緑の触手に、浅羽鍔姫は襲われる。
 だが、その触手はもろい。人間にも、小学生にも引きちぎれる程度の強度だ。なぜならそれはただの蔦植物に過ぎない。意志を持ち、近づくものを襲うからとて、大した脅威ではない。
 だが、量が違っていた。とにかく大量だった。三本の矢の故事ではないが、この物量攻撃は流石にやっかいだ。
 しかも、鍔姫はただの一般生徒。かつて悪魔をその身に宿していた時の様に、怒りのままに敵を焼く炎を出せたなら違っていただろう。だが、今の鍔姫は普通の人間だ。
 そんな彼女が触手に襲われる理由……いや、正しくは襲われたというより、むしろ鍔姫が襲ったほうである。
 クラス会のクリスマスパーティー。
 その準備。
『鍔姫ちゃん、苺を買ってきてね』
 ケーキのための苺。これは絶対に外せない。その苺の買出しを頼まれたのだ。 
 どうせなら新鮮な苺がいい、と双葉学園農業地区にいって――鍔姫は見た。
 ビニールハウスが潰されようとしている。巨大な蔦――苺の蔦だ。
「私だって……」
 木刀を握る。
 相手はただの植物だ。これは習ったことがある、ただの下級ラルヴァ。一般人でも対処できるはずだ。
 戦う。戦わないといけない。友達が、親友が自分を頼ってくれた。
 だから剣を握るのだ。たとえ自分が異能者でなくても、それでも。戦う。そうじゃないと、自分の魂を削ってまで戦っている空の……彼の力になりたいだなんて、情けなくて言えない。
「許さない」
 口にする。彼女の魂に根ざす、ある種禁忌にも似た言葉。感情の発露。それをどこぞの似非神父は、原罪と読んだか。
 それをあえて口にする。意志を固める。カタチにして、方向を持たせる。
「邪魔を……するなっ!」
 そして、浅羽鍔姫は木刀を振り上げ、苺の群れへと飛びこんだ。





 埠頭のコンテナで大爆発がおこる。
「エホッ、ゴホッ! っつぁー、ガッデム!」
 修道服に袈裟をかけた、怪しげな風貌の男が咳き込む。周囲は霧で包まれている……いや、正確にはそれは霧ではない。
 空気中を漂う、小麦粉だ。
 対峙する敵の能力は「小麦粉使い」である。なんかとまあ、妙な相手と戦う羽目になったものだ。
 こうなった理由は……
『秋葉さん、小麦粉買ってきてください』
 クラスのクリスマスパーティーの買出しを頼まれた。直接関係ないけどまあいいや、と請け負ったが……それがなんでこうなったのか。答えは簡単、小麦粉が買い占められていた。小麦粉使いによって。
 そして、仕方ないから分けてもらおうと交渉しに行った結果、決裂して戦闘になったのだ。
「つか、最近の連中は短気だねぇ」
 敵の攻撃は、粉塵爆発。小麦粉を燃焼させる粉塵爆発は、本来は大した利便性をもたない。
 敵も味方も吹き飛ばすからだ。だが、その小麦粉の燃焼に指向性を持たせる異能者が存在したなら……
 自在に操れる粉塵爆発。それは強大な兵器となる。
(だからって、買占めとかするかねぇ)
 ジョージ秋葉は苦笑する。まったくもってついてない。
 これだから、異能者という連中は手に負えないと苦笑する。うっちゃって逃げても別にかまわない。かまわないのだが……
「やっぱり、約束やぶりはいただけないからねぇ、オウシット」
 頼まれたのだ。有紀に、小麦粉を買ってきてくれと。軽い気持ちで引き受けたが……だからこそその約束は敗れない。
 大人同士の約束なら、状況が変わったことを理由にいくらでも反故に出来る。それが大人の世界というものだ。相手に状況の推移、リスクを伝えて納得させればいい。
 だが相手は子供だ。単純に大人を頼っている。それが軽い気持ちであろうとも、大人は子供を裏切ってはいけない。裏切る大人は多い。だが、だからこそジョージは裏切らない。これはビジネスではないのだから。それに……
「人を裏切るものは裏切られる。HA、僕には一番キツいからねぇ、それ」
 借り物の魔法使い。誇り高き偽者。無能者でありながら、ただの人間に使えるレベルの魔術武器を駆使し、手品とハッタリ、小手先の戦闘技術。そして……ラルヴァや異能者の力を借りて戦う、一人では何も出来ない男。
 だからこそ、ジョージは他人に感謝する。だからこそ、裏切らない。
「HA――! それがアダルティーってモンでしょうが……!」
 ジョージは身を躍らせる。次々と局所的な粉塵爆発が起こり、ジョージを襲う。それをかいくぐりながら走る。
「ていうか、食べもの粗末にすんじゃねぇ! バッドすぎんぞてめぇ――!!」



 他にも、クリスマスツリー用の飾り、もみの樹、サンタ服、など……様々なものが必要となり、有紀はそれをクラスの友達に頼んだ。
 それが、それぞれの険しくつらい戦い、冒険、物語となったことは……ここでは別の話である。故に、上記の一部のみを語るだけで割愛しよう。
 双葉学園のこの時期に起きた多くの物語の、ほんの一部でしかないのだから。




