【龍王の帰還】


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 まだ名など持たないであろう生まれたてのソレ――今は『リトル・ボーイ』と呼称する。
 円筒形の黒光りしたボディに程よく丸まって光沢を返した頭、そして風車のような尾びれを尻根に持ったその姿は、さながら魚雷爆弾の形を見る者に連想させる。
 そんな3メートル超の巨体に華奢な手足と、そして見る者を見透かすかのような笑みの口元を刻んだラルヴァがリトル・ボーイのデザインであった。
 その退治に挑んだのは龍河 弾。醒徒会においても屈指のパワーキャラと知られる彼にとってのリトル・ボーイは、まさに適任の相手……の筈であった!
 数度の殴り合いの果て、どうにかリトル・ボーイを鎮圧した龍河――しかし、倒されてからこそ、このリトル・ボーイは本領を発揮する。
『カウント……開始しま、す………20……19……』
「あぁ? な、なんだよオイ? なにブツブツ言ってやがる?」
 すっかり叩き伏せられ、ひしゃげたボディを横たえながら微動だにしなくなったリトル・ボーイ。しかしそんなラルヴァは、この期に及んで謎のカウントダウンを開始したのであった。
「何を企んでやがる? てめぇ、何する気だ!?」
 声を荒げ、そのカウントの意味を尋ねる龍河をよそに、リトル・ボーイのそれは徐々にその数字を刻んでいく。
 このリトル・ボーイ自体、カテゴリーの中には珍しい無機質タイプの相手だ。当然の如く、これと同じタイプのラルヴァは過去にはいない。
 しかしながら龍河は、そんなリトル・ボーイが今になって何を為そうとしているのかを本能で察知していた。
 さながら弾頭を連想させるヘッドとボディの形状……奴の狙いそれこそは、
「自爆する気か……爆弾野郎!」
 まさに無差別に周囲を巻き込んでの崩壊――それこそがこのラルヴァの狙いであり、そして存在意義であったのだ。
 その対処に考えあぐねるうち、ついにはカウントは10秒を切った。
「どうする? この手合いの対処ならルールを呼ぶべきか? だが……ダメだ、間に合わん!」
 カウント終了前に破壊してしまうことも考えたが、爆弾然としたリトル・ボーイがその瞬間に起爆しないとも言い切れない。ましてはその爆域規模とて未知数なのだ。
 故にらしくもなく狼狽する。そしてそんな自分に龍河自身もひどくイラつく。
 そうして考えあぐね、再びリトル・ボーイを見下ろしたその時であった。
 龍河と目を合わせた(ように思えた)リトル・ボーイの口元が――再び笑った。
 その瞬間――
「馬鹿にしてんじゃねぇぞ………爆弾野郎ッ」

 龍河はキレた。

「細けぇことはもう無しだ! テメーは俺がブチのめす!!」
 叫び、リトル・ボーイに掴みかかった次の瞬間――龍河はその巨体を両肩の上に担ぎ上げる。
「…8……7……6……」
「黙れ、クソ野郎! その減らず口、今すぐ黙らせてやるからな!」
 そして両ひざを折り曲げ巨体を沈ませたかと思うと次の瞬間、龍河はリトル・ボーイもろとも天高く飛翔するのであった。
 筋骨逞しい体躯には見合わぬその瞬発力で瞬く間に上空50メートルまで飛翔する。
 双葉学園校舎の全域が展望できるまでに飛翔したそこから、
「まだ終わりだと思うなよ!」
 龍河はリトル・ボーイを抱えた上半身をねじらせると、そこからさらに上空高くへとかのラルヴァを投げ放つ。
 上空50メートル地点よりさらに上空へと放たれるリトル・ボーイ。雲を突き抜け、目下に東京24区の浮島が見渡せる高度まで投げ放たれる。
「ギッ、ギギ……4ッ……サ、3………」
 そして投擲のその頂点にてようやく飛翔が止まり、あとは重力に引かれて落下しようとしたその時であった。
『グゥウウオラァァアアアアアッッ!!』
 目下の帯雲を貫き、遠雷の如き咆哮と共に赤き炎龍が一匹――リトル・ボーイ目掛け、その下から特攻してくるのであった。
 夕陽の如き紅の流鱗と、三日月の如き光り輝く指々の爪――誰でもない龍河弾その人の一撃は、宙に張り付けられたリトル・ボーイの胴体を貫き、そこに巨大な風穴をひとつ開ける。
「ニッ、ニニ、2ィィィィ………ッ!」
 その一撃を受け激しく痙攣を引き起こすリトル・ボーイ。言わずもがな勝負ありの瞬間のであった。
 しかし、止(とど)まらない――
『今のは、俺をコケにしてくれた落とし前だ。そしてこれが……』
 龍河弾は――
『俺の怒りの分だァァァァァァッッ!!」

