【ある前座の話5】


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 体育区画、第二武道場。
 ここは主に剣道の授業に剣道部や薙刀部にフェンシング部にスポーツチャンバラ部といった得物系武道部の活動、そして剣戟を以って好しとする者達が鍛錬をする場として開放されている。
 授業を終えた生徒達が利用のために集まれば、静謐の極みから一転、授業以上の集中力にて研鑽を積み重ねる場として、嬌声罵声、怒号に歓声が飛び交うことになる。 
 今日はその武道場の片隅で、第三剣道部と第八剣道部の交流戦が行われていた。

 今相対するのは、二人とも高等部二年の男子。
 竹刀を握る手に力がこもり、相手の一挙手一投足を逃すまいと鋭い目線を突き立てる。
 にじり寄っては離れ。間を空けては詰め。互いの制空圏が接触する間近で、二人にしか見えない火花が激しく散る。

 二人の間に横たわる重苦しくも険しい空気は瞬く間に武道場を支配し、観衆も飲まれていく。


 長い、永い、沈黙。


 それを破ったのは、たまさか見物に来ていた女生徒の、切り忘れていた携帯の着信。
 観衆の誰しもがそちらに気を取られた瞬間、相対していた二人は、互いに向けて、一歩、また一歩、
前へ踏み出し――――――


―――※――――――※―――


「いや~、やっぱちりりん居るとさ、効率っていうの? ぜんっぜん違うよね~。さっすが秀才、持つべきものは友だよ!」
「本当にそう思うなら、男子から私のノートのコピーでお金毟り取るのはやめてもらいたいのだけれど」
 時は放課後、授業も終わって1時間は経ったころ。2-Bの教室に残っているのは、「早めの試験対策」と称してプチ勉強会を催す面々。

「あの~……すいませ~ん」
 そんな2-Bの教室の入り口から、聞きなれない声が聞こえてくる。。
 卓を囲ってプチ勉強会の真っ最中だった女子陣のひとり、舞華《まいはな》 風鈴《ちりり》が闖入者に逸早く気付き、席を立ち出迎える。
「何か御用かしら? え~と……1年生、ね」
 風の流れ、大気の動きを感知する異能を持つ彼女だが、その反面生まれつき視力が極度に悪い。目を細めてなんとか捉えた視覚情報から、下級生であることを何とか認識できた。
「あ、はい。小夜川《さよがわ》 嵐子《らんこ》っていいます。えと、ちょっと人を探してるんすけど……」
「ウチのクラスかしら? 見ての通り、ほとんどの人はもう出てしまった後だけれど」
 う~んと唸りながらクラスに残った女友達の顔を見やっていたが、
「ハズレ、かぁ」
 がっくし、と肩を落とす小夜川に、グループから抜けてきたもう一人の女子が話しかける。
「なになに人探し? A組は見てみた? どうだったの?」
「ええ、そりゃ当然見てみましたけど……扉を開けた瞬間、イケメンだけど馬鹿っぽい人が言い寄ってきたんで、扉に挟んでバイバイしてきました」
「あ~……さっき聞こえてきたカエルが潰れたような声は、彼、ね」
 十中八九、女子を見返れば声をかけずには居られないことであまりにも有名な、天地《あまち》 奏《かなで》だろう。転校して来て大分立つが、相変わらずのようだ。
「それで、誰を探しているのかしら。相手によっては大した手伝いは出来ないかもしれないけれど」
「え~っと、なんて言ったっけなぁ……? 大全裸、は醒徒会広報で、えっと……あれ?」
「彼ならD組よ」
「マジっすか!?」
「でも、今D組は」
「サンキューっす先輩! 失礼しやしたぁ!」
「ちょっと待ちな、あぁ……D組は誰も居ないって言おうとしたのに……」
「ま、居なきゃ戻ってくるか別のところに行くっしょ。さーて、続き続き」
 呼び止める間も無く立ち去っていった嵐子を見送る風鈴《ちりり》と友人は、勉強会続行のため元居た席に戻る。