「みんな、お疲れ様」
 くじを勝ち抜いて借り切った家庭科室のひとつ。そこでエプロン姿の女生徒たちがみんなを迎える。
「……うわ、どうしたのその姿」
 有紀が目を丸くする。みんなけっこうなボロボロの姿だった。
「いや、この時期って色々とあわただしいからなあ」
 空が言う。なるほど確かにクリスマス商戦は大変だ。本当に変身できるおもちゃを巡って謎の企業と戦いを繰り広げる変身ヒーローだっているだろうし。
「大変だったんだね。まあこの時期はそんなに特別なことじゃないしね」
「これが特別じゃないんなら私ゃ生きていけるか不安よ」
 鍔姫が苺をたくさんいれた袋を机に置く。
 ずいぶんと大変な目にあった。特にあまり人に言いたくない目にも。周囲に人気がなかったのがある意味は幸いであったが。
 というか二度と触手はゴメンだと鍔姫は思った。

「じゃあ買出し部隊のみなさんは休憩しててね。私達があとは頑張るから。家に帰ってもいいよー、パーティー夜からだし」
 有紀が言う。
 その言葉に、疲れた買出し部隊の人たちは机に突っ伏したり、床に座ったりして一息つく。あまり疲労や負傷のない男子は、手伝いを申し出たりもした。
 それを見て、鍔姫は言う。
「ねえ空も手伝……っていないし!」
 逢馬空は、帰っていいと言われたらすぐに家庭科室を出て行ったのだ。
「……こういう場合は、うん手伝うよとか言うもんでしょーに……」
「一緒に飾りつけとかしたかった?」
 有紀が鍔姫に言う。
「うん、こう手が届かないところに、俺がやるよ、とかいって、手が重なって……って何言わすんじゃコラー!」
 鍔姫は絶叫した。







 空は屋敷に帰る。この大きな洋館は、正しくは空の持ち物ではない。
 逢馬空の使い魔である吸血鬼、シュネー・エーデルシュタインの持ち物だ。
「ただいま」
 きしむ扉をあけ、屋敷に入る。
 屋敷のロビーに霧が出る。霧……というよりはきらきらと輝く微細な氷の粒。それらが凝結し、人の姿を取る。
「……」
 無言で空を出迎えるのは、シュネーだ。
「ふう、疲れた」
『楽勝だったがな』
 影から出てきたゴルトシュピーネが壁を這い回る。
『ほらよ』
 棚から小さなガラス瓶を取り出し、空へと向かって投げる。空はそれを受け取る。
『ちゃんと飲んどけよ』
「ああ」
 ふたを開け、一気に流し込む。
「まずい」
『良薬口に苦し、って奴だな』
 そう言って、ゴルトシュピーネは二階へと這いずる。
「苦くなくて効く薬が一番だよ」
 そうぼやく空からシュネーは空の薬瓶を受け取り、片付ける。
「……そうだ、夕方からクリスマス会だけど」
 空の言葉に、シュネーは頷く。シュネーは、クラスの一員だ。だが、昼間の買出しは吸血鬼の肌にあまりよくない。そんな理由でシュネーは手伝いを断った。だからシュネーは、自分に参加する権利はないと思っていた。故に、次の言葉に驚く。
「お前も行くだろ?」
「……」
 空は平然と、それが当然かのように言う。
「私も……行っていいんですか?」
 シュネーは小さな声で、おずおずと聞く。
「……私が行かなかったせいで、貴方が」
 手に触れる。
 傷だらけだ。悪魔マラクスとの戦いで、空はかなりの手傷を追った。
 服に隠れている部分は特にだ。すぐに家に帰ったのは、傷の手当てをする必要があったからである。影での止血だけでは、とうてい足り無かった。宝石のラヴィーネ、その遺産の中にはよく聞く魔法薬も多くある。それで手当てすることでどうにか体は持っている。
「……使い魔、失格……」
 シュネーは自分を責める。
 もし自分が傍に居れば、この傷は負わなかっただろう。
 空の手を両手でそっと掴み、シュネーは自分の頬に当てる。
「……」
 空は黙って、その手でシュネーの頬をなでる。
「気にするなよ。使い魔だのどうだの言ってこだわってるのはゴルトの方だし、僕はまあそんなの特にどうだっていいし」
 ゴルトシュピーネが聞いたらまたうるさく喚くだろう台詞を空は言う。
「お前が居るから、助かった」
「え……」
「お前がいなきゃ、ここの薬とか使えなかったし」
「……」
 確かに、真祖ラヴィーネの継嗣であるシュネーがいなければ、そもそもこの屋敷、ここにある魔法薬のすべては空は触れることすら出来ないものだ。
「?」
「……」
 デリカシーの欠片も無い空の言葉に、しかしシュネーは薄く微笑む。こくこくと首を縦に振り、空の手を握る。
「じゃ、そういうことで。とりあえず僕は仮眠しておく、流石に疲れたし」
 そう言って、空は自分の寝室へと戻った。


