シリーズ概要
第一話~第三話 『出会い』 マスカレード・センドメイル編
第一話
2009年十月、武器商人であるラスカルは、結社マスカレード・センドメイルを脱退した男から瑪瑙で出来た懐中時計を引き取る。
その瑪瑙懐中時計こそは永劫機六番目の機体、『時感狂化』のウォフ・マナフであった。
ラスカルは時計から人間形態へと変形したウォフ・マナフ――ウォフから『自分が不良品であるために触っただけのあなたと契約を交わしてしまいました』と、永劫機のマスターになった宣告をされる。
彼女を兵器として引き取りはしたラスカルだったが、あまりにも不合格な彼女のポンコツさ加減に頭を痛める。
そんなラスカルの工廠をウォフを回収するためにマスカレード・センドメイルからやって来たゴーレム使い、アントワーヌが襲う。
成り行きから彼は永劫機ウォフ・マナフを召喚。性能の低さから苦戦を強いられるが、ウォフ・マナフの能力とラスカルの所有していた兵器でアントワーヌを撃破し、難を逃れる
戦闘の後、彼はウォフに相棒としては合格だと告げ、彼女と正式に契約を交わした。
第二話
永劫機――ウォフ・マナフのルーツを調べるために日本の学園都市双葉区を訪れたラスカルだったが、永劫機に関わるものを中々発見できないまま学園都市を去ることになる。
しかし学園都市からの帰途に着いた直後、彼の元に一人の……一体のラルヴァが現れる。
ラルヴァの名はナイトヘッド。ワンオフと呼ばれる世界に一体ずつしかいないラルヴァのうちの一種だった。
ナイトヘッドはラスカルとウォフを部下になるように誘うが、ラスカルはそれを即座に断る。
しかしナイトヘッドは気を悪くすることもなく、ラスカルに二つの忠告を残してその場を去る。
一つは「相手が本当のことを言っているとは限らない」という忠告だった。
二つ目の「頭上注意」を告げられた直後に、ラスカル達を頭上から何者かが強襲する。
襲撃者の正体は異能を使って暗殺から護衛、誘拐から奪還までこなすフリーランサー、その中でも最強と呼ばれている男アルフレドだった。
彼はマスカレード・センドメイル首領に雇われ、報復とウォフの奪還を目的として旧知の仲であるラスカルを襲う。
彼我の戦力差は絶大、アルフレドの爆破異能に追い詰められるラスカルとウォフ。
しかしそこに第三者、マスカレード・センドメイル構成員、『鋼鉄魚群』のアスフォルトが現れる。
自身の友人であるアントワーヌを斃したラスカルを襲撃する任務が、自分ではなく外部のフリーランサーに任せられたことを不服に思った彼は独断で戦いに横入りし、ウォフ・マナフを攻撃する。
しかし彼は、アルフレドの「手伝いますか?」という発言にプライドを傷つけられたと激昂し、アルフレドを攻撃してしまう。
それによって彼はアルフレドがマスカレード・センドメイルと交わした契約の三つのルール――『約束を違えない』、『依頼内容に嘘をつかない』、『危害を加えない』を破ってしまい、アルフレドの手によって返り討ちにあう。
結果としてアルフレドへの依頼はご破算となり、ラスカルとウォフは窮地を脱する。
しかし、戦跡を離れるラスカルとウォフの心には、自分の無力さへの焦りが漂っていた。
第三話
ラスカルは先日の戦いの事情聴取で学園都市に引き止められていた。
彼はその間に自分達の新たな力になりえる兵器を探すべく、都市内の兵器開発局がある工業地帯へと向かう。
しかしそこを目指すバスの中でウォフは「この街に別の永劫機がいます」とラスカルに告げる。
すぐにバスを降りようとするラスカル。しかしバスは止まらない。
そのバスはラスカルとウォフの連行を目的とした、マスカレード・センドメイル首領補佐モナ・リザの動かす偽装バスであった。
運悪くバスに同乗してしまった少女を巻き込みながら、彼らは学園都市の地下演習場へと連れ去られる。