 隣の隣、D組へ駆けていく足音が人の少ない2年の廊下に響く中、友人は風鈴《ちりり》に、当然起こる疑問をぶつける。
「つかちりりん、あんなヒントにすらなってないヒントで良く分かったねぇ」
「ええ、まぁね」
 今挙げられた妙な名称と近からずも遠くはない語感、名前が覚えにくいくらいに分かりにくい、そして2年。これだけ揃えば該当者は一人しか居ない。
「で、誰よ」
「名前くらいは聞いたことあるんじゃない? 西院《さい》 茜燦《せんざ》君。それとも……彼は怒るだろうけど、『前座君』って言えばピンと来るかしら」
「ああ! デカいバイクを買いに学校サボってアメリカ行ってきたっていう!」
「彼の名誉のために言っておくと、あれはれっきとした辞令だそうよ」
 定期演習と彼の渡米が重なってしまった際に、そう聞かされている。
 受領の際にラルヴァとの戦闘を繰り広げ勝利を収めた彼は、その戦果が評価されたことで演習組から外され、白兵戦力としてだけではなく特殊戦局時の運送・高速移動要員としての活躍の場を与えられたそうだ。
 大きな所では天蓋地竜《ドームドドレイク》騒乱や別れ谷決戦、最近では天地奏との共同作戦にも、例の二輪を駆り加わったと聞いている。
「ふ~ん……ま、いいや。ささ、続き続きっと」
「そうね、手早く進めないと今日一日じゃ終わらないものね」
 演習組から外れたことで疎遠気味になってしまった相手のことで無駄に割く時間も、そうあるわけではない。今は友人に付き合ってやらねば。


 といって席に着いたその時、
「またまたすいませ~ん……D組誰も居ませんでした……」
「ありゃりゃ、やっぱり戻ってきたよ、さっきの子」
 先ほど出て行った嵐子が戻ってきた。まぁ誰も居ないのであれば仕方のないことだ。
「ごめんなさい先輩方、あの人が行きそうなところとか、心当たりないっすか?」
 嵐子は先のやり取りで風鈴《ちりり》のことを「頭が冴えて頼れる先輩」と意識したのか、2B教室へ入り風鈴《ちりり》へ問いかける。
「そうねぇ……ところで貴女、ちょっと気になったんだけれど、彼にどんな用なの?」
「ああ、実はですね―――」
 といって嵐子は制服のポケットをごそごそと漁り、何かを引っ張り出す。
「いや~コレなんですけど、あの人の生徒手帳に挟んであったんですよ。で、ちょっとした事情があって生徒手帳を囮にしようってことになって、中に一緒に風穴あけちゃったらヤバそうなモノが入ってたらマズいと思って開いてたらコレが出てきちゃいまして」
 取り出してみたものを貸してもらい見てみれば――――――確かにコレは、彼にとって大事なものだろう。確信を持って言える。
「演習か実務で一緒だったのなら、帰りにでも渡せばよかったんじゃない?」
「たはは……それが、すっかり忘れたままにしちゃってて。今朝不意に見つけて、急いで返さなきゃと思いまして」
「そう……それなら、研究棟に行ってみてはどうかしら。知り合いが居るだろうし、何か知っているかも知れないわ」
「それはいい情報です! あんまり行ったこと無いけど、ちょっと行ってみますね!」


 それではー!と手を振りながら廊下を駆ける嵐子を見送った風鈴《ちりり》は、
「ごめん、ちょっと出てくる。すぐ戻るから」
「どったのちりりん?」
「うん、ちょっと、ね」

 風鈴《ちりり》が向かったのは高等部棟の屋上。
 学園中を駆け巡る風を感じながら、フェンスに寄りかかり、まさに彼の名前のような茜色に染まる天を仰ぐ。


―――※――――――※―――


 互いの竹刀が激しくぶつかり合う音が断続的に武道場に響く。
 二人の戦いは、既に剣道の試合から、剣道のルールを踏襲した剣術の試合と化していた。
 第三および第八剣道部に少なからず加わっている未覚醒者・非能力者や観衆からは、まるで漫画のようだと声が漏れる。