 日が暮れる。
 夜になる。
「そろそろか、じゃあ行こうか」
 空とシュネーは屋敷を出る。
「……寒っ」
 外はすっかり冷え込んでいた。
 身を縮めて歩く空。その後ろから、ふわりとした暖かなものが首に巻かれる。
 それは、毛糸のマフラーだった。
「……シュネー?」
「クリスマス……プレゼント」
「僕に?」
 シュネーが昼間にクラス会の準備を断ったのは、これを作るためだったのだ。夜に間に合わせるために。
『あー、委員長に教わってたのソレかい』
 ここ数日、有紀と何か話していたのをゴルトシュピーネは見ていた。盗み聞きは性に合わないので深く詮索はしていなかったのだが。
(あっさりとシュネーが断ったのを了解したのは、コレ察してか)
 ゴルトシュピーネは内心納得する。
「ありがとう」
 その言葉にシュネーは顔を赤らめつつ頷き、そしてかばんからもうひとつマフラーを取り出し、自分の首に巻きつける。
 同じマフラーだった。
「吸血鬼もマフラーいるんだな」
 それを見て空は感想を素直に述べる。
「雪系の能力持ってるからそういうのいらないのかと思ってた。寒いもんなあ、やっばり」
(……駄目だコイツ)
 ゴルトシュピーネはその言葉を聞いて影の中で頭を抑える。全くわかってねぇコイツ。同じ形同じ色の手編みのマフラーふたつってことで少しは察しろこのバカ。
 仕方ないから助け舟を出そう、とゴルトシユピーネは口を出す。
『おい、お前はお返しとかないのか?』
「そうだな、しなきゃいけないな。だけど用意してないからな……あとで何か用意しないと」
『んなこといってよぉ、クリスマスだし用意してんだろぉ』
「いや別に」
 平然と空は言ってのける。
『オイイイ、クリスマスだろ、そういうアレねーのかお前はよ! こうクリスマスって言ったらよー、家族とかー、恋人とかにプレゼントとかするもんだろうがー』
「家族はいないし恋人もいないし。そりゃ兄弟みたいなもんだけどね、お前と僕は。でもお前には別にいいだろうし、ていうか悪魔がクリスマス祝うのもどうかと思うが僕は」
『だめだコイツ……』
 ゴルトシュピーネは頭を抱える。
『すまん』
 そしてシュネーに謝る。シュネーは、ふるふると首をよくに振りながら笑う。
『……いや待て。つーかアレだ、クラス会ってプレゼント交換とかあんじゃねーの?』
「……」
 その言葉に空は黙る。
「その発想はなかったな」
『忘れてたんかいてめぇっ!?』
「知らなかっただけだよ」
『もっと悪いわっ!』
「困ったな」
『お前が困った奴だよこのボケナスがっ! あーくそ、コンビニでなんかてきとーに買って繕えっ!』
「でもお金あまりないしなあ。そうだ、屋敷にある魔法薬とか……」
『だーっ! ソレいくらすると思ってんだよこのやろうっ!? いいからお菓子でも酒でもなんでもいい安い奴でいいから買ってけっ!』
 ゴルトシュピーネが絶叫する。それを見て、シュネーはくすくすと笑う。
「酒は駄目だろう、未成年だ」
『いちいち重箱の隅つっつくような突っ込みすんじゃねぇよっ!? 本当にイラつくなてめえっ!?』
 相変わらずの掛け合いというか、漫才じみた言い合いをする二人。
 それを見守るシュネー。
「ん」
 気がつけば。その三人を包み込むように、雪が降り始めていた。
『ホワイトクリスマス、か……けっ、なんかいいな』
「そうだな」
 シュネーもこくこくと頷く。
「……」
 雪の中、まるで踊るようにステップを踏むシュネー。空はそれを見る。
 雪、か。
 シュネーの名前は、確か……白雪の意味だ。
 名前どおりに似合っているな、と空は思った。
 白く儚く、透き通った色。それは透明な自分にも似てて、しかし決定的に違う、強い存在感のある色。二律背反のその形に、空は素直に綺麗だと思った。
 夜空を見上げる。自分は透明だ。空っぽだ。闇に溶け、その姿は消え去る。だが雪の白は透き通りながらも、その輝きはまるで星のように煌く。
「綺麗だな」
 口に出した言葉は、果たしてどちらの雪に対して言った言葉か。
 それは自分にもわからない。
「……はい」
 シュネーがその言葉に答える。どちらの雪に言った言葉だと彼女は捕らえたのか。
 それは彼女にもわからない。
 判らないまま、二人は歩く。
 雪の降る道を。
 聖なる夜の下、悪魔を宿した魔術師と、魔術師の下僕となった吸血鬼は歩く。
 ……二人はこの夜には似合わない。
 祝福などされない身であり、許されない立場だ。
 だけど、それでも、彼らは歩く。神が許さずとも、彼らを許し受け入れる友達がいるから、だから歩ける、歩いていけるのだ。

 どこかで誰かが言った。

 メリークリスマス。














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