そこには二度に渡って破れた組織の名誉挽回のため、自らラスカルを斃すべく参上したマスカレード・センドメイルの仮面首領ダ・ヴィンチと、その最高傑作である機兵『無欠なるウィトルウィウス』が待ち受けていた。
『真に上に立つ者はいつ如何なるときも余裕は消えず、優位は揺るがず、地に着く膝などありはしない』
設計者《デザイナー》にして、開発者《アセンブラー》にして、操縦者《ハンドラー》である万能天才ダ・ヴィンチはモナ・リザと共に自らウィトルウィウスに乗り込む。
余裕の現れとして素手のウォフ・マナフに対して、ウィトルウィウスもまた素手で戦いを挑む。
圧倒的な性能差を見せつけるウィトルウィウスにウォフ・マナフは手も足もでない。
時感狂化を駆使しても敵わず、その右腕を切断される。
絶体絶命。しかしラスカルはウィトルウィウスの最大の長所にして弱点に気がつく。
あまりにも人体に近すぎる精密構造を持つウィトルウィウスは、同時に人体関節の弱点も有していた。
切断された右腕を利用してウィトルウィウスの動きを抑え、ウォフ・マナフは残った左腕でラスカル自身が会得していた技巧を用い、ウィトルウィウスの左腕関節を破壊する。
形勢逆転。ラスカルとウォフはダ・ヴィンチをあと一歩まで追い詰めた。
しかし、ダ・ヴィンチは勝利するため自らの矜持としていた余裕を捨て去り、ウィトルウィウスに内蔵されていたレーザー兵器を使用し、ウォフ・マナフの核である時計を破壊する。
ウォフは死んだ。
勝敗は決し、無言のまま去ろうとするダ・ヴィンチとウィトルウィウス。その機体の背に怒りと共に銃口を向けるラスカル。
だが、そこで第三者が動き出す。
それはウォフ・マナフの切断された右腕。まるで独立した生物であるように駆動した右腕はウィトルウィウスを襲う。
ウォフ・マナフの右腕、その内部にはもう一基の核となる時計が内蔵されていた。
右腕を接合し、段違いの出力と速度でウィトルウィウスを猛襲するウォフ・マナフ。
しかしただ暴れるばかりのウォフ・マナフではウィトルウィウスに敵わない。
その動作にウォフの意思がなく、別の何かであることを理解したラスカルは告げる。
「お前の体は俺のだ。ウォフもウォフ・マナフも、お前も含めて俺のもんだ」
「勝手に独りで戦ってんじゃねえ。俺も混ぜろ」
その言葉にウォフ・マナフは応え、コントロールをラスカルへと渡す。
共に半壊状態、しかし操縦者を完備した二体の機兵は正面からの殴り合いで激突する。
砕け散りながらの乱打戦、その最後の決着の瞬間は一瞬の差でウォフ・マナフが勝利を収めた。
ダ・ヴィンチは敗北を認め、マスカレード・センドメイルはラスカル達から手を引くことを約束する。
マスカレード・センドメイルとの戦いが終結し、ラスカルと核時計が修復され目を覚ましたウォフは、巻き込んでしまった少女と共に地下演習場からの地上への帰途に着く。
軽口を言いながらも内心お互いの無事を喜ぶ二人だったが、ラスカルが『ウォフ・マナフの発揮した段違いの出力』について口にしたとき、ウォフは息を呑んだ。
血の気をなくした顔で「ごめん、なさい」と繰り返し呟くウォフ。
その声を聞きながら、ラスカルの意識は急速に深い闇の底へと引きずり込まれていった。
エピローグ
深い闇の底――眠りの中でラスカルはウォフとそっくりの少女に出会う。
少女はウォフ・マナフの右腕、その中に内蔵されたもう一つの核時計の意思だった。
悪心と名乗った少女はラスカルに多くのことを告げる。
自らとウォフが時計の長針と短針のような存在であること。
どちらか一方が残っていれば核時計を破壊されても再生できること。
その仕組みゆえに時間操作能力が他の永劫機に劣ること。
ウォフが知っていて話さなかった……永劫機が駆動するために真に必要とするのはマスターの時間だということ。