 二人が竹刀を振るう腕はさらに加速度を増し、鳴り響く音も頻度と音量が増しつつある。
 烈風の如き剣の舞は、ただただ観衆を圧倒しつつ続けられるばかりである。

(伊達や酔狂で『奇跡の剣士』だなんて呼ばれてないわけだ……流石は第八のトップエース、この剣速、太刀筋、マジで強ぇわ!)
(第三にここまでの腕前の部員って居たか……? この相手、相当実戦慣れしてるな!)
 渦中の二人は、なおも竹刀を振るい続ける。


―――※――――――※―――


 生徒手帳の地図を見ながら、嵐子はなんとか研究棟までやってきた。
 超科学ではなく超能力の分野に相当する異能の嵐子としては、能力の解析のために訪れて以来のこと。そもそも超科学系異能の学園生の独壇場に近い研究棟に、超科学系以外の異能者が訪れることはそうそうあるわけではない。せいぜい超科学由来アイテムのメンテナンスくらいだろうか。
 別段超科学由来アイテムも持ち合わせておらず、生徒手帳を合法違法どちらにせよ改造する機会も予定もない嵐子にとっては、入学当初以来にも等しい再来訪であった。

「う~ん……来たはいいけど、よく考えるとコッチ側の知り合い誰かいたかなぁ?」
 頭を捻ってみるが、少なくとも同じクラスでは思い当たる相手は居ないし、いまだに名前が思い出せない探し人も違うはず。電話帳を展開してみるが、
「流石に『貴方の能力なんですか~?』なんて聞いたわけでもなし、電話帳とにらめっこしても分からんか……こうなったら一か八かよ!」
 と唯一の手がかりである『読めない名前』繋がりで隣のクラスの知り合いにコールしようと思い立った矢先、
「ちょ、ちょ、そこのカノジョ、ちょっと手伝……ってランちゃんやん! ちょっと助けてぇなぁ!」
「うわぁ何て偶然! こんなところで何し……うわぁ何コレぇ!?」
 そこには、双子の姉の暴れっぷりに手が付けられなくなり応援を頼もうとしていた鵡井《むい》 未来来《みらく》と、
「なんか、男子には決してお見せできないスゴイ表情の上に、とんでもなくあられもない格好で、備え付けの電話機やら防犯センサーやら分解しにかかってるけど……アレ、明日明《あすあ》?」
「せや……天啓《オラクル》が降りてくるとな、ああなってまうんや……とりあえず、ウチらの部屋に突っ込むところまででええから手伝ってくれへん? いつもならゼンザ兄ちゃんにお願いしてるんやけど、ケータイ繋がらんのや」
「よしきた! 他ならぬムイちゃんの頼み、ノートの恩もあるし手伝うよ!」
「助かるわぁ! そいじゃ、てきとーに羽交い絞めにでもして連行しよか!」
 ……羽交い絞め? 現状はともかく普段は深窓の令嬢っぽい感じの明日明《あすあ》を?
「そんなアタリ強くしたら……さすがに不味くない?」
「大丈夫や。あーなると天啓《オラクル》に関わる事以外を担当する脳味噌トんじゃう代わりに、身体的リミッターが若干外れてタフになるようでな。多少小突く程度じゃなんともあらへんのや。現にゼンザ兄ちゃんはいつもそうしてるし、問題ないやろ」
「オーケー、それなら得意分野。まっかしといて!」
 そう言い放ち、暴走を続ける明日明《あすあ》に駆け出す嵐子の背中に、未来来《みらく》は慌てて声をかける。
「あ、暴れるのが面倒だからってオトすのだけは絶対あかんよ! 天啓《オラクル》は一期一会や、今降りてきた分を逃したらどうなるかわからんし!」
「うー、わかった! んじゃ服はよろしく!」
「らじゃ!」
 かくして不意に訪れたミッションが遂行される事となった。

―――※―――

 過程については個人の名誉のために割愛されたい。簡潔に言えば、本気で引っかきに来る半裸の猫と傷つけずに羽交い絞めすることが目的の猫によるキャットファイトが狭い室内で行われた、ということだ。