 止まらない!

 上空遥から目下にリトルボ・ボーイを見定めると、紅龍は右足のかかとを突き出した蹴りの姿勢にて急降下を敢行する。
 空気抵抗の中を突き進むべき重心を回転させ、さらには気体との摩擦熱によって下降する龍河の体が赤く炎に包まれる。
 その様はまさに紅き弾丸!
 そしてそんな龍河の一撃がリトル・ボーイを強撃すると同時――先の上昇の際に開けた以上の大穴を、龍河はそのボディに穿つのであった。
「イ゛、イイィ、1ィィィ……ッッ!!」
 その一撃に、リトル・ボーイの中で臨界寸前にまで膨れ上がっていたエネルギーが一環――光の輪となって空に広がる。そしてその光の尾が走り去った次の瞬間には、柘榴の実のように赤黒く濃縮された爆炎を上げ、リトル・ボーイは上空100メートルの地点にて爆砕するのであった。
「散り様だけは褒めてやるぜ、クソ野郎」
 その様を落下しながらに確認し、龍河はため息とともに人間(ひと)へと戻る。
「これだけの上空なら被害はねぇだろ。さて……それよりも問題は俺のこの後だ。海に落ちねぇと流石にやべぇだろうな」
 そこから地上を見下ろし、すでに着地の瞬間が間際まで迫っていることを確認すると龍河は平泳ぎの要領で空を掻き、そこからの移動を試みる。

 かくして湾岸沖にて巨大な水柱を立てて着水する龍河。
 竜王、堂々の帰還であった。


   ★     ★     ★   


 上空遥高くで爆花を散らせるリトル・ボーイの壮観――
 その遥か下、先ほどまで龍河とかのラルヴァとが死闘を繰り広げた海浜公園の一角において、
「うんしょ、うんしょ。う~ん……ッ」
 そこにて設置されたゴミ箱が大きく揺れ動いた。
 やがては『もえる』の表示が印字された投捨口から、蜘蛛のように長い人間の腕2本が伸びてゴミ箱の胴体部をワシ掴む。そしてそれに引っ張られてそこから登場したのは、欧米人と思しきワンピース姿の少女であった。
 しかしながら、人間然としたその容貌にはふさわしくない異形が彼女には備わっていた。
 翼竜を思わせるかのような皮の羽根と、そして本来の左右の腕とはまた別に、さらに肩口から二本の腕をそれぞれ生やしたその異形――
 彼女の名は蘭葉ラル。ラルヴァでありながら人間の月間漫画誌において連載を持つ、駆け出しの漫画家であった。
「お見事でした……! 龍河さん、あなたの力強さと雄々しさ、しかとこの目に焼き付けさせてもらいました」
 ゴミだらけになった頭をはたくのも忘れて、彼女ラルはリトル・ボーイの煙幕が残る初夏の蒼穹を見上げ続ける。
「この物語、私が紡がせていただきます」
 そして大きく水しぶきの上がる湾岸沖に向かって一礼すると、彼女はそそくさとその場を後にするのであった。


 かくして2ヶ月後――某月刊少年漫画誌にて連載されている『双葉学園』において、輝かしき第一話が掲載される。
 そのサブタイトルは「龍王の帰還」。
 扉絵には雄々しくガッツポーズをとる龍河弾の姿が描かれていた。





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