本来であれば戦闘に際し奪い続けるマスターの時間をウォフは今まで極力奪っておらず、今こうして深い夢の中にいるのはウィトルウィウスとの戦いで本来の力を出した代償だ、と。
そして全ての時間を使い切ればウォフ・マナフのマスターは死ぬまで眠り続けることになる、悪心はそう告げた。
話を聞いてラスカルは、ウォフに言わなきゃならないことがあると心に決めた。
悪心に永劫機について教えてくれたことと、ダ・ヴィンチとの戦いで助けてくれたことに礼を言い、また会いに来ることを約束して目を覚ました。
目を覚ましたラスカルの傍には巻き込まれた少女の関係者がいた。その内の一人、少女の母である安達遊衣は、自身がウォフ・マナフ以外の永劫機、ロスヴァイセのマスターであり、永劫機の開発者の一人であると名乗った。
彼女に導かれた砂浜で、ラスカルはウォフと再会する。
ウォフは自身が三つ、ラスカルに嘘をついていたことを明かす。
一つ目は永劫機の仕組みについて。
二つ目は最初の契約が事故や偶然ではなくウォフの意思によるものだったこと。
三つ目はラスカルの元にいたいがためにデメリットを隠しずっと力を抑えていたこと。
ウォフは言う。
「私は、疫病神。あなたを勝手に巻き込んだくせに、力以外渡せない。力しか渡せるものがないのに、力を渡せば、あなたから時間を奪ってしまう。そうすることさえ躊躇って、あなたの命を危険に晒す……どうしようもない壊れ物」
「どうしようもない……壊物機《永劫機》」
どうか自分を捨てていってくれと言うウォフ。
その言葉を聞いてラスカルは……
・・・
何も言葉を口にすることが出来ない俺は――――無言のままウォフを担ぎ上げた。
「きゃっ!?」
ウォフの軽い身体を担ぐ形から背負う形になおして、二人分に増えた重さで砂浜に足を沈めながら、帰路を歩く。
「御主人様っ! どうする気ですか!?」
「帰る」
「帰るって……。私は、あなたに災いを振りまく疫病神ですよ!」
「知ってる」
ほとんど脊髄反射のように、ウォフの言葉に応える。
「まともに主人に尽くすことも出来ない、主人にいくつも嘘をついた道具です!」
「知ってるよ」
ただ知ってるから、知ってると言う。考えるまでもない言葉。
「欠陥だらけの、……どうしようもない壊れ物です!」
「知ってるっての」
そんな問答をしているうちに、俺の頭はかけるべき唯一の言葉《本心》を自分の中から見つけ出した。
ああ、まったく。話はこんなに単純で最初からわかりきってるじゃねえか。
「だったらお前はこのことを知ってるか?」
「何を……」
「永劫機ウォフ・マナフはポンコツで、スタイルが悪くて、服装も変で、たまに生意気で、本当にどうしようもない……」
「俺の相棒だ」
「……………………ぁ」
ウォフは俺の相棒。そんなものは出会ったその日に決めたことで、覆した覚えなんて一度もない。
だから、それがウォフの嘘に返す俺の唯一つの答え。
「始まりが嘘だっただの、秘密を黙ってただの、今日の戦いがどうだっただの……んなことくらいでお前を手放すか阿呆」
「…………」
ウォフの体に触れている背中を通じて、ウォフの体が小刻みに震えたのがわかった。
やがて、堪え切れなかったのか嗚咽がただ『泣く』という行為に変わっていた。
ウォフがなぜ泣いているのか。ウォフが今何を思っているのか。そんなのは俺にはっきりとわかることじゃない。
ただ、悲しいとは感じて欲しくないと、それだけ思った。
・・・
そうして二人は帰途に着く。
互いを必要だと思いながら、彼らの最初の物語を終わらせて。
彼らの知りえない未来に向けて、別の場所で動き始めた物語を知る由もないままに……。
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作者コメント
なにかあればどうぞ
最終更新:2012年05月20日 03:56