 ミッションスタートからおよそ30分、なんとか明日明《あすあ》を羽交い絞めすることに成功した嵐子は、そのまま未来来《みらく》の先導を受け、鵡井《むい》姉妹に割り振られた研究室へ明日明を放り込む。
「で、これでカギをかければコンプリー……ト! はぁぁぁぁぁぁぁ、つっかれたわぁぁぁぁぁ……」
「はぁ、はぁ、は、いっやぁ~暴れる相手に手を出さず傷つけずに羽交い絞めって、けっこうムズいんだね……いい勉強になったよ……」
 米国より移送されたパラス・グラウクスの主管業務を割り振られたことで、研究室の割り振りが以前より下層に移され移動距離が短くなったのも、二人にとっては幸いであった。
「何にしても、ランちゃんが来てくれて助かったわぁ。で、ランちゃん何でこんなとこに来とるん?」
「いやちょっと、人探しをしてて。ココなら知ってる人がいるかもって教えてもらったんよ。ホレ、この人。知ってる?」
 嵐子は、知ってれば御の字、出入りしてるって話だから目的のお相手を教えてくれるだろうと思って、例のアレを未来来《みらく》に見せてやる。
「コレ……ゼンザ兄ちゃんや」
「あれ、ひょっとしてビンゴ? らっきぃ!」
「うん、そうやねぇ……コレ、ウチ以外の誰かに見せたん?」
「えと、2Bの先輩に、この先輩の事を教えてもらうときに。2Dの人だって教えてくれたんだけど蛻《もぬけ》の殻で、それでもう一度聞いたらココに出入りしてるって教えてくれたんだ。その人だけだよ」
「そか……ソレの話、出来れば明日明《あすあ》にはしないでもらいたいんや……頼む、後生やから」
「そんなに言うなら言わないよ。でも、どうして?」
「訳は聞かないでくれると嬉しいな、ウチとしても、明日明《あすあ》としても」
 何だか表情が暗くなる未来来《みらく》を見てしまえば、嵐子はそれ以上聞く気にはなれない。

「……で、そや、ゼンザ兄ちゃんの居所やったな。今日はココには来てへんで」
「そっかぁ、誰か居所知ってそうな人居ない?」
「それなら……ちょっと待ってぇな」
 未来来《みらく》は電話帳の「め」の欄を展開、登録された番号へコールをかける。
「……あ、もしもしメイちゃん? そや、ミィちゃんやで。 メイちゃん、今ウチのところにゼンザ兄ちゃん探してるって人が来てるんやけど、何処にいるか知らへん? ……」
 どうやら知り合いに居所を知っている人がいたらしい。こんな身近に居たのなら、授業終わりに聞きにいけばよかった、そんなことを嵐子は考えながら、居場所が分かるのを待つ。

「ありがとなメイちゃん。ほなまたな!」
 相手方との連絡は終わったらしい。
「で、分かった?」
「バッチリや。ゼンザ兄ちゃん、今第二武道場で剣道の試合やっとるって。ま、ゼンザ兄ちゃんのことや、すぐ負けてまうやろうから、早う行ったほうがええかもな」
「そっか、ありがと未来来《みらく》! 明日明《あすあ》にもよろしく言っといて!」
「ああ、ほなな~」
 勢い良く立ち上がり走り去る嵐子に、未来来《みらく》は小さく手を振る。


「あんなモン見せられたなんて、明日明《あすあ》には、話せないよ……」
 未来来《みらく》は一人、顔を膝に埋めたまま自室の前に独り座り続けていた。


―――※――――――※―――


 お互いの構えが、剣道の構えから得意とする剣術の構えに移行した瞬間、
「何をやっとんじゃお前らはー!!」
 必殺の一撃を打ち込まんと力を蓄える二人目掛けて、放水が開始された。

 第三・第八双方の剣道部顧問によるステレオ説教30分の後、第八剣道部員の戒堂《かいどう》 絆那《きずな》、第三剣道部OBの有賀《あるが》 早矢太《はやた》、有賀に連れてこられただけでどこの剣道部にも所属していない西院《さい》 茜燦《せんざ》の三名は、武道場の清掃の罰当番を与えられる運びとなった。
「つか俺用事もないからって引っ張ってこられただけで、なんでここまで……」
 やりすぎたのが何よりも悪いわけだが、それを自覚してるだけに二の句は継げず、黙々と武道場の掃除を続ける茜燦《せんざ》。
 言葉少なに掃除を続ける戒堂から、
「こっちは終わったけど、そっちはどうだー?」
 と声がかかる。
「オレも終わったー! あとは有賀先輩か……よし、帰ろうぜ戒堂」
「ちょっと待てや! おまえら年長者に対する敬意ってもんが」
「おう、んじゃ先生に頭下げて、とっとと帰ろう」
 有賀先輩が何か吠えてるが、二人はスルーを決め込み、帰り支度を整える。

―――※―――

 若干一名を武道場に残し帰路に着いた戒堂と茜燦《せんざ》だったが、武道場を出たあたりで人影を見つける。
「あれは……ちっこいのはメイジーだが、もう一人は誰だ? ともかく、オレに用があるっぽいな」
「それじゃ、邪魔しちゃ悪いから俺はこれで。じゃ、またな」
「おう、また機会があったら手合わせしようぜ」
 向こうも向こうで待ち合わせがあったらしい。メイジーらが待っていたのとは別の方から戒堂を呼ぶ声が夕焼け空に響き、戒堂はそれに応えて走ってゆく。
「さて、と。オレもあんまり待たしちゃ悪いしな。とっとと行こう」
 茜燦《せんざ》も待ち人の下へ馳せ参じる事にした。

「着メロでメイジーがいるのは分かったが……メイジー、ああいうところでは鳴らないようにしておくのがマナーだぞ」
「あう、ごめんなさい、お兄ちゃん」
 先ほど戒堂と茜燦《せんざ》が踏み込むきっかけとなった着メロが鳴った件について、一応叱っておく。
 そしてもう一人に顔を向けて、
「で、だ。小夜川、なんでお前がいる?」
「何で、とはご挨拶ですねぇ先輩。探すのに結構苦労したんですよ?」
「探してまで何の用だ? こんな時間にするくらいなら、明日休み時間に来ればいいじゃねぇか」
「うぐっ、それもそうですが……ふふーん、コレを見ても、そう言えますかぁ?」
 嵐子は懐から、伝家の宝刀の如く例のブツをポケットから取り出して、茜燦《せんざ》に見せ付ける。
「なぁ!? ……道理でいっくら探しても、遺失物係に問い合わせても出てこねぇ訳だ」
「感謝して欲しいところですよ、ココは? あの時コレ抜き忘れてたら、生徒手帳と一緒に風穴開いてたんですから」
「そこは威張るところじゃねぇ! いいからとっとと返せ!」
 神速のスナップを利かせて嵐子の手から例のブツを取り返した茜燦《せんざ》は、それをいそいそと生徒手帳に仕舞いこむ。
「ったく……もう済んだことでどうこう言う気はないが、人の生徒手帳勝手に囮にして風穴開けてくれた件は、忘れてないからな」
「ま、そんなことはともかくとして、先輩ってばカワイイお知り合いが多いんですねぇ」
「……は?」
「誰が本命ですかぁ? ……なんて、聞くのは野暮ってモンですね。ねー、メイちゃん」
「ねー、なの……よくわかんないけど」
「メイジーに何吹き込んだが知らんが……とりあえず、あの任務からけっこう日が経ったとはいえ、持ってきてくれたことには感謝するよ」
「それなら是非、カワイイ後輩と妹分の労をねぎらう意味でも、どうでしょう、ここはひとまずディマンジュあたりで手を打ちませんかね?」
「わーい! ケーキ、ケーキ」
「メイジー、晩御飯食べれなくなったら困るから、ご飯の後にするって約束できるなら持ち帰りで一個買ってあげてもいいぞ」
「うんうん、約束する!」
 目をきらきらさせながらぶんぶん首を縦に振るメイジーを見て、茜燦《せんざ》は(こりゃ駄目かもしれんね……)と若干の不安を抱く。
「それで、私には?」
「購買の余ったパンで充分じゃね?」
「先輩、どっちかってーとこの距離、私の距離なんですけど」
「へいへい、分かった分かった。安いのならな」
「さっすが先輩、話が分かる人ですね!」
 さいでっか、とつれなく返答して、改めて足早に帰路に着く。


 夕日も落ちかけ、影が長くなってゆく。どこか物悲しい感じすら受ける、そんな夕暮れ時のことであった